生 産 性 会 計 の 問 題 点

99
生産性 会計 の問題
は し が き
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周知のごとく、近年生産性会計といわれる企業会計の分野が問題となっており、それをめぐって各種の論議が展開
されている。これは、いわゆる企業の生産性測定を経営計算上の諸資料によって行ない、経営能率の把握、生産成果
の適正配分などを通じて、生産性向上を図り、企業経営および国民経済上の諸問題の分析や解決に役立てようとする
経営計算制度の新らしい分野である。この分野の研究は、アメリカおよびドイツにおいて第二次大戦後ほぼ時期を同
る数多くの論文を発表しはじめたし、またデーヴィス︵声ω.U彗芭は、一九五五年﹁生産性会計﹂︵零o旨9まq
じくして始まった。すなわち、アメリカではラヅカー︵≧−竃尋・内目鼻異︶が、一九四六年以後、生産性測定をめぐ
︵注二
>8昌自饒轟︶という著作を公やけにしている。 一方西ドイツではレーマソ︵竃・界鶉げ昌彗■︶が一九五四年﹁創造
価値計算による給付測定﹂︵−乱ω9長昌Φ窪實匝q創膏9峯實房09忌冒⑰q睾8巨冒αq︶という労作を発表し、また同年東
ドイツでもリヒター︵Ω.雲o葦實︶が﹁労働の生産性とその測定の基本問題﹂︵9昌串﹃鍔彗箒﹃>ま①岸o8旨o饒く豪“
目邑豪轟﹃罵霧窒目胴︶という著作を刊行している。
一注二︺
最近、これらの諸研究がわが国においても広く紹介され、企業経営の実務においても、その研究成果を積極的に採
り入れようとする動きが活発となってきた。だが、生産性測定や分析をめぐる間題は、理論的に毛実務的に毛未解決
467
u
汐
100
の事項が多く、十分検討されるべき余地を多く残しているように思われる。
この論文は、今日における生産性会計の間題点を総合整理し、それについて若干の考察と分析を試みることを目的
としている。
︵注一︶ ラッカーがアメリカエ業・セソサスを分析し、従業員給与総額と生産価値とが一定の関係をもつことを指摘したのは、 一
九三二年のことであり、またレーマソも一九三〇年代すでに創造価値計算についての基本的思考を展開しているので厳密にい
えば、その起源は第二次大戦前にさかのぼりうるものだが、生産性測定を中心とした体系的な研究が行なわれたのは第二次大
戦後であるといいうるだろう。
今坂朔久編著﹁ラッカー・プラソ﹂三頁。
拙稿﹁付加価値計算について﹂早稲田商学第=二〇号。
︵注二︶ デーヴイスの著作は、日本生産性本部生産性研究所によって翻訳され、またレーマソの著作は山上達人氏によって訳出
されている。またリヒターは、国弘員人教授や木村和三郎教授による紹介がある。
二、生産性会計の課題
前段でのべたように、生産性会計は、生産性の測定によって、経営における生産能率の把握と向上、生産成果の適
正配分などを通じて経営および経済全体の生産性向上を図ろうとするものだが、さらに、これらの目的を具体的に展
^注一︶
開するとすれば、少くとも現在においてはつぎの四つの局面が問題となるものと考えられる。
すなわち、まず第一は国民経済と個別経営との関係を重視し、個別経営の生産性向上を国民経済全体の生産性向上
に結びつけようとする問題。ここでは主として国民経済上の諸概念や諾方法の経営計算制度への導入の可能性および
468
101
それを利用しての経営諾現象の分析が間題と肢る、
第二は、生産性の測定や分析を通して経営におけるコスト引下を行なおうとする立場。ここにおいては生産能率に
関連する諾数値の原価管理的立場からする分析検討が必要となる。
第三は、将来における経営の生産性の予測を通して経営計画への積極的役立ちをあたえようとする立場。とくに将
来における企業の所得やその配分のあり方が経営の計画にいかなる影響をあたえるかを予測することはきわめて重要
なことであろう。
第四は、生産性の測定によって生産成果の適正配分を実現し企業における労使関係の正常化に寄与しようとする立
場。企業における生産成果は労働と資本が有機的に結合した結果であるから、その成果を適正に配分することが可能
であれぱ、労使関係の正常化が期待され、経営活動の円滑化と生産意慾の向上に役立つし、国民経済的には所得の適
正分配が可能となり、杜会福祉の実現にも役立つのではないかという見解。
さて、期待されているこれらの実現的課題を生産性会計ははたして十分担いうるものであろうか。この問題に関し
以下若干の検討を 行 な お う 。
一、国民経済的諸問題との関連
まず生産性会計はその諸目的を達成するために生産性測定を行なうが、その基礎として付加価値なる概念を問題と
する。レーマンは創造価値︵オ胃房o豪冨冒oq︶なる用語を用いているが、これは付加価値と同意義のものである。付
加価値とはレーマソの定義によれば﹁経営が国民経済全体の総所得あるいはその杜会的生産物へ寄与した部分﹂であ
る。したがって各経営がその付加価値の増大を図ることは、同時に国民経済全体の所得を増大させ杜会的生産物を増
