安全な石油陸上輸送と荷卸しについて

安全な石油陸上輸送と荷卸しについて
JX エネルギー株式会社
販売部配送企画グループ
マネージャー
第
.はじめに
多
田
周一郎
次経営計画年度であった2010年度−12年
月に JX 日鉱日石エネルギーが発足
度に掛けては、
幾つかの施策を展開してきたが、
(新日本石油・ジャパンエナジーが統合)して以
特に「誤配送防止」を重点施策として展開した。
降、受発注システムをはじめ、各種物流諸施策
配送体制が統一化され、乗務員はこれまで配
2010年
送経験のない旧両社の SS(除く単独荷卸し SS)
の統一を進めてきた。
弊社グループは、
「安全」と「コンプライアン
および需要家へ配送を行うこととなった。
ス」をすべての事業活動に最優先することを理
配送体制の統一化前に同一・類似届先名称の
念として掲げており、
「安全」の追及に終わりが
整備(一部名称変更)
、同配送エリアの輸送会社
ないことを、契約輸送会社および社内関係者へ
による確認作業(届先台帳交換)は実施してい
伝え続けている。
るが、
隣接する届先もあるため、
乗務員のヒュー
マンエラーによる事故の撲滅・減少を目的に施
.安全配送に向けた段階的な取組みについて
新会社発足以降、ローリー配送に関わる安全
策を立案した。
過去からも届先到着後に乗務員と立会い責任
施策は、段階的・戦略的に進めてきた。
者で、届先名・荷卸油種・数量の相互確認は実
*統合前は、旧両社の安全施策を展開
施していたが、本施策では、特約店名・届先名
<年度>
<経
営
計
画>
2010−12
◆統合の「仕組み」を整える
(第 次計画) (システム・マニュアル・制度・施策統合)
◆安全な荷卸体制の構築・定着
2013−15
◆輸送会社の安全水準向上
(第 次計画)
(弊社施策の適合・調整)
2016−18
◆安全配送体制の深化(仮案)
(第 次計画)
が表示されている伝票を基に相互確認を実施
し、立会い者のサインを必ずいただくことにし
た。
また、輸送会社への情報提供としては、統合
後の荷卸マニュアルを策定、年に
回「Heart
& Safety」を発行および乗務員への啓発書とな
る「ENEOS 乗務員 BOOK」を改訂のうえ提供
単発的な対応でなく、構造的・抜本的に体制
を整備することに注力。
している。
「Heart & Safety」は弊社からの安全・環境方
年度ごとの経営計画を達成すべく、石油陸上
針や全国の車両事業所もしくは乗務員の活動内
輸送の輸送先である給油取扱所(=通称ガソリ
容を紹介しており、輸送会社内での安全啓蒙活
ンスタンド=弊社呼称はサービスステーショ
動に活用していただいている。また、弊社が制
ン、以降 SS とする)および需要家の特約店に
度化している善行為表彰(人命救助、社会貢献
協力をいただき、各種施策を展開。また、弊社
活動などに該当する乗務員を表彰)の乗務員も
から輸送会社へ情報提供を実施している。
掲載している。
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1) 50
写真
「Heart & Safety」
安全水準向上を目的に施策を展開している。
「ENEOS 乗務員 BOOK」は新日石で作成し
ていた冊子を、基礎知識の強化を図るとともに、
重点安全施策としては
つの方向性で安全方
針を推進している。
ジャパンエナジーの輸送会社への展開を意識し
つ目は、安全荷卸し体制の確立(事故・ト
た内容に改訂した。
度を目途に内容を確認
ラブルの削減)として、
「SS における物損防止
のうえ改訂しており、契約輸送会社および全国
策」の展開と「混油リスク低減策」の推進を挙
の車両事業所へ配布している。
げている。
本書は現在も
年に
「物損防止策」については、漏油や交通事故な
内容としては、全80頁にわたり、
「基礎編」
「実
践編」の
どを含めた全体の事故・トラブルにおける物損
編構成となり、
「基礎編」では石油お
事故比率は約40%を占めている。
よび配送の基礎知識を、
「実践編」では積込・荷
卸作業、乗務員の心得および事故発生時の対応
物損事故の中でも特に SS 内における事故比
に関するルールなど、乗務員として最低限習得
