無尾両生類の皮膚腺に特異的に発現する水チャンネルアクアポリンの

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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無尾両生類の皮膚腺に特異的に発現する水チャンネルア
クアポリンの同定と免疫細胞化学的研究
久保田, 眞
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2007-03-22
http://doi.org/10.14945/00007039
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目次
第1章 本研究の目的と意義
書・・・・… @ 1
引用文献
・・・・・… @ 7
第2章 ウシガエル内リンパ嚢における液胞型H+’ATPaseサブユニットの
クロ・一一・ニングと発現 ・・・・・… 9
2,1
序論
2.2
材料と方法
2.3
結果
2.4
議論
引用文献
・ ● ● ■ ● ■ ●
26
第3章 アフリカツメガエル皮膚の小頼粒腺に特異的に発現しているアクアポ
リンAQPx5の分子細胞学的性質 ・・・・・… 31
3,1
序論
3.2
材料と方法
3.3
結果
3.4
議論
引用文献
・ … φ ・ ・ 52
第4章 アフリカツメガエル変態過程における皮膚腺の形成とAQPx 5の発現
・ ・ ・ ・ … 56
4,1序論
42 材料と方法
4.3 結果
4.4 議論
引用文献
・ ・ ・ ・ … 66
第5章 本論文の要約と展望
・ ・・ ・・… 67
引用文献
・ ・ … ‘ ’ 72
謝辞
・・・・・… @ 74
第1章本研究の目的と意義
水は生命活動に欠くことのできない物質であり,多くの動物では体重の60%
から70%を占めている。生体物質は水によって運搬され,水の物理的および化
学的性質によって生体分子の形態と機能は決まり,生命活動を維持する生化学
反応(物質代謝)は水の中で進行する。
生命の基本単位である細胞では,脂質二重層から成る細胞膜を介して水を透
過させなければならない。細胞膜は,基本的には拡散(d避lusion)により水を通
すが,生体内では尿を生成したり,汗や涙や唾液を出す部位では水を急速に移
動させる必要がある。このような細胞の細胞膜では水透過性が高く,水チャン
ネルと呼ばれる特別な膜タンパク質(チャンネル)の存在が想定されていた
(Brown et a1.,1989)。
1992年,Agreらのグループによりヒトの赤血球の細胞膜において水チャンネ
ル分子をコードする遺伝子が同定され,アクアポリン(aquaporin:AQP)と名
付けられた(Pres七〇n e七a1.,1992;Agre et a1.,1993)。 AQpは約270個のアミノ
酸残基からなり,分子質量は約3ekDaで,6回膜貫通領域とそれを繋ぐ5っの
ループから成り,N末端及びC末端は細胞質側にあって,アミノ酸配列には2
箇所にアスパラギン・プロリン・アラニン(NPA)のモチーフが見られる(図1・1)。
AQPはタンパク質ファミリーを形成し,細菌や動物,植物など種々の細胞に存
在している。現在,哺乳類では13種類のアイソフォーム(AQpo・12)が知られ
(表1),その組織分布や細胞内局在は特異性を示す。また,AQPの中には水を透
過させるだけでなく,グリセロールや尿素などの小分子を通過させるタイプも
存在し,アクアグリセロポリン(aquaglyceroporin)と呼ばれている(lshibashi
et a1.,2000;’ITLakata et a1,,2004)。
松井(1996)は,両生類について,異なる考えがあるが,一般的には,古生代
のデボン紀後期(3億6000−7000万年前)に魚類の一群から生じたとされている
こと,脊椎動物の中で初めて陸上に進出し,最初に四肢を備えたグループであ
ること,カエル類とヒキガエル類を含む無尾両生類は,現在3,967種を含むが,
まだ多数の未記載種があることを示した。多くは水中と陸上の両方で生活する
半陸上性だが,水生性,陸上性,樹上性など多様な水環境に適応している
(Bentley, 2002)。そのため,内部環境の恒常性維持のために様々な水代謝機構が
備わっていると考えられ,古くから無尾両生類の下腹部皮膚や膀胱膜を用いた
抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)による膜の水透過機構の研究の
モデルとして頻用されてきた。しかし,このように,無尾両生類は水透過の研
究と深い関わりがあるにも関わらず,これまで無尾両生類が持つAQP分子の実
体やその役割は明らかにされていなかった。
最近,Tanliら(2002)により,ニホンアマガエル(輌8躍p伽」已)の下腹部
皮膚からAQpをコードする3種のcDNA(AQp・h1, AQp・h2, AQp・h3)がクロ
ーニングされた。特にAQP・h2は膀胱および下腹部皮膚, AQP・h3は下腹部皮
1
膚のみで発現し,AQp・h2とAQp・h3ともにアルギニンバソトシン(arginine
va80七〇cin;AVT)調節性AQpであり,無尾両生類の水吸収の調節に深く関与す
ることが明らかにされた(Ha8egawa et a1.,2003)。これらの研究から,無尾両
生類の水代謝や内部環境の水恒常性においてAQPは重要な分子であることが考
えられる。また,同時に無尾両生類には他にも多くのAQP分子が存在し,様々
な組織において相互に関連しながら,無尾両生類の生体における水代謝機構に
関与していることが考えられる。
そこで,本研究では無尾両生類における新たなAQPを同定して水代謝との関
わりを,分子・細胞レベルで明らかにすること,AQP機能を調節する分子を明
らかにすることで,AQPを中心とした水代謝機構のシステムを統合的に解明し
ていくことを目的とした。
Tan亘らによりクロー一一ニングされたAQp・h1, AQp・h2, AQp・h3は,無尾両
生類の皮膚に存在する皮膚腺には発現が見られなかった。一方,無尾両生類の
皮膚は皮膚腺によって常に湿り気を帯びている。そのため,無尾両生類の皮膚
腺には,これらと異なる特異的なAQPが発現している可能性が考えられた。無
尾両生類の皮膚は角質層,重層上皮,真皮からなっていて,上皮は穎粒層,有
棘層,基底層に分かれ,これらの組織は主として願粒細胞(主細胞)と細胞質に
ミトコンドリアを豊富にもつミトコンドリアリッチ(MR)細胞の2種類の細胞
から構成されている。真皮には粘液腺や頼粒腺(漿液腺または毒腺)などの皮膚
腺が見られる。一方,哺乳類AQPの中でAQP5は特に,唾液腺や涙腺,汗腺な
どの外分泌腺や肺組織で発現し水分泌の役割を担っていることが知られている
(Raina et aL,1995)。これらのことから,無尾両生類皮膚腺においても, AQp5
のホモログが発現している可能性が考えられた。
また,本研究ではAQPとは異なる機能をもち,皮膚腺の調節に関与する可能
性のある分子,液胞型プロトンATPase(V’ATPa8e)に着目した。 VATPa8eは
ATPのエネルギーに依存したポンプであり,細胞質ドメイン(V1)と細胞膜ド
メイン(Vo)から構成される。 V1ドメインはATPの加水分解を担い, Voドメ
インは細胞膜を横断してプロトンの輸送を担っている。また,¶1ドメイン,
Voドメインともサブユニット群から構成されている(図1・2)。このV・ATPase
は真核細胞のエンドソーム,トランスゴルジ網,リソソーム,シナプス小胞を
含む細胞内小器官へのプロトン輸送を担っている(Forgac,1999;Futai e七al.,
2000;Nelson and Harvey,1999;Wagner e七a1,, 2004)。また,哺乳類の腎臓介
在細胞,破骨細胞,硬骨魚類の塩類細胞,両生類の皮膚や膀…胱のMR細胞など
特化した細胞の細胞膜に発現し,プロトンを細胞外の区画に活発に輸送しその
pH調節に関与している(Brown and Breton,1996;Wieczorek et a1., 1999)。植
.物では,細胞膜のAQPの働きが酸性pHによって調節されている可能性が示唆
されているが(Tournaire・Roux et al,2003),動物AQpにおいてはAQp調節
へのpHの関与について報告は少ないことから,その関与について研究を進める
ことはAQPの調節メカニズムの解明に新たな知見を与えると考えられる。
2
本研究では,アフリカツメガエル皮膚からAQPのcDNAクローニングを行い,
新たなAQp, AQPx5を同定した。さらに,このAQp・x5の皮膚腺における発
現と機能の解明を試みた。また,無尾両生類早ATPa自eサブユニットのcDNA
クローニングを行うことで,まず,ウシガエル内リンパ嚢におけるカルシウム
代謝へのV・ATPaseの役割を検討した。さらに,アフリカツメガエル皮膚腺に
おけるV’ATPaseの発現と機能を調べることで, AQPとの関係を細胞構造学的
視点から調べた。
このように,多様な水環境に適応した様々な無尾両生類のAQPや調節分子,
さらには,その調節機構に関する研究を進めることは,無尾両生類の水環境へ
の適応機構の調節システムの解明にとどまらず,脊椎動物の陸上進出の進化適
応戦略の足跡をたどることができると期待される。
3
AQP
主な組織分布
透過性
AQPO
?
眼レンズ線維細胞
AQP1
水
腎臓の近位尿細管,ヘンレの下行脚,内皮細胞,赤血球,眼,内耳
X臓,胆管,脈絡叢,リンパ管
AQP2
水
腎臓の集合管,精巣の精管,内耳(コルチ器}
AQP3
水,グリセロール
腎臓の集合管,皮膚,気道,グリア細胞,膀胱
AQP4
水
AQP5
AQP6
AQP7
AQP8
AQP9
AQP10
水
唾液腺,十二指腸腺,汗腺,涙腺,肺
塩素?
腎臓集合管の介在細胞(ミトコンドリアリッチ細胞)
水,低分子溶質
脂肪細胞,精巣の精子細胞,腎臓の近位尿細管
水
肝臓,膵臓,小腸,唾液腺,精巣
水,低分子溶質
肝細胞白血球精巣
水,グリセロール
小腸
AQP11
?
腎臓,肝臓
AQP12
?
膵外分泌細胞
脳および脊髄のアストログリア細胞腎臓の集合管骨格筋,胃の細
E壁眼、気管
表1AQPの機能と発現部位
AQP1, AQP2, AQP4, AQP5, AQP8は水のみを通すのでアクアポUン(狭義}に属し・.
AQP3, AQP7, AQP9, AQPIOは水の他にグリセロールや尿素などの分子も通すアク
アグリセロポリンに属する。
4
H20(2.8 A》
From Zeuthen T. (200f) Trends Bioc力em Sc’
図1−1AQPの6回膜貫通構造
哺乳類では13種類のアイソフォーム(AQPO−12)が知られる。 AQPは,6回膜貫
通領域とそれを繋ぐ5つのループから成り,N末端及びC末端は細胞質側にある。
BループとEループには,アスパラギンープロリンーアラニン(NPA)のモチーフが見ら
れる。水分子(2.8A)対しAQPの水透過孔の直径は3.OAである。
5
ATP
H+
ヂ
A
ADP+Pi
Vl
Il,.tgj,i
c{日
CytopEasm
∼
Plasma Membrane
C
Lumen
Vo
↓
low pH
図1−2 V・ATPaseの構造と機能
V1ドメインはATPの加水分解を担い, Voドメインは,細胞膜を横断してプロト
ンの輸送を担っている。
6
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Btoessa7s Re v,21:637・648
8
第2章 ウシガエル内リンパ嚢における液胞型H+・ATPaseサブユニットの
クローニングと発現
2.1.序論
無尾両生類では,内リンパ嚢(ELS)が脳や下垂体を取り囲むように発達する
一方で,脊柱に沿って尾部方向にも伸びている。特に脊柱の部分は,椎骨の間
に袋状の膨らみとして確認されることから,傍脊椎石灰嚢(PVLS)と呼ばれて
いる。これら組織のいずれにも炭酸カルシウムからなる多数の小さい結晶が含
まれている。
これまでに,Yaoiら(2001)によりotoconin・22(OC22)タンパク質がウシガ
ェルの下垂体の周りにある内リンパ嚢と傍脊椎石灰嚢に存在することが免疫細
胞化学的に確かめられており,炭酸カルシウムからなる平衡砂(耳石膜に埋め込
まれた鉱物粒子)の形成にはOC22が中心的役割を演じ, OC22が核となること
で形成されることが明らかとなっている。さらにOC22は炭酸カルシウムの結
晶の成長を調節するために重要な役割を果たすものと考えられている。Yaoiら
(2003)は,ウシガエルOC22をコードするcDNAのクローニングを行い,カル
シトニン(calcitonin:CT)により内リンパ嚢内腔でのカルシウム結晶の形成が
促されることを見出し,CTが内リンパ嚢におけるOC22 mRNAの発現を調節
することを示した。これらの結果から,無尾両生類の内リンパ嚢はカルシウム
の貯蔵庫として機能することが明らかにされたが,一方で炭酸カルシウム結晶
の分解の機構については未だ不明である。
液胞型プロトンATPase(V・ATPase)はATPのエネルギーに依存したポンプ
で,細胞質ドメイン(V1)と細胞膜ドメイン(Vo)の二つから構成される。 Vl
ドメイン(分子質量640kDa)はATPの加水分解を担い, Voドメイン(分子質
量240kDa)は,細胞膜を横断してプロトンの輸送を担っている。 Vlドメイン
はAから且の八っのサブユニットから構成されており,Voドメインは五つのサ
ブユニットから構成され,それぞれサブユニットa,dとプロテオリピドc, c’P
c”
ニ名付けられている(Nishi and Forgac,2002)。 V’ATPaseは真核細胞のエン
ドソーム,トランスゴルジ網,リソソーム,シナプス小胞を含む細胞内小器官
へのプロトン輸送を担う(Forgac,1999;Futai e七a1.,2000;Nelson and Harvey,
1999;Wagner et a1.,2004)。また,哺乳類の腎臓介在細胞,破骨細胞,硬骨魚
類の塩類細胞,両生類の皮膚や膀胱のミトコンドリアリッチ(MR)細胞など特
化した細胞の細胞膜に発現し,プロトンを細胞外の区画に活発に輸送しそのpH
調節に関与している(Brown. and Breton,1996;Wieczorek et a1.,1999)。これ
らのことから,V’ATPaseを発現する細胞がELSの濾胞上皮にも存在し、内腔
にプロトンを放出することにより酸性環境を産み出し,貯蔵されたカルシウム
結晶の溶解を引き起こす可能性が考えられた。
今回,我々はウシガエルV’ATPaseのサブユニットAとEをコードするcDNA
9
クローニングを行った。そして,これらのサブユニットに対する抗ペプチド抗
体を作製し,ウシガエルの内リンパ嚢をはじめ,いくつかの組織について,免
疫組織化学的にV−ATPaseの局在を調べることで, V−ATPaseのカルシウム結晶
分解への関与を推察した。
2.2.材料と方法
2.2.1.動物・
成体ウシガエル(Rana eatesbetana)は業者(大内,埼玉)から購入し,実験
室で1週間飼育したものを使用した。断頭後直ちに,内リンパ嚢と傍脊椎石灰
嚢,膀胱,腹部皮膚,腎臓,精巣を採取し,免疫組織化学,ウエスタンブロッ
ト,電子顕微鏡解析のための試料とした。すべての実験動物の扱いは静岡大学
の実験動物使用規定に従った。
2.2.2.クシガエth V−A TPaseのAナフ“ユニソ♪,』『ナフ“ユニッ♪のク1ローニ
ング
当研究室(Yaoi e七a1,,2003)で作成した傍脊椎石灰嚢cDNAライブラリーを
