Architectural Institute of Japan 6035 日本建築学会大会学術講演梗概集 (東海) 2012 年 9 月 能登半島地震被災集落・道下における自力復興住宅の特徴 -夏祭りのルートと接道条件に着目して- 正会員 正会員 正会員 能登半島地震 自力復興 復興住宅 接道条件 ○久保 佳与子* 山崎 寿一** 山口 秀文*** 生活文化 表 1 道下住宅分類表 1.研究の背景と目的 本研究は震災復興のうち住宅復興について、公的復興 ではなく住民による自力復興に着目したものである。従 来、自力復興による無秩序な住宅再建が懸念されてきた。 しかし、自力復興であっても住民の共通意識によってそ の住宅に特徴が現れるのではないかと考える。そこで、 本稿では自力復興の実例として、能登半島地震の最大被 災集落である輪島市門前町道下集落(以下、道下)につい て自力復興の実態を接道条件に着目して明らかにする。 2.研究方法 本研究は道下における全復興住宅の震災 2 年後の修復、 再建、更地化等の状況調査、及び 2009 年、2010 年の夏祭 りにおける「お供え」としつらえの変化が見られた住宅 の把握調査という 2 つの調査文 1)2)3)を前提としている。 本研究ではこれらの調査を踏まえて 2010 年 10 月、 2011 年 10 月に行った道下における復興住宅のプランと住 まい方の実態に関する調査を基にして考察を行う。調査 の具体的内容を以下に示す。 まず、前述の 2 つの調査より道下の住宅を以下の項目 で分類し、表 1 を得た。 ①再建住宅か修復住宅か ②夏祭りの際に神輿、曳山等の行列が通るルート沿いに ある住宅か、ルート外の住宅か ③住宅接道状況(敷地に対しどの方角で接道しているか) なお、①について、震災後の住宅復興時に新築した住 宅を再建住宅、修繕を行った住宅を修復住宅としている。 ②について、夏祭りの際に神輿、曳山等の行列が通過す るルート沿いの住宅での「お供え」を外に見せるという 慣習がプランに与える影響の有無を見るために設けた項 目である。③について、2 方向以上で接道している場合は 玄関の向き等から主に人が出入りすると想定される方角 で分類を行った。 次に、表 1 の中から事例数が 10 軒以上であるグループ (表 1:A~H) に注目し、各々から 1~3 軒ずつの計 10 軒 の事例を抽出し、2010 年 10 月、2011 年 10 月の 2 回に分 けてそれぞれの事例に対しプラン採取とヒアリングを行 った。なお、ヒアリングに関しては主に再建時に考慮し た事項、各居室の現在の使用実態の 2 種類について行っ た。 3.掃出し窓に見る自力復興の実態 行列ルート沿い 再 建 住 宅 修 復 住 宅 行列ルート外 A 北 10 C 北 15 B 南 12 D 南 20 東・西 0・3 東・西 5・5 E 北 24 G 北 14 F 南 12 H 南 19 東・西 4・4 東・西 5・3 前述のように、道下の夏祭りでは神輿、曳山を含む行 列が通過する通りに面した住宅では「お供え」を神輿に 対して見せるため、通りに面する方向にミセ・ザシキな どの和室を設け、掃出し窓を開放するという慣習が存在 する。実際に住宅プランを採取した 10 軒のうち、夏祭り の行列のルート沿いにある住宅 5 軒中 4 軒が「お供え」 を考慮して通りに面した側にザシキ・ミセやそれに相当 する和室を設けていた。一方、行列のルートにならない 通りに面した住宅ではこの慣習はない。 そこで、この「お供え」が住宅にどう影響を与えるの かを見るためにルート沿いとルート外との住宅を比較す ることとした(表 2)。なお、本稿では比較を行う上で対象 住宅を敷地に対して北側に接道する住宅(表 1:グループ A・C・E・G)に限った。これは、敷地に対して北側で接道 する住宅では通り側が北となるため、通常、掃出し窓の ような大きな開口部を持つ広い部屋を配置することが少 ないことから、より「お供え」の影響の有無と掃出し窓 の関係を比較しやすいと考えたためである。 まず、修復住宅について比較を行う。 行列のルート沿いにある住宅(グループ E)では北向きに も関わらずザシキやミセといった大きな部屋を通りに面 した側に配置していることがわかる。一方、行列のルー ト沿いにない住宅(グループ G) では、北側には廊下や台 所・便所・風呂などの水回りが配置されている。その結 果、前者では掃出し窓が通りに面した側に見え、後者で は掃出し窓は南側である中庭に向けて作られている(図 1)。 