1 - Nomura Research Institute

1
コンサルタントが語る
日本企業型全社改革の形;働き方改革
は多い。
雇用に手を付けずに業務生産性向上
収益の拡大、ひいては企業の成長・発展に
(=業務コスト削減)
を実現するという難易度
つなげることができます』
と記されており、各社
日本企業の労働生産性は低いと言われ続けてきているが、
日本における雇用環境において
の高い経営課題をどう克服していくか、その
の取組事例を紹介しながら、企業の働き方
人の問題まで踏み込んだ大規模な構造改革は難しい。
その中で、働き方に焦点をあて、改革に
経営手腕がまさに問われている。
改革を後押ししている。
着手し、雇用問題に触れず、生産性向上、
コスト削減、売上拡大を実現している企業がでて
実際、
カルビーや伊藤忠商事では、働き方
きた。働き方改革の肝は、制約条件を設定し、現場に明確な目的と権限を与え、
その成果を
改革を通じて業績拡大につなげている。
カル
定量的に評価することである。
このことが自発的な改善活動を促し、
その結果、企業としての
2.働き方改革の肝
ビーのオフィス改革、
在宅勤務、
ダイバーシティ
生産性向上につながっていく。
推進や、伊藤忠商事の朝型勤務シフトは多く
今、
「働き方改革」が注目されている。厚生
のメディアでも取り上げられており、
自社の働き
業務生産性の向上(=業務コストの削減)
を
労 働 省でも「 働き方・休み方 改 善ポータル
方改革の参考にしている企業も多いのでは
実現するという考え方である。
このサイトの概要
サイト」を立ち上げている*2。
ないか。NRIでは、
この2社を含め各社の働き
ここで問題となるのは、
適正人員にした後に
には、
『 適切な労働時間で働き、
ほどよく休暇を
方改革について事例調査を進めてきたが、
日本企業の経営層の方々と意見交換する
余剰となった人員の処遇である。
これに対し、
取得することは、仕事に対する社員の意識や
その結果、働き方改革は、以下のように「制約
際に、
「業務生産性が低い」
「間接コストが
多くの日本企業は、余剰人員は企業の成長に
モチベーションを高めるとともに、業務効率の
化」
「自分ゴト化」
「定量化」の観点から、業務
重たい」
「業務が前時代的だ」
といった問題を
伴う業務量の拡大で吸収する、
すなわち、
現行
向上にプラスの効果が期待されます。社員の
生産性向上の実現に大きく寄与すると分析
異口同音に聞くことが多い。バブル経済崩壊
の人員数を維持しながら企業を成長させる、
と
能力がより発揮されやすい環境を整備する
している。
後の90年代後半より20年に渡り、多くの企業
いったシナリオを描いているが、その実現は
ことは、企業全体としての生産性を向上させ、
がこれらの点を問題にしてきたものの、ほと
容易ではない。2010年頃より真のグローバル
んど解決できずに今日に至ってしまっている。
化によって成長の糧を海外に求めていくように
90年代後半は
“BPR(ビジネス・プロセス・
なると、
人材不足はむしろ海外で発生し、
成長
リエンジニアリング)
”
や
“強く
・小さい本社改革”
、
を期待しにくい日本国内では、部門によっては
2000年代には
“シェアードサービス化改革”
余剰が解消されず、
ミスマッチが構造的に
といった経 営 改 革 手 法が取られ、
リーマン
発生してしまっているからである。
このような
ショック時の
“一律カット運動”
を経て、2010年
余剰人員をどう適正化していくかが改革の
頃より
“構造改革”
といった全社改革の取組み
大きな壁になっている。
へと遷移している。
その中で、
“ BPO(ビジネス・プロセス・アウト
その中で、一貫して重要なテーマとしてあ
ソーシング)”
を活用し、
業務のアウトソーシング
がっているのは、
「 ①業務プロセスのシンプル
を人材の受入れとセットで行うケース*1もみら
化・標準化・IT化」
と
「②業務量に応じた人員
れるが、
まだ、
一部の先行事例に留まっている。
数の適正化」
である。
具体的には、
業務プロセス
BPOを活用した改革は、
日本企業の労使の
1.日本企業の全社改革の系譜
上級コンサルタント
経営コンサルティング部
須藤 光宜
のシンプル化・標準化を進め、
IT化にまで昇華
関係においては、
まだハードルが高いと言わ
させることによって業務のやり方を簡便にし、
ざるを得ない。
業務に従事する人員数を減らしていくことで、
「雇用は守る」
という信念を持つ企業経営者
2 コンサルタントが語る-1
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図表1
働き方改革事例
企業名
概要
(制約化;青、
自分ゴト化;オレンジ、定量化;緑)
1
カルビー
効率よく仕事をして成果を出す人を評価する。業務棚卸会議なので無駄な業務
の排除等によって仕事が早く終わるような環境を作り、個人の生活を充実させる。
終業時間の徹底。
2
伊藤忠商事
朝型勤務を通してより効率的な働き方を実現し、お客様対応を徹底する。会議中
での議事録の即時作成、出張報告をA4で1枚に限定、移動中に上司へ報告等の
仕事の手順を見直し。
3
INAX
仕事上のこと、
もの、時間、量などが、今の2分の1で同じ効果を出せないかと考える
「HANBUN活動」を全社、部門、個人で実施して、労働生産性を向上させる。
標準会議システムの導入、等の支援システムも構築。
※現LIXIL
4 富士ゼロックス
5
SCSK
「成果を出すためには残業は当然」
から
「定時内に業務完了して成果を出すことが
基本」に意識を変革させ、生産性を向上させる。
トップは簡潔な資料での意思決
定を徹底、現場からの決裁や契約手続きの簡素化、等の仕事の仕方を変える。
年休所得日数20日(100%)と、
月間平均残業時間20時間を全社目標として設定
し、有給休暇の取得推進や残業時間の削減等によってワークライフバランスを
実現する。上司が資料の具体的なイメージを明示する、等の仕事の仕方を変える。
*1.日立製作所はグループのシェ
アードサービス会社の一部
機能をジェーンパクトにBPO
をするとともに、
従業員の移籍
も行っている
http://www.hitachi.co.jp/
New/cnews/month/
2014/08/0805b.html
*2.http://work-holiday.mhlw.