用いて,poly皿erase chain reaction(PCR)によりV’ATPaseのAサブユニット,
EサブユニットをコードするcDNA部分配列を得た。これらのcDNAの部分配
列は他種のアミノ酸配列をもとにプライマーを設計し,業者(L,ife Technologies,
Japan)に作製を依頼した。作製したプライマーは以下の通り。
A・subunit primer 1:5’・AACAG(C/T)GA(CIT)GT(A/G/C)AT CAT(C/T)TA・3’
A’subunit primer 2:5’・TTGCTGTA(A/G)CTGAT(C/G)AGCCA(A/G)T’TL 3’
E’subunit prjmer 1:5’・CA(C/T)ATGATGGC(A/G/C/T)TT(C/T)AT(A∫C/T)GA・3’
E’subunit prime王215’・TG(A/G)TA(A∫GIC/T)CG(A〆G/C/T)GT(A/G/C/T)GT(A/
G)TC(C/T)T’T−3’
Yaoiら(2003)に従い,ウシガエル傍脊椎石灰嚢cDNAをテンプレートとし
て,プライマー1,プライマー2を50pmo1ずつ,0.2mMのdNTP Mixture, Ex
Taq buflrer,0.5UのEx Taq polymerase(Takara, Kyoto, Japan)によりPCR
を行った。PCR装置(ASTEC, Fukuoka, Japan)を用い,初めに95℃で5分
間の変性後,94℃で90秒,50℃で90秒,72℃で150秒のサイクルを30サイ
クル繰り返した。増幅した断片はpGEM・3Zベクター(Promega, Madison, WI)
にサブクローニングした。
2・2,3.クシガエノレ鰐推石死裏ぎeDIVAライブラノーからのV−ATPase Aナブ
ユニツ♪,Eナゴ巨ニツ♪のeDNA、クローニング
Digoxigenin (DIG)・High Prime ki七(Roche Molecukar Bioche血ca18,
10
Meylan, France)を使い・DNAプローブを合成後・ウシガエル傍脊椎石灰嚢
cDNAライブラリーからのスクリー一ニングを以下の手順で行った。プラークを
ナイロン膜に転写しDIG標識cDNAプローブと68℃,16時間反応させ,
O.le/。SDSを含む1x sa】ine・sodium citrate(SSC)で50℃,1時間の洗浄を2回
行った。ブロッキング後,アルカリフォスファターゼ標識ヤギ抗DIG抗体
(Roche)と反応させた後,さらに25mM CSPD
[djsocliu皿3・(4・methoxyspiro{1,2・dioxetane・3,2’・5’・chloro七ricycle(3.3.1,1.3.7)d
ecan}・4−yl)phenyl phosphate;(PE ApPlied Biosys七ems, Foster City, CA)]と反
応させ,X線フィルム(Hyperfilm ECI・:Amersham Phar皿acia Biotech,
Buckinghamshire, UK)でシグナルを検出した。
2.2.4.醒醐蜥
スクリー一ニングによって得られた陽性クローンをABI PRISM Big Dye
Terminator cycle sequencing ki七(PE ApPlied Biosystems)で標識し, ApP]ied
Biosyste皿s DNA sequencer(mode1 377;PE ApPlied Biosy8tems)で配列解析
した。
2.2.5,抗ペプチた抗承の酬
V・ATPase AサブユニットのC末端部分 [ST170(366・381):
AEMPAD S GYPAnGAR]とV・ATPa8e EサブaニットのC末端部分[ST 173
(213・226):VALFGANANRKFI.D]のそれぞれについて,最後にシステインを付
加したオリゴペプチドをMode14333Aシンセサイザー (PE・ApPlied
Biosystems)を用いて合成した。合成ペプチドを脱保護した後,逆相HPLCで
分取した。検出された複数のピーク画分をイオン化質量分析装置(API・150EX,
ApPlied Biosys七e皿s, Forster, CA)で質量分析し目的のペプチドの合成を確認
した。Tanakaら(1992)に従って,合成ペプチドST 170, ST173それぞれと、
担体タンパク質であるテンガイヘモシアニン(Pieres, Rockford, IL)の複合体
を作製し,ウサギに免疫することで抗体を作製した。抗ウシガエルOC22抗体
は,Yaoiら(2001)に従い,ウシガエルOC22のN末端部分[ST135(1−13):
TPAQFDEMIKVTT]の合成ペプチドを用いて,モルモットに免疫することで
抗体を作製した。
2・2.6.クエスタンブロツん鋤娠
内リンパ嚢から炭酸カルシウム結晶を採取し,Poteら(1993)の方法に従っ
て,10%EDTAに4℃,3日間浸漬し脱灰した。その後,ホモジニ[ネート溶液
[0・15M NaC1,1%’1!ri七〇n X・100,0,1mg!ml phenyl皿ethanesulfony1且uoride
(PMSF),1P9/ml aprotininを含む50mMトリス塩酸緩衝溶液(pH8,0)]を加え
ホモジェナイズした。10分間,12000rpmで遠心し上清を回収後, BCA Pro七ein
Assay Ki七(Pierce)を用いてタンパク質定量を行った。10μ9のタンパク質溶液
と等量の変性バッファー[0.14Mトリス塩酸緩衝溶液(pH7.5),6%sodium
11
dodecy1 sulfate(SDS),22・4%グリセロール,0・02%bromophenol blue(BPB),
10%2・メルカプトエタノール]を加え,70℃で,10分間変性させ,12%ポリア
クリルアミドゲルを用いて電気泳動にかけた。その後,タンパク質を
Im皿obilon・P膜(M坦ipore, Tokyo, Japan)に転写し,ウサギ抗Aサブユニッ
ト抗体(ST 170)もしくはウサギ抗Eサブユニット抗体(ST173),さらにビオ
チン標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(DAKO Japan, Kyoto, Japan),ペルオキシダ
・一一一・
[標識ストレプトアビジン(DAI(O Jap an)と反応させた。シグナルはECL
Western blot detection kit(Amersham Pharmacia Bio七ech)を用いて発色させ,
X線フィルム上で検出した。免疫反応の特異性は,抗Aサブユニット(ST170)
抗体,抗Eサブユニット(ST 173)抗体とそれぞれの抗原ペプチド(10μ9/ml)
をあらかじめ反応させた吸収抗体を用いることで確認した。
2.2.7.堂光尭疫梁趨
ウシガエルの内リンパ嚢,膀胱,腹部皮膚,腎臓,精巣は,perioda七e・lysine
・paraformaldehyde(PLP)固定液で4℃,一晩固定した後,脱水しパラプラス
トで包埋した。内リンパ嚢は固定後,10%EDTA水溶液に4℃,3日間浸漬し,
脱灰を行った。4pmの切片を作製してゼラチンコートスライドガラスに貼付し,
下降エタノール系列で脱パラプラストして純水で水和させた後,phosphate
bUl1fered saline(PBS)で洗浄した。 V・ATPase Aサブユニット, Eサブユニッ
トの蛍光免疫染色をTanakaら(1997)の方法に準じて行った。切片は,ウサ
ギ抗Aサブユニット抗体,ウサギ抗Eサブユニット抗体をそれぞれ,1%ウシ
血清アルブミンを含むPBS(1%BSA∫PBS)で4000倍希釈して一晩反応させ,
次いでin、docarbocyanine(Cy3)標識ロバ抗ウサギIgG(1:400;Jakson
Immunoreseach, West Grove, PA)と2時間反応させた。核の対比染色のため、
二次抗体には4’、 6・ diamid ino・ 2phenylindole(DAPI)を1P9/m1になるように加
えた。
内リンパ嚢は,ウサギ抗V’ATPase A・subunit抗体またはウサギ抗V・ATPase
E−subunit抗体とモルモット抗OC22抗体により二重染色を行った。2次抗体に
はCy3標識ロバ抗ウサギIgG(1;400;Jackson)とAlexa488ヤギ抗モルモット
IgG(1:200;MolecUlar probes, Eugene, OR)を用いた。 PBSで洗浄した後,封
入剤(Permafuor;Immunon, Pittburgh, PA)で封入した。抗体の特異性は、そ
れぞれの抗体と抗原のST 170とST 173ペプチド(10μ9/mlDをインキュベート
した吸収抗体により確認した。試料はオリンパスBX50蛍光顕微鏡で観察した
(01ympu80ptica1,職y・, Japan)。
2・2.8.謄子疏微鏡と免疫露子顕蹴疏麓實
電子顕微鏡観察のため、内リンパ嚢を2%パラホルムアルデヒドと2%グル
タールァルデヒドを含む0.1Mカコジル酸ナトリウムバッファー(pH7.4)で
4℃,2時間固定,上述の方法で脱灰した。1%四酸化オスミウムを含む同様の
バツファーで後固定した。上記バッファーで3回洗浄した後,アルコール脱水
12
しエポン1アラルダイトに包埋した。超薄切片は酢酸ウラニル,クエン酸鉛で染
色し,HITACHI H・7500 TEMを用いて加速電圧80kVで観察した。
免疫電子顕微鏡観察のため,内リンパ嚢はO・5%グルタールアルデヒドと2%
パラホルムアルデヒドの混合液中で2時間,4℃で固定の後,アルコール脱水し,
LR whiteに包埋した。超薄切片は金コロイドを用いて二重免疫染色した
(Tanaka et a1.,1997)。グリッドの二つの面を,異なる一次抗体[ウサギ抗
V’ATPase E・subunit抗体(1:4000);モルモット抗OC22抗体]とイン・キュベー
トし,二次抗体には10n皿金コロイド標識ヤギ抗ウサギlgG抗体と5nm金コ
ロイド標識ヤギ抗モルモットIgG抗体を用いた(BioCe皿;Cardiff, UK)。免疫染
色の後,超薄切片はRothら(1990)の方法に従って処理した。1%グルタール
ァルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で15分間固定し,さらにその後1%還
元オスミウム(1%四酸化オスミウムと1.5%フェロシアン化カリウム液)
/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で20分間固定,そして2%酢酸ウラニルと0.3%
メチルセルロースの混合液に浸した後,37℃の恒温槽で乾燥させた。試料は,
HITACHI H・7500 TEMを用い加速電圧80kVで観察した。
2.3.結果
2.3.1.V−A TLPasθA虜』『ナブユニツ♪のeDNAクP一ニング
ウシガエル傍脊椎石灰嚢cDNAライブラリーをテンプレートとして,
V’ATPase Aサブユニット,Eサブユニットに特異的なプライマーを用いてPCR
を行ったところ,V−ATPase A, Eサブユニットだと思われる,それぞれ566塩
基対(bp)と299bpの断片を得た。これらの断片から推定されたアミノ酸配列
は,アフリカツメガエルV・ATPaseのAサブユニット(AAH44025)とEサブ
ユニット(AAH54191)それぞれの配列と相同性が認められたため,得られた
cDNA断片をウシガエルV・ ATPase A, Eサブユニットとした。そして,それぞ
れの部分配列をプロ・・一・一・Lブとしてウシガエル傍1脊椎石灰嚢cD NAライブラリーか
らA,Eサブユニット全長配列をスクリーニングした。約6万個のプラークか
ら,Aサブユニットについては2個の陽性反応, Eサブユニットについては3
個の陽性反応が得られたので,それぞれの陽性クロー一・一ンを配列解析した。
この結果,これらのクロ・一一ンは翻訳領域(ORF)を有し, Aサブユニット
cDNA全長配列には,5’側に4bpの非翻訳領域,3’側にはポリA配列を含む249もP
の非翻訳領域があった(図2・1)。1854bpのORFから予想されるアミノ酸残基
は617であり,分子質量は68,168Daだった。ウシガエルV’ATPase Aサブユ
ニットは,アフリカツメガエルV’ATPase Aサブユニット(AAH44025)と94%
の高い相同性を示し,続いてラット(XP・340988)と88%,マウス
(1」aitala・Leinonen et al.1996)と88%,ヒト(van Hille e七a1.,1993)と88%,
ブタ(Sander e七a1.,1992)と87%,メダカ(Ka七〇h et aL,2003)と87%の相同
性を示した。
13
EサブユニットcDNA全長配列には5’側に58bpの非翻訳領域,3’側にはポリ
A配列を含む799bpの非翻訳領域があった(図2・2)。681bpのORFから予想さ
れるアミノ酸残基は226であり,分子質量は26,0dooDaであった。ウシガェル
V・ATPa8e Eサブユニットはアフリカツメガエル(AAH54191)と87%,ウシ
(Hirsch et a1.,1988)と84%,マウス(Laitala−Leinonen・et a1”1996)と84%,
ヒト(Hemken et al.11992)と84%,ニワトリ(CAG31744)と84%,ゼブラ
フィッシュ(AAH34666)と82%の高い相同性を示した。
2.3.2.抗体の特遅麓の撮淳ザ
ウシガエル内リンパ嚢に対する抗ウシガエルV’ATPase A, Eサブユニット抗
体の特異性を検証するため,内リンパ嚢,膀胱,腹部皮膚,精巣,腎臓からの
抽出タンパク質を用いてウエスタンブロット解析を行った。この結果,抗ウシ
ガエルV’ATPase Eサブユニット抗体を用いたウエスタンブロットからのみ,
二っのバンドが検出された。主要なバンドが32.8kDaに,もう一つのバンドが
25.4kDaに認められた(図2・3 a,レーン1)。これらのバンドは抗原ペプチド
(10μ9/m1)による吸収抗体では消失した(図2・3b)。他の組織では,膀胱,腹部
皮膚,腎臓は32.8kDaのバンドのみが見られ(図2・3 a,レーン2,3,5),精巣で
は主要なバンドが25.4kDaに,もう一つのバンドが32.8kDaに認められた(図
3a,レーン4)。一方で,抗ウシガエルV’ATPase Aサブユニット抗体を用いた
ウエスタンブロット解析ではバンドを検出することはできなかった。
2.3.3.v−ATPaseの晩蜘『綴学渤局在
ウシガエル内リンパ嚢は濾胞構造をとっている。この濾胞構造は,単層の立
方上皮細胞から成り,基底側は結合組織や血管で囲まれている。この内リンパ
嚢の組織切片を,抗ウシガエルV’ATPase Eサブユニット抗体で免疫染色を行
った結果,免疫陽性反応は内リンパ嚢の濾胞上皮細胞の特定の細胞から得られ
た。この細胞は,比較的丸くて大きい細胞であった(図2・4 a,b)。また,この陽
性反応は10μ9/mlの抗原ペプチドで予め吸収した吸収抗体では得られなかった
(図2・4c)。切片を抗ウシガエルV’ATPase Eサブユニット抗体と抗ウシガエル
OC22抗体で蛍光二重染色したところ, OC22は濾胞上皮細胞の主細胞で発現し
ており,V−ATPase Eサブユニットは,これとは異なる細胞で発現していた(図
2・4d)。また,膀胱,腹部皮膚,腎臓,精巣を抗ウシガエルV’ATPase Eサブユ
ニット抗体で免疫染色したところ,その分布パターンは様々だったが,
V“ATPase Eサブユニットはいずれの組織にも発現していた(図2・5)。膀胱では,
V’ATPase Eサブユニット陽性細胞は上皮細胞間に散在的に分布しており(図
