みずほインサイト 米 州 2016 年 2 月 12 日 トランプ旋風とサンダース革命 欧米調査部 部長 ニュー・ハンプシャー予備選挙後の米大統領選挙 03-3591-1307 安井明彦 [email protected] ○ 2016年2月9日、米ニュー・ハンプシャー州で、予備選挙の投票が行われた。共和党、民主党のいず れにおいても、指名候補争いの長期化が示唆される結果となった。 ○ 共和党では、トランプ氏が勝利し、失速を免れた。一方で、ルビオ氏が振るわず、主流派候補の早 期一本化は難しくなった。 ○ 民主党では、サンダース氏が大勝した。白人ワーキング・クラスからの支持を集めている点は、ト ランプ氏と共通する。クリントン氏にとっては、マイノリティ票が頼みの綱となりそうだ。 1.生き延びたトランプ旋風、ルビオ氏不振で主流派は混迷 2016年2月9日、米ニュー・ハンプシャー州で、予備選挙の投票が行われた。共和党では実業家のド ナルド・トランプ氏(図表1)、民主党ではバーニー・サンダース上院議員が勝利した(図表2)。共 和党、民主党のいずれにおいても、指名候補争いの長期化が示唆される結果である。 共和党では、トランプ氏が失速を免れた。2月1日にアイオワ州で行われた党員集会で敗北したトラ ンプ氏は、その動員力に疑問符がついていた1。ニュー・ハンプシャーでは優勢が伝えられていたが、 ここでも敗北するようだと、いよいよトランプ旋風にも終わりが見えてきかねなかった。 図表 1 図表 2 共和党における得票率 民主党における得票率 トランプ サンダース ケーシック クルーズ ブッシュ クリントン ルビオ 0 10 20 30 0 40 20 40 60 80 (%) (%) (注)ニュー・ハンプシャー予備選挙。開票率 88%。 (資料)New York Times 資料により作成 (注)ニュー・ハンプシャー予備選挙。開票率 89%。 (資料)New York Times 資料により作成 1 特筆すべきは、マルコ・ルビオ上院議員の不振である。ルビオ氏が予想外の好成績を収めたアイオ ワ党員集会直後には、同氏を軸とした主流派候補一本化の機運が高まっていた。ルビオ氏は、千載一 遇の好機を逃したと言えよう。ルビオ氏は、投票日直前のテレビ討論会で、「決まり文句を繰り返す だけ」といった対立候補からの批判に上手く対応できなかった。これをきっかけに、それまでは強さ であった「若さ」が、逆に「経験不足」として問題視され始めている。 ルビオ氏の不振によって、主流派候補の早期一本化は難しくなった。アイオワ党員集会と比較する と、ルビオ氏は主流派(「やや穏健」)、穏健派からの支持を低下させている(図表3)。主流派、穏 健派の一部は、得票率で2位に入ったオハイオ州知事のジョン・ケーシック氏に流れた模様である。も っとも、ケーシック氏はニュー・ハンプシャー州で重点的に選挙活動を行ってきた経緯があり、今後 の持続力は未知数である。 共和党の指名候補争いには、長期化の兆しがみられる。このまま主流派が候補の一本化にもたつく ようだと、アイオワ党員集会で勝利したテッド・クルーズ上院議員とトランプ氏を軸とした混戦が続 きそうだ。 2.「サンダース革命」の防波堤はマイノリティ 民主党では、サンダース氏が圧勝した。クリントン氏に僅差に迫ったアイオワ党員集会に続き、「政 治的革命」を唱えるサンダース氏の勢いには衰えがみられない。大本命とされてきたクリトン氏だが、 指名候補獲得を確実にするまでには、しばらく時間がかかりそうだ。 ここまでのクリントン氏の不振とサンダース氏の躍進に、クリントン氏がバラク・オバマ上院議員 (当時)に敗れた2008年予備選挙の再来を指摘する向きがある。実際に、若年層からの得票で大差を つけられたニュー・ハンプシャー予備選挙の結果は、2008年の同予備選挙と似通っている(図表4)。 図表 3 政策志向による得票率 図表 4 クリントン氏の得票率 (対立候補との差) (%) (%pt) 40 30 35 20 10 30 0 25 ▲ 10 20 ▲ 20 ▲ 30 15 ▲ 40 10 ▲ 50 5 0 トランプ ケーシック ルビオ ルビオ(アイオワ) 極めて保守 やや保守 穏健 ▲ 60 18~24歳 ▲ 70 40~49歳 ▲ 80 65歳~ 2008年 (注)特記なき場合、ニュー・ハンプシャー予備選挙 (資料)New York Times、CNN 資料により作成 (注)ニュー・ハンプシャー予備選挙 (資料)CNN 資料により作成 2 2016年 もっとも、2008年のオバマ氏と2016年のサンダース氏の支持層には、大きな違いが二つある(図表5)。 第一に、サンダース氏は、製造業の労働者をはじめとする、それほど裕福ではない白人層からの支 持を集めている。2008年の民主党予備選挙では、こうした「白人ワーキング・クラス」と呼ばれる有 権者層は、主にクリントン氏を支持しており、オバマ氏の支持は富裕層に多かった。 白人ワーキング・クラスの支持を集めているという点で、サンダース氏の躍進にはトランプ旋風と 共通した側面がある。経済的な苦境に不満を募らせる白人ワーキング・クラスが、民主党ではサンダ ース氏、共和党ではトランプ氏を支えている構図である。サンダース氏は、大幅な富裕層増税や公的 医療保険の拡充等を主張し、白人ワーキング・クラスの支持を集めている。一方のトランプ氏も、共 和党の候補にしては珍しく、富裕層増税や公的医療保険の維持を主張している。 第二に、サンダース氏の支持は、黒人・ヒスパニックなどのマイノリティには広がっていないと考 えられる。2008年のオバマ氏は、マイノリティからの高い支持が特徴だった。今回の予備選挙では、 マイノリティはクリントン氏を支持する割合が高いと言われる。 苦戦を強いられているクリントン氏にとって、マイノリティ票は頼みの綱となりそうだ。党員集会・ 予備選挙を終えたアイオワ、ニュー・ハンプシャーは、いずれもマイノリティの比率が極めて低い州 だった。対照的に、これから民主党の党員集会・予備選挙が行われるネバダ(2月20日)、サウスカロ ライナ(2月27日)は、マイノリティの存在感が大きい。クリントン氏にとっては、正念場である。 図表 5 支持者の構成 <クリントン氏> 富裕層 若年層 <サンダース氏> 富裕層 若年層 マイノリティ ワーキング・クラス (白人) 高齢者 マイノリティ ワーキング・クラス (白人) 高齢者 <クリントン氏> 富裕層 若年層 <オバマ氏> 富裕層 若年層 マイノリティ ワーキング・クラス (白人) 高齢者 マイノリティ ワーキング・クラス (白人) 高齢者 2016年 2008年 (注)網掛けは支持が高い有権者層。 (資料)CNN 資料等により作成 1 安井明彦「民主党の不安はトランプ氏の失速」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2016 年 2 月 3 日) 。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 3
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