加させる結果となる。
469
102
付加価値は一般 に つ ぎ の 式 に よ っ て 算 定 さ れ る 。
酋さ誉含言H牛尋慧−覇並.挙鳩・桑挙・轡ゴ揮
掛一写;一二一三一二11誉‡−三一三一艘−薫︷目毒些痒劣
したがって、純付加価値の内容は、労務費、税金および金融費用というテ﹂とになる。テ﹂の場合、粗付加価値は、い
わゆる粗国民生産物︵zo勺︶に一致し、純付加価値は純国民生産物︵乞乞勺︶に一致する。国民経済的には純国民生産
物から補助金、官公業余剰、間妾税推計などを加減して国民所得を算出するのであるから、付加価値は必ずしも国民
所得に一致するものはないが、その近似値はえられるであろう。したがって、企業の計算制度に対する付加価値思考
の導入は一応の合理性をもつ。すなわち、企業の計算制度によって経営の創造した付加価値額が計算表示されれぱ企
業の経営者に対して付加価値の意義を認識させ、利潤の追求と同時に付加価値増加への努力が期待できるからであ
る。
二、原価管理
ここでは生産性会計の経営管理的側面が問題となるが、まずコスト引下げを行なう原価管理への役立ちはきわめて
重要な意味をもつ。経営における各生産要素についての生産性測定は、いわゆる標準原価や予算統制による原価管理
とはまた違った面においてそれぞれ有益な指標を提供する。生産性は労働と資本とについて測定されるが、両者はさ
らに物的および価値的側面から問題とされる。
まず、労働生産性は一般に次の式によって求められる。
ミ.ト一︶葦、一一︸妻、1−.︶養費>苧室昌葦一.
÷ 黒 勘−
470
ユ03
誉﹁三︹屏迂映ざ浮ゴ.旨膏膏
含毒言*§峠隔.屏H
蝶嚢陣︵>加・蝶蔓尋理︶
資本生産性は、つぎの諾指標が問題となる。
灘義械嚢尋雷
灘義峠屏.屏11
序屏敏
覇迂.挙
覇宣.挙与陪.芹11
峠隔勘
域卦θ宣.誉含膏︷︹爵.厚n
直一d=含毒
鴻科
これらの指標を経営全体に対して算出し、また事業部別、経営部門別および製品別に求めれば原価管理のうえから
きわめて有用な情報がえられる。しかもそれぞれについて標準を設定して実績との間に差異分析を行ない、また期間
比較や経営部門相互間の比較、競争企業との比較などを行なえば、その効果は一層高まるだろう。
三、経営計画
企業の成長度合は、付加価値額の推移によってもっともよく示されると考えられる。したがって将来における付加
^注二︶
価値増加率の目標をたて企業成長計画の基礎とすることはきわめて重要である。
付加価値の増加率を経営計画の基礎とすれば、つぎのような効果が期待される。
まず第一は、将来において支出可能な労働コストの算定がきわめて容易になるということである。
労働コストは付加価値のなかから支出されるから、労働コスト増加の可能性は付加価値の推移によって大きく影響さ
れる。したがって、経営計画と付加価値との有機的結合が行なわれれば計画全体と労働コストとの関係が合理的に把
471
あろう。したがって、デ﹂の意味からも経営計画の設定にあたっての付加価値の重要性が指捕される。各企業の経営計
加価値をもって成長率を測定し計画すれば国民経済全体の動向との比較においてその関係が明確に把握され効果的で
計画する必要があるのは当然だろう。この場合、国民経済における国民所得の成長率設定に対応し、個々の企業は付
の成長率が予定され、それに向って経済全体の活動を調整しようという現在、個々の企業も将来の成長度合を予定し
付加価値を経営計画の基礎とすることの第二の効果は、主として国民経済との関連に対するものである。経済全体
に達成しうるかどうかが問題となるのである。
ストの変動を予想することも重要であろう。この場合とくに企業の成長が、これらの労働コストを補償するだけ十分
とくに将来、労働コストがいかに増加するかについての慎重な予測が必要となろう。また物価上昇にともなう労働コ
国の経営のように、職務給制度が確立しておらずいわゆる年功序列的賃金制度が一般的に採用されている場合には、
産性を高めるためには、資本集約度を増加させる必要があるが、これは設備投資計画と密接な関連をもつ。またわが
関係も十分考慮する必要がある。むしろテ﹂れらの要因をも包括した計画の設定が重要なのである。たとえば、労働生
資本生産性、資本集約度などの諾要因の推移と密接な関係をもつ。そこで、計画にあたってこれらの関連諸要因との
を期間的に分析すれば計画の設定にあたって考慮さるべき重要な事実が発見されるだろう。この問題は労働生産性、
動するという事実を指摘した。デ﹂の主張には、若干の問題があるけれども、各経営の付加価値と労働コストとの関係
ラッカーは、アメリカの工業セソサスを長期間にわたって分析し、労働コストは付加価値と一定の関係をもって変
要がある。
をあたえるので、経営者は、将来における付加価値の増加目標と労働コストの増加見込との関係を慎重に検討する必
握され、計画の設定および実施を容易にするだろう。いずれにして毛労働コストの発展如何は経営計画に重大な影響
1㏄
472
ユ05