2・5a),腹部皮膚では,上皮細胞間に分布したフラスコ細胞にその発現が認めら
れた(図2・5b)。これらの細胞では細胞質全体が均一に染色されていた。精巣で
は,精子の先端部分,おそらく精子形成過程の変態中の精子細胞の先体部に
V’ATPase Eサブユニットが局在した(図2・5 c)。腎臓では,免疫陽性反応が遠
位尿細管後部と集合管の一部の細胞から得られた(図2・5d)。
14
一方で,抗ウシガエルV−ATPase Aサブユニット抗体を用いて内リンパ嚢を免
疫染色してみると,その免疫陽性反応は・Eサブユニットと同様の発現パター
ンを示し(図2・6a,b),吸収抗体によりそのシグナルは消失した(図2・6 e)。抗
Aサブユニット抗体と抗OC22抗体で蛍光二重染色したところ,それぞれの陽
性反応は異なった細胞で見られた。また,隣接切片を用いてV’ATPase Aサブユ
ニット,Eサブユニットをそれぞれ免疫染色したところ,これらは同一の細胞
で発現していた(図2−7 a,b)。
2,3.4.霞子顕獺と免疫露子聯鏡獺察
電子顕微鏡を用いて内リンパ嚢の濾胞を構成する細胞を観察したところ,内
リンパ嚢の濾胞上皮には二種類の細胞が存在することが明らかになった。一っ
は分泌腰粒を持ち,もうひとつはミトコンドリアを豊富に持つミトコンドリア
リッチ(MR)細胞であった(図2・8 a)。超薄切片をV’ATPase Eサブユニット
とOC22の二重染色を行ったところ, V’ATPase Eサブユニットの免疫陽性反応
は,MR細胞のアピカル膜と細胞質に見られた。一方でOC22の免疫陽性反応
は濾胞上皮を構成する分泌細胞の分泌頼粒中に見られた(図2・8 b)。
2.4.考察
これまで,無尾両生類におけるV’ATPaseの発現に関する研究では,哺乳類
のVATPaseサブユニットに対する抗体が用いられてきた(Klein et a1.,1997)。
両生類V’ATPaseのcDNAクローニングについては,アフリカツメガエルの報
告のみであったため,本研究では,ウシガエルV−ATPaseのAサブaニットと
EサブユニットをコードするcDNAをクm−・一・ニングし,抗ペプチド抗体の作製
を行った。そして無尾両生類に対する抗体ができたことから、これを用いて,
V’ATPaseを含むMR細胞がウシガエル内リンパ嚢の濾胞上皮に局在している
ことを明らかにした。
Aサブユニットは,細胞質側のV1構造を構成する8種のサブユニットの一つ
で・ヌクレオチド結合部位と考えられている(Feng and Forgac,1992)。 V1構
造の頭部にはAサブユニットとBサブユニットが3個ずつ交互に並ぶ(Gruber
et a1.,2001)。一方, V1中のEサブユニットは, V’ATPa8e複合体の形成や活性
に不可欠であることが,酵母菌を用いた研究により明らかにされてきた(Foury,
1990; Ho e七al., 1993)。抗V’ATPase・Aサブユニット抗体を用いたウエスタンブ
ロット解析では,陽性反応は検出できなかった。しかしながら,同じ抗体を用
いた蛍光免疫染色では陽性反応が得られ,抗原による吸収抗体を用いると陽性
反応は消失したことから,この抗体はV’ATPase Aサブユニットに特異的である
と考えられる。
抗V’ATPase Eサブユニット抗体を用いたウエスタンブロット解析では,内
リンパ嚢において,分子質量約25.4kDaと32.8 kDaの二つの特異的なバンド
15
が認められた。これらのうち,25・4kDaのバンドは・ウシガエルV’ATPase E
サブユニット全長配列から予想される分子質量(26・OkDa)とほぼ一致してい
た。両方のバンドとも,抗原ペプチドとあらかじめ反応させた吸収抗体により
消失したことから,Eサブユニットに特異的なシグナルであると考えられる。
今回行ったウエスタンブロット解析ではEサブユニットはいくつかの組織に発
現していたが,分子質量の異なる二つのタンパク質が検出され,そのバンドの
現れ方は,組織によって異なっていた。
哺乳類では,V’ATPaseのBサブユニットは通常,二っのアイソフォームを
持つ(Nelson e七a1.,1992)。 B1型のアイソフォームは特に腎臓の集合管の介在
細胞に発現している。一方で,B2型のアイソフォームはいくつかの組織に広く
発現し,腎」臓においては大部分の介在細胞で細胞質に局在する(Paunescu et al.,
2004)。Eサブユニットのアイソフォー一ムは,マウスの精子形成時に,精子細胞
の先体に見出されている(Sun・Wada et al.,2002)。検出された二つの抗
V’ATPase Eサブユニット抗体陽性反応は,ウシガエルV’ATPase Eサブユニッ
トのアイソフォームだと考えられ,EサブユニットはV・ATPaseの形成に中心
的に働くことから,組織によって異なったアイソフォームを発現することで組
織特異的な機能を持たせている可能性がある。
今回行った蛍光免疫染色の結果では,V’ATPaseはウシガエルの内リンパ嚢,
膀胱,腹部皮膚,精巣,腎臓に発現していた。さらに,電子顕微鏡観察により,
内リンパ嚢内でVATPaseを発現している細胞はMR細胞であることが明らか
になった。この事に関連してJ無尾両生類の皮膚と膀胱にはよく知られたMR
細胞の機能についての報告がある(Brown and Breton,1996;Wiezorek et al,,
1999)。特に,これまで無尾両生類の皮膚はイオン輸送メカニズムの研究に有効
であると注目されてきた。無尾両生類の皮膚にあるMR細胞は, CO2からH+
とHCO3’を生成する反応を触媒する炭酸脱水酵素II(carbonic anhydrase II;
CA II)を含んでおり(Rosen and Friedley,1973;Ka七z and Gabbay,1988),
HCO3一はCl’/ HCO3一交換体(band3)を経由することで,皮膚表面を通過して分
泌される (Jensen et a1.,1997)。このモデルは, Band 3がミドリヒキガエルの
MR細胞に存在することから支持されている(Devuyst e七a1.,1993)。 H・は
V“ATPaseによってMR細胞から皮膚表面に輸送されるが,その際, Na+の吸収
を促進すると考えられている(Ehrenfeld e七a1.,1985;1989)。
哺乳類では,MR細胞は,腎臓,精巣上体,精管,精巣,内耳に存在する。こ
れらのうち,腎臓,精巣上体,精管ではMR細胞のアピカル膜にV’ATPaseが
発現している(Brown et a1.,1988, Brown e七a1.,1992;Wagner e七a1., 2004)。
哺乳類においてMR細胞は,腎臓では尿素の,生殖器官では管腔液のpHの酸
性化が主要な役割だと考えられている(Breton et a1.,1996;Brown e七al.,
1997;Brown. and Breton, 2000;Gluck e七a1.,1982)。また, V’ATPaseはマウス
精巣での精細胞の発達や精子成熟の過程で先体に発現するが,これは平ATPase
が受精に不可欠なプロテアーゼ前駆体の活性化に貢献していることを示唆して
いる(Sun・Wada et a1.,2002)。哺乳類の内耳にもMR細胞があり,リンパ液の
16
pH調節に関与していると考えられている(S七ankoVic et al・,1997)。電子顕微鏡
観察によると哺乳類の内リンパ嚢にも,MR細胞が存在していた(Peters et a1.,
2002)。以上から,今回の蛍光免疫染色で観察された内リンパ嚢,膀胱,腹部皮
膚,精巣,腎臓のV・ATPase発現細胞もプロトン輸送による酸性化機能を担っ
ている可能性が考えられる。特に,内リンパ嚢のMR細胞の早ATPaseは内リ
ンパ嚢内の炭酸カルシウム結晶の溶解に関与していると思われる。
哺乳類の腎臓には,Aタイプ, Bタイプという二つのサブタイプの介在細胞
が存在し,H・とHCO3一の分泌に関与している。 V’ATPaseはA細胞ではアピカ
ル膜に,B細胞ではバソラテラル膜に,それぞれ局在している。また, Cl−/HCO3・
交換体はA細胞ではバソラテラル膜に,B細胞ではアピカル膜に局在している
(Brown・an.d Bre七〇n,1996, Brown and Breton,2000)。これらの介在細胞に含ま
れるCA IIは, CO2からのH+とHCO3一の生成反応を触媒する。哺乳類腎臓の介
在細胞との類似性において,ウシガエル内リンパ嚢のMR細胞はA細胞に相当
し,プロトン分泌を担い,そのために内リンパ嚢組織の管腔内のpHが下って,
結晶が分解している可能性がある。しかしながら,本研究では,調べたほとん
どの細胞において,VLATPaseの陽性反応は,細胞質全体に見られ, V’ATPase
がアピカル膜に局在するという明確な証拠は得られなかった。Paunescuら
(2004)により,アセタゾールアミドによるCA IIの長期的阻害に反応して,介
在細胞のA細胞においてV’ATPaseのB2アイソフォー一ムの局在が細胞質から
アピカル膜にトランスロケーションすることが示されている。この事実はウシ
ガエルV−ATPaseのAサブユニット, Eサブユニットも,ある生理的条件下で
は,細胞質からアピカル膜に移動する可能性を示している。今後は,内リンパ
嚢におけるプロトン分泌の活性化に関するさらなる研究が必要であろう。
17
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図2・1ウシガエルV−ATPase AサブユニットcDNAの塩基配列と
予想されるアミノ酸配列
蔑瓢嶽ノ酸残基の配列を示した・*は終始コドン・・はP・ly
18
一58
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361 TTACAGGGCTTGTACCAGGT{…CT6GAATCCAAGGTCATTATCCGATGTCGCAAGGA《]〔三AC 420
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481 AGA6ACGTGGAAGTGGTCATTGACCAGGATGGATACCTGGCCCCTGAGATTGCTG6AGGT 540
1611RDVEVVIDODGYLAPEIAGG 180
541 ATAGAGC丁丁丁ACAACGCAGATGGCAAGATCAA、6GTGGTGAACACACTGGAAAGCCGGCTG 600
181 1 E L Y N A D G K l K V V N T L E S R L 200
601 GACCTCA丁CGCCCAGCAGATGATGCCAGAAATTCGAGTTGCTTTGTTTGGGGCAAATGCA 660
201DLIAOOMMPI三」RVAI_FGANA 220
661 AACC6CAAGTTCCTGGACTGA
681
221NRKFI_D*
226
682 G丁GATTC丁ATATACTGCCCCCTAGTGTACAGAAAAGTGAAATTCC丁CAATATTTTAATGT
742 TCTTTCT丁GTGTCATTTTTTT“「T」「「TTCAG丁TGTTGCAGTCTATGAGCTTGGCA丁ATTTT
802 ATTTG丁ATATAGAAGCGGCCTCT白ACAG6TG[】TGTGATCACATTCCTAGAATTTAATATA
962 TATATATTTTGTCCTA丁GTTT“「ACAGTGAGTC丁GAAGCCTCTTT丁CTATAATG6AAGAAT
922 TAAAGAGGTCAGGCTTCCCTTGTAGCTT丁日{3TCAAACACCCCCTGCACCCCATCCCCCCC
741
801
861
921
981
1041
1042 GGTGCTCTGATGAGGAAGGAGCTATGTGG丁CCAGCACAAGCTG’1’AGGACAGG丁T{ITGCCT 1101
1102 TGTAATAACAGCTGCGTCATCTTTTGC丁TCCTTCGGTGC丁TT丁G丁CAGTG丁TCTGCCCTG 1161
1162 AATTGGCCCTTGTGTTACAGGCCTGTCCCAGTCTGGCCTTCTGTGATAGCAGCAGTCA丁A 1221
1222 TGTGAGT丁TTGTCTT丁ATTTATTACATTACC丁GAAACTGTCTGA・「CCGCTCCTTGTCTAG 1281
1282 AT6丁白TTCACAAAGTAACTCCAGCCAAATGOCTAAAA白AACTAACATj輌ATCCA6 1341
1342 ATTGGAGGATGTATTTGCTTAAA6TGATACTAGACA丁ACAATGTTTAG・「TGCTGTCATCC 1401
1402 {】TTCTATTTATG丁ATAAAGATCATGCCACTGTATTTTAATGTAATATAAA八AAAAATATT 1461
982 CCCCCCCCCAAGCTTGTGCCTCCTATGAAAGGATATAATATGTACCA日CTT6CGTCTGCT
1462 CAAAAAAAAAAAAAAAAAA
14HO
図2−2ウシガエルV・ATPase EサブユニツトcDNAの塩基配列と
予想されるアミノ酸配列
塩基配列の下にアミ ノ酸残基の配列を示した。*は終始コドン。口はPoly(A)シ
グナルを示す。
19
b
a
1 2 3 4 5
1 2 3 4 5
kD
唱■■ z.,t
31.O・一
21.5一
14,4一
図2・3抗ウシガエルV−ATPase Eサブユニット抗体を用いた
ウエスタンブロット解析
a:内リンパ嚢と精巣の抽出物(レーンt,4)では,陽性反応のバンドが,分子量
32・8kDaと25.4kDaの位置に,膀胱,腹部皮膚腎臓(レーン2,3,5)では,バ
ンドは32.8kDaの位置に見られた。それぞれのサンプルの発現には差異が見られ
る。b:抗原(10μ9/ml)であらかじめ吸収した抗体による免疫染色。陽性反応は
完全に消失した。
20
L
ら 腱鍛熟、 り
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蘇メ∼ [
図2−4 内リンパ嚢におけるV−ATPase EサブユニットとOC22の局在
a:V−ATPase Eサブユニットの蛍光免疫染色。濾胞上皮の,特定の細胞の細
胞質中にシグナル(赤;矢印)がはっきり見える。b:ノマルスキー微分干渉像。
c:吸収抗体を用いた蛍光免疫染色。内リンパ嚢のどの細胞にもシグナルは検
出されなかった。d:二重染色の画像では, V−ATPase Eサブユニットの陽性
反応(赤;矢印)とOC22の陽性反応(緑;矢頭)は異なる細胞に認められた。核
をDAPI(青)で対比染色した。*は赤血球:Lは内腔。スケールバー:50μm(a,
b,c),10μm(d)。
21
図2−5 膀胱,腹部皮膚,精巣,腎臓における
V−ATPase Eサブユニットの局在
a:膀胱。V−ATPaseが発現した細胞(矢印)は,膀胱上皮に一様に並んでいる。
b:腹部皮膚。\/−ATPaseが発現したフラスコ形の細胞(矢印)が穎粒細胞の間に
明瞭に認められた。c:精巣。陽性反応(矢印)は精子細胞の核領域にごく限ら
れていて精母細胞(SC>にはなかった。 d:腎臓。 V−ATPaseのシグナル(矢印)
は,遠位尿細管後部と集合管の一部の細胞で見られた。L:内腔, G:外分泌腺,
P:近位尿細管。スケール:50pm。
22
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図2・6 内リンパ嚢におけるV・ATPase AサブユニットとOC22の局在
a:V−ATPase Aサブユニツトの蛍光免疫染色。濾胞上皮の特定の細胞の細胞
