収益型インフラ(下水道)における PFI・コンセッション

Special
●特集:収益型インフラ
(水道・下水道)
考察
座 談 会
収益型インフラ
(下水道)における
PFI・コンセッションの推進
地方自治体における厳しい財政状況や職員数の減少のもとで、下水道事業においても PPP/PFI
による民間の資金・人材・ノウハウの活用が重要となっています。
下水道事業については、典型的な社会資本である一方、長期に安定した収益事業の側面も持って
おり、民間にとっては新たなビジネス機会や投資機会創出の可能性も秘めています。
本座談会では、下水道における PFI・コンセッションの具体的事例に基づいて、実態をご紹介いた
だくとともに、官民連携のあり方についてもお話いただきました。
日 時 :平成 27 年 12 月 2 日(不動産証券化協会 会議室)
髙田 勝弘氏
浜松市 上下水道部次長 上下水道総務課長
22
西澤 政彦氏
上下水道
コンサルタント
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
司会進行
長谷川 輝彦氏 藤川 眞行氏
橫浜市
環境創造局下水道施設部
下水道設備課長
国土交通省
水管理・国土保全局
下水道管理指導室長
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
下水道事業と
PPP/PFI・コンセッション
生部分の一部に一般会計からの繰入金制度が認
められたこと、②高金利の地方債のペナルティなし
の繰上償還制度が時限的に認められたこと、③包
括的民間委託の導入など様々な経営の効率化策が
藤川 不動産証券化協会の方から、収益型イン
推進されたこと等により、10 年前の平成 17年度で
フラである下水道における PFI・コンセッションの取
は約 65%であったものが 、平成 25 年度は 92%にな
組の実態について、座談会形式で、分かりやすく説
るまでに改善が進んできています。ただ、節水機
明を行ってほしい旨のご依頼がありました。
器・設備の普及や人口減少等により、この先は予断
PFI については、自治体のいわゆるハコモノの建
を許しませんが。
設・管理を中心に実績が積みあがってきており、ま
いずれにしても、このように下水道事業は非常に
た、平成 23 年の法改正で創設されたコンセッショ
大きな 事 業 規 模を有して いますので、新 成 長
ンについて、空港の管理運営で実例が出てきてい
( ニュー・グロース)の観点からも PFI・コンセッショ
ます。
下水道事業については、現在、自治体の下水道
ンなど民間活力の導入に大きな期待がかけられて
いる状況にもあります。
担当職員の数がピーク時に比べ 3 分の2 になるなど
ただ、下水道事業は、他の事業とは違って、国民
減少が続いており、巨大なストックを維持し 、巨大
生活と密接な関係があるインフラであり、料金につ
なプラントを動かす装置産業として、執行体制が大
いても公共料金としての制約があり、また、水再生
きな課題となっています。
だけでなく、市街地の浸水対策も併せて行ってい
このような課題に対応するために、下水道事業に
る事業であるなど、固有の特色を有しています。こ
おいても、PFI の事例が増加してきており、また、
のため 、PFI・コンセッションの事業化に当たって
コンセッションの具体的検討が進められています。
は、他の事業にも増して様々な検討課題がありま
また、PFI・コンセッションではありませんが 、処理
す。
( 下水道事業の仕組みや、PPP/PFI・コンセッ
場の管理でいうと、民間への委託が 9 割 、性能発
ションの全体的な動向については、ARES 不動産
注で包括的に民間へ委託する発注( 包括的民間委
証券化ジャーナル21号
( 平成26年10月発行)
参照。
)
託 )が 2 割と他のインフラに比べても相当民間活力
の導入が進んでいます。さらに、今後とも、深刻化
する執行体制の課題に対応していくために、さらな
る民間活力の導入が求められています。
下水道は、
資源・エネルギーの宝庫
また、そもそも論になりますが 、下水道は、オー
藤川 導入部分は以上にして、本日の座談会で
ソドックスなインフラで、事業規模も非常に大きい
は、下水道事業における PFI・コンセッションの内
ものです。平成 25 年度の全国のマクロの数字で見
容をより実践的に見ていくこととし 、資源・エネル
ると、管理運営費( 維持管理費+資本費)ベースで
ギー利用に関して様々な PFI の事業化を行われて
2.8 兆円、うち浸水対策を除く水再生部分で 2.2 兆
いる横浜市の長谷川課長と、我が国初めての下水
円、さらにそのうち基本的に料金で充当すべきとさ
道事業のコンセッションの事業化に向け具体的な
れている部分は1.6 兆円です。
検討を行われている浜松市の髙田次長から、それ
基本的に料金で充当される部分のうち、実際に
ぞれお話をうかがっていくことにします。また、併
料金で充てられている割合( 経費回収率)
は、この
せて、民間の立場から見たご見解をうかがうため
10 年間くらいの間に、①浸水対策部分に加え水再
に、水関係のコンサルタントである西澤さんにも、
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Special
参加いただきます。
まず、資源・エネルギー利用関係の PFI の話から
入らせていただきますが 、その前に、下水道事業
その中には資源となる様々な物質が含まれます。
そもそも、水そのものにも資源価値があるため 、
における資源・エネルギー利用については、最近よ
下水処理水は昭和 50 年代からトイレ用水や修景用
くテレビ・新聞報道で取り上げられるようになってき
水として再利用されてきました。
ましたが 、まだ一般的には馴染みの薄い話かも知
また、下水は人間活動から発生した熱を含んで
れません。しかしながら、実際、下水道は資源・エ
います。藤川室長がご担当された昨年の下水道法
ネルギーの宝庫です。ただ、まだ
「宝の持ち腐れ」
改正により下水道管内に熱を取り出す設備の設置
といえる状況で、今後の資源・エネルギーの活用に
が可能となりましたので、今後は、下水熱利用も本
ついては非常に大きなポテンシャルがあるといえま
格的に進んでいくことでしょう。
す。
さらに、下水を濾過してこしとった後に残る「 下
具体例でいうと、まず、再生水は、1年間で約
水汚泥 」にも栄養分が豊富に含まれます。昔から
