地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた

企業グループと行政等の協働による
地域連携BCPの構築に向けて
地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた調査事業 報告書
平成27年3月
地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた調査事業
報告書 目次
序
はじめに
1
1.調査の目的
………………………………………………………………
1
2.事業の概要
………………………………………………………………
1
(1)アンケート調査
……………………………………………………
1
(2)ヒアリング調査
……………………………………………………
2
……………………………………
2
………………………………………………………
4
………………………………………………………………
5
(3)地域連携BCP普及セミナー
(4)シンポジウム
(5)研究会
第1章
中部地域における地域連携BCP
7
…………………
7
………………………………………………
8
1-1
地域連携BCPの普及に向けたこれまでの取組
1-2
モデル地域の取組概要
1-3
本調査の検討対象とする地域連携
第2章
2-1
…………………………………
地域連携BCPに関わる調査結果のポイント
危機管理への事前対策とリスク評価
12
15
………………………………
15
………………………
15
……………………………………
18
……………………………………
20
1.地域連携BCPの認知度
……………………………………………
20
2.地域連携BCPの可能性
……………………………………………
21
3.地域連携BCPへの期待
……………………………………………
23
1.個社BCP・地域連携BCPに関する実態
2.工業集積地におけるリスク評価
2-2
地域連携BCPの可能性と課題
…………………………………
24
………………………………………………
27
……………………………………………………………
27
4.地域連携BCP普及に向けた課題
2-3
関係機関の役割と期待
1.企業の役割
2.自治体等の役割
………………………………………………………
i
27
第3章
地域連携BCPの普及方策
29
……………………………………
29
……………………………………………
32
3-1
地域連携BCP普及上の課題
3-2
地域連携BCP普及戦略
……………………………………
32
………………………………………
36
1.地域連携BCPの取組の考え方
2.地域連携BCPの展開モデル
3.プラットフォーム(協議の場)の設置
……………………………
………………………
47
…………………………………………
50
4.プラットフォームで検討するテーマ(例)
3-3
地域連携BCPの普及方策
38
……………………………
50
…………………………………
52
1.地域連携BCPについての理解の促進
2.地域連携BCPの検討・策定支援
ii
序
1
はじめに
調査の目的
南海トラフ地震の発生リスクのある中部地域において、世界屈指のものづくり
産業が高度に集積していることから、災害時の産業活動の継続に重点を置いた対
策が不可欠との観点により、中部経済産業局では、「地域連携BCP※1」を提唱
し、その策定の普及による“災害に強いものづくり中部”の構築を目指し取組ん
でいるところである。
具体的には、①地域連携BCPの策定を主導・助言する立場の組織等に向けた
「地域連携BCP策定ポイント集(工業団地編)」の作成、②地域連携BCPを担
う人材を養成するセミナーの実施、③豊橋市・明海工業団地、四日市市・霞コン
ビナート、尾鷲市・地域企業群の3地域をモデル地域として、地域内企業におけ
る事業継続に向けた問題点を洗い出し、地域連携での対応課題の検討と、他地域
への普及に向けたモデル要素の抽出と普及啓発の方策の整理である。
これまでの取組の結果、今後、被災リスクの高い伊勢湾を中心とした沿岸地域
の工業集積地に地域連携BCPを展開していくためには、地域連携BCPの策定
に係る普及啓発とともに、将来的には、自治体や地域の産業支援機関に地域連携