質中にシグナル(赤;矢印)がはっきり見られる。b:aのノマルスキー微分干渉
像。c:吸収抗体を用いた蛍光免疫染色。内リンパ嚢のどの細胞にもシグナル
は検出されなかった。d:V−ATPase AサブユニットとOC22の二重染色では,
V−ATPase Aサブユニツトの陽性反応(赤;矢印)とOC22の陽性反応(緑;矢頭)
は異なる細胞に認められた。核をDAP1(青)で対比染色した。*は赤血球;L
は内腔。スケールバー:50μm(a,b, c),10μm(d)。
23
図2・7 内リンパ嚢の細胞におけるV−ATPaseのAサブユニット
とEサブユニットの共存
V−ATPase AサブユニットとEサブユニットが同一の細胞で発現していることを
確認するために,内リンパ嚢の隣接切片を作製し,Aサブユニット(a)とEサブ
ユニット(b)を免疫染色した。この結果V−ATPaseのAサブユニットとEサブユ
ニットは同一の細胞(矢印)で発現していた。核をDAPI(青)で対比染色した・
スケールバー:50μm。
24
A在薄、
壌
v・.1’♂
∴;
L
図2−8 内リンパ嚢のミトコンドリアリッチ細胞と濾胞細胞における
V・ATPase EサブユニットとOC22の局在
a:内リンパ嚢のミトコンドリアリッチ(MR)細胞と分泌穎粒(矢頭)を含む濾胞細胞
(FC)の電子顕微鏡写真。 MR細胞は,細胞質はミトコンドリアで満たされ,細胞膜の
アピカル域には微絨毛構造(矢印)が見られた。b:V−ATPase EサブユニットとOC22を
それぞれ免疫標識した内リンパ嚢の電子顕微鏡像。V−ATPase Eサブユニット(10nm)
はMR細胞のアピカル膜と細胞質の両方に局在し,一方, OC22(5nm)は濾胞細胞の
分泌穎粒中(矢頭)に局在している。スケール:1μm。
25
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3287−3296
30
第3章 アフリカツメガエル皮膚の小穎粒腺に特異的に発現しているアクアポ
リンAQP・x5の分子細胞学的性質
3.1.序論
Agreらのグループ(1992)により細胞膜の水チャンネルとしてCHIP28が発
見されて以来,哺乳類や他の下等動物の様々な細胞から,アクアポリン
(aquaporin;AQp)と呼ばれる多くの水チャネルタンパク質が同定されてきた
(lshibashi et a1.,2000;Park and Saier,1996)。 AQpは水を選択的に透過させ
る水透過孔を形成し,浸透圧勾配に従って受動的に効率よく水を輸送する。ま
た,グリセロールや尿素のような小分子の溶質を透過させる種類も存在する。
哺乳類では,これまで13種のAQp(AQpo・12)が同定され,そのcDNAがクロ
ーニングされてきた(lshibashi et a1.,2000;Takata et al,,2004)。そのうち,
哺乳類のAQPの中でAQP5は特に,唾液腺や涙腺などの外分泌腺や肺組織で発
現し水分泌の役割を担っていることが知られている(Matsuzaki et al.,1999;
Raina et al,,1995)。
我々はこれまでに,樹上性のアマガエル輌遅Jaρo垣caの下腹部皮膚から,
AQpをコードする3種のcDNA(AQp・h1, AQp・h2, AQPh3)をクロー一ニングし
た(Hasegawa e七a1.,2003;Tanii et al., 2002)。 AQp・h1は哺乳類のAQp1と相
同性が高く,多くの組織に発現している。一方, AQP・h2は下腹部皮膚と膀胱に,
AQP・h3は下腹部皮膚のみに特異的に発現していた。無尾両生類の皮膚は,皮膚
腺によって湿り気が常に保たれていることが知られている。しかしながら,ク
ロ・一一一ニングされたこれらのAQPは,皮膚腺には発現が見られなかった。そのた
め,無尾両生類の皮膚腺には,これらと異なる特異的なAQPが発現している可
能性が考えられた。
これまで両生類の皮膚腺は,頼粒腺(漿液腺または毒腺とも呼ばれる)と粘液
腺という2つのタイプに分類されてきた(Noble and Noble,1944;Vanable,
1964)。願粒腺は,強い物理的刺激(Myers and D aly, 1983)や生体アミン,様々
な生物学的活性を持つ物質(Erspamer,1994)に反応して,毒性や刺激性を持
つ分泌物を産生して体を防御する。一方,粘液腺は皮膚の水分を保持するため,
ナトリウムイオンや塩化物イオンを含む水分に富んだ分泌物のみを産生する
(Ca皿pantico et a1.,1978)。 Fujikuraら(1988)は,アフリカツメガエル皮膚に
関する一連の実験により,小願粒腺[small glanU lar(granulated)gland]とNP
腺(NP gland or saccUlar gland of the male nuptia1 pad)の二つの腺を加えた。
小穎粒腺は皮膚の上皮層近くにあり最も小さい皮膚腺であり,分泌細胞の間に
ミトコンドリアリッチ(MR)細胞を持つという特徴がある。一方で, NP腺は・
包接交尾の際にオスの前肢にできる滑り止めの婚姻瘤(nuptial pad)のみに見
られる腺である。
31
これまで,無尾両生類の皮膚腺ではどのようなAQPが発現し,どのように機
能しているのかは明らかでない。このため,本研究ではアフリカツメガエルの
皮膚腺に特異的に発現するAQPの同定を行い,皮膚腺での局在を調べた。さら
に,皮膚腺の分泌機能にはAQP以外の分子の関与も推測されたため,前章で述
べたV’ATPaseの酸性化作用に注目して, V’ATPaseの皮膚腺での局在を調べ,
無尾両生類の皮膚に存在する皮膚腺の機能の統合な解明を試みた。
3.2.材料と方法
3.2.1.勘物
成体アフリカツメガエル(Xenoρus、陰θ口8 Daudin)は実験室で飼育したも
のを使用した。麻酔(MS222;Nacalai tesque, Kyoto, Japan)した個体から,
下腹部皮膚,背側皮膚,膀胱,腎臓,脳,心臓,肺,肝臓,胃,小腸,大腸,
精巣,卵巣,血球を採取し,RTPCR,ウエスタンブロットに用いるまで保存し
た。また,ニホンアカガエル(産描ヨ躍ρα田遷),ウシガエル(R. ea tesbetana),
トノサマガエル(R.ni’9τOfinaeizlata),ニホンアマガエル(Hyla jaρo皿tca),オオ
ヒキガエル(BtztTo marin us)を業者(大内,埼玉)から購入し,使用まで飼育し
た。実験動物の扱いはすべて静岡大学の動物実験使用規定に従って行った。
3,2,2..クエノ蠣部躍の0丑Mライブラクーの繰
全RNAはアフリカツメガエル皮膚0.5gから抽出した。全RNAからのmRNA
精製やcDNA合成,λZAP cDNAライブラリー(9.6×10fPfU∫μg of vector
arms)の作製はTan五ら(2002)の方法に従った。
3.2.3.プライマーについτ
カエルAQP断片を最初に増幅させるためのプライマーは, MIPファミリー
のAQPに保存されている2つのNPAボックス(アスパラギン・プロリン’アラニ
ン)を含むアミノ酸配列をもとに以下のようにプライマーを設計し,業者
(Glib co・BRL, RockVille, MD)に依頼し作製した。
P1(sen8e),5’・AGCGGGG(CG)(CT)CAC(AC)T(CT)AACCC・3’
P2(anbisense),5,−GG(AT)CC(AG)A(CT)CCA(AG)AAGA(CT)CCA’3’
P3(an,七isense),5,・A(AG)(AG)GA(CG)C(GT)(GT)GC(AT)GG(AG)TTC星F 3’・
3.且4PCR『こよる00M筋ゾナのサブグローニング
腹部皮膚からの全RNA抽出, mRNA精製, cD NA合成,配列解析はTami
ら(2002)の方法に従った。cDNAの合成は試料[mR NA 500ng,5xRAV“2
Reverse七ranscrip七ase bu Efer 4μ1, dlSrTP ]Mlixt ure 10μ1, RNase mhibitor 2U,
32
01igo(dT)19 primer 15pmo1ノμ1, RAv・2RTase l oU,㎜Q(+)]を調製し,1時間,
42℃でインキュベートした。M皿iQ(・)で総量200μ1になるように調整し,52℃
で30分間インキュベートした後,次の作業を行うまで一23℃で保存した。
PCRは, Takara Ex Taq Poly皿erase(Takara, kyoto, Japan)のプロトコー一
ルに従った。試料[鋳型DNA 5ng,10×Ex Tag buEfer 5μ1,2、5mM dNTP
Mix七ure 4μ1,プライマー1:50pmo1プライマー2:100Plno1]を調整し,総量
49,75μ1にした。PCR装置[ PC・701:PROGRAM TEMP. CONTROL SYSTEM
(アステック株式会社)】を用いて,5分閏,95℃で変性,氷中で急冷した。Takara
Ex Taq PolymeraseをO、25p1加えて,PCR(94℃;1.5分間,50℃;1.5分間,72℃;
2,5分間)を30サイクル行った。さらに,このPCR産物を用いてプライマー1:
50pmol,プライマー3; 400pmo1を用いて,同様の条件でさらにPCRを行った。
増幅した断片はpGEM・3Zベクター(Promega, Madison, WI)にライゲーショ
ンしてサブクローニングし,Aloka DNAシークエンスシステム(Model
Lic・4200L(S):Aloka, JaparDを用いて配列解析した。
3,2.5,.17エノ罐蹴皮膚証)Mライブ〉 Y 一一2a 6 Aep・X5≦SfteelP71‘Z> eDNA
クrr・一ニング
eDNAクローニングに用いるためのDNAプローブは,前項(3.2.4.)で
作製したプラスミドDNAから制限酵素でインサートを切り出し, digoXigenin
(DIG)・High Primeキット(Roche MolecUlar Biochemicals, Meylan, France)
を用いてDIG標識した。 Taniiら(2002)に従いアフリカツメガエル腹部皮膚
cDNAライブラリーからAQPx5全長配列cDNAのスクリーニングを行った。
3,2.6.R苦PCR〆こよ6mR2V4の秀冤瞬F
各組織[腹部皮膚,背側皮膚,膀胱,腎臓,脳,心臓,肺,肝臓,胃,小腸,
大腸,精巣,卵巣,血球]からTRIZOL試薬(Invi七rogen, Carlsbad, CA)を
用いて全RNAを抽出した。さらにDNase 1処理を行うために,試料[全RNA
20p9,10x DNase I butlfer 20 u1, RNase mh」bitor 2U, DNa8e I(4U;Takara)]
をMilli Q(+)で総量200μ1になるように調整し,37℃,30分間インキュベート
した。DNase 1処理後の全RNA 10P9を用いて前項(3.2.4.)と同様にして・
cDNAの合成を行った。以下のようにAQP’x5に特異的なプライマーを設計し,
合成したcDNAを用いて前項(3. 2. 4.)と同様にしてPCRを行った。 RT’PCR
の産物は臭化エチジウムを含む2%アガロースゲルで泳動して解析した。マー
カー6(λ/S七yl dige8t;Wako Pure Chemicals, Osaka, Japan)を分子質量の指標
として用いた。用いたプライマーは次の通りである。
P3(8en8e),5,・CAGTATCCTGTTACTCTGTC−3’(1106・1125 b)
P4(antisense),5’・ATCTRCCTCTTAATTGACCG・3’(1482・1501 b)
33
3.且 7.#A・N°プチハ撹体の礫
クローニングしたアフリカツメガエルAQP・x5の予想されるアミノ酸一次構
造は,アミノ末端(N末端)側とカルボキシル末端(C末端)側が細胞質内にあ
る6回膜貫通構造を示した。AQP・x5のC末端は親水性の高いアミノ酸が並び,
抗体が出来やすいと考えられるためC末端部を抗原として選んだ。C末端アミ
ノ酸部分のペプチド[ST 156(260・273)l LYSA且PLPKVIDKF]に,担体タン
パク質と結合させるためのシステインをN末端に導入し,Model 4333Aシンセ
ザィザー(PE−Applied Biosy8tems, Fo8ter City, CA)で合成した。合成ペプチ
ドをクリーベイジ後,逆相HPLCで分取した。検出された複数のピーク画分を
イオン化質量分析装置(API・150EX, Applied BioBystems, Forster, CA)で質量
分析し目的のペプチドの合成を確認した。Tanakaら(1992)に従って,合成ペ
プチドST156と担体タンパク質であるテンガイヘモシアニン(Pierce,
Rockford, IL)の複合体を作製し,モルモットに免疫して抗体を作製した。
3.2.8.マイクロインジェクション法によるA砧Pエ5の承瀦能の麟
AQPx5金長配列cDNAが挿入されているpBK・CMVファージミドベクター
をXih o 1で制限酵素処理し,直鎖化して鋳型DNAとした。 cRNAの合成は,
mCAPTM RNA Capping Kit(Stratagene, La Jolla, CA)に従い,総量62.5μ1に
なるように試料[鋳型DNA 2,5μg,5x transcription buf£er 12.5μ1, yNTP miX
2.5pl, mCAP analog 6.25Ld,0.75M DTT 2.5μ1, T3 RNA polymerase 25U,
M皿iQ(+)]を調製し,2時間,37℃でインキュベートした。
アフリカツメガエル卵巣の濾胞細胞層をコラゲナーゼ(1mg/皿1;Roche)に
より除去して卵母細胞を分離した。成熟した卵母細胞(S七ageVとStageVl;直
径1.2・1.3mm)を選抜し,50n1のM皿i Q(+)あるいは50n1のcRNA(1P9/1μd)を
微量注入した。注入した卵母細胞は10pg∫m 1ペニシリン,10μg/m1ストレプト
マイシンを含むBarth液(200mO8m)中で3日間,18℃インキュベートした後
70mOsmのBarth液へ移した。浸透圧によって誘発される体積増加を,コンピ
ュー ^に接続したCCDカメラと4倍レンズの付いた顕微鏡(01ympus BX50;
01ympu80p七ica1, Tokyo, Japan)で測定した。浸透的水透過能(PDは,卵母
細胞が膨張する初速度から求めた(Fushimi et a1,,1993;Zhang et a1.,1990)。
AQP’x5 cRNAあるいはMii皿i Q(+)を注入した卵母細胞の一部は,測定前に最終
濃度o.3mM HgC12で10分間の処理を行った。卵母細胞でのAQp’x5タンパク
質の発現を確認するため,AQP’x5 cRNAあるいは水を注入した卵母細胞のウエ
スタンブロット解析と蛍光免疫染色を行った。
3,2.9,鯉織学…
アフリカツメガエルの腹部皮膚はBouin固定液に2日間浸けて固定した後
脱水,パラプラスト包埋を行い,4pmの切片を作製した。脱パラプラストした
切片に対しマロリーの三重染色法を施した。上昇エタノール系列で脱水した後
34
エンテラン(Merck, Darms七adt, Germa ny)で封入した。
3.2 10.鋭光尭疫梁芭
アフリカツメガエルの腹部と背側の皮膚,また,ニホンアカガエル,ウシガ
コニル,トノサマガエル,ニホンアマガエル,オオヒキガエルの腹部皮膚を
periodate・lysine・paraformaldehyde(PLP)液で4℃,一晩固定した後,脱水し
パラプラストで包埋した。4μmの切片を作製し,ゼラチンコートスライドガラ
