減速機について

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減 速 機に つ い て
工業用の汎用交流誘導(インダクション)モータの回転数は、下記の計算式で
求められます。
同期回転速度「Ns」は、モータの極数と電源周波数で決定されます。一般的に
汎用モータの極数は4極が多い。表示は1分間当たりの回転数「rpm」です。
Ns =(120×F)÷ P
P:モータの極数(4極:POLES)
F:電源周波数(東日本50Hz)
120:定数
Ns =(120×50Hz)÷ 4 POLES = 1500rpm
従って
東日本(50Hzの地域)・・1500rpm(無負荷・機械効率は無視)
西日本(60Hzの地域)・・1800rpm(無負荷・機械効率は無視)
電源を入れるとこの回転数で回り続けようとします。
しかし、このままの回転数では高速なので使い難い。そこで、いろんな種類の
歯車やチェーン、ベルトなどを組み合わせて機器に適した回転数に落して使わ
れるのが一般的です。エンジンに連結されるギヤボックスなども同様です。
この回転数や回転速度を落とす(減速する)装置を「減速機」といいます。
減速機は、通常「原動機」と「被動機」の間に置いて使用されます。
出力は、減速比に比例したトルクを得られる、という特徴も備え、回転速度や
回転伝達方向を変換する役割を果たします。
原動機とは
動力を発生する機器のこと。(モータ、エンジンの類)
被動機とは
動力を得て仕事をする機器のこと。(タイヤ、プロペラの類)
自転車の場合
人が漕ぐ力(原動機)+ スプロケットチェーンで減速 ⇒ タイヤ(被動機)
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焙煎機の場合
モータ(原動機)+ 減速機 ⇒ 釜(被動機)
減速機は、組み合わせる歯車の種類によって名称(呼び名)が違い、形式や機
械効率、使用目的が違って来ます。工業用の大きなものばかりではなく、身近
なものまで、様々なところでいろんな減速機が活躍しています。最近のものは
サイズもコンパクトで性能も向上しています。
焙煎機に使われているモータにも減速機が使われていますが、各メーカーでは
採用されている機種に違いがあります。機種の選択に違いがあるということは
設計思想や使用目的も異なるということです。大きくは、入力軸と出力軸との
関係位置によって分類されます。
減速機の種類
ギヤ減速機
ギヤ(平歯車)を使って減速をしている機構全般を指しますが、一般的には
平歯車を複数枚組み合わせて減速している装置をいいます。入力軸と出力軸
の2軸は直線的になる「平行軸」で動力を伝達します。機械効率が良い。
このギヤ減速機を組み合わせているモータを「ギヤードモータ」といいます。
注 記)上記模型は、小原歯車工業(株)のHPから転載しています
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マイスターの釜と冷却用の攪拌羽根を駆動させている小型ギヤードモータ。
5k用:60W 仕様
10k用:90W 仕様
パナソニック(株)小型ギヤードモータ
モータと減速機を分割した状態。(下がモータ本体 : 上が減速機)
最終段の出力軸
減速機
モータ軸
モータ本体
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減速機の減速比は1/20を採用。従って最終段の出力軸の回転数「N」は
N = Ns・i
Ns:同期回転速度(50Hzの地域)
i:ギヤヘッドの減速比 1/20
N = 1500rpm × 1/20 = 75rpm
故に
東日本(50Hzの地域)・・75rpm(ギヤードモータの回転数)
西日本(60Hzの地域)・・90rpm(ギヤードモータの回転数)
このタイプ(小型でモータ出力が100W以下)の減速機の標準寿命は、
実稼動8時間/日で 約10000時間が目安です。(メーカーの推薦値)
年間約300日で稼動させると、早ければ4、5年で寿命が来てしまいます。
密封された減速機の中には、歯車を焼き付かせないために専用グリースが充填
されています。減速機の寿命はグリースの潤滑性に依存しているので、古く劣
化して固まったグリースや、潤滑性を失ったグリースで使い続けると歯車の歯
面やベアリングを損傷させる恐れがあります。
上の写真は、実動約7000時間の減速機を分解した所です。明らかにグリー
スが潤滑性を失っています。
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これでは歯車軸を支えるベアリングなどは本来の性能を発揮できずに劣化が進
み、最後には歯面まで磨耗させ、機械効率も悪くなります。
深刻な状態になる前に一度分解して洗浄液などで綺麗に洗浄すれば、新品とは
言えませんが、ある程度まで復活させる事が出来ます。
一般的に減速機の分解整備については、メーカー以外では実施しないようにと
警告しています。グリースの選定や組み直す精度に誤りがあれば返って状態を
悪くします。不具合が出れば自己責任になり、更に問題を大きくします。
仮組みして裸のままモータにセットすると入力軸と出力軸は直線的(平行)に
配列されているのがよく解ります。新しい専用グリースを塗布、色が違います。
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モータは完全密封なので機械屋でも分解する事が出来ません。最近の小型モー