画も基本的には国民経済全体の成長予想に立脚しているのだし、また計画と実績との差異分析の場合にも、経済全体
との関係から明確に把握して行くナ﹂とが必要であろう。
四、生産成果の適正配分
生産性会計の第四の課題は、生産成果の適正配分に関するものである。一般に企業の生産成果は付加価値額によっ
て測定され、それは労働、資本および国家に配分されると理解されている。テ﹂の場合、とくに労働と資本への配分を
合理的に決定しようとするのが間題の中心である。
この生産成果の配分について、早くから独自の見解を主張していたのは、ラツカーとレーマンである。そこで両者
の見解を比較検討することによってデ﹂の問題点を明らかにしよう。
まず、ラッカーは前述したように、一八九九年から一九二九年まで、アメリカ製造工業セソサスを分析することに
^注二︺
より、三つの否定的事実と四つの肯定的事実を発見した。
すなわち、否定的事実とはつぎのごときものである。
ω 企業における賃率ならびに賃金総額は、物量生産高に比し、不規則にしかもかなり早く上昇する傾向がある。
ω賃率および賃金総額は、企業の純利益となんら一定の関係をもって変動しない。
㈹ 賃率ならびに賃金総額は、生産物の総販売価値とはなんらの一定の関係をもって変動しない。
次に肯定的事実として、次の四つをあげている。
ω 企業の原材料費ま、企業自体の生産を表わすものではない。
ω 原材料をその企業の生産高から差し引いた残高がその企業の内部的生産努力の価値である。
㈹ したがって、この生産価値は、一〇σパーセソト企業内部で処分できる収入である。
473
1帳
%
3.782
40.29
23.842
9.664
40.53
1921
17.253
7,丑51
43.19
ユ923
24.569
10.146
41.31
1925
25.668
ユ927
26.325
10.099
38.36
ユ929
28.719
10.885
37.90
1931
17.462
6.689
1933
13.150
4.940
37.57
1935
18.553
7.311
39.41
1937
25.174
1939
24.487
ユ947
76,175
19ユ4
1919
9.386
9.980
10.113
8998
30,242
38.88
38.31
40.17
36.75
39.70
平均(±1,663%)39.395
1949
75.367
30.254
40.14
1950
90.071
34.600
38.41
1951
104.810
40.655
38.79
1952
109.354
43.764
40.02
1953
123.530
48,979
39.65
ユ954
1ユ3,612
坐,631
39.28
ω 賃金総額は、一定パーセンテージの割合で生産価値に正比例して変動している。
賃金分配率
このような統計的事実をもとにして、アメリカにおいては企業の生産個値のうち三九・三九五バiセソトは賃金と
総賃金
して、六〇・六〇五パーセソトは会杜に分配されるのが標準的であり、しかもこの配分率はいかなる時代の変化にも
年次1付加価値
かかわらず、わずか一・六バーセソトの標準偏差があるのみでほとんど一貫していると主張した。つぎにラッカーの
(単位 10億ドル)
調査によるアメリカにおける統計資料を示す。︵第一表︶
なおこの配分率は、アメリカにおける全企業の平均であり、個々の企業においては、 それぞれ異なった傾向が示さ
.れている。したがってラッカーはさらに産業別の標準配分率を算出した。︵第二表︶
第1表
474
107
63.11
2.634
37.96
62.04
2.560
39.07
60.93
2,μ0
40.99
59.01
2.353
42.49
57.50
ゴ ム
2.334
42.85
57.15
金属製品
2.291
43.65
56.35
2.261
44.23
55.77
雑 貨
輸送機械
家 具
2.228
44.89
55.11
2.159
46.31
53.69
47.52
52.垂8
衣服身廻品
2.042
48.98
51.02
木 材
1.941
51.5ユ
48.49
革製品
1.909
52.39
47.61
1,859
53.79
46,21
スぞ比 %05 4 423
標働を利 6078777170
準コの益乃工426
ン 労トく率
ブにる額諸二簑
一7
表カ生対賃比
鶉す銚率二蓑2・
2㍉詰ぷ鴛鴛
す 賃ルの
第る金当生24433
対
に 業 均 学晶油
麓 麟バ
業 平
36.89
料の分析から構成されている点にいちじるしい特殊性が見出される。
て何故このような配分がなさるべきかについての理論的根拠を直接示したわけでなく、その主張は、ほとんど統計資
の実績の平均を基礎として配分計画をたてるべきだというのがラツカーの主張の要旨である。ラヅカーは、したがっ
業内でも個々の企業の規模によってもかなりの格差が認められる。したがって、それぞれの企業の遇去における配分
