「日本の国連外交「途上国と共に」」

日本の国連外交「途上国と共に」
1 冒頭
外務大臣の岸田文雄でございます。
本日は,関西学院大学主催のトークセッションの開催を
心からお慶び申し上げます。そして,この場にお招きいた
だいたことに心から御礼を申し上げさせていただきます。
関西学院大学におかれましては,本日のイベントを含め,
グローバル人材の育成に貢献されていることに,心から敬
意と感謝を申し上げたいと思います。元国連事務次長の明
石康さんを始め,国連の現場で活躍されてこられました皆
様とともに,日本と国連の役割について,今日,お話しさ
せていただきますことを大変光栄に思っております。
60 年前の 12 月,日本は,世界で 80 番目の加盟国として
悲願の国連加盟を果たしました。戦後,国際協調主義を掲
げ,平和国家として再出発した日本にとって,国連加盟と
は,国際社会の平和と安全の維持に貢献する国家として,
真の意味で国際社会に復帰することを意味しておりました。
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以来,国連外交は日本の外交政策の大きな軸の一つとし
て定着してきました。日本が過去 30 年間にわたり,世界第
2位の財政貢献国として国連に対し多大な貢献を行ってき
たことはその証でもあります。私自身も,国連外交を重視
し,外務大臣に就任してから,3年連続で国連総会に出席
しています。特に,昨年の国連総会におきましては,カザ
フスタンのイドリソフ外相とともに CTBT(包括的核実験禁
止条約)発効促進会議の共同議長を務めさせていただき,
軍縮・不拡散分野での議論をリードさせていただきました。
今日,国際社会は,紛争やテロ,難民,貧困,気候変動,
感染症など,国境を越えた様々な課題に直面しています。
日本が国際社会において自らの主張を実現していくために
は,こうしたグローバルな課題においても積極的に汗をか
き,国際社会の信用を勝ち取っていくことが重要であると
いうことを私も外務大臣として訴えてきました。こうした
意味で,国際社会の平和と安定に積極的な役割を果たすこ
とは,日本の国益にほかなりません。国際社会の様々な課
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題に取り組む国連は,我が国が国際協調主義に基づく「積
極的平和主義」を実践する場でもあります。
本日は,日本の国連における取組,とりわけ安保理メン
バーとしての重点事項や安保理改革についてどのように考
えていくか,また,開発を始め,「途上国と共に歩む日本」
の取組を中心にお話しさせていただきたいと思います。
2 国際の平和と安全への責任
日本は昨年,安保理非常任理事国選挙で 11 回目の当選を
果たし,今年1月から安保理入りを果たしました。11 回と
いう数字は加盟国最多であり,大変誇らしいことだと思い
ます。同時に,これは国際社会から日本に向けられた堅固
な信認であり,また,期待の表れでもあると考えます。今
回の我が国の当選は,日本を支持し自らの立候補を取り下
げたバングラデシュの心温かい支援の結果でもあります。
こうした重みを胸に,日本は国際社会の平和と安全につき
責任を負う立場から,3つの点を重視しているということ
をお話しさせていただきます。
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【アジアの平和と安全に貢献】
まず,第一に,日本は,アジアの平和国家として,アジ
アの平和と安全に貢献してまいります。
東アジアの平和と安全は日本の安全保障にとっても極め
て重要であると同時に,日本は,この地域の主要国であり
当事者として,自らの国益を踏まえつつ,重い責任を果た
してまいります。特に,北朝鮮による1月の核実験,2月
の弾道ミサイル発射,これらは日本を含むアジア及び国際
社会の平和と安全を著しく損なうものです。
1月6日の核実験からまもなく2か月になろうとしてい
ます。これ以上,決議の採択を遅らせることは,安保理の
責任放棄にほかなりません。米国,韓国といった国々と連
携しつつ,これまでにない強力な安保理決議を一刻も早く
採択できるよう力を振り絞ってまいります。また,拉致問
題の早期解決を始めとする北朝鮮の人権状況の改善に向け
ても,国連などの場を活用して取り組んでまいります。
【世界全体の平和と安全に貢献】
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第二に,アジアのみならず,グローバル化により相互に
密接につながる世界全体の平和と安全にも,イニシアティ
ブを発揮してまいります。実際,安保理における地域問題