タはこの密封タイプのものが多い。下手に分解されるとメーカー保障ができな
くなります。
やはり寿命は10000時間が目安。時期が来れば早めに新品と交換します。
小型ギヤードモータは、汎用性が高く種類も豊富で値段も安い。日本製のメジ
ャー品を使えば世界中で同じモノが調達出来ます。日本の焙煎機メーカーの多
くは小型ギヤードモータを採用しています。
使用頻度が少ない機種でも7、8年を目途に交換される事をお勧めします。
下の写真はマイスター5の釜の駆動系です。シンプルに平歯車駆動にして最短
距離でダイレクトドライブしています。機械効率を最優先した設計です。
モータ側ギヤ
歯数:30
釜の軸側ギヤ
歯数:50
チェーンやベルトで牽引していないのでメンテナンスや調整も容易。歯車が鋼
製なので少し騒音が出るのが難点。歯数比は「モータ側30:50釜の軸側」
従って、釜の回転数は(あくまで計算上、機械効率や負荷は無視)
50Hzの地域 : 75rpm × 30/50 = 45rpm
60Hzの地域 : 90rpm × 30/50 = 54rpm
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ベベル減速機
ベベルとは、英語「bevel」で「斜角」「傾斜」という意味。~を斜めに切る。
歯面を斜めに切った歯車、傘(かさ)歯車のこと。入力軸と出力軸の2軸が
ある一点で交わる「交差軸」で動力を伝達します。一般的な軸角は90°
(WEBサイトより転載)
一般的に小歯車(ピニオンギヤ)と大歯車の2枚を組み合わせた減速装置。
同じベベル減速機の中でも、減速比が1:1(歯数比が1)で軸を交差させ
ている歯車は「マイタギヤ」と呼ばれます。
(下の模型)
注 記)上記模型は、小原歯車工業(株)のHPから転載しています
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自動車などに採用されているデファレンシャルギヤは「かさ歯車」で構成され
たギヤボックスです。下の写真は古典的なデファレンシャルギヤの構造。
(WEBサイトより転載)
大きな減速比は取れませんが、動力軸を90°振る歯車として最も多用されて
います。コーヒーミルにも採用されています。(下の写真)
ベベルギヤ
(WEBサイトより転載)
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ウォーム減速機
ウォームとは、英語「worm」で工業的にはネジ状の歯車を言う。
「芋虫」に似
ているのでこの例えがある。ネジ状の円筒形(鼓形)ウォームと、これに噛
み合うウォームホイールからなる歯車対です。入力軸と出力軸の2軸は交わ
りもせず、平行でもない「食い違い軸」で動力を伝達します。軸角は90°
ウォームホイール
円筒形ウォーム
注 記)上記模型は、小原歯車工業(株)のHPから転載しています。
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1段で大きな減速比が得られ、優れた静粛性と耐久性があり高いトルクを伝え
られる特徴があります。しかし、平歯車などが点接触に近い転がりで伝動する
のに対し、ウォームは面接触の滑りで伝動するため機械効率が悪くなります。
平歯車は0.9前後、ウォームの場合は0.70~0.40程度。
減速比の小さいものには「0.9」前後を謳う機種もありますが、その多くはギ
ヤ減速機に置き換わります。ウォームを選定する場合は減速比が1/30以上
の場合が多い。しかし、いずれの機種でも充填グリースなどは使用頻度に応じ
て劣化するし、歯面も磨耗します。(高効率を維持するにはその条件が必要)
また、冬などはその日の温度差によるオイル粘度でも機械効率が変化する「潤
滑油かくはん損失」が最も大きい減速機です。現場ではカタログ値が通用しな
い場合があります。
実際に、農林水産省や国土交通省が発行する技術指針では、ウォーム減速機の
機械効率は「0.37~0.59(1段形)」を採用するようにと、基準が明記さ
れています。
仮に、原動機の力を「100」とすると、ウォーム減速機を使えば被動機には
「40」しか伝わらないということです。同じ負荷でもモータは出力の大きい
モノが使われます。また、減速比を大きく取ればウォームホイール自体も大き
くなり重量が増して来ます。更に本体ケースは鋳鉄製の場合が多い。
故に、ウォーム減速機は他の減速機に比べて、外観が大きく重たくなります。
ヨーロッパ圏の焙煎機は、このウォーム減速機を採用している機種が多い。
(下の写真)
(WEBサイトより転載)
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おそらく耐久性に重きを置いた設計になっていると思われますが、堅牢な機械
でも所詮は消耗品です。維持管理の良し悪しでも性能に差が出てしまいます。
いくら耐久性があっても維持管理のメンテナンスは必要になり、必ず取替えの
時期も来ます。
いずれの機種にも必ず長所と短所があります。設計屋としてはどの機種を選択
するのか悩ましいところです。
新品の機械はトラブル無く動いて当然なのですが、問題は20年先、30年先
の維持管理やメーカーのサポートをどのように考えるかです。特殊な部品を使
った機械は先々で修理が出来ない場合もあります。
記)大和鉄工所
出展・参考資料
・小原歯車工業(株)WEBサイト
岡
崎