高速衝撃を受ける変断面円筒の衝撃吸収特性

高速衝撃を受ける変断面円筒の衝撃吸収特性
金沢大学
○樋口理宏
豊橋技術科学大学 足立忠晴
Impact Absorption of Cylindrical Tube with Varying Cross-Section Subjected to High Velocity Impact
Masahiro HIGUCHI and Tadaharu ADACHI
1.はじめに
エチレン(UHMWPE)およびナイロンナットから成る 108 g の
衝突安全技術に関連して,軸衝撃を受ける薄肉要素の衝撃
インパクタを高速で打ち出すためのエアガンおよび半導体ひ
吸収特性に関する評価が数多くなされている 1),2).円筒のよう
ずみゲージが貼付された炭素鋼丸棒(JIS S45C)により構成さ
な薄肉要素は,軸衝撃荷重下でリンクルを形成しながら逐次
れる.圧力容器に蓄えられた圧縮空気を空気作動弁により開
圧潰する連続塑性座屈,すなわち塑性曲げ変形により衝撃エ
放し,インパクタを内径 25 mm, 長さ 2 m のバレル内で加速
ネルギーが吸収される.衝突速度が遅い領域であれば,応力
させ試験片に衝突させる.空気圧を調整することによりイン
波や慣性の影響を無視することができ,準静的な圧潰挙動と
パクタ発射速度を 20 ~ 110 m/s の範囲で設定可能である.
して近似評価することができる.しかし,衝突安全性能基準
本研究では空気圧を 0.4 MPa の一定とし,インパクタの衝突
における衝突速度は年々高まっており,より高速における薄
速度 75 m/s 前後で衝撃試験を実施した.衝撃荷重測定のため
肉部材の動的挙動の解明を考える必要が出てきている.
の炭素鋼丸棒は直径 30 mm, 長さ 6 m であり,試験片設置面
近年,衝突時の応力波や慣性効果が顕著に現れるような高
から 300 mm の位置に 2 枚貼付した半導体ひずみゲージ
速衝撃を受ける薄肉円筒の動的挙動について数多く検討され
(KYOWA, KSP-2-120-E4)により測定されるひずみ履歴から一
てきている 3),4).著者らは,衝突速度が 100 m/s 程度までの高
次元弾性波動論に従い試験片設置面の衝撃荷重に換算する.
速衝撃を受ける薄肉円筒の動的挙動を実験および数値解析に
炭素鋼の応力波伝ぱ速度は 5.1×103 m/s であるため,インパ
より検討し,薄肉円筒の衝突端を肉厚にし,反対側の固定端
クタ衝突直後から約 2.2 ms の間,丸棒自由端からの反射波の
を薄肉にすることで,固定端側に発生する衝撃荷重を低く抑
影響を受けることなく衝撃荷重を測定することができる.ま
えると同時に衝撃エネルギー吸収特性を向上させることが可
た,インパクタの変位を光学式変位計(Zimmer, Model 100B)
能であることを示唆した 4).本研究では,アルミニウム合金
により測定し,試験片の変位として用いた.
から成る薄肉円筒に衝突端から固定端に向けて肉厚を減少さ
図 3 に示す形状のテーパー円筒を試験片とし,内径 17.9
せた変断面円筒(以下テーパー円筒)の衝撃吸収特性の評価
mm, 外 径 20 mm の アルミニウム合 金 引抜円筒 (JIS
を行い,その有効性を明らかにする.
A6063TD-T6)から旋盤加工により作製した.また,同様に厚
2.試験方法
さが 0.5, 0.9 mm の一様円筒も試験片として供した.なお,試
本研究では,衝突速度が 100 m/s 程度までの高速衝撃試験
を実施するために,図 1 に示す衝撃試験機を製作した.高速
衝撃試験機は,図 3 に示す炭素鋼(JIS S45C),超高分子量ポリ
Impactor
験片は油粘土を用いて炭素鋼丸棒の端面に設置した.
また材料試験機(Shimadzu, DCS-25T)を用いて,クロスヘッ
ド速度を 5 mm/min とした準静的圧潰試験も行った.
Specimen
6000
f 30
Air
reservior
f 25
2000
Air valve
300
Gun barrel
Load cell
Semiconductor strain gages
Strain meter
Displacement
(Unit: mm)
transducer Data logger
Velocity pickup
Air
compressor
Fig. 1 Schematic diagram of experimental equipment for high-velocity impact test.
