ZE26A-17 バイオリファイナリーのための超高感度 NMR による リグニンの構造解析 渡辺隆司 1,3,西村裕志 1,3,中村嘉利 4,岸本崇生 5,中村正治 3,6, Qu Chen1,3, 酒井洋尚 2,岡村英保 2,片平正人 2,3 京都大学生存圏研究所,2 京都大学エネルギー理工学研究所,3JST CREST, 4 徳島大学・大学院ソシオテクノサイエンス研究部,5 富山県立大学・工学部,6 京都大学化学研究所 1 1. 研究概要 樹木に代表される木質バイオマスは、地球上に最も多く蓄積されている有機資源である。これを有 効に変換、利用して、化成品をはじめとした有用物質やバイオエネルギーを生産することは、環境調 和型の持続可能な社会の実現に貢献すると期待される。植物細胞壁は、主にセルロース、ヘミセルロ ースおよびリグニンによって構成されていて、互いに多様な結合で三次元の高分子を形成している。 木材成分は分子量分布をもった高分子であり、多様な結合構造が存在するため、分析と定量評価が難 しい。核磁気共鳴法(NMR)は、木材細胞壁内部の結合構造を分子レベルで包括的に分析することがで きる強力な分光法であり、我々は NMR 法を中心に木質バイオマスの変換反応過程における構成成分 の変化を評価する手法の開発を進めている。 HSQC 法は物質を定量する有力な手法であるが、弱点がある。同法の INEPT 期と reverse INEPT 期 において、磁化は横緩和によって減弱する。横緩和速度は分子量が大きいほど早いので、高分子量の 物質ほど減弱が激しく、磁化が小さくなってしまう。この為 HSQC の相関ピークの体積は、高分子量 の物質ほど小さくなる。この為様々な分子量を有する物質の混合液に対しては、相関ピークの体積に 基づいて物質量を定量した場合、正しい結果が得られない。この問題を解決する為に今回、HSQC 法 と TROSY 法を組み合わせた新しい物質定量法を開発した。分子量が大きく異なる二つのバイオマス 関連物質の混合液にこの手法を適用した結果、定量が正確にできる事が実証された。 2. 結果と考察 リグニン2量体とカードラン(図1)を DMSO 溶液に当モル溶解した。この溶液の HSQC スペクトル を測定し、リグニン2量体に関する相関ピーク 1-4 と、カードランに関する相関ピーク 9-12 の各々の 体積を計算した。リグニン2量体に関するピークの平均値を1に規格化したものを図2左に示す。カ ードランはリグニン2量体に比べて分子量がはるかに大きい為、横緩和速度が速い。この為 INEPT 期 と reverse INEPT 期においてカードランの磁化はより減弱し、その結果相関ピークの体積がかなり小 さくなってしまう(平均値 0.671)。この為 HSQC の相関ピークの体積に基づいて、物質の量比を正確に 決定する事はできない。 TROSY 法においては、プトロンの定常状態磁化 Hz とカーボンの定常状態磁化 Cz の両方が、相関 ピークに寄与する。同法においてプロトン由来の磁化は、INEPT 期と SP2-PT 期の両方で横緩和によ って磁化が減弱するが、一方カーボン由来の磁化は、SP2-PT 期でのみ横緩和によって磁化が減弱する。 従ってプロトン由来の TROSY 相関ピークとカーボン由来の TROSY 相関ピークの強度の比較から、 ZE26A-17 INEPT 期における磁化の減弱量に関する情報を取得する事ができる。この情報に基づいて HSQC の相 関ピークの体積を補正した結果を図2右に示す。カードランに関する相関ピークの体積が総じて大き くなり、リグニンに関する相関ピークの体積と大きさに遜色がない(平均値 0.989)。従ってこの補正を 施した体積を用いれば、分子量(横緩和時間)が大きく異なる物質に関しても、その量比を正確に決定 する事ができる。 3. 研究発表成果 [口頭発表リスト] 1) Nishimura, H., Watanabe, T., Katahira, M.他, "Real-time NMR monitoring of enzymatic reaction of antiHIV protein, structure of anti-prion RNA aptamer and wood biomass analysis", The 5th Japan-Taiwan NMR symposium, 2014.9.28-10.3, Sapporo. 2) Nishimura, H., Watanabe, T.,Katahira, M.他, "Development of new methods to compensate distortion of quantitation caused by difference in molecular weight (transverse relaxation time)", 第 53 回 NMR 討論会、 2014.11.4-6, 大阪. 3) Nishimura, H., Nagata, T., Watanabe, T., Katahira, M.他, "Development of new NMR methods for correct quantitation on biomass components", The 5th International Symposium of Advanced Energy Science, 2014.9.30-10.2, Kyoto. 4) Watanabe, T., Nishimura, H., Katahira, M.他, "Structural analyses of lignin using ultra-high sensitivity NMR for biorefinery", The 5th International Symposium of Advanced Energy Science, 2014.9.30-10.2, Kyoto. [発表論文リスト] 1) 片平正人, "溶液NMR法による木質バイオマスの丸ごと解析", 細胞工学, 33, 837-842, 2014. 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 1 図1カードラン(上)とリ グニン2量体(下)の構造 2 3 4 9 10 11 12 1 2 3 4 9 10 11 12 図2 1H-13C HSQC スペクトルにおける相関ピークの体積(ピーク1から4の 体積の平均値を 1 に規格化).(左)実測値, (右)TROSY を用いて較正した値.
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