■ワーグナー/歌劇「ローエングリン」より第 1 幕への前奏曲 歌劇「ローエングリン」の主人公は 13 世紀以来、多くの詩人が語り継いできたドイツの 伝説の登場人物で、十字架上のキリストの血を受けたといわれる「グラールの聖杯」を守る 騎士の一人である。ワーグナーは自分の歌劇や楽劇の台本を、伝説や神話に基づきながら、 いつも自分自身でまとめる。このオペラでも中世以来の伝説から内容を大きく膨らませて、 10 世紀のアントワープを舞台に、 神のつかわした騎士ローエングリン (身分を隠している) と、彼によって無実の罪から救われるエルザのドラマを書き上げた。ふたりは結婚式を挙げ るのだが、エルザはどうしても夫の素性を知りたくなり、初めにローエングリンから固く禁 じられていた問いかけをしてしまう。そこで、包み隠さず身分を明かしたローエングリンは、 聖杯の城へともどっていき、エルザは悲しみのうちに事切れるのである。 ワーグナーはこの歌劇ではじめて、序曲ではなくて前奏曲を書いた。歌劇の中で使われる 動機を織り込んだシンプルな前奏曲は、それまでの序曲より、劇の内容をくっきりと示すこ とを主眼としている。 「ローエングリン」には 3 つの前奏曲があるのだが、それぞれ対照的 な性格の音楽で、各幕の劇の進⾏を暗示している。 第1幕への前奏曲は高貴な雰囲気をたたえた音楽である。始まってまもなく、ヴァイオリ ンが8声部に分かれて奏でるのが「聖杯の動機」で、やがて⽊管や⾦管でもこの動機が鳴り 響く。神の奇跡が起こる第1幕を象徴する清らかで天上的な楽想だ。 白石美雪 ※掲載された曲目解説の無断転載、転写、複写を禁じます。
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