教職大学院における 2 つの学び

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教職大学院における2つの学び
長崎, 栄三
『協働校内研修静岡大学教職大学院-富士市モデル』実践
研究成果報告書. p. 1-2
2013
http://hdl.handle.net/10297/7384
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教職大学院における 2つの学び
長崎栄三(教職大学院)
1 静岡大学教職大学院の院生とその学び
静岡大学大学院教育学研究科教育実践高度化専攻(静岡大学教職大学院)の院生は、現職の
教師で大学院に入学した院生と学部を卒業してすぐに大学院に入った院生からなる 。本教職大
学院では、前者は「現職院生」、後者は「学卒院生」と称している 。それぞれの院生の教育目的
は異なっており、現職院生は、「地域や学校において指導的・中核的な役割を果たす高度で優れ
た実践的指導力を備えたスクールリーダーの養成」であり、学卒院生は、
「新しい 学校づくり
の有力な担い手として自ら積極的に取り組み、将来的にリーダー的役割を果たすことができる
新人教員の養成」である 。
本教職大学院の院生の定員は 1学年 20名で、そのうち 15名は静岡県派遣の現職院生である 。
また、本教職大学院は、学校組織開発領域、教育方法開発領域、生徒指導支援領域、特別支援
教育領域の 4領域から成るが、 学卒院生は後者 3領域のみに在籍できる 。現職院生と 学卒院生
の両者が在籍する領域では、それらからなる 2つの学びがあることになる 。 ここでは筆者の所
属する教育方法開発領域での経験をもとに、これらの現職院生と学卒院生の 2つの学びを考え
てみたい
教育方法開発領域では、授業で、学力論、学習科学論、教職研修論、地域課題論、教材論、
学習指導論 、協働学習論 、学校 図書館論などを学ぶとともに 、連携校での訪問 実習では 、授業
の分析の仕方や校内研修の実際などを 学ぶ。 さらに、他領域において、生徒指導論、特別支援
教育論も学ぶ。院生からは、特別支援教育論は教育への見方を広げるという声がよく聞こえる 。
現職院生と学卒院生で大きく異なるのは、 2年次の実習校における課題研究である 。 そこで
は、教育方法開発領域の教員 の指導のもとで、現職院生は「学校改善力高度化実習」、学卒院生
は「学校改善力育成実習」を行う 。 その課題研究は、いわゆる基礎研究と応用研究の両面を含
みつつ、教育方法開発領域の院生の場合には、授業の改善に結び付くもの、教師の力量形成に
結び付くもの、校内の研修のあり方の改善 に結び付くものなどがある 。
2 教職大学院における現職院生の学び
現職院生の 2年次の学校改善力高度化実習の特徴は、その研究課題の独自性、研究方法・内
容の実証性、そして、研究成果における改善案の提案性にあると思われる 。
研究課題は、その基盤をどこに求めるかが鍵となる 。研究課題は、普通の研究のように、自
らの興味・関心に基づく課題で、そして、現在の教育の課題であるだけではなく、実習校やそ
の地域の課題であることが求められる 。現職院生の最大の強みは、すでに、授業の経験を積ん
できており、そこから課題を焦点化できることであろう 。実習 校やその地域の課題であるとい
うことは、当然、実習校の教師との関係が問われてくる 。 これまで筆者が関わってきた課題研
究では、実習校の研修主任クラスの教師と協働で実習を進める場合と、実習校の若手の教師と
協働で実習を進める場合があった。 前者の場合には、学校の課題の改善に直接的に結び付くも
のであり、後者の場合には、若手教師の資質の向上から学校の課題の改善に間接的に結び付く 。
研究方法は、アクションリサーチ、または、授業研究、デザイン研究である 。 そこでは、研
究授業や校内研修などを核としながら、授業での発話、子どものワークシートやアンケート、
教師のインタビューやアンケートなど、多様なデータの質的・量的な分析が行われる 。 こうし
て、新たな研究方法を身に付けることで、授業をメタ的に見ることができるようになる 。
そして、授業の改善、教師の力 量 、校内の研修など教育方法開発領域に 固有な視点からの 改
善案が提示される 。 しかも、それは、何らかの図的表現で可視化されることが 重要なものとな
る。 図的表現で表すことは、研究の成果を改めて関係的・構造的に捉え直すことになる 。
3 教職大学院における学卒院生の学び
学卒院生の 2年次の学校改善力育成実習の特徴は、その研究課題への自己成長の包含、研究
方法・内容における指導者との関わり、そして、研究成果としての成長の証しにあると思われる 。
研究の課題は、自らの興味・関心かまたは現在の教育の課題であるが、それとともに、自ら
の成長が大きな課題となる 。 もちろん、自らの興味・関心かまたは現在の教育の課題を解決す
ることは、自らの成長を内包するものであるが、自らの成長そのものが課題の原点に置かれる 。
研究の方法は、授業研究やアクションリサーチである 。 もちろん、そこでは、現職院生と同
様に、研究授業などについて多様な分析がなされる 。 また、実習校の教員や現職院生などをモ
デ、ルにしたり、研究対象にしたり、また、それらの人々から助 言や示唆を得たりすることが行
われる 。 協働して学ぶという視点が重要なものとなる 。 そこで、学卒院生の実習は、実習校の
教員、大学院の現職院生、大学院の教員 などの指導者との絶えざる対話が鍵となる 。 それは正
しく「状況に埋め込まれた学習」と 言え よう 。
そして、研究の全体を記述することが、自己の成長という課題に応えることになる 。 そこで
は、自己の課題を克服するためのアクションとその結果の連続体として、自己の成長が客観視
されて記述される 。 こうして学卒院生の研究の成果からは 、学卒院生と指導者との 相互作用を
含んだ 、一人の教師の意図的な成長の過程を見ることができる 。
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共に学ぶ意味
現職院生と学卒院生という、年齢や経験が大きく異なる人間による学びは、生涯学習の構造
と類似している 。 大学院や実習での様々な教育課題をもとに 、学卒院生の疑問と現職院生の経
験、さらには大学院の教員の介入などを基にした対話から、新たな学びが生まれる 。 このよう
に考えると、教職大学院での現職院生と学卒院生の学びは、単なる知識の伝達ではなく、社会
における知識構築の協働作業そのものと 言 えよう 。
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