︸﹂の産業別平均からも明らかなように、個々の産業によって配分率にかなりの差があるデ﹂とがわかる。また同一産
特 産 製
全タ化食石
34.04
2.711
し、それを基礎として配分するナ﹂とを主張している。ナ﹂の場合とくに問題となるのは資本集約度である。資本集約度
一方、レーマソは生産成果の配分について、とくに資本および労働が生産成果の創造にいかに貢献したかを測定
︷注三︶
475
第一次金属
2.104
繊 維
65.96
2.983
印 刷
製 紙
精密機器
電気機械
土石製品
機 械
︵肉署ぎ−一巨g筆津︶とは、労働力に対する資本額の関係値で、 つまり従業員各人がどれだけの資本をもって装備さ
れているかの度合であり、一般に労働装備率と毛いわれる。ナ﹂の資本集約度は労働生産性の向上にいちじるしい影響
をあたえるのである。デ﹂の事実をレーマソはつぎの式によって明らかにしている。
津§︷r爵.厚H域斗÷屠.再×域計痔書屏
H −×
球 蔓 癖 卦 球禽
ま,旨含毒 之旨含言 域甘
デ﹂の式から明らかなように資本生産性に変化がないとすれば、資本の追加的投入によって労働生産性は上昇する。
かくてレーマソは、生産成果に対する資本および労働の貢献度合を測定する場合、労働生産性および資本生産性の指
標のみによっては正しい答えはえられないとし、とくに労働生産性の測定にあたっては資本集約度の影響を除去しな
ければならないと主張する。そのため彼は二つの方法を提案している。すなわち、その第一は﹁純化された労働生産
性﹂︵訂置邑牲彗>ま卑器Hσq庁巨算Φεという概念の導入である。 ﹁純化された労働生産性﹂とは労働生産性数値か
ら資本集約度の影響を解放するもので、それはつぎの方法によって求められる。︵第三表参照︶
すなわち、この場合A,Bの二つの異なった場合を想定し、それぞれの資本集約度、労働生産性の数値を基準年度
︵第一年目︶を一〇〇パーセソトとして、それに対する指数を算出する。そして労働生産性数値をそれに対応する資本
集約度の指数で割る。かくて、Aの場合は本来の労働生産性数値が四〇パーセソトの増加となっているが、実際は一
ニバーセソトであり、Bの場合は二五パーセソトの表面上の向上に対して実際は四パーセソトの下落というように資
本集約度の影饗を解放せしめるのである。以上のほかに、レーマソは第二の方法として総合生産性の測定にもとづく
^注四︺
方法を提案しているが、宇﹂れは彼自身もみとめているように若干問題があり、第一の方法に較べれば重要性は低い。
108
476
109
第3表 資本集約度の影響から労働生産性の解放
≡1指数﹂
:指数=一
■■
1,001,031,051,071,101.12
60.00%61.7163.2764.6966.O067.20
1,O01,031,051,071,101.12
240.00%246.80253.09258.78264.O0268.80
1.O01,081,161,241,321.40
1指数■
h
C
i b !
h
1d l■
240.00%259.20278.40297.60316.80336.00
1,001,051,101.ユ51,201.25
4,O04,204,404,604,805.00
9
f
.d l
e=c:b
a
一■;一﹁
E:!
1年目2年目3年目4年目5年目6年目
1,000,990,980,970,970.96
60.OO%59.4358.9358.4758.0657.70
1,000,990,980,970,970.96
240.00%237.73235.71233.90232.26260.77
1,001,051,101,151,201.25
・・・⋮%i252・001264・00:276.00288.00300.00
1,001,061,121,181,241.30
4,004,244,484,724,965.20
1年目2隼目3年目4年目5年目6年目
このようにして、レーマソはラッカー
のように過去における配分率を基礎とし
て労働および資本へ配分するのではな
く、両者の生産成果への貢献度合を測定
して配分しなければならないとし、さら
にその生産成果の測定は純化された労働
生産性の変動によって行なうのである。
たとえば、基準年度において労働への配
分率が三〇パーセソトであっても、その
後純化された労働生産性が五パーセソト
向上すれば労働への配分率を三六パーセ
ソトに修正するというように、配分率を
常に変動させ、労働者の作業意慾に対す
る刺戟的効果を高めようとするのが彼の
主張である。
以上、レーマソもラッカーも方法の相
違こそあれ生産成果の配分方法を問題と
することによって企業における労使関係
4刀
指数
数
数値
数値
値
■指数
数値
一
数値 !指数
,Bの場合;
数値
;指数1 一
資本生産性
純 化
9
C
≡
a
一
■
! ■ f l
e=c:b
b 一 ■
■
Aの場含
値
性 1 ■ ■価 値■
産
働 生
労
一
本来の価値
資本集約度
数
数値」指数.