Impacted end
Steel
50
10
50
0.5
f 24
Fig. 2 Impactor
0.9
(Unit: mm)
50
f 17.9
UHMWPE
f 24.8
M10 Nut
Fixed end
(Unit: mm)
Fig. 3 Geometry of tapered tube specimen
3.試験結果と考察
15
まず準静的試験により得られた荷重-変位線図を図 4 に示
Experiment
Approximate theory (Ref. 5)
結果も示してある.まずテーパー部先端の厚さが 0.5 mm の
箇所から圧潰が開始しテーパー部が順次圧潰される.この際,
厚さの増加に従い,荷重変動を伴いながら荷重が増加する.
その後,厚さ 0.9 mm の一様断面部に連続塑性座屈が生じた後,
緻密化により荷重が急激に増加していることがわかる.なお,
Axial load, kN
す.同図には,著者らが提案した近似理論 5) により得られた
10
5
準静的試験においては試験片の設置方向を逆にした場合も同
様の結果が得られた.
衝撃試験により得られた荷重-変位線図を図 5 に示す.同
0
10
20
図には,(a)固定端を薄肉にした場合と,(b)逆向きに設置した
30
40
50
Displacement, mm
60
70
80
Fig.4 Quasi-static behavior of tapered tube
場合(すなわち固定端を厚肉にした場合)および一様円筒の
実験結果も示してある.まず図 5(a)より,固定端が薄肉とな
15
Tapered tube
Straight tube (t = 0.5 mm)
るよう設置した場合では,厚さ 0.5 mm の一様円筒と比較し
の最大変位が劇的に減少していることがわかる.一方,図 5(b)
より,テーパー円筒を逆向きに設置すると,荷重の最大値が
厚さ 0.9 mm の一様円筒と等しくなり,
さらに最大変位が (a)
の固定端を薄肉にした場合と比較して大きくなっていること
Axial load, kN
て,荷重の最大値は同程度に収まっていると同時に,圧潰時
10
5
がわかる.
図 1 の衝撃試験では衝突端側の衝撃荷重を測定することが
できないため,Altair 社の HyperWorks, RADIOSS ver. 11 を用
0
いて陽解法に基づく動的有限要素解析を実施した.解析にお
10
20
30
40
50
Displacement, mm
60
70
80
(a) Regular setting
いては,剛壁に設置したテーパー円筒を 8 節点 6 面体ソリッ
15
ド要素 (HEPH5))により要素分割し,実験と同じ質量を有する
Tapered tube (Reverse)
Straight tube (t = 0.9 mm)
剛体を初速 72 m/s で円筒に衝突させた.解析により得られ
衝突直後に衝突端付近に軸圧縮変形が生じ衝突端で大きな衝
撃荷重が生じ,衝突体の運動エネルギーの多くを衝突直後に
おいて吸収していることが明らかとなった.そのため,厚さ
0.5 mm の一様円筒と比較して最大変位が劇的に減少するこ
Axial load, kN
た衝突端・固定端における荷重と変位の関係を図 6 に示す.
10
5
とがわかった.
以上より,固定端側を薄肉になるように円筒にテーパーを
設けることにより,荷重の最大値と円筒の変形量を同時に低
0
10
20
く抑えることが可能となる.
300
Axial load
Impact ed end
Fixed end
D. Karagiozova and N. Jones: Int. J. Solids & Struct., 37 ,
2005 (2000).
4)
M. Higuchi, S. Suzuki, T. Adachi and H. Tachiya, Appl.
Mech. Mater. 566, 575 (2014).
5)
Absorbed energy
200
15
10
100
5
M. Higuchi, T. Adachi, Y. Fukushima and W. Araki, Trans.
Jpn. Soc. Mech. Eng. A (in Japanese), 78, 945 (2012).
6)
20
Axial load, kN
3)
80
25
D.A. Galib and A. Limam, Thin-Walled Struct., 42, 1103
(2004).
70
RADIOSS theory manual 11.0 version, Chap. 5, Altair
Engineering, Inc., 5 (2011).
0
10
20
30
40
50
Displacement, mm
60
70
0
80
Fig.6 Results of finite element analysis for tapered tube
Absorbed energy, J
N. Jones, Structural Impact, Cambridge University Press,
Cambridge (1989).
2)
60
(b) Reverse setting
Fig.5 Dynamic behavior of tapered and straight tubes
参考文献
1)
30
40
50
Displacement, mm