以上から住宅の平面計画において、行列のルート沿いで はない住宅では日当たりという従来の住宅計画で考慮さ れる事項が優先されているが、行列のルート沿いの住宅 においては日当たりよりも、 「お供え」という年中行事に おける慣習が優先されていることがわかる。 The Feature of the Houseing Recostructe by Oneself in Toge Noto Peninsula Earthquke Disaster Area ― 69 ― KUBO Kayoko, YAMAZAKI Juichi, YAMAGUCHI Hidefumi NII-Electronic Library Service Architectural Institute of Japan 表 2 表 北側接道調査住宅 図 1 ルート沿い・ルート外修復住宅比較 表 3 北接道住宅の掃出し窓の割合 ルート沿い ルート外 A C 再建住宅 9/10(90%) 7/15(47%) E G 修復住宅 16/24(67%) 10/14(71%) 次に、住宅の修復・再建後の実態について見る。具体 的には敷地の北側接道の住宅グループ A、C、E、G につ いてファサード写真から掃出し窓が確認できる住宅数を 把握することで、通りに面する側にザシキやそれに相当 する部屋がある住宅の割合を算出した(表 3)。 表 3 からわかるように、ルート沿いの再建住宅につい ては非常に高い確率で通りに縁下側に掃出し窓が確認で きる。このことから、震災後に多くの住宅が自力復興を 行ったにも関わらず、行列のルート沿いにある住宅では 北向きであっても掃出し窓を通りに面した側に設ける形 式で住宅を再建していることがわかる。 4.まとめ 以上から、道下では多くの住宅が自力復興であったに も関わらず、夏祭り時の行列のルート沿いでは北向きで あっても掃出し窓を通りに面した方向に設置する形式で 再建したことが分かった。これは、行列のルート沿いに 住む住民の中に「通りに対して掃出し窓を開き、お供え を見せる」という意識が存在しているためであると考え られる。 このように、個人の日常生活での活動だけでなく夏祭 りというハレの文化が、住宅再建時に集落の特徴となっ て表れえることがわかった。これは、今後自力復興につ いて考える上で重要な視点の一つであると思われる。 *神戸大学大学院 博士課程前期課程 **神戸大学大学院 教授・博士(工学) ***神戸大学大学院 助教・博士(工学) 謝辞 本研究の調査にあたり、道下集落の住民、黒島集落の住民、門前長 郷土史研究会の大倉克男代表幹事にご協力を頂きました。また、本 研究は財団法人住宅総合研究財団の研究助成「能登半島地震・被災 集落における住宅・集落復興の生活文化論的検証(No.1006,研究主査 山崎寿一)」の一部です。ここに謝意を表します。 参考文献 1.山崎寿一、中川和樹:能登半島地震被災集落・道下の住宅復興の 実態(震災後 2 年の復興過程)-道下集落の伝統的空間構成と復興住 宅の屋敷地利用パターンの特徴に着目して-、日本建築学会計画系 論文集 第 75 巻 第 651 号、pp1151-1158、2010.5 2.白浜晋平、竹田和樹、山崎寿一:能登半島地震被災集落・道下に おける夏祭り集落空間の関係-2009.7.30‐31 の調査から-、日本建 築学会住宅系研究報告会論文集 5,pp.8p,2010 3.山崎寿一:能登半島地震被災集落・道下の地域性と震災復興、日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集 第 74 巻 第 646 号 、 pp2617 - 2626.2009.122009-05-22 4.山崎寿一、山口秀文、久保佳与子、大倉克夫、金斗煥:能登半島 地震・被災集落における住宅復興の生活文化論的検証-拡大家族に 着目した居住と地域の持続性の論理-、住総研研究論文集、No.38, pp.101-112, 2011 *Graduate School of Kobe University **Prof., Kobe University , Dr.Eng. ***Assistant Prof , Kobe University , Dr.Eng. ― 70 ― NII-Electronic Library Service
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