俺はチート職業を使って気ままに生きる

俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く
りばーみーと・あいあんあろー
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︻小説タイトル︼
俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く
︻Nコード︼
N3732CP
︻作者名︼
りばーみーと・あいあんあろー
︻あらすじ︼
何か知らんけど、200人の地球人を転生させて行う戦争的なや
つに巻き込まれた俺。
俺だけ魔物を倒せばドンドン自分を強化できるチートっぽい力貰っ
ちゃったんで、赤ん坊で全ステータス平均値の状態からステータス
強化しまくって適当に異世界生きてみることにするよ。
こうして、フリートの英雄譚は始まった。 1
※現在、リメイク版を執筆中です。 ※不定期に生存報告兼作業の進捗情報伝達をします︵作業は細々
としか進んでないけど許してww︶。
※現在、9話から書き直し中。16話まで執筆完了 2
第1話 チート始動
きしま そうた
俺は杵島颯太。
今は風呂掃除をしている、ポイント集めが趣味の平凡な高校生だ。
﹁あ∼﹂
俺は欠伸しながらバスタブをごしごしと磨く。
洗剤が強力なのか、汚れはドンドン落ちていく。
早く終わらせてアニメでも見よう。
俺がそう思い、更に擦る力を強めていくと、不意に天井が光った。
★
俺は気が付くと、白い光を放つ壁と地面に囲まれた部屋にいた。
俺のほかにも数十人、いや、それ以上の人間がいる。
﹁みなさん、ようこそおいでくださいました﹂
天から声が響く。
いや、正確には頭上だが、そんな表現を使ってしまうほど彼女の
存在は圧倒的だった。
﹁私は聖神ネィム。
この部屋に貴方方を呼んだのも私です﹂
意味分かんねえ、俺はそう言おうとした。
が、声が出ない。
3
ついでに言うなら体も動かない。
如何やらネィムの仕業らしかった。
﹁すみません。スムーズに話を聞いてもらうために体を固定させて
もらいました﹂
自分でも認めている。 それにしても、突然すぎるな。
俺、ここに来る前は風呂掃除してたんだよな。
それがいきなり⋮⋮。
﹁先ず、結論から入ります。
︱︱貴方たちにはこれから異世界ユートピアに行ってもらい、そ
こで貴方たちと同じように異世界にやってきた悪神ネームレス側の
味方となった地球人と戦ってもらいます﹂
これにより、約半分の者がその瞳に恐怖を宿し、それ以外の更に
半分の者が目を輝かせ、残りの者は何処か呆けているような目をし
た。
﹁聖神側も悪神側も人数は100ずつ。
これから貴方たちに強力な力を宿させた後、赤ん坊へと転生させ
て、より強い力を付けてもらいます﹂
ここら辺は大体よくある転生モノのパターンだな。
まあ俺にとって転生なんてこれが初めてなんだが。
﹁私たちの勝利条件は悪神を倒すこと。
敗北条件は私が倒されることです。
私と悪神はお互いに直接戦うことは出来ませんから、貴方たちの
4
強さが重要なカギとなります﹂
⋮⋮つまり、世界を超えさせるほどの力を持った悪神を俺たちが
倒さなきゃなんないのか?
俺、平穏に生きるわ。
﹁私たちが勝利すれば人類側の領域は全て残り、あちら側の領域が
全て消失します。
そして、逆も然りです。
人類側の領域が無くなればほとんどの人族が死に絶え、残りは魔
族に駆逐されることとなるでしょう﹂
︱︱以上です。
ネィムがそう言うと白い光が俺たちを包み込んでいく。
え?説明少なくない?
ふざけんなよ!もうちょい教えろよ!
虚しく、俺の意識は闇に沈んでいく。
★
俺の意識はパチッと、まるで玩具のスイッチを入れたように明瞭
にハッキリする。
﹁あらまぁ、いつ見ても可愛い顔ね∼﹂
そこにいる金髪の美女は俺の母、サリア=ユニバルスである。
如何やら俺の肩書は大貴族ユニバルス家の長男、フリート=ユニ
バルスとなっているらしい。
5
俺は生後一か月児らしい。
俺は異世界で意識を持ったのはこれが初めてだが、何故かこの一
か月間の記憶がある。
まあ、好都合だ。
自我がしっかりしている状態で生後一か月を過ごすとか辛そうだ
し。
﹁奥様、シャウル家のお客様がいらっしゃいました﹂
﹁あらそう。分かったわ。 じゃ、フーちゃん大きくなるのよ﹂
侍女がシャウル家と言う如何やらお偉いさんらしき人が来たと告
げる。
するとサリアは直ぐに部屋を出て行ってしまった。
﹁⋮⋮﹂
今俺の頭の中にはステータスを開く方法が入っている。
説明された記憶はないけど、何故かインプットされているのだ。
奇妙な感覚だが、まあいい。
ステータスを開いてみよう。
“利き手の人差し指を伸ばした状態で腕を横に振る”
仮面ライダー的なアクションで少々恥ずかしいが、しょうがない。
俺は言うとおりにしてみる。 生後一か月だからかなり、と言うか滅茶苦茶きつかったが何とか
そのアクションは成功する。
俺の目の前に半透明のウィンドウが現れた。
6
名前:フリート=ユニバルス
レベル:1 種族:人間 職業:ポイント使い
存在力:C
スキル:﹃ポイント操作﹄︵﹃﹄は職業固有スキル︶ 生命力:10
魔力量:10
筋力:10
防御:10
速力:10
魔力:10
︽ポイント残り31︵ポイント使い専用項目︶︾
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
これがステータスか。
頭の中にはステータスの開き方以外にも一般人のステータス基準
があった。
それによれば皆大体全部10くらいらしい。
つまり俺は一般人と全く一緒のステータスと言うわけだ。
そして、インプットされていた最後の情報。
スキルの使い方だ。
ステータスプレート︵仮︶の使いたいスキルの項目をタッチする
か、スキル名を言うか、強くそのスキルを使いたいと念じるかすれ
ばスキルは発動するらしい。
今回はタッチで﹃ポイント操作﹄のスキルを発動する。 7
するとステータスプレート以外にもう一つの板が現れた。 その板は大部分が黒で、文字が血のような赤になっている。
何というか、厨二的チックなプレートである。
・能力値操作
・スキル習得
・スキル修練
・存在力上昇
・知識習得
・石版アップデート
4つの項目が記されている。
俺はまず能力値操作の項目に触れた。
どうやら文字通り筋力や魔力などの能力値を上昇させる項目らし
い。 次に、スキル習得の項目に触れてみる。
⋮⋮それにしても、ポイント使い。
思ったんだがかなりのチート性能な予感がする。
・火魔術︵10︶
・水魔術︵10︶
・風魔術︵10︶
・土魔術︵10︶
・雷魔術︵10︶
・氷魔術︵10︶
・光魔術︵10︶
・闇魔術︵10︶
・強化魔術︵10︶
・
8
・
・
・
・剣術︵10︶
・槍術︵10︶
・弓術︵10︶
・棒術︵10︶
・杖術︵10︶
・拳術︵10︶
・斧術︵10︶
・鎖鎌術︵10︶
・双剣術︵10︶
・
・
・
・
・魔物調教術︵20︶
・料理︵10︶
・礼儀作法︵5︶ ・家事︵1︶
・鍛冶術︵20︶
・
・
・
・
・鑑定︵10︶
・偽装︵10︶
・気配隠蔽︵10︶
・探知︵10︶
・
9
・
・
・
量が多すぎる。
パラパラと流しながら読んだだけだが、スキルの数は恐らく万を
超える。
それと、どうやらスキルの横に書いてある数字はそのスキルを習
得するために必要なポイントらしい。
スキルはいつか取るとして⋮⋮。 次行こう。
存在力上昇。
これにタッチすると、たった一行だけ﹁存在力Bに存在力を上昇
︵10000︶﹂とだけ表示された。
そもそも存在力が何なのかも分からないので、飛ばしておこう。
知識習得にタッチしてみる。
するとスキル習得ほどではないけど、膨大な量の文字が表示され
た。
ユートピア基本的知識詰め合わせ︵1︶
ユートピア常識的知識詰め合わせ︵3︶
ユートピアの大陸別知識・アーク大陸基本知識詰め合わせ︵5︶
ユートピアの大陸別知識・ビークル大陸基本知識詰め合わせ︵5︶
ユートピアの大陸別知識・シーカース大陸基本知識詰め合わせ︵
5︶
ユートピアの大陸別知識・ディーヴァ大陸基本知識詰め合わせ︵
5︶
10
・
・
・
・
・
・
基礎職業基本知識詰め合わせ︵3︶ 基礎職業﹁剣士﹂専門知識︵5︶
基礎職業﹁槍術士﹂専門知識︵5︶
基礎職業﹁弓術士﹂専門知識︵5︶
基礎職業﹁斧使い﹂専門知識︵5︶
基礎職業﹁魔術師﹂専門知識︵5︶
・
・
・
・
・
上級職業﹁上級剣士﹂専門知識︵10︶
上級職業﹁上級槍術士﹂専門知識︵10︶
上級職業﹁上級弓術士﹂専門知識︵10︶
上級職業﹁上級斧使い﹂専門知識︵10︶
上級職業﹁上級魔術師﹂専門知識︵10︶
・
・
・
・ ・
・
・
・
11
伝説級職業﹁勇者﹂専門知識︵50︶
伝説級職業﹁賢者﹂専門知識︵50︶
伝説級職業﹁魔導士﹂専門知識︵50︶
伝説級職業﹁剣聖﹂専門知識︵50︶
・
・
・
・
神話級職業﹁ポイント使い﹂専門知識︵100︶
どうやらこれは知識を習得できるようになる項目みたいだ。
それにしても、ポイント使いは勇者や剣聖などの職業よりも上み
たいだ。
やはりポイント使いであることは隠し通しておかないといけない
だろう。
じゃないと戦争に駆り出される可能性がある。
最後。
石版アップデート。
タッチすると、存在力上昇と同様に一行だけ﹁石版バージョン1
からバージョン2にアップデート︵50000︶﹂と表示された。
5万ポイント。
とんでもない数字だ。
と言うか、アップデートしたら何が起こるんだろう。 大方石版の機能が追加されるんだろうが、ポイントの集め方も分
からない状況では何もできないな。
こんなとき、ポイント使いの知識が欲しいところだが100ポイ
12
ントで手が出せない。
でも、ポイントの集め方が分からない。
だからポイント使いの知識が手に入らない。
悪循環だ。
俺が頭を悩ませていると、睡魔が襲ってきた。
意識が遠くなっていく。
俺はゆっくりと目を閉じた。
13
第1話 チート始動︵後書き︶
今日の5時に再び投稿します
14
第2話 検証と証明
次の日。
俺は食事︵乳︶をした後、再び石版を見る。
今日分かったことだが、どうやら石版は誰にも見えないし、触れ
ないらしい。
便利なことだ。
さて、石版だが残りポイントは32、つまり一つ増えていた。
これで一つの仮説が浮かぶ。
ポイントは一日一ポイント支給される、と言うモノだ。
そう考えれば色々と辻褄があう。
だが、それだと不味い。
一日一ポイントなら、一年で365ポイント。
多いように見えるが、その実かなり少ない気がする。
少なくともこのままじゃあ勇者とかには勝てなさそうだ。
だって強いスキル、上級とか特級とかそういうスキルとろうと思
ったら数百から数千ポイントかかるし。
俺はそう思いながらも、取りあえずポイント使いに対しての知識
が欲しいため、あと68日待つことにする。 ★
ちょうどあの日から68日が経過した。
この世界のことも少しずつ分かってきたし、この家の家族構成も
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分かった。
父、フルート=ユニバルスと俺、フリート=ユニバルスと母のサ
リア=ユニバルスの3人がこの家にいる俺の肉親だ。兄妹はいない
らしい。
父親も温厚な優しい人だった。
使用人に対しても礼儀を忘れない、イケメンである。
この人がいる限り取りあえず没落の心配はなさそうだ。
﹁ぉし!︵よし︶﹂
俺は自身に喝を入れ、石版を操作。
100ポイントきっちりある。
自分の仮説は間違っていなかったんだと思いながらポイント使い
の専門知識の項目に触れる。
眩い輝きが起きる。
俺が目を開けていられずに目を閉じると俺の頭の中にポイント使
いの情報が入ってきた。
曰く、ポイント使いは自分だけが使えるポイントを使って自分自
身を強化したり、信頼できる味方を強化できる。
曰く、ポイント使いは一日経つか、生き物を殺すか、どちらかの
行動でポイントを手に入れることが出来る。強い生き物を殺せばよ
り多くのポイントを入手できる。
曰く、ポイント使いは絶対に変動させることが出来ない値、存在
値を変動させることが出来る唯一の存在である。
曰く、ポイント使いは自らのみに見える石版をアップデートする
ことにより、より高次元の高みに近づくことが出来る。
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⋮⋮それ以外にも沢山の情報があったがひとまずこんなところだ
ろう︵どれも抽象的で、どこか輪郭をぼやかしているいるような説
明文だった︶。
ポイントの入手方法が分かって上機嫌になった俺はで襲ってきた
眠けに身を任せる。
★
あれから20日が経過した。
俺は早速石版を出すと、あらかじめ目星をつけておいたスキル﹁
念力︵20︶﹂を習得する。
これは文字通り重さ10kg以内のモノを動かすスキルだ。
本当は知識か鑑定のスキルを取るつもりだったのだが、それじゃ
あポイント集めの効率が遅くなってしまうと思ったからやめておい
た。 これで俺は今日、鳥を殺すつもりだ。
⋮⋮深夜、皆が寝静まったとき、俺は目を開く。
今日は火の日。地球で言うところの火曜日だ。
最近はずっと母さんも父さんも仕事が忙しく、俺と一緒に寝ない。
俺についているメイドは普段は優秀なのだが、夜になると言いつ
けに背いて眠ってしまう阿呆だ。
俺は作戦の失敗がないことを祈りながら、行動を起こし始める。 俺はまずベッド、タンス、クローゼットを伝って窓に登り、窓を
開けようとする。
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う、重い。
やはり幼児の力でこれを開けるのはきついようだ。
あ、そうだ。
念力のスキルを使えばいいんだ。
どうやら習得するのに20ポイントも必要なスキルだけはあるら
しく、窓は簡単に開いた。
意外と便利だな、これ。
﹁ぱ、いあ︵あ、いた︶﹂
俺はよく俺の家のリンゴ︵?︶の木に止まっている黒い鳥を見つ
けた。
あの黒い鳥は母さんが読んでくれる図鑑によると、知能も低く、
子供でも倒せるくらい弱い鳥のようだ。
俺は窓の近くに置いてあったフォークとナイフ︵母さんが俺の様
子を見ながらをリンゴを切って食べるために使っていたものだ︶を
操り、鳥に刺しに行く。
目を狙ったフォークは避けられたが、翅の付け根を狙ったナイフ
は見事に命中。
鳥は落下していく。
俺はフォークを地面で力なく横たわっている鳥の目にめがけて思
いっきり突き立てた。
鳥は死んだらしい。
そりゃそうか、と思いながらも証拠隠滅のため既にモノとなった
鳥を家の敷地内から少し離れたところに持っていく。本当はもっと
遠くに飛ばしたかったのだが、このスキルは使用者から半径100
m以内のモノしか操れないのでしょうがない。
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俺は次に石版を見てみた。
ポイントが3上昇していた。
⋮⋮俺は確信した。 職業、ポイント使いは紛れもないチートジョブだと。
もし、もっと強い生き物、この世界にはゴブリンやドラゴンなど
の魔物がいるらしい。
それらを倒せば一体どれだけのポイントが手に入るんだろう?