go.jp/index.html
コンサルタントが語る-1
3
1
コンサルタントが語る
「制約化」
図表2
仕事シフトの考え方(経理業務を例)
仕事分類
人材マップ
グローバル経理財務戦略機能
こなすことで手いっぱいで、
レポーティング業務
にまで手が回らない、
といったギャップが生じて
労働時間の削減である。具体的には、残業や
いるからである。
休日出勤の禁止、
有給休暇取得日数の設定が
自分ゴトとして捉えるきっかけとして、筆者
あげられ、
それ以外にも出張禁止、会議数の
は、働き方改革が有効であると考える。働き方
削減、会議時間の短縮等もある。仕事に使わ
改革の原則は、①今自分がしている仕事を
れる時間を徹底的に制約し、限られた時間の
新しい人に任せる(任せられるように仕事の
中での成果を求めるといった改革である。
仕方を整える)、
②自らは新しい仕事にステップ
業務改革において難しいのは現場の説得
アップする、
の2点であるが、先の経理業務に
である。既存業務のやり方に慣れている現場
ついていえば、ベテラン経理担当者から日常
では、新しい業務への変更をなかなか受け
の経理実務を切り放し
(原則①)
、
レポーティン
容れたがらない。一方、働き方改革によって
グの仕事を設計・従事させる
(原則②)
ことと
●グローバル・
キャッシュ・マネジメント
●会社目標数値
(売上・利益・ROA・ROE…)
の提示
●グローバル会計システムの構築・決定
経営支援機能
高度な仕事へのシフト
働き方改革においてまず設定されるのは、
●資金調達
(資本・借入…)
方針の策定 ●経営レポーティング・分析・チェック
●経理業務監査・内部統制・
ガバナンス
●機関投資家向け
I
R戦略
●事業ポートフォリオの評価・判断
事業支援機能
●M&Aサポート
(財務DD)
●投資計画評価
●事業評価レポーティング・分析・チェック
会計実務機能
●原価計算実務
●会計システム企画・設計・改善
●月次決算処理、
決算資料作成
●各社向け管理データ集計・提供
業務内容を変えることなく時間に制約を設け
なる。すなわち、各自の仕事を棚卸し、標準化
●債権処理、
債務処理、出納
ることになれば、社員が自ずと創意工夫し、
した上で新しい担当者に引き継ぐとともに、
●制度変更対応、
税務当局対応
その中から業務改革の要望も出てくる可能性
自分に新たに求められている仕事を把握し、
もある。
このことが生産性向上につながって
用件を定義し、
そこに適応していくことを迫る
いくのである。
のである。
この明確な指示によって、仕事の
指標や、
有給休暇取得数といった年間の労働
生 産 性を高めることを自分ゴトとして認 識
日数に対する指標に細分化することもできる。
させ、
自立的な改善活動に向かわせることが
また、
出張数や会議時間といった正確にモニタ
全社横断で業務プロセスを抜本的に改革
できる。その動きが会社大に広がっていくこと
リングし易い項目をもとに具体的な数値目標
このように働き方改革は、全社改革の推進
することは、膨大な作業を要し、効果が出るの
で全社改革の機運も高まっていくのである。
を掲げて改善を図りつつ、
その後は、
これまで
につながるものである。
日本企業の全社改革
定量的に把握できなかった業務においても、
において、
欧米流のやり方をそのまま適応させ
処理時間や処理数等を指標にすることにより、
ようとしても上手く機能しないことは、
過去20年
「自分ゴト化」
に時間がかかる。実行のタイミングを見極め、
周到な準備をしなければ改革の成功は難し
「定量化」
●入出金処理、
資金管理
●税務申告書作成
:To-Be
(あるべき姿)
:As-Is
(現状の延長線上にある姿)
3.働き方改革の意義
い。
また、
こうした大規模改革を推進するため
業務改革の成果を定量的に示すための
定量的にモニタリングすることが望ましい。
の経験からも明らかである。
日本企業は、QC
には、社員それぞれが「自分ゴト」
として業務
目標として、生産性向上を設定するケースも
働き方改革はタイムマネジメントである。
この
活動、小集団活動、
カイゼン活動といった現場
プロセス改革を捉え、
それに関与していくこと
あるが、実際に生産性を定量的に測ることは
ように定量的な目標を設定することによって、
発で考え、推 進していくことに長けている。
が必要になるが、
それとて簡単なことではない。
難しい。
また、
自社の生産性が他社と比較して
社員一人一人がタイムマネジメントに注力できる
そのため、
まずは働き方改革の旗印のもとで、
どのような業務であれ、経営者は、
より高度な
高いのか低いのかといった評価も、各社の
よう仕向けていくことが大切である。加えて、
上述したように、制約条件を設定し、現場に
仕事内容と成果を期待しており、
例えば、
経理
業務内容や組織形態が異なるため意味をなさ
マネジメント層には、
部下のタイムマネジメントを
明確な目的と権限を与え
(自分ゴト化)
、
それら
業務に対しては、経営の意思決定に資する
ない。働き方改革は、先の制約化にも示した
促進することを義務づけ、
それを徹底できない
の結果を定量的に評価することから始めて
内容のレポーティングを求めるが、
その一方で、
通り、労働時間の削減を第一義的な目的と
のは上司の責任であるということに対して社内
みてはどうか。
このことが自発的な改善活動を
経理担当責任者(ここではベテランの経理
することが多いが、
そこから、出社時間・退社
でコンセンサスを形成することも大切である。
促し、結果として、企業としての生産性向上に
担当者を想定)は日常の経理実務の仕事を
時間といった1日のタイムマネジメントに対する
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つながっていくのではないか。
コンサルタントが語る-1
5
2
コンサルタントが語る
図表1
キャンペーンで終わる働き方改革とあるべき働き方改革
目的
キャンペーンで
終わる働き方改革
働き方改革の進め方
∼経営トップとPMO(Project Management Office)
による構想と実行∼
近年、働き方改革に取り組む企業が増えているが、一時的な“キャンペーン”で終わって
しまうケースも少なくない。あるべき働き方改革は、人事的なルールや制度の導入だけでなく、
業務やシステム、時には組織や評価の仕組みにまで踏み込んだものになる。本稿では、
その
ような働き方改革の進め方を段階別(構想段階及び実行段階)
に解説するとともに、経営
トップとPMO
(Project Management Office)
の役割について論じる。
1.働き方改革とは:業務やシステム
にまで踏み込んだ全社改革
主な手段
●残業削減
●社員の努力
●有給休暇取得促進
●人事ルール・制度整備
(定時退社目標の設定、在宅勤務制度等)
●ワーク
・ライフ・バランスの向上
●社員一人ひとりの意識と行動を変える
あるべき
働き方改革
(結果として)
→残業削減
→有給休暇取得促進
→ワーク・ライフ・バランスの向上
→顧客への付加価値増大
(上記だけでなく)
●会社全体での取組み
●業務・
システムの改革
(時には)
組織体制・評価制度の変更
の成果を上げている。
取組内容としては、
まず、
経営層や管理職が関与している会議をすべて
洗い出し、
その目的・内容を精査した上で統廃
3.働き方改革の進め方:
構想段階と実行段階の要諦
合を実施した。
また、
会議時間や議題に関する
働き方改革を全社の取組みとして進めるに
働き方改革とは、その名のとおり
“改革”
で
に、
会議の議長になることが多い管理職に対して
あたって注意すべきは、
まず構想段階を疎かに
あり、過去数十年間に根付いてきた社員一人
ファシリテーション研修を実施するなど、
効果的
しないことである。
なぜなら、何が課題となって
ひとりの長時間労働を是とする意識と行動を
な会議運営に資する制度・仕組みを導入した。
働き方改革を実施するのか、働き方改革を
長時間労働の抑制、
多様な働き方等の実現
変えることである。
そのため、
社員の努力のみで
さらに、
アンケートによる実施状況のモニタリング
通じて何を目指しているのかは、企業によって
のため、働き方改革を進める企業が増えて
達成できるものではなく、会社全体で取り組む
を行うことで定着を図っている。
異なるためである。構想段階を疎かにし、
他社
いる。今まではハードワークで知られる業界・
べきものであり、そこでは、人事的なルールや
また、働き方改革を実施する際には、
「顧客
で実施されている施策を上手く取り込むこと
企業においてさえ残業時間削減や年次有給
制度の導入に加え、業務やシステム、時には
を蔑ろにしてまで、残業時間を削減してよいの
に注力するケースも見られるが、
そうしたやり
休暇取得、
ワーク・ライフ・バラ
組織や評価の仕組みにまで踏み込んで変えて
か」
「若手のうちは多くの仕事を実施してこそ
方では、
実行段階において社員がついてこず、
ンスの向上などを目指し働き方
いくことも必要となる。
成長する」
という反対の声があがってくること
方向性を見失うことになりかねない。
改革に取り組んでいる。
もある。
これに対し、
別のある企業はシステム化
さらに、
実行段階においてPMO機能の設置
しかしながら、
こうした取組
によって対応を図っている。具体的には、会社
は必須である。
これは、
実行計画の推進を現場
と顧客先との往復や、社内スケジュール調整
任せにすると、