の審議の8割以上は中東とアフリカに割かれています。
今年7月に日本は安保理の議長国を務めることになって
います。8月には,第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)を
ケニアで開催いたします。日本がアフリカを重視している
ことを内外に示す意味でも,7月の安保理で,アフリカに
おける平和構築をテーマとする公開討論を議長国として実
施する考えを,この場で発表させていただきたいと思いま
す。様々な事情が許すならば,私自身,ニューヨークでそ
の会合の議長を務めたいと思っております。
紛争国の復興は安保理決議の採択だけではなしえません。
紛争予防,平和構築,国連 PKO への参加,人道支援,開発
協力などの活動を,相乗効果を追求しながら総合的に進めて
いくことが必要です。日本はその知見と能力を有する数少
ない国です。アフリカにおいては,自衛隊の南スーダンの
PKO への派遣を始め,選挙監視や,難民支援,物資輸送,道
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路や橋の建設など,紛争後の復興から開発まで様々な局面
における積極的な貢献を行ってきています。そして,現地
の方々から高い評価を得てきました。こうした経験を,日
本が議長を務める,7月の安保理の公開討論で是非共有し
たいと思っています。
【安保理改革に全力】
第三に,安保理改革に全力を尽くしてまいります。
国連創設から 70 年以上が経ちました。国際社会の構図は
大きく変化し,加盟国も 51 か国から 193 か国へと4倍近く
になりました。しかし,安保理の構成は,国連創設当初か
らほとんど変わっていません。安保理改革を実現し,21 世
紀の国際社会の現実を反映することは不可欠です。非常任
理事国のみならず,常任理事国の数も増やし,その責務を
担うのにふさわしい国がメンバーとなる,こうしたことが
重要だと考えます。そして,私は,日本こそ,常任理事国
になるべき国だと考え,インド,ドイツ,ブラジルと共に
G4 の改革案を示しています。具体的には,常任理事国を6,
そして,非常任理事国を4から5増やし,安保理の総数を
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25 から 26 にすることで,安保理がより代表性が高く,正当
性があり,かつ実効的なものとなる,こうしたことを実現
出来ると確信しております。
カンボジア和平への貢献やミンダナオ和平,そして,ス
リランカ和平での尽力などのように,日本は対話を重視し,
専ら平和的手法により国際貢献を行ってきました。また,
唯一の戦争被爆国として,国連において,毎年,核兵器廃
絶決議を提出するなど,軍縮・不拡散にも積極的に取り組
んできました。自らの地域のみならず,アフリカや中東を
含めグローバルな観点から国際貢献を重ね,積極的平和主
義を実践する日本が安保理常任理事国になることは,世界
の平和と安全の大きな推進力になると確信しています。
こうした観点から,私自身が本部長を務める国連安保理
に関する戦略本部を,先月外務省に設置し,戦略本部での
議論をもとに,副大臣,政務官を各地に派遣するなど,既
に様々な外交努力を行っています。同本部において,改革
推進のためには,国連加盟国の4分の1以上を占めるアフ
リカを始めとする改革推進派との連携強化が重要であるこ
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とを踏まえた今後の取組につき検討を進めています。安保
理改革は大変難しい課題ですが,2月3日からニューヨー
クにおきましては,国連総会の下で,具体的な改革のため
の政府間の文言ベースでの交渉に向けた動きが始まりまし
た。日本が主導して,改革を前進させたいと思います。
3 途上国と共に歩む日本の国連外交
そして,今後の日本の国連外交の中で,特に強調したい
のは「途上国と共に歩む」というキーワードです。国際社
会の平和と安全は,国連の重要課題である開発や人権と密
接に関わっています。国連の加盟国の大半は,開発途上国
であり,貧困や人権侵害は,紛争の根本原因にもなってい
ます。
世界の貧困人口は半減したとはいえ,依然として8億人
以上の人々が貧困にあえぎ,6000 万人以上の人々が住む家
から追われ,日本の人口と同じだけの1億 2500 万人の人々
が人道支援を必要としています。
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日本は,今までも人間一人ひとりに着目し,人々が恐怖
や欠乏からのがれ尊厳をもって生きることができるよう,