俺はワクワクしながらこの世界で121回目の朝を迎えた。
★
異世界ユートピア。
この世界には魔族、長耳族、人間族、炭鉱族、竜人族、人魚族、
獣人族の7つの種族がいる。
魔族は北端にあるシーカース大陸にすみ、その他の種族はシーカ
ース大陸以外の大陸に住んでいる。
魔族とその他の種族は古き頃より争いを続けており、近年では人
類=魔族以外の種族と言うことになってくるほど彼らの溝は深い。
これがユートピア常識的知識詰め合わせの冒頭部分である。
どうやらこの異世界はよくあるファンタジー世界の世界観そのま
まらしい。
あれから30日が経ち、現在俺は鳥を30匹殺し、ユートピアの
常識と基本的な知識全て、鑑定のスキルと偽装のスキル、探知のス
キル、そして魔物調教のスキルを入手していた。
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離乳食も始まり、俺の新たな人生は順調に進んでいる。
﹁よし﹂
俺は割と流暢なユートピア語を発しながら、相変わらずアプル︵
りんご︶の木に止まっているあの鳥を見る。最近、鳥の死体が落ち
てきて騒ぎになっているらしい。
これ以上すると、俺の仕業とばれる恐れがある。
だから俺は動物調教術︵10︶であの鳥をペットにしてその鳥に
俺の分のポイントを稼いでもらうことにしたのだ。
まずは部屋に置いてあった麻袋を念力で浮かす。
そしてそれを鳥に気取られないようにしながら一気に被せた。
鳥はもがくが、上級貴族が使う高品質な麻袋からは逃れられない
ようだ。
俺は手元に麻袋に包まった鳥を持ってくる。
念力で俺は鳥の頭だけが見えるように麻袋を操作する。
﹁テイム・アニマル=黒鳥﹂
俺は動物調教術を発動して黒鳥をテイムする。
紅い光が黒鳥の中に入り込んでいく。
それと共に俺の10あった魔力が半分になる。
どうやら成功したようだ。
﹁お前の名前は⋮⋮体が黒いからクロだ﹂
自分のネーミングセンスのなさに苦笑しながらも俺は鑑定でクロ
のステータスを見てみる。
20
名前:クロ
レベル:1
種族:黒鳥
職業:なし
存在力:F
スキル:なし
生命力:5︵10︶
魔力量:1
筋力:5
防御:3
速力:12︵24︶
魔力:1
加護:ポイント使いの加護︵生命力と速力を倍にする。生物を殺
せばポイントがポイント使いに入るようになる。ポイント使いにポ
イントを使って強化してもらうことが出来るようになる︶
強い!
俺は全能力値が10だが、どうやら幼児には能力値マイナス補正
が働いているらしく全ての能力が半分以下になっている。
それに比べてクロは俺の加護︵ポイント使いは単独で加護与える
ことが出来るらしい。つくづくチートだと思う︶もあり、その辺の
子供なら殺せるくらい強くなっている。
﹁よし。クロ。お前に最初の命令を下す﹂
俺が舞い上がって将軍風に言うと、クロは心なしか頭を垂れて﹁
何なりと﹂とでも言いそうな格好をする。賢い!流石見た目がカラ
スに似ているだけはある。
21
﹁虫、鳥、小動物を屠ってこい。
自分が食えそうなものは食え。
食えないモノは人が来ないところに運んで捨てておけ。 人間は襲うな。10日後にここに戻ってこい﹂
クロは﹁かしこまりました!﹂と言わんばかりに頭を上げた後、
両翼を広げ飛び立つ。
さて、明日が楽しみだ。
最低でも20ポイントくらいは貯まるだろうな。
そうすれば今の俺の残りポイント3と、日給︵一日毎にもらえる
ポイントのこと︶あわせて33になる。
俺はニヤニヤしながら10日間を過ごす。
そして、遂にクロが帰ってくる夜になった。
俺は楽しみのためにあえて見ないでおいた石版を見る。
残りポイント:127
⋮⋮何があったんだ、クロ?
俺はあと数分で帰ってくるであろうクロの帰りを待った。
22
第3話 存在力
クロは俺が石版を見た2、3分後に帰ってきた。
但しクロは最早動物ではなかった。
大きさは2倍ほどになっている。 俺の部屋に置いてある図鑑で見たことのある魔物・ブラックバー
ドだ。
俺は﹁え?何が起こったよ?﹂と思いながらも鑑定を行使する。
レベル:3
種族:ブラックバード
職業:なし
存在力:F
スキル:なし
生命力:30︵60︶
魔力量:5
筋力:15
防御:10
速力:30︵60︶
魔力:5
やっぱり種族変わってた。 どうしよう。勝てるか?
いや、勝てねえわ。
速力60とかゴブリンが10匹いても勝てないし。
魔物だろ?俺魔物調教術は取ってないぞ? つまりこいつもうテイムされてないんだろ?
23
やべえ。死んだなこれ。
﹁現実逃避している場合じゃねえか﹂
そう思いながら、どうにかしてクロから逃げる手段を考える。
⋮⋮あれ、そう言えばどうして襲い掛かってこないんだ?
クロは相変わらず動かないままだ。
俺が不審げに見つめていると、この前のように頭を垂れた。
⋮⋮もしかして、まだテイムされたままなのか?
俺は石版から﹁魔物調教術と動物調教術の知識︵7︶﹂を習得す
る。
習得した知識によると動物から魔物に変わった場合でも、調教済
みであった場合は調教の効果は無くならずに魔物に変わった後も主
人に従い続けるらしい。
ちなみに動物が魔物に変わる条件は動物が自分よりレベルが高く
て、尚且つ魔物である相手に勝ってその肉を食べたときのみらしい。
恐らくこの近くにある森でゴブリンでも倒したのだろう。
俺の加護のことを考えれば、あり得る話だった。
﹁あー、うん。ご苦労だった。
お礼にお前を強化してやろう﹂
俺は意外と現金な奴なのだろう、危険が無くなったと分かった途
端にまた尊大な口調に戻る。
俺は念力で自分の着ている服を操って体を浮かせる。
最近思いついたものだが歩く必要がないし、割と便利な技である。
俺はクロの頭に石版を当てる。 24
これはポイント使いの専門知識に書いてあったことだ。
どうやら石版を信頼できる相手に当てるとポイントを使って俺と
同じ要領で強化が出来るらしい。
俺はまず、存在力上昇の画面を開く。
﹁存在力FからEに上昇︵10︶﹂
文字が浮かび上がりその文字に触れる。
すると﹁10ポイントを消費しますか?﹂と表示が出る。
迷わずタッチした。
これでクロの存在力が上がったはずだ。
ちなみに存在力と言うのはスキルの習得や職業のランクアップ、
また能力値の広範囲に影響を及ぼす値で、基本的に存在力が低いも
のが高いものに勝つことは出来ないと言われるほど大事なものだ。 存在力上昇により、クロの体は蒼い光に包まれた。
光が収まるとクロは知性を感じさせる鋭い瞳を持つ鳥になってい
た。
大きさこそ変わらないが、ほぼ全ての能力値が2倍以上になって
いる。
次いで、気配隠蔽のスキルも習得したようだ。
種族名も変わり、ブラックイーグルとなっている。
﹁格好いいな。
よし。その調子でドンドンポイントを貯めていくんだ。
この近くにはゴブリンとコボルドの住処になっている森があった
よな。
そこで人間にばれない程度にゴブリンとコボルドを殺していけ﹂
25
この前よりもキレを増した﹁畏まりました!﹂って感じの動作を
した後クロは再び飛び立っていく。
★
翌朝、俺は石版を操作していた。
昨日はクロが帰った後、眠くなってしまってポイントを使えなか
ったのだ。
俺は118ポイントをどう使うか考えて、決めた。
スキル修練で偽装のスキルを最大まで高めることにしたのだ。
偽装と言うのは文字通りステータスを自由に偽装、つまり筋力が
100であるのを10と書き換えたりできるスキルのことだ。
俺はスキル修練の項目に触れる。
すると﹁偽装レベル1をレベル2に上昇︵20︶﹂と表示された。
迷わずレベルを上げる。
再びタッチする。
﹁偽装レベル2をレベル3に上昇︵30︶﹂と言う文字が浮かび
上がる。
どうやら上昇後のレベル×習得時のポイントがスキル修練には必
要になるらしい。
スキルの最大レベルは5らしいから⋮⋮偽装スキルをカンストさ
せるには大体150ポイントが必要だ。
取りあえず偽装のスキルはこれくらいでいいとして。
26
次は念力のレベルを上げようか。
俺は念力のレベルを2に上げた。
その後、スキル﹁付与魔術︵10︶﹂と﹁五感移動レベルマック
ス︵15︶﹂を習得した。
これで残りのポイントは3。
今日はもう寝よう。
あ、でもそろそろ朝食の時間か。
﹁あ、フーちゃん。起きてたんだ﹂
金髪碧眼の美女、サリアが俺の部屋の扉を開ける。
どうも親バカっぽくて、大貴族で忙しいだろうに暇を作っては俺
の面倒を見てくれる人だ。
ポイントを節約するためにもこの人が呟く何気ない情報は重要で、
俺的にも母さんが来てくれるのはけっこう嬉しい。
﹁あ、今日のご飯は∼、これ。
里芋の煮物だよ。かなり煮込んだからフーちゃんにも食べられる
と思うよ﹂
里芋か。何というか、外国人のような見た目をしている人がサト
イモとか言うと違和感を感じるな。
まあいいか。
俺は母さんがスプーンで俺の口元に運んできた人肌の温度である
それをパクリと食べる。
それを見て母さんが目を輝かせる。
動物園のパンダになった気分である。
27
里芋を全部食べてお腹いっぱいになった時母さんがいつもの豆情
報を話し出した。
﹁この近くに∼、ゴブリンとコボルドの住む子鬼と犬の森って言う
迷宮があるんだけど∼、そこで変な魔物がいたんだって﹂
ギクリ。冷汗が出てくる。
﹁何でも猿みたいな∼魔物でね∼。
冒険者を食べちゃうらしいよ∼﹂
なんだ。違うみたいだな。
⋮⋮でも、クロが危ないのは変わらないな。
冒険者って言うのは魔物を狩る専門職だから強いらしいし。
と言うか子供に冒険者が食べられるとかそんなグロイ話するな。
ここは注意しておかないとな。
﹁う、ううぇーん!冒険者さんが食べられちゃったー!﹂
泣きまね。ぶっちゃけすごい下手な気がするが、母さんは騙され
やすい人なのか﹁あ、ごめんフーちゃん﹂と謝ってきた。
﹁代わりに∼、この前フーちゃんが欲しがってたこのお人形上げる
から﹂
それはカマキリみたいな鎌が手から生え、まつ毛がやけに伸びた
言っちゃ悪いがちょっと気持ち悪い身長50cmくらいの人形だっ
た。
ちょうどいい。
28
これさえあれば⋮⋮!
俺は泣き止んで﹁ママ!ありがと!﹂と笑顔120%でお礼を言
う。
﹁ほわあああ∼!﹂
ママ、気絶。
俺もとっとと寝てしまう。
★
昼。母さんが再び食べさせてくれた離乳食を元気に食べ終える。
母さんが部屋から満足気に出て行ったあと俺は石版を開いた。 ポイントが161に増えている。 不味いな。ポイントがこんなに貯まるまで狩りをしていたなら﹁
猿の魔物﹂に存在を察知された恐れがある。
少し焦りながら俺は念力のレベルを4まで強化、続けて付与魔術
のレベルを2まで強化する。
次に母さんが持ってきてくれた人形﹁鎌ちゃん﹂に付与魔術﹁硬
化︵魔力消費量4︶﹂と﹁切れ味強化︵5︶﹂を使った後、抱き付
く。
そして﹁五感移動﹂と唱えた。
体から力が抜けていく。
頭はボーっとして、睡眠欲が襲ってくる。
俺はそれに身を任せる。
29
一瞬か、それとも永劫か。
どちらとも取れない時間が過ぎると、俺の体は自分の推定身長6
5cmより僅かに低い身長50cmの人形となっていた。
そう、これが五感移動である。
このスキルは非生物に自らの五感を全て移動させる技である。
一見強そうなスキルだが、五感が移動されても全く動けないので
ただの時間の無駄になる、いわゆるクズスキルだ。それこそ15ポ
イントでレベルマックスになるほどに︵世界に及ぼす影響が少ない
スキルのポイントは基本的に低い︶。
だが、俺の場合は話が違う。
俺のスキル﹁念力﹂は最早レベル4だ。
レベル4、つまりカンストの一つ前。
レベル1のままだと半径100m以内のものしか操れないが、レ
ベル2になれば半径1kmのものを、レベル3になれば半径3km
のものを、レベル4ともなれば見えるものを思うが儘に操ることが
出来るようになるのだ。
そして、ただでさえ使い手の少ないスキル念力のレベル4。
これは同じく使い手の少ない五感移動ととてつもなく相性がいい。
もう分かっただろう。
五感移動で見える範囲は全て人形の支配領域。
人形は自分を見ることで自分を念力で操ることが出来る。
だって、非生物なんだから。
俺は嫌でも見える自らの長い長いまつ毛のお蔭で難なく立ち上が
る。
あらかじめ開けておいた窓から飛び出す。 30
この人形は空を飛ぶことすら可能なのだ。
俺は出来る限りの力を込めて空へと舞い上がる。
︱︱俺はこれから子鬼と犬の森で、クロと共に猿の魔物を倒す。
31
第3話 存在力︵後書き︶
今日の投稿はこれで終了です。
明日は2話投稿です︵多分︶
32
第4話 賢い、賢いよクロ!