進捗や発現効果が芳しくないと
等のムダな時間の削減を目標に、直行直帰を
いう状態に陥ることが多いためである。
推奨するとともに、外出先でも働けるようタブ
ここでは、構想段階と実行段階に分けて、
レット及びスケジューラーを導入した。
さらに、
働き方改革の進め方を整理したい。
佐野 智之
問題については、
会議ルールを設定するととも
コンサルタント
業務革新コンサルティング部
主任コンサルタント
業務革新コンサルティング部
渕上 穣
になってしまう、
といった具合である。
みも、一時的な
“キャンペーン”
で終わってしまう企業が少なく
2.業務やシステムにまで踏み込んだ
働き方改革の施策例
ない。その要因は様々である
が、
目標達成に向けた個々の
働き方改革に関する施策の一例として、
取組みを、社員の努力のみに
「社内会議の削減」があげられる。
「会議の数
顧客データ分析の専門組織を設置し、営業
1)構想段階の進め方
任 せてしまっている場 合 が
が多い」
「情報共有のみに時間を費やして
パーソンをサポートすることで、顧客への提供
構想段階で重要なのが、
ありたい姿、
働き方
大半であることが指摘される。
いる」
「決定事項が曖昧なまま終わる」
といっ
価値を向上させる取組みも実施した。
このよう
の課題、施策を策定し、
その全体像を関係者
例えば、
定時になると管理職が
た問題はよく聞くが、
単に回数や時間の削減を
に、働き方改革の先進企業では全社の取組
と共有することである。
その全体像を理解しや
帰宅を促したりするが、
部下の
指示するだけでは、
改革は一向に進まない。
みとして実施しており、
業務やシステムにまで
すい形で取りまとめたのが「働き方改革のコン
業 務 量自体は変わらないた
社内会議の問題に対し、
ある企業では、
会社
踏み込んでいることが特徴である。
セプトマップ」である
(図表2)
。構想段階では、
め、
その取組みも一時的なもの
(働き方改革事務局)
が主導して取り組み、
一定
6 コンサルタントが語る-2
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これに従い「①ありたい姿と働き方の課題の
コンサルタントが語る-2
7
2
コンサルタントが語る
図表2
働き方改革のコンセプトマップ
(イメージ)
ありたい姿
限られた時間で最大限のアウトプット
会社と個人が成長し続ける
成長を実感できる
設定」、続いて「②施策の作りこみと重要施策
プロセスである。
ここでは、
構想段階よりも関係
の設定」の順に策定することを勧めたい。
者が増えるため、経営トップの働き方改革に
「①ありたい姿と働き方の課題の設定」では、
対する強い意志がより重要となる。
しかし、
経営
働き方改革によって何を目指しているのか、
トップの強い意志がある場合でも、
実行が現場
最終的にそれぞれの社員はどういった状態で
に任されてしまうと、
日常業務が逼迫する中で
あるべきなのかを明文化する。
ここでは、経営
遅々として進まないという状況が起こりがちで
トップの意志を反映することはもちろん、社員
ある。計画を着実に推進するためには、
「経営
に受け入れやすい表現にすることが重要と
トップの弛まぬ牽引」とともに「PMO機能の
なる。
そのための手段として、
ワークショップ等
設置」が必要となる。
を開催することも有効である。続いて、
ありたい
●経営トップの弛まぬ牽引
姿を実現するにあたっての現状の問題点を
働き方改革を成功させている企業では、
経営
幅広い部門から抽出する。
これらのプロセスを
トップ自らが改革を牽引し、働き方改革を実現
通じて明らかになった
“複数部門に絡んで存在
するという意志を体現している。経営トップの
環境整備、
わかりやすい働き方の指標設定・
な方法としては、
主要部署の管理職を集めて、
する共通の問題点”
に鑑み、全社として取り
強い意志は、構想段階はもちろん、関係者が
管理等、様々なものがあげられるが、
集約する
事前に働き方改革の重要性や必要性、施策
組むべき働き方の課題を特定する。
増え、実施期間も長くなる実行段階ではより
と、
「改革の進捗状況の見える化・共有」
「働き
内容を説明した上で、現場のキーパーソンを
次に「②施策の作りこみと重要施策の設定」
一層重要となる。経営トップは、終始一貫した
方改革を推進する伝道師の巻き込み」
「施策の
伝道師としてアサインすることがあげられる。
を行う。施策の作りこみでは、働き方の共通
姿勢を見せる必要があり、
その姿勢を発信し続
評価と追加施策の検討」の3つに整理される。
「施策の評価と追加施策の検討」
もPMO
課題に対応した施策をトップダウンで設定する
けることが大切である。
なぜ働き方改革が必要
「改革の進捗状況の見える化・共有」におい
の機能として重要である。
働き方改革では現場
ことに加え、
①において各部門から抽出された
なのか、
どういう姿を目指すのかといった理念
ては、社員に対し、働き方改革が本格的に進
のメンバーが分科会形式で目標に対する施策
現状の問題点に対応した施策を設定すると
が浸透するまで何度も発信し続けなければな
んでおり、
自分も働き方を変えなければ取り残
を検討、
実行していくが、
PMOはその検討結果
いう両面のアプローチをとる。
施策実現の可能
らない。
そうでないと、
社員の意識や行動は変わ
される、
といったことを認識させることが重要で
を受けて、
施策とその効果の妥当性を検証し、
性を高めるためには関係部署を巻き込んで
らず、
しばらくすると元の状態に戻ってしまう。
ある。具体的には、全社への経営メッセージの
必要に応じて追加施策を検討させ、働き方
検討するとともに、
適宜、
部門間の調整等を行う
PMO機能についても、
経営トップの一貫した
発信、
ポスター・標語等の掲示などの演出に
改革の成果を確実に発現するように導くと
ことが望ましい。
このステップでは、
多数の施策
姿勢によって働き方改革に対するお墨付きが
加え、周囲の部の取組み状況(部内の残業
いった役割を担う。
を検討した上で、
核となる重要施策を設定する
与えられていなければ、社内から協力を得る
時間の推移、
業務のムダの排除への取組み等)
ことになる。その際は、会社全体の働き方に
ことはできず、
改革は立ちゆかなくなる。
の情報共有などがあげられる。
働き方改革は、最終的に社員一人ひとりの
影響が及ぶこと、
想定される効果が大きいこと
●PMO機能の設置
次に、
「働き方改革を推進する伝道師の巻き
行動が変わることがゴールである。
それを実現
が基準となる。実際に、
こういった基準を通じて
ここでいうPMO機能とは、単に進捗管理や
込み」に着手することになるが、
ここで言う
するためには、上記のような活動を通じて、
抽出した重要施策が、
最終的には、
業務やシス
結果の取りまとめを行うだけでなく、経営トップ
伝道師とは、働き方改革を各現場で推進する
会社が働き方を
“本気で”変えようとしている
テムにまで落とし込まれていくことが多い。
の影武者として、働き方改革を牽引し、成果を
にあたり、
「この人が中心で進めるなら自分も
ことを全社員に認識させ、
自分自身も働き方を
2)実行段階の進め方
出すまで伴走する機能のことである。具体的
協力する」というような気持ちにさせるキー
変えなければいけないという意識を持たせた
実行段階とは、
構想段階で策定した施策を
な役割としては、
全体計画の設定、
組織ごとの
パーソンのことである。働き方改革では、
こうし
上で、
さらに行動に移させるといった着実な
具体化し、実行計画を立て、実施・検証する
改革状況のモニタリング、
組織間で競争しあう
た人材を事前に巻き込む必要がある。具体的
流れを作りこむことが重要である。
リソース最適化
業務の
ムダ取り
役割分担の
見直し
権限移譲
承認プロセス
改革
評価制度
運用の適正化
会議体
改革
ドキュメント
改革
実現の流れ
人員配置の
見直し
ムダな業務の排除
検討の流れ
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働き方の
課題
施策
システム化
人事制度
見直し
勤務制度
見直し
間接部門
アウトソーシング
責任権限
見直し
組織
見直し
ペーパレス化
電子承認
システム導入
ファシリテーション
研修
コンサルタントが語る-2
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3
コンサルタントが語る
図表1
中期経営計画における人的リソース見積り
(人)
3000
2500
中期経営計画における
働き方改革施策導入の意義
(人)
3000
やり切れない戦略の発生
2500
戦略5
2000
2000
1500
1500
1000
1000
2020年を見据え、中期経営計画策定に着手する企業は多い。中期経営計画のテーマと
500
500
して、
トップラインを伸ばしていくことは第一義的に議論されるが、
トップラインと収益性の両立
0
0
した向上を実現するための人的リソース見積りまで及ぶと蓋然性の確保が難しくなる。蓋然
性の高い中期経営計画にするためには、業務の働き方改革(生産性向上)
が必要となり、
働き方改革実現の確からしさも要求される。
1.中期経営計画で
掲げられている定量目標:
トップラインと収益性の両立
2.人的リソースを見積った
中期経営計画立案
戦略はやり切れそうだが、
この人員数の推移で、
狙う収益性は確保できるか?