スに貼付した。下降エタノール系列で脱パラプラストし,純水で水和させた後,
phosphate buffered saline(PBS)で洗浄処理した。 AQp’x5の蛍光免疫染色は,
Tanakaら(1997)に準じて行った。1%ウシ血清アルブミンを含むPBS(1%
BSA/PBS)で2000倍希釈したモルモット抗AQp’x5抗体(ST 156)と切片を
一晩室温で反応させ,次いでAlexa・488標識ヤギ抗モルモットIgG抗体
(Molecular probe8, Eugene, OR)の200倍希釈液と2時間室温で反応させた。
核の対比染色のため,二次抗体には4’,6−diamidino・2−phenylindole(DAPI)を
1pg〆mlになるように加えた。切片はPBSで洗浄し最終的にPermaFluor
(lmm皿on, Pittburgh, PA)で封入した。抗体の特異性は,抗原(10p91mDと
抗AQP・x5抗体をあらかじめインキュベートした吸収抗体により確認した。
AQPx5とv’ATPaseの蛍光二重免疫染色を行うため,脱パラ後,モルモット
抗AQPx5抗体(1:2000)とウサギ抗ウシガエルv’ATPase E・subuni七抗体
(ST 173;1:4000)の混合液と切片を一晩室温で反応させた。次いでAlexa488標
識ヤギ抗モルモットIgG抗体(1:200)とindocarboeyanine(Cy3)標識ロバ抗
ウサギIgG抗体(1:400;Jakson Immunoresearch, West Grove, PA)とDAPI
の混合液と反応させた。切片はPBSで洗浄し最終的にPermaFluorで封入した。
切片はオリンパスBX50蛍光顕微鏡(Oly皿pus Optica1, Tbkyo, Japan)で観察
した。
3.且11.クエヌタンブロツ♪解祈
AQPx5のcRNAまたはM皿i Q(+)を注入した卵母細胞を,ホモジェネイト緩
衝液[0.15M NaCl,1%Triton X・100,0,1mg/ml phenylmethanesUlfony1
且uoride(PMSF),1μ9∫ml apro七ininを含む50mMトリス塩酸緩衝溶液
(pH8.0)]を加えて,超音波破砕機VP・30S(タイテック株式会社)でホモジェ
ナイズした。10分間,12, OO Orpmで遠心した後の上清を, BCAタンパク質測
定キット(Pierce)を用いてタンパク質定量を行い,解析まで・50℃で保存した。
上清と等量のサンプルバッファー[0,14Mトリス塩酸緩衝溶液(pH7・5),6%
SDS, 22.4%グリセロール, O.02%BPB,10%2一メルカプトエタノール]を加え
70℃で10分間熱処理し,タンパク質量5pgをLaemmli法(Laem血liJ 1970)}こ
準じて12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。泳動後,タンパク質
を定電圧100mVで1時間, ImmnobilorrP膜(M皿ipore, Tokyo, Japan)に転
写した。膜上のタンパク質をモルモット抗AQP’x5抗体(ST・156)と16時間・
35
ビオチン標識ヤギ抗モルモットIgG抗体(DAKO Japan, Kyoto, Jap an)と2時
間,次いでペルオ・キシダーゼ標識ストレプトアビジン(DAKO Japan)と1,5時
間反応させた。膜上の反応はECLウエスタンブロットキット(Amersham
Phar皿acia Biotech, Buckinghamshire, UK)でX線フィルム上に感光させ,検
出した。免疫反応の特異性は,抗AQP’x5抗体と抗原ペプチド(10p9/m1)をあ
らかじめ反応させた吸収抗体を用いることで確認した。
3.2.12.屠子顕獺汲ぴ娩疫露子顕繊麓察
電子顕微鏡観察のため,アフリカツメガエル皮膚片(約1皿m3)を2%パラホ
ルムアルデヒド,2%グルタールアルデヒド,0.5%ピクリン酸を含む0.1Mカ
コジル酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中で2時間,4℃で固定した。さらに
1%四酸化オスミウムを含む0,1Mカコジル酸ナトリウムバッファー(pH7.4)
中で1時間,4℃で後固定した。上昇エタノール系列で脱水しエポン/アラルダイ
トで包埋した。超薄切片はダイヤモンドナイフを取り付けたReicher七
Ultracut・Eミクロトーム(Richert・Jung, Vienna, Au8七ria)によって作製し,
ニッケルグリッドに戴物した。超薄切片は最初に酢酸ウラニルとクエン酸鉛で
電子染色を施した後,HITACHI H・7500 TEMを用い加速電圧80kVで観擦し
た。
免疫電子顕微鏡のため,アフリカツメガエル皮膚片(約1mm3)をPLP固定
液に16時間,4℃で浸潰固定した。上昇エタノール系列で脱水後,LR White
(London Re8in, Basingtoke, UK)に包埋した。超薄切片はダイヤモンドナイフ
を取り付けたReichert m七racut・Eミクロトーム(Richert・Jung)によって作
製し,ニッケルグリッドに戴物した。免疫標識はTanakaらの方法(1992)に
準じた金コロイド法で行った。PBS洗浄,1%BSA/PBSで1時間ブロッキング
後,超薄切片をモルモット抗AQp’x5抗体(1:4000)と16時間反応させた。次
いで,PBS洗浄後,10nm金コロイド標識ヤギ抗モルモットIgG抗体 (1:50;
BioCel1, Cardff, UK)と2時蘭反応させた。免疫反応の特異性は・抗AQprx5
抗体を抗原ペプチド(10μg/皿1)であらかじめ4℃,16時間反応させた抗体を用
いることで確認した。免疫標識の後,超薄切片はRothら(1ggo)の方法に従っ
て処理した。1%グルタールアルデヒド/O.1Mリン酸緩衝液(pH7・4)で15分蘭
固定し,さらに1%還元オスミウム(1%四酸化オスミウムとL5%フェロシア
ン化カリウム液)∫O.IMリン酸緩衝液(pH7.4)で20分間固定,2%酢酸ウラニ
ルと0.3%メチルセルm・一一スの混合液に浸した後,37℃の恒温槽で乾燥させた。
試料は,HITACHI H・7500 TEMを用い加速電圧80kVで観察した。
3.3結果
品ユ1.Aep・x5の凸口Mクローニン声
36
得られた部分配列はラットAQP5配列と高い相同性を示したことから,得ら
れたクローンをAQP−x5とした。アフリカツメガエル皮膚cDNAライブラリー
からプラークハイブリダイゼーションによりAQP・x5全長配列のcDNAクロー
ニングを行った(図3・1a)。 AQPx5全長配列は5’側に63塩基対(bp)の非翻
訳領域(UTR),3’側にはポリA配列を含む1841bpのUTRがあった。翻訳領域
(ORF)から予想されるアミノ酸配列は273残基で,分子質量は29,443Daと推
定された。AQP’x5の構造解析を行ったところ,他のMIPファミリーのメンバ
ーと同様にN末端とC末端が細胞内に位置する6回膜貫通型の構造であった
(図3・1b)。 AQP・x5タンパク質には257番目のセリンにプロテインキナー・一・・一一ゼA
のリン酸化部位が存在し,34番目,151番目J229番目の3箇所のセリンにプ
ロテインキナーゼCのリン酸化部位が見られた。AQPx5タンパク質にはN型
糖鎖結合部位は見られなかった。アミノ酸配列にはMIPファミリーのメンバー
に保存されているアスパラギンープロリン・アラニン(NPA)のモチーフが見ら
れ,また,これまでクローニングされた他の無尾両生類のAQPに見られたもの
と同様に,2番目のNPAモチーフの上流には,水銀感受性を示すシステインが
あった(Hasegawa et a1.,2003;Tan五et a1.,2002)。 AQp’x5タンパク質はアフ
リカツメガエルAQpと最も高い相同性を示し(99%, AY151156),ヒキガエル
AQP七3(AFo20623)と79%,ヒトAQp2(Sasaki e七a1.,1994)と66%,ヒト
AQp5(Lee et al.,1996)と64%,ラットAQp2(Fushi皿i et a1,1993)と65%,
ラットAQp5(Raina et al.,1995)と64%,マウスAQp2(Rai et a1.,1997)と
67%,マウスAQp5(Krane et a1.,1999)と63%の相同性を示した。また,アマ
ガエルAQp・h2(Hasegawa et a l.,2003)とは57%,アマガエルAQp・h3(Tanii
e七a1.,2002)とは58%の相同性を示した。
3.3.且 アフツジクツメガこエノレ接繊/こ?5」ナ{5R7FPCR〆ごよる凶Q]Pア5の発揮
獅
様々な組織から全RNAを抽出し, RT・PCRによって,アフリカツメガエル
AQP・x5の組織分布を調べた。 AQP・x5のバンドは背側皮膚,腹部皮膚・脳t肺・
精巣で検出された(図3・2)。
3,3,3.アフノノクツメ.ガ比ノ卿母綱〆こお’ナる・4砧P零5の発冤
細胞膜におけるAQP’x5タンパク質の水透過能を,アフリカツメガエル卵母
細胞にAQP・x5を発現させて解析した。その結果, AQP・x5を発現させた卵母
細胞のPfは,M皿i Q(+)を注入した卵母細胞のPfの10.5倍であった(図3’3・a)。
このAQp・x5によって促進された浸透的水透過は・o・3mMのHgC12によって
27%まで減少した(図3・3a)。 AQp−x5 cRNAを注入した卵母細胞を抗AQ p“x5
抗体によって免疫染色すると,細胞膜にはっきりとした免疫陽性反応が見られ
た(図3・3 b1,2)。この陽性反応は,10p91mlの抗原ペプチドによる吸収抗体に
より消失した(図3・3 b3)。M皿iQ(+)を注入した卵母細胞では陽性反応は見られ
37
なかった(図3−3 b4)。
3.3.4.クエスタンプロソA/こよる撹体擬酷の麓討
モルモット抗AQp’x5抗体の特異性をAQPx5のcRNAを注入した卵母細胞
の抽出物を用いてウエスタンブロットすることによって調べた。その結果,抗
AQp・x5抗体により29.okD a付近にバンドが検出された(図3・4a)。この陽性反
応は,吸収抗体を用いると消失した(図3・4b)。
3.3.5.友り罐におけるアフツカツメガ土ノbAep・x5タンパタ葺の昂在
マロリーの三重染色でアフリカツメガエルの皮膚腺を染色したところ,頼粒
腺は暗赤色,粘液腺は青色,小頼粒腺は赤色を示した(図3−5)。小願粒腺は皮膚
の上皮層に近接していて他の腺に比べて小さく,細胞質にオレンジG陽性の物
質を含んでいた。
抗AQP’x5抗体でアフリカツメガエル腹部や背側の皮膚を免疫染色したとこ
ろ,陽性反応は主に小穎粒腺に見られ,穎粒腺には見られなかった(図3・6 a, b)。
小頼粒腺では,陽性反応は特に分泌細胞のアピカル膜に見られた(図3・6a)。
また,粘液腺上部の分泌細胞のアピカル膜にも,微弱ながら,AQP−x5の陽性反
応が観察された(図3・6a, b)。小頼粒腺と粘液腺の導管や腺房部から導管部の
間に位置する介在細胞には,陽性反応は見られなかった(図3・6 a, b)。染色の特
異性を確認するため,抗原ペプチドを用いた吸収抗体を作製し免疫染色したと
ころ,陽性反応は消失した(図3・6c)。また,抗ウシガエルV’ATPase Eサブユ
ニット抗体と抗AQP・x5抗体で皮膚を蛍光二重免疫染色したところ,抗ウシガ
エルV’ATPase抗体の陽性反応は小願粒腺の分泌細胞間に存在する細胞のみに
見られた(図3・6d)。一方で,脳,肺,精巣にAQP・x5の陽性反応は検出され
なかった(データは示さない)。
3.3.6.幽の無尾」両堂類『こおける醗摺ξ三見在
アマガエル,ニホンアカガエル,オオヒキガエルの皮膚に対して,アフリカ
ツメガエルと同様に抗AQP・x5抗体と抗ウシガエルV−ATPase抗体を用いて免
疫染色を行ったところ,これらの無尾両生類の皮膚に存在する粘液腺と漿粘液
腺にAQPrx5の陽性反応が見られた(図3−7 a, b, c)。また,抗V・ATPase抗体の
陽性反応が皮膚腺の特定の細胞に見られたが,これらの細胞は抗AQPrx5抗体
の陽性細胞とは異なる細胞であった(図3・7 a, b,c)。一方で,ウシガエル・トノ
サマガエルでは,これらの抗体よる陽性反応は検出されなかった(データは示さ
ない)。
3.3.7.アブ兇力ソメガエノレ」4②Pア5の鮪内帰在
電子顕微鏡観察により,小穎粒腺には,二種類の上皮細胞が存在することが
示された。一方は分泌願粒を持つ分泌細胞であり,もう一方はミトコンドリア
38
を豊富に持っMR細胞であった(図3・8)。 MR細胞の細胞膜には微柔毛構造が
あった。抗AQP・x5抗体で免疫染色したところ,陽性反応は分泌細胞のアピカ
ル膜に局在していた(図3−9a)。 AQP・x5陽性反応は,抗原ペプチドによる吸収
抗体を用いることにより消失した(図3・9b)。
3.4 考察
今回,cDNAクローニングされたAQP’x5には,二つのNPAモチーフが存在
し,2番目のNPAモチーフのすぐ上流に水銀感受性のシステインが見られ,6
回膜貫通構造を示すというAQPに特徴的な構造が見られた。相同性検索により,
AQPx5のアミノ酸残基の配列は,哺乳動物のAQP5と高い相同性を持つこと
がわかった。AQPx5に存在する257番目のセリンはプロテインキナーゼAに
より,リン酸化されると予想される部位である。このセリンは哺乳類のAQP2
(Fushimi et al.,1993)やAQp5(Raina・et・a1.,1995),アマガエルのAQp・h2や
AQPh3(Hasegawa et al.,2003;Tanii et al、,2002)にも見られる。この中で,
哺乳類AQP2は腎臓集合管で, AQP・h2はアマガエルの膀胱や腹部皮膚で,
AQP・h3は腹部皮膚で発現し,細胞質から細胞膜にトランスロケーションして細
胞膜の水透過能を高めることが報告されている。このようなAQPのトランスロ
ケーションのためにはプロテインキナーゼAによるAQPのリン酸化が必要であ
る(Kuwahara・e七a1.,1995)。 AQp・x5もプロテインキナーゼAのリン酸化部位
を持つことから,トランスロケーションの機構によって水透過能が調節されて
いる可能性がある。アフリカツメガエル卵母細胞を用いた水の透過実験では、
AQP・x5は浸透圧依存的な水透過を促進させたが,それはHgc12によって阻害
された。また,哺乳動物のAQP5は唾液腺や涙腺などの外分泌腺や肺組織で発
現し水分泌の役割を担っている(Ma七8uzaki e七al,,1999;Raina et a1.,1995)
ことから,AQPrx5も同様の組織で水分泌の働きを持つ新規カエルAQPだと考
えられる。
AQP’x5のcRNAを注入した卵母細胞の抽出物を用いてウエスタンブロット
解析を行ったところ,29.OkDa付近にバンドが見られた。 AQP・h2のように糖
鎖が結合しているAQPでは,より大きい分子質量の付近に明瞭なバンドが検出
される(Hasegawa et a1,,2003)が,今回の解析では検出されなかづた・この結
果とアミノ酸の配列解析から, AQP’x5のタンパク質には糖鎖は結合しないと考
えられる。また,吸収抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果から・この
免疫反応を示したバンドは,抗AQPx5抗体に特異的であることが確かめられ
た。
蛍光免疫染色や免疫電子顕微鏡による観察により,AQP’x5は,特に皮膚の小
願粒腺,また粘液腺のアピカル膜にも発現していることが明らかになった。一
方で,R[ELpCRでは, AQPx5 mRNAは脳,肺,精巣でも検出されたが・これ