︵多分︶誰にも見つからずに家から5km離れた町の城壁を通り
越して、そのまた更に40km離れた子鬼と犬の森に到着した。
所要時間は大体一時間。
時速は45kmってところだろう。
今は真冬で普通なら非常に寒いのだが、俺は温度の感覚を五感移
動の能力の一つでカットしているのでちょうどいい感じだ。
さて、まずはクロを探すとするか。
テイムしたモンスターだからかどこにいるかは大体分かる。
ここからそう離れてないな。
と言うかどんどん近寄ってきてるし。
⋮⋮そうか、クロも俺のことが分かるのか。
なかなか可愛い奴だな。
俺がほんわかしながらクロの元に向かっているとゴブリンを3匹
見かけた。
よし、クロはどうせすぐにこっちに来るだろうしコイツラと戦っ
ておくか。
俺は非生物であるが故どうしても感じ取れない気配を利用してゆ
っくりとゴブリンに近づく。
ゴブリンAはゴブリンBとCと話すことに夢中で俺が近づいてい
ることに気が付いていない。
よし!今だ!
俺は充分に近づいたところで一気に飛び出し、その鎌でゴブリン
33
の喉を引き裂く。
付与魔術は相手の体重が重ければ重いほど、体が大きければ大き
いほど効きにくくなるが、その逆も然り。
体重500グラムで身長50cmと幼児以下の肉体の鎌ちゃんに
付与魔術は効果覿面なようで、精々がレベル2の付与魔術であると
言うのにレベル5のそれを受けたかのような働きをしてくれている。
レベル2だから効果時間は大体4時間ってところだろうか︵レベ
ル×2時間が付与魔術の効果時間︶。
それまでに猿の魔物を片付けないとな。
﹁ギギギ!﹂
ゴブリンBが棍棒を振り回しながら迫ってくる。 だが、遅い。
俺はゴブリンBが持つ棍棒を念力で操ってゴブリンBの頭をかち
割らせる。
最後だ。
俺はサーベルのような鎌をゴブリンCに向け、念力を全開。
念力レベル4は物体をかなり高速で操作することが出来る。
それを利用して鎌ちゃんの肉体を一気に加速。
身長50cmの人形は緑色の弾丸となってゴブリンCの心臓を穿
った。
﹁レベルアップしました!﹂
どうやらこの世界初のレベルアップらしい。
だが、体が人形なので実感が何もない。
34
元の体に戻れば分かるだろうか。
俺がそんなことを考えているとクロが黒翼をはためかせて俺の元
に降りてきた。
ちゃんと鎌ちゃんの中身は俺だと分かっているらしい、いつもの
ように頭を垂れる。
でもクロ賢すぎだろ⋮⋮。
まあ悪い事じゃないけど。
でも、口がないから喋れない。
しょうがない。取りあえずクロと適当にこの森を回るか。
しかし、意思疎通の手段がないのは本当に困るな。
﹁ギギギギギ!ギギギギギギギ!﹂
数十匹のゴブリンが泣き喚きながら俺たちがいる方向に走ってく
る。
どうしたんだ。
一瞬そう思ったが、すぐに思い至る。
猿の魔物だ。
俺はクロに目配せをする。
クロは頷き、木の陰に隠れる。 翼を広げない状態だと体長50cmにも満たず、それに加え気配
隠蔽のスキルを持つクロならゴブリン程度にはまず見つからないだ
ろう。
まさに俺が思い描いた通りの行動だった。
35
⋮⋮俺、クロが反応するなんて思ってもみなかったんだけどな。
何度も言うけど、頭良すぎる。
俺もクロの近くの木に潜みゴブリンたちの様子を窺う。
ゴブリンを追っていたのはやはりというか、猿の魔物だった。
人形の状態じゃあ鑑定は使えないので、仕方なくゴブリンの様子
を元に猿⋮⋮緑色なのでグリーンモンキーの強さを図ることにする。
一体目。
体長およそ5mを超える猿の足に踏みつぶされて死んだ。
二体目。
意外にも俊敏なその腕の薙ぎ払いによって木に叩き付けられ死ん
だ。
三体目。
蹴り一発で圧死。
四体目。
蹴り一発で圧死。
五体目。
蹴り一発で圧死。
面倒臭がりなのか、最後は蹴りしか使わなかった。
⋮⋮確実に勝てる方法を思いついた。 クロに目配せする。
クロは俺の思惑通りにグリーンモンキーの気を引いてくれる。
⋮⋮もう突っ込まんぞ。
その間に俺はグリーンモンキーの背後に回り込んでそのデカい足
のアキレス腱を斬りつける。
36
切断付与によって名刀となった鎌ちゃんの腕は容易くグリーンモ
ンキーのアキレス腱を引き裂いた。
魔物でもアキレス腱を切られたら動けなくなるのか、グリーンモ
ンキーは倒れる。
俺がもう一本のアキレス腱を切り裂いている間にクロはスピード
を付けてから、自慢の嘴でうつ伏せになっているグリーンモンキー
のうなじを突く。
何度も何度も。
俺も負けじとアキレス腱を裂いた後、暴れるグリーンモンキーの
腕を切り裂いていく。
攻撃力が少しだけ乏しいため、10分程度の時間がかかってしま
ったが何とかグリーンモンキーは死んでくれた。
﹁レベルアップしました﹂
レベルが上がったようだ。
テイムしたモンスターが単独で魔物を殺しても経験値は入らない
が、共に戦って倒せば経験値が入る仕組みになっているらしい。 それから一時間ほどゴブリンとコボルドを殺して回った。
ちなみにコボルドは大型の犬みたいな見た目をしている。
ゴブリンより弱かった。
⋮⋮そろそろ意識を鎌ちゃんからフリートに戻すか。
俺はクロに手を振って別れを告げ、念力で飛ぶ。
あ、そう言えば汚れがヤバいな。
どうしようか。それに一々念力で飛ぶのも効率が悪いな。
誰かに見られたら大騒ぎになるだろうし。
37
⋮⋮一旦この場で意識を戻すか。
五感移動、解除!
眠気が襲う。
目を開けるとそこはいつもの俺の部屋だった。
レベルアップした感じはあまりない。
ステータスを見ると、どうやら能力値は一ずつしか上がってない
ようだ。
まあ、能力値操作があるから別にいいけど。
俺は早速石版を見る。
残りポイント450
多いな。
確かゴブリンを17体、コボルドを5体グリーンモンキーを一体
倒しただけのはずだ。
だけど450ポイント。
申し分ないポイント数である。
でも、上位スキルとか特級スキルとか伝説スキルとか神話スキル
とかを取るにはまだまだ不十分だな。
一日でこれだけ貯まれば全スキルを習得できるように思えるが、
そうはいかない。
俺が今まで使っていたスキルは全部一番下の階級である下位スキ
ルであり、その上に上位スキル、特級スキル、伝説スキル、神話ス
キルと並ぶのだ。
そして上位スキルは習得するだけでも150ポイント以上かかる。
これを習得し、修練しようと思えば100や200程度のポイン
38
トじゃ数が効かないのだ。
だから、もっともっと効率を上げる必要がある。
俺はそのことを念頭に入れ、役に立ちそうなスキルを選んでいく。
そして、決めた。
洗浄魔術レベルマックス︵20︶
上位スキル・非生物転移陣︵200︶
上位スキル・職業限定スキル行使!︵150︶
念話魔術︵50︶
それぞれ説明していくと、物を一日10回綺麗にするスキル、使
用者と使用者が認めた者以外には見えないし使えない二枚一セット
の転移陣を置くスキル、一日一度全魔力量の9割を消費して使えな
い状態にある職業スキルを無理やり行使するスキル、言葉を話せな
い相手とも簡単な意思疎通が出来るようになるスキル、である。
洗浄魔術は人形を綺麗にするため︵これも五感移動のように使い
手が少なかったせいか20ポイントでレベルマックスの状態で習得
することが出来た︶、転移陣は迷宮と家との往復時間を短縮するた
め︵一枚の転移陣は家に、もう一枚の転移陣はクロに子鬼と犬の森
ではないもっと遠くにある迷宮の近くにおいて来てもらうつもりだ︶
、職業限定スキル行使!は石版を迷宮内でも使うようにするため︵
鎌ちゃんモードだと使用できない︶、念話はクロとより正確に連絡
を取り合うために取った。
残りは30ポイント。
俺は魔力量に全てつぎ込んだ。
恐らく1ポイントにつき3増えるのだろう、全魔力量が100に
なった。
39
よし、俺は早速念話魔術を使う。
﹃俺だ、クロ。
分かるか﹄
﹃イエス、マスター。
しっかりと聞こえています﹄
⋮⋮これ、簡単な意思疎通しか出来ないんじゃないのか?
俺が不利になるわけじゃないし、むしろ得したからいいけどさ。
﹃今日の夜、誰にもばれずに俺の家に来い。
あと、それまでにゴブリンを出来るだけ多く倒せ。
今回は人間に見つかってもいい。
但し殺すな。殺さずに人間に見られたと思ったら逃げて森の奥に
隠れておけ﹄
﹃イエス、マスター。
了解しました﹄
﹃ああ。また会おう﹄
俺は念話を切る。 やはり下位スキルなのか、消費魔力が半端じゃない。 もう増やしたはずの魔力は残り12、3程度になっている。
ああ、ものすごく眠い。
しょうがないか、何だかんだで初めての本格的な戦闘だしな。
鳥狩りの時とは全く違ったし、かなり怖かった。
眠⋮⋮。
夜まで寝よう⋮⋮。 40
第4話 賢い、賢いよクロ!︵後書き︶
再び19∼20時ごろ更新します。
モチベーションアップに繋がるので感想お願いします!
41
第5話 地球人との初遭遇
夕食をとった後、俺は雪が積もっている窓の外を眺める。
そろそろクロが来る時間だ。
ポイントは120ポイントも貯まっている。
クロのお蔭だ。
俺も報いてやらねば。 あ、来た。
俺が窓を開けるとクロは空中で羽ばたきながら器用に頭を下げる。
俺は苦笑しながら、早く入れ、と手招きする。
クロが入ってきた後俺はこの前のように石版をクロの額に当てる。
﹁存在力EからDに上昇︵100︶﹂
﹁了解、っと﹂
俺が一連の動作を行って一言つぶやいた後クロの体がこの前のよ
うに青い光に包まれる。
光が収まるとそこには⋮⋮手乗りサイズの鷹がいた!
何故小さくなった?