戦略4
戦略3
戦略2
(年度)
2015 2016 2017 2018 2019 2020
戦略1
定常業務
(年度)
2015 2016 2017 2018 2019 2020
人員数の
自然増見込み
時 点で「リソース不 足で全ての戦 略をやり
程度の生産性向上が必要になってくるのか
切れなかった、
だからトップラインを達成できな
(生産性向上の目標値)。
また、
どのように生産
かった」
もしくは、
「想定よりも多くのリソースが
性向上を進めていけばよいのだろうか(生産
必要になり、
トップライン目標は達成できたが
性向上に向けた方策)
。
営業利益目標は達成できなかった」
という結果
ここでは、
「計画策定時∼計画終了時」を
になってしまう。
示した財務数値の変化モデルを用いながら、
生産性向上の目標値について論じたい。
中期経営計画には、
多くの事業戦略や機能
図 表 2は計 画 策 定 時の業 績 が、売 上 高
3.働き方改革(生産性向上)の
目標値
主任コンサルタント
業務革新コンサルティング部
加藤 貴一
日本企業の中期経営計画を見ると、多くの
戦略が描かれる。
そこでは、
戦略に応じた必要
企業で高い定量目標が掲げられている。
トップ
な投資・人的リソースの見積りが必要になる
ラインを伸ばす(売上高を高める)
だけでなく、
が、
いざ見積もってみると、
人的リソースの必要
収益性の向上
(営業利益率を高める)
との両立
量が自然増見込みを上回ることが少なくない。
計画策定に必要なことは、
個々の戦略に必要
して、
売上高1,200億円、営業利益100億円
を目指す企業は多い。NRIによる独自調査の
いわゆる
“やり切れない戦略”
になってしまう
な人的リソース量の総和と、
中期経営計画の
(営業利益率8.3%)
を目指すこととしている。
結果、8割を超える企業が「トップラインと収益
(図表1(左))。実現性の高い中期経営計画を
定量目標の達成に必要な人的リソース量が
これら売上高と営業利益を実現するために、
性の両立」
を掲げている。
立案するためには、人的リソースが自然増で
イコールになっているかを検証することである
他の財務項目も含めてどのような変化を見込む
トップラインを伸ばしていくことは第一義的に
どれだけ増えるかを見積った上で、戦略をな
が、
人的リソース量に差分が生じる場合がある。
必要があるのか、
中期経営計画で描いた戦略
議論されているが、利益目標の達成に蓋然性
らす必要がある。すなわち、戦略の順序関係、
その場合、
トップラインと収益性の両立が難
の前提を財務数値に落とし込んでいく。
があるかどうかまでを中期計画において十分
優先度、今後の採用計画等を踏まえ、各年度
しくなるため、
次なる打ち手として、
働き方改革
変動費は、
売上高増加による規模の経済に
に検討されているケースは少ない。
トップライン
における事業戦略、機能戦略の実行可能な
(生産性向上)が必要になってくる。
では、
どの
よる恩恵を受け、
また中期経営計画で生産
を高めながら収益性を高めるとなると、人的
範囲を見積ることである。そうすることにより、
リソースの生産性を高めることなくしてその
まず、人的リソースと戦略実現の整合性が
実現は難しい。2020年を見据え、中期経営
取れることが確認できる
(図表1(右))。
計 画 策 定に着 手 する企 業は多いが、人 的
そこで問題になるのが、
この人的リソースの
リソース確保の方策に踏み込み、
生産性向上
推移で、中期経営計画の狙う収益性を確保
にまで言及した中期経営計画はどれほどある
できるかどうかである。人的リソース確保の
だろうか。
実現性と、
収益性を踏まえた上で、
個々の戦略
図表2
中期経営計画の財務数値の変化モデル
計画策定時
計画終了時
売上高:2割増
売上高
1,000億円
変動費
700億円
減価償却費
50億円
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5.0%)の企業を想定した財務数値の変化
モデルである。
ここでは、計画終了時の業績と
を展開させていかなければ、経営計画終了
10 コンサルタントが語る-3
1,000億円、営業利益50億円(営業利益率
限界利益
300億円
固定費
250億円
営業利益
50億円
人件費
100億円
R&D・広告 その他
100億円
差分:1割
生産性向上
が目標値
人件費:1割増
売上高
1,200億円
変動費
800億円
減価償却費
70億円
限界利益
400億円
固定費
300億円
営業利益
100億円
人件費
110億円
R&D・広告 その他
120億円
コンサルタントが語る-3
11
3
コンサルタントが語る
図表3
定量目標を実現する人的リソースの再見積り
(人)
3000
2500
人員数の自然増見込みでは、
定量目標は実現できない
(人)
3000
2500
働き方改革
(生産性向上)
をすることで、
定量目標
(トップラインと収益性の両立)
を
実現する
戦略5
戦略4
戦略3
革新を掲げていることから、原価率の低減が
人的リソース量(財務数値の分析から算出
2000
2000
見込まれるため、
その増分は売上高比(20%
されたもの)
から、
働き方改革(生産性向上)
の
1500
1500
増)
よりも小さくなる
(約14%増)
となると想定
目標値が明らかになる。
1000
1000
する。
固定費は、
売上高増のための生産増強、
では、
どのように働き方改革を進めていけば
500
500
拡販戦略などを実行するために多くの投資が
よいのであろうか。見積もった中期経営計画の
必要になる。
また、
投資に応じて増大する減価
戦略業務をより少ない人数で実行する、
という
償却費は売上高比以上に増大する。R&D・
ことも考えられるが、
それでは中期経営計画の
中期経営計画とは、
会社の成長計画である
観点から考え、施策を立案、実行する役割を
広告・その他費用は詳細には想定できないもの
事業戦略や機能戦略の達成可能性が低く
と同時に人員の成長計画でもある。
人的リソー
担う。
の、
売上高に比例して増加していくと想定する。
なる恐れがある。
スの増大を最小化しながら、
新しい戦略を着実
また、施策の検討にあたっては、中期経営
このように中期経営計画の目標や戦略を財務
それとは別の突破口として、
定常業務の進め
に実 行しない限り
「トップラインと収 益 性の
計画の策定時点で現状業務の棚卸調査を
数値に落とし込んでいくことで、
固定費の中の
方を改革することが有効ではないか。
現在まで
両立」は望めない。やみくもに新しい戦略を
実施することも重要である。現状業務を的確
人件費はほとんど増やすことができないこと
実施してきた定常業務を極力標準化し、
中期
実行するのではなく、
働き方改革
(生産性向上)
に把 握できていれば、働き方 改 革( 生 産 性
が見えてくる。
計画で策定した付加価値の高い戦略業務に
を見据えながら人的リソースを計画的に配置
向上)
の余地を予め掴むことができ、
その目標
すなわち、
働き方改革(生産性向上)
の目標
人員を振り向け、その実現にチャレンジして
することが、会社の成長と人員の成長の両立
値をより実態を反映したものに設定できる。
値は、
トップライン変化に対する人件費変化の
もらう、
という考え方である。定常業務は、
これ
につながるのではないか。
そうすることによって、中期経営計画の定量
差分である。
このモデルであれば、売上高を
までの企業成長を支えてきた源泉ではある
目標も自ずと適度にストレッチな数値(簡単に
2割増やす定量目標に対して、人件費は1割
が、時代の要請に伴い継ぎ足し的に増やして
は到達できないが到達可能な範囲の数値)
に
しか増やせないため、
「差分の1割」分の生産
きた業務や、
何らかの問題が起こった際に堅牢
性を向上させることが必要不可欠となる。
生産
化してきた業務が多く、
重複感や過剰感がある
性を1割向上させる戦略が中期経営計画に
ことは否めない。
またそうした業務に従事して
織り込まれない限り
「トップラインと収益性の
いると、
新たな中期経営計画に対するチャレンジ
中期経営計画において働き方改革を実現
あるべきである。
両立」は達成されないのは必然である。
意欲が促されない、
といったモチベーション
する上では、計画の策定時点で、働き方改革
ここまでの考察を踏まえ、最後に、
中期経営
図表2は単純化したモデルであるが、
目標値
上の問題もある。全員が少しずつでも新たな
(生産性向上)
にかかるすべての施策を具体化
計画における
「トップラインと収益性の両立」
と
を具体化するためには、
戦略を構造化し、
数値
中期経営計画の戦略業務に関わり、
会社全体
させておく必要はない。
もちろん幾つかの施策
いった目標達成の蓋然性を高めるために、
に落とし込むことが重要である。