率が高いため、特約店・SS への協力要請として、
しておくべきことを記載しており、
「初任者学
ローリー動線・荷卸スペース確保を依頼。具体
習」
「毎年の研修教材」あるいは「自己啓発テキ
的な取組策としては、輸送会社からの SS 内「移
スト」として活用いただいている。
動可能物」に関する状況改善要望書をもとに各
第
第
支店販売セールス経由で特約店・SS へ協力要
次経営計画となる2013年度−15年度は、
請を実施した。
次経営計画で効果があった施策を継承しつ
SS 内「移動可能物」とは、可動式看板、車両
つ、安全な荷卸体制の構築・定着、輸送会社の
51
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1)
(SS 社員・お客様)などとなり、本施策は13年
また、輸送会社への情報提供としては、前述
度から展開しているが、次年度における SS 物
に記載の「ENEOS 乗務員 BOOK」に加え、新
損事故は約30%削減された。本施策は、継続し
たに「ENEOS 管理者 BOOK」を作成し、輸送
て実施している。
会社に配布している。
また、輸送会社への物損事故防止活動として、
内容としては、
「参考資料編」も含め、全200
つの推進施策を挙げている。①乗務員への注
頁にわたり、輸送会社の本社管理者や車両事業
意喚起の強化・改善②乗務員のスキルアップで
所の管理者を対象に、石油および配送に関わる
ある。具体的取組策として、①の項目は、弊社
基礎知識、弊社の安全施策・オペレーション施
から物損事故事例集を配布している。弊社から
策、運行管理のあり方などについて、習得・理
過去の物損事故の中からピックアップした事例
解いただくために活用いただいている。
集を配布し、乗務員への注意喚起に使用してい
「ENEOS 乗務員 BOOK」の姉妹編ともいえ
る。②の項目は、輸送会社における「後退訓練」
る冊子ですが、
“乗務員 BOOK”が乗務員の実
「入退出訓練」「着車訓練」などの実施を依頼。
務作業の解説をまとめているのに対し、
“管理
実施後は弊社へ報告する流れを取っている。
「混油リスク低減策」については、原因類型化
分析に基づき予防安全の充実を考えている。具
者 BOOK”は弊社のローリー配送に携わる管理
者の必須知識を極力網羅し、一覧性のある内容
となっている。
体的取組策は需要家への油種キー推進である。
過去、
油種以上のタンクを保有している需要
家への油種キー取付を推進していたが、
統合後、
.輸送会社管理者向け研修会の実施について
2015年度から輸送会社の「牽引役」となる管
一時中断していたため、再度、輸送会社・支店
理者の育成を図ることを目的に、中央集合型の
を含めた関係各所と協力しながら推進してい
輸送会社管理者向け研修会を設立した。
る。ハイテク管理を実施することにより、混油
事故防止に繋がると思われる。
本研修会を通じて、輸送会社管理者(本社・
支店・車庫)の配送知識の習得・必要能力の向
つ目は輸送会社支援(人材育成・定着)と
上を図るとともに、受講生同士(全国の輸送会
して、
「研修・講習会」の充実を挙げている。研
社が集合)の連帯感を醸成し、課題の共有化を
修会の詳細は次項に記載しますが、ここ数年、
図ることにしている。
輸送会社の管理者・乗務員の人手不足は深刻な
研修日程は
日間であり、約30名/回を定員
問題になりつつあるため、輸送会社の人材育
として、研修内容は、石油とエネルギーの基礎
成・安全性向上は弊社配送網の強靭化に欠かせ
知識、配送基礎知識、配送システム基礎知識、
ないことから、弊社としても積極的にサポート
ローリー構造、受発注センター研修、輸送会社
していきたい。
課題についてのグループ討議としている。
講習会については、弊社とカーメーカーが共
同で主催のエコドライブ講習会や弊社出荷基地
で開催している消防学校などを継続して活用し
ている。
今後は乗務員のモチベーションアップ、作業軽
減のために、連続無事故(年数は検討)乗務員の
表彰制度と次世代ハイテクの検討をしている。
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1) 52
