EU新関税法典を正式 公布:5月1日の導入に よる企業

2016年2月15日
Japan tax alert
EY税理士法人
EU新関税法典を正式
公布:5月1日の導入に
よる企業実務への影響
エグゼクティブ・サマリー
EYグローバル・タックス・アラート・
ライブラリー
EYグローバル・タックス・アラートは、オン
ライン/pdfで以下のサイトから入手可能
です。
www.ey.com/taxalerts
2015 年 12月29日付けの EU 官報にて、欧州連合関税法典( UCC )の実施法令
( IA )及び委任法令( DA )が公布されました。この 2つの法令により、欧州の新し
い関税法令の法的枠組みがほぼ完成しました。なお、加盟各国の税関当局に対
し、
新しいシステムを導入、
運営し始めるまでの間、
現行のITシステム及び/又は紙
ベースのシステムの継続使用を認める経過措置を定めた暫定委任法令
(TDA)
は、
依然として未発表です。
UCCは、最近の情勢を反映し、簡素化かつ体系化された新たな関税法令の枠組み
を規定しており、
現在の共同関税法典
(CCC)
に取って代わるものとなります。UCC
は、2016年5月1日から2020年末にかけて段階的に導入されます。IA及びDAに
基づいて関税評価の規定は大幅に変更され、
EUに物品を輸入している多国籍企業
に大きな財務的影響を及ぼします。その他には、
「輸出者」の新しい定義、
特別手続
き
(倉庫保管、
加工等)
、
AEO(認定事業者)制度、及び事前教示(BTI)制度の見直し
が主な変更点として挙げられます。
DAとIAの草案文面が発表された際、既に多くの主要な変更点が明らかにされてい
ましたが、
DAとIAの公布をもって大半の変更点が正式な法的条文として規定され
ました。
ロイヤルティ及び商標に関するルールに関する厳格化等の最 保税倉庫に搬入される物品の関税評価
も抜本的な変更点は、前回のタックスアラートでも既に紹介し
保税倉庫に搬入された物品においてEU域内へ輸入される際の
ました。ロイヤルティに関する新しいルールは、
明らかに課税範
価格が、倉庫搬入時の価格より高い価格で販売される場合に
囲を拡大する試みとなります。UCCに規定されているとおり、
ロ
適用される評価ルールについては曖昧な点があります。各国の
イヤルティとライセンスフィーは現行法令下より関税評額に含
税関当局に確認した結果、物品がEUへの輸出を目的として販
まれる可能性が高くなります。特に、
商標ロイヤルティの例外規
売されるために保税倉庫に搬入される場合、その物品の倉庫
定が廃止されるため、
現在商標ロイヤルティの対象となる製品
搬入時の購入価格を関税評価額とすることができると判明しま
を輸入している企業は、当該変更により最も影響を受けること
した。
しかし、保税倉庫への搬入のきっかけとなるEUへの輸出
になります。
を目的とした販売が存在しない場合、
保税倉庫から販売する際
本アラートでは、
このように新たに解釈が明確になった領域 の
(より高い)
価格に基づいて関税評価額が算定されます。
これ
及び、なおも不透明性や解釈の余地の残る点について解説し に該当するのは自社の物品を保税倉庫に保管し、売買契約が
ます。
成立したのちに搬出するような場合です。例えば、米国の製造
業者が自社で製造した製品をEUの保税倉庫に移し、
その後、
保
税倉庫からEUの顧客に販売するとします。この場合、米国から
詳細な議論
EUへの移転は輸出を目的とした販売とはみなされないため、
保税倉庫からEU域内への販売価格が関税評価額となります。
ファーストセール制度の廃止 ―
各企業は、
この規定による影響の有無や影響を低減するために
「既得権条項」適用の可能性
必要な対策を見極めることが重要となります。
EUの現行法令では、輸入者はいわゆる輸出に関わるファースト
の新しい定義:EU内に拠点を置かない
セール
(FSFE)
に基づいた関税評価額を使用することができま 「輸出者」
す。つまり、
一定の要件を満たせば、
複数段階の売買から成るサ 企業への課題
プライチェーン内の最初の取引価格を関税評価額とすること
「輸出者」の新しい定義は、輸出申告書の提出先となる税関の
ができます。
これに対して、
UCCでは、輸入者は「物品がEUの関
特定と輸出手続きにおけるコンプライアンス上の責任の所在
税域内に持ち込まれる直前に行われた」販売の価格を使用しな
に関係します。また、
EU域外への輸出に対する付加価値税免除
ければなりません。このルールは「輸出に関わるラストセール・
の資格要件にも影響します。
ルール」
として知られています。
「第三国の荷受人
新ルールは、
「EUの関税領域内に居を置き」、
IAには一般的に「既得権条項」と呼ばれる条項が含まれており、
との契約を有し」、
かつ「物品をEU域外に移転する決定権を持
現在FSFEを使用している企業は、
輸入者が「2016年1月18日
つ」
ことに重点をおいて「輸出者」を再定義しています。ただし、
以前に締結された契約に拘束されている」場合、
2017年12月
新しい定義にも依然として解釈の余地があり、
「EUの関税領域
31日までFSFEを継続使用することが認められていますが、
こ
内に居を置く」
という要件は、
EUに拠点を置かずに輸出を希望
れに関して、
何をもって拘束力のある契約とするのか、
それ以上
する企業にとって問題となる可能性があります。例えば、
スイス
の具体的な説明はありません。
のプリンシパルがEUの倉庫から物品を輸出しようとする場合な
最近、
英国税関当局は、
「開始日を明記した契約書が存在してい どが考えられます。
なければならないが、予想される出荷やコンサインメントの取
新しい定義に基づいて「輸出者」を特定する際には、税関の観
引価格が明記されている必要はない」
と説明しています。これ
点からの「恒久的事業施設」の意味が極めて重要になってきま