「戦略」
「人的
で中期経営計画の目標実現に向かう雰囲気
案を準備することが望ましいが、
最も重要なこと
再確認すべきポイントを整理したい。
リソース」
「財務数値」が結びつかない限り、
を作るためにも、定常業務の改革は不可欠で
は「設定した働き方改革(生産性向上)
の目標
●人的リソースの計画が練られ、蓋然性ある
実現性の高い中期経営計画とはいえない。
ある。
値」に向かって、継続的に施策を立案・実行・
定量目標になっているか。
定常業務の働き方改革(生産性向上)に
モニタリングし、
また次の施策を展開していく
●働き方改革
(生産性向上)
の必要性はないか。
より、
「トップライン・収益性ともに向上させる」
と
こと
(PDCA)である。そのためには、働き方
いう定量目標に蓋然性を持たせることがで
改革
(生産性向上)
をミッションとした組織を立ち
きる。例えば、働き方改革の実現を前提として
上げることが重要である。同組織は、働き方
人的リソースを再見積りすることも可能である
改革を実施する際の優先順位(どこから手を
4.働き方改革(生産性向上)方策
個々の戦略に必要な人的リソース量の総和
と、
中期経営計画の定量目標の達成に必要な
(図表3)。
12 コンサルタントが語る-3
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戦略2
0
(年度)
2015 2016 2017 2018 2019 2020
5.中期経営計画における
働き方改革実現に向けて
0
戦略1
定常業務
生産性向上
(年度)
2015 2016 2017 2018 2019 2020
人員数の
自然増見込み
定量目標を
実現する
人員数
なってくるのではないか。
中期経営計画の期間
中に、
モチベーションを維持して働き方改革を
継続するためには、
目標は適度にストレッチで
●生産性向上の目標値は具体化されているか。
●生産性向上に向けた方策は具体化されて
いるか。
つけるか)
を、
重要度/リソース/難易度等の
コンサルタントが語る-3
13
4
コンサルタントが語る
業務再編による働き方改革の実現
ポイント1
:成長投資時期にリソースを追加投入
3.基本的だが継続が難しい見える化
2000年以降、間接コスト引き締め策としてのシェアードサービス化は、最もポピュラーな手
して本社業務の見える化を進める
「シェアードサービス化とは、定常業務を
法の一つとして多くの企業で採用されてきた。既にグローバル展開を終えた企業のほとんど
本社とSSC会社で相互に状況を理解する
本社からSSC会社に切り出すことであり、
その
が、
シェアードサービス会社
(以下SSC会社)
を設立し、
さらには、BPOベンダーを活用した定
ためには、
まずは、
ブラックボックス化された
業務運営に本社は関与しない」
という間違った
常運用業務の切出しを実現している。
業務を見えるようにしなければならず、何らか
理解が、
本社、
SSC会社双方に定着してしまっ
シェアード化の本格的な流れが始まって15年。市場環境は変化を続け、本社が求められる
の業務フローやマニュアル類を揃えることが
ていることが、3つの壁が生じる根本的な問題
業務内容も大きく変化している。この時期に本社とSSC会社の関係を改めて見直し、SSC
必要となる。
しかし業務の見える化ができて
となっている。
会社を競争力のある定常業務基盤として再構成していくことが求められる。
いる状態を維持するためには、越えなければ
企業グループとしての成長戦略を本社が
ならない大きな壁が3つある。
企画し、
それを支える運用をSSC会社が担うと
①業務を見える化するための工数が無く、
いった構造を、機能実現のための仕組みと
常に後回しになる
捉えれば、成長戦略への投資タイミングでは、
②見える化に必要なスキルを持った人材が
本社側は新たな経営課題に対応する人材を
限られている
集中投下する必要があり、
そのためには、
定常
このブラックボックス化により、
本社側はコスト
③一度見える化できてもすぐに例外が
運用化した業務をSSC会社に切り出すことで、
過去のSSC会社化は、短期間で結果が
以外の要素でSSC会社を評価し、
見直す力を
山積する
その人材を捻出する必要がある。
また、
この
求められたため、
その多くは、
定常業務人材と
失うため、
結果として効率性を欠いた旧態依然
これらの壁を越えるために、外部コンサル
タイミングでは、
本社側の業務体系を抜本的に
その人に紐づいた業務をそのまま引き受ける
としたサービスが提供され続ける状況を変える
タントなどを投入したプロジェクトを立ち上げ、
整理することが望ましく、業務フローやマニュ
形で設立された。
ことができなくなってしまう。
それだけではなく、
業務フローやマニュアル類を拙速に揃えて、
アル類の作成を目的として、必要なスキルや
基 本 的にシェアードサービス化は、景 気
時流の変化に合わせて本社側に新たな定常
その通りに業務運用をしようとする取組みも見
オペレーションの標準化を担う専門人材を追加
低迷などでコスト削減が必要な時期に取ら
業務が発生した場合も、SSC会社側にそれを
られるが、
それだけでは社員のモチベーション
リソースとして確保することが必要である。
この
れる経営施策という性格がある。
その際、
業務
吸収する手立てを打てないまま、
本社に残った
は上がらず、
スキルも蓄積されない。
これらの
ことが、本社、SSC会社双方の業務の見える
と人をセットで引き受ける方法は、
シームレスに
人材からその業務を切り離すことができなく
壁を上手く越えるためには、以下のポイントを
化を見据えた第一歩として、最もリーズナブル
業務をシェアードに移管でき、
雇用調整の即時
なる。そして、
このことが足枷となって、本社の
踏まえることが重要である。
な取組みであると考えられる
(図表1)。
的効果も期待できることから、多くの企業が
活力も次第に低下してしまう。
選択してきた。
この状況を変えるのに必要なのは、非常に
しかし、
その目的と手法は、
定常業務人材の
基本的なことだが、
運用業務がどのような流れ
モチベーションダウンや、
本社業務と定常業務
と手続きで実行されているかを、本社とSSC
の分断とブラックボックス化を招き、
このことは、
会社双方で詳細に把握し、
ムダ取りや、改善
サービス品質や効率性を向上させることを
できる領域/できない領域とその理由について
非常に困難にしてしまった。
相互に理解することである。運用業務の実態
1.コスト削減を短期に実現した
SSC会社の功罪
2.基本に立ち返ることの重要性
上級コンサルタント
業務革新コンサルティング部
藤村 武史
を十分に理解した上で、定常化する仕組みを
作り上げることが望ましい。
14 コンサルタントが語る-4
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図表1
全体再構成と改革初段の追加リソース
新たな経営課題への
対応企画
既存の
本社企画業務
SSC会社
運用業務
新企画へ本社リソースをシフト
曖昧になった本社業務の再整理
定型運用化部分の巻取り・効率化
新たな経営課題への
対応企画
再構成された
本社企画業務
再構成された
SSC会社運用業務
グループ全体の効率化に向けた最初の動きは本社側の再整理に追加人材を投入すること
コンサルタントが語る-4
15
4
コンサルタントが語る
図表2
契約の高度化とSSC会社管理の高度化
SSC会社の進化
本社 ─ SSC契約
契約を実現するために必要なSSCの仕組み
人が切出されただけ
(人員管理のみ)
本社からの
本社−SSC契約
移管人工での契約
移管人材の雇用管理、内部統制対応等基本的な運用の仕組み
業務改善を継続する
管理の仕組みの確保
業務分野での
工数での契約
●SSC内時間管理の仕組み
SSC内コスト最適化
BPRの実現
サービス単位
工数での契約
●IT化等での時間管理の仕組みの詳細化
外販も可能な
競争力あるSSC管理
サービス
対価での契約
追加リソースは、
「ポイント2」で触れる品質
関する経験を積んでいることから、方法論と
管理業務を担うシニア層を作業面で支えな
進め方を提供すれば、サイロ化した業務に
がら、
定常業務を見える化した上で、
その業務
対しても、
従事者を束ねて全体最適の観点から
を引き継ぐことのできる人材でなければなら
業務を再構築することが可能である。
本社での
ない。定常業務を単に回すだけの人材を前提
業務の見える化や、
SSC会社への定常業務の
とすると、その効果は極めて限定的である。
移管の段階だけでなく、最終的にはSSC会社
見える化をSSC会社内でも拡張していくため
の業務再構築の際にも、
このような人材をキー
には、業務吸収のフレキシビリティだけでなく、
パーソンとして継続して登用することができる。