145 億㎥( H25 )発生しますが 、現在は約1パーセ
肥料分を活用する緑農地利用が行われていました
ントしか活用されていません。
が 、現在では、下水汚泥の固形燃料化もあります
水再生の過程で発生する下水汚泥ですが 、1年
し 、下水処理のメタン発酵により生じる消化ガスで
間で約 226 万トン( H25 )、これは、発電可能量で
発電する方法もあります。さらに、水素を取り出し
いいますと約 40 億 kWh で、約110 万世帯の年間
てエネルギー源として使う取組も出てきました。
電力使用量に相当するといわれています。しかし 、
今後は、例えば、食品残渣なども下水処理場に
エネルギー利用の割合は約1割にとどまっていま
持ち込んで、下水汚泥とともにバイオマスエネル
す。施設箇所でいうと、消化ガス発電が 55 箇所
ギーとして利用する事例が増えていく可能性もあり
( H26.3 )、固形燃料化が 10 箇所( H27.3 )です。
下水熱も、年間を通して温度が一定なので、ヒー
ます。下水処理場が地域の資源やエネルギーの循
環利用の核になっていく、そのような時代が到来し
トポンプにより非常に効率的に空調等を行うこと
ており、今後ますます進展していくのかと思います。
ができ、利用可能熱量は約 540Gcal/h で、約 80万
そのような方向の中で、官民連携が進んでいけれ
世帯の年間熱量に相当するといわれています。し
ばよいと思っています。
かし 、下水熱利用は、13 箇所( H27.3 )にとどまっ
ています。
藤川 平成27年3月には福岡市が「水素リーダー
都市プロジェクト」により下水から水素を作り水素
リンは、農業肥料等に必要な物質で、国際的な
自動車に供給する施設を稼働しました。北海道の
戦略物質といわれますが 、下水道に流入するリン
恵庭市や富山県の黒部市では、少し前から、生ご
は、1年間で約 6 万トン、我が国のリン輸入量の約1
みと下水汚泥を一緒にしてバイオガス化して、エネ
割に相当するといわれています。しかし 、利用され
ルギー利用を行っています。リーディング・プロジェ
ているリンの割合は、約1割にとどまっています。
クトがうまくいって、徐々に普及していき、設備のコ
下水道事業の資源・エネルギー利用について、民
間のお立場から、西澤さんに補足説明していただ
ければと思います。
西澤 人の体に例えると、水道は都市の「 動
脈 」、下水道が「 静脈 」です。下水道は使ったもの
を排出して、濾過する役割があり、人間の都市活
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動で生じた不要なものが下水には濃縮されます。
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
ストも下がって、さらに普及していくという好循環に
なればいいと思っています。
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
資源・エネルギー化事業における
PFI
藤川 全国で見ると、資源・エネルギー化事業に
おける PFI はいくつかありますが 、消化ガス発電事
業( 汚泥を発酵させた消化ガスで発電する事業)、
汚泥燃料化事業( 汚泥を燃料チップにして再利用
する燃料化事業)、改良土プラント事業( 下水汚泥
の焼却灰をプラントで改良土にして再利用する事
業)
という3 つの事業を PFI で行っているのは横浜
市だけです。資源・エネルギー化事業を PFI で行っ
ている背景について、長谷川課長の方からご説明
願います。 長谷川 資源・エネルギー化事業は、当初 、横浜
市が設計・工事・維持管理のそれぞれについて民間
に委託して、建設・維持管理を行ってきました。この
ため 、当然のことながら、施設の仕様は、設計段階
長谷川 輝彦氏
Profile
はせがわ てるひこ
昭和 52 年横浜市入庁。下水道局(現 環境創造局)に
て下水処理施設の建設から維持管理の業務を経験。北部
第一水再生センター長、栄水再生センター長など下水処
理施設の維持管理に従事し現場経験は豊富。現在は、下
水道に関する電気設備及び機械設備工事の設計、施工す
る部署で更新・長寿命化業務に携わっている。南部汚泥
資源化センターの汚泥燃料化 PFI 事業を所轄している。
で細かく決められるため 、性能発注でなく仕様発
注です。
3 つの事業については、各々が施設の老朽化に
伴って更新時期を迎えていました。そして、消化ガ
ス発電事業であれば、事業開始から20 数年たち機
械の更新を検討する段階で、一層の効率化 、コスト
消化ガス発電事業における
PFI
削減といった課題がありました。汚泥燃料化事業
については、汚泥を灰にする焼却炉の更新を検討
藤川 それぞれの事業について、簡潔に事業内
する段階で、温室効果ガスの削減と汚泥の資源化
容をうかがっていきます。まず、消化ガス発電事業
といった課題がありました。改良土プラント事業に
は、BTO
( Build Transfer Operate )・サービス購
ついては、改良土の販路の拡大が課題となってい
入型ですが、その事業内容について、教えてくださ
ました。このような諸課題に対して、PFI を導入す
い。
ることにより、民間の創意や工夫を入れていこうと
したのが 、ことの発端です。
長谷川 横浜市は11箇所の水再生センターで発
生する汚泥を、北部汚泥資源化センターと南部汚
なお 、時期的には、改良土プラント事業が PFI
泥資源化センターの2 箇所の資源化センターで集約
事業の最初ですが、これは、平成 11年の PFI 法施
処理をしています。消化ガス発電 PFI 事業は、北
行後すぐの平成 14 年に開始した事業です。当時の
部汚泥資源化センターで行っています。
政策においても PFI をはじめとする民間活力の導
資源化センターで汚泥を処理する過程で、副産物
入が掲げられていたことも背景としてあるところで
として消化ガスが発生します。その消化ガスはメタ
す。
ンを約60%含むバイオガスです。これを燃料として
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Special
ガスエンジン発電設備を動かし発電をしています。
までの20 年間です。PFI 事業者は、横浜市から汚
本事業については、PFI 事業者がガスエンジン発
泥を有償で購入するので、市にはその収入が入りま
電設備 5台を建設して、建設をしたものを本市に移
