「関節リウマチ患者における閉塞性 S 状結腸癌手術症例」(PDF)

関節リウマチ患者における
閉塞性S状結腸癌手術症例
富士市立中央病院
薬剤科
阿部 一仁
到達目標
• 基礎疾患を有する患者に対する
周術期管理について学びます。
患者背景
主訴:貧血、倦怠感、食欲不振
性別:女性
年齢:69歳
身長:145cm、体重:35kg
アレルギー歴:なし
生活歴:独居、自立していた
長男の前妻が近くに住んでおり、面倒見てくれている
• 喫煙歴:なし 飲酒歴:なし
• 既往歴
•
•
•
•
•
•
#1 関節リウマチ
#2 心房細動
#3 バセドウ病
#4 バセドウ眼症
#5 甲状腺腺腫(右葉切除後)
#6 ステロイド糖尿病(以前はインスリン治療していたが、現在は無治療)
#7 扁桃癌(扁桃摘出後)
患者背景
• 薬歴(入院時)
– 循環器科(当院):心房細動
• メインテート2.5mg、ハーフジゴキシン0.125mg、ヘルベッサーR100mg、
イグザレルト15mg、タケプロン15mg
– 内科(当院):バセドウ病、ステロイド糖尿病
• チラーヂン50μg、フェロミア50mg
– 膠原病科(他院):関節リウマチ
• ボノテオ50mg(毎月1日)、エディロール0.75μg、リウマトレックス12mg(週)、
プレドニゾロン5mg、フォリアミン5mg(週)
• オレンシア点滴静注500mg(4週間毎:最終投与は約2週間前)
– 眼科(他院):バセドウ眼症
• ティアバランス点眼0.1%、ラタノプロスト点眼0.05%、オドメール点眼0.1%
術前検査値
Y月18日
AST
20
Na
142
TG
53
WBC 10.4*103
ALT
14
K
4.1
HDL‐C
52
Neut
8.0*103
ALP
259
Cl
107
LDL‐C
100
RBC
4.18*106
LD
154
BUN
7
CRP
0.68
Hgb
8.2
CK
34
Cr
0.49
Glucose
110
Hct
29.5
T‐Bil
0.3
eGFR
93
HbA1c
5.2
MCV
70.6
D‐Bil
0.1
UA
4.2
CEA
8.0
MCH
19.6
TP
6.5
Ca
8.5
CA‐19
25.7
MCHC
27.8
Alb
3.6
PLT
304*103
Y月8日
BNP
350
ジゴキシン
1.7
TSH
3.837
Free‐T3
2.85
Free‐T4
1.53
感染症:HBs抗原(‐)、HBs抗体(‐)、HBc抗体(‐)、肺結核(‐)
※文字色
赤:基準値上限超
青:基準値下限超
画像所見
201X年Y月18日:大腸内視鏡
・S状結腸に40mm大2/3周性の潰瘍を伴う隆起性病変を認める。
・腫瘍による狭窄があり、スコープ通過不能。
201X年Y月22日:上下腹部超音波
・肝;S8辺縁部に境界がやや不明瞭な高エコー腫瘤を認める。
・消化管;S状結腸に限局性、不整な壁肥厚を認め、既知の癌に一致。周辺リンパ節に軽
度の腫大あり。
201X年Y月22日:造影CT
・S状結腸癌、リンパ節転移を疑う。
・肝S5胸膜直下には乏血性腫瘤を認める。S状結腸癌の肝転移を疑わせる。また、肝S4に
も転移性病変が疑われる。
201X年Y月23日:透視造影(注腸:ガストログラフィン)
・既知の全周性病変はRs~S状結腸にかけて認めた。その他、横行結腸までの粗大病変
は認めなかった。
201X年Y月24日:EOB‐MRI
・S7/8皮膜下に結節があり、DWIで信号上昇を伴い、肝転移を考える。また、S4にも結節が
あり、DWIでの信号変化は見られないが、嚢胞とは異なる信号強度を示し、転移を疑う。
現病歴(術前経過)
201X年Y月18日
約1ヵ月前より倦怠感、息切れ、食欲不振などが出現、貧血を指摘されていた。
貧血進行し、血便見られたため、内科にて大腸内視鏡カメラ(CS)精査となった。
→進行大腸癌疑いにて内科より外科依頼となった。
Y月22日
外科にて入院で術前精査開始。
準緊急手術にて入院継続、S状結腸癌狭窄あるため絶食、水分・内服可となった。
絶食により補液開始(フィジオ140:500mL、ソルデム3A:500mL、ビーフリード:500mL)
術前血糖・甲状腺機能コントロール目的にて一般代謝内科依頼し、血糖測定、ス
ケール開始となった。
Y月23日
Y+1月2日に手術日予定となった
S状結腸癌、肝転移
• 病期分類:cSS N2 M1 cStageⅣ
• 術式(開腹)
– 高位直腸前方切除術(HAR)
– 肝部分切除(S4,S7/8)
– 胆嚢摘出
• 手術時間:4時間
• 麻酔
– 全身麻酔(フェンタニル、アルチバ)
– 硬膜外麻酔(0.2%アナペイン、フェンタニル)
設問(1)
1. 術前栄養はどうするか?
