2016/2/2 非浸潤性乳管癌に対する乳房部分切除後の 放射線療法による生存改善効果と 個別化治療の可能性が明らかに 社会医療法人博愛会 相良病院 乳腺科部長 相良安昭(ブリガムウィメンズ∙ダナファーバー がんセンター、ハーバード大学公衆衛生大学院)が、昨年「非浸潤性乳管癌に対する乳房部分切 除後において放射線療法による生存改善効果」について米国サンアントニオで開かれた Breast Cancer Symposium において発表、また米国現地時刻2月1日に臨床腫瘍学を代表するジャーナル である Journal of Clinical Oncology にて論文発表いたしました。 非浸潤性乳管癌(DCIS)は、乳癌全体の 10-15%を占める Stage 0 の超早期乳癌であり、10 年生 存率は 98%以上といわれています。近年マンモグラフィ検診の普及によって、日本でも DCIS の 罹患数は年々増加傾向にあります。 DCIS に対しての治療方法には、乳房温存術を行った後に乳房への放射線療法をおこなう方法と 乳房全摘術の2通りがあります。DCIS に対する乳房温存術後に放射線療法を行うことによって乳 房内の術後再発を約半数に抑えることが今までの臨床試験の結果より明らかになっていましたが、 放射線療法によって術後の生存率が改善するかどうかは現在まで分かっていませんでした。 今回、アメリカの癌登録データベースを用いて約3万2千の DCIS 症例を解析し、DCIS の腫瘍径 や悪性度、患者の年齢などによって術後放射線療法の生存率の改善効果が異なることを世界で初 めて明らかにしました。また DCIS の腫瘍径や悪性度、患者の年齢から予後スコアを算出し、予後 スコアの高い DCIS の場合は放射線療法を行った患者の死亡率が約 70%減少したことに対し(10 年 間の乳癌による死亡率:放射線治療群, 2.3%; 放射線非治療群,6.3%)、予後スコアの低い DCIS の 場合は放射線療法の有無で死亡率は変わらない(10 年間の乳癌による死亡率:放射線治療群, 3.4%; 放射線非治療群,3.0%)ことを明らかにしました。 現在、乳がん術後の放射線療法は DCIS の乳房温存手術を受けた患者に広く受け入れられている 治療法の選択肢の一つとなっています。今回の研究結果から放射線療法の生存率の改善効果を 個々の症例において予測することで、個別化治療のための情報を提供できます。 なお今回の研究結果は DCIS に対する術後の放射線療法による生存率の改善効果を予測する際 の根拠になりますが、個々の症例によって病状や患者の価値観が異なるので、主治医である外科 医や放射線療法医と、メリット(乳房内再発率の減少や生存率の改善)やデメリット(副作用や合 併症、費用、通院期間)を総合的に判断して放射線療法を受けるべきかを決める必要があります。 なお、研究結果の詳細は Journal of Clinical Oncology のページ(以下のリンク)から見ること が可能です(英文)。 http://jco.ascopubs.org/content/early/2016/01/28/JCO.2015.65.1869.abstract
© Copyright 2024 ExpyDoc