す。PFI 事業者は、横浜市から汚泥を購入し 、燃
管していただきます。運営期間は、平成 22 年度か
料化炉に入れて燃料化チップをつくり、利用先まで
ら平成 41年度までの20 年間で、市はその間に燃料
運搬してもらいます。利用先は、石炭の代替物とし
である消化ガスを無償で供給する一方、発電した
て使用するボイラーや発電所を想定しています。燃
電気は市が無償で利用して、余った電力は FIT
(固
料化チップの販売による儲けは、PFI 事業者の収
定価格買取制度 )で売却し 、その収入は市の管理
入となります。
費に充てます。
藤川 横浜市で使用する電力以外に電力会社に
売る分もあるのですか。
藤川 全体事業費や、横浜市から事業者に支払
う金銭は、どのようになっていますか。
長谷川 全体事業費は約150 億円です。建設費
長谷川 はい。汚泥資源化センターの隣にはゴ
は国土交通省からの交付金を活用しており、建設
ミ工場があり、ここでも発電しています。センター
費のうち補助裏と維持管理費は、サービス購入料
の電力については、この安価な電気を使うこともで
として 20 年間の割賦払いで横浜市が事業者に総
きるため 、センターで発電する電力は余ることにな
額約119 億円を支払います。維持管理費の中には、
ります。
20年間の管理運営に係る点検費用や交換部品代も
藤川 全体事業費や、横浜市から事業者に支払
う金銭は、どのようになっていますか。
全て含まれます。
藤川 消化ガス発電事業では電気を FIT で売
長谷川 全体事業費は、約 83 億円です。建設
るお金が横浜市に入りましたが 、ここでは汚泥を買
費は国土交通省からの交付金を活用しており、建
い取ってもらうのが横浜市の収入になるわけです
設費のうち補助裏と維持管理費は、サービス購入
ね。
料として 20 年間の割賦払いで横浜市が事業者に総
長谷川 そうです。しかし収入の期待よりも、将
額約 59 億円を支払います。維持管理費の中には、
来 20 年間に資源化を保証されている意義がむしろ
20年間の管理運営に係る点検費用や交換部品代も
大きいです。汚泥は廃棄物としての処理は考えられ
全て含まれます。
ません。埋めるところがないので、資源化しか道は
ないのです。買い取り価格が高ければ収入の足し
汚泥燃料化事業におけるPFI
にはなりますが、売買なので、廃掃法の適用がない
ことに一番の意味があります。
髙田 一つ教えてください。20 年間には大小の
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藤 川 次の 汚 泥 燃 料 化 事 業も、BTO
( Build
修繕や改築更新も出てきますね。その費用負担は
Transfer Operate )・サービス購入型ですが 、その
当初に予測できないと思いますが 、契約の中でどう
事業内容について、教えてください。
処理されているのでしょうか。
長谷川 汚泥燃料化事業は、南部汚泥資源化セ
長谷川 20 年間の事業継続に必要な全ての修
ンター内において行うこととしています。老朽化し
繕も含めて契約の中に入っています。横浜市は、こ
ている汚泥焼却炉( 150トン/ 日)を解体して、そ
れまで 20 数年間管理してきた実績があるので、お
の敷地に新しく燃料化施設を PFI 事業者が設計・
およその予測は可能なのです。
建設し 、建設後に施設を横浜市に移管していただ
髙田 当初の契約金額の中に、修繕を含めたオ
きます。運営期間は、平成 28 年度から平成 47年度
ペレーション費用が全て含まれているという理解で
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
いいですか。
改良土は、以前は、市の下水道工事のために
長谷川 その通りです。発電施設の稼働期間が
使っていましたが 、焼却灰が増えたので販路の拡
増えれば、定期点検等のコストもかかってくるの
大が必要となり、市の下水道工事だけでなく、道路
で、そのあたりは、シビアに計算されていると思い
工事や水道工事でも使ってもらうように働きかけま
ます。
した。ここは、市が PFI 事業者に協力している部
西澤 新設の場合は、民間提案で事業者側が
分です。
全て把握できるのでいいですが 、途中で施設を事
藤川 改良土の民間受け入れはありますか。
業者が引き継ぐ場合だと、管理運営に難しいこと
長谷川 民間のガス工事で受け入れてもらって
はありませんか。
長谷川 今回は、新設のようなイメージです。
いますが 、民間は数パーセントといったところです。
やはり、公共工事が 9 割以上です。
改良土プラント事業における
PFI
藤 川 最 後 の 改 良 土プラント事 業 は、BTO
( Build Transfer Operate )・独立採算型ですが、
その事業内容について、教えてください。
PFI 事業の具体的なメリット
藤川 それぞれの事業を PFI で行ったことの具
体的なメリットについて、VFM
( Value for Money )
を含め、ご説明ください。
長谷川 下水汚泥の焼却灰は、土を良質なもの
長谷川 消化ガス発電事業は VFM で 8.4%、金
にする石灰分が多く含まれており、また土の水分を
額にして約 4.2 億円のコスト縮減につながっていま
吸収する効果をもっています。この焼却灰の性質
す。また、低公害 、省エネ型のエンジンを採用して
に目を付けて従来から改良土を製造していました。
いるので従来に比べて CO2 の排出量も約 25% 削
改良土とは、下水道工事等で掘削された土に焼却
減されています。事業期間の20 年間、横浜市は定
灰を約 5%混合して良質な埋め戻し材とした土のこ
期修繕や故障といった管理リスクから解放されます
とです。
し 、割賦払いのサービス購入であれば支払額も変
焼却灰が増えたため設備の増設を行うこととし 、
これまで直営だった事業を PFI 事業にしました。
PFI 事業者が改良土プラントの増設費用を出して、
動しません。PFI 事業者にとってもコンスタントに
収入があるので優良なスキームだと思います。
汚泥燃料 化事業も全く同様で、VFM で 20% 、
能力アップした施設を無償で横浜市に移転してい
金額にして約 23 億円のコスト縮減につながってい
ただき、横浜市は平成15 年度から平成 25 年度まで
ます。この事業では汚泥の資源化が 20 年間保証
の10 年間とその後 5 年間延長していますが 、PFI
されたことで、最終処分を行うことがなくなりまし