移管業務に対する実行責任と、その状況や
ポイントの1つ目で触れた本社業務の再整理
見える化を皮切りにした変革に興味を持ち、
このことは、時間はかかるものの、持続的かつ
改善変更内容を本社に報告する責任を持つ
で移管される業務量は、既にSSC会社が抱え
それを実現する能力を兼ね備えた人材である
有効に見える化を実現するポイントとなる。
ことを明確にする必要がある。
さらに、
見える化
ている業務のほんの一部であり、
本社との契約
ことが求められる。
ポイント3:見える化活動の成果をシェアード
された業務を改善しやすい単位に分解し、
内容を高度化させるためには
(図表2)
、
時間を
ポイント2:業務経験が豊富なシニア層を品質
サービスの契約内容に反映させる
どの業務でどれだけの工数がかかっているの
かけて実績を積んでいくことが不可避である。
管理業務に活用する
景気低迷期のコスト削減を目的としたシェ
かを把握するための仕組みを備えておけば、
2つ目のポイントにおけるSSC会社の業務
業務全体を俯瞰的に見ることのできるシニア
アードサービスでは、往々にして本社サイドの
本社とSSC会社間で、各業務の品質やコスト
再構築についても、SSC会社の多くの現場
層こそが、
品質を担保しながら見える化を推進
意向を臨機応変に反映できるようにするため
について議論しやすくなる。
では、
旧態依然としたやり方で業務が推進され
するためのキーパーソンとなる。業務移管後に
に、
業務内容を精査することなく、
人工及び人件
このように、契約によって本社側のオーナ
ていることに留意する必要がある。サイロ化
相互に状況が見えなくなった状況では、業務
費の支払のみを対象とする大まかな委託契約
リングの考え方が明確になり、
さらにSSC会社
された状況を打開するためには、品質管理を
の個別分断化と、
担当者の責任範囲のサイロ
となっている場合が多い。BPOベンダーなど
から移管業務の品質とコストに関する適切な
担うシニア層を中心として、
業務フローやマニュ
自らの
化*1 が激しくなり、ほとんどの人材が、
自立化した事業者の多くが、サービスレベル
情報が提供されるようになれば、年間の人工
アルを用いながら業務の見える化を粘り強く
業務の位置づけや、
他の業務との関係や役割
アグリーメント
(以下SLA)
を詳細に規定し、
交渉だけだった本社とSSC会社の関係を、
月次
進めることが重要である
(業務の見える化)
。
が分からなくなってしまう。そうした人材に対
自らのリスクを避けつつ収益を上げるビジネス
や四半期などのタームで、業務の成果を共有
さらに、見える化された業務については、時間
して業務フローの書き方などの手法を説明
モデルを確立しているのとは対照的である。
するだけでなく、
業務改善について双方で議論
管理の仕組みの中で評価するとともに、生産
して見える化の活動を任せる方法もあるが、
ポイント2で触れた、
シニア層を中心とした
できる関係に変えることが可能になる。
性を高める意味において、
社員の習熟度合や
部分最適の観点で自らの業務を自分が分かる
業務の見える化活動の成果を委託契約内容
形でしか描出できず、結果として、意味の無い
に最大限に活用することが、本社とSSC会社
業務フローやマニュアルがバラバラと作成
の関係をより積極的なものに変える重要な要素
される状態に陥ってしまうことが多く、
全体最適
になる。
その際にはまず、本社が、SSC会社に
の目線で必要な情報が整理されることは到底
移管する業務プロセスをオーナリングするという
期待できない。
ことを契約に明示すべきである。
これによって、
これら3つのポイントは、成長期のSSC会社
再配置や、
業務ITインフラの刷新も可能となる。
一方、IT化をはじめ、
グループ内で様々な
移管業務に対しては、SSC会社ではなく本社
における業務再編成(BPR)
を進める上での
BPRが実現すれば、
コスト競争力のあるSSC
業務を経験し、
グループ内での関係性を把握
自らが結果責任を取ることになり、
シェアード
要諦であるが、
それとて一朝一夕で実現でき
会社へと変革を遂げ、
グループの運用基盤と
しているシニア層は、業務フローとマニュアル
サービスの改善に対する本社の意識が高まる
るものではなく、以下のようなステップを踏んで
してだけでなく、
グループ外へのサービス提供
の作成を含め、様々な形で業務の見える化に
ことが期待される。一方、SSC会社側では、
進めることが望ましい。
も可能となる。
16 コンサルタントが語る-4
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(業務の見える化)
●標準業務
(業務フロー)
での業務管理の仕組み
(スキルの見える化)
●サービス投入時間計測に基づく社員スキル把握の仕組み
●サービス別の標準工数、
標準スキル体系の確立・維持管理の仕組み
スキルの見える化を併せて進める必要がある
(スキルの見える化)
。
4.SSC会社の
業務再構成(BPR)のステップ
業務の見える化と、
スキルの見える化は、
SSC会社自身がBPRに踏み切るための必須
要件であり、
この段階でSSC会社内での人材の
*1.組織の業務プロセスやシス
テムなどが、他部門との連携
を持たずに自己完結して孤立
した状態
コンサルタントが語る-4
17
特
ン
集イ
タ ビュ
ー
トップマネジメントが語る
遠心力と求心力
全体最適を見据え、
グループ本社を中心に、
持続的繁栄のための
戦略を講じる
清水 洋史 氏
不二製油グループ本社
代表取締役社長
ルネサンス=原点回帰
原点に立ち返りながら
(ルネサンス)
、技術経営、
グローバル経営、
サステナブル経営のあり方をストーリー化する不二製油グループ。
新たに設置したグループ本社の意義と役割について、立松、須藤
が伺いました。
(2015年12月1日実施、敬称略)
それで中期計画についてはローリング
をかけることにしました。
会社の将来像を考える際に、
3年に
“モノづくりでも
コトづくりでもない時代”
の
マーケティング思考
意味がないのだとすれば、一体何年
がいいのでしょう。
そんなことを考えて
清水 高度成長期は、新しい商品を
いたとき、
ある大学教授が役員研修の
出せば、企業としての価値を創出で
場で「38年後の不二製油はどうなって
きた
“モノづくり”
の時代でした。物が
いますか?」
と質問されたのです。
ほと
溢れてくると、そこに物語を付加した
んどの役員がそれに答えることができ
“コトづくり”
によって価値を創出する
ず、マーケットも残されていない状況
環境を勝ち抜いていくことはできない、
求める価値が変われば、不二製油が
ませんでした。
この質問には、大学を
ことができました。
しかし、
今は、
消費者
でした。設立時から他社と同じような
とのメッセージです。その後改訂し、
従来のままの価値を提供し続けても、
卒業した教え子が22歳で入社し、
60歳
が何を本当に欲しているのかが分か
ことをしていては話にならない、
そんな
標語すら違えども、
この3つが意味する
それは価値づくりにならないのです。
で退職するときに、
その会社がどうなっ
らない時代です。何が欲しいのかを聞
事業環境だったのです。
経営方針は今もなお生き続けている
その変化を自分自身の問題と捉え、
ているのかを、
現時点の経営者が考え
かれても
「何でも」
としか答えられず、
が、
同計画の特徴や、
前回の中期計画
不二製油のDNAとでもいえる革新
のですが、
どうも言葉だけが先行し、
迅速に対応しなければならない時代
ておかなければいけない、
言い換えれ
モノもコトも、
それだけでは通用しない
との違い等についてお教えください。
と挑戦は、
こうした生まれ環境による
その奥にある本質を深く考えない風潮
になっているとの認識が不可欠です。
ば、
そういう将来ビジョンのない会社に
時代です。
日本国内だけでなく海外も
清水 中期経営計画の内容に入る前
ところが大きいといえます。
我々の経営
になっていることを危惧していました。
この原点を求めるということと、
世の
教え子を預けることはできない、
という
同様です。新興国では、
日本の経験が
に、
まず、
ルネサンスという言葉に込めた
基本方針の原本にあたるものは1960
ですから、
もう一度原点に戻ろうでは
中の変化に対応しなければならない
意味が込められていました。
活かされてきましたが、
今はもう安閑と
思いについて説明します。
不二製油は
年に作られています。
そこには次のよう
ないか、
原点に戻って、
それぞれの意味
ということが、
中期計画にとって大事な
そのとき私も全く同じ考えを持ちま
はしていられません。
戦後の1950年に設立しましたが、
この
なことが書かれてありました。
を、
新しい時代の中で改めて探究しよ
前提だと思いましたので、はじめに
した。