39
らの組織では皮膚と異なり,蛍光免疫染色による陽性反応は見られなかった。
ウエスタンブロット解析では卵母細胞からの抽出物からは陽性反応が得られた
が,皮膚からの抽出物には陽性反応が見られなかった(データは示さない)こと
を考えると,皮膚でもAQP・x5タンパク質の発現量は低いのだと考えられる。
しかし,脳,肺,精巣では,蛍光免疫染色によるAQP・x5の陽性反応が認めら
れなかったにも関わらず,皮膚で小頼粒腺に認められたのは,AQPx5が小穎粒
腺の分泌細胞のアピカル膜に集中して発現するためだと推定される。
両生類の皮膚腺には,頼粒腺(漿液腺または毒腺)と粘液腺の存在が示されて
きた。さらにMiilsとPru皿(1984)はベガスヒョウガエル,ヨL−一一・ Mッパアカガ
エル,ウシガエルの粘液腺には粘液腺と漿粘液腺(混合腺)が存在することを示
し,Fuj ikuraら(1988)は,アフリカツメガエルの皮膚には小願粒腺という,
頼粒腺や粘液腺とは別の腺が存在することを示している。つまり,種によって
は,無尾両生類に通常見られる皮膚腺の他に,独特な皮膚腺が存在することが
示されている。
アフリカツメガエルは水中生活を営むが,夏季に池が干上がった時は乾燥を
避けるために泥の中にもぐり,次の雨季まで活動を停止した状態のままで過ご
す。水中から泥中まで大きく異なる水環境に適応できる種は,無尾両生類でも
稀有である。小頼粒腺の存在はアフリカツメガエルに特徴的であり,水分泌を
担うAQPx5が発現していることから,小穎粒腺・はAQP・x5を中心として,ア
フリカツメガエルの水環境の変化への適応を担っているのだと考えられる。
一方,ニホンアカガエル,ニホンアマガエル,オオヒキガエルでは,粘液腺
もしくは漿粘液腺の分泌細胞のアピカル膜にAQP・x5様タンパク質が発現して
いた。このように他種の皮膚腺に,アフリカツメガエルに特徴的な小穎粒腺と
共通するAQP・x5様タンパク質が見られたことは,どの無尾両生類においても
いずれかの皮膚腺に備わっているはずの水分泌機能を,AQP・x5様タンパク質が
担っていることを示唆する。
L皿ywhite(1971)は,ウシガエル皮膚の粘液腺からの粘液の分泌は温度が上
昇するにっれて増加したこと,一方,脱水状態にしても分泌活動は影響を受け
なかったことを示した。日光が当たっている間は,粘液の分泌は少量ずつ続き,
表皮からの水分蒸発は安定して持続され,この蒸発熱により体温の上昇が抑え
られる。数種の無尾両生類で,皮膚腺分泌細胞のアピカル膜にAQP’x5様タン
パク質が発現していることから,これら皮膚腺からの水分泌が体温調節に関与
している可能性が考えられる。
過去の観察により,MR細胞は,アフリカツメガエルでは小穎粒腺のみに
(Fjikura et al.,1988),ベガスヒョウガエル,ヨーロツパアカガエル,ウシガエ
ルでは,粘液腺の主細胞間に存在していることが報告されている(Mi118 and
Pru皿,1984)。皮膚腺の他では, MR細胞は,皮膚(Katz et al・, 2000;W「Uumsen
e七a1.,2002:White ar,1972)や膀胱 (Choi,1963;Wade,1976)・腎臓
(Uehiyama and Yoshizawa,2002),内リンパ嚢(Yaj血a e七al・,2005)に存在す
40
る。MR細胞は炭酸脱水酵素II(carbonic anhydrase II;CA II)とV’ATPaseを
ともに発現している(Brown and Breton,1996;Wieczorek et a1.,1999)ことか
ら,この細胞はプロトンの分泌に関与していることが示唆される。
本研究による電子顕微鏡観察でも,アフリカツメガエル小頼粒腺の間にはMR
細胞が存在しており,この細胞は抗V−ATPase Eサブユニット抗体に陽性を示
す細胞であることが明らかになった。また,MR細胞が他種カエルの皮膚腺にも
存在すると予想されたため,アフリカツメガエルと同様に,他種カエル皮膚に
対して,抗AQP’x5抗体と抗V’ATPa8e抗体の蛍光二重免疫染色を行ったとこ
ろ,AQp・x5を発現する分泌細胞の間にV’ATPaseを発現するMR細胞が存在
していることがニホンアカガエル,ニホンアマガエル,オオヒキガエルで明ら
かとなり,この構造はある種の無尾両生類の皮膚腺腺房部に共通するものと考
えられる。皮膚線は前述のように種によって違いがあるため,AQP・x5と
VATPa8e双方がどの皮膚腺に発現するのかは種によって異なるであろう。アフ
リカツメガエルの小頼粒腺は,水中生活に特化したアフリカツメガエルに特徴
的な皮膚腺であるが,水分泌以外にも他種皮膚腺と共通した機能を持つことに
なる。AQP・x5の水分泌の役割に関しては前述の通りだが,皮膚腺における
V’ATPaseの役割はどうであろうか。我々はV’ATPaseがAQP・x5の発現や局在
にどのような影響を示すのかを調べる予備実験で,アフリカツメガエル皮膚の
小頼粒腺を,V’ATPaseの特異的阻害剤であるパフィロマイシンAl処理して抗
AQP−x5抗体を用いた免疫電子顕微鏡で観察した。しかし, V’ATPaseの機能を
阻害しても,AQPx5の局在と発現に変化は認められなかったことから,
V’ATPaseがAQPx5の発現調節に関与している可能性は考えがたい。
生態の面からとらえると,アフリカツメガエルは通常,水中生活を送る点で
他の無尾両生類と異なり,魚類と類似している。生活が水中で完結する魚類の
体表の粘液は,遊泳時に水との摩擦を減じる,外表への物理的損傷を著しく緩
和する,水や塩類の通過調整によって浸透圧を調節する,寄生生物の侵入を防
止するなど多様な役割を担い,粘液の生産に関係した細胞や腺が発達し,粘液
腺の他に漿液腺を持つ種もある(落合,1986)。水中生活に特化したアフリカツ
メガエル皮膚腺の分泌液の機能は,このような魚類の粘液と共通した機能が多
いと推定される。このため,小願粒腺からの水分泌は粘液の粘性の調節に関与
するとともに,V’ATPaseが輸送するプロトンは,小頼粒腺から分泌され,粘液
のpHを低下させて生体防御に関与している可能性が考えられる。この生態防御
に関わる機能は他種皮膚腺でも同様で,それぞれの水環境に適応していずれか
の皮膚腺が担うと思われる。
無尾両生類の皮膚腺の分泌物は外界と皮膚の間に位置し,生命維持のため多
様な役割を持つ。今後も,小願粒腺の分泌細胞におけるAQP’x5の発現の調節
機構の解明,またAQP・x5とMR細胞の機能的な関係を明らかにする必要があ
る。また,無尾両生類の皮膚腺,特にバソラテラル膜には,他のAQPが発現し
ているはずである。無尾両生類皮膚における水環境への適応機構を解明するた
41
めには,これらAQPの同定を行い, AQP相互の:機能的な関係を分子レベル,
細胞レベルで明らかにしていかなければならない。無尾両生類の水環境への適
応における皮膚腺の生理学的,生態学的役割に関して,さらなる研究が必要と
される。
42
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図3・1
アフリカツメガエルAQP・x5 cDNAの塩基配列と予想される
アミノ酸配列
a:アミノ酸配列は塩基配列の下に示した。*は終始コドン。NPAモチーフは枠で示し
た。■はプロテインキナーゼAによるリン酸化部位,◆はプロテインキナーゼCに
よる
リン酸化部位,△は水銀感受性部位を示す。口はPoly(A)シグナルを示す。 b:Kyte−
Doolittle式によるAQP.x5の予想されるアミノ酸配列の親水性・疎水性領域の推定。
43
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図3−2アフリカツメガエル各組織におけるRT−PCRによる
AQP・x5 mRNAの発現解析
AQP−×5 mRNAは下腹部皮膚,背側皮膚,脳,肺,精巣で発現が見られた。
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図3.3アフリカツメガエル卵母細胞によるAQP・x5の水透過能の解析
a:浸透的水透過能(Pf)。 AQP−x5 cRNAを注入した卵母細胞はMilliQを注入した卵母
細胞と比較して10.5倍の水透過能を示した。AQP−x5 cRNAを注入した卵母細胞を
HgCl2で処理すると水透過能はその27%まで減少した。各実験グループにおいて8か
ら11個の卵母細胞を用いて実験し,得られた計測値の標準誤差を含めて求めた。
*p<0,001vs.water, **p<O.OOI vs.AQP−x5.
b:抗AQP−x5抗体による卵母細胞の蛍光免疫染色。1:AQP・・x5 cRNAを注入した卵母
細胞。陽性反応は主に細胞膜に見られた。2:1のノマルスキー微分干渉像。3:吸収
抗体を用いた蛍光免疫染色像。細胞膜の陽性反応は消失した。4:M川Qを注入した卵
母細胞の蛍光免疫染色像。陽性反応は見られない。矢頭は細胞膜を示す。スケール
バー:50μm。
45
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kDa
31.0一
ト ・
21.5一
14.4一
図3・4抗AQP−x5抗体を用いたウエスタンブロット解析
a:AQP−x5 cRNA注入卵母細胞では,抗AQP−x5抗体陽性反応を示すバンドが
29.OkDa付近に見られた。 b:抗AQP−x5抗体を抗原ペプチド(10μg/ml)により吸収
させた吸収抗体を用いるとバンドは検出されなかった。
46
図3・5アフリカツメガコニル皮膚のマロリーの三重染色像
アフリカツメガエル皮膚には穎粒腺(G),粘液腺(M),小穎粒腺(SG)が
存在する。スケールバー:50μm。
47
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図3−6小穎粒腺におけるAQP−x5とV−ATPase E−subunitの局在
a:AQP−x5の蛍光免疫染色。明確な免疫陽性反応が小穎粒線(SG)の分泌細胞のアピ
カル膜(矢印)に,弱い陽性反応が粘液腺上部にある分泌細胞のアピカル膜(矢頭)に
見られた。頼粒腺(G)には陽性反応は認められなかった。b:aのノマルスキー微分
干渉像。c:吸収抗体を用いた蛍光免疫染色。陽性反応は検出されなかった。 d:小穎
粒腺におけるAQP−x5とV−ATPase E−subunitの蛍光二重染色像。 AQP−x5(緑色;矢印)
は分泌細胞のアピカル膜に認められた。抗ウシガエルV−ATPase Eサブユニット抗体
陽性細胞(赤色;矢頭)はAQP−x5を発現する分泌細胞の間にいくつか存在していた。
核をDAPIで対比染色してある。*:色素, L:内腔。スケールバー(a, b, c):50μm,
スケール(d):10μm。
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図3・7ニホンアマガエル,ニホンアカガエル,オオヒキガエルの
皮膚腺におけるAQP−x5とV−ATPase E−subunitの局在
a:ニホンアマガエル皮膚腺,b:ニホンアカガエル皮膚腺c:オオヒキガエル
皮膚腺b,d, fはa, c, e と対応したノマルスキー微分干渉像。いずれに
おいても,AQP−x5(緑色;矢印)は分泌細胞のアピカル膜に, V−ATPase E−
subunit(赤色;矢頭)発現細胞は分泌細胞の間に存在していた。 L:内腔,ス
ケールバー:10μm(a,d),50μm(e,f).
49
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図3・8 小穎粒腺における分泌細胞とミトコンドリアリッチ細胞
の電子顕微鏡写真
分泌細胞(SC)は多くの分泌穎粒(SG)を持つ。一方,ミトコンドリアリッチ細
胞(MRC)の細胞質はミトコンドリア(M)で満たされており,細胞膜には微柔
毛構造(矢印)が発達している。スケールバー:1pm。
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図3・9小穎粒腺におけるAQP−x5の局在
a:抗AQP−x5抗体を用いた小穎粒腺の免疫電子顕微鏡像。金コロイドは小穎粒
腺の分泌細胞(SC)のアピカル膜に見られた。 b:吸収抗体を用いた免疫電子
顕微鏡像。分泌細胞において抗AQP−x5抗体陽性反応は消失した。矢頭は偽陽
性反応。L:内腔, MRC:ミトコンドリアリッチ細胞, M:ミトコンドリア,
*:分泌頼粒。スケールバー:1μm。
51
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55
第4章アフリカツメガエル変態過程における皮膚腺の形成とAQP・x5の発現
4.1序論
両生類は陸上に進出した最初の脊椎動物であり,進化史上において大変重要
な地位を占めている。しかしながら,陸に上がるためには,乾燥した環境に適
応するための様々な水代謝機構の獲得が必要であった。これまでにTaniiら
(2002)により,樹上性のアマガエル鋼8」臼po垣6θの下腹部皮膚から, AQPを
コードする3種(AQp・h1, AQp・h2, AQp・h3)のcDNAクロー一ニングがなされ
ている。このうち,AQPh1は哺乳類のAQP1と相同性が高く,多くの組織に
発現している。一方で,AQPh2は下腹部皮膚と膀胱に, AQP・h3は下腹部皮膚
のみに特異的に発現し,下垂体神経葉からの抗利尿ホルモンであるアルギニン
バソトシン依存的な機構により無尾両生類の水吸収の中心を担っていると考え
られている(Ha8egawa e七a1.,2003)。しかしながら,無尾両生類の皮膚は皮膚
腺によって常に湿り気が保たれているが,クローニングされたこれらのAQPは,
皮膚腺には発現が見られなかった。このために,アフリカツメガエル皮膚腺で
発現するAQPの存在を想定し,アフリカツメガエル下腹部皮膚から新規AQP
のcDNAクローニングを試みた。その結果,第3章で報告したように,アフリ
カツメガエル皮膚に存在する皮膚腺の一つである小頼粒腺において,分泌細胞
のアピカル膜にAQP・x5が特異的に発現していた。これは,この小願粒腺から
水が分泌される可能性を示唆している。また,小願粒腺の分泌細胞の間に,液
胞型プロトンATPase(V−ATPase)を発現するミトコンドリアリッチ(MR)細
胞が存在していた。さらに,AQP・x5を発現する分泌細胞とv’ATPaseが発現す
るMR細胞は,他種カエルの粘液腺腺房部でも認められた。
無尾両生類は,変態期にからだの構造が劇的に変化する。オタマジャクシの
鯉や尾の退縮四肢の発達,食性の転換に対応した消化器官の変化など幼生器
官から成体器官へ,各器官の構造や機能に様i々な変化が起きる。皮膚にも同様
に,構造的,機能的な変化が生じる。Ha8egawaら(2004)は,アマガエルの前
肢が生えて陸上に進出し始めるステージ42からAQp・h2とAQp・h3が,表皮
の願粒細胞に発現し,上陸生活への準備が始まることを明らかにしている。
一方で,アフリカツメガエルの小願粒腺が変態過程のどの時期に形成され始
めるのかは不明であり,AQP・x5やv・ATPaseがどのステージで発現し始めるの
かも明らかになっていない。小願粒腺は水分泌を担う器官であると考えられ・
アフリカツメガエルに特徴的な皮膚腺である。また,AQP・x5は小穎粒腺の機能
において中心となる分子であると考えられることから,本章では,オタマジャ
クシ変態過程における小頼粒腺の形成と分泌細胞におけるAQP・x5発現開始時
期,またMR細胞におけるVATPaseの発現開始時期について,免疫組織化学
的手法を用いて調べることで,小頼粒腺の機能とAQP’x5さらにV’ATPa8eの
役割を考察した.