事業者に施設を無償でお貸しして、PFI 事業者は
た。汚泥の燃料化はこの先も永遠に続く保証はあ
改良土の販売で得た収入により改良土プラント施
りませんが 、市に次の資源化方法を考える期間とし
設の点検・維持管理 、資本費を賄っていただくス
て 20 年間与えられた意味は大きいです。
キームです。
全体事業費のうち、建設費は約 4 億円ですが 、
独立採算型なので、横浜市が国から受け取った補
助金分の約 2 億円以外 、市には実質的な負担は発
生していません。
藤川 改良土プラント事業は、民設民営ですか
ら、VMF
( Value for Money )ではなく、コスト削
減額でどのくらいでしょうか。
長谷川 市が直営で委託していた時に比べて、
10 年間で約 2 億円になります。
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Special
しての起債残高の制約もあるので、平準化のメリッ
ファイナンス面の比較
トがあります。
藤川 民間資金であると、事業者が金融機関か
らモニタリングを受けるメリットもあるという話も聞
藤川 ファイナンス面では、民間資金の PFI と
きますが 、実態はどうなのでしょうか。
公的資金の DBO
( Design Build Operate )との比
長谷川 我々の他にも金融機関のモニタリング
較についてはいかがでしょうか。これは、いつも論
が行われれば、事業の安定化に効果があると思い
点になる話ですが 、民間金利と比べれば地方債金
ます。
利は安いはずです。PFI として民間資金を活用し
たのはなぜでしょうか。
藤川 他に、DBO と比較した PFI のメリットは
ありますか。
長谷川 横浜市は、資金調達は基本的に市場で
長谷川 DBO の場合、設計・建設、運営・維持管
の公募債が多く、10 年後に元金一括で返済するパ
理にあたりの契約がいくつかに分かれるのが実態
ターンが主流ですが 、PFI だと事業者への支払い
です。その点、PFI は一つの契約で全部決まり、体
が平準化されるのが最大のメリットです。市全体と
系的でやりやすいと思います。さらに、横浜市では
「 共創」と言っていますが 、行政と民間のコラボを
サポートする共創推進室の協力もあり、PFI を推進
しています。
藤川 資源・エネルギー化事業における官民連
携は、技術革新の進展やその普及により、様々な方
式で今後ますます進んでいくと思われますが 、民間
の立場から見た見通しについて、どのようにお考え
ですか。
西澤 今後、様々な方式の普及が進んでいくと
思っています。消化ガス発電について最近注目され
ているのが民設民営方式です。民間が自己資金で
発電施設をつくり、消化ガスを処理場から買って発
電・売電して、投資資金を回収し 、利益を得ていくと
西澤 政彦氏
Profile
にしざわ まさひこ
平成 3 年北海道大学工学部卒、
上下水道コンサルタント。
上下水道事業の経営と運営管理に特化した政策立案に関
する活動を行っている。現在、公共下水道西遠処理区公
共施設等運営事業に係るアドバイザリー業務 ( 浜松市 )、
上下水道事業と民営ガス事業の連携による包括的管理運
営スキームに係る調査 ( 宇部市 )、下水道事業における
執行体制の強化方策に関する検討業務 ( 国土交通省 ) 等
に従事。
いうものです。FIT の利用が前提ですが 、公費負
担は一切ありません。ここ約 2 年で 20 件程普及し
ています。
藤川 普及の背景には、何があるのでしょうか。
西澤 公的主体が FIT を利用する場合には消
化槽まで事業認定を得る必要があるなど、仕組み
がやや複雑ですが 、民設民営の消化ガス発電は
FIT の認定が比較的容易に受けられることもあり、
民間が積極的に乗り出しています。
藤川 理念系で考えても、それで制度が問題な
く回るなら、官民連携の究極の到達点は、完全な
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
民営化ですよね。官が関与する理由が何もなけれ
関西国際空港・大阪国際空港 、仙台空港で事業開
ば、官は関与してはいけませんね。事業期間はど
始に向けた手続きが進められている状況にあるな
のくらいでしょうか。
ど、取組が進んでいます。空港事業のコンセッショ
西澤 15 ~ 20 年が主流です。設備投資に対応
ンは、これまで別組織で行われていた滑走路、エ
するだけ事業を継続しなければ資金回収は困難で
プロン等に係る航空系事業とターミナルビル、駐車
す。何か奇抜な技術革新や制度設計があって民間
場等に係る非航空系事業を一体化することによ
の知恵がもっと出てくれば、さらに面白い取組も増
り、非航空系事業であげた収益を活用して着陸料
えてくるのではないでしょうか。
等の値下げを行い 、LCC などの空港利用を促すこ
今のところ、汚泥利用で PFI 方式を採用するこ
とは、小規模事業にとっては難しい。ただ、最近、
とでさらに利益を増やし 、空港全体で事業の活性
化を図っていこうとするものです。
民間事業者が小規模事業を対象にした資源利用
他方、下水道事業については、国民生活の非常
方策を考えていますし 、小型で採算が取れるもの
に密着したインフラであり、公共料金としての規制
も遠くない将来できてくると思います。昨年の下水
もある中で、どちらかというと、現在想定されてい
道法改正で、広域化・共同化を後押しする協議会制
るのは、職員数の減少で執行体制が脆弱化してい
度も創設されました。汚泥利用についても、広域
る自治体において、下水道の維持管理や施設の改
化・共同化に向けた取組が進められると、さらに普
築更新等について、公権力の行使等の行政固有業
及がしやすい環境ができると思います。
務以外の業務を包括的に、かつ、概ね 20 年といっ
さらに、長期的なビジョンですが 、下水道という
た長期間で民間事業者に担ってもらうことにより、
枠を超えて、下水処理場にバイオマス全てを持ち込
民間の活力を最大限導入し 、下水道事業の維持を
んでエネルギー回収をする方向にだんだん向かって
図っていこうとするものです。
いくと思います。未来都市では、処理場が資源・エ
ネルギー利用の拠点となっていることでしょう。
藤川 国においては、一昨年 7月に下水道の新
イメージ的にあえて言えば、前者が 、リスク・リ
ターンが比較的高いのに対し 、後者は比較的低い
といっていいのでしょうか。構造としては、前半で
たなビジョンを策定し 、昨年2月に社会資本整備審
