JS技術開発情報メール№171 号掲載 ◇ 「よく見かける下水道用語」 ◇ 禁無断転載 「下水道における水素」 (その2) 最近何かと話題の「水素」ですが、前回 162 号にて、下水処理場における水素製造方法 の例として、メタンガスを水蒸気改質する方法と、水を電気分解する方法を紹介いたしま した。今回は、下水汚泥を直接水素へ転換しようという試みや、水素利用(需要)側の情 報について、少し話題を提供したいと存じます。 前回 162 号で紹介した通り、下水処理の一環である汚泥消化は、汚泥減量化という下水 汚泥処理プロセスの目的を達成しつつ、副生成物としてメタンを 6 割程度含む消化ガスを 生成しますので、このガス中のメタンを原料として水素ガスを製造する技術(水蒸気改質 等)が確立されてきています。 この方法とは異なり、消化プロセスを用いずに、脱水汚泥を直接ガス化して水素を製造・ 精製する技術の研究開発についても、実用化に向けて継続的に取組みがなされています。 バイオマスを直接ガス化する際に、反応性を高めて効率よくガス化するために、前処理 工程(繊維分の破砕等により、成分を細かく分散化)が必要とされていますが、下水汚泥 については、繊維分を含む有機物が下水処理工程を経ることで、この分散化がある程度進 んでおり、他のバイオマスと比較してガス化しやすい、とされています。 この特性をうまく活用して、下水汚泥(脱水汚泥)をガス化炉内で熱分解し、生成ガス 中から水素を抽出・精製する技術について、今現在、実用化に向けた研究開発がなされて おり、今後の焼却炉代替技術としても期待されるところです。 さて、水素利用(需要家)の最新情報について少し触れます。 化石燃料の代替として水素を燃料利用すると、たとえば、空気中の酸素と反応してエネ ルギーを生成し、水のみが発生するとされています。 しかしながら、ガスエンジン等の内燃機関において、水素と大気を燃焼反応させると、 燃焼場の条件によっては、大気中の窒素分を源とした NOx が発生する可能性があります。 そこで、水素と大気中の酸素と効率よく反応させてエネルギーを回収し、かつ、排気ガ スもクリーンとなる技術として、昨今、燃料電池(FC:FuelCell)を用いた発電技術が注 目されています。 この燃料電池と水素利用をうまく組み合わせることで、エネルギー変換効率を最大化し つつ、周辺環境にも優しいシステムが構築できる、というものです。 燃料電池自体は、定置式のものから開発が進み、様々な種類(たとえば、固体高分子形 やリン酸形、固体酸化物形など)のものが開発されてきましたが、今や乗用自動車にも搭 Copyright©2016 日本下水道事業団技術戦略部 JS技術開発情報メール№171 号掲載 ◇ 「よく見かける下水道用語」 ◇ 禁無断転載 載され、燃料電池自動車(FCV:FuelCellVehicle)や FC バス、FC フォークリフトといった 輸送機器にまで搭載される時代になりました。 今や、その電力変換効率や、熱利用まで含めたエネルギー総合効率は、最新の内燃機関 を凌駕する性能、とまで言われています。 さらに、化石燃料由来の水素を使わずに、再生可能エネルギーを用いた水素を使うこと で、クリーン(グリーン)な水素利活用が実現できることになりますので、再生可能エネ ルギーの一つでもある下水道資源を有効活用した水素利活用にも期待がかかります。 さて、最新の燃料電池ですが、2020 年東京オリンピックも視野に、水素利用に特化した 形での研究開発や市場展開が進められています。 たとえば、純水素(濃度 100%に近い高濃度水素)を原料とした、家庭用燃料電池コジェ ネシステムの開発が進められており、大手電機メーカ等が各種プレスリリースを公表して います。また、水素ガスを燃料とした燃料電池自動車(FCV)については、大手自動車メー カより既に販売供給が開始されており、続々と市場投入予定が具体的に公表されています。 また、FC バスや FC フォークリフトといった、産業用輸送機器への燃料電池システム搭載 についても、市場投入に向けた取組みが加速化されており、経済産業省 HP 等で公表されて いる情報を垣間見るだけでも、研究開発(実用化)が進められているようです。 今後、こういった需要側の水素利用機器の利便性を高めることが重要となってきますが、 そのためには、水素インフラ(パイプライン等ネットワークや水素ステーション等供給施 設)の充実が求められるところでもあります。 (水素ステーション等供給施設の最新情報については、国土交通省における実証事業や民 間事業での事例等を含めて、次回以降に話題提供させていただきます。) 下水由来の水素製造や水素利用は、環境面で優位ではあるものの、経済面や需給面での 課題は山積しておりますので、今後の技術革新が期待されます。 (資源エネルギー技術課) Copyright©2016 日本下水道事業団技術戦略部
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