IASB公開草案「IFRS第15号の明確化」に対する意見

IASB公開草案「IFRS第15号の明確化」に対する意見
平 成 27年 10月 28日
日本公認会計士協会
日本公認会計士協会は、国際会計基準審議会(IASB)の継続的な努力に敬意を表すと
ともに、公開草案「IFRS第15号の明確化」に対するコメントの機会を歓迎する。
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という。)はIASB
と米国財務会計基準審議会(FASB)による共同プロジェクトによって完成された基準で
あり、IFRS第15号とTopic606「顧客との契約から生じる収益」とは軽微な差異を除き、
顧客との契約から生じる収益の会計処理に関して同じ要求事項となっている。
しかし、IASBとFASBによる収益認識基準に係る改訂提案の内容は、幾つかの点で相違
している。我々は、両会計基準設定主体の協調により、適用各国の個別事情に偏りすぎ
ることなく、このコンバージェンスされた状態が保たれることを強く希望する。
また、今回のように、新しい基準書が公表されてから強制適用となる前に当該基準書
を改訂することは異例のことであり、早期適用企業もある中、望ましいアプローチとは
言い難い。今後も適用上の論点が出てくる可能性は否定できないものの、適用前の基準
書が頻繁に変更されることのないようにしていただきたい。
以下、公開草案の質問項目についてコメントする。
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質問1――履行義務の識別
IFRS第15号は、契約の中の履行義務を識別するために、契約において約束した財又は
サービスを評価することを企業に要求している。企業は、別個である約束した財又は
サービスに基づいて履行義務を識別することを要求されている。
「別個の」という概念の適用を明確化するために、IASBはIFRS第15号に付属している
設例を修正することを提案している。約束した財又はサービスがどのような場合に別
個のものであるのかを明確化するという同じ目的を達成するために、FASBは、新しい
収益の基準の要求事項を明確化して、履行義務の識別に関する設例を追加することを
提案している。FASBの提案には、契約の観点において重要性のない約束した財又はサ
ービスに関しての修正や、出荷及び配送活動に関する会計方針の選択が含まれてお
り、IASBはこれらを扱うことを提案していない。IASBの決定の理由は、BC7項からBC25
項で説明している。
履行義務の識別に関してのIFRS第15号に付属している設例の修正案に同意するか。賛
成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような代替的な明確化(もしあれば)を
提案するか、また、その理由は何か。
【コメント】
設例の修正案に賛成する。
設例の修正案は明示的に第27項(b)を検討しており、同項の適用に関する利害関係
者の理解に資する可能性がある。
FASBが採り上げた重要性の問題は、主にUSGAAPにおける実務に起因しており、IFRS
の利害関係者は財又はサービスを履行義務の識別の目的で評価する際に合理的な判
断を行うことに関して懸念を示していないことから、取り扱う必要はないと考える
(BC19項)。また、IFRSは、重要性のない場合には会計方針を適用する必要がない旨を
IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」第8項において包括的に規
定しており、個別の基準書において重要性に言及するアプローチは、従来から採用し
ていない。したがって、IFRS第15号においてのみ重要性について個別に言及する必要
はないものと考える。
FASBが提案する出荷及び配送活動に関する会計方針の選択は、収益認識モデルの例
外を作り出すことになるため適当でないと考える(BC24項)。
冒頭に記載のとおり、我々は、履行義務の識別の要求事項及び設例のコンバージェ
ンスを強く要望するが、仮にIASBとFASBとの間に相違が生じる場合には、BCの付録に
当該相違に関する概要を追加記載することを要望する(IN9項及び結論の根拠付録A)。
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質問2――本人なのか代理人なのかの検討
他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与する場合に、IFRS第15号は、企業
が取引における本人なのか代理人なのかを判断することを企業に要求している。その
ために、企業は、特定された財又はサービスをそれらが顧客に移転される前に支配し
ているのかどうかを評価する。
支配の原則の適用を明確化するために、IASBは、IFRS第15号のB34項からB38項を修正
し、IFRS第15号に付属している設例45から48を修正し、設例46A及び48Aを追加するこ
とを提案している。
FASBは、企業が本人なのか代理人なのかを評価する際の支配の原則の適用に関して、
IASBと同じ決定に至っており、この点で本公開草案に含まれている修正と同じ(又は
同様の)トピック606の修正を提案する見込みである。
両審議会の決定の理由は、BC26項からBC56項で説明している。
本人なのか代理人なのかの検討に関してのIFRS第15号の修正案に同意するか。特に、
B37項における指標のそれぞれに対する修正案が有用であり新たな適用上の疑問を生
じさせないということに同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どの
ような代替的な明確化(もしあれば)を提案するか、また、その理由は何か。
【コメント】
以下を除いて修正案に賛成する。
B35A項(c)の「特定された財又はサービスに統合するという重要なサービスを企業
が提供する場合には」に関しては、どのような場合に「重要」と判断すべきかが必ず
しも明確ではなく、様々な解釈が出てくる可能性が否定できない。また、それにより
本人・代理人の判断が異なってくることから、更なる明確化が必要と考える。
「重要」
という語句が、第29項(a)の「結合後のアウトプットを示す財又はサービスの束に統
