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Architectural Institute of Japan
6018
日本建築学会大会学術講演梗概集
(東海) 2012 年 9 月
歴史的集落環境の一体的景観保全に関する研究
―世界遺産安東河回村の郷約と農村マウル総合開発事業に着目して―
正会員
同
同
安東河回村
農村マウル総合開発事業
一体的景観保全
○朴
延 1*
山口秀文 2**
山崎寿一 3***
郷約
1.研究の背景・目的・方法
本研究では、韓国安東市に位置する世界遺産、重要民
として初指定(1984)された。安東市(2009)によると
俗資料に指定された歴史的集落である、世界遺産安東河
柳氏が住み続けている。建物は 458 棟(162 瓦葺、茅葺
回村を対象に、歴史的集落景観の構成とその保全の論理
211,その他 85 棟)、面積は世界遺産の保護 区域、約
を明らかにした研究である。
500ha で保護されている。また、2010 年 8 月に世界遺産と
人口は 235 人(126 世帯)であり、現在も約 70%の豊山
具体的には、韓国における歴史的環境の保全政策と集
して登載以降、年 100 万人以上の観光客が訪れている。
落の概況を整理したうえで、河回村を対象に、以下の研
河回村の産業は農家が 111 世帯(94.1%)に及ぶなど歴史
究目的を設定して研究を進めた。
的集落でありながら、農村集落である。
① 歴史的集落環境の保護制度の展開過程から河回村の環
境保全対策の特徴を明らかにする。
② 伝統的な(1970 年以前の)集落空間構造と景観構成
を明らかにする。その際、景観構成とその保全の仕組
み(論理)を郷約に着目して考察する。
③ 現代の集落景観構成とその保全の仕組みを明らかにす
る。その際、農村マウル総合開発事業から農業振興、
観光振興、生活スタイルとの関連から景観保全の論理
を考察する。
表 1 研究の方法
①
文献資料調査(学術資料、郷土資料)
②
行政調査(行政資料収集、行政担当者インタービュー)
③
河回村現地調査(基礎調査)
図 1 河回村の全景写真(2012 年 3 月撮影)
3.歴史的文化環境の保護制度における保護の仕組み
・土地・家・集落組織に関する資料・統計・地図・写真収集
本章では文化財保護法に伴い、都市計画法、景観法、
・集落組織の把握及び活動記録の収集
・集落概要:古老・役員インタービュー等
国土環境政策法などを通して、河回村に関連する環境保
④
全政策から河回村の特徴を明らかにする。また、歴史的
河回村現地調査(課題調査)
・民家・土地利用調査(空間調査)
文化環境の保護制度はひとつの制度ではなく、文化財保
・社会調査(家族、生業、住宅・土地、居住スタイル等)
護に関連する様々な法律を示す。
・農業調査、
・観光調査
まず、「文化財保護法(1962 年制定)」によって具体的
保護対象として、文化財保護区域(720ha)内では、原型
2.河回村の概要
維持が目的・原則であることが特徴である。文化財保護
韓国統計庁の 2010 年度人口住宅総調査及び農林漁総調
査によると、韓国の集落は 36,498 箇所に及ぶ。本研究で
はその集落の内、トップクラスの歴史的集落である「安
東河回村」を対象とする。
川)が重視されている。
次に、都市計画法と国土利用管理法が統合された「国
土の都市計画及利用に関する法律(2002 年制定)」によっ
また、文化財保護法による重要民俗資料の歴史的集落
A Study on the Integrated Landscape Conservation about Historic
法による保護区域は伝統的建物を含む自然環境(山林・
て、農村地域の乱開発の防止と共に、自然環境まで保護
Yon PARK 1, Hidefumi YAMAGUCHI 2, Juichi YAMAZAKI 3
Village Environment
-Focus on the Hyang-Yak and Comprehensive Rural Village
Development Project in the World Heritage Andong Hahoe Village -
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されている。河回村の宅地は同法の用途地域の自然環境
1 里と広徳里 1,2 里)は花川(洛東江)によって区分さ