★
理由はすぐに分かった。
42
クロのステータスを見たのだ。
レベル:5
種族:クレバー・イーグル
職業:暗殺者
存在力:D
スキル:職業限定スキル:気配察知︵周りにいる生物の気配を感じ
取れるようになる︶
上位スキル・拡大縮小レベル1︵体の大きさを自由に変え
ることが出来るスキル︶
上位スキル・心理把握レベル1︵相手の言いたいことを察
するスキル︶ 気配隠蔽レベル2 生命力:145︵290︶
魔力量:30
筋力:80
防御:55
速力:120︵240︶
魔力:50
︵New︶二つ名:天才な鳥
どうやら上位スキルを手にしたらしい。
それと二つ名も︵二つ名で能力は上がったり下がったりしない︶。
それにしても、速力240って⋮⋮。
この世界にはオーガはD、オークはE、ゴブリンコボルドはFと
言うように魔物の危険度を表す階級があるのだが、それで言うと速
力だけならクロはオーク相当だ。
43
大したことなさそうに見えるが、オークと言うのは一匹で村一つ
を壊滅させることが出来るほど強いのだ。今じゃクロは、一般人程
度じゃあ相手にならないだろう。
﹁あ、クロ。これをここから西の方角にある﹃愚かな豚王の宮殿﹄
って言うダンジョンの近くに置いて来てくれ。但し、誰にも見つか
らないところだ﹂
俺は転移陣のスキルを習得するとともに一セットだけ作れるよう
になった、魔方陣的なものが書いてある固い紙を丸めた後、それを
麻袋に入れてクロに渡す。
クロにも見えるようにしているから、クロは直ぐにそれを啄んだ。
﹁じゃ、頼んだぞ!﹂
俺はそう言って手を振る。
★
5年の月日が流れた。
俺は5歳となっていた。
ついでに3年前に弟も生まれた。 この5年間は、隠蔽をカンストさせたら手に入るスキル﹃上級隠
蔽﹄を更にカンストさせた後は、手に入ったポイントの半分以上を
知識につぎ込んだ。
これによって俺はこの世界の常識から専門的な知識、更には一般
人の価値観等を全て覚えることが出来た。これには勿論訳があって、
44
俺が異世界人だとばれないようにするためだ。
俺は目立つことは大して問題視していないが、異世界人だと知ら
れることは問題視している。
異世界人はいわばこの世の異物であるし、もし魔族との戦争に勝
利して平和を手にしても迫害される恐れがある。 それに魔族にだって真っ先に狙われるだろうし、良い事はないの
だ。
俺はそこそこに腕の良い冒険者として暮らすだけで十分だ。 さて、そんな俺だが、今のステータスはと言うと⋮⋮。
名前:フリート=ユニバルス
レベル:11
種族:人間 職業:ポイント使い
存在力:C
スキル:﹃ポイント操作﹄︵﹃﹄は職業固有スキル︶ 上級隠蔽レベルマックス
上級火魔術レベルマックス
上級念話魔術レベルマックス
︵上級︶非生物転移陣レベルマックス
︵上級︶職業限定スキル行使レベルマックス
上級念力レベルマックス
上級魔物調教術レベルマックス 上級鑑定レベルマックス
下位五感移動レベルマックス
下位危険察知レベルマックス
下位洗浄魔術レベルマックス
45
下位付与魔術レベルマックス
生命力:1542
魔力量:1600
筋力: 142
防御: 142
速力: 242
魔力: 142
︽ポイント残り388︵ポイント使い専用項目︶︾
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
二つ名:異次元の赤ん坊
スキルはかなり統合されているから分からないと思うが、スキル
もかなりの数を獲得した。
まぁ、攻撃性のスキルは上級火魔術しか取れていないが。
﹁そろそろ時間か﹂
俺は今日、母さんと神殿へ行くのだ。
★
神殿。
それは聖神ネィムを信仰する﹃聖神教﹄と呼ばれる宗教団体が保
有する過去の神話時代の遺物である。
神殿には複数の上級鑑定士がおり、彼らに自分のステータスを見
てもらうことが出来るのだ。
46
俺は鑑定のスキルを持っているからそんなもの必要ないのだが、
5歳の頃に上級鑑定士から鑑定を受けるのは仕来りである。
今日は全ての国の5歳児が一斉にステータスを鑑定してもらうの
だ。
ここはアーク大陸の中央都市である王都より、少し東の位置にあ
る上級貴族ラズベル家が治めるアーク王国の都市、ラズベル領だ。
今日は王都から俺と同じく5歳児の第二王子も視察兼ステータス
鑑定にやって来るらしく、普段から賑やかな町はより一層活気があ
った。
あちこちで噂話も聞こえる。
その大半が王子や領主ラズベル家の長女、ついでに俺に関する話
題だった。
神童と名高い第二王子、ラズベル家長女の二人と、それに次ぐ優
秀さを誇ると言われている俺が今日初めてステータスを確認するの
だ。
そりゃあ話題になるはずだろう。
⋮⋮でも、神童か。
もしかすると転生者の可能性もあるな。
向こうも転生者ならそれとなく確認してくるはずだ。
上手く誤魔化さねば。
﹃クロ、今日はついてこないでくれ。
俺の同類と会う可能性がある﹄
﹃分かりました、フリート様﹄
47
上級念話魔術でそう伝えて俺は母さんの元に急ぐ。
﹁あ、フーちゃん。用意はもう終わったの?﹂
﹁はい。終わりましたお母様﹂
﹁そう∼。じゃあ、行きましょうか∼﹂
そう言って、2名の護衛を引きつれ、計4名で歩き出す。 神殿はここから2、3kmほど離れた場所にある。
大体30分ほどで着くだろう。
★ 白い大理石で建てられた神殿に俺たちは到着する。
﹁凄い人だかりだね∼﹂
﹁そうですね、お母様﹂ 公の場所なので、俺は敬語で答える。
護衛︵筋肉達磨︶二人は黙りこくっている。
護衛は基本喋らないのだ。
﹁並ぶの大変ですね﹂
俺の目には数百の5歳児が映っている。
キッチリと並んでいて、今から並べば順番が来るのはかなり先だ
ろう。
﹁あ、大丈夫よ∼。フーちゃんはあっちの方に並ぶから﹂
48
そう言って示されたのは神殿の中でも特に綺麗に磨かれた場所だ。
そこには3人しかいない。
金髪碧眼の正義感溢れる目をした眩しい少年。
白髪紅眼の何処か鋭い雰囲気を持つ少女。 赤髪の活発そうだけど抜けているところがありそうな少年。
恐らく上から王子、ラズベル家長女、ラズベル家に次ぐ上級貴族・
アルフ家の三男だろう。
多分ここには上流階級の貴族のみ集められているのだと思う。
ユニバルス家も権力じゃあアルフ家に次ぐほどだしな。
﹁あ、ユニバルス卿はこちらへどうぞ﹂
俺たちを見つけた神殿の職員らしき人物がそう言ってくる。
どうやら保護者とは引き離すシステムになっているのか、母さん
は貴族用の接待室に連れていかれる。
﹁こんにちわ!僕はセイヤ=アーク=ホーリーランスだ。
よろしく頼むよ﹂
爽やかな挨拶をしてくる金髪碧眼の美少年。
アークって名前がついているということはやっぱり王子で間違い
ないな。
取りあえず無難に挨拶を返しておくか。
﹁よろしくお願いします。僕はフリート=ユニバルスって言います﹂
﹁うん! よろしくね、ユニバルスの神童君﹂
﹁俺はレッド=アルフ! よろしくな!﹂
49
﹁⋮⋮私はアイリス=ラズベルよ﹂
俺が挨拶をした後、他の二人も挨拶をしてきた。 その中で俺は一つだけ気になるものを感じた。 セイヤが爽やかな笑顔で俺を見つめてくるのだ。
その眼には悪意も敵意も、およそ負の感情は微塵も含まれていな
い。
だが、俺はそれが不愉快だった。
何故か。
俺と言う存在を直接見つめられている気がするのだ。
スキルではない。
自身のその眼力を持って相手の内面を見切ろうとしているのだ。
俺は思う。
こいつ、間違いなく転生者だ、と。
だから。
﹁ねえ、君たち。地球って言う単語に聞き覚えはない?﹂
この不意打ちにも対応できた。
﹁え! セイヤお前まさか⋮⋮!﹂
﹁⋮⋮あるわよ﹂
二人が肯定と取れる返事を取る中俺だけはすっとぼける。
50
﹁チキュウ? 何だそれ?﹂
他の二人もどうやら転生者のようだった。
アイリスと言う子は隠そうと思えば隠せるほどポーカーフェイス
が上手いと思ったのだが、本人にこのことを隠す気はないらしい。
レッドは多分思ったことがすぐに口に出るタイプだろう。
何となくだが、この3人は悪い奴ではなさそうだ。
﹁なあ、セイヤ。チキュウって何なんだ?﹂
﹁あ、フリート君はないみたいだね⋮⋮えっと、地名、かな?﹂
俺は上手く誤魔化せたようだ。
何となくこんな風に揺さぶりをかけてくるとは思っていたから、
ちゃんと嘘を吐くことが出来たようだ。
俺は、ユートピア人。
地球とは一切かかわりないちょっと強い魔物使い。
こういう設定で俺はこの人生を終えるのだ。
こんな所で地球人だとばれてたまるかよ。
﹁セイヤ=アーク=ホーリーランス様。
アイリス=ラズベル様。
レッド=アルフ様。
フリート=ユニバルス様。
鑑定の儀式のお時間になりましたのでこちらへどうぞ﹂
先ほどの職員が俺たちを上級鑑定士がいるところまで案内してい
く。
セイヤはレッドとアイリスの二人に﹁また後で詳しいことを相談
51
しよう﹂と彼らの耳元で囁いていた。
本来なら聞こえるはずもないが、そこはステータスが高い俺。
問題なく聞き取れた。
まあ、ちょっと強い職業魔物使いの冒険者Aである俺には関係な
い話だが。
52
第6話 ゴブリンテイム!
その日、全人類が歓喜した。
英雄が誕生したのである。
そう、1000年前に勇者、剣聖、魔導士、賢者と言う過去に1
柱の魔王を打倒し、4柱の魔王を封印した伝説の職業を持つ者の内
二人が現れたのだ。
名前:セイヤ=アーク=ホーリーソード
レベル:1 種族:人間 職業:勇者
存在力:A
スキル:職業限定スキル﹃光の剣・聖者の鎧﹄︵守りたい気持ちが
強くなればなるほど、人を愛す気持ちが強くなれば強くなるほど、
正の感情を強く抱けば抱くほど強化されていく武具が顕現するスキ
ル︶
生命力:500
魔力量:500
筋力:500
防御:500
速力:500
魔力:500
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
二つ名:人類の救世主
53
まずはセイヤの鑑定が行われた。
上級鑑定士が次の瞬間気絶しかけた。
そして次に﹁勇者だ! 勇者が誕生したぞ!﹂と叫ぶ。
驚く一同。
既に鑑定済みなので驚かない俺。 まあ、演技はしたけどね。
名前:アイリス=ラズベル
レベル:1 種族:人間 職業:特級魔法剣士
存在力:B
スキル:職業限定スキル﹃魔術発動速度強化﹄︵魔術の発動速度を
上げるスキル︶
生命力:400
魔力量:450
筋力:300
防御:250
速力:300
魔力:400
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
二つ名:なし
興奮も冷めないまま、アイリスの鑑定が行われた。
そこで出たのは上級職の更に上、特級職。
いつの間にかいた沢山の人間が歓声を上げる。
名前:レッド=アルフ
レベル:1 54
種族:人間 職業:剣聖
存在力:A
スキル:職業限定スキル﹃剣聖の意地﹄︵追い詰められるほど筋力
と防御と速力が上昇するスキル︶
生命力:600
魔力量:40
筋力:500
防御:400
速力:300
魔力:40
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
二つ名:なし
レッドを上級鑑定士が鑑定した瞬間、気絶した。
起きることはない。
ガチで気絶してしまったようである。
仕方なく別の上級鑑定士が鑑定する。
何とか気絶を免れたものの、目を見開き、レッドの職業を皆に告
げる。
大歓声が巻き起こる。
どうやらまたしても伝説級職業だったらしい。
名前:フリート=ユニバルス
レベル:1
種族:人間 職業:魔物使い
存在力:C
55
スキル:﹃魔物調教術﹄︵テイムと唱えれながら魔物に触ればその
魔物を一定確率で使役できるスキル︶
生命力:50
魔力量:50
筋力:20
防御:20
速力:20
魔力:50 ︽テイムモンスター:なし︵魔物使い専用項目︶︾
加護:聖神ネィムの加護︵ユートピア語をしゃべったり聞き取っ
たりすることが出来るようになる︶
二つ名:なし
最後は俺。
皆がドキドキハラハラ見つめ、上級鑑定士が鑑定。
残念そうな顔をした後、皆に俺の職業を伝える。
興奮がほんの少し収まる。
何か、申し訳ない。
まあ、何はともあれ、こうして俺の職業鑑定は無事終了した。
たったそれだけの話だ。
★
俺は鑑定の儀式から数か月後に自由に外出する権利を得た。
普通なら俺ほどの大貴族が護衛もつけずに自由に出歩くなど言語
道断であるが、俺はその権利を得ることが出来た。
56
何故なら、俺がクレバー・ブラックイーグルの進化系であるクロ、
つまりクレバー・シャドーイーグルをテイムしたと言ったからだ。
つい先月、ポイントを1000振って俺と同じ存在力Cに上昇し
たクロはクレバー・シャドーイーグルに進化して、最早強さは危険
度がDランクのオーガをも速力のみなら上回るようになっている。
どうやってテイムしたの?と母さんに聞かれたときに﹁子鬼と犬
の森﹂に入ってテイムした!と伝えたら父さんに拳骨、母さんにビ
ンタを喰らったことは良い思い出だ。
まあ普通今のクロほどの魔物を子供がテイムしようと思ったら命
が1000個あっても足りないもんな。
だが、俺の早く冒険をしたいと言う熱意も伝わったようで、クロ
を伴って、且つ破れば任意の場所に転移できる高∼いお札を持って
いきさえすれば自由に外出しても良い事になった。
⋮⋮だが、母さんたちは少々勘違いをしているようだ。
俺は別に街に遊びに行くわけではない。
迷宮に遊びに行くのだ。
俺はまず変装のために貴族の子供用の服を脱ぎ捨て、重さ10k
gまで物を幾らでもつぎ込めるアイテムボックスに放る。 そしてあらかじめ買っておいた平民の服装に着替えた。
﹁準備OK!﹂
俺は転移系のスキルは非生物転移陣しか持っていないので、今回
は転移で迷宮に一瞬で行くことは出来ない。
まあしょうがない。
俺はそう思いながらも子鬼と犬の森に向かう。
57
本来なら最早俺たちにとってこんな弱い魔物しかいない森、用は
ないのだが、別に俺はゴブリンやコボルドを倒しに行くわけではな
い。
テイムしに行くのだ。
﹁クロ、ここら辺で乗せてもらうぞ﹂
俺は今まで拡大縮小のスキルで俺のフードに入るくらいに小さく
なっていたクロに声をかける。
﹃イエス、マスター﹄
クロにも下位ではあるが、念話魔術を与えたので俺がクロに念話
で呼びかけなくても会話が出来るようになった。
俺はクロの了解の返事を聞いてクロに乗る。
飛び乗るのではなく、ゆっくりと。
誰でも背中にいきなり飛び乗られたら不愉快だもんな。
﹃マスター、私は貴方にテイムされた魔物です。
気を使ってゆっくり乗る必要はありません﹄
﹁分かってるさ。でも、そこら辺は何となくだ。
俺が主人だし、それこそ勝手だろ?﹂
﹃マスターはときどき優しいですね﹄
ありがとよ。
ときどきが余計だけど!
俺がそう言いながらクロの体にしがみ付くとクロはゆっくりと飛
び始める。
まずは俺が慣れるまで遅めに行ってくれるみたいだ。
でも、俺が走るのよりは断然早い。
58
あっという間に森に着いた。
★
﹁ギギギ! ギギギギギギギ!﹂
﹁お、群れ発見﹂
俺たちが森に入って数分も歩くと、直ぐにゴブリンが見つかった。
ゴブリンは俺たちに襲い掛かってくる。
﹁あ、クロは下がってて。
俺の生の肉体がどんなものか試したいから﹂
俺は一番槍は俺が貰うとばかりに棍棒を振り下ろしてきたゴブリ
ンの腕を掴む。
そのゴブリンの動きが止まる。 そりゃあ本来小柄な自分よりも小さい人間に簡単に渾身の一撃を
止められたらこうなるだろうな。
まあいい。
﹁従うか、従わないか。
生きるか、死ぬか。
力を手に入れるか、手に入れないか。
お前が決めろ﹂
俺はレベルが高いからか、子供のようには思えない鋭い眼力でゴ
ブリンたちを睨み付ける。
59
ゴブリンは竦み上がる。
よし、どうやら自分の立場を理解したようだ。
前世がしがない一般人だった俺にしてみればこんな光景あまり見
たくないけど⋮⋮。
まぁ脅しは交渉の基本的なテクニックの一つだし、しょうがない
か。
﹁テイム・モンスター=ゴブリン﹂
俺は殴りかかってきたゴブリンを手始めにテイムする。
紫の光が迸り、ゴブリンの体に入っていく。
どうやら成功したようだ。
﹁おい、子鬼共。
お前たちも選べ﹂
ゴブリンたちは一斉に平伏する。
抵抗の意思がないことは丸分かりだった。
その後も俺はゴブリンをテイムしていく。 そうして俺の支配下にある魔物はランクF魔物・ゴブリン90匹
となった。
彼らには俺の支配下にある魔物以外を殺しつくしておけ、と言っ
ている。
頭の良さそうなゴブリンをランクE上げて、ゴブリンリーダーを
作り出しておいたので、恐らく今週中にはかなりの数の魔物が死滅
することであろう。
60
但し冒険者は向こうから襲って来ない限り襲うなと言っている。
クロのように逃げる指示を下してもよかったのだが、それではす
ぐに彼らが死んでしまうだろう。
速力低いし。
ちなみに何故俺がコボルドではなくゴブリンを配下にしようとし
たか。
それは知能にある。
ゴブリンは他の魔物に比べ知能が高いのだ。
少なくとも馬鹿を起こす可能性は低いし、手先も器用なので色々
と便利だと思ったのである。
1日が経つ。
今日は母さんと勉強だ。
三日に一回は勉強しないといけないのだ。
まあ、既に覚えた内容だったので今日だけでこれからやる30回
分の学習内容は終わったが。
ポイントは600ポイントに増えていた。
思ったよりも多いが、妥当なところだろう。 2日が経つ。 今日はある準備のため、街を見て回った。
ポイントは1300ポイントに増えていた。
いい感じである。 3日が経つ。
俺は何となく人形に入りたい気分だったので、愚かな豚王の宮殿
と言うオークがたくさんいる迷宮に転移陣を使って行く。
オークは一体につき大体25、6ポイント貰える。
61
10体倒したからそれだけで250ポイント入った。
もう知識にポイントを割く必要もないのでこれはある特級スキル
のために使う。
帰ったらポイントが2500ポイントになっていた。
⋮⋮いい感じである。
4日が経つ。
母さんと勉強。
あらかじめ本で学んだ!と無邪気に笑いながら問題を解いていく
俺を見て母さんは﹁フーちゃん凄い!﹂と言って笑っていた。
前世俺の親は、何というか俺に興味なかったし、今みたいな温か
い家族の日常って奴は大切なものだな。
少ししみじみする。
ポイントは4000ポイントに増えていた。
⋮⋮いい感じ、なのか?