■
(発展比較の場合〕
110
を正常化し、さらに労働意慾を刺戟し生産性の向上を期待しようとしている点はかわらない。もっとも、このような
方法によって成果配分が合理的に達成できるかにっいては異論毛多く、したがってはげしい多面的な批判があびせら
れている。この問題については、後段においてさらに検討したい。
︵注一︶ レーマソは、創造価値計算の応用領域として、経営能率の測定および従業員の成果配分思考の実現の二っをあげている。
−2昌彗p−①山ωg目鵯昌霧血目目閑o膏g事雪房g昌ぎ目胴一ω一〇〇↓津
この問題については、つぎを参照されたい。
山上達人﹁レーマソ生産性測定と創造価値計算﹂九八頁以下凸
拙稿﹁付加価値計算について﹂早稲田商学一三〇号、 一〇六頁以下。
︵注二︶ もっとも、付加価値を企業成長の尺度とするという考えには異論がないわけではない。たとえば、付加価値だけを問題
とすると、いわゆる関連産業の関係が明確に把握できないという批判もある。だが、他にこれ以上すぐれた尺度も見あたらな
いと思う。たとえば、売上高、純利益および総財産などよりは、はるかにすぐれた成長測定の尺度たりうるだろう。
︵注一二︶ 今坂朔久編著﹁ラッカー・プラソ﹂五頁以下。
なおラッカーは、生産価値という用語を用いているが、これは概念的には付加価値と全く同一である。
︵注四︶ この問題については、山上氏の前掲書を参照されたい。
三、付加価値測定上の問題点
生産性会計は前段でのべたような多面的な課題をその目標とするものだが、その達成には各種の困難性が存在して
おり、とくに個々の計算処理の面において未解決の問題が多い。本項ではこれらのうち付加価値測定に関連する問題
について若干の検討を試みたい。
478
111
付加価値の測定は、付加価恒に算入すべき項目の決定が基礎となる。付加価値は一般に企業の生産額から前給付原
価を控除して求めるが、この場合いかなる項目を前給付原価および付加価値に算入するかについては必ずしも見解が
統一していない。
たとえぱ、レーマソはつぎの諸項目を前給付原価および付加価値に算入することを主張している。
ω前給付原価
㈲材料費
㈲減価償却費
ω外部用役費
㈹危険費
ω 付加価値
㈲ 労務費
ω 共同体費
ω利子費
これに対してラッカーは、 ﹁工場労働者の年間所得を決定する要素は、生産金額または利潤とは異なった工場で付
加された価値である﹂として、付加価値の内容について﹁総売上価格から原材料費、購入動力費、消耗品費を減じた
もの﹂と定義し、さらに生産価値の内容として具体的な諾項目をあげている。すなわち、生産価値の内容はつぎの諾
項目である。
㈲賃金給料
479
112
ω その他の営業支出︵減価償却費、保険料、研究費、宣伝費等︶
㈲ その他の負担金︵借入金利子、税金、資本利子、貸倒損失など︶
一庄一︶
また、シニナイダーは企業の創造価値︵純付加価値︶は総生産から前給付および滅価償却を控除して求められると
し、一方、コーリソ・クラークは﹁多数の国が付加価値すなわち生産物の総価値から原料または半製原料、燃料およ
び電力の支払額を差し引いた額を示す製造工業の統計を発表している。⋮⋮しかし、国民所得への真の純貢献をうる
ためには、償却にたいして、相当の控除がなされねばならず、また生産過程において製造業者が使う非物質的サービ
^注二︶
ス、たとえば広告、郵税、保険、会計、法律上の費用なども控除されねばならない。﹂と主張している。
以上の諸説から明らかなように、付加価値測定上の第一の論争点は、減価償却の坂扱いにある。レーマソ、シュナ
イダー、クラークなどは、減価償却費を付加価値の控除項目とし、ラッカー、カール・S・シャープなどは、それを
付加価値に算入している。生産性測定にあたっては、減価償却費を付加価値に合めるか否かによって、その結果はか
なりの相違が生ずる。レーマソ自身は、とくに減価償却費を付加価値に含めるデ﹂とについて、その理由をのべている
わけではないが、彼の付加価値概念が国民経済との関連を強調する毛のだけに、いわゆる資本減耗を控除した純国民
生産物に一致する付加面直概念の導入を当然のデ﹂とと考えたのであろう。たしかに、国民経済的観点を重視する立場
からいえぱ、この思考は正しいであろうが、他方個々の企業における労使問の成果配分を主として問題とする立場か
らは、減価償却費のように計算の基準が必ずしも明確でなく、多分に経営の政策によって変化せしめられる可能性の
ある項目を付加価値に合めるのは好ましくないとも考えられる。何故なら減価償却額をいかに計上するかによって付
加価値額が変化するので、労働者の付加価値算出方法に対する不信を増大させ労働組合の協力をうることがきわめて
困難となるからである。また減価償却費を付加価値に加えれば労働コストと減価償却費との関係、利益留保額と減価
480
113
償却費との関係などが明確に把握できるという長所もある。かくて、労使関係の調整に重点をおく限りにおいては減
価償却費を付加価値に合めた方が、その実際的適用を容易にするだろう。
付加価値の測定に関する第二の問題点は、測定の基礎として生産高と売上高のいずれを用いるかの問題である。そ
もそも、付加価値の算定には集計方式と控除方式とがある。集計方式は、付加価値の構成要素を集計する方法であ
り、控除方式は、生産高または売上高から前給付原価を控除して求める方法である。わが国では目銀の資料は集計方
︵注三︺
式をとっており、通産省の工業統計表は控除方式をとっている。
さて、控除方式をとった場合、前給付原価を生産高から控除すべきか、売上高から控除すべきかが問題である。こ