中期計画も必要でしょうが、
もっと
だからこそ「そうそう、
これが欲し
業界では新参者でした。
油脂というの
1つ目が「顧客中心主義」です。
すな
うではないか、
ということを問題提起
説明させていただきました。
さて、
本題
大切なことは、将来、不二製油がどう
かったんだ!」
と気づかされる提案が
は一般食品とは異なり、
米や小麦粉と
わち、顧客に貢献していく会社である
したわけです。
そのことを表現する何か
に戻りましょう。
いう会社であらねばならないのかを
できたときに、
消費者は感動するのです。
いったような、
国を成立させるために
べしということです。2つ目には「不断
いい言葉はないかと検討したところ、
私が会社に入ったころから中期計画
考えることだと思いました。そのため、
我が社は、
元来、
技術系のモノづくり企
必要不可欠な基本的食糧資源の1つ
の革新を断行する」
と書いてありました。
ギリシャ時代に原点を求めて新しい
は3年周期で作成されてきましたが、
中期計画に先立ち「ありたい姿2030」
業ですが、
このように価値観が変わっ
になります。基礎食糧に関する企業
日常的に革新しなければならないという
時代を創った「ルネサンス」に行き着い
時代の変化が激しい今でも3年周期
と「あるべき姿2020」を取りまとめる
ていく時代では、
次の時代を見越して
の多くは明治や大正時代に設立し、
ことです。断という字が2つもあります
たわけです。
です。
おかしいと思いませんか?1年目
ことにしたのです。
中期計画について
消費者が何を望んでいるのかを考える、
大企業へと成長していきました。
不二
ので、
その当時は相当な覚悟であった
もう1つお話しておきたいことがあり
は精緻な計画、2年目も予想可能な状
も、今までの延長線上で考えるだけで
マーケティング思考が必要です。
製油が設立した時には既に大きな製
と思います。3つ目は「自己啓発」です。
ます。
それは、
世の中が大きく変化して
況下での現実的な計画、
そして3年目
は不十分です。
これら将来像に対する
だからといって、
マーケティング経営
油会社があり、油脂原料は統制下で
自分たちはまだレベルは低い、
だから、
いる中で、不二製油自身も変わらな
に思い切ってストレッチさせる、
そんな
位置づけを明確にし、
もう少しロング
が我が社の競争優位になるとは思っ
割り当てを受けない限り事業ができ
常に勉強していなければ厳しい競争
ければならないということです。
社会が
計画は達成できた例がありません。
タームで考える必要があると思います。
ていません。競争優位性はあくまでも
NR
I 御社では、
中期経営計画として
「ルネサンス不二」
を策定されています
18 トップマネジメントが語る
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集イ
タ ビュ
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トップマネジメントが語る
不二製油グループ本社
代表取締役社長
清水 洋史 氏
技術経営です。マーケティングの力で
「ビジョン」
「バリュー」
「プリンシプル
ある考え方を教えていただけますか。
フレッシュバターに着目し、それらの
技術優位性の持つ付加価値を一層
( 行 動 原 則 )」を取りまとめました。
清 水 グローバル経 営を「日本 」と
代用油脂を製造するようになり、需要
高めていこうとする考え方が、
この中期
バリューについては4つの価値観 を
「海外」に分けて考えるのではなく、
を求めて、
海外へと進出していったわけ
計画の根幹にあるのです。
整理しましたが、
その1つに「スピード
日本を
「ワン・オブ・世界」
と捉えることが
です。今では、色や味や香りのある
NRI その考え方のもと、技術経営、
とタイミング」があります。
この考え方も、
グローバル経営の本質だと思っていま
チョコレートを世界中で供給するまで
グローバル経営、
サステナブル経営の
随分前に先輩からの教えを受けた
す。すなわち現地の消費者のために
に至っています。
3本が上手く絡み合って中期計画が
ものであり、
とても印象に残っていま
現地の拠点が事業を行い、現地で儲
差別化が要求される商品で勝負
できているのですね。
したので、
今回のバリューの1つに組み
けて現地で繁栄することが基本です。
するとなると、現地のニーズに合わせ
清水 そうですが、
3本の柱の立て方
込みました。
その意味は深いのですが、
今、
現地の消費者のためにと言いま
た開発をしなければなりません。
まず
が今ひとつよくない。位層の違う言葉
ある中国人通訳の方が端的に表現
したが、不二製油には、現地のニーズ
は重点地域と考えるアジアにおいて、
が3つ並んでいることに不自然さを
してくれました。
スピードは「一気呵成」
。
に合わせて事業を展開するものと、
そう
シンガポールに海 外 初の本 格 的な
*1
感じます。標語にはなっているので何
スパンといったように様々な時間軸が
一緒に幸せになりたいという考え方を
そしてタイミングは「臨機応変」です。
でないものがあります。後者の典型は
R&D拠点を置きました。
アジア各地の
となく雰囲気は伝わるのですが、多く
ありますが、
まず、
こうした時間軸をどの
重視しています。
NR
I 「一気呵成」
と
「臨機応変」です
油脂そのものです。油脂は、原油を
ニーズをきめ細かく把握しながら商品
の中期計画がそうであるように、そこ
ように整理されていますか。
また、
社長
そうしたマインドは私の中に染み付
か。
いいですね。
精製して製造するのですが、物性は
開発を行っています。
からはストーリーが見えてきません。
として、
どのような点を重視していき
いています。営業を経験させていただ
清水 そしてこの言葉は、前提として
あるものの、基本的に匂い
(香り)
だと
この3 本が言いたいことは、実は
たいとお考えでしょうか。
いたおかげで、
コミュニケーション力に
「選択と集中」という意味が隠れて
か、
味や色がない製品です。
そうすると、
以下のことです。
つまり、
「サステナブル
清水 時間軸については話をする
長けているところは長所であると自負
います。
こうした価値観も、
諸先輩方と
スペックとコストでもって世界中で商売
に生き続けるためには、
日本だけでは
だけなら上手にできますが(笑)
、
実際
しています。
いろいろ考えて、
たくさんの
いろんなところで話をし、
私なりに解釈
ができるのです。一方、
チョコレートは
だめで、
グローバルに事業を展開して
は、
そう簡単に整理できるものではあり
人と話ができる、
この強みを適所で
してきたものです 。先ほどの社 長と
そうはいかない。色や味や香りが差別
NR
I グローバル経営を推進する中で、
いかなければならない。具体的には、
ません。私は営業部門の出身ですが、
活かしていきたいと考えています。
あり
して何を大事にしていますかとの質問
化要因になってきますが、
それぞれの
世界の主要拠点に権限を委譲して
技術経営で勝負していくことが基本
不二製油の主たる営業スタイルは、
がたいことに、営業時代に担当して
がありましたが、
こうしたコミュニケー
要素は、地域によってニーズが異なり
遠心力を高めていく一方で、
御社では
路線になる」
ということです。
3つを個別
決して単年度の売上だけを考えている
いたお客様とのコミュニケーションが、
ションとそこで築いてきた人と人との
ます。例えば、
日本人が美味しいと思う
この
(2015年)
10月に、
グループ本社制
に語っても道筋は見えてきません。
これ
わけではく、
「 共創」
と言って、
お客様
私にとって生きた教育になっていまし
関係をあげたいと思います。
チョコレートと中国の人が好むチョコ
へ移行されました。
ある意味、求心力
ら3つの関係性を語りながら中期計画
といっしょに商品を作り上げていくこと
た。
これまで、ユーモアや深みのある
レートは少し違うのです。
を高める方針を並行して打ち出された
をまとめる必要があるのです。
です。具体的には、お客様の業界が
人、
他人とは違う角度でモノが見える
不 二 製 油は油 脂 の 会 社として、
わけですが、
このグループ本社の役割
今、
どのような事業環境にあって、
将来
人に数多く出会ってきましたが、そう
元来は、
サラダ油に代表されるような、
についてお教えください。
何を求めているのかを考えながら商品
した諸先輩方には、いまだに教えを
色や味や香りのない製品を製造して
清水 不二製油は、業界の中では
を提案していくのですが、
お客様が
請うています。
NR
I 次に、
グローバル経営について
いました。
しかし、
日本では油脂会社と
小さい会社でしたが、
技術力をベース
NRI 経営には、単年度でどれだけ