いや、ポイントが増えているのはいいことだ。
俺は乾いた笑いを浮かべながら、子鬼と犬の森がどうなっている
のか思案した。
5日が経つ。
今日も街を散策する。
そしてついにお目当ての者を見つけた。
取りあえず予約をしておく。
店主に訝しがられたが、まあいい。
ポイントは7000にまで増えていた。
62
なんかヤバい。
6日が経つ。
俺は石版を1日中眺めて過ごした。
これは1週間に一度はやることだ。
石版には膨大な量のスキルがある。
そしてそれらを俺はまだ把握できていない。
しかし、今日でようやくそれを殆ど把握できたので、有意義な1
日となった。
ポイントは⋮⋮12000ポイントに増えていた。
何が起こってるんだ?
俺は明日、勉強が終わったらすぐに森に行くことにする。
7日が経つ。
俺は昨日決めたとおり、直ぐに森へと向かった。
そこにはゴブリンがパンデミックしていた。
しかもそこから感じるのは﹁自分の力﹂。
つまり全部テイムされている魔物だと言うことだ。
証拠に皆、平伏している。
俺は取りあえず貯まりにたまったポイントを⋮⋮また増えてる。
14000ポイントになっていた。
まあ、いい。
ポイントを使ってゴブリンリーダーの存在力をDにし、ゴブリン
ジェネラルに引き上げる。
彼らが言うにはこうだ。
63
﹃我が主! 貴方様のお蔭で我らの集落はこんなにも発展しました!
時々コボルドやゴブリン以外の魔物がわき、我らはいつものよう
に壊滅の危機に浚われるのですが、主のお蔭で我らは本来払う10
0の犠牲を1の犠牲にすることが出来ました!
これも主が私めをリーダー個体にしてくれたおかげです。
感謝します!﹄
なるほど。
つまり、彼らは時々生まれるグリーンモンキーのような特殊個体
に数を毎回減らされたのだ。
特殊個体はゴブリンやコボルドの数が増えた時に現れるらしく、
力を合わせれば倒せるには倒せるが、戦いに生き残るのは100体
に一体以下になるらしい。
でも、今回はリーダー個体がいたおかげで上手い連携が取れ、簡
単に特殊個体を倒せ、それによって彼らは数が減らずに、しかも増
えやすい個体だから沢山の子供が生まれてこんなにも膨大な数にな
ったのか。
パッと見た感じゴブリンが300匹いる。
﹁あらかじめ予想しておいてよかったよ﹂
ゴブリンは地球で言うところのコックローチ、俗にいうゴキブリ
のようなものだ。
直ぐに増え、直ぐに死ぬ。
ゴブリンの繁殖速度は蟲系統の魔物を除く中で、第1位だ。
オスとメスが1匹ずついれば次の日には4匹に。
次の日には8匹に。
加速度的に増えていくのだ。
64
俺はこの生態を知っていたのであらかじめ準備することが出来た。
特級スキル、魔物収納空間︵5000︶を。
65
第6話 ゴブリンテイム!︵後書き︶
明日も5時頃投稿します
66
第7話 大切なのはノリと勢い︵前書き︶
何か総合評価6000、日間二位になってました。
67
第7話 大切なのはノリと勢い
特級のスキル習得には3000ポイント以上かかり、1レベル修
練するのには下位スキルや上位スキルとは違い、その4倍のポイン
トが必要なスキルランクだ。
但し、その分効果は今までとは桁違いである。
この魔物収納空間もそう。
これは魔物を収納する空間を作り出すスキルで、収納する魔物に
とって最適な環境を作り出してくれるのだ。
今はレベルが1だから東京ドーム3つ分の広さの部屋を3つしか
作れないけど、それでもゴブリン程度なら何匹増えようが十分だ。
多分一部屋につき、快適性を考えても1000匹まで行けるだろ
う。
もしゴブリン・コボルドが増えたら、適当な迷宮に離してポイン
トを稼いで貰うつもりだ。ちゃんとそのための機能も魔物収納空間
には付属している。
俺は明るい未来を予想し、口元をにやけさせていたが、それも止
める。
代わりにため息をつく。
何故かって?
だってさ。
子鬼と犬の森には俺がテイムした魔物以外の生物が全部消えてな
68
くなってるんだぜ? 迷宮の最奥に存在する迷宮ボス、グレイトフルモンキーもノリと
勢いで俺が来る少し前に倒してしまったらしい。
何だよ、ノリと勢いって。
迷宮ボスが倒されたから、この迷宮は役目を終える。
今まで初心者向けにわざと生かされていたこの迷宮を攻略してし
まったのだ、俺は。
これは罰金を取られる事態である。
俺は魔物たちを詰め込んだ後、足早にここを去る。
俺は子供だから、ほぼ確実にばれないだろうとはいえ、それでも
ここに留まっていたら面倒くさいことになるのは目に見えているの
だ。
置いておいた転移陣の回収も忘れない。
﹁クロ、行くぞ﹂
俺はクロの背中に乗る。
出来るだけ低空飛行してもらい、街に近づいたら俺は徒歩で家ま
で歩いて帰った。
★
次の日。
やることは沢山ある。
が、まずはゴブリンの“群れ”を立派な集団戦が出来るほどの“
軍団”に仕上げなくては。 69
そう思い、魔物収納空間に入る。
このスキルは魔物を収容するための場所ではあるが、このスキル
の持ち主と、持ち主が許可した者ならば入ることが出来るのだ。
スキルが発動したのか、俺の目の前に黒い扉が現れる。
扉を開けると、そこは熱帯林だった。
ゴブリンが周りにいることから、これが彼らにとって一番過ごし
やすいところだと言うのが分かる。
俺はひとまず、頭の良さそうなゴブリン︵独断と偏見︶10匹と、
ジェネラル1匹を呼び出した。
呼び出されたゴブリンは平伏する。 やはり野生なのか、上下関係は弁えているようだ︵俺は小心者な
のでどうにも慣れないが︶。
平伏し、少ししたところで顔を上げ、何かを言う。
⋮⋮いや、ギギギっとか、グググっとかって言われても何を伝え
たいのかが全く分かんねぇよ。
﹃おい、貴様ら何と言った?﹄
上級念話魔術を使ってみる。
燃費がとても良くなり、この魔術は1日中発動しておいても魔力
が尽きることはないだろう。
いざと言うときに困るかもしれないしそんなことしないが。
﹃はい。我らをお助けいただきありがとうございます。
70
今まで強い魔物がドンドン現れ、女子供が食われ、冒険者は我ら
の戦士を殺していきました。
日々怯える毎日でした。
あの森は木の実も育たず、ひもじい思いをするばかりでした。
重ね重ね申し上げますが、我らを救っていただき、ありがとうご
ざいます!﹄
他の奴らにも何を言っているか聞いてみたが大体似たようなこと
だった。
どうやら彼らには、俺に対してかなりの忠誠心があるらしい。
だが、一つだけ言っておく必要がある。
﹃俺は、貴様らを兵力として使うためにテイムした。
女子供は戦力として数える気はないが、それでも戦士は相変わら
ず死ぬだろう﹄
俺のキツイ一言に、しかし不満を上げる者はいなかった。
それどころか、女子供は戦力として数えないという言葉に感動し
ているようだった。
うーん。理解できん。
こんな風に上から目線で死ねって言われたら俺なら怒るけどな。
⋮⋮もうスルーするか。
不満はないようだし。
それにしてもゴブリンの知能は思ったよりも高い。
少なくともジェネラルは人間並みの知能を有している。
﹃そこのゴブリンたち。
71
俺の前に並んでくれ﹄
俺は石版を操作する。
この集まった10匹の子鬼は一族の中でも特に優秀な者ばかりら
しいし、スキルも与えてるやるつもりなのだ。
まず、1匹目。
こいつは無鉄砲にも俺に真っ先に殴り掛かってきた奴だ。 中々強そうな奴だし、俺は剣術スキルをレベル3で与えてやった。
その後、存在力をEに。
40ポイント消費する。
2匹目。 鑑定でステータスを見ると魔力が高かったので風魔術レベル3を
与え、存在力をEへ。
3匹目。
魔力は高いが、魔力量は低かったので魔力消費の少ない付与魔術
レベル3を与え、同様の操作を。
その後、残りの7匹にも同様に力を与えていく。
俺が最後のゴブリンに力を与えたころ、ゴブリンたちの体が一斉
に光に包まれ始めた。
どうやら進化が起こっているらしい。
ジェネラルの時は体が巨大化し、皮膚や爪、牙が硬化するだけだ
ったけど、今回はどうだろうか。
スキルを与えておいたし、もしかしたら全く別の変化がみられる
かもしれない。
72
俺の予想は当たっていた。
剣術スキルを与えたゴブリンは体の大きさが少しだけ大きくなり
眼つきが鋭くなる。 現在ジェネラルが同じく存在力Eで、ゴブリンリーダーだったと
きはもっと大きい体つきをしていたはずだ。
鑑定で見てみる。
まずはジェネラルからだ。
名前:ゴブア=ジェネラル
レベル:5
種族:ゴブリンジェネラル
職業:軍団長
存在力:D
スキル:指揮︵自分の声を味方にのみ聞かせることが出来る。
自らの命令を実行中の味方のステータスを微上昇︶ 生命力:60︵120︶
魔力量:10
筋力:75
防御:60
速力:30︵60︶
魔力:10
加護:ポイント使いの加護
へえ。思ったより強いな。
でも、クロには遠く及んでいない。
やはりクロは特別な個体だったようだ。
名前:ゴブイ=ソードマン
レベル:3
73
種族:ゴブリンソードマン
職業:なし
存在力:E
スキル:剣術レベル3
生命力:30︵60︶
魔力量:10
筋力:60
防御:30
速力:55︵110︶
魔力:10
加護:ポイント使いの加護
名前:ゴブウ=メイジ
レベル:2
種族:ゴブリンメイジ
職業:なし
存在力:E
スキル:風魔術レベル3
生命力:20︵40︶
魔力量:40
筋力:15
防御:15
速力:13︵26︶
魔力:55
加護:ポイント使いの加護
他にも、様々な個体を見ていくが、どうやらスキルを付与した後
に存在力を引き上げると、進化する種族にも違いが現れるようだっ
74
た。
なるほどな。
俺はその事実を確認すると、石版を操作。
彼ら全員に﹁教術︵10︶﹂と言うスキルを付ける。
このスキルは自らの持つスキルを伝授しやすくなるスキルだ。
ただしこのスキルには教えられる側の才能もいるので、全てのゴ
ブリンがスキルを手に入れることが出来るわけではないが。
﹃お前らに任務を与える。
自らが持つスキルを習得する事が出来る可能性のある者を集め、
その技を伝授してほしい!
手段は問わないし、死体が出ても構わん。
そのスキルを一体でも多くの同胞に分け与えるんだ﹄
俺はその後、全てのゴブリンを集め、存在力をEにしていった。
所々将軍口調が崩れていたのは期にするな。
疲れるんだあれ。
既に日は暮れかかっていた。
明日に備えて、早めに寝なければ。
★
俺はお小遣い5か月分︵月銀貨5枚貰う、銀貨一枚約1万円︶を
持ってとあるお店へと向かった。
そのお店とは、奴隷商である。
何とこの世界には奴隷制度が存在するのだ。
75
奴隷になる要因は様々だが、今回俺が買おうとしている子は存在
力が低すぎて捨てられたらしい。
そもそも、存在力とは何なのか。
この前も大雑把に説明したが、要は会得職業やスキル、能力値の
伸びに大きな影響を与える一つの大きなファクターである。
・存在力がE以下の生き物は職業に就けない。
・存在力がE以下の者は能力値はレベルがどれだけ上がっても7
0を超えることはない。
・存在力がFの者はスキルが所得出来ない。
箇条書きにするとたったこれだけだが、それでもとても重要な法
則である。
職業も存在力に次いで大事なもので、職業ごとに職業専用スキル
と言う強力なスキルがあり、それが使えるのと使えないのとでは大
きく差が出るのだ。 また、存在力と同じように能力値の伸びにも関係してくる。
スキルが習得できないのも大きい。
剣術スキルで言うと、才能ある者が2週間ほど剣を振り続ければ
下位の剣術スキルレベル程度は簡単に手に入るのだ。だが、存在力
Fはこれがない。
スキルの有無、数は社会的なステータスにも繋がる。 ⋮⋮長々と語ったが、存在力とは最早生まれた時に出来る生物の
格付けである。
そして、俺が今日買う奴隷。
76
さいきょう
それは人間にして存在力Fの最弱の女だ。
77
第7話 大切なのはノリと勢い︵後書き︶
一章はあと4話で終了です
78
第8話 タダで奴隷を手に入れよう︵前書き︶
日間一位、総合評価一万ポイント、総合pv20万を超えました
79
第8話 タダで奴隷を手に入れよう
私、クレア=グレイフは5歳のとき、親に捨てられた。
理由は、存在力が低すぎたから。
存在力がFやEの人間は生まれた時に何となく分かるらしい。
“ああ、こいつは出来損ないだ”って。
普通の人間は皆存在力がDはあるから、私みたいな低存在力の者
は差別の対象だ。
私が思い出す最初の記憶は親からの冷たい視線。
今にして考えると、5歳まで育てられたことが奇跡のように感じ
る。
でも、どうせなら殺してくれた方が良かった。
私は親に捨てられた後、行く当てもなく彷徨い続けて奴隷商に捕
まった。
その奴隷商も中々にひどい人間で、私に意味もなく暴力をふるっ
てきた。
金には意地汚いので、服の上からだとばれないようなところを集
中的に殴ってきた。
悔しかった。
悲しかった。
死にたかった。
私はいつも、泣いていた。
80
そんなときだ。
私と同い年くらいの男の子が私を見て目を見開いていた。 どうしたんだろう。
私は少し気になったが、どうせ存在力F程度の人間を買う奴なん
ていないだろう、証拠にその男の子は直ぐに去って行った。
★
﹁さて、何のようでございましょうか、お客様!﹂
狐のような顔をした男がヘコヘコと俺に頭を下げる。
多分俺が貴族の格好をしてなかったらもっと素っ気ない態度にな
っていただろう。
そう言う感じの人間だ、こいつは。
⋮⋮それはどうでも良い事か。
﹁奴隷を買いに来ました﹂
﹁ほお! 私の扱う奴隷はどれも粗末ですが、安くて使い捨てにし
やすいですから!
