豚精巣で発現するリラキシン様蛋白の構造と受容体 LGR8 を介した造精

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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豚精巣で発現するリラキシン様蛋白の構造と受容体LGR8
を介した造精機能制御の解明
高坂, 哲也
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2011-06-04
http://hdl.handle.net/10297/6278
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様式 C-19
科学研究費補助金研究成果報告書
平成23年6月4日現在
機関番号:13801
研究種目:基盤研究(C)
研究期間:2008~2010
課題番号:20580308
研究課題名(和文)豚精巣で発現するリラキシン様蛋白の構造と受容体 LGR8 を介した造精機
能制御の解明
研究課題名(英文)The structure of relaxin-like peptide expressed in the boar testis
and the implication in testicular function via its receptor LGR8
研究代表者
高坂 哲也(KOHSAKA TETSUYA)
静岡大学・農学部・教授
研究者番号:10186611
研究成果の概要(和文):ブタ精巣よりRXN様蛋白を初めて単離し、それは12 kDa のA-B-C鎖か
らなる前駆体構造をとり、S-S結合と生物活性を保持した状態でライディッヒ細胞から分泌され
ることを明らかにした。分泌されたRXN様蛋白は血中のみならず、精巣間隙にも放出され、精細
管内へ運ばれることを示した。さらに、受容体LGR8が精細管内の造精細胞やライディッヒ細胞
に存在することを見出し、RXN様蛋白が内分泌、自己分泌、傍分泌因子として機能する可能性を
突き止めた。
研究成果の概要(英文)
:This study has purified native relaxin-like peptide (RLF) from boar testes, and
demonstrated for the first time at nay species that native RLF is secreted from the Leydig cells as a
12-kDa heterotrimeric proform structure consisting of an A-B-C-domain with site-specific disulphide
bonds and full biological activity. RLF secreted from Leydig cells was released not only into the blood
circulation, but also into the interstitial compartment and is transported into the seminiferous
compartments, where its own receptor LGR8 was expressed, suggesting that RLF may function as a
paracrine and an autocrine and/or endocrine factor on seminiferous germ cells and Leydig cells,
respectively.
交付決定額
(金額単位:円)
2008年度
2009年度
2010年度
年度
年度
総 計
直接経費
1,700,000
1,000,000
900,000
間接経費
510,000
300,000
270,000
3,600,000
1,080,000
合
計
2,210,000
1,300,000
1,170,000
4,680,000
研究代表者の専門分野:動物生殖生理学
科研費の分科・細目:畜産獣医学・応用動物科学
キーワード:relaxin、RLF、LGR、testis
1.研究開始当初の背景
リラキシン[Relaxin、以下 RXN と略す]
は、子宮改変作用のほか、多岐に渡る組織で
その多彩な機能を発現する多機能性ホルモ
ンである。これまでに申請者は、RXN と構造
の類似したファミリー蛋白(RXN 様蛋白;
relaxin-like peptide, RLF)をブタ精嚢腺
で発見し、本蛋白がプロセシング(翻訳後修
飾)を経て A 鎖と B 鎖からなる分子量 6 kDa
のヘテロダイマーとして精液中に放出され、
精子の受精能獲得を司る鍵分子として作用
することを明らかにしてきた。