考えているタームが必ずしも短いもの
グループ本社制への移行を機に
お伺いします。
ブラジルのハラルド社
して後発であり、
ブランド力にも大きな
にしながら、社会の高度成長とともに
売上げたかという1年スパンの時間軸、
ばかりではなく、その意味で、
時間軸
「グループ憲法」を制定しましたが、
の買収や、
シンガポールのアジアR&D
差がありましたので、
サラダ油では勝負
急速に発展してきました。
ところが、
その
中期計画のような3年スパン、
「ありたい
はまちまちです。お客様が想定する
そこでは、将来の「ありたい姿」
「ある
センター開設など、海外展開を積極
することができませんでした。そこで
結果、
パワフルな現場と弱い本社という
姿」や「あるべき姿」
という10∼20年
時間軸の中で、
共に考えることによって、
べき姿」の実現に向けて、
「ミッション」
的に進められていますが、
その背景に
価値の高い油脂であるココアバターや
構図ができてしまったようです。役員も
お客様とのコミュニケーション
グローバル経営の
背景にある考え方
グループ本社の役割
∼遠心力と求心力∼
*1. ①安全と品質、環境、②人のために働く、③挑戦と革新、④スピードとタイミング
20 トップマネジメントが語る
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トップマネジメントが語る
経営コンサルティング部 上級コンサルタント 須藤 光宜
ユーザーイノベーションと
新規事業
現場代表のような感じで、会社全体と
役割になります。
そのためには、
グロー
改革を支援させていただきましたが、
してどちらの方向に進むべきか、
という
バルで人材を採用していく必要もあり
その際、マネージャーの育成が喫緊
ことを議論することよりも、
現場に対して
ますし、即戦力を中途採用することも
の課題としてあがりました。
この点に
適切に指示することが優先されていま
大事です。
人材の評価や働き方につい
ついて、
どうお考えですか。
NR
I 最後に新規事業についてお伺
に欲しいものに、我々はまだ十分に気
した。
経済が右肩上がりの頃はそれで
ても考えないといけません。
清水 会社を成長させていくために
いします。御社は、
「健康」や「安全」
を
づいていないだけなのです。
イノベーションを徹底的に活用すれば、
その機会はまだまだ多くあると考えて
います。
消費者の意識の中にある本当
も良かったのですが、
今のように、
経済
「会社を本当に変えたいなら、人事部
はマネジメントの力は必須ですが、
今、
キーワードに、
口に入れることのできる
日本国内では人口減少が問題と
が縮んでしまっている状況には不向き
と財務部を変えていかないとダメ」。
この会社では、
真のマネージャー不足
商品で価値を提供されてきましたが、
新
なっていますが、
世界的に見れば、
2050
です。そうした危機感もあって本社
これはある社長に言われた言葉です
が大きな問題となっています。
「働き方
規事業もその基本路線は踏襲される
年には95億人を超えてくる可能性が
機能の強化を断行したわけで、
グルー
が、
まさにその通りだと思います。人と
改革プロジェクト」の中で、御社から
してもらいます。その成果については
のでしょうか?それとも、
これまでとは
あるといわれています。
そのような状況
プ本社を中心に、
グループ全体が持続
数字は会社の本質ですから。
グループ
厳しく指摘していただいたように、
まず
100%であれば結果責任が果たされた
違った価値を提供することも視野に
でも健康や安全の重要性は普遍でしょ
的に繁栄していくための戦略、特に
本社を中心に、
そこに手を付けていき
は、人の評価、
コミュニケーション力の
との評価になりますが、99%でも101%
入れていらっしゃるのでしょうか?
うから、
それらにこだわり続けることに
グローバル戦略を講じて行きたいと考え
たいと考えています。
育て方を変えていかなければならない
でも不十分です。それは目標設定が
清水 不二製油は食品を軸に、健康
よって、
多くの事業機会を手に入れる
ています。
これが1つ目の役割です。
4つ目は新しい事業をつくることで
と考えています。
甘かったことを意味するからです。
や安全にこだわってきました。
もし、
食品
ことができると期待しています。
2つ目はガバナンスです。
これまでは
す。先ほど申し上げた「2030年のあり
評価に関しては、
従来は過程や経過
部下と一緒に適切なコミットメントを
以外の領域から素晴らしいシーズが
NRI 我々もイノベーションの研究を
不二製油一家みたいな感覚がありま
たい姿」では、
売上高5,000億円、
営業
を含めて評価してきましたが、今後は
設定できること、結果責任が果たせる
開発されれば、
それも新規事業として
進めていますが、多くのイノベーション
したが、
従業者数が世界中で4,500人
利益500億円の数値目標を掲げてい
成果主義を徹底します。
コミットメント
ように部下を育成できること、部下に
取り組む可能性はありますが、その
は、
「何かおかしい」
「どこか変だ」
と
になってくると、当然ながら社員一人
ますが、現在の業績を延長させても
&アカウンタビリティ、すなわち、
自分が
手柄を立てさせること、部下が生き
前提条件として、
世界的な規模で展開
いう疑問に端を発し、それをとことん
ひとりが見えなくなってきます。遠心力
届かない目標値です。今後はM&Aを
約束したことについて責任を取ると
生きと働けるような環境をつくること、 されるものでなければなりません。
が働けば働くほどガバナンスが効きに
含めて事業を拡大させていかなけれ
いった仕 組みを持 続 的に運用して
そして、
グループ憲法を適切に実践
基本は食品です。食品の領域でも
清水 そうそう。
「何か変や」という
くくなってきました。国籍別にみると、
ばなりません。
また、新たに設置した
いきたいと考えています。
コミットメント
できることがマネージャーに求められる
イノベーションの可能性は十分にある
感覚は大事。
そのためには「なぜ?」
と
今、
グループ全体で最も多いのが中国
未来創造研究所では、素材と技術に
については、
上司と部下が一緒になっ
要件になりますが、
それらを充足する
と私は確信しています。
イノベーション
いう発想が必要です。私は1回では
人です。
ですから、
日本語で何かしらの
イノベーションを起こし新規事業の
て、適度にストレッチした目標を設定
真のマネージャーを早急に育成して
といえば、研究者が研究室に篭って
済まなくて「なぜ?なぜ?なぜ?」
と3回
方針を打ち出せば、
簡単に統制できる
創出を図ります。
このような成長戦略
いかなければなりません。 シーズを開発する印象が強いですが、
繰り返しています
(笑)
。
また、世界観
という考え方はまったく通用しなくなっ
を検討することもグループ本社の役割
マネジメントに関してはダイバーシティ
実はそうではなく、
お客様から寄せら
や社会観を持ち、世の中の変化に常
たのです。
さらに、
将来に向けて不断に
といえます。
も重要です。
「管理職の3分の1を女性
れるニーズの中にヒントがあることの
に関心を持っていないといけません。
にしてはどうか?」と指示したところ、
方が多いのです。いわゆるユーザー
今、
我々がどこにいて、
どこに向かって
「現在5%にも満たないのに、
どうして
イノベーションです。
最近は、
この言葉を
いるのか、それが分かっていれば、
3割にできるのですか?」
と人事部に
気に入っているのですが、振り返って
新規事業開発に向けたヒントを掴み
抵抗されました。
私としては、
管理職の
みると、
不二製油の新規事業の多くは、
やすくなるのではないでしょうか。
総数を減らしてでも、
この目標を達成
お客様との会話が契機になっていた
NR
I 本日は貴重なお話をお聞かせ
したいと考えています。それくらいの
ように思います。
新規事業といって斬新
いただき、
ありがとうございました。
覚悟で改革を進める必要があります。
なものに手を出す必要はなく、
ユーザー
企業価値を向上するためには、
ポート
フォリオを入れ替え、効率性を高める、
マネージャー層への期待
攻めのガバナンスも不可欠です。
この
ようにガバナンスを強化することが、
グループ本社設立の2つ目の役割です。
戦略を考えるのも統制を効かすのも
結局は人なので、人づくりが3つ目の
NRI 今回、NRIは、御社の働き方
執行役員
コンサルティング事業本部 副本部長
立松 博史
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追究するところから生まれています。
トップマネジメントが語る
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