BCPの策定を支援する機能を新たに位置づけていくことが重要である。
こうした点を踏まえ、本調査では、上述の3地域のモデル事業の成熟度を高め、
また他地域への普及を図るべく、地域連携BCPの普及展開を実施するとともに、
自治体や産業支援機関を念頭に置いた地域連携BCPの策定支援機能の整備に向
けた調査・検討を行い、伊勢湾を中心とした沿岸地域全体に地域連携BCPが展
開するための戦略の策定を行った。
※1:企業が単独ではできない取組、工業団地、コンビナートの特定の地域単位等で連携
することにより効率的かつ効果的となる取組(例えば、共同避難場所の確保や災害
時の情報拠点の整備)について、一企業の枠を超えて連携することにより、個別企
業のBCPを強化し補完する役割を担うもの。
2 事業の概要
(1)アンケート調査
①自治体、産業支援機関アンケート調査
工業集積地を抱える自治体(調査対象 33 自治体)の企業誘致担当部署及び防
災・危機管理部署、ならびに産業支援機関(商工会議所・商工会 20 団体)に対
し、工業集積地内組織(自治会、防災組織等)及び立地企業への支援実績、企
業防災に係る取組状況、地域連携BCP策定に対応した支援機能の有無等のア
ンケート調査を実施・分析した。
②工業集積地アンケート調査(工業集積地と碧南市臨海部企業の2種)
1
東海3県の沿岸地域の工業団地、コンビナート等の工業集積地のうち、立地
企業を構成員とする地元組織が存在し、その事務局を企業が担っている工業集
積地(調査対象 27 団体※2)に対し、地域連携BCP策定の前提となる立地企業
間の防災組織等の組織化の状況、防災訓練等の地域防災に係る取組状況、地域
連携BCP策定に向けた課題等のアンケート調査を実施・分析した。
※2:市町村が事務局を担っている場合は、前述の自治体アンケート調査と対象(回答者)
が重複するので、工業集積地アンケートの対象からは除いた。
また、碧南市では、地域連携BCPと同趣旨のエリアBCPの展開を図るた
めの施策検討を進めている。そこで、工業集積地の地元組織を対象とするアン
ケートでは把握できない点を補完する意味から、個社BCPの作成状況、企業
間共助による地域防災に係る取組状況や期待、地域連携BCPの策定に向けた
課題・可能性を探ることを目的として、碧南市の臨海部に立地する企業(132 社・
事業所)を対象に、アンケート調査を実施・分析した。
(2)ヒアリング調査
上述のアンケート調査の結果を踏まえ、地域連携BCP策定に関心を有する者、
地域防災・企業防災に係る先進的な取組を展開する者に対し、地域連携BCP策定
に対応した支援機能として自治体・産業支援機関に何ができるのか、取組を通じた
課題等のヒアリング調査を行った。
自治体
5自治体
産業支援機関
2団体
企業団体
2団体
(3)地域連携BCP普及セミナー
豊橋地域、四日市地域、尾鷲地域、以上の3地域で構築が進展する地域連携B
CPの成熟度を高め、また周辺地域への普及を図るべくセミナーを開催した。
なお、開催地は上述の3地域周辺地区とし、各地区で1回開催した。
各地区での開催にあたっては、当該地区のモデル地域における地域連携BCP
構築の深化に向けた現状報告を行うとともに、参加者に対するアンケートを実施
した。
①豊橋地域周辺地区
・開催日
平成 27 年 2 月 23 日(月)14:00~16:30
・テーマ
工業集積地における事業継続力強化に向けて
・プログラム
《地域連携BCPの地域での取組報告》
「地域連携BCPについて」
(一社)地域問題研究所
「明海工業団地における地域連携BCPの取組」
明海地区防災連絡協議会 会長
古海 盛昭 氏
((株)デンソー豊橋製作所 所長)
2
「田原臨海企業懇話会の取組」
田原市政策推進部企業立地推進室 室長
大羽 浩和 氏
《事例報告》
「多様な企業が立地する産業団地での地域連携BCPの進め方
~松江流通センターの組合BCPの取組から~」
セコム山陰株式会社営業企画室 室長
・参加人数
中谷 典正 氏
84 人
・参加者の評価(参加者アンケート結果)
「地域連携BCPの必要性を感じた」が約 90%近くを占め、地域連携BC
Pの必要性を再認識する良い機会となった。また、地域連携BCPの取組に
必要な支援内容としては、
「企業同士の話し合いの場」に約 74%の回答が得ら
れた。企業同士の話し合いの場の必要性を強く求めていることが明らかとな