しかし最近、精巣でも精嚢腺由来の RXN 様
蛋白の抗体と強く反応する類似の物質を見
出した。その推定分子量は精嚢腺由来のもの
に比べ約 2 倍も大きく、さらに本蛋白の受容
体分子 LGR8 の遺伝子も精巣で強く発現して
いるなどの事実を掴んだ。しかし、ブタ精巣
で発現する RXN 様蛋白がいつ、どの細胞で、
どのような構造分子として作られ、また、精
巣のどの細胞に働きかけ、どのような作用を
発揮するのか、現時点で全く不明であった。
2.研究の目的
そこで本研究は、精巣で発現する RXN 様蛋
白を精巣生理との関連性で捕らえたいと考
え、本蛋白が精巣機能の制御を司る鍵分子と
なり得るのではないかとの作業仮説を立て、
精巣で発現する RXN 様蛋白の構造特性の解明
と本蛋白の受容体 LGR8 を介した造精機能の
制御についての解明を目指した。
3.研究の方法
本研究は、精巣で発現する RXN 様蛋白に
ついて構造面と機能面からその存在意義を
明らかにしようとした。
ま ず 、 構 造 面 か ら は 、 in situ
hybridization と免疫組織化学により産生細
胞を同定した上で、生化学的手法を駆使し本
蛋白を精製しその質量・構造特性を決定する。
加えて、精製蛋白のプロセシングの実態と生
理活性の保有を分子生物学的手法で明らか
にする。
一方、機能面からは、受容体分子 LGR8 の
発現動態と発現細胞を分子生物学的及び免
疫学的手法(Western blot、免疫組織化学)
で究明し、RXN 様蛋白のリガンド–レセプター
システムの存在をセルアナリシス法で解析
し、機能発現することを立証する。これらの
知見を基に、造精機能制御の関連性を明らか
にする。
4.研究成果
(1 ) 豚 精 巣 で 発 現 す る RXN様 蛋 白 の
産生細胞の同定
ブ タ 精巣 で 発現 す る RXN様 蛋 白の 産 生
細 胞 を m RNAと タ ンパ ク 質の 両 レベ ル で
同 定 を 行っ た 。そ の 結果 、 in situハ イ
ブ リ ダ イゼ ー シ ョ ン と 免 疫 染 色 に よ り 、
RXN様 蛋 白 の mRNAと タ ン パク 質 の局 在 を
示 す シ グナ ル は テ ス トス テ ロン の 分泌
源 と し て知 ら れる ラ イデ ィ ッヒ 細 胞で
発 現 し てい る こと を 見出 し た 。
12k Daの 単 一 バン ド を示 し た。 MS/MS解
析 の 結 果、 本 蛋白 は A-B-C鎖 ド メイ ン か
ら な る ヘテ ロ トリ マ ー構 造 をと り 、 C鎖
ド メ イ ンが 蛋 白分 解 的に 切 断さ れ ない
前 駆 体( プ ロ)フォ ー ムと し て存 在 する
こ と を 世界 に 先駆 け 明ら か にし た 。MS解
析 に よ り質 量 は 12031と 判 明 し た。 さ ら
に 、 peptide mass fingerprinting (PMF)
法 に よ り解 析 の結 果 、 S-S結 合 が部 位 特
異 的 に 保持 さ れて い るこ と も明 ら か と
なった。
( 3 )ブ タ精 巣 に お け るプ ロ セ ッ シ ング
酵 素 の 発 現 状 況 とプ ロ セ シ ン グの 有 無
プ ロ セシ ン グ酵 素 (PC1/3)の 遺 伝 子
発 現 状 況を 発 育段 階 の 精 巣 で RT-PCR法
に よ り 調べ た 結果 、何 れの 時 期の 精 巣に
お い て も PC1/3の 発 現 が 全く 検 出で き な
い こ と が判 明 し 、構 造 解析 の 結果 を 強く
示 唆 し た。
( 4 ) 単 離 し た RXN様 蛋 白 の 生 理 活 性 の
解 析 : 受 容 体 LGR8を 遺 伝 子 導 入 した
HEK-293細 胞 の 構 築 と そ れ を 用 いた 検 討
単 離 し た RXN 様 蛋 白 の生 物 活性 の 有無
を 検 討 する た めに 、精 巣よ り RXN 様 蛋白
の 受 容 体 LGR8 の 全 塩 基 長 cDNA を PCR ク
ローニングして哺乳動物の発現ベクタ
ー を 構 築し 、HEK293 細 胞 に 遺 伝子 導 入し
て 細 胞 ベー スの assay 系 を 構築 し た 。本
細 胞 系 を用 い て RXN 様 蛋 白 の 反応 性 を調
べ た 結 果、RXN 様 蛋 白は nM オ ーダ ー で 受
容 体 発 現細 胞 に作 用 し、濃度 依 存的( ED
5 0 が 10 nM) に cAMP 産 生 を 増加 さ せる
こ と が 明ら か とな っ た。これ に より 、ブ
タ 精 巣 より 単 離し た RXN 様 蛋白 に は 、十
分に高い生理活性が保持されているこ
と が 証 明で き た。
( 5 ) RXN 様 蛋 白 の 分 泌の 行 方
精巣のライディッヒ細胞で産生され
