ソリッドブシュ ローラ プレート 近年のカワサキのハイパワーモデルに純正採用されている江沼 (スリード)チェーン。特徴的なプレー チヱン製作所の ThreedD トのデザインの裏にはハイパワーを受け止める技術が凝縮され、 効率的にパワーを伝達する性能が秘められている 山下博央=写真・文 photographs & text by Hirohisa Yamashita なチェーンは、強くて軽く、そして ﹁チ ェ ー ン メ ー カ ー と し て 理 想 的 ールを新たに開発することが急務と かったのだ。そのため、グリスとシ とシールが摩擦熱などに耐えられな ーンが一般的となるが、このグリス シールでフタをしているシールチェ 起こるため、今はグリスを封入して びはピンとブシュが摩耗することで 軽量化を実現している他、各部品の 徴的なプレートは強度を保ったまま スリードチェーンについて、その特 プ レ ー ト の デ ザ イ ン が 特 徴 と な る。 ックされており、3D形状の美しい ース用に開発した技術がフィードバ スリードチェーンは同社がロードレ ーンが純正で採用されている。この Ninja H2/R 純正チェーンの豆知識 πニンジャH2/Rに専用で開 発された同社のスリードチェー ン。前例のないハイパワーマシ ンに装着されるため、試験機も 新しくしたうえで膨大な試験回 数をこなし開発されたのだ 伸びないことです。ただ、究極の性 なり、グリスは同社の長年の研究と シールチェーンの先駆者 さらなる進化を遂げる 能としては、エンジンパワーを10 0%伝達できることが理想です ﹂ また、シールは世界初となるシール 認められてカワサキのハイパワー車 これらにより大幅なパワー伝達効率 そう話すのはニンジャH2/R用 チェーンの開発に携わった江沼チヱ チェーンを開発した同社の技術力で、 の向上が実現されており、それらが 開発により最適なグリスが作られた。 精 度 や 組 み 立 て 精 度 も 上 げ て い る。 ン製作所・技術部技術開発課の上月 37 に純正で採用されているのだ。 ‘ロードレースでつちかった技術を投入し、08 年に登場したスリードチェーンはその機能美が高 く評価されて、09 年グッドデザイン賞をバイク用 チェーンで初めて受賞している スリードチェーンの最大の特徴ともいえるプレー トは、従来のプレートに対し、強度をたもちつ つも軽量化を目的としてプレート角の面取りが 行なわれている。プレート自体は精密鍛造加工 で 3 D デザインに成型されており、強さと軽さ を両立させているのが特徴だ。また、ピンにも 穴あき加工をほどこすなど、徹底的な軽量化を 行なっている。チェーンの軽量化はバネ下重量 の軽減につながるうえに、エンジンパワーの伝 達効率向上にもつながるのだ 14 Rなどに用いられているN 軽量化の追求が チェーンの外観を変える ZX︲ プレート Xリングの材質と形状を最新の物に KEY POINT ③ 洋明氏だ。上月氏は早い段階からニ ‘ローラ部表面には無数の凹凸が見ることがで きる。これはスプロケットとの衝撃を相殺する ことを目的として、ショットスピニングでほどこ されているもので、耐久性向上に大きく貢献し ている ンジャH2/R用チェーンの開発に スプロケットと接するローラ表面にはショットピ ーニングにより表面に凹凸が付けられている。 これは小さな鉄の球などを金属表面に高速であ て、無数のくぼみを作り表面硬度を上げるとと もに、繰り返し荷重に対しては金属表面にある 圧縮残留応力が作用して衝撃力を相殺するため のもの。これらによりローラの耐久性を向上さ せているのだ。なお、ローラと、その内部のソ リッドブシュには高精度の冷間鍛造加工がほど こされている 14 力を限りなく100%近く伝達でき 表面処理をほどこし ローラの耐久性を向上 10 るようなチェーンの開発が続けられ ローラ ている。 KEY POINT ② そして今も安全性はもちろんのこ 変更することで伸びに対する耐久性 を向上させ、正式採用に至ったのだ。 