の場合、一般には生産高が基準とされる。けだし、労働と資本の成果は製品の生産によって結果されるのであって、
売上高は一たんに流通過程におけるその実現を意味するに外ならないからだ。
だが、レーマソはこのような一般的見解に反対して、売上高、つまり実現創造価値︵屋昌色彗a幸胃房9g︷⋮①q︶
を基礎とすべきことを主張している。その理由は、生産高を基礎とすれば、企業の流動状態を圧迫するという点にあ
る。すなわち、期末における在庫晶が増加した場合、付加価値の一部が未実現の状態になり、さらにこの未実現の付
加価値を合めた総付加価値にもとづいて、労働への配分を行なえば、企業の運転資本を減少させることになるからだ。
これとは反対に、売上高を基礎とすれば、企業の財務政策の面からは、好ましい結果を生ずるテ﹂とになるだろう。か
くてレーマソは売上高にもとづいて、配分すべき額を決定すべしと主張するのだが、しかしこの考え方には若干の疑
間がある。すなわち、在庫品期末増加額は、たしかに未実現に違いないが、この在庫品のコストを構成する労務費
は、すでに賃金給与として支払われているので、とくに不当に企業の流動状態を圧迫するとは考えられない。むしろ
それ以上に、生産高と売上高の差額によって生ずる不合理の方が間題であろう。したがって売上高を基礎とする方法
481
114
は、特別の場合以外は採用すべきではない。なお集計方式は、生産高を基準とする控除方式に一致する。
デ﹂のほかに在庫品は原価で計上され、予想利益が見積られないので、期末在庫品が著る、しく変動する場合、付加価
値の労働と資本への配分割合が不均衡になるという問題が生ずる。しかし予想利益は計上しないという会計上の原則
を引合に出すまでもなく、在庫品に対する見積利益を計上することは計算の客観性をいちじるしく害するので好まし
くないと考えられる。
付加価値測定における第三の問題点は、売上高または生産高以外に、いわゆる営業外収益を合めて配分額を測定す
べきか、あるいは正常な営業活動にもとづく売上高または生産高のみに限定すべきかの問題である。
レーマソは営業外収益の除外を主張して、つぎの付加価値計算表を例示している︵第四表参照︶。この表は、成果計
算区分と総成果計算区分にわかれ、成果計算の区分において、売上高と前給付原価とを対応させ付加価値を算定し、
その配分額を表示している。この場合、前給付原価に合まれている減価償却費や危険原価は、財務会計において通常
算定される、税法の許容限度額を申心とした、減価償却費や危険原価︵たとえば貸倒引当損一ではなく、白己の企業
にとって必要と認め、原価計算上算定された額である。したがって、財務会計上の利益に一致させるために、総成果
計算の区分において、それぞれ全額を戻入し、あらためて財務会計上の設定額を計上している。
^注六︶
レーマソの主張するように、営業外収益を除外して算定する方法は、理論に妥当性をもつものであろう。何故なら
営業外収益に属する項目は、財務的な収益すなわち受取利息や配当金によって占められるが、外部企業への出資や貸
付の結果生ずるこれらの収益は、その大部分が資本の貢献によるものだからである。したがって第四表のように、資
本の配分額をそのまま総成果計算区分に振替え、そこで営業損益の調整計算をするという方法がとられるのである。
わが国における付加価値測定の場合、一般にこの点についての配慮がほとんどされていないが、測定の厳密化の観点
482
115
第4表
i■一マンの創造価値計算
成 果 計 算
借 方
貸 方
総 収 益
主 要 売 上
1,559,C01
副 売 上
372,783
合 計
1,931.794 1,931,794
前給付原価
原 材 料
補助材料及貯蔵品
保 険 料
其の他の外部用役原価
571.795
480.419
1.667
198.675
減価償却費
95.094
危 険 原 価
9,200
合 計
1,365.850 1,365,850
イ寸 加 価 値
賃金給 料
法定及任意的社会的費用
従業員に対する成果の配分
労 働収 益
223.955
70,O10
45,989
339,954
売上高税及其の他の税金(但し利益
に対して課せられる税金は除く)=
339,954
60,239
公共収益I
資本収益及び公共収益II(=利益に
165.751
課せられる税金)
合 計
565,9μ
ユ,931,794
ユ,931,794
総成果計算
資本収益及び公共収益II(成果計算
165,751
より)
95.094
減価償却費(原価計算上の)
危険原価(原価計算上の)
9,200
減価償却費(簿記上の)
83.065
危険損失(籍記上の)
12.313 95.378
他人資本利子
19,853
経営外及び非正常的収益
経営外及び非正常的費用
564
1.414
公共収益工[(利益に課せられる税金)
69.284
期間的貸借対照表利益
84,680
270,609
483
270,609
116
からすれば必要改ことであろう、
︵注一︶ωo;o巨8里邑葦;目帽ぎgo峯享ωo罫津gぎoまL一9>鼻岩蜆9ψξ申
この問題については、拙稿﹁付加価値計算の経営経済的考察﹂企業会計昭和三五年十一月号を参照されたい。
︵注二︶ O−弩ぎ↓巨①Oo冒2饒o轟o︷向8昌冒︷o零o零霧9畠呂.小原敬士外訳﹁経済進歩の諾条件﹂
︵注三︶ 目銀はつぎ方式により算出している。︵本邦主要企業経営分析調査︶
一 ︵>ギ躍︶ ︵紛翼鰻ヨ︶ ︵賦泰羊︶ ︵曽善序塁︶
一萎三轟二隷一軍一一箪轟望・婁青
逮§時曝蒔11
尋・峯耕事ヨ速§映斗N
通産省方式︵工業統計表︶
弐誉自菌1−時酔慧−覇茸挙恵通菌鵠−驚含毒些慧