た RXN 様 蛋 白 の 行 方 を 調 べ る た め に
Western blot 法 解 析 を行 っ た 。そ の 結果 、
RXN 様 蛋 白は ラ イデ ィ ッヒ 細 胞 か ら 分泌
さ れ た 後 、 血中のみならず、精巣間隙液で
も高濃度で検出されることが判明した。さら
に精細管内へも運ばれていることを明らか
にした。
( 6 )受 容 体 分 子 LGR8 の 抗 体 作 製 と 特 性 解
( 2 ) ブ タ 精 巣 で発 現 す る RXN様 蛋 白 の
単離と構造解析
ゲ ル 濾 過を 始 め 各 種 クロ マ トグ ラ フ
ィ ー を 組み 合 わせ て 、ブタ 精 巣抽 出 液 よ
り RXN様 蛋 白の 単 離 ・ 精 製に 成 功し た 。
こ の 精 製物 は ウエ ス タン ブ ロッ ト で約
析
抗 原 とし て は 、ク ロ ーン 化 した LGR8の
部 分 cDNA 配 列 を 基 に N 末 端 に His-tag を
付与した発現ベクターを構築して大腸
菌 で 発 現 さ せ た 組 換 え 体 LGR8の ほ か に 、
LGR8の N末 領 域 お よ び C末 領 域 の 配 列 を
基に作製した合成ペプチド についても、
ウサギに免疫して16種類のポリクロ
ー ナ ル 抗体 を 作製 し た。さら に、研 究 遂
行 中 に 海 外 メ ー カ ー より市販された抗体
についても特異性の解析を実施した。全24
種類の抗体について、受 容 体 遺 伝子 を 遺伝
子 導 入 し た HEK293 細 胞 を 用 い て 2重蛍光
免疫細胞化学を行い、抗体の特性の解析を行
った。そ の 結 果 、 細胞表面に発現する受容
体分子を認識する抗体を見出すことができ
た。
( 7 )精 巣内 の 造 精 細 胞に お け る 受 容体
分 子 LGR8の 同 定
ク ロ ー ン 化 し た LGR8 部 分 cDNA 配 列 を
鋳 型 と し て 各 部 位 で cRNA プ ロ ー ブ を 作
製 し 、精 巣に お ける 受 容体 LGR8の mRNA発
現 細 胞 を in situ hybridization 法 に よ
り 同 定 を試 み た 。何 種 類も の cRNAプ ロ ー
ブ を 作 製 し て mRNA 発 現 細 胞 の 可 視 検 出
を 試 み たが 、再 現性 の ある 満 足ゆ く 結果
を 得 る こと が でき な かっ た 。
一 方 、 LGR8の 特 異 抗体 を 用 いて 本 受 容
体 の 発現細胞の同定を免疫組織化学法で行
ったところ、ブタ精巣のほかヤギ精巣でも受
容体LGR8が精子形成段階の生殖細胞で特異的
に発現している事実を突 き 止 め る ことがで
きた。さらに、RXN様 蛋 白 の 産 生 源 で あ る
ラ イ デ ィ ッヒ 細 胞 にも 受 容 体が 存 在 する
可 能 性 を示 唆 した 。
( 8 ) 造 精 機 能 の発 達 に 伴 う RXN様 蛋 白
質 と そ の 受 容 体 LGR8の 遺 伝 子・蛋 白 質発
現動態
精 巣 を 経時 的 に採 取 し、判定 量 RT-PCR
と Western blot 法 な らび に 免疫 組 織化
学 法 に より 、 RXN 様 蛋 白と そ の受 容 体分
子 の 発 現動 態 を解 析 した 。当初 、定量 PCR
を 計 画 して い たが 、増 幅結 果 にバ ラ ツキ
が 見 ら れた た め、 半 定量 RT-PCR に 切 り
替 え て 実 験 を 実 施 し た 。 そ の 結 果 、 RXN
様蛋白質の遺伝子ならびに蛋白質の発
現 は 、性 成熟 に 伴い 増 大す る こと が 判明
し た 。 しか し 一方 で 、受 容 体 LGR8 に 関
し て は 未だ 検 討の 域 を脱 し てお ら ず 、更
な る 解 析が 必 要と 判 断さ れ た。
(9) 標的細胞へのRXN様蛋白質の結合とシ
グナル伝達カスケードの解析
本研究課題により既にブタ精巣より単離・精
製したリラキシン様蛋白質を用いて、ジゴキ
シゲニン(Dig)で標識し、生理活性を保持し
たリラキシン様蛋白質のプローブの作製に成
功した。ブタ凍結切片を作製し、申請者が既
に開発したin situ binding法により解析した
ところ、Dig標識プローブは生殖細胞に特異的
に結合していることを可視証明することがで
き、シグナル伝達カスケードの糸口を見出す
ことが出来た。
5.主な発表論文等
(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕
(計 8 件)
1) Kato S, Siqin, Minagawa I, Aoshima T,
Sagata D, Konishi H, Yogo K, Kawarasaki T,
Sasada H, Tomogane H and Kohsaka T. Evidence
