児童を持つ家族に及ぼす「家族教育プログラム」の臨床的研究 学校教育

児童を持つ家族に及ぼす「家族教育プログラム」の臨床的研究
学校教育専攻
発達臨床コース
仙
1
問題と目的
田
満
が増加する傾向にあった。さらに,1 日目と 5
以前より,子どもの問題行動と家族システム
日目に行なった家族イメージ(秋丸・亀口,
との間には深い関連があり,根本的な問題解決
1988)の結果,パワーイメージと結び付きイメ
のためには,子どもに絶大な影響のある学校と
ージについては,家族成員間の評価の差が縮ま
家庭の連携が必要であると指摘されてきたに
っていた。
以上のことから,本プログラムが,家族及び
も関わらず,具体的な方法論や実践例となると
ほとんど報告されていない。
そこで,本研究では,亀口(1987)の開発し
た家族機能活性化プログラムをもとに,家族シ
家族内コミュニケーションについての気づき
を促し,家族内コミュニケーションを活発にし
た可能性が示唆された。
ステムと学校システムの連携を図るための具
さらに,自由記述用紙やプログラムアンケー
体的な方法として,家族の健康度を示す尺度と
ト,課題の所要時間等から,なかよし家族活動
考えられる家族凝集性を高める家族教育プロ
プログラムに一部改良が加えられた。
グラムを作成することが目的とされた。
3
2
家族教育プログラムの予備的検討
家族教育プログラムの臨床的研究
予備的検討において改良を加えたなかよし
家族機能活性化プログラム及び家族機能活
家族活動プログラムが用いられた。プログラム
性化プログラムをもとに稲田(1996)が作成し
参加希望の 11 家族(小学校 4 年生児童 11 名及
たグループ機能活性化プログラム等を参考に,
びその家族 17 名)を対象に 4 日間 10 課題の介
作業課題を中心とした「なかよし家族活動プロ
入が行なわれた。事前事後において,FACES-Ⅲ
グラム」が作成された。
と FAI の一部を用いて,
家族凝集性を測定した。
1家族(小学校3年生児童及びその両親)を
1 日目と 4 日目に,行動観察を行ない,肯定的
対象に 5 日間 12 課題の予備的介入が実施され
SUPPORT 及び否定的 SUPPORT を測定した。家族
た。日本語版 FACES-Ⅲ(草田・岡堂,1993)と
イメージについては,1 日目と 4 日目に行なっ
FAI(西出,1993)の一部を用いて,プログラム
た。また,各課題に関しては,プログラムアン
実施前後の家族凝集性を測定した結果,実施前
ケートで回答や感想を求めた。さらに,事前事
より実施後に低下する傾向にあった。また,1
後において,自由記述調査が行なわれた。
日目と 4 日目に行なった同一のプログラム課題
質問紙で測定された家族凝集性の変化の人
における行動観察の結果,家族凝集性と同様の
数差を直接確率計算法により検定した結果,現
性質を持つ肯定的 SUPPORT 数及びカテゴリー数
実の家族機能については有意ではなかった。理
想の家族機能については,子どものみ,増加し
もう 1 つの目的である,
「コミュニケーション・
た人数(8 人)と減少した人数(1 人)の差は
スキルの向上」までには至らず,その結果,現
有意であった。これは,子どもの家族に対する
実の家族凝集性を高めることができなかった。
評価基準の高まりを示唆していると考えられ
この要因として,スキル・トレーニングとして
た。これが,現実の家族機能について,有意差
本プログラムを用いるには,トレーナーの経験
が得られなかった要因であると推測された。ま
や技量が不足していた可能性が考えられた。
た,行動観察で測定された肯定的 SUPPORT 数の
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全体的考察と今後の課題
変化の人数差を直接確率計算法により検定し
本研究によって,なかよし家族活動プログラ
た結果,有意差は見られなかった。一方,否定
ムに家族の健康度を高める効果があることが
的 SUPPORT 数については,子どものみ,減少し
確認された。遊びの要素を含んだ課題内容や 3
た人数(7 人)と増加した人数(0 人)の差は
人以上の家族成員が参加した家族が多かった
有意であった。これは,横尾・亀口(1995)の
ことも,プログラムの効果を高めた要因と考え
結果から,家族の健康度の向上を示唆するもの
られた。また,家族にとって身近な学校システ
と考えられた。また,肯定的 SUPPORT 数の人数
ムを活用したことにより,幅広い家族層から多
差が有意ではなかったことに関しては,家族成
くの家族に参加してもらうことが可能となっ
員のプログラム課題中の作業度が高まったこ
た。したがって,本プログラムは学校と家庭の
とにより,家族成員間の相互作用そのものが減
連携を図る具体的な方法の 1 つとなり得ると考
少し,結果として,肯定的 SUPPORT の増加が抑
えられた。また,家族アセスメント法の 1 つと
制されたことが要因であると考えられた。さら
して行動観察法を用いたが,家族コミュニケー
に,家族イメージ図上に祖父母が表されていな
ションの変化を行動レベルで測定することは
かった 3 家族については,家族成員間の距離イ
非常に有効であった。
メージのずれが有意に小さくなっていること
本研究では,次の 3 点が今後の課題として残
から,田中(1998)が指摘するように,この 3
された。
家族の健康度の高まりが推測された。
① スキル・トレーニングとしての観点から,
以上のことから,なかよし家族活動プログラ
行動変容までを視野に入れて,なかよし家
ムの効果としては,家族成員間にある家族に対
族活動プログラムの課題の内容,トレーナ
する認知のずれを小さくし,家族凝集性の評価
ーや参加家族間におけるフィードバックの
基準を高めることが考えられた。よって,本プ
内容や方法及び実施方法を検討する。
ログラムの目的の 1 つである,「自分,家族,
② 家族システムのアセスメント法として家族
家族内でのコミュニケーション・パターン,に
凝集性が適しているのかどうか検討する。
ついての気づきを促すこと」については十分達
③ 効果の持続を検証するための遅延テストの
成できたと考えられた。また,家族成員の認知
実施方法を検討する。
面の変化が見られたことは,家族の健康度をあ
る程度高める効果があったと考えられた。これ
は,家族単位の分析結果からも検証された。し
かしながら,認知的には気づきを促しながらも,
指導
加藤
哲文