1. CV挿入が困難な場合
2. CV挿入が可能な場合
2. 術前の持参薬内服については?
1. 術前日、術当日の内服
2. ステロイドカバー
3. 術後の持参薬内服については?
1. 術後内服再開の薬剤、時期
2. 術後イグザレルト再開時の注意点
4. どんな術後合併症に注意すべきか?その対応は?
現病歴(術後経過)
201X年Y+1月2日(手術当日)
高位直腸前方切除術(HAR)、肝部分切除(S4,S7/8)、胆嚢摘出
201X年Y+1月3日(術後1日目)
術後水分摂取開始、離床開始
201X年Y+1月4日(術後2日目)
胃管挿入、絶飲食
201X年Y+1月7日(術後5日目)
胃管抜去、食事(流動食)開始
201X年Y+1月10日(術後8日目)
再手術(洗浄ドレナージ、創部再吻合、人工肛門造設)
現病歴(術後経過)
・術後1日目より少量水分摂取開始
・術後2日目に嘔吐あり、プリンペラン10mg投与
腹部軟であるが、膨満あり。創部に一致して安静時痛、圧痛あ
り。創部はきれい。
→術後麻痺性イレウスの疑いあり、胃管挿入(排液500mL:排
液量100mL以上の場合、排液量分をフィジオ140投与で補正)
・術後5日目、発熱なし、排液量も減少したため、胃管抜去、食
事(流動食)開始。セフメタゾン投与終了。
・術後8日目に腹部に全体的に圧痛あり。体温37.5℃、WBC:
16.6、CRP:10.9と上昇。創部周囲に発赤、軽度腫脹あり。
→縫合不全疑い単純CT施行も診断できず。その後創処置にて
創離解し、腸管脱出あり、緊急手術となった。
洗浄ドレナージ、創部再吻合、人工肛門造設。
術後検査
Y+1月9日(術後7日目)
※文字色 赤:基準値上限超 青:基準値下限超
AST
100
Na
132
CK
20
Hgb
12.8
ALT
135
K
4.6
UA
2.1
Hct
39.1
ALP
456
Cl
94
CRP
10.89
MCV
98.1
LD
439
BUN
20
WBC 16.6*103
MCH
32.0
Neut
13.3*103
MCHC
32.6
RBC
3.99*106
PLT
492*103
T‐Bil
D‐Bil
1.0
0.5
Cr
eGFR
0.70
90
Y+1月8日(術後6日目)術後創部(開放膿)培養、感受性試験
同定菌名
同定菌量
PIPC
S:<16
CMZ
R:>32
PIPC/TAZ
S:<16
Enterobacter cloacae
1+
ABPC
R:>16
CAZ
S:<8
MEPM
S:<4
CEZ
R:>16
LVFX
S:<2
CPFX
S:<1
Y+1月9日(術後7日目) CT
著明な小腸拡張を認める。下腹部傍正中右側において狭窄がみられ閉塞機転となっている。
Closed loop obstructionの所見はない。癒着によるか?
縫合不全を示唆する所見はない。腹水貯留を認める。両側無気肺を認める。
現病歴(術後経過)
再手術
40
WBC(×103)
30
20
CRP
10
0
39
1
5
7
9
11
12
14
POD
38
37
36
セフメタゾン
2g/2×
オメプラゾール
40mg/2×
ビーフリード
ソルデム3A
1000mL
500mL
1
14
POD
現病歴(術後経過)
セフメタゾン
オメプラゾール
2g/2×
40mg/2×
ビーフリード
ソルデム3A
1000mL
500mL
再手術
40
WBC(×103)
30
20
CRP
10
0
1
5
7
9
11
12
14
POD
39
発熱
38
37
36
1
5
再手術
8
14
設問(2)
1. 術後麻痺性イレウスに対する投与薬剤は?
1.
2.
内服
注射
2. 術後発熱、縫合不全疑いあり、必要な薬物治療は?
3. 術後麻痺性イレウス、縫合不全疑いあり。術後栄養投与は
どうするか?
4. 縫合不全により再手術、絶飲食となったが、持参薬投与は
どうするか?
1.
2.
中止
継続(その場合の投与量、投与方法などは?)
5. 人工肛門(イレオストミー)造設。今後、注意すべき点は?そ
れにより必要な薬剤あるか?
参考文献
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•
ベッドサイドの臨床薬学 周術期の薬学管理(南山堂)
周術期管理チームテキスト(日本麻酔科学会)
ERAS時代の周術期管理マニュアル 2014 Vol.69 No.11(臨床外科)
関節リウマチ診療ガイドライン(日本リウマチ学会)
関節リウマチに対するアバタセプト使用ガイドライン(日本リウマチ学会)
関節リウマチ治療におけるメトトレキサート診療ガイドライン(日本リウマチ学会)