合する重要なサービス」と同じ意味で使用しているのであれば、その旨を明示するべ
きである。
質問3――ライセンス供与
企業が、他の約束した財又はサービスとは別個のライセンスを顧客に供与する場合
に、IFRS第15号は、当該ライセンスが顧客に一時点で移転する(企業の知的財産を使
用する権利を提供する)のか、それとも一定の期間にわたり移転する(企業の知的財
産にアクセスする権利を提供する)のかを判断することを企業に要求している。この
判断は、顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うこ
とを契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待しているかどうかに大きく左右
される。IFRS第15号には、ライセンスと交換に約束された売上高ベース又は使用量ベ
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ースのロイヤルティ(ロイヤルティ制限)に関する要求事項も含まれている。
企業の活動が、顧客が権利を有している知的財産にどのような場合に著しく影響を与
えるのかを明確にするために、IASBは、B59A項を追加し、IFRS第15号のB57項を削除
し、IFRS第15号に付属している設例54及び56から61を修正することを提案している。
IASBは、ロイヤルティ制限の適用を明確化するために、B63A項及びB63B項を追加する
ことも提案している。IASBの決定の理由は、BC57項からBC86項で説明している。
FASBは、ライセンス供与のガイダンス及び付属する設例について、より広範囲の修正
を提案しており、これにはライセンスの供与における企業の約束の性質の判定につい
ての代替的なアプローチが含まれている。
ライセンス供与に関してのIFRS第15号の修正案に同意するか。賛成又は反対の理由は
何か。反対の場合、どのような代替的な明確化(もしあれば)を提案するか、また、
その理由は何か。
【コメント】
修正案に賛成する。
知的財産に関するB59A項の追加とB57項の削除により、B58項(a)の「知的財産に著
しく影響」する活動の性質が明確化されると考えられる。
知的財産に関するFASBの提案は、B58項(a)が求める知的財産に著しく影響を与える
活動に対する期待がない場合でも知的財産にアクセスする権利として分類される可
能性があり、また現在のIFRS第15号における規定の明確化以上の結果をもたらすこと
になることから、妥当でないと考える。我々は、IASBとFASBの間に本基準について差
異が生じないこと、改訂の必要が生じた場合には両者の間に差異が生じないよう一致
した改訂がなされることを要望する。
ロイヤルティの制限に関するB63A項及びB63B項の追加によって変動対価の定め(第
50項~第59項)の例外として定められたロイヤルティの制限(B63項)に関する適用範
囲と方法が明確となり、利害関係者の理解に資する可能性が高くなると考える。
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質問4――移行時の実務上の便法
IASBは、IFRS第15 号への移行時に、次の2つの実務上の便法を提案している。
(a) 企業が次のことを行う際に事後的判断を使用することを認める。(i) 表示する最
も古い期間の期首よりも前に条件変更された契約の中の充足した履行義務と未充
足の履行義務の識別、(ii) 取引価格の算定
(b) 完全遡及方式を使用することを選択した企業が、表示する最も古い期間の期首に
おいて完了している契約(C2項で定義)にIFRS 第15 号を遡及適用しないことを
認める。
IASBの決定の理由はBC109項からBC115項で説明している。FASBも、条件変更された契
約について移行時の実務上の便法を提案する見込みである。
IFRS第15号の経過措置の修正案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場
合、どのような代替的な明確化(もしあれば)を提案するか、また、その理由は何か。
【コメント】
経過措置の修正案に賛成する。
IFRS第15号の適用可能性を向上させるものであり、妥当と考える。
質問5――その他のトピック
FASBは、回収可能性、現金以外の対価の測定及び売上税の表示に関して、新しい収益
の基準の修正を提案する見込みである。IASBは、これらのトピックに関してはIFRS第
15号の修正を提案しないことを決定した。IASBの決定の理由は、BC87項からBC108項
で説明している。
IFRS第15号の修正がそれらのトピックについては要求されないことに同意するか。賛
成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような修正を提案するか、また、その理
由は何か。IFRS第15号の修正を提案する場合には、IFRS第15号の要求事項が明確でな
いという理由を説明するための情報を示されたい。
【コメント】
賛成する。
・
回収可能性
IFRS 第 15 号はその適用対象とする顧客との契約について回収可能性が高いこと
を要件の一つとしており(第9項(e))、その可能性が高い契約しか締結しないのが
企業の合理的行動と考えられることから、IASB が回収可能性に関するガイダンス
を追加したとしてもそれが適用されるケースは多くないと考えられる。したがって、
IASB による当該修正は不要と考える。
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・
現金以外の対価の測定
他の基準への潜在的な影響を具体的に測定できないため、必要な場合には別プロ
ジェクトとするべきであり、IFRS 第 15 号について修正する必要はないと考える。
・
売上税の表示
FASB が今後行うであろう提案は、米国の利害関係者からの要請に対応するもの
であり、IFRS 第 15 号の原則の例外を策定することとなるため、IASB による修正は
不要と考える。
以
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上