トランプ旋風とサンダース革命の背景にある不満

リサーチ TODAY
2016 年 2 月 23 日
トランプ旋風とサンダース革命の背景にある不満
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
米国の予備選挙が、波乱の展開になっている。共和党、民主党のいずれにおいても、大本命と言われ
た候補が苦戦している。共和党ではブッシュ氏が脱落、トランプ氏が勝利を重ねている。民主党では、クリ
ントン氏が優勢ではあるものの、ニューハンプシャー州ではサンダース氏が大勝した。サンダース氏が白人
ワーキング・クラスからの支持を集めている点は、トランプ氏と共通する。みずほ総合研究所は、トランプ旋
風とサンダース革命に関するリポートを発表している1。みずほ総研の「とんでも予想2016年」の第一は、米
国大統領選でのトランプ氏の当選とオバマ政権のレイムダック化に伴う「権力の空白」が生じることによる世
界的な地政学的不安であった2。当初はトランプ氏の当選は殆ど「とんでも予想」であったが、現時点でもト
ランプ旋風が続いていることは驚きでもある。また、民主党においてはクリントン候補がもともと圧倒的に強
いとされていたなか、サンダース革命が進行していることも大きな驚きである。2016年の米国では、景気後
退懸念が浮上し、長期金利が大幅に低下したように、経済環境の不確実性が高まっている。大統領選が
当初と予想外の状況にあることの背景には、米経済が長期停滞から抜け切っておらず、国民に不満がうっ
積していることがある。同時に、大統領選を中心に先行きの政治環境への不透明感が経済に不安を与える
面もあると考えられる。
■図表:共和党における得票率
民主党における得票率
クリントン
トランプ
アイオワ
(2/1)
サンダース
アイオワ
(2/1)
クルーズ
ルビオ
ニューハンプシャー
(2/9)
ニューハンプシャー
(2/9)
サウスカロライナ
(2/20)
ネバダ
(2/20)
(%)
0
10
20
30
(%)
40
0
20
40
60
80
(資料)New York Times 資料よりみずほ総合研究所作成
共和党ではトランプ氏が勝利を重ねており、指名候補獲得に近づいている。ティー・パーティー派のクル
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2016 年 2 月 23 日
ーズ氏、主流派のルビオ氏、ケーシック氏等が追うが、このまま「反トランプ」が結集しない状況では、相対
的にトランプ氏のリードが続きかねない。
一方、民主党において、これまでのクリントン氏の苦戦とサンダース氏の躍進に、クリントン氏がバラク・オ
バマ上院議員(当時)に敗れた2008年予備選挙の再来を指摘する向きがある。ただし、2008年のオバマ氏
と2016年のサンダース氏の支持層には大きな違いがある。下の図表は2008年と2016年の支持者の構成を
比較したものだ。サンダース氏は、製造業の労働者をはじめとする、裕福でない白人層からの支持を集め
ている。こうした白人ワーキング・クラスの支持を集めているという点で、サンダース氏の躍進はトランプ旋風
と共通した側面をもつ。経済的な苦境に不満を募らせる白人ワーキング・クラスが、民主党ではサンダース
氏、共和党ではトランプ氏を支える構造である。ただ、サンダース氏の支持は、黒人・ヒスパニックなどのマ
イノリティには広がっていないため、今後、クリントン氏が指名獲得に進むにはマイノリティの票の堅持が重
要になる。
■図表:米国大統領選の支持率の構成
<クリントン氏>
富裕層
若年層
<サンダース氏>
富裕層
若年層
マイノリティ
ワーキング・クラス
(白人)
高齢者
マイノリティ
ワーキング・クラス
(白人)
高齢者
<クリントン氏>
富裕層
若年層
<オバマ氏>
富裕層
若年層
マイノリティ
ワーキング・クラス
(白人)
高齢者
マイノリティ
ワーキング・クラス
(白人)
高齢者
2016年
2008年
(注)網掛けは支持が高い有権者層
(資料)CNN 資料等よりみずほ総合研究所作成
「とんでも予想」にすぎなかったトランプ氏が現段階でも有力な候補者として存在し、大本命のクリントン
氏を上回る人気をサンダース氏が捉えているのは、2008年のリーマン・ショック後の経済危機から回復した
とされながらも長期停滞への不安がつきまとう米国の現状を反映したものと言える。なかでも、製造業の不
振が米国経済の景気後退不安の主因であり、米国経済の行方が米国大統領選に影響を与える可能性が
ある。世界的な長期低迷、格差問題が既存の政治への不満を高め、新たな政治勢力を生み出すことに注
目が必要だろう。
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安井明彦 「トランプ旋風とサンダース革命」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 2 月 12 日)
「みずほ総研のとんでも予想 2016 年」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2015 年 12 月 22 日)
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