2016年コンスタンチン・リフシッツ 曲目解説

Program
Program Notes
ラフマニノフ
ラフマニノフ
24の前奏曲
S.Rachmaninov
24の前奏曲
24 Preludes
前奏曲 嬰ハ短調 Op.3 -2「鐘」
Prelude in C sharp minor Op.3-2
10の前奏曲 Op.23
10 Preludes Op.23
第1番 嬰ヘ短調
第5番 ト短調
第 9 番 変ホ短調
No.1 in F-sharp minor
No.5 in G minor
No.9 in E-flat minor
第2番 変ロ長調
第6番 変ホ長調
第10番 変ト長調
No.2 in B-flat major
No.6 in E-flat major
No.10 in G-flat major
第3番 ニ短調
第7番 ハ短調
No.3 in D minor
No.7 in C minor
第4番 ニ長調
第8番 変イ長調
No.4 in D major
No.8 in A-flat major
********* 休 憩 *********
13の前奏曲 Op.32
13 Preludes Op.32
第1番 ハ長調
第 6 番 ヘ短調
第11番 ロ長調
No.1 in C major
No.6 in F minor
No.11 in B major
第2番 変ロ短調
第 7 番 ヘ長調
第12番 嬰ト短調
No.2 in B-flat minor
No.7 in F major
No.12 in G-sharp minor
第3番 ホ長調
第 8 番 イ短調
第13番 変ニ長調
No.3 in E major
No.8 in A minor
No.13 in D-flat major
第4番 ホ短調
第 9 番 イ長調
No.4 in E minor
No.9 in A major
第5番 ト長調
第10番 ロ短調
No.5 in G major
No.10 in B minor
コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル 2016 年 日本公演スケジュール
2月21日(日)
2月23日(火)
所沢
東京
柴辻 純子(音楽評論家)
Junko Shibatsuji
所沢市民文化センターミューズ アークホール/主催:所沢ミューズ
紀尾井ホール/主催:ジャパン・アーツ 協力:若林工房
ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフ
(1873-1943)
は、J. S. バッハやショパンと同様に、
平均律の
すべての長短調を用いた 24 曲の前奏曲を書いた。調性を網羅する構想のもと作曲が開始された
わけではないので、
秩序立てた配列ではなく、
エチュード、
ノクターン、
トッカータ、
バルカローレなど、
さまざまなスタイルの音楽が含まれる。どの曲も詩的でかつ独創的で、
そこに豊かな表現力と力強さ
で聴衆の心をつかんだピアニストとしてのラフマニノフをみることもできる。
前奏曲 嬰ハ短調 Op.3 -2「鐘」 教会の鐘の音で有名な古都ノヴゴロドで育ったラフマニノフの音楽には、しばしば鐘の響きが
現れる。
「幻想的小品集」
(全 5 曲)に収められたこの前奏曲は、モスクワ音楽院作曲科を卒業した
1892 年に作曲された。のちに
「うんざりするほど弾かされた」
と回想としているように、
彼の代名詞
とされる曲で、
鐘の音のモティーフが反復された後、
情熱的で壮大な音楽が紡ぎ出される。
10 の前奏曲 Op.23
嬰ハ短調の前奏曲からおよそ10年、
1901年に着手されて1903年に完成した。1897年の
《交響曲第1番》
の初演が失敗に終わって以来、
長らく精神的不調に陥っていたが、
この頃には自信が回復してきた。
ロシアの自然を描いたような大らかな曲が中心で、
長調と短調の曲が交互に配置されている。
嬰ヘ短調 左手の分散和音の伴奏にのせて哀愁を帯びた旋律が静かに歌われる。
第 1 番 「ラルゴ」
第 2 番 「マエストーソ」変ロ長調 曲集のなかで最も華やかで、祝祭的な歓喜に満ちている。
広い音域の左手の伴奏とオクターヴの力強い主題で進められ、
装飾的な中間部を経て、
力強さを増した主部が戻ってくる。
ニ短調 メヌエットとなっているが、古風な舞曲ではなく、
第 3 番 「テンポ・ディ・メヌエット」
劇的なバラードのような性格をもっている。
