大学における新しい学習環境と 図書 館の役割

第 9 回図書館総合展フォーラムプログラム予稿
﹁大学とは何か﹂を明示する一大指針で
あ り、﹁ 高 等 教 育 と 社 会 の 双 方 向 性 ﹂ や
﹁教育の質の保証﹂﹁個性と特色の明確化﹂
正也
矢野 大学組織に対しては﹁教育に対する組織
援 が な く 資 源 が な い ﹂﹁ 教 育 内 容・ 方 法
的支援が不十分である﹂という認識は授
際社会で活躍できる人﹂などが挙げられ
人と人とはもちろん、地域社会や企業
業を運営する教員共通のものとなってい
を議論する場がない﹂
といった意見から、
との連携ができるコミュニケーション能
る。
力を持った人材の輩出を進めたいという
る。
教員の意識﹂から、従前とは違う新しい
このように﹁学生の基礎学力の低下と
危機感から様々な特色ある取り組みが実
施されている。
学習環境づくり、学生への学習支援機能
る卒業時についても、学校をあげて就職
事態となっている。また、出口部分であ
﹁空間﹂=場所、﹁活動﹂=目的意識を
には4つの知見が必要といわれている。
時に必要な要素は何か?学習環境の整備
では、大学に必要な学習環境を考える
大学教育と新しい学習環境
の知見を考慮する必要がある。
・中退率の増加防止と面倒見のよい指導
数 万 人 が 退 学 し て い る と の 報 告 も あ る。
が必要となってきており、大学図書館の
また、個々の学生をサポートする仕組み
学生の中退の理由はさまざまだが、私
づくりや学習意欲等の動機付けが求めら
中退率の増大は大学の収入にかかわる深
役割や機能も以下の﹁学習環境デザイン﹂
れている。その理由として、以下の背景
刻な問題で、事業計画にも支障をきたす
立大学の中退率は ・ %を超えており、
が挙げられる。
活動を支援する取組の充実度合いが、保
持 っ た 学 生 ま た は そ の 目 的、﹁ 共 同 体 ﹂
・大学入学者の多様化
一 部 報 道 に よ る と 来 春 の AO 入 試 を
護者から高く評価されており、面倒見の
の必修科目の未履修問題もあり、大学側
れ、経年比較をしてもその伸長率は非常
員が問題と感じているとの結果が報告さ
理解度を把握しながら、対話を重視する
調査の結果、学生に動機付けを持たせ、
に高く深刻な状況である。
は基礎学力の向上と習熟度についての対
策が必要となっている。
・社会が求める人材の育成
4つが必要なのだろうか?
環境デザイン﹂である。では、なぜこの
構成される考え方が図1で示した﹁学習
を行うための道具。これら4つの要素で
= 支 援 す る 組 織・ 人、
﹁人工物﹂=それ
良い指導・支援の必要性が謳われ、その
増えて過去最多の 大学、また私立大学
このように、通常の入試以外での入学者
は 380 を 超 え る 大 学 で 実 施 さ れ る。
特に﹁教育の質の保証﹂は、様々な教
の入試以外での入学者と言われている︶
行った調査によると、学生の基礎学力の
私立大学情報教育協会が教員対象に
浸透しており、高等教育の方向性も従来
や、2006 年 問 題 と も 言 わ れ た、 い
・基礎学力の不足
の﹁ 研 究 中 心 型 ﹂ か ら﹁ 教 育・ 学 習 型 ﹂
割、また、学習への意欲不足を 割の教
不足について、理工系での大学では約7
割 も﹁ 研 究 支 援 ﹂ と 合 わ せ、﹁ 学 生 へ の
教育・学習支援﹂の比重が増加している
ことはご承知のとおりである。今回、大
学における新しい学習環境と大学図書館
の役割について、
﹁教える﹂から﹁学ぶ﹂
の学習環境づくりの視点から述べたい。
必要である事、また、
﹁学内でのカリキュ
﹁教える授業から学ぶ授業﹂への転換が
ラ ム の 実 質 的 な 連 携 ﹂﹁ 教 員 の 授 業 計 画
経済界の経営層が語る大学卒業生に期
し、 考 え、 行 動 す る 人 ﹂﹁ 得 意 な 専 門 分
を 反 映 し た 教 育 環 境 作 り ﹂﹁ 組 織 的 な 支
待 す る 人 材 像 と し て、﹁ 自 ら 課 題 を 発 見
高等教育では従前の教育方法、環境か
野を持った人﹂﹁動機付けができる人﹂﹁国
﹁学習環境デザイン﹂の考え方
4
へ軸足が変化している。大学図書館の役
わゆる
﹁ゆとり教育世代﹂
の入学が始まっ
が増えている事︵実に二人に一人が通常
取り組み熱も高まっている。
実施する国立大学は、本年度より 大学
8
ている事、また昨年話題になった高校で
育 の 場 面 で キ ー ワ ー ド と し て 用 い ら れ、
の重要性が謳われた。
丸善株式会社
﹁学習環境デザイン﹂の知見より
大学における新しい学習環境と
図書館の役割
はじめに
年 月末に中央教育審議会より
│
30
年後の高等教育がどうあるべきか、
本来、
発表された。これは日本における
﹁我が国の高等教育の将来像︵答申︶
﹂が
平成
1
ら 新 た な 学 習 環 境 が 必 要 と さ れ て お り、
図1
6
20
2
59
17
6
丸善ライブラリーニュース 号外
館対応を行う事で、月間 万人もの学生