議論した資源・エネルギー化事業 PFI と比べても、
議会から、新たな下水道政策の方向性が示されま
その傾向が強いと思います。
したが 、大きな柱の一つが「 資源・エネルギー利
また、下水道事業については、水再生だけでな
用」です。下水道の資源・エネルギー利用をさらに
く、浸水対策も行っていますし 、また、下水道法に
大きな流れにしていくためには、制度の合理化をは
基づく様々なルール、補助金制度、地方財政制度等
じめ様々な課題もあるわけですが 、今後とも、自治
が複雑に絡み合って仕組みができています。
体 、民間事業者の方々と連携して、未来都市に向け
て歩みを進めたいものです。
処理場の維持管理への
コンセッションの導入
このようなことから、下水道事業におけるコン
セッションの具体化は、全く新たな制度設計を行う
話であり、様々な制度との調整をはじめ 、いろいろ
綿密な検討が求められます。
現在、浜松市においては、全国初の取組として、
事業化に向けた具体的な検討を進められています
藤川 以上で、PFI の話は、終わりにして、次は、
コンセッションの話に入っていこうと思います。
コンセッションについては、空港事業において、
が 、まず、浜松市がコンセッションの具体的な検討
を始められた背景について、髙田次長にお話をうか
がいます。
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Special
髙田 浜松市は面積が1,558k㎡で、これは高山市
に次いで日本で二番目の面積になります。政令指定
都市といえども山間部を抱え半分は過疎の状態で、
市街地に加えて、山、川、湖ありで、
「国土縮図型都
市」といえると思います。裏を返すと、浜松市でコン
藤川 先ほども申し上げましたが 、空港事業と
セッションが一定の成果を収めることができれば、
違って、下水道事業のコンセッションは、何か大きく
全国の市町村の参考となるのではないでしょうか。
収益を向上させるというのでなく、維持管理 、改築
検討の大きな背景としては、大きく3 つあります。
等の業務を長期間まとめて民間事業者に任せるこ
まず、施設の老朽化が進んでいて今後の更新需要
とにより、維持管理等の効率性を向上させていこう
が増えていくこと、次に、人口減少と節水機器の普
とするものですが 、浜松市が考えられておられるコ
及で使用料収入が減ってきていること、さらには、
ンセッションの基本スキームについて、今後のスケ
市の職員の減少による今後における技術承継の懸
ジュールを含めご説明をお願いします。
念です。このため 、市では平成 23 年度から上下水
髙田 平成 27年 6月に実施方針の素案を公表し
道事業で何か新たな官民連携の手法が導入できな
たところ、400 件以上のご意見をいただきました。
いか研究を始めました。
関心も非常に高く様々な意見があったので、それら
そして、静岡県が管理していた西遠流域下水道
を参考にさらに検討を重ね、現在、実施方針の公
が本市に事業移管されることになり、これを機に、
表に向け作業を進めています。年度内には実施方
より具体的な検討に入っていきました。本年度は、
針・募集要項を取りまとめ 、公表に漕ぎ着けたいと
まだ静岡県が管理していますが 、合併特例法の猶
考えています。
予期限となる平成 28 年 4月には県から市に移管さ
れます。
西遠流域下水道の対象施設には西遠浄化セン
ター
( 20万トン/ 日)と2 つの中継ポンプ場( 浜名、
この西遠流域下水道は、市内処理水量の 6 割を
阿蔵 )があります。これらの施設の維持管理と改
占める市最大の処理区です。移管に伴い 、この事
築更新を20 年間にわたってコンセッション方式で
業に従事する職員の新たな配置が必要となります
進めようというものです。コンセッションの導入は
が 、下水道事業においても行財政改革の一環とし
平成 30 年度からを計画していますが 、来年度には
て組織のスリム化に取り組んでおり、技術系職員も
県から市に移管されるため 、当初 2 年間は、修繕費
減少している中で、西遠処理区を運営するために
も含めた包括的民間委託のレベル3 で対応しようと
大幅な増員は難しい状況にあります。また、この移
考えています。
管を機に一層の効率化を進める必要もあります。
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コンセッションの基本スキーム、
今後のスケジュール
コンセッションの対象業務は、維持管理 、施設・
ちょうど、平成 23 年には改正 PFI 法により、コン
設備の改築更新、利用料金収受等で、これらは「義
セッション方式が創設され 、平成 26 年には国土交
務事業 」と位置付けています。また、
「 附帯事業 」
通省から、下水道事業に関するガイドラインが公表
として既存の処理工程にとらわれない新たな処理
されたところでもあり、このような流れを踏まえ、西
工程による事業 、さらには、民間事業者が自らの
遠流域下水道事業の管理手法として、具体的にコ
創意工夫により独立採算で行う「 任意事業 」が含
ンセッションを念頭においた検討が始まりました。
まれます。
公によるピンチを民間との連携により、新たな運営
本事業は、改築更新において国庫補助を受け補
手法を生み出すチャンスに変えられないかという発
助裏を起債する、いわゆる「 混合型コンセッショ
想です。
ン」であるため 、運営権対価はなかなか見えにくい
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
スキームだと思います。しかしながら、運営権対価
については、応募者には創意工夫による効率化で、
零円以上での提案を期待するところです。
藤川 コンセッションは、民間事業者が別途利
用者から利用料金を徴収するという仕組みです
が、下水道事業については、どうしても行政固有の
業務が残りますので、行政から徴収する使用料と
二本立てになると整理されています。もちろん 、運
用上は一体的に徴収することになると思われますの
で、家庭サイドから見た違いは少ないと思います
が。いずれにしても、具体的に、利用料金、使用料
をどう設定するかの課題もありますね。
あと、維持管理だけのコンセッションなら、その
問題をクリアしたら、基本的には、現在の包括的民
間委託の延長線上で考えられるので、山頂が見え
てくるような感じもしますが 、改築更新を含むコン
セッションだと、そのあたりの制度設計が難しいで
すよね。エベレストでいうと、8,000メートルを超え