^注四︶ 藻利重隆教授は、この点に関してつぎのようにのべておられる。
﹁われわれは、 一定期問の利潤と賃金との合計額において付加価値を理解してきた。そして、充用不変資本ないし物的生産
諸要素の価値は、明らかにこれから区別せられるものとして理解してきたわけである。こうした見地よりするときは、第一に
﹃滅価償却費総計﹄を付加価値のうちに計上することは不可解であるといわなければならない。けだし、それが本質的に物的
生産諸要素の個値の一種をなすものと解せられるべきであることに関しては、なんらの疑いもありえ改いからである。﹂ ︵﹁わ
が国企業の総資本付加価値率に関する一考察﹂ビジネス・レ、E.一−−く0F9乞o。弁︸竃︶
^注五︶ ■o巨 昌 凹 冒 ξ 苧 饅 . o ‘ ω 二 ω . o o o 声
︵注六︶ この間題については、拙稿﹁付加価値計算について﹂九八頁以下を参照されたい。
1
484
一
’
」
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1
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117
四、生産成果の遭正配分
前段でのべたのは、付加価値の測定をめぐる問題点であった。さて、つぎにこのようにして測定された付加価値は
いかに配分さるべきかが問題となるが、付加価値測定の場合と同様に、ここにおいてもまた検討を必要とするいくつ
かの問題がある。以下その重要な点に関し若干の考察を試みよう。
一、付加価値の帰属先の決定
付加価値の帰属先として何を考えるかの問題は基本的には経営における生産要素をいかに理解するかにかかってい
る。たとえぱ、ラッカーは付加価値の労働への配分率だけを問題としているので、デ﹂の場合問題とならないが、レー
マンは労働、資本および政府活働の三つをあげ、それぞれ賃金給料、利子費用および租税という形で配分されると考
えており、この見解が一般的なものとして認められている。しかし、この問題については他にも各種の見解が主張さ
一注二
れており、 コルビソガー︵内◎曇■①q胃︶はこれをいくつかのグループに分類整理している。いまこデ﹂でその一つ一つ
を検討する余裕はないが、コルビソガーが結論的にあげているつぎの四つの要因は一応注目にあたいしよう。
ω 経営体︵︸a彗︶
ω 資本︵内遷ま−︶
㈹ 労働︵>ま①5
㈲ 賃金労働一−oぎ彗σ①5
ω 企業家労働︵自鼻①昌g冒⑦轟ま①5
テ﹂の場合、企業家賃金とは、いわゆる経営者報酬と同義に考えてよいだろうが、いずれにしても、資本と労働のほ
485
118
かに、このような配分先を考えることも検討の余地がある。ことに資本と労働を有機的に結合させ、その効果を十分
に発揮させる経営者の能力も現代の経済杜会で無視できなくなっているとすれば、経営者に対する配分先もかなりの
重要性を毛つかも知れない。いずれにして毛経営意識をたかめるための刺戟的効果は期待できるだろう。
また経営体に対する配分は、利益留保として社内に残留する利益部分を指すが、このなかでも配当平均積立金のよ
うに元来資本に帰属すべき部分および退職給与積立金のように労働に帰属する部分は、それぞれ資本および労働への
配分として扱われるべきだろう。かくしてデ﹂こでは純粋な経営体への留保部分を問題としなけれぱならないが、この
部分は一般に資本に帰属する性格が強い。
それはともかく、デ﹂れら種々なる配分先を決定し、それぞれについての配分額を測定するわけだが、配分先を多く
すれば貢献度の測定はそれだけ困難になる。したがって、もしこのような多くの配分先を問題とするならぱ、ラツカ
ーの行なったように過去における平均率で決定する意外に方法はないように思う。したがって、配分先の決定それ自
体には多分に合理性があっても、現在の段階では実行の面でかなりの制約があると考えられる。
二、社会費用の計算 、
わが国では現金給与額以外に社会、厚生、福祉について、たとえば社宅の建設とか現物給与などの形で労働への配
分が行なわれる事例が多い。これらの項目は原価計算的には労務副費または福利厚生費として計算されるわけだが、
わが国の企業は一般にこの計算を厳格に行なっていない。たとえば杜宅に関しては、建設に要した資金の利息、減価
償却費、修理費、管理人の人件費、その他の諾経費一切を計算して労働への配分額に加えなければならないが、これ
らの費用のすべてを労務副費または福利厚生費に計上し厳密な配分計算を行なっている企業は少ない。多くは、社宅
の減価償却費などを、他の生産設備の償却費と同様に取扱っているし、叉支払利息なども同様に処理しているようで
486
ーユ
9
ある。
しかし、周知のようにわが国では税制その他の関係から、厚生福利費の形での労働への配分は一般にかなりの額に
達しており、また企業別にもかなり格差があり、この部分の処理如何ではかなり違った結果がでる可能性がある。こ
の問題は結局、企業計算制度の根本に触れる問題であり、早急な解決を図るのは困難だが、同様の悩みをもっている
一注二︺
ドイツで、近年興味ある提案がなされているのでつぎに紹介しよう。
すなわち、ドイツ社会経営実務協会︵o⑦色ぎ巨津旨HωoN厨−Φ黒巨8ω肩翼包は、労働者に関するあらゆる費
用の計算を次記の各項目に分けて算定することを推唱している。
1 給付の報酬
ω 賃金・給料
ω 成果配分
n 法律および労働協約によって定められた杜会費用
ω 杜会保険の雇傭者負担分
ω家族手当
㈹ 事故防止の費用
ω 年金の引当分等
皿 生産能率 の 向 上 に 役 立 つ 杜 会 費 用
ω 健康管理
ω労災防止
48?