特におすすめはあの人間の男の奴隷ですかね!
そこそこ力もあって⋮⋮﹂
﹁いや、いいです。俺が買う奴隷はもう決めていますんで﹂
俺は薄汚れた金髪に少し虚ろな碧眼の眼を持った少女に指さす。
﹁しかし、あの奴隷存在力Fですよ?
はっきり言って、お役に立てないかと﹂
81
この奴隷商は別に親切で言っているわけではない。
より高い奴隷を買わせたいからそう言っているだけの話だ。
﹁いえ、もう決めてるんで。と言うかこの前、予約しておいたと思
うんですが﹂
﹁申し訳ございません! 貴方様でしたか!﹂
何というか、無能だなコイツ。
奴隷商は顔を真っ赤にして、心なしか俺を睨んでいるように見え
る。
どうやら馬鹿にされたと思ったらしい。
いや、知らねえよ。
確かにバカにしたけどお前と違って態度には全く出してないぞ。
﹁早く出てこい! お前みたいなカスを拾ってくださるご主人様が
現れたぞ!﹂
奴隷商は俺が買おうとした奴隷、クレアのその手入れされていな
い長い髪を引っ張りながら檻から出そうとする。
﹁おい! やめろ!﹂
俺は叫ぶ。
流石に見ていられないのだ。
﹁何だ! この小僧が! 儂はな、お前みたいなしょうもない貴族
のガキが大嫌いなんだよ!﹂
82
子供の俺に注意されたことにキレたのか︵キレるなよ、それくら
いで︶怒鳴りつけてくる。
でも、良いんだろうか?
する気はないけど父さんに告げ口したらアウトだぞ、こいつ。 今更その事実に気が付いたのか、奴隷商は顔を青くし、次の瞬間
下品に笑った。
﹁そうだ! お前を殺せばそれで終了じゃないか!
おい、ザザン! 来い!﹂
確かにここは路地裏だ。
滅多に人なんて来ないだろう。
だから証拠隠滅を図る気のようだ。
本当に商人か疑うレベルの短絡的な人間である。
そもそもこんな路地裏に来る時点で、俺があまり他人に見られた
くないことに奴隷を使うってことに気が付けよ。
貴族なら金がある。
金があるなら表の通りで良い奴隷を買う。
でも、その貴族がこっちに来た。
つまり他人にはあまり見られたくない。
簡単に分かるじゃん。
まぁ、俺の場合は少し特殊なパターンだけどさ。
﹁ヘイ親方﹂
﹁ザザン。アイツを、アイツを殺せ!﹂
﹁へえ、子供ですかい。久しぶりに嬲りがいがある奴だな﹂
83
ザザンと言う男は嫌な笑みを張り付けて、俺に近づいてくる。
向こうは俺が恐怖に竦んで動けないと思っているようだ。
でも、ちょうどいい。
人間を殺したら一体どれだけのポイントが入るか試してみたかっ
たところだ。
ここまでのクズなら心もそこまで痛まんだろうし。
戦うと決め、取りあえず相手を鑑定。
全ステータス100程度。
スキルは拳術レベル4。
思ったより強いけど、どうとでもなる相手だ。
﹁行くぞおおおお!﹂
男が全速力で俺へと向かって跳躍する。
⋮⋮遅ッ!
流石速力242。
動体視力も同時に強化されているようだ。
⋮⋮血で汚れたくないし、ゴブリンに任せるか。
﹁召喚・ゴブリンソードマン﹂
一体ずつ呼び寄せようと思ったら、召喚と唱えた後に種族名を唱
えなければならない。
地味に面倒だ。
﹃命令だ。
84
そこの大男を殺してくれ。
それと、帰るときにソイツの死体も持って帰るんだ﹄
了解、とでも言うように剣を持って襲いかかるゴブリン。
召喚されたのは、俺に一番に襲い掛かってきてやられたゴブイ=
ソードマンだ。
この名前は俺が付けた。
スキルを持った個体は文字を、持たない個体は数字を付けるよう
にしている。
﹁な? ゴブリン?﹂
うわ、現実で﹁な?﹂とか言っちゃう奴初めて見たよ。
それは置いといて、ゴブリンソードマンは木の剣︵熱帯林に生え
ている奴を削ったらしい︶を使い、ザザンの首を刎ねた。 ゴブリンは俺が﹁転送﹂と唱えると︵これを唱えないと魔物収納
空間に帰れない︶約束通り元人間の肉塊を持って帰って行った。
﹁ヒ、ヒィ!﹂
﹁うるさい。で、どうすんだ?
売るか、売らないか?﹂
﹁う、売ります!﹂
﹁お代は?﹂
﹁無料で構いません!﹂
奴隷商は真っ青になりながら準備を進める。
⋮⋮そこまで怖がられると少し傷つくぞ! ﹁ここに血を垂らしてください。
85
ほら、お前も﹂
クレアが来て、専用の魔方陣的な物体に血を垂らす。 俺もクレアと同じように針で自分の手を差し、血を垂らした。
すると、クレアの体が光る。
まるで魔物をテイムした時のようだな。
﹁こ、これで準備は終わりましたんで!﹂
早く帰ってくれ、目がそう言っていた。
俺としても、子供を殺そうとするような輩の近くにはいたくなか
ったので、何処か呆けたような表情をしているクレアを連れて帰る。
ちなみに、あのザザンとか言う男を殺したら50ポイント手に入
った。 思った通り、強さの割に会得ポイントが高い。
恐らく経験値も割高なのだろう。
俺はとある情報を持っているだけに、そのことに密かに背中を震
わせた。
★
魔物収納空間の中に入る。
ここはゴブリンがいる第一の部屋ではなく、真っ白な空間で埋め
尽くされている第二の空間だ。もしここに魔物が入ったら、その魔
物にとって一番快適な空間にしてくれるのだろう。
86
﹁⋮⋮ご主人様。ここはどこでしょうか?﹂ 今まで黙っていたクレアが質問してくる。
﹁ああ、ここは魔物をたくさん入れておける場所だ。
さっきのゴブリンもここから出てきたんだよ﹂
﹁え、でも何もいませんよ?﹂
﹁ここは二番目の部屋なんだよ﹂
なるほど、と頷く。
﹁それで、ここからが本題だ。
まず一つの選択をしてもらう﹂
先ほどまでは柔らかい表情をしていた俺だが、今は真面目な表情
を作る。
﹁選択肢一つ目。
もし、お前が望むのならば今から奴隷の契約を解除してやろう。
加えて、俺の秘術を使ってお前の存在力を一つだけ高めてやる﹂
﹁そ、存在力を上げる?﹂
クレアが大きな声で驚く。
まあ、仕方がないだろう。
決して変えられない自分の欠陥を治せる者がいると知ったらこう
もなる。
﹁ああ、そうさ。
お前は存在力Eとして、普通の暮らしを送れるだろうな。
顔が良いんだ、存在力Eならギリギリ玉の輿を狙えるんじゃない
87
か?﹂
クレアが涙を流す。
何故?
⋮⋮あー、でも自分が差別されている要因が消えるって、そりゃ
とてつもなく重大なことなんだろうな。 普通の反応か。
それにしても、女子の涙って、殆ど見たことないから焦るわ。
﹁えっと。な、泣くなよ?
話はまだ終わってないし。
選択肢二つ目だ。
お前、悔しくないか?﹂
﹁へ?﹂
質問の意味が分からず、素っ頓狂な声を上げる。
だが、すぐに理解したのか、更に涙の量を増やしながら呻く。
﹁悔しいです。
馬鹿にされて。理不尽な目にあわされて。暴力を振られて。 親に捨てられて。見下されて。
悔しいです﹂
その声には、恐ろしいほどの怒りが込められていた。
家族へ、奴隷商へ、その他自分を差別した人間へ、そして、何よ
り不甲斐ない自分へ。
﹁強くなりたいか?﹂
88
力強く頷く。
﹁そうか。
なら、二つ目の選択肢だ。
一生俺の奴隷となる代わりに、お前の力を目覚めさせてやろう。
そうすれば、お前はきっと真の強者となる﹂
慎ましく、他人より多少劣った人間として生きるか、一生奴隷で
はあるが強い人間に生まれ変わるか。
﹁私は⋮⋮強くなりたいです。
だから、私は一生ご主人様の奴隷として働きます!﹂
よし。前世見た心の傷がある人と交渉する方法が紹介されていた
本に書かれていた通りにいった。
まずは相手のトラウマもしくはコンプレックスを抉る。
次にそれらを無くせる方法を提示する。
そうすれば高い確率で相手はその交渉に乗ってくる。
うん、何と言うかクレアに申し訳ない気分になるな。
いや、でもこれでクレアは力を手に入れる事ができて、俺はやる
気のある強い力を持つ味方を一人増やせる。win?winの関係
じゃないか。
⋮⋮けど、待遇はよくしておこう。
﹁⋮⋮良い返事だ﹂
多少の罪悪感に苛まれながら俺はそう言った。
89
これが後に最強の剣士と呼ばれることになる彼女クレア=グレイ
フと、俺との最初の出会いだった。
90
第9話 ハードボイルドにはなれなかったよ⋮⋮。
名前:クレア=グレイフ
レベル:1 種族:人間 職業:なし︵推定会得職業:剣神︶
存在力:F
スキル:なし︵推定会得職業限定スキル:﹃剣の神﹄︶︵剣に関わ
る全てのスキルのスキル経験値が1000倍になる。剣に関わるス
キルを合成することができるようになる。また、剣を持っている間
筋力の能力値が10倍になる︶
生命力:3︵6︶
魔力量:0.1
筋力:2
防御:1
速力:2︵4︶
魔力:0.1
加護:ポイント使いの加護
二つ名:背反の定めを持つ者
これがクレア=グレイフのステータスだ。
⋮⋮何か、二つ名が中二病ぽいが、それは置いておく。
ハッキリ言って、職業は強すぎる。
一見俺の職業の下位互換に見えるが、そうではない。
俺はまずスキルを習得、カンストまで修練、そしてそれから、そ
のスキルの上位互換スキルを取る︵強化︶と言う一定の手順を確実
91
に踏まねばならない。
だが、クレアは違う。
例えば剣術スキルを見たとしよう。
すると剣術スキルが一瞬で習得される。
その時はレベル1で弱いままだが、その後直ぐにレベル2、3と
修練されていき、すぐに上位互換のスキル・上位剣術に行きつく。
そこでもまた同じことを繰り返してカンスト、次は更に上位の特
級剣術スキルを会得。
繰り返す、と言う風に才能が溢れる人間が数十年掛けてようやく
手に入れるスキルを僅か数分、ことによっては数十秒で手に入れる
ことが出来るのだ。
ただし、特級スキルは存在力がCじゃないと会得できないが。
と、まあクレアが職業を会得した場合最強になるのは分かっても
らえたと思う。
では、どうやって俺が本来表示されないE以下の人間の職業を調
べることが出来たか。
その秘密は上級鑑定のスキルにある。
上級鑑定をE以下の生物に使うと、その生物が会得できる職業を
予測してくれるのだ。
この世界では、上級鑑定と言うのは下位鑑定に比べて使用魔力が
少ない、犯罪歴の確認が出来る、くらいにしか知られていないが、
実際本来1しか使わない魔力を100くらいつぎ込めばスリーサイ
ズから身長、推定会得職業まで調べることが出来る︽出典、石版︾。
﹁クレア、まずはお前の存在力を引き上げる﹂
﹁は、はい﹂
92
まだ俺が存在力を引き上げることが出来ると言うのが半信半疑な
ようだ。 まあ、それはしょうがない。
俺は実証するため、いつものように石版を操作。
存在力をEに引き上げた。
ステータスを確認する。
全ての能力値が10倍くらいに上がっていた。
⋮⋮恐らく、かなり強い職業、と言うか勇者と同じ伝説級の職業
の会得に一歩近づいたから能力値もそれに比例して上がったからだ
ろう。
じゃなきゃこんなの有り得ん。
﹁なあ、何処か変わっ︱︱﹂
﹁す、すごいです! 体から力が溢れてきます!﹂
先ほどまでローテンションだったクレアが突然ハイテンションに
なって叫びだす。
嬉しそうだな、おい。
それにしてもやっぱ全能力値が10倍になると強くなったって気
が付くもんなんだな。
﹁もう一段階上げるぞ﹂
﹁ハ、ハイ!﹂
存在力をDに上昇。
鑑定する。全能力値が更に10倍になっていた。
つまり、レベル一にして体力300、筋力200、速力200だ。
魔力量と魔力は両方とも一だが、それでも剣士としては最上のス
93
テータスを持っていると言っていいだろう。
﹁どうだ、今の感覚は?﹂
﹁⋮⋮﹂
俺が質問するが、クレアは黙りこくったままだ。
訝しげに思い俺が再度質問しようとすると、クレアがポツリと言
葉を紡いだ。
﹁信じられないです。
私にこんな力が眠っていたなんて﹂
驚愕に染まった声。
﹁良かったじゃん。
でも、お前はもっと強くなるぞ﹂
と、そこでクレアの体が薄汚れたままだと言うことを思い出す。
服もまだ、奴隷商で着せていたボロ雑巾のようなモノなので、衛
生的に悪いはずだ。
本来煌めいているはずの髪は油でべとべとだし⋮⋮。
俺は石版を操作。 水魔術、土魔術を習得。
土魔術をレベル2に修練。
﹁ちょっと待ってろ。風呂を沸かせてやるから﹂
俺は好きな形の硬い岩を作り出せる土魔術﹁クリエイト・アース﹂
を使う。
94
魔力が30削られ、代わりにしずかちゃんの家にありそうな形の
風呂が作られる。
これが、この世界の魔術だ。
魔術を使える人間は、世界に割と多くいる。
多分、5人に1人は使えるだろう。
但し使えるのは攻撃にはあまり利用できない、便利系の魔術ばか
りだが。
本職の﹁魔術師﹂が使ういわゆる攻撃魔法は下位の魔術のスキル
レベルが3になってからだ。
攻撃に使えるほどの力を持つ魔術を習得したものは恐らく世界人
口の4人に一人くらいだろうな。
だから、そこまで珍しいと言うわけではない。
それこそ、戦争に﹁魔術部隊﹂なるものが3も4もある程度には。
⋮⋮但し、この世界の魔術部隊は魔術師が集まっただけのとても
“隊”と呼べるようなものではないが。
﹁あ、あの﹂
俺が水魔術﹁クリエイト・ウォーター﹂を使い、水を風呂に注い
でいるとクレアが話しかけてきた。
﹁何だよ﹂
﹁え、えっと。
私、お風呂とか大丈夫ですから!