たデスゾーンに突入ですか( 笑)
。
髙田 勝弘氏
Profile
たかだ かつひろ
昭和 58 年明治大学政治経済学部卒・旧舞阪町(平成
17 年合併により浜松市)入庁。昭和 59 年静岡県・平
成 5 年湖西市へ派遣。税務、廃棄物、財政、広報、福祉
など行政を幅広く担当。平成 20 年から浜松市上下水道
部。上下水道総務課・財務グループ長、同課課長補佐、
経営企画担当課長を経て現職。平成 23 年から上下水道
における官民連携手法(コンセッション等)の検討に携
わる。
(公社)
日本下水道協会・下水道使用料調査専門委員。
髙田 当初案では、下水道事業の複雑な収入構
造を考え、維持管理の部分だけでコンセッションが
期間的にもスケールメリットが出てくると思います。
できないかとも考えました。しかし 、それですと、
包括的民間委託では、長くても5 年間というのが相
改築更新部分は実質 DBO方式になってしまい 、民
場ですので、20 年間という長期間による効果は大
間の創意工夫による効率化が限定されてしまいま
きいと思います。さらに、民間提案による「 附帯事
す。
業 」、
「 任意事業 」にも期待したいですね。
そこで、対象業務には改築更新も含めますが 、
藤川 ムダのない効率的な改築更新ができる仕
改築更新のファイナンスは、国庫補助 5 割 、地方債
組みをいかに構築していくか 、下水道政策全体か
4 割 、民間事業者調達 1割とする仕組みを考えまし
ら見ても、大きな課題ですね。現場の人の話を聞く
た。この仕組みは、
「 混合型コンセッション浜松方
と、よく、維持管理を実際に触っている人でなけれ
式 」とでも申せましょうか。
ば、オーバースペックとならない 、いい提案はでき
藤川 民間事業者の創意・工夫として、期待され
ているのは、具体的にどのようなところですか。
ないと言われます。確かにそういうことがあるので
しょう。
髙田 施設の維持管理と改築更新とセットにし
また、包括的民間委託を請け負っている事業者
たことによって、業務範囲におけるスケールメリット
からは、よく、現在の契約期間の相場は概ね 3 年く
が働きます。維持管理で得たノウハウを基にムダの
らいだが 、長くしてくれると、業務全体を大きく効
ない効率的な改築更新を行っていただき、その後
率化できるという話もお聞きします。
の維持管理の効率化も図っていただくという相乗
効果を期待しています。事業期間は20年ですから、
他方、先ほどもありましたが 、契約期間を長期化
することについては、どのように、行政と民間事業
January-February 2016
31
Special
者の間でバランスの取れた適正なルールをつくるか
との連携を探っていくという道しかないのだと思い
ということが難しい課題となりますね。
ます。
髙田 相当難しい世界に足を踏み入れたことに
間違いありません。
また、もう一つは、これも全国共通の事情です
が 、下水道は一時期に投資しているため 、改築も一
今回は西遠流域下水道という具体の課題に直面
時期にきて、財政負担の大きな山ができることにな
して、コンセッションの実施を決めましたが 、対外
ります。地方財政の厳しい状況の中で、うまく財政
的なコンプライアンスにも、しっかり対応できるよう
負担を平準化していくことが不可欠ですし 、そのた
に、一つ一つ課題をクリアしていかなければなりま
めには、維持管理と計画的な改築を一体化してマ
せん。先ほど申し上げたとおり、民間の資金調達を
ネジメントする能力が求められます。もし 、市町村
10 分の1 組み込む等により、官民バランスの取れた
ではなく民間がした方が効率的ならば、必然的に、
制度を構築していきたいと思います。
民間に委託するという方向になりますね。
10 分の1の民間投資部分については、PFI のとこ
そのような中で、浜松市が全国の先陣を切って、
ろでも議論がありましたが、金融機関からのファイナ
下水道コンセッションの浜松モデルを提示していた
ンスも考えられますので、その場合には、金融機関
だければ、全国の下水道事業体が雪崩を打って追
による経営モニタリングにも期待をしています。事業
随する可能性もあると思っています。
の持続性や安全性が担保できればいいと思います。
浜松市は、市長の方針の下、行財政改革が積極
的に推進されており、上下水道部でも委託化や事業
官民連携の抱負と期待
の効率化を積極的に推し進め、平成 17年の合併か
ら平成 26 年までの10 年弱で、下水道の職員は約
40%削減 、水道の職員は約 25% 削減しています。
で、以上で、コンセッションの話は終わりにして、最
このようなことから、西遠流域下水道のコンセッショ
後に、皆様方から、下水道事業全般における今後
ンに限らず、他の10 処理区についても、様々なエリ
の官民連携のあり方について、考え・抱負、期待な
アの特徴にあった形で官民連携を推進し 、下水道
ど、何でも結構ですので、いただければと思います。
事業の持続を確保していきたいと思っています。
長谷川 横浜市は PFI も包括的民間委託もして
藤川 国土交通省としても、引き続き、支援を
いますが、いずれもコスト縮減を求める傾向が強く
行ってまいりたいと思いますので、今後とも、現場
ありました。もちろん、VFM も重要な点ではありま
の声を聞かせていただければと存じます。
すが、新しい管理方法や汚泥の価値創造といった
それでは、コンセッションの議論の最後として、
イノベーション的なものを導入していくという観点が
民間の立場から見た今後の見通しについて、どのよ
重要です。そして、その分野は民間の力が勝ってい
うにお考えですか。
ると思います。
西澤 政府、国土交通省が 、コンセッション案
そのような民の力を十分発揮してもらうよう官民
件形成に大変尽力されている中で、浜松市は大規
連携をもっと広げていく必要がありますが、そのた
模な流域下水道の移管という話を契機として、トッ
めには、民間事業者が手を挙げやすいように事業
プランナーを走っておられます。
の内容と規模をよく見極めた上で、適切なリスク分
やはり、その背景としては、自治体職員の不足と
32
藤川 だいたい議論も尽きてきたと思われますの
担を行うことがカギになると思います。それには、
いう全国共通の事情があります。しかし 、自治体
情報提供の仕方も工夫が必要です。包括的民間委
職員を増やしていく状況にはなく、どうしても、民間
託では、既に請け負っている事業者と新たな事業者