った。
・参加者の意見(セミナーの感想、自由意見)
「地域連携BCPにも限界があるため、行政の支援は絶対必要」、「リーダー
となる企業の発掘は必要だと思う」、「復旧、復興のための資材、人材確保を
如何に達成するか、ここで連携の力が出ると考える」など、地域連携BCPの
普及に向けた積極的な意見を得ることができた。
・参加者の意見(意見交換で出された主な意見・質問)
企業間共助で取組むテーマとしては、津波・高潮避難対策及び避難訓練、帰
宅困難従業員に対する備え(食料備蓄等)、情報ネットワーク強化などの意見
が寄せられた。また、行政に対しては、協議のコーディネート、リーダーシ
ップを期待する意見、道路、水、電気、ガス、通信などのインフラの早期復
旧対策や情報公開などを期待する意見などが寄せられた。
②四日市地域周辺地区
・開催日
平成 26 年 12 月 2 日(火)13:30~16:30
・テーマ
石油コンビナートにおける事業継続力強化に向けて
・プログラム
《地域のBCPの取組報告》
「地域連携BCP及び霞コンビナートにおける地域連携BCPの取組」
(一社)地域問題研究所
《講演》
「石油コンビナートの防災体体制の課題」
講
師:東京理科大学大学院国際火災科学研究科
小林
恭一
氏
《事例報告》
「市原市の石油コンビナートの被害と復旧まで」
コスモ石油株式会社千葉製油所安全環境課長
3
木下 圭二 氏
・参加人数
69 人
・参加者の評価(参加者アンケート結果)
「自社BCPの策定又は運用の見直しが必要」と感じた人が約 65%、
「地域
連携BCPの必要性を感じた」が約 70%あり、自社BCP及び地域連携BC
Pの重要性の理解の促進に寄与した。
・参加者の意見(意見交換で出されたコンビナートで重点的に取組むべきこと)
コンビナートとしてまず重点的に取組むべきこととしては、津波情報や被
害情報等の共有、ふ頭地区との情報共有など情報共有に関する取組、緊急時
の主要経路の確保、車両燃料、飲料水の確保等の発災後のユーティリティの
確保に関する取組などが意見として提示されている。
また、被害の少ない企業が応援する協定締結、復旧資材の相互融通など復
旧に関する取組、避難ルート、避難場所の融通など避難に関する取組が意見
として寄せられた。
③尾鷲地域周辺地区
・開催日
平成 26 年 11 月 18 日(火)14:00~16:00
・テーマ
巨大地震に備えた企業防災
・プログラム
《地域のBCPの取組報告》
「個社のBCPと企業間連携について」
(一社)地域問題研究所
「尾鷲地域の中小企業によるBCP/BCMの取組」
㈱百五経済研究所、尾鷲商工会議所
《事例報告》
「東日本大震災からの早期事業復旧を実現」
株式会社オイルプラントナトリ常務取締役
・参加人数
星野
豊 氏
39 人
・参加者の評価(参加者アンケート結果)
「自社BCPの策定が必要と感じた」又は「自社BCPの運用の見直しが必
要と感じた」という回答が合わせて約 70%あり、自社BCPの重要性の理解
の促進に寄与した。
(4)シンポジウム
本調査での検討結果を公表するとともに、本検討結果ならびに上述の3地域の
取組事例等から抽出した地域連携BCPの策定ポイントの紹介と、自治体・産業
支援機関に対してBCP策定支援機能を持つことに対する意識醸成を図ることを
目的としたシンポジウムを開催した。
なお、このシンポジウムは中部地域産業防災フォーラム(中部経済産業局と一
般社団法人中部経済連合会が共同で事務局を務める)との共催で実施した。
・開催日
平成 27 年 3 月 23 日(月)13:30~16:30
4
・テーマ
地域の産業競争力を高める地域連携BCP
・プログラム
《調査報告》
「地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた調査の報告」
(一社)地域問題研究所
《事例報告》
「災害時に京都の活力の維持・向上をめざす京都BCP
~雇用と経済活動の復興を目的とした新たな防災の取組~」
京都府府民生活部 理事(防災・原子力安全課長事務取扱)前川 二郎 氏
《パネルディスカッション》
(パネラー)
京都府府民生活部 理事(防災・原子力安全課長事務取扱)前川 二郎 氏
明海地区防災連絡協議会会長/株式会社デンソー豊橋製作所所長
古海 盛昭 氏