ご主人様の手も煩わせてしまいますし﹂
何というか、控えめな奴だ。
95
奴隷だったから仕方ないと言えば仕方ないけど、遠慮しないと言
うことも憶えないとな。
﹁いいから。遠慮しないでいいからさ。
何か欲しいものがとかしたいこととかがあるなら言え。
言うだけならタダだし、買えそうなものなら買ってやるし、出来
そうなことなら手伝ってやるよ。
お前はもう、俺の仲間だしな﹂
俺がそう言うと、クレアは泣き出した。
涙腺緩いな、おい。
男が流した涙ならこう思う俺だが、女が流した涙なら話は別だ︵
この言葉、どこかハードボイルドっぽい︶。
それは置いておくとして、俺はパニック状態へ移行。
ハードボイルドにはなれなかったよ⋮⋮。
﹁ど、どどどどうして泣いているんだ?﹂
噛んでしまった。
ドが多い。
ドビュッシーに怒られてしまいそうだ。
﹁ありがとう、ございます⋮⋮。
ありがとうございます⋮⋮﹂
俺がしょうもないことをつい現実逃避気味に考えてしまいながら、
泣いている理由を尋ねてもありがとうと繰り返すだけで、何も答え
ない。
96
﹁あ、そうだ。
飯もまだだったよな。
取りあえずこれを食った後、風呂に入れ﹂
飯を食べれば喋る元気も湧くだろう。
俺はあらかじめ露店で買っておいた少しだけ高級なパンを渡す。
腹が減っていたのか、そのパンを夢中で食べる。
そしてまた涙を流す。
よほど美味しかったのだろう。
﹁あ、もう風呂は沸いたぞ。少し熱いかもしれんが、ゆっくり入れ
よ。
俺は外に行ってくる﹂
﹁ま、待って⋮⋮!﹂
﹁うん?﹂
﹁一人じゃあ心細いので⋮⋮傍にいてくれますか?﹂
俺的には、あまり女子の入浴シーンは見たくないのだが、どうせ
子供だ。
俺はロリコンじゃないし、先ほど遠慮するなと言ったばかり。
断るのも気が引ける。
しょうがなく、俺はクレアを見守ることにした。
★
一年が経過した。
97
俺はクレアが仲間になったあと直ぐにポイントを貯めて特級スキ
ル﹁屋敷創造︵3000︶﹂を習得していた。
このスキルはもっと後に取るはずだったが、何かと便利なので予
定を早めてクレアを引き取った後に入手したのだ。このスキルがな
いとクレアはいつまでも宿に泊まることになってしまうしな。
んで、屋敷創造の説明。
これは大きな屋敷を亜空間に創造するスキルだ。
出入りは魔物収納空間と同じように、扉をこの世界に繋いで行う。
クレアには亜空間の屋敷で過ごしてもらっているのだ。
親にはクレアを買ったことを秘密にしているし。
これが男ならともかくクレアは女だ。
邪推をされかねない。
俺は嫌だぞ。
6歳から盛っていると思われるなんて。
俺の父さん実は軟派な男だったし、母さんに本気で疑われそうだ。
それも仕方ない。
俺の髪の色も目の色も父さんと同じ黒だし。
﹁ご主人様! 今日は何処に行きましょうか?﹂
クレアもすっかり元気になってきた。
現在雪が降り積もってとても寒いが、それを溶かしてしまいそう
なくらい元気だ。
﹃フリート様。この娘、非常にうるさいのですが﹄
俺の肩に乗っている︵拡大縮小が使えるようになったときから肩
98
の上がお気に入りらしい︶クロが念話でそんなことを言う。
﹃お前、やけにクレアに非友好的だな﹄
問題は今のところ一つだ。
俺の持っている魔物の中で一番強い魔物であり、一番賢い魔物で
あるクロがクレアを敵視しているのだ。
俺がクレアにクロを紹介した時も全力でクレアを威嚇していたし。
﹃当たり前です! フリート様、確かにあの小娘は将来美人になる
でしょうが、現を抜かさないでくださいね!﹄
﹃安心しろよ。流石にクレアの奴隷と言う立場に付け込んで襲う気
はないしさ﹄
﹃も、もしあの小娘が誘ってきたらどうするんですか?﹄
﹃そんなことないだろ。アイツは俺のことを父親か兄のようなもの
だと思っているしさ﹄
﹃違います! 絶対違います!﹄
﹃今日はやけに食いついてくるな﹄
珍しい。
クロは基本的に俺の意向に全く逆らわないと言うのに。
でも自分の意思を持ってくれるのはいい傾向かもしれない。 ﹁ご主人様?﹂
念話で話していたからクレアの質問に答えを返しそびれてしまった
﹁どうした、クレア﹂
﹁今日はどこにいくんでしょうか﹂
﹁そうだな。今日はワンランク上げて、屍鬼の館にでも行こうか﹂
99
﹁分かりました﹂
最近はゴブリンの数も増え、700匹にまで増えていた。
魔物収納空間には餌として木の実もたくさん出るし、それに俺が
﹃農耕﹄と言うスキルを数十匹のゴブリンに与えているから、間も
なく更に人口?それともゴブ口?は増えるだろう。
戦闘部隊の練度もドンドン増している。
そろそろアイツラを何処かの迷宮に解き放とうか、と考えている。
また、新しい法則も発見した。
存在力Eのゴブリンと存在力Fのゴブリンの間に生まれた子は存
在力がEになるのだ。
人間ではそういうことはなく、存在力がA同士の者から生まれた
子でも存在力がFになったりするので知らなかったが、これは嬉し
い誤算だった。
おかげで今は殆どの個体の存在力がE以上である。
俺たちは屍鬼の館へと向かっていく。
このときはまだ、俺は街に闇が迫っていることを知らなかった。
100
第9話 ハードボイルドにはなれなかったよ⋮⋮。︵後書き︶
あと2話で第一章は終了です。
101
第10話 分岐
﹁ハァアアア!﹂
少し安いが、頑丈で鋭い剣と、クレア自身の技量によってゾンビ
の首が断ち切られる。
返す刀で剣を更にふるうと、10mほど離れたゾンビの首も吹っ
飛ぶ。
太刀筋が全く見えない。
ガキ
いや、冗談抜きで。
今の剣聖より強いだろうな。
﹁フレイムランス﹂
魔力量を100消費。
俺の腕から放たれる2本の火槍がゾンビ5匹の体をまとめて貫く。
﹁クルルルル!﹂
スキル気配隠蔽、新しく手に入れたスキル、透明化によってクロ
が音もなくゾンビの上位個体であり、司令塔でもあるゾンビリーダ
ーの首を、これまた新しく手に入れた身体硬化のスキルによって硬
化された爪が切り落とした。
﹁ふう。そろそろ帰るか。かれこれ3時間もここで狩りをしている
しな。
それに今冬だし寒い﹂
102
ここは屍鬼の館と言う迷宮だ。
迷宮と言うのは、世界に自然に湧くフィールドのことで、よくあ
る異世界モノのように階層式ではない。
フィールド式だ。
迷宮と言うのは、怨念や殺意など負の感情が籠った場所に出来や
すく、例えば愚かな豚王の宮殿で言えば、圧政を敷いていた王様が
反乱を起こされ処刑され、その王様が逆恨みで反乱軍を恨んだ結果、
自分の権威の象徴である宮殿そっくりの迷宮と、自分への蔑称とし
て付けられていた豚王と言う名前からオークが大量に発生する迷宮
が出来たと言うように、何らかのモチーフから出来るのだ。
この館も、昔一匹のゾンビに皆殺しにされたイメージから出来て
いるのだそうだ。
次いでだから話しておくが、迷宮の攻略条件は迷宮ボスを倒すこ
とである。
迷宮ボスを倒すと何故か迷宮は跡形もなく消え去るようだ。
子鬼と犬の森も、迷宮ボスが死んだせいで跡形もなく森が消え去
った。
どんな原理だよ、と思う。
まあ、魔術がある時点で地球人の常識じゃあ計り知れるわけない
のだが。
﹁はい、そうしましょう。
風邪にかかってもいけませんし﹂
クレアはそんなことを言いながら剣を腰にさしてある鞘にしまう。
103
その姿は堂に入っていた。
当然だろう、既にクレアは上級剣術と上級双剣術、上級大剣術に
上級片手剣術がレベルマックスなのだから。しかもそれを俺には出
来ない特殊能力、合成によって上級真剣術と言う意味不明なくらい
強いスキルに仕立ててしまっているし。
多分まともに戦えば一番強いのはクレアだろう。
ポイントを振って、速力が700に上がったおかげで動体視力が
更に良くなった俺でも太刀筋どころか剣を抜く瞬間すら見えないも
ん。
流石伝説級の職業だ。
俺は伝説級より上の神話級の職業だから、スキルなんて幾らでも
習得できるけど、クレアのような合成スキル︵仮︶は習得できない
し、相性があるのか、俺の出すスキルは本職に比べると性能が落ち
るのが殆どだ。 まあ、それはしょうがない。
俺は元々運動が得意な質じゃないし、だからこそ自衛の手段とし
て適性が高い魔物の調教に関するスキルを多くとっているのだ。
ゴブリン軍団育成は順調だし何年かして完全にゴブリン軍団が成
長したら新しい魔物も飼おう。
モフモフ兼強さを基準にするか。
楽しみだな。
﹁⋮⋮!﹂
﹃フリート様。何故か悪寒がします。
⋮⋮町の方から﹂
104
俺たちが屍鬼の館から出ようとした時だ。 クレアが立ち止り、クロが悪寒を訴える。
﹁ご主人様! 街に恐ろしい気配を感じます!﹂
クレアも何処か顔を青ざめさせながら言う。
俺よりも強い二人が言うんだ。
間違いはないだろう。
﹁分かった。危険は度外視だ。
街へ向かおう﹂
﹃ですが、危険です﹄
﹁ご主人様! 感じる力は私の比じゃありません!
死にますよ!﹂
﹁いや、それでもだ。
俺は父さんと母さん、それにジークを⋮⋮家族を放っておけん。
クロ、街まで飛んでもらおう。
全速力でな﹂
﹃畏まりました﹄
無駄だと悟ったのか、クロは大人しく従う。
屍鬼の館を出ると、クロの体が巨大化する。
本来ならこういう目立つ行為は止めておきたかったのだが、そう
も言っていられない。
もしここで何もせず母さん、父さん、ジークを見殺しにしてしま
えば俺は一生第2の人生を楽しむ楽しまないどころの話じゃなくな
ってくるのだ。
屍鬼の館は街に一番近い迷宮で、距離は20kmほどだ。 105
クロは時速100kmで走れるから12分ほどで到着するだろう。
俺は石版を取り出し、操作。
残りは4500ポイント。
それによって俺は治療魔術を習得、カンスト、上級治療魔術を習
得、カンスト、気配隠蔽を習得、カンスト、上級気配隠蔽を習得、
カンストさせる。
クレアにも同じような措置をし上級気配隠蔽をカンストさせた。
相手には勝てない、ならば見つかる前に3人を救い出せばいいの
だ。
俺は転移陣と鎌ちゃんを取り出す。
転移陣と鎌ちゃんは俺の小さいマジックバックにいつも入れてい
るのだ。
﹁クレア。俺の体を落ちないように支えておいてくれ。
大丈夫、10分で戻る﹂
﹁分かりました!﹂
クレアには俺の持っているスキルと効果を全て話している。
何をするのかすぐに察してくれた。
俺は上級付与魔術をありったけ鎌ちゃんにかけた後、五感移動で
鎌ちゃんに五感を移動する。
そして、転移陣を使用。
家に設置してある転移陣に俺は転移する。
瞬間、俺の目に移ってきたのは︱︱あれほど騒がしかった街の瓦
礫の山と、一匹の巨大な鬼だった。
106
★
魔族、それは人類に敵対する者。
魔族は様々な姿をしているが、その中でも特に有名な姿は鬼の姿
だろう。
数多ある魔族の姿の中にも、鬼の容姿をしたものは一人しかいな
い。
だが、その魔族の姿は人類の描く魔族のイメージだった。
何故か。
その魔族の王の1柱、ガレオスは強すぎるのだ。 1000年前の第一次聖魔対戦の末期に勇者一行に封印されたが
賢者と剣聖の両名を殺害し、普通自力での封印解除には10000
年かかるモノを僅か800年で解いた最強の魔王。
とにかく、ベラボウに強い。
何故、奴がこんなところにいるのか。 俺は震える。
震えて震えてしょうがなかった。
いや、と俺は首を振る。
まずは3人を見つける方が先だ。
そのとき、ガレオスがこちらを向いた。
嘘だろ! 気付かれたか?