56
4.2. 材料と方法
4.2,1.勘鱈
アフリカツメガエルの雌雄にゴナドトロピンを注射し胚を得た。艀化後は稚
魚用の飼料,セラミクロン(セラジャパン,神奈川県横浜市)を与え,常温で
エアレーションをしながら育てた。ステージ42(S七,42)からSt.65まで,幼生
全体または腹部,背側皮膚を順次採取した。変態の過程はNieuwkoOPとFaber
(1956)の発生段階表に従ってステージを分類し試料とした。実験動物の扱いは
すべて静岡大学の動物実験使用規定に従った。
4,2.2繊学
飼育中のアフリカツメガエルのオタマジャクシから各ステージ(St.47,49,
55・63)に達した個体を分別し,個体全体または腹部を切り出して
periodate・1ysine ’P ar afor皿aldehyde(PLP)固定液により4℃で一晩固定した後,
脱水し,パラプラストで包埋した。4pmの切片を作製し,ゼラチンコートスラ
イドガラスに貼付して下降エタノール系列で脱パラプラストを行い,純水で水
和させた後,ヘマトキシリンーエオシン染色(H・E染色)を行った。上昇エタノ
ール系列で脱水した後,エンテラン(Merck, Dar皿s七adt, Germany)で封入し
た。試料はオリンパスBX50蛍光顕微鏡で観察した(Oly皿pu80ptica1, Tokyo,
Japan)。
4,2.3.蛍光尭疫梁芭
飼育中のアフリカツメガエルのオタマジャクシから各ステージ(St.56・St.63,
St.65)に達した固体を分別し,個体金体または腹部を切り出してPLP固定液で
4℃,一晩固定した後,脱水しパラプラストで包埋した。4pmの切片を作製し,
ゼラチンコートスライドガラスに貼付して下降エタノール系列で脱パラプラス
トし,純水で水和させた後phosphate buffered saline(PBS)で洗浄処理した。
AQp・x5の単染色は, Tanakaら(1997)の蛍光免疫染色法に準じて行った。1%
ウシ血清アルブミンを含むPBS(1%BSA/PBS)でモルモット抗AQPx5抗体
を2000倍希釈し,切片を反応させ,次いでAlexa488標識ヤギ抗モルモットIgG
の200倍希釈液と反応させた(MolecUlar probes, Eugene, OR)。核の対比染色
のため,二次抗体には4’,6・diamidino・2・phenylindole(DAPI)を加えた。切片
は最終的にPBSで洗浄しPerma皿uor(1皿munon, Pittsburgh, PNで封入した。
免疫染色の特異性は,抗原(ST156,10μ9/ml)と抗AQPx5抗体をインキュベ
gした吸収抗体を用いて確認した。V・ATPaseの単染色はウサギ抗ウシガエル
V−ATPase E・subunit抗体を1%BSAUPBSで4000倍に希釈して用いた。2次抗
ー・・…一・一
体はindocarbocyanine(Cy3)標識ロバ抗ウサギIgG(1:400;Jak80n
Immunoresearch, West Grove, PA)を用いた。抗体の特異性は抗原(ST・173,
10μ9∫皿1)と反応させた吸収抗体を用いて確認した・
AQP’x5とV’ATPaseの二重蛍光免疫染色のため・最初に,モルモット抗
57
AQPx5抗体(1:2000)とウサギ抗V・ATPase E−subunit抗体(1:4000;Yji皿a et
a1.,2005)の混合液と切片を反応させた。次いでAlexa488標識ヤギ抗モルモッ
トIgG(1:200)とCy3標識ロバ抗ウサギIgG(1:400;Jakson)と反応させた。
上記の蛍光標識二次抗体には1P9!m 1となるようにDAPIを加えた。試料はオリ
ンパスBX50蛍光顕微鏡(01ympus Optical)で観察した。
4.3.結果
4.3.1.繊辮の蹴週程〆こついτ
変態に伴って皮膚の構造にも大きな変化が見られた。St.58では、表皮に幼生
型の表層細胞が見られ、皮膚腺と思われる構造は見られなかった(図4−1a)が,
St.59になると表皮細胞が多層化し始め,皮膚腺の形成が確認できた(図4・1b)。
S七.60になると皮膚腺に導管部と腺房部の分化が見られ,皮膚腺の間で形状の違
いが生じ始めた(図4・1c)。 St,61では各腺の特徴が現れ,3種類の腺の形成が
確認された(図4・1d)。また,表層細胞は多層化する表皮細胞に置き換わり始め
た。St.62では頼粒腺粘液腺,小願粒腺の分化がさらに進み,幼生型の表層細
胞はほとんど消失した(図4・1e)。 S七.65では表皮の多層化が進み,皮膚腺の形
状と構造は成体の皮膚腺とほぼ同様だった(図4・1D。 St.65での小願粒腺は高
さ25pm,径30μmで成体の大きさに近く,頼粒腺と粘液腺は高さが50μm前
後,径は70μm前後で成体に比べまだ非常に小さかった。
4,3.2.蛍光窮麟芭
小頼粒腺にAQP−x5の陽性反応が初めて認められたのはSt.61であった(図
4・2a, b矢印). AQPx5は分泌細胞のアピカル膜に発現していた。しかし・そ
の発現位置は,成体に比べ,核に近接していた。一方,V’ATPaseの陽性反応は
St.61では認められなかった。
St.62では小願粒腺に, AQp・x5の発現する分泌細胞にとともに, V’ATPase
の陽性反応を示す細胞が初めて認められた(図4・2a,b,c)。 AQP’x5の陽性反応
の位置は,St,61と比較すると,核との間の距離が大きくなった。これは細胞質
が発達したためと考えられる。V・ATP aseを発現している細胞は, MR細胞(矢
印)であり,AQP−x5を発現する分泌細胞の間に見られた。
St,65では, AQP’x5およびv−ATPa8eの陽性反応はより明瞭になっていた(図
4−3e,f,9)。
S七,61・62およびSt,65における小穎粒腺のAQp’x5とV’ATPaseの陽性反応
は,抗原で予め吸収した吸収抗体を用いると陽性反応は見られなくなった(図
4・4 a,b, c,d)。 St.62とSt.65の二重染色では上皮の表層部にAQp’x5とv’ATPase
の強い陽性反応が見られる.しかし,吸収抗体を用いても,これらの上皮の反
応は消失しなかった(図4・4b,d)。
58
4.4.考察
抗AQP・x5抗体に対する陽性反応が初めて認められたのはSt.61であった。
一方・H・E染色においては,皮膚腺の形成はSt,59から始まり,St.60では導管
と腺房部の分化が観察された。腺房部における分泌頼粒の染まり方を成体と比
較すると,願粒腺が識別可能であった。St、61になると,成体の皮膚腺との形状
の比較から小願粒腺と粘液腺の識別が可能になり,3つの腺の特徴が明瞭になっ
た・AQP・x5は,皮膚腺の分化が進んだこの段階で発現し始めた。陽性反応は,
成体と同様に分泌細胞のアピカル膜に認められた。しかし,AQP・X5の陽性反応
は,成体と比較して,核に近接する位置で検出されている。これは分泌細胞の
細胞質が,まだ充分形成されていない段階にあることを示している。
V’ATPaseの陽性反応はSt,62で初めて検出された。前章(3,4.)で示したよ
うに,抗ウシガエルV’ATPase Eサブユニット抗体に陽性を示す細胞はMR細
胞であり,小穎粒腺では,AQP・x5を発現する分泌細胞の細胞間に認められる。
St.62のV’ATPase陽性細胞も同様の発現様式を示したことから, St.62の
V’ATPase陽性細胞はMR細胞であると考えられる。また, S七.61と比較すると
AQP・x5の陽性反応は明瞭になり,発現位置は核からの距離が大きくなっている
ことから,分泌細胞が発達しているのだと考えられる。また,St.62の表皮は最
外層の一部に幼生型の表層細胞が見られるものの,ほとんど角質層に置換わっ
ている。成体型の表皮構造がほぼ出来上がり,皮膚腺の分化も進んだ段階の
St.62で,成体と同様に,小願粒腺にAQPx5とV・ATPaseの両方が発現し始め
た。これで,小願粒腺腺房部の特徴が揃ったことになる。
この段階で表皮の角質層や上皮表層に,抗AQP・x5抗体と抗V’ATPase抗体
に対する強い陽性反応が見られるようになった。しかし,これらの陽性反応は,
抗原による吸収抗体を用いても消失しなかったことから,偽陽性反応だと考え
られる。S七.58以前の幼生型の表層細胞でも強い偽陽性反応が生じていたが,成
体では,抗AQPx5抗体,抗v’ATPase抗体とも表皮の偽陽性反応は見られな
くなることから,表皮構造の変化が偽陽性反応と関係していると思われる。
S七、63はSt.62と比べて大きな変化は見られなかったが, St.65になると,
AQP−x5, v’ATPaseの陽性反応はより明瞭になり,表皮の多層化が進み成体と
ほぼ同様となった。St,65における小願粒腺の大きさは高さ25μm,径30μm,
願粒腺と粘液腺は高さが50μm前後,径は70μ皿前後であった。一方,Fuj ikura
ら(1988)によると成体の小願粒腺は,高さ50μm,径60 ym,粘液腺は高さ
125μm,径184μm,願粒腺は雄で高さ150μmから200μm,径200μmから
400μmである。小穎粒線の大きさは成体とさほど変わらないが,願粒腺と粘液
腺は成体に比べて小さい。これらのデータからすると小頼粒線の成長は終わり
に近く,粘液腺と願粒腺は成体と比べて非常に小さいため,以後も成長が続く
はずである。また,表皮の多層化も進行すると思われる。
NieuwkoOPら(1956)の発生段階表では,尾が消失するまでの幼生の発育段
階を66のステージに分けている。これまで見てきたSt.59からSt.65は変態の
59
最終段階である。St.65では尾も消失しかけている。オタマジャクシの頃から無
尾両生類の変態過程には大きな変化が起きる。前肢と後肢が生え,尾や肺は消
失,植物食性から動物食性に変わり,小腸も短くなり,これらは成体の陸上生
活への進出に備えたものだと思われる。アフリカツメガエルも後述するように,
成体を取り巻く環境は大きく変化することがある。
Hasegawaら(2004)は,ニホンアマガエルが下腹部から水を吸収する際に,
下腹部皮膚に発現するAQp(AQp−h2およびAQp・h3)は, St,42から発現する
ことを明らかにした。ニホンアマガエルの発生段階表(lwasawa et a1.,1992)
は尾が消失するまでを46のステージに区分している。S七.42では角質層,願粒
層,有棘層が観察され,成体表皮の構造と似ていた。アフリカツメガエルでは,
皮膚の構造が成体型に似てくるのはSt.62であり,St.62はニホンアマガエルの
St.42と同様,変態が最盛期に相当する段階のように思われる。
アフリカツメガエルの小願粒腺では,水分泌に働くAQP・x5がS七.61で発現
し, St.62ではより強く発現するとともに, V’ATPaseの発現も見られた。AQp’x5,
V」ATPaseとも発現が認められてから,強く発現するまで2つのステージに渉っ
ている。これは,AQPx5とV’ATPaseの発現が,皮膚腺という構造体の形成と
関係しているためであろう。
他の無尾両生類と異なり,アフリカツメガエルは変態後も陸上に進出せず,
水中にとどまる。しかし,動物食に食性が転換することひとつとっても捕食の
ための運動量は急激に増大するであろう。また,水が干上がった時には泥中で
過ごし、時には陸地を横切っての移動も行う(Deuchar,1975)。変態の終了期に
完成する,水分泌に関与するAQP・x5が発現する小頼粒腺は,成体が直面する
水環境の変化に備えた適応機構と考えられるeまた,願粒腺と粘液腺が成体に
なっても成長するのに対し,小頼粒腺の大きさはほぼ同じであった。AQPx5
が発現する分泌細胞とV’ATPaseが発現するMR細胞の空間的配置も成体と同
様であった。変態が終わっても成長する穎粒腺や粘液腺と異なり.小願粒腺は,
変態完了時にはすでに完成している可能性が大きい。AQPx5陽性分泌細胞と
草ATPase陽性細胞のMR細胞は,他無尾両生類の皮膚腺腺房部でも見られるた
め,小頼粒腺は,他の無尾両生類皮膚腺と共通の機能を持つと考えられる。
AQP・x5の水分泌とv’ATPaseは密接に関係していると思われる・
今後は,小願粒腺においてAQPrx5以外のAQPを同定し, AQP相互の機能
的な関係を分子レベル,細胞レベルで明らかにしなければならないeごく最近,
ニホンアマガエルの粘液腺分泌細胞の側底部細胞膜には哺乳類AQP3と相同な
カエルAQPである, AQP−h3BLが発…現していることが明らかとなった
(Akabane et a1,,2006)。アピカル膜にはAQPx5抗体の陽性反応が見られた・
アフリカツメガエルでもAQP−h3BLのホモログを同定し,小穎粒腺の分泌細胞
での極在が明らかにできれば、小穎粒腺を含めた水輸送の仕組みを知る大きな
手掛かりになるであろう。また,AQP・x5やV’ATPaseの発現誘導はどういう仕
組みでなされるのか。幼生期の皮膚の構造変換は一般的に甲状腺ホルモン(TH)
によることが知られているが,今後,それらのホルモンとの関連性も解明する
60
ことが期待される。
61
‘● ぐ ’
違蕊薩一蕊_一 . 蕉巨㌻へ’
図4.tアフリカツメガエル変態過程における皮膚腺の形成
a:St.58の腹部皮膚のH.E染色像。表皮は表層細胞が発達しており,幼生型の構造がみ
られるが皮膚腺は見られない。b:St.59の腹部皮膚のH−E染色像。皮膚腺が認められる。
c:St.60の腹部皮膚のH−E染色像。表皮の多層化が見られ,皮膚腺に分化が認められる。
d:St.61の腹部皮膚のH−E染色像。分泌部と導管の分化が認められ.小穎粒腺(SG)t粘
液腺(M),頼粒腺(G)の特徴が見られる。e:St.62の腹部皮膚のH−E染色像。表皮の最
外層は角質層が占め,幼生型の表層細胞がほとんど消失した。f:St.65の腹部皮膚の1+E
スケールハー:
染色像。表皮の多層化と皮膚腺の分化が進み,成体型皮膚に似る。
50μm。
62
、、ご’・
、 L
‘b・
B
ノ
〔1’ 、ご・
b㌧:
図4−2アフリカツメガエル発生過程における小穎粒腺でのAQP・x5発現
a:St.61の小穎粒腺の蛍光免疫染色像。アフリカツメガエル発生過程において, AQP−x5
はSt.61の小頼粒腺から発現し始めた(矢印)。発現部位は核に近接した位置であった。
b:aのノマルスキー微分干渉像。L:内腔,スケールバー:1 OPtm。
63
,” 1
びク , ド ニ ニ :・・eV ・ {
∵l
図4−3 アフリカツメガエル発生過程における小頼粒腺の形成とAQP−x5,