により、
一般的な契約書
(もしくは既存の契約の付帯事項)
であ
恒久的事業施設を
「事業を営む一定の場所であり、
す。UCCは、
っても、
「既得権条項」を適用できる
「拘束力のある契約」に十
必要な人的資源及び技術的資源の両方が恒久的に存在し、通
分該当する可能性があると考えられます。また、
オランダやアイ
関業務の全部もしくは一部が遂行される場所」
と定義付けてい
ルランドの税関当局も同様の柔軟なアプローチを採っていま
ます。
す。さらに、他の税関当局にいたっては、FSFEにおける関税評
価額を確認した過去のルーリングでも「既得権条項」を適用す
るのに十分な文書と見なす可能性もあります。とはいえ、何を
持って拘束力のある契約とするかに関する見解は加盟国ごとに
異なることが考えられます。
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| Japan tax alert 2016年2月15日
そのため、EU内に拠点を置かずに輸出を希望する企業が通関
業者を通して輸出手続きを行う場合を含めて、
倉庫施設を賃貸
することが解決策になるかは未だに不明確です。それゆえ、
EU
域内に拠点を置かない企業がUCCの下でもなお輸出者となり
得るか、
輸出に係るVAT免除にどのような影響を及ぼすかとい
う疑問が浮上します。
この問題は、
EU数カ国の税関当局も注目
しており、欧州委員会に対し明確化を要請したものと思われま
す。欧州委員会がUCCガイドラインを発行しさらなる指針を示
すことが切望されます。その間、
加盟数カ国の税関当局は、
この
課題に関する結論が出るまで、
従来通り、
EU域内に拠点のない
企業について今後も通関業者等による輸出申告を認める意向
です。欧州委員会と各加盟国の税関当局の動向に注目し、
さら
なる進展が見られた場合には、
アラートでお知らせします。
EUにおける再輸出加工制度の見直し
再輸出のための加工目的で輸入された物品について、関税
猶予・還付を認める再輸出加工減免措置(Inward Processing
Relief:以下IPR)及び税関監督下の加工(Processing under
Customs Control:以下PCC)は、再輸出加工手続き(Inward
Processing Procedure:以下IPP)という一つの制度に統合
されます。2つの制度が統合されることにより、複雑な税関手
続が緩和されることや、IPRで要件となっていた補償利子を支
払わなくてよくなることが利点として挙げられます。また、
現行
制度では貨物の保管が認められていませんでしたが、新制度
では、税関は加工機能と保税倉庫機能の一体化を企業に要請
することが予 想されます。I P R に基 づく「 関 税 猶 予 」又は
「還付」、もしくはPCCの認可を受けているすべての企業に対
し、
2019年5月1日もしくは認可の期限到来前のいずれか早い
時期に認可の再評価を行うと思われます。また、2016年5月
1日以前に発行され同日以降も有効な既存のPCC及びIPRの
認可は、
新ルールの下ではIPPの認可とみなされます。
事前教示に関するルールの変更
事前教示
(BTI、
BOI)に関するルールが大きく改正され、2016
年5月1日より実施されます。関税分類に関するBTI及び原産地
にかかる事前教示であるBOIの有効期間が、
現在の6年間から
3年間に短縮されます。また、現在は税関当局に対してのみ拘
束力がありますが、今後は税関当局及び申請者の両者に拘束
力を持つようになります。
日系企業への影響
この度、EU 関税法典の各種法令が正式公布されたことに
より、
欧州で事業展開する日系企業への影響も明確になったと
いえます。具体的には、
これまで商標の入った製品を輸入して
いる欧州販社やファーストセール制度を活用していた欧州事
業所については、
輸入時の課税価格が上昇するリスクが考えら
れます。非居住者在庫を保税倉庫にて保管している場合も、
域
内引取時の課税価格が上昇する可能性があります。また、
今後
も継続的に円滑な輸出入通関を行う上で、現行の「輸出者」の
レビューとAEOの取得の検証も重要となります。一般的に欧州
における関税率は依然として高いため、
未だ明確になっていな
い点があるものの、
新法令に照らして各社の欧州における輸出
入オペレーションをレビューし、新法令に適合する形で新たな
関税プランニングを導入することで関税支払額と通関リードタ
イムを今後も抑えていくことが可能になります。新法令は本年
5月より順次実施されるため、欧州法人の輸出入実務に悪影響
を与えないためにはオペレーション変更の検証を今すぐにでも
開始する必要があります。
*本アラートは、参考資料として作成されたものであり、税務上
のアドバイスを意図するものではありません。
AEO認定は「なくてはならない」ものに
UCCは、特定の通関手続きの迅速化、簡素化の恩典を享受す
るために、
企業がAEOの認定を受けることを強く奨励していま
す。従来通り、全ての場合においてAEOの認定が必要なわけ
ではありませんが、事実上、AEO基準を満たすことが要求され
る手続きが多くあります。例えば、
「自己査定」や「集中通関」等
のより高度な簡素化手続きが認められるのは、AEOの認定を
受けた企業に限定されています。その結果、多くの企業にとっ
て、
AEOの認定はもはや「あると良い」ものではなく、
「なくては
ならない」
ものになりました。
AEO 制度には「通関手続きを簡素化する優遇措置」及び
「セキュリティ・安全性における優遇措置」の2種類の資格があ
ります。今後は、
いずれの資格を取得する場合も、
申請者は「実
践的レベルの知識又は専門的資格」
を有することが要求されま
す。
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