107
俺が戦慄した瞬間だった。
ガレオスが俺の体を破壊したのは。
俺は死んだ。 ★
﹁うぐ!﹂
俺は体をはね起こす。
死んだかと思った。
死んだと錯覚させられてしまった。
何だアイツは。
強すぎるぞ。
﹁⋮⋮クレア、クロ。
お前らはここに残れ﹂
﹁嫌です! ご主人様が行くのなら、私も!﹂
﹃小娘の言う通りです。
私も行きます﹄
﹁駄目だ﹂
間違いなく、3人行けば誰かが死ぬ。
もしかしたら全員死ぬかもしれない。
幾ら俺が人形態で気配隠蔽を使えなかったとはいえ、そんな生易
しいスキルが通用される相手じゃないだろう。
108
それほど危険すぎる、アイツは。
主人だから、と言う理由で死への旅へ同行させられるほど俺は厚
かましくない。
俺はちょうど残った1000ポイントをクレアの存在力をCに上
げるために使う。
あの剣術に、この存在力。
クレアは良い人生を送れるだろう。
クロも同様だ。
大きな魔物の群れのボスと成れるであろう。
魔物収納空間は俺が死ねば無くなる手はずになっている。
それは奴隷契約も、テイムの効果も同様だ。
ゴブリン・コボルドをクロの庇護下にするのもいいだろう。
きっと屈強な軍団となる。
﹁﹃主人命令だ、戦いが終わるまでここにいろ﹄﹂
﹁﹃テイマーコマンド、戦いが終わるまでここにいろ﹄﹂
奴隷の主人、魔物使いのみが使用できる強制的に命令できる力で
俺は二人をここに縛り付ける。
俺がもし戦いは終わったと思えば二人は自由に行動できるように
なっている。
恐らくそれは、俺と言う存在が無くなり二人が奴隷から一般人へ、
使役魔物から野生の魔物へ帰るときだ。
少なくともその可能性の方が高い。
俺は上級念力を使用。 上級ともなれば100kgまでのものなら高い速度で運ぶことが
109
出来る。
俺はそれを利用し、服に念力を使用。 最高速度で街まで飛ぶ。
8分後、俺は街に着く。
死を感じさせる臭いが漂ってくる。
俺は焦燥感に駆られながらもスキル上級気配隠蔽を発動。
どうやら鬼はユニバルス家の屋敷とは反対側にある神殿にいるよ
うだ。
ちょうどいい。
俺はユニバルス家の家に駆け込む。
⋮⋮まず、父さんを見つけた。
死体の状態で。
心臓に建物の破片が突き刺さっている。
即死だろう。
目に涙がたまる。
いや、落ち着け俺。
まだ、母さんとジークがいる。
次に母さんとジークを同時に見つけた。
物言わぬ死体になった状態で。
二人とも、父さんと同じように心臓に破片が突き刺さっていた。
目から涙があふれる。
これじゃあ、手の施しようがない。
だってもう死んでるから。
110
⋮⋮良かったじゃないか。
即死だから苦しさなんて全く感じなかったはずだ。
3人とも日頃の行いが良かったから天国に行っているさ。
そう思わないとやっていられなかった。
﹃いいか、フリート。
女の子を泣かせちゃあいけない。
どんなときも、男は女を守らないといけないんだぞ。
古臭くっても、自分より女の方が強くても、それがお父さんとの
約束だ﹄
金髪に碧眼を持つ、普段はおちゃらけているけど、時々真面目だ
った父さんの顔が浮かび上がる。
父さんには、心構えとか女の子の口説き方とか、そう言う変な知
識ばっか教えて貰った。 ﹃フーちゃん。これ見て∼。
ジー君とお揃いよ∼。
フーちゃん、このカマキリさん好きだったわよね。
しっかりと縫っておいたから﹄
父さんと同じく金髪に碧眼の何時もマイペースで優しい母さんの
顔が思い浮かぶ。
縫うときに怪我をしたのだろう、手には絆創膏のようなモノが張
られていた。
俺が指摘すると、怒ったように笑ったっけ。
﹃お兄ちゃん! 俺さ、お兄ちゃんみたいにすげえ魔物と契約は出
111
来ないけど、でも兄ちゃんの代わりに貴族として沢山の人を幸せに
するから!﹄
少しくすんだ金髪を持つ弟ジークは、転生の影響で神童って呼ば
れる俺を尊敬していた。
俺は転生の影響と言うこともあって、褒められるたびに背中がむ
ず痒くなって、でもそれに恥じない良き人間になろうと思ってたな。
皆、もういない。
前世親と仲が悪かった俺に家族の温かさを教えてくれた皆はもう
⋮⋮。
あの鬼のせいで消えてしまった。
俺は悲しみのあまり、気が付かなかった。
アクティブスキルである上級気配隠蔽の効果が切れていたことに。
鬼は気付く。
俺の存在に。
屋敷は潰れる。
鬼の拳一発で。
﹁勇者、勇者はどこだ!﹂
鬼が吠える。
﹁ああ、好敵手よ!
我と唯一張り合える勇者はどこにいる!﹂
勇者を探しているらしい。 だが、残念だったな。
112
奴はちょうど今、アイリスとレッドと共に王都アルスにある勇者
育成学園に入った。 ここにはいねえよ。
俺は嘲笑する。
屋敷の屋根がドンドン落ちてくる。
ああ、戦いは終わった。
俺の惨敗だ。
これ以上ないほどに無様に負けた。
無念だ。
俺は落ちてくる屋根に当たり、意識を落とした。
113
第10話 分岐︵後書き︶
今日7時頃更新予定の第一話で第一章は終了です。
また、第10話ですが、フラグとか伏線とかあまり建てられていな
かったので改稿してみようと思います。
114
第11話 俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く
最強の魔王の名前はガレオス。
たった4文字の化け物。
彼は戦闘狂だ。
聖魔大戦で自分を封印した勇者も全く恨んでおらず、それどころ
か良き戦いをしてくれたことに感謝さえしている。
彼は最高の戦いをするためなら何でもする。
強き者の恨みを買うために残虐の限りを尽くすし、憎しみによっ
て殺気だった勇者と戦うために恋人であった賢者を目の前で握りつ
ぶした逸話は今でも有名だ。
但し、彼は場を整える必要がないのなら何もしない。
もし強き者が自分に憎しみを抱いているのなら更に憎しみを抱か
せるようなことはしないし、それどころか最高の戦いをするには相
手を助けることさえする。
彼のあらゆる行動は全て強者と戦うことに捧げられているのだ。
彼は、勇者が誕生したという話を聞いて、その街にすっ飛んで行
った。
しかしそこは勇者の本拠地ではなかった。
彼は暴れた。
そうすれば勇者が来るかもしれないと思ったのだ。
しかし一向に現れない。
恐らく何処かの都市にいるのだろう、そう思い次なる街に行こう
115
とした時だった。
気配を感じた。 ガレオスは弾かれたようにそこに攻撃をした。
そこにいたのは少年だった。
まだ5歳ほどの。
﹁⋮⋮ああん?﹂
先ほど潰した人形に気配が似ている。
なるほど、この少年が操っていたのか。
﹁⋮⋮面白そうじゃねえか﹂
気配がさっきまで全く感じなかったことを思えば、この少年は気
配隠蔽のスキルでも持っているのだろう。それも上級の。
しかも、体がボロボロになってはいるものの潰れていない。
防御の能力値が高い証拠だ。
それに、先ほどの殺気。
もしやこの少年、勇者をも超える逸材になるやもしれん。 ガレオスは確信にも似た直感に従い、この少年を見逃すことにし
た。
別の街に行くのも止めよう。
美味しい料理は一品ずつ食わないと。
116
別の料理を食べながら味わっても、その味が生かされない。
ガレオスは街を去る。
自分の配下に作らせた転移の魔方陣を使って。
★
俺はあちこちに広がる痛みと共に目覚める。
﹁⋮⋮﹃ギガヒール﹄﹂
俺は上級治癒魔術、ギガヒールを行使する。
これは上級治癒魔術がカンストして初めて手に入るスキルで、魔
力量は大体300くらい減る。
けど、その分効果は絶大だ。
無数にあった裂傷がドンドン塞がれていく。
体は完全に治った。
それでも起きる気にはなれない。
皆が死んだ。
理不尽な死だ。
涙が再び溢れてくる。
俺、2度目の家族にはそこまで愛情を感じてないと思ったんだけ
どなぁ。
案外俺って情が移りやすいのかもしれん。
117
取りあえず涙を抑える。
俺はまず、泣くよりも先にすべきことがある。
弔いだ。
この世界にはゾンビが発生する。
だからこういう風に人がいっぺんに死んだりすると、大量のゾン
ビが発生する。
それを防ぐために、大量の人間が死んだときは火魔術で一気に焼
き払うのが通例なのだ。
そこに葬儀なんて上品な言葉は存在しない。
ただただ死体を1か所に集めて焼くだけだ。
そんなことさせない。
俺は3人の遺体を埋葬してやるために、屋敷から3人を掘り出そ
うとした、そのときだ。
メキメキ、と屋敷が唸りを上げた。
屋敷が黒い物体に包まれてゆく。
﹁お、おい。
これは⋮⋮まさか﹂
迷宮化。
その単語が脳裏をよぎった。
思えば、迷宮が出来る3つの条件と一致している。
・新鮮な死体がある
・強い思念が死体に宿っている
118
・半径5km以内に他の迷宮がない
﹁嘘だろ⋮⋮﹂
新鮮な死体はここら辺に山ほどある。
また、父さんや母さんにも強い思念が宿っているだろう。
理不尽な死に対しての。
﹁行かなきゃ!﹂
屋敷は完成する。
纏った負のオーラ以外、見た目は全く一緒の迷宮が誕生した。
俺は僅かな時間で完成された迷宮に足を踏み入れようとする。
だが、俺は見た。
屋敷の中に潜む魔物を。
一体は、黒いローブに紅い目を持っていた。
一体は、鋭い牙に爪、白く濁った眼を持っていた。
一体は、筋骨隆々の紅い翼を持つ肌の黒い男だった。
リッチー、グール、レッドデーモンだ。
どれもAクラスの危険度を誇る魔物である。
⋮⋮この迷宮はAランク相当だ。
俺たちが最近行った屍鬼の館でさえ強さの標準はたかだかD程度
だ。
しかも迷宮も魔物も、危険度ランクDとCでは強さの次元が全く
119
違う。
沢山の事実に俺は打ちのめされていく。
そのとき、声がした。
﹁ご主人様! ご無事で!﹂
﹃フリート様!お体は?﹂
クレアとクロが戻ってきたようだ。
恐らく俺の中で戦いは終わったものとして処理されたのだろう。
だから命令がなくなってここに来れた。
﹁⋮⋮大丈夫だ﹂
俺は屋敷へと続く黒い扉を出現させる。
何も考えたくないのだ。
﹁お前らも入れ﹂
中は豪華な屋敷だった。
家具はベット2つと、その他もろもろ。
残念なことに金があまりないので、オシャレには出来ないがそれ
でも必需品だけは揃っている。
魔物の素材は高く売れるが流石に子供が魔物の素材を沢山売って
いたら騒がれる。
そんなわけで売るに売れない状況が続いていた。
俺は自分の部屋のベットに飛び込む。
悲しみと共に眠気が襲ってきた。
120
俺の意識は沈んでいった。
★
酷い頭痛と共に目が覚める。
隣には何故かクレアが眠っていた。
﹁今、何時だろ﹂
俺はクレアを起こさないように時計の針を見る。
夜中の2時だった。
寝たのは16時くらいだったから、かれこれ10時間も寝ていた
らしい。
何となく隣に眠るクレアの横顔を見る。
輝かんばかりの金髪に透き通る碧眼、雪のように白いが決して不
健康そうには見えない肌。
一年間で彼女は本当にきれいになった。
これでもまだ俺の一つ年上の7歳なので、将来は一体どれほどの
美人になるだろうか。
視線に気が付いたのかクレアは起きた。
﹁起きたか。何でこんなところにいるんだ?﹂
﹁はい。ご主人様、一つ聞きます﹂
121
俺の質問には答えず、逆に質問を返そうとして来る。
﹁悔しく、ないんですか?﹂
それは奇しくも俺がクレアに投げかけた質問と同じだった。
﹁⋮⋮何がだ?﹂
﹁ガレオスに、ご主人様のご家族を殺されて、です﹂
﹁悔しいにきまってるだろ!﹂
つい感情的に怒鳴るように答えてしまう。
前世は感情的に動くタイプではなかったが、フリート=ユニバル
スになってからどうもおかしい。
﹁では、どうするんですか?﹂
﹁⋮⋮俺の職業は最強だ。
何年、何十年かけても仇は取る﹂
﹁なら、私も仲間に加えてください!﹂
﹁それは駄目だ。
俺は今後の人生を楽しめるモノにするためにガレオスを倒す。
その中でお前やクロが死んだら俺はきっと二度と笑えない﹂
俺は情が移りやすい人間だ。
仮に俺が10年掛けてガレオスを打倒する力を得たとしよう。
その傍にクレアやクロがずっと居たとしよう。
クレアやクロが義務感により、俺と共にガレオスと戦い、その結
果誰かが死んだら。
122
俺は二度と立ち直れないだろう。
前に進むために、二度目の人生を楽しむために俺は復讐を果たそ
うとしている。
その過程で大切な人が義務感なんかで死んだら意味がないのだ。
﹁これは俺一人の問題だ。
他の関係ない者にまで手伝わせる道理はない﹂
﹁あります! 私はご主人様の奴隷ですから、ご主人様の行うことを手伝う義務
があります﹂
﹁義務感とか、そう言うふざけたもので他人を死なせたくないから
俺は一人で戦おうとしているんだ﹂
﹁じゃあ、義務感では無かったらいいんですね?﹂
﹁? いいんじゃないのか﹂
﹁私はご主人様に命を助けられました。
その恩を返さなければなりません︱︱﹂
結局、義務感じゃないか。
身分による義務から、恩による義務に変わっただけだ。
俺が指摘する前に、クレアは言った。
﹁ご主人様は自分の人生を楽しめるものにするために、心を晴らす
ためにガレオスを倒すんですよね?
私も同じです。
ご主人様にこの恩を返さなければ私はきっとご主人様の隣に立つ
ことは出来ません﹂
そこまで言われてしまえば、拒否などできない。
人生を楽しいものにするために、命を懸ける。
俺と同じだ。
123
これ以上駄々を捏ねれば俺はただのガキである。
俺は諦めたように頷く。
が、クレアの話はまだ終わっていないようだ。
再び口を開く。
﹁そして、それは他の皆も同じ気持ちです﹂
﹃その通りです、フリート様﹄
体長僅か10cmくらいしかないクロがクレアの服から現れた。
クロは真剣な表情で︵最近表情も分かるようになってきた︶俺を
見てくる。
﹃私もクレアと同じく、どうせすぐに死ぬだけの存在でした。 しかし、フリート様のおかげで力を手に入れました。
その恩を返させてください﹄
﹃主! 我らも絶望するばかりの日々を送っていました!
そんな我らを救ってくださったのは主です! 我らの命存分にお
使いください!﹄
クロに続いてゴブリンジェネラルもそう言ってくる。 ﹁⋮⋮ありがとな、お前ら﹂
俺は感謝する。
自分を支えてくれる仲間の存在に。
どこぞの週刊誌みたいな展開に俺は少し顔を赤くしながらも、皆
に礼を言う。
124
﹁やるぞ、お前ら!
第一目標は迷宮となったユニバルス家の館を攻略すること!
第二目標は最強の魔王・崩拳のガレオスを殺害すること!
そのためにも、強くなるぞ!﹂
俺はおもむろに立ち上がり、そう高らかに叫ぶ。
俺は第二の人生をコイツらと面白おかしく過ごしたい。
前に俺は進む。
そうすればきっといつか、ガレオスを超えられるから。 ︱︱俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く。
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第11話 俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く︵後書き︶
一旦この話の更新を止めて、時間をかけて完結まで書ききってから
投稿しようと思います。
面白い、続けてくれ、先が楽しみ。
そう言ってくださった読者様を待たせるのは心苦しいですが、作者
は必ずこの作品を完結させてきます。
何時かはわかりませんが、かなりの時間がかかると思います。
ありがとうございました。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n3732cp/
俺はチート職業を使ってこの異世界を生き抜く
2015年4月20日21時06分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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