120
③企業内教育
ω社宅等
w 付加的費用
ω有給休暇
ω保養施設等
このように企業は労働にいかなる配分をなしたかを厳密に算定することは労働者の側からも経営者の側からも必要
であろう。また労使問題だけではなく経営管理の面からも必要であろう。これを可能にするためには、この問題に適
た杜会原価計算︵ωo邑巴ぎg窒轟oぎ昌⑰q︶の実施を提唱しているが、これなども重大な示唆をあたえるものだろう。
合した計算制度の確立が望ましい。G・フイッシヤー︵O邑ま冒讐撃︶は経営における社会資本概念を間題とし、ま
^注⋮
いずれにしても、わが国ではこの問題の未解決が付加価値配分額の算定に大きな障害となっており、とくに外部資料
によって企業における正確な配分率を求めるのはほとんど不可能な状態にある。したがって個々の企業内において計
算資料をできるだけ整備し、正確な測定を行なうように努力することが望ましい。
三、適正配分の決定
つぎに問題となるのは、いかにして適正配分を決定するかの問題である。すでにのべたように、これに関して積極
的主張を展開したのは、ラッカーおよびレーマソである。ラッカーは過去における配分率から将来における配分額を
決定せよと主張する。これに対してレーマソは﹁純化された労働生産性﹂の変化にもとづいて配分額を決定せよと主
張する。
以下、両者の見解について、若干の検討を試みよう竈まず、ラッカーの主張は過去の配分率を問題とするが、これ
488
121
はっぎの点で疑問がある。すなわち、現在のはげしい技術革新の下では、企業家はっねに設備投資による生産性の向
上を図らねばならぬが、これによって生じた付加価値の増加分は資本の貢献によるものとして、資本側は労働への配
分を拒否するにちがいない。また現実に、このような動きがわが国でもきわめて活発になってきている。また一方、
経営者の投資政策の失敗から、遊休設備が生じ、テ﹂のため付加価値が減少した場合、その割合で労働への配分を減少
させることについて労働者を説得することは不可能であろう。そもそも、賃金の引下げを行なうことは一般にきわめ
て困難である。
つぎに、ラッカーは過去の統計から、労働への配分率はほとんど一定であるといっているが、彼の統計資料を見て
も明らかなように、若干の誤差がある。そして、その差すらも実際の配分を決定する場合に問題となる可能性がある
ということである。いずれにしても、過去の配分率で労働への配分を決定するという考え方には多分に疑問がある.
つぎに、レーマソの方式はどうか。レーマソは資本集約度を重視し、資本集約度の増加による生産性の増加分は、
^ 注 四 ︺
労働へは配分しないという。技術革新の恩恵は労働者へは少しもあたえられないのである。まさにデ﹂れは山上達人氏
も指摘しているように、資本の強化以外の何物でもないだろう。デ﹂の方法を適用すれば、国民経済的にみても需要の
相対的減退をもたらし、経済の混乱を導くナ﹂とになりかねまい。
いずれにしても、資本の社会的共有という前提が満されれば別として、その早急な実現が困難な現在、個々の経営
の場で一応の対策が考えられなければならない。すでに知られるように、ラッカーおよびレーマンの両方式は、いず
れも現実の適用面において絶対的方式たりえないデ﹂とは明らかである。ただ、とくにラッカーの方法は労働問題調整
にあたっての一つの参考的指標とはなりえよう。したがって、多面的に適用される手段の一つとして活用するデ﹂とは
可琵と考えられる。
一489
}22
X X X
生産性会計に関する問題にいまだ解決されるべき多くの問題が残されている。そしてその多くは労使問題に関する
ものである。しかし一方、経営計画や原価管理えの役立ちは、むしろすでにのべたように、推唱さるべき多くの要素
をそなえている。この点についての検討は、紙幅の関係からまた別の機会にゆずることにする。
︵注一︶ −o器市.丙o自︺ま鷺■ooぎ目邑︺g①婁町q自目胴自目oN自冨g■目目oq阻墨①畠9>︸9“自目︷−oケp岩竃一ω一畠。
︵注二︶ o;巨oヨωoま5ω0N邑凹自︷峯彗〇一旨oω富邑く睾昌αoq彗⋮昌一︺gユo雪﹂9彗内①o︸目目目窃ミ鶉彗一呂昌ωgs目o>﹃茅ぎoζ一
岩蜆o〇一ω.−㊤㊦.
︵注三︶ Ω目巳oヨωoチ實一U麸ωoN庁岸国亘試−まωωgユ①一︺o9呂o冨oブ目目︷>︸o津一峯腎N一鵠o〇一ω.§.
この論文については左記を参照されたい。
拙稿﹁経営経済的社会資本概念﹂生産性昭和三十四年八月号。
︵注四︶ 山上達人﹁レーマソ﹃生産性会計﹄についての一考察﹂生産性会計二一λ頁。
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