V−ATPase E・subunitの発現
a:St.62におけるAQP−x5の発現(矢印)。 b:St.62におけるV−ATPaseの発現(矢頭)。 c:a
とbの重ね合わせ像。d:a, b, cのノマルスキー微分干渉像。∨−ATPase E−subunitの発現
はSt.62で初めて認められた。 e:St.65におけるAQP−x5の発現(矢印)。 f:St.65における
V.ATPase E.subunitの発現(矢頭)。9:eとfの重ね合わせ像。 h:e, f,9のノマルスキー微
分干渉像。St.65にはAQP−x5が発現する分泌細胞の間にV−ATPase E−subunitが発現する
ミトコンドリアリッチ細胞が見られた。L:内腔,スケールバー:10μm。
64
図4−4アフリカツメガエル皮膚過程における抗AQP−x5抗体,抗V−ATPase
E−subunit抗体の特性の確認
アフリカツメガエルSt65の腹部皮膚を用いてAQP−x5, V−ATPase E−subunitについて免
疫染色を行った。aは抗AQP−x5抗体による免疫染色像を示し, bはaの隣接切片で抗
AQP.x5抗体の吸収抗体を用いて免疫染色を行った像を示す。同様に, cは抗ウシガエル
V−ATPase E−subunit抗体を用いた免疫染色像を示し, dはcの隣接切片で抗ウシガエル
V−ATPase E−subunit抗体の吸収抗体を用いて免疫染色した像を示す。
小頼粒腺における抗AQP−x5抗体,抗ウシガエルV−ATPase E−subunit抗体陽f生反応は
吸収抗体により消失したが,表皮部分で見られる反応は吸収されなかった。スケール
バー二1 OFtm。
65
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eatesbeiana. ?roe, Japan So・. f・r c・mp. EndoarinoZ・20127
66
第5章 本論文の要約と展望
本研究では,無尾両生類における新たなAQPをクローニングし,水代謝との
関わりを分子・細胞レベルで明らかにすること,またAQP発現調節に関与する
分子を特定し,AQPが水代謝機構システムの中で働く仕組みを統合的に解明す
ることを目的として研究を行った。
本研究ではまず,アフリカツメガエル腹部皮膚から新規AQPのcDNAクロー
ニングを行い,得られたクローンが哺乳類AQP5と高い相同性を示したことか
らそのクローンをAQp・x5とし, AQPx5はAQp5のホモログであるというこ
とを証明した。哺乳類では,これまで13種のAQP(AQpo−12)が同定されてい
る(lshibashi et a1.,2000;Takata et al.,2004)が,その中でもAQp5は,唾液
腺,十二指腸腺,汗腺,涙腺などの外分泌腺の頂端部細胞膜に発現し,水の分
泌に関与していることから,今回クローニングしたAQP・x5もアフリカツメガ
エル皮膚に存在する皮膚腺で発現している可能性が考えられた。
AQp・x5と哺乳類AQp5のアミノ酸配列を比較すると,AQPx5もAQpに特
徴的な構造である6回膜貫通型タンパク質であり,AQPに共通に存在している
2つのNPAモチーフのうち2番目のNPAモチーフの上流に水銀感受性のシス
テインを持っていた。アフリカツメガエル卵母細胞を用いた水透過能の解析で
はAQp5と同様にAQPx5は高い水透過能を示したが,その活性はHgc12によ
って阻害された。しかし,構造的な特徴として,哺乳類AQP5にはN型糖鎖結
合部位が見られるが,AQp’x5には見られなかった(Raina et al.,1995)。また,
プロテインキナーゼAによるリン酸化部位やプロテインキナーゼCによるリン
酸化部位はともにAQP・x5には存在するが,プロテインキナーゼCによるリン
酸化部位は哺乳類AQp5には存在しない(Raina et a1.,1995;L鍵e七a1.,1996;
恥aneeta1.,1999)o
Rainaら(1995)は,哺乳類のAQp5, AQp2, AQp3, AQp4はcループに
N型糖鎖結合部位を持ち,膜内在タンパク質の機能に重要な役割を担っている
と報告している。その一方で,AQPIはAループにN型糖鎖結合部位を持っが,
この部位を欠損させたAQP1をアフリカツメガエルの卵母細胞で発現させて水
透過能の解析を行ったが,何の影響も見られなかった(Raina et飢,1995)。ま
た,無尾両生類のAQpでは,ニホンアマガエルのAQp・h2およびAQp’h3で
はN型糖鎖結合部位が見られる(Hasegawa et al,,2003)。これらのことから・
AQPに糖鎖が付加する意味については,哺乳類と無尾両生類とでは異なる可能
性があるのかも知れない。
第1章で述べたように,無尾両生類皮膚腺で水の分泌調節に関わる可能性の
ある因子としてミトコンドリアリッチ(MR)細胞に存在する液胞型プロトン
ATPase(V’ATPage)に注目した。ウシガエル傍脊椎石灰嚢のcDNAライブラリ
ーより得られた,ウシガエルV・ATPase AサブユニットとEサブユニットの
cDNA全長配列を解析したところ,他Pt V’ATPase AサブユニットとEサブユ
67
ニットと高い相同性を示した。
抗アフリカツメガエルAQP・x5抗体と抗ウシガエルv’ATPase Eサブユニッ
ト抗体を用いて,アフリカツメガエルの腹部と背側皮膚を蛍光免疫二重染色し
たところ,3種の皮膚腺のうち,小頼粒腺にAQPx5とv’ATPaseの陽性反応が
検出された。AQP・x5は分泌細胞のアピカル膜に強く発現していて,その分泌細
胞の間にV’ATPa日e陽性細胞の存在が認められた。電子顕微鏡観察により,
V’ATPaseが発現しているのはミトコンドリアを豊富に持つ細胞(MR細胞)で
あることがわかり,一方でAQP’x5が発現しているのは分泌細胞のアピカル膜
であることが確認できた。
アフリカツメガエルに特徴的な小穎粒腺に見られるAQP’x5を発現する分泌
細胞とV・ATPa8eを発現するMR細胞からなる分泌部の構造が,ニホンアカガ
エル,ニホンアマガエル,オオヒキガルなど他種の皮膚腺(粘液腺)でも観察さ
れたことは,大変興味深い。また,アフリカツメガエルの発生段階において,
この構造を持つ小願粒腺は,他の皮膚腺と比べて大きさからも変態完了直前に
完成すると考えられることから,変態後の成体の生活に不可欠な機能を持つも
のと推測される。このような腺房部の構造は,どのような意味を持っであろう
か。
これまでに,AQP5ノックアウトマウスを用いた研究により,ピロカルピン
の刺激によって分泌を促される唾液の量が40%にまで減少し,その分泌物は高
張で粘性が著しく増加するが,唾液アミラーゼや他のタンパク質の分泌には影
響を与えないことが明らかとなっている(Ma et al.,1999)。また,ラットでは
気道の粘膜下腺分泌細胞のアピカル膜にAQP5が局在し,そのバソラテラル側
にはAQp4が局在する(Nielsen. et al., 1997)。 Son・gら(2001)は・AQp5のノ
ックアウトマウスではピロカルピン刺激による分泌液の量が著しく減少するが,
一方で,AQP4ノックアウトマウスではこのような変化は見られなかったと報
告している。これらのことから,AQP5の機能は水吸収ではなく水分泌である
ことが示唆され,今回クロv−一一一.ニングされたアフリカツメガエルAQPx5の主要
な機能も水の分泌であると考えられる。
無尾両生類が艇上にいる間には,その皮膚は常に湿り気を帯びており,蒸発
熱による体温調節が可能である。これにはAQP・x5が発現する皮膚腺からの水
分泌が貢献していると思われる。水中生活が主であるアフリカツメガエルは,
水が干上がった時には泥中で休眠するため(Deuchar, 1975),この間の体温調節
などにAQP−x5からの水分は必要であろう。また,水中生活を送る動物の体表
の粘液には,外表への物理的損傷を著しく緩和し,水や塩類の透過調節によっ
て浸透圧を調節し,寄生生物の侵入を防止するなど多様な役割が考えられる。
水中生活をするアフリカツメガエルの小願粒腺と他の無尾両生類の粘液腺から
の水分泌は,粘液の粘性の調節に関与したり,イオンなど他の分泌物と相まっ
て粘液の多様な役割の一端を担っていると思われる。
一方,MR細胞には, V−ATPaseによるプロトン排出によるpHの酸性化作
68
用やアミロライド感受性Na+チャネル(ENaC)との共同作用でNa+とH+の交
換やCl−/HCO3交換体などとカップリングしたイオンの分泌作用がある。
v’ATPaseによるpHの酸性化作用については,その作用によってAQp・x5の
発現が調節される可能性やプロトンを小願粒腺の内腔に放出して分泌液の性質
に影響している可能性が考えられる。前者に関しては,植物AQPでは,酸性
pHによってAQPの働きが調節されている可能性が示唆されている
(Tournaire・Roux et a1,,2003)。しかし, V−ATLPa8eの特異的阻害剤であるパフ
ィロマイシンA1でアフリカツメガエル皮膚の小片を浸漬することで阻害実験を
行い,電子顕微鏡で観察したところ,AQP・x5の発現量や局在に変化は認められ
なかった(データは示さない)。V’ATPaseの機能を阻害しても,変化が見られな
かったことから,MR細胞によるpHの酸性化作用がAQPx5の発現調節に関与
している可能性は考えがたい。また,哺乳類のAQP3は酸性pHによって働き
が阻害されるが,AQP5に対しては効果がないという報告もある(Zeuthen et
a1.,1999)。これらのことから、 v’ATPaseはAQp・x5の調節には関与せず,
V・ATPaseからプロトンを放出することによって分泌液を酸性にし,寄生生物の
体内侵入を防御しているなどの生体防御に関与している可能性があるかも知れ
ない。
両生類の皮膚は,イオン輸送メカニズムの研究のモデルとして注目されてき
た。両生類の皮膚にあるMR細胞は, CO2からH+とHCO3’を生成する反応を触
媒する炭酸脱水酵素II(carbonic anhydrase II;CA II)を含み(Rosen and
Friedley,1973;Katz and Gabbay,1988), H+はV’ATPaseによってMR細胞か
ら皮膚表面に輸送されるが,その際,Na+の吸収を促進すると考えられている
(Ehrenfeld et al.,1985;1989)。:れらのことから, MR細胞からのイオンによ
って分泌液の成分,浸透圧などに変化が生じるであろう。しかし,AQPx5が発
現する分泌細胞とMR細胞の間でどのような調節が行われているのかは未だ不
明である。
生物種によって分泌細胞の細胞膜には種々のイオンチャネルやポンプが存在
しており,これらの分子に対して,高次の調節機構が存在するとすれば,生物
種の水環境への適応様式の違いを反映していると思われる。その相違を明らか
にするためには,無尾両生類皮膚腺の分泌機能の分子・細胞レベルの解明がな
されなければならない。先にラット気道の粘膜下腺分泌細胞のAQP5とAQP4
について述べたが,ヒト唾液腺の分泌細胞では,アピカル膜にはAQP5が,バ
ソラテラル膜にはAQP3が局在し,アピカル側への水の通路を形成する(Gresz
eta1.,2001)o
ニホンアマガエルの粘液腺では,ごく最近,分泌細胞の側底部細胞膜にカエ
ル新規AQpであり,哺乳類AQp3と相同性の高い, AQp・h3BLが発現するこ
とが示された(Akabane et a1.,2006)。したがって,アフリカツメガエルの小願
粒腺の分泌細胞でも同様のAQPの局在が予測される。つまり,小頼粒腺分泌細
胞の側底部細胞膜から取り込まれた水が分泌細胞の頂端部細胞膜から分泌され,
69
泥中での休眠時などにこの水分の蒸発で体温の調節をしている可能性が考えら
れる。
これまで明らかになった無尾両生類のAQPを中心とした水輸送の仮説を図
示する(図7’1)。水は,血管内皮細胞のAQP・h1様タンパク質を通って血管か
ら組織に輸送されると考えられる。組織液中の水は,皮膚腺腺房部の分泌細胞
の側底部に発現するAQP・h3BL:様タンパク質により細胞内に入り,細胞内の水
はアピカル膜に発現するAQP・x5様タンパク質によって腺腔に分泌されると想
定される。また,腺腔の水は,エキソサイトーシスによって分泌された分泌腰
粒を溶解する可能性がある。L田ywhite(1971)によると,ウシガエルの皮膚に
分泌された水の蒸発熱で体温の上昇が抑えられた。AQPx5によって分泌された
水も同様の働きをしている可能性がある。また,MR細胞に発現したV’ATPase
より内腔に輸送されたプロトンは,分泌液のpHを酸性化し,皮膚に放出された
分泌液が寄生生物の侵入を防いでいることが考えられる。
今後,無尾両生類の皮膚腺に発現するAQPの役割を分子レベル,細胞レベル
からより詳細に解明できれば,無尾両生類の水環境への適応機構や陸上進出へ
の進化適応戦略の具体例を提示できると期待される。
70
Mucous gland(Small granuEar gland)
Lumen
Water
H+
体温上昇防止
分泌穎粒の溶解
図5無尾両生類の皮膚腺におけるAQPを介した水輸送モデル
血管内皮細胞のAQP−hl様タンパク質を通って血管から組織液中に輸送された水は,皮
膚腺腺房部の分泌細胞の側底部に発現するAQP−h3BL様タンパク質により細胞内に入り,
細胞内の水はアピカル膜に発現するAQP−x5様タンパク質によって腺腔に分泌されると考
えられる。また,腺腔の水は,エキソサイトーシスによって分泌された分泌穎粒を溶解する
可能性が考えられる。さらに,皮膚腺(粘液腺、小頼粒腺)により体表に分泌された水によ
り体温上昇が抑えられると想定される。
71
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73
謝辞
本研究を行うにあたり,親切丁寧なご指導をいただいた静岡大学理学部生物
学教室の鈴木雅一先生に心より感謝します。
アクアポリン分子の分子レベル,細胞レベルの解析について議論を頂いた,
群馬大学大学院医学系研究科第一解剖学教室の長谷川敬展博士,静岡大学理学
部生物学教室の中倉敬氏に深く感謝します。
そして,社会人の私に勉学の機会を与えて下さり,3年間の実験や論文作成に
終始懇切丁寧なるご指導と親身な励ましを下さった静岡大学理学部生物学教室
の田中滋康教授に心より感謝します。
74