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
では情報に格差があります。稼働中の PFI では、
条には民間提案の規定もあり、民としても最大限活
施設を設計した事業者の方が有利になります。事
用していくべきでしょう。
業者の枠を広げ、競争を促進する上でも、バランス
の取れた競争環境の整備が重要と考えています
加えて、これまでの議論でもありましたが、官民
連携事業については、民間企業のビジネスとして成
藤川 「 リスクの適正な分担 」、
「 情報開示」と
り立たせる工夫が必要です。一つは、広域化・共同
言えば、それまでなのですが、細部の仕組みをどの
化です。昨年の下水道法改正で協議会制度ができ
ように設計するかということは、実務としての本当に
たことは非常によかったと思います。今後、国や都
難しいところですね。もちろん 、いろいろなことを
道府県がイニシャチブを取って、市町村の取組を促
慎重に考慮して具体的な検討をしていくのですが、
進していくことを期待しています。あと一つは、事業
最後は、トライアル・アンド・エラーでやっていくしか
期間の長期化です。安定的な収益の面や、人の確
ない部分もあるのかも知れません。
保の面で、事業期間の長期化は非常に重要です。
髙田 浜松市は、市長の「 民でできるものは民
コンセッションに限らず、包括的民間委託について
で」という基本姿勢がありますし 、また、上・下水道
もいえますが、契約期間の長期化について、官民が
合わせて300人足らずの職員で運営している現状の
ウィン-ウィンの関係で話し合っていく余地は大きい
中では官民連携の推進は必然の流れです。
のではないでしょうか。
ただ、1点だけ留意しないといけないのは、官民
連携を推進する中にあっても、市職員の技術力を喪
失させず、維持していくことです。包括的民間委託
でも、PFI でも、コンセッションでも、市職員の事業
者に対するモニタリング能力がなければ、必ず支障
が生じてきます。官民連携を強力に推進する一方、
藤川 貴重なご提案を含め、いろいろなお話を
頂戴し 、ありがとうございました。
下水道事業のPPP/PFI・
コンセッションと金融マーケット
市の職員の技術力を派遣や研修等を通じて育成し
藤川 最後に1点だけ、少し話はそれますが、不
ていくことも、しっかり取り組んでまいりたいと思い
動産証券 化 協会の 事務局から、下水 道事 業の
ます。
PPP/PFI・コンセッションと金融マーケットとの関係
藤川 極めて重要な点ですね。市町村の上下水
について見解をいただけないかとのお話がありまし
道の管理者に民間企業から就任される方もおられ
た。本日のメンバーとしては若干射程から離れるこ
ますが、そのような方から、行政プロパー職員よりも
とかと思いますが、実は私は、課長補佐として、J
むしろ、市職員の技術力の維持を考えない単純なコ
リートの立ち上げや、協会の設立にたずさわった経
スト削減策に対して強く疑問を呈されることがあり
験もありますので、ご依頼ということで、あくまで個
ますね。どんな事業であれ 、最後は、人づくりにな
人的な見解となりますが、簡単にお話したいと存じ
るのでしょうが、
「 人なくば、立たず」の信念でやっ
ます。
ていく必要がありますね。
下水道事業の資金調達については、簡単に言え
西澤 どちらかというと、これまでの官民連携の
ば、国庫補助金と補助裏部分等に係る地方債が基
構図は、官の窮地を民に救ってもらうという向きが
本となっています。そして、地方債については、横浜
あったのではないでしょうか。しかし 、時代は、お
市のように市場での公募債により資金調達を行うと
互いの自立した関係の中で、民から有意義な提案を
ころもありますが、多くは、公的金融を活用した長
官にしてもらい、官民がともにウィン-ウィンになる
期のファイナンス( 例:5 年据置き・30 年償還)
です。
関係を築くことに変わりつつあります。PFI 法第 6
今後、PFI・コンセッションが拡大していけば、当
January-February 2016
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Special
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然のことながら、民間事業者の資金調達分につい
ク・ミドルリターンのいい投資対象になっているとい
ては、民間金融が活用されることとなり、その部分
うことです。
が拡大していくことになろうかと思います。現行の
この点について、ざくっと言えば、不動産投資と似
PFI では、金融機関のプロジェクト・ファイナンスが
通った性格があると言ってもいいのでしょうか。昔
主流でしょうか。もちろん、民間における資金調達
話になって恐縮ですが、私が課長補佐で不動産証
方法は、これと決まったものがあるわけでなく、資
券化を担当していた時、先進地ということでオース
金調達を行う事業の特性に応じて、仕組金融を含
トラリアに視察に行ったことがありました。いろい
め様々な方式があるのでしょうから、当たり前のこ
ろな人に話を聞いたのですが、皆さん、年金基金の
とですが、ニーズがあれば、中長期的に金融マー
有力な投資対象に不動産証券化商品- LPT とか
ケットでいろいろな受け皿ができてくるのでしょう。
言ってましたでしょうか-、がなっており、リタイア
投資法人等は受け皿になる余地はあるのかとの
した人が高い配当を得て非常に安定した実りの多
ご質問もありましたが、ちょっとよく分かりません。
い老後を暮しているとかいう話を聞いたりしました。
PFI・コンセッションの話は横において資産の切り離
日本も成熟した社会にするためには、こういうことも
しニーズという話なら、制度的な整理は平成 14 年に
必要なのかな、と感じたことを思い出します。
国土交通省において行われていて、公物管理法上
我が国の年金の運用のあり方については、様々難
も一定の条件を満たせば否定されないことになって
しい問題があるのだと思いますが、長期投資の安
いますが、はたして、現在の地方財政制度、公的金
定した受け皿として、ミドルリスク・ミドルリターンの
融制度の下で想定されるのか否か。そういう話で
厚みのある投資先環境をつくっていくことは、超高
はなく、コンセッションの運営権の証券化みたいな
齢化する我が国において大変重要な話ですよね。
話なら、仮に、運営権対価として当初に莫大な資金
不動産投資については、引き続き、いろいろがん
が必要となるようなケースなら、資金調達の議論と