第 4 番 「アンダンテ・カンタービレ」ニ長調 ショパンのノクターンを思わせる音楽。甘い
旋律が穏やかに歌われ、ラフマニノフらしい劇的な盛り上がりもみせる。
「鐘」とともに有名な 1 曲。曲集の
第 5 番 「アラ・マルチア」ト短調 ラフマニノフの前奏曲で、
中では最も早く1901年に着手された。行進曲のリズムは、
ラフマニノフの作品にしばしば
みられるが、
冒頭の明確なリズムは主題に規律と緊張感を与える。中間部は抒情的な旋律
が大きな広がりをもって響く。
変ホ長調 澄み切った自然の情景が目に浮かぶこの曲は、
抑制されたなか
第 6 番 「アンダンテ」
にも感情の起伏があり、
ピアノ協奏曲の緩徐楽章を思わせるフレーズも現れる。
ハ短調 16分音符の音型が広い音域で激しく動き回り、
ショパンのエチュードを
第 7 番 「アレグロ」
思わせる。
変イ長調 左手の悠々とした主題に右手が華やかな装飾を
第 8 番 「アレグロ・ヴィヴァーチェ」
加える。これはショパンの嬰ト短調のエチュード
(Op.25-5)
から着想を得ている。
変ホ短調 右手の3度と6度が交替する重音と左手の分散和音が組み合わされ、
第 9 番 「プレスト」
すばやく駆け抜けていく。
変ト長調 左手で奏される主題に右手の和音が優しく添えられ、落ち着いた
第 10 番 「ラルゴ」
響きのなかで結ばれる。
13 の前奏曲 Op.32
ピアニスト、
指揮者として活躍したラフマニノフは、
創作活動は多忙な日常を離れて、
夏の休暇
に集中して行われた。
「13 の前奏曲」は、毎夏を過ごしたイワノフカ村で 1910 年に作曲された。
24 曲の前奏曲として完成させることが意識され、これまで用いてない調性が選ばれ、長短調が
交互に配置された。この曲集では、
ロマンティックな表現は抑えられ、
ピアノ書法はさらに手が込み
複雑になり、
音楽はいっそう深められた。
ハ長調 曲集の導入ともいえる小品。三連符のメカニックな
第 1 番「アレグロ・ヴィヴァーチェ」
動きで急速に進められ、
簡潔な和音の進行に終結する。
変ロ短調 穏やかなリズム音型が反復され、
淡く静かに広がる。速度
第 2 番「アレグレット」
を変化させながら表情豊かに進められ、
休符をはさむリズム音型へと変化する。
ホ長調 ファンファーレのようなオクターヴの響きで
第 3 番「アレグロ・ヴィヴァーチェ」
高らかに始まる堂々とした音楽で、祭りの賑わいを思わせる。音色の変化が巧みに
用いられ、色彩感あふれる。
ホ短調 オクターヴの連打とせわしない和音の連続が組み
第 4 番「アレグロ・コン・ブリオ」
合わされた主題の反復から新しい楽想が導き出される。激しい情熱のほとばしりの
なかにもラフマニノフらしい哀愁を感じさせる。
ト長調 ラフマニノフ特有の抒情的な世界で、
左手の分散和音にのせて
第 5 番「モデラート」
細やかで美しい旋律が静かに歌われる。
ヘ短調 情熱的な主題がざわめくように広がり、
劇的に
第 6 番「アレグロ・アパッショナート」
展開する。
ヘ長調 軽やかなリズムの反復にのせて、
右手と左手が優しい歌で対話を
第 7 番「モデラート」
繰り返す。装飾的な和声の動きもおもしろい。
イ短調 激しい導入に続いて、
導入音型を用いながら、
嵐が吹きすさぶ
第 8 番「ヴィーヴォ」
ような勢いで不安な音楽が突き進む。
イ長調 左手のオクターヴの旋律と内声部を充実させた右手
第 9 番「アレグロ・モデラート」
の旋律が組み合わされる。雄大な広がりをもつが、
哀愁を帯びた表情もみせる。
ロ短調 葬送の音楽のようなリズム音型がゆっくりと反復され、
遠くに鐘の
第 10 番「レント」
音が響く。重厚な和音で壮大に盛り上がり、
主部の後半から再現され静かに終わる。
ロ長調 付点で強調された独特のリズムが細やかなニュアンスで繰り
第 11 番「アレグレット」
返される。
嬰ト短調 ロシアの冬の詩情を描いたような絵画的な作品。右手の分散
第 12 番「アレグロ」
和音を背景に左手が悲哀に満ちた旋律を歌う。中間部では左手に分散和音が移る。
変ニ長調 全曲を締めくくるにふさわしい壮大な曲。1 曲目の
「鐘」
との
第 13 番「グラーヴェ」
つながりが意識され、
同じ62小節で、
嬰ハ音と異名同名の変ニ音が主音となる調性が
選ばれた。
音楽は、
重厚な和音をゆるやかに響かせ、
テンポや調性を変化させ、
華やかさを
増していく。
「鐘」
と共通するパッセージも織り込まれている。