リサーチ TODAY 2016 年 2 月 26 日 ロシア2年連続マイナス成長、兵糧米は尽きるか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2015年のロシア経済は、欧米による経済制裁や原油価格の下落で3.7%という大幅なマイナス成長にな った。最大の輸出品目である原油価格の下落により2014年後半以降ルーブルの急落が生じ、輸入物価を 中心にインフレ率が2桁台に上昇したことで、個人消費は大きく下落した。みずほ総合研究所は、油価低 迷下のロシア経済に関するリポートを発表している1。2016年のロシアの経済成長率については、欧米の制 裁が解除される可能性がある一方で、原油安という逆風が強まることを前提に、▲3.3%と昨年12月見通し から2.9%もの大幅な下方修正を行った。しかも、今日のように30ドル前後の原油安基調が続く場合、もう一 段成長率を下方修正する可能性がある。下記の図表はルーブル相場と原油価格の推移である。プーチン 政権の支持率は高いものの、原油価格の暴落に伴い、ロシアの通貨であるルーブルは大幅に下落してお り、ロシア経済の危機説が燻っている。 ■図表:ルーブル相場と原油価格推移 (ドル/バレル) (ルーブル/ドル) 20 130 原油価格 ルーブル(右目盛、逆軸) 30 110 40 90 50 70 60 50 70 30 80 10 1 2014 3 5 7 9 11 1 3 2015 5 7 9 11 1 2016 90 (月) (年) (注)原油価格は Brent。 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 2000年代以降のロシアの経済成長(実質GDPの増加)は、原油価格の上昇が交易条件の改善と交易利 得の増加をもたらし、それが内需拡大につながるという好循環により生まれたものだった。一方、今回の価 格下落は、好循環を逆流させてマイナス成長をもたらす。加えて、欧米諸国による制裁の発動(2014年8月) があって生じたルーブルの下落が、輸入物価を押し上げてインフレ率を上昇させ、それが実質賃金の減少 1 リサーチTODAY 2016 年 2 月 26 日 を通じて個人消費を押し下げている。さらに、ルーブル安のなかで金融の引き締めが続くということで、悪 循環に歯止めがかからないことが問題となる。ロシアについては、原油以外に有力な輸出産業に乏しく、ル ーブル安が輸出の改善に結びつきにくいことが大きな問題である。 ロシアの連邦財政は、歳入の約半分が石油・天然ガス関連の税収によって占められる。従って、油価が 下落すると歳入も減少し、歳出規模を維持しようとすると財政赤字の増大が避けられない。こうした油価下 落時の財政赤字のファイナンスを目的に、過去の油価高騰時の財政余剰を蓄えたのが予備基金だ。下記 の図表は予備基金の推移を示す。同基金から2015年中に400億ドル近くが取り崩されており、残高は約 500億ドルにまで減少している。2016年連邦予算法では2016年に300億ドルを超える予備基金が取り崩さ れ、2016年末の残高は200億ドルになるとされる。ただし、この前提は油価が50ドルであるので、今日のよう に30ドル水準の油価が続くと、予備基金は2016年で底をつくことになる。ロシアでは今後、2018年に大統 領選が予定されているが、予備基金が底をつけば、2017年には不人気でも歳出削減を余儀なくされる。 ■図表:ロシアの予備基金の残高推移 (%) (億ドル) 1,200 12 米ドル換算額 GDP比(右目盛) 1,000 10 800 8 600 6 400 4 200 2 0 0 2011 12 13 14 15 (年) (注)予備基金は米ドル、ユーロ、英ポンド建て資産で運用されている。 (資料)ロシア財務省よりみずほ総合研究所作成 プーチン大統領は2014年末に、「経済の困難は、長くて2年続く」とした上で、その後は資源価格が再び 上昇し、ロシア経済も回復に向かうとの見通しを示していた。2016年12月は、丁度その「2年」にあたる。そ の期限は着々と迫り、アラームであるカラータイマーが点灯する状況にある。従って、残された2016年のうち に、経済悪化のもう一つの原因である欧米の制裁の解除にロシアは本腰を入れて取り組む必要がある。同 様に、今年は日露国交回復60周年の節目に当たる重要な年ゆえ、ロシアと日本の経済関係に進展が生じ る可能性がある。2007年の金融危機以降、欧米先進国が戦後最大のバランスシート調整に陥るなか、世界 の需要回復を担ったのはロシアやブラジル、中国を中心としたBRICs、新興国であった。しかし、足元の状 況は、ロシアやブラジル等へ信用供与する国や企業へのリスク管理も求められるような、信用連鎖への警 戒度合が昨年より一層高まった局面にある。 1 金野雄五 「油価低迷下のロシア経済の行方」 (みずほ総合研究所 『みずほリサーチ』 2016 年 2 月号) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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