個人の保護と能力強化を通じて,国づくり,社会づくりを
進める「人間の安全保障」という考え方を提唱してきまし
た。
これからも,ぜひ,「人間の安全保障」を強調し,特に
「途上国と共に歩む日本」をアピールしていきたいと,私
は考えています。
【持続可能な開発のための 2030 アジェンダ】
昨年,国連においては,こうした日本の「人間の安全保
障」の考えも反映する形で,「持続可能な開発のための
2030 アジェンダ」が策定されました。本年は,その「2030
アジェンダ」の実施元年です。「2030 アジェンダ」の基本
理念は「誰も取り残さない」というものです。先進国も含
めた全ての国連加盟国が実施していくことに加えて,国際
機関,NGO,民間企業などあらゆる関係者とのパートナーシ
ップを築いて実施していく必要があります。
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例えば,私が訪問したアフリカのエチオピアにおいても,
日本の製造業の現場で培われた「カイゼン(改善)」の手
法が導入され,生産性の向上が図られています。
本年5月,国連は加盟国政府,NGO,シンクタンク,民間
企業など,様々な関係者を集め,人道活動の将来を議論す
る世界人道サミットを開催いたします。「2030 アジェンダ」
の最初の試金石となるこの会合においても,日本は,成功
に向けて積極的に貢献していく考えです。
【G7 伊勢志摩サミット】
開発は,5月に開催される G7 伊勢志摩サミットの主要な
柱にもなっています。この課題に,日本は,日本がリード
してきた,女性が輝く社会の実現,質の高いインフラ,さ
らには保健などの切り口も含め,G7 各国と連携しつつ取り
組んでまいります。
【TICAD】
日本は,これまでも,開発の現場において,常に相手国
の声に耳を傾け,その要望に寄り添い,オーナーシップを
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大切にしながら,支援を実施してきました。このような「途
上国と共に歩む」姿勢こそ,日本の開発協力の真髄である
と考えています。
この日本の協力姿勢がいかんなく発揮されているものが,
日本が国連やアフリカ連合(AU)などと共に,これまで5
回日本で開催し,そして,今年8月に初めてアフリカで開
催する TICAD です。 日本は,アフリカの声に耳を傾け,彼
らと共に歩み,TICAD プロセスを通じたアフリカにおける国
連アジェンダの推進を進めてまいります。私自身,外務大
臣として,これまでに,エチオピア,カメルーンにおいて
開催されました TICAD 閣僚会合に参加し,共同議長を務め
てまいりましたが,今後,一層アフリカとの関係強化に務
めていきたいと考えております。
このようにして,今後の日本外交の中で,特に「途上国
と共に歩む日本」を実践していきたいと考えております。
4 国連機関での日本人職員の活躍を後押し
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国連関連機関においては,現在,約 800 人の日本人職員
が働いていますが,他の G7 各国は 1000 人を超えています。
また,国連事務局の望ましい職員数と比較しても,依然と
して少ない状況です。私自身こうした日本人職員の方々か
ら直接話を聞く機会が度々あり,日本人職員を増やしてい
くことが重要であるということを強く感じています。私か
らは,2025 年までに 1000 人とする目標をできるだけ早くに
達成するよう,若手日本人の送り込みや大学との連携を更
に強化するよう指示を出しているところです。
5 結語
今年は,国連加盟 60 周年という節目の年にあたり,国連
というフォーラムを最大限活用しながら,日本の国益,そ
して,国際社会共通の利益を実現するべく,一層積極的に
取り組んでまいります。そして,「途上国と共に歩む日本」
をアピールしてまいります。このような取組を一層積み重
ねてこそ,安保理改革の推進,安保理常任理事国入りがよ
り説得力を持っていくことになると確信しています。
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私も,外務大臣として,引き続き,国連,G7 サミット,
TICADⅥ,こういった貴重な機会を活用しながら,フォーラ
ムの垣根を越えて,一貫して,国際社会が直面する諸課題
に取り組んでまいりたいと考えています。
御清聴いただきましたことに心から感謝を申し上げます。
(了)
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