for expression of relaxin hormone-receptor
system in the boar testis. J. Endocrinol. 207:
135-149 (2010). 査読有
2) Siqin, Nakai M, Hagi T, Kato S, Pitia AM,
M. Kotani, Y. Odanaka, Y. Sugawara, K. Hamano,
K. Yogo, Y. Nagura, M. Fujita, H. Ssasada, E.
Sato, and Kohsaka T. Partial cDNA sequence of a
relaxin-like factor (RLF) receptor, LGR8 and
possible existence of the RLF ligand-receptor
system in goat testes. Anim. Sci. J. 81: 681-686
(2010). 査読有
3) Kohsaka T, Yogo K and Mori M. Potential
actions of relaxin and its related peptide on male
reproductive processes in domestic animals. In:
The 14th AAAP animal Science Congress
Proceedings Vol 1 (Key Speech Plenary
Sessions): 259-263 (2010). 査読有
4 ) Kinoshita M, Rodler D, Sugiura K,
Matsushima K, Kansaku N, Tahara K, Tsukada A,
Ono H, Yoshimura T, Yoshizaki N, Tanaka R,
Kohsaka T, Sasanami T. Zona pellucida protein
ZP2 is expressed in the oocyte of Japanese quail
(Coturnix japonica). Reproduction 139:359-371
(2010). 査読有
5) Kohsaka T, Kato S, Qin S, Minagawa I,
Yogo K, Kawarasaki T, Sasada H.
Identification of boar testis as a source and
target tissue of relaxin. Ann. N. Y. Acad. Sci.
1160:194-196 (2009). 査読有
〔学会発表〕
(計
9 件)
1)皆川至、高力宙、佐方醍、柴田昌利、河
原崎達雄、高坂哲也 ブタ精巣で発現するリ
ラキシン関連因子(RLF)は生物活性を持っ
た前駆体として単離され、内分泌、傍分泌ま
たは自己分泌因子として機能する 第103回
日本繁殖生物学会大会 北里大学獣医学部(
十和田市)2010年9月2日
2)Kohsaka T, Yogo K and Mori M. Potential
actions of relaxin and its related peptide on male
reproductive processes in domestic animals.
屏東科技大学(屏東市、台湾)、2010年8月24日
3) Kohsaka T, Minagawa I, Ishige H, Kohriki H,
Yogo K, Kawarasaki T, Sasada H. Purification
and characterization of testicular relaxin-like
factor in boars. The 3rd Asia-Pacific Forum on
Andrology 国際会議ホテル、南京、中国、
2009年10月12日
4)皆川至、高力宙、石毛久子、与語圭一郎
、河原崎達雄、高坂哲也 ブタ精巣で発現す
る リラ キシ ン関 連因 子の単 離と その 特性
日本畜産学会 琉球大学、沖縄、2009年9月
28日
5 ) Kohsaka T, Kato S, Qin S, Minagawa I,
Yogo K, Kawarasaki T, Sasada H. Boar testis
acts as a source and target tissue of relaxin.
5th International Conference on relaxin and
related peptides. Maui, Hawaii, USA, May 22,
2008.
6.研究組織
(1)研究代表者
高坂 哲也 (KOHSAKA TETSUYA)
静岡大学・農学部・教授
研究者番号:10186611
(2)研究分担者 なし