と、理想を追い求めてエンジンの出 ‘外側と内側のプレートにはさまれている黒い ゴムがシールリングであり、写真は X リングから 発展した QX リングとなる。内部のグリスの封印 と異物の混入を防ぎ、チェーンの寿命を延ばす シールの役目はピンとブシュの潤滑を行なうグ リスを封入しておくことがまずは第一。そして 第二は、ピンやブシュなどに砂などの異物が侵 入するのを防ぐことにある。ピンとブシュは摩 擦で熱も発生するために、その熱をグリスが吸 収する働きもあるという。また、シールは摩擦 抵抗ともなるため、摩擦抵抗を減らすこともね らって形状を変化させてきており、初期の O リ ングから X 字型の X リングへ、そしてさらに摺 動抵抗を小さくした QX リングへと進化している 携わったが、それは苦難の連続だっ グリスを封じ込め 異物の侵入を防ぐ たという。 シール ワーマシンには同社のスリードチェ KEY POINT ① ニンジャH2/R用をはじめ、Z X︲ RやZX︲ Rなどのハイパ 機能美にも優れた 艶やかなチェーン と く に 問 題 と な っ た の は 伸 び で、 初期段階の物は1000㎞しかもた ピン チェーン ハイパワーマシンに用いられるチェーンには、強力なエンジンパワーで引っ ぱられ、しかもその状態で高速回転を強いられるため、ピンとブシュの摩擦 熱が発生する。この熱はシールによって封入されているグリスで吸収をして いるが、これが不足、もしくは耐えられないとピンとブシュが摩耗してチェ ーンが伸びる原因となる。このため、ハイスペックチェーンでは、プレート などの強度が確保されていることはもちろんだが、キモとなるのがグリスと シールで、ニンジャ H2/R 用のチェーン開発もグリスとシールの開発にとく に重点が置かれたという なかったという。このチェーンの伸 シール ブシュ Chain Part.4 馬力を受け止める車体パーツ ハイスペックチェーンのキモ 内プレート穴 14 年に発表されたニンジャ H2/R に純正 採用されているのが、江沼チヱン製作所 のスリードチェーンである。ニンジャ H2/ R 用チェーンは専用設計であり、その開 発には車両コンセプトの段階から加わっ ていたという。開発段階では今までのモ ーターサイクル用の試験機、ZX-14 R の開 発に使われた物でも対応できず、改良を 加えて試験を行なったそうだが、かつて ないほどの試験を繰り返したという ø 外観は ZX-10 R や ZX-14R と同 じスリードチェーンだが、もちろ んニンジャ H2/R 用の専用品と なる。 また、 ニンジャ H2 とニ ンジャ H2R ではリンク数が異な るが、チェーン自体は同じ物が 使われている 世界初のシールチェーンを Z1 に採用 EK チェーンは 1974 年に O リン グを用いたオイルシール付き耐 久チェーンを開発。これが今で はチェーンの標準となる世界初 のシールチェーンで、Z1 に純正 で採用されることとなる。シー ルの目的は摺動部のピンとブシ ュの間にグリスを保持しておく ことで、これにより耐摩耗性を 向上させてチェーンの伸びを防 いでいる。EK チェーンでは 88 年に O リングを X 字に変えた X リング。さらには、03 年に QX リング、そしてスーパースポーツ モデル向けの NX リングなどを 開発した 取材協力 ‘ Z1 で採用された EK チェーンのシール チェーン。現在も絶版車向けのサイズが ラインナップされているが、シールなどは もちろん最新の物が使われている。また、 軽量化を目的としたプレートホールも追加 される 江沼チヱン製作所 ローラチェーンの総合メーカーとして 高品質、高性能なチェーンの開発、生 産を行なう。同社のモーターサイクル 用チェーンは EK チェーンのブランドの 他、 グッド デ ザイン 賞 も 受 賞 し た (スリード) 」 がある 「 ThreeD † 0761-72- 0286 9 http://www.enuma.co.jp 36
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