保全地域として保護されている。また、「環境政策基本法」 れて、地形的には同一生活圏及び農業圏にみるのは無理
による国土環境性評価図(2000)では、川や山林が含ま
がある。しかし、同一の学群及び共同の営農会を運営し
れた、1 等級の最優先保全地域として指定されている。
ていることや、月に約 1 回会議を行うなど、お互いに景
これらをまとめると、行政における歴史的文化環境の
観事業や所得事業・集落定住環境に係わる協議を行って
保護制度は、近年、都市計画や農業政策とも相互に関連
いることが分かった。また、所得増大から地域活性化を
して制度が整備され、河回村では個々の文化財だけでな
目指しているなど、河回 1 里(河回村)だけではなく、
く自然環境まで保護する法制面での景観の一体的整備が
周辺地域との相互関係が存在し、集落相互が連担し合っ
行われている。
て一体化されている。特に、河回村では、環境に優しい
無農薬米作りや蓮華団地などの景観農業を行っている。
4.郷約による景観保全
農業と農村の総合対策である「農村マウル総合開発事
本章では朝鮮時代(1392~1910 年)の村の自治規約で
業」によって住民による産業や生業が集落の地域活性化
ある「郷約」がどのように継承・発展しているのかを明
が推進され、周辺地域との相互依存関係が促進され、河
らかにする。
回村の景観保全にも繋がっていることが分かった。
まず、河回村の郷約と言える「族中立議」は、柳氏門
中によってつくられ、墓を保存し、祭礼を永久承継をす
るため、子孫に対して厳格な罰則を中心とした、門中の
規約である。族中立議による自治組織である「所会所」
が現在も墓を管理し、墓参りの行事を継続している。
また、郷約による、建築物の補修や管理を行う組織
「榮建所」はその機能を失っている。しかし、山林を管
理する機能は残されているなど豊山柳氏による有司(管
理人)の役割がみられた。住民自ら宗家や古宅などを利
用した、祭事・伝統的行事を現在に至るまで継承されて
6.まとめ
本研究の歴史的集落景観は、文化財保護、農業振興、
観光振興、生活スタイルと関連して、一体的に保全され
るものであり、相互の結びつきと全体としての景観保全
の仕組みの構築が重要であることが分かった。
また、集落の景観保全には、伝統的な集落空間構造の
保全、集落の規範・価値意識の継承が基本である。
今後の課題として、現代に対応する施策と生活スタイ
ルの獲得が必要である。
いる。
さらに、豊山柳氏門中の中心組織である「花樹会」に
よって、毎年、村の総会の協議を行い続けていることや、
建物の補修や村事業についてのことを村の元老に報告し
ていることから儒教的習慣が残されているなど伝統的コ
ミュ二ティの継承が分かった。
上記の内容から河回村の文化的景観の構成要素である
墓地や祭礼は、朝鮮時代以来継承されている河回村の郷
約である。「族中立議」の永久的に維持管理や罰則に基づ
いた 7 つの環境保全項目によって維持され、儒教精神に
基づくコミュ二ティの継承と結びついた景観保全の仕組
みが存在していることが分かった。
5.農村マウル総合開発事業の役割
本章では農業・農村の総合対策の一環として、2004 年
から開始された「農村マウル総合開発事業」の住民によ
る産業や生業が集落の景観保全に繋がっているのかを明
らかにする。
2009 年に太極圏域(河回村を含む 3 つの集落、河回村
* 神戸大学大学院
** 神戸大学大学院
***神戸大学大学院
博士後期課程
助教・博士(工学)
教授・博士(工学)
図 1 河回村の一体的景観保全の実態図
<参考文献>
Cultural Heritage Administration 「 Historic Villages of Korea
Hahoe and Yangdong-For Inscription on the World Heritage List
Republic of Korea-」2010
「安東太極圏域圏域農村マウル総合開発事業基本計画」2009
* Doctor Student, Faculty of Eng., Graduate School of Kobe Univ.
** A. Prof., Faculty of Eng., Graduate School of Kobe Univ., Dr. Eng
***Professor, Faculty of Eng., Graduate School of Kobe Univ., Dr. Eng
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