主にグループディスカッション・討議に時間
を掛けた研修としている。
今年度は、乗務員人員不足・高齢化について
の対応、配送数量の夏冬格差についての対応な
どを討議テーマとして開催した。
受講者からは弊社または経営者に対する斬新
な意見も発表され、有意義かつ活発な研修会で
前年度、「年間無事故」「繁忙期(11−
無事故」の
月)
本立てで弊社石油製品を輸送いた
だいた車両事業所を対象に表彰。
事業所ごとに車両台数が異なるため、配属台
数別に
グループに分けて表彰している。
弊 社 内 で は、SAS(Safety Assessment
System)評価制度と位置づけ、無事故達成事業
所の栄誉を称賛すると同時に、発生した事故を
定量評価し課題のある車両事業所を明確化して
写真
いる。事故種類別に基礎点数を定め、事故状況
輸送会社管理者研修会
に応じて加・減点を付けている。
低評価事業所(事故点数が高い)については、
あり、輸送会社経営者からも好評であった。
回開催しましたが、来年度以降も
弊社社員が直接事業所への訪問監査を行い、実
本研修会と併せて、コンサルティング会社にも
態を把握・改善をフォローしている。(対話型
協力をいただき上級編(仮称)の開催も予定し
監査の実施)
今年度は
安全責任者会議についても10月頃に開催。
ている。
研修後は、受講者によるアンケートを記入い
繁忙期前に各社の安全活動状況を把握すると
ただき、弊社としても研修内容についての見直
ともに、経営者会議において伝達した弊社取組
し・改善を図る予定である。
方針の状況について確認している。
また、本会議では各社から安全配送・荷卸に
.契約輸送会社経営者・安全責任者会議の開
関する取組事例を報告いただき、情報の共有化
催について
を図るとともに、有効な活動については自社に
毎年
も取り入れていただくようにしている。
月に契約輸送会社の経営者に参集いた
今年度の取組事例の一例として、A 社では事
だき開催。
故発生率減を目指し、事故再発防止の観点から
会議の主旨としては、弊社の年度取組方針を
直接経営者に伝達することにより、意志統一を
「他人事意識の払拭」活動を実施している。
活動内容としては、事故惹起者以外の乗務員
図っている。
は他人事と捉えてしまうことが多いため、仮に
経営者自らが内容を理解し、弊社方針に基づ
事故が発生した場合は、全乗務員に「類似事故
いて各社の方針を作成いただいている。
項で記述した経営計画の説明と
防止記録用紙」を渡し、当該事故の原因・対策
合わせて、環境活動の展開についても説明。
「グ
を考えさせ、自分は事故を起こさないという決
リーン経営認証」取得・
「エコドライブ活動コン
意を持たせている。
今年度は第
また、
事故惹起者へのフォローアップとして、
クール」応募を通じた EMS 活動の推進を促す
と同時に、弊社からも車両事業所別燃費データ
事故発生後の
、
、
カ月後に、本社安全責
などの環境関連データを提供し、各社の取組意
任者または事業所所長が、ローリーに添乗のう
識の高揚に繋げている。
え見極め、指導を行っている。
事業所内の会議についても、今までは、事業
また、同会議と合わせて、
「無事故表彰式」を
所所長・班長・事故惹起者で行っていたが、新
開催している。
53
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1)
写真
写真
経営者会議
無事故表彰式
たに事務員・一般乗務員を参加させ、原因や再
発防止策について多様な意見の収集を行い、立
案・決定に繋げている。
今後もまずは基本作業を遵守のうえ、安全意
識・レベルの向上に努める次第です。
最後になりますが、弊社石油製品の安全・安
定配送にご尽力をいただいている輸送会社の皆
.おわりに
様と、ハイテクシステム検証・導入に関してご
「安全には終わりがない」ということを、弊社
協力をいただいているシステムメーカー関係者
幹部・社員また輸送会社の経営者から乗務員ま
様に対して、この紙面をお借りし御礼申し上げ
で同じ意識を持って、日々取り組んでいます。
ます。
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1) 54