ばっておられ 、徐々に成果があがってきているのだ
して何か出てくるような気もしますが、ただ、現在の
と思いますが、水事業運営ビジネスについては、ポ
ところ、空港でさえ莫大な運営権対価を当初一括
テンシャルはどのくらい見込まれるのかどうか。
で徴収するという話にはなっていませんよね。いず
脱線ついでに、これは我が国における現実的な
れにしても、まず、前門の虎である導管性要件とい
投資評価みたいな話になりますが、私が不動産証
う大きな課題があるのでしょうから、それを破るだ
券化を担当していた時は J リートの立ち上げ期で、
けの強力なニーズ・必要性が出てくるかが課題となる
当時の大臣が J リートの普及に非常に熱心な方で
のでしょうか。その点、再生エネルギー発電設備を
あったこともあり、私もいろいろの投資家筋の説明
対象とした投資法人の組成が時限的に認められた
に回りました。今はどうなっているのか知りません
とのことですので、今後どれくらい活用されていくの
が、ミドルリスク・ミドルリターンの商品を想定してい
か注目したいものです。
ますと綺麗に書いたパワーポイントの資料を持って
それはさておき、水事業運営ビジネスと金融マー
いって説明すると、イメージがわかないとか結構冷
ケットとの関係について言えば、よく、下水道の維
たく言われたものです。しかし 、いろいろ話をして
持管理を行っておられる比較的大きな会社のトップ
いると、安定的な公益事業を行う企業の株式イメー
の方から、欧米に調査に行くと、水事業運営会社の
ジで配当性向の高い「 配当株 」と言われたら分か
株式は、ペンション・ファンドの投資先として結構人
ると言われたりしました。もちろん、電力業界は大
気があるということを聞きます。公共料金が基本的
変動がありましたので、配当株といっても具体的な
な収入源ですので収益が安定していて、ミドルリス
イメージは変わってきているのかも知れませんし 、
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
座談会:収益型インフラ
(下水道)
におけるPFI・コンセッションの推進
また、Jリートが現在マーケットでどのような評価を
もだいぶ超過してきましたので、そろそろ締めの言
受けているかも詳しく承知していませんが、水事業
葉とさせていただきたいと思いますが、本日、皆様
運営ビジネスについて言えば、水事業運営もやって
方のお話をお聞きして強く感じたことは、官民連携
おられ 、将来的にこの分野の事業拡大を目指してい
「 協働」
・
「コラボレーション」にあるのでは
の要は、
る会社が、最近、東京証券取引所に上場されました
ないか 、ということです。これらの言葉は、もう新
が、初めて、企業分類上、公益事業
( 電気・ガス業)
味はなくなってきたのかも知れませんが、現場実務
のグループに入りました。今後、電力事業・ガス事
の観点から見ると、なんのなんのそうではなくて、
業の自由化が進展すると見込まれる中で、不動産投
非常にエキサイティングな言葉でありまして、まさに
資を含め、将来の我が国の投資市場における「ミド
厳しい時代状況にあっても、というかそういう時代
ルリスク・ミドルリターン投資」は、どのようになって
であればこそ、官民が真の意味で、協働・コラボレー
いくのでしょうか。
ションしていかなければいけない、ということだと
かなめ
脱線が過ぎました。まぁ、いずれにしても、その
思います。それも、評論家的に抽象論で言っていて
あたりの評価は、すべてマーケットが決めることが
も始まらない。実務家が一つ一つ具体的な取組を
基本なので、そのことを肝に銘じる必要があります
積み上げて環境づくりをしていくことしか、前進はあ
が、プロジェクト・ファイナンス、インフラ・ファイナン
りません。
「 千虚、一実に如かず」です。その点、歴
スという話だけではなく、水事業運営ビジネスとい
史に裏付けられた知恵があるヨーロッパは、官民の
う観点から見ても、将来的に、いろいろおもしろい
ネットワークも使って、具体的に手堅くやっています
展開があるのかも知れません。
よね。日本にはいろいろな制約がありますが、日本
水事業運営ビジネスのポテンシャルに関しては、
人には官民の現場力がありますし 、下水道には長年
今回の座談会では、インフラ輸出の話は対象になり
の民間委託の歴史もあります。明確な旗印の下に
ませんでしたが、下水道も、国・自治体・民間等が連
オール・ジャパンで取り組めば、乗り越えていけるの
携してプラットフォームを立ち上げ、アジア諸国の中
ではないでしょうか。
心に、一生懸命がんばっています。日本は、膜技術
最後に、下水道システムの持続と革新に向けて、
等 、相当のシェアを確保している分野もありますが、
益々、官民が連携
( 協働・コラボレーション)
していく
できれば、単品製品に加え、水事業運営ビジネスと
ことを祈念いたしまして、座談会の締めとさせてい
してコミットメントしたい。ただ、民間事業者の方か
ただきます。長時間、ありがとうございました。
ら、包括的民間委託が始まってそんなに長い時間が
( なお、下水道政策をめぐる各種論考等について
たっているわけでもないので、まだ事業運営のノウ
は 、専 用 の サ イト( http://www.gk-p.jp/gkp2/
ハウが確立していないという話を聞くこともありま
library-pro.html )
がありますので、ご関心のある方
す。官民連携の推進は、今後のインフラ輸出にも資
は適宜ご参照ください。
)
するところがあるのだと思います。
脱線につぐ、脱線になってしまいましたね。時間
司会進行
本稿の意見にわたる部分は 、参加者の個人的見解であ
り、所属する組織の見解でないことをご了承ください。
藤川 眞行氏
ふじかわ まさゆき
平成 5 年東京大学法学部卒・建設省(現:国土交通省)入省。総合政策局不動産投資市場整備室課長補佐(不動産証券化等担当)
、
小田原市理事、大臣官房会計課企画専門官、高速道路機構総務課長、内閣府政策統括官(防災)付参事官(総括)付企画官、総合政
策局情報政策本部室長等を経て現職。編著等:
「開発型不動産証券化の知識と実際」
「
、街づくりルール形成の実践ノウハウ」
(以上、
ぎょ
うせい)
、
「建設経済統計ガイドブック」
(建設物価調査会)
、
「日本の社会資本」
(財務省印刷局)等(詳細は、藤川眞行@ Amazon)
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