に利用されている。いわば学生の居場所
である。
織的にはセンターは統合・分散の歴史を
を図書館と併設した形で有している。組
ニュージャージ州立大学で
Rutgers
は、学習を支援するラーニングセンター
ニューヨーク市立大学を紹介す
Baruch
る。
が、
ニュージャージ州立大学と
Rutgers
践している事例として海外事例になる
に期待する役割も変化しつつあるが、実
に﹁利用者の変容﹂により、大学図書館
﹁ 学 習 環 境 デ ザ イ ン ﹂ の 知 見、 な ら び
ている。これらの学習支援について、図
ら、産学連携や実践的教育にも力を入れ
研究室と調査報告について競い合いなが
業の一環として行っている。近郊の大学
らのマーケティング調査依頼を実際に授
ているプロジェクト学習室では、企業か
している。また、この図書館に併設され
たトレーディング講座などの支援を実施
員がこの運営を行い、社会人を対象とし
デ ィ ン グ セ ン タ ー を 併 設 し、 図 書 館 職
特徴である。その事例として、模擬トレー
企業との連携に力が入れられているのが
について述べさせていただいたが、今後
今回、新しい学習環境と図書館の役割
る事。
事。または相談できる人がそこに居
3 意 欲 を 引 き 出 す 事。 自 信 を 持 た せ、
学習や研究に対する意欲を引き出す
る事に関連するしかけを作る事。
﹁学習環境デザイン﹂が図書館の役割
を変える 海外事例
持 っ て い る が、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 使 い、
︶を定期的に実
書 館 評 価︵ LibQUAL+
施し、この評価によって、サービス向上
注意を喚起させる事。自分がどこに
1
属しているかという意識付けができ
学習の習熟度を向上させるための支援
と、ライブラリアンのモチベーションに
の教育活動の一助となれば幸いである。
作りとしても機能しているが、特に地域、
人工物として、学生はPC上で展開す
もつながっている。今回、紹介した大学
リングが提供されている。自宅からのア
学生は授業が終わった後、どこで何を
して過ごしているのか?
ある大学の学生アンケートでは、授業
の合間や終了後、ゼミ室や食堂でサーク
ルの仲間と過ごしたり、帰宅するとの答
す る。 大 学 の 事 業 計 画 ど お り に 使 わ れ、
タ ー が 統 合 さ れ て い る。 そ の
図 書 館 に 加 え 学 習 セ ン タ ー・ 情 報 セ ン
ない留学生で構成されている。ここでも、
えが多かった。また、学生の半数以上は、
効果を挙げていくためには、そこに﹁利
習に誘引するために必要なしかけの一歩
2
習する空間〟として考えた時、学生を学
図 書 館 を〝 学 生 の 居 場 所 〟 と し、〝 学
の結果がでた。
1
評価をしてあげる事。
図書館サービスセンター長︶
︵教育・学術事業本部
必要性﹄から一部転用
*大 学 マ ネ ジ メ ン ト 2007・
月
4 満 足 感 を 感 じ さ せ る 事。 自 ら 話 し、
議論する場をつくり、挑戦する人に
2 将来自分の役に立ち、必要だと感じ
させる事。学んでいる事や興味があ
る居場所を提供する事。
るe ラーニング教材で、We bを使った
でも学習環境デザインの知見に沿った項
号﹃大学における新しい学習環境の
例 え ば、e ラ ー ニ ン グ を 準 備 し た が
クセスであっても、学ぶためのコミュニ
を、実施している。
テレビ会議システムを併用しながら、夜
目が満ちており成功を導き出している。
効果が表れないなど、目的や目標をなか
生はもちろんの事、その保護者や利用者
ティが形成されている。これらは、在学
最後に
中でも科目別に大学院生によるチュータ
なか達成できない事例や、パソコン教室
取得目的の社会人大学院を備えた
MBA
大学で、学生の 割は英語を母国語とし
Baruchニ ュ ー ヨ ー ク 市 立 大 学 で は、
から非常に高い評価を受けている。
を作ったが、
﹁道具︵人工物︶﹂や﹁場所
︵空間︶
﹂ の み を 整 備 し て も、
﹁そこにあ
るから使いなさい﹂では使われない。使
われたとしても意図した事は異なった使
用 者 の 動 機 付 け︵ 活 動 ︶﹂ や そ れ を﹁ 支
で は、 授 業 ス ペ ー ス と プ ロ ジ ェ
Library
クト学習のスペースを確保し、完全無人
とは何か?それは以下のポイントが重要
われ方をされてしまう等の話を良く耳に
援 す る チ ー ム や 仲 間︵ 共 同 体 ︶﹂ が 必 要
時間開
図書館を利用するのは月 、 回程度と
であり、事業計画の成功のためにはコン
化やフードコートの設置による
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Newman
セプトやしかけが必要なのである。
丸善ライブラリーニュース 号外
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