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授
碧南市経済環境部商工課長
野田 健太郎 氏
永坂 智徳 氏
中部経済産業局地域経済部地域振興課長
壁谷 勢津子
(コーディネーター)
名古屋工業大学大学院社会工学専攻教授
・参加人数
渡辺 研司 氏
125 人
・参加者の評価(参加者アンケート結果)
シンポジウムの評価では、
「とても良かった」と「良かった」を合わせると
事例報告が約 90%、パネルディスカッション約 80%と高い評価が得られた。
地域連携BCPについては、96%が「必要性を感じた」と回答しており、地
域連携BCPへの理解を促すことができた。
また、地域連携BCPの取組むための必要な支援としては、
「企業同士の話
し合いの場」と「話し合いの進行やとりまとめのためのコーディネーターの
派遣」の回答が多く、話し合いの場の設定と話し合いの進行をサポートする
コーディネーターが求められている。
さらに「検討するための参考となる情報が欲しい」が 50%以上を占め、今
後継続的な情報提供が求められる。
(5)研究会
本調査業務を実施するにあたり、地域連携BCPに係る有識者を構成メンバー
とする研究会を組成し、調査項目の調整、調査・分析結果の検証等の進捗報告、
地域連携BCP策定に係る支援体制の構築に向けた課題整理と、次年度以降に地
域連携BCPが他地域に展開するための戦略の検討を行った。
研究会は下記の通り3回開催した。なお、研究会の構成メンバーは表-1 のとお
5
りである。
・第1回 研究会
平成 26 年 9 月 22 日(月)15:00~17:00
中部経済産業局2階
大会議室
・第2回 研究会
平成 27 年 1 月 27 日(火)10:00~12:00
中部経済産業局2階
大会議室
・第3回 研究会
平成 27 年 3 月 23 日(月)10:00~12:00
名古屋栄ビルディング 12 階
表-1
中会議室
研究会委員名簿
平成 26 年度地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた調査研究会
(敬称略)
委
学識経験者
企業
支援機関
自治体
【座長】
渡辺 研司
古海 盛昭
坂井 貴雄
安藤 一男
石川
央
金子 鴻一
平林
滋
大羽 浩和
永坂 智徳
服部
豊
国土交通省
岐阜県
愛知県
愛知県
三重県
名古屋市
経済界
菊池 五輪彦
田口 博史
金田
学
日高 啓視
小林 哲也
大野 壽久
西井 憲治
経済産業省
壁谷 勢津子
田中 陽一
中島 佑輔
上河原 直人
杉戸 厚吉
押谷 茂敏
調査受託者
員
名古屋工業大学 大学院工学研究科社会工学専攻 教授
明海地区防災連絡協議会 会長
(株式会社デンソー 豊橋製作所 所長)
東ソー株式会社 四日市事業所 総務課長
一般社団法人 BC経営推進機構 理事
碧南商工会議所 専務理事
公益社団法人東三河地域研究センター 常務理事
株式会社百五経済研究所 経営コンサルティング部 部長
田原市 政策推進部 企業立地推進室 室長
碧南市 経済環境部 商工課 課長
四日市市 商工農水部 工業振興課 課長
オブザーバー
中部地方整備局企画部専門官
岐阜県商工労働部商工政策課課長補佐
愛知県産業労働部産業労働政策課 主幹
愛知県産業労働部中小企業金融課 主幹
三重県雇用経済部人権・危機管理監
名古屋市中小企業振興センター 主幹
一般社団法人中部経済連合会 社会基盤部係長
事務局
中部経済産業局地域経済部 地域振興課 課長
中部経済産業局地域経済部 地域振興課 課長補佐
中部経済産業局地域経済部 地域振興課 総括係長
中部経済産業局地域経済部 地域振興課
一般社団法人地域問題研究所調査研究部 部長
一般社団法人地域問題研究所調査研究部 主任研究員
6
第1章
中部地域における地域連携BCP
製造業の集積が大きい中部地域においては、地域全体の産業競争力の強化を図る
上で、一企業の枠を超え地域・業界等のグループ単位での事業継続力の強化を図る
“地域連携BCP”は非常に重要なツールである。
ここでは、平成 23 年度以降に取組んできた地域連携BCPの普及に向けた活動
を簡単に振り返りつつ、本事業が対象とする「地域連携」の範囲を整理する。
1-1
地域連携BCPの普及に向けたこれまでの取組
(1)平成23年度
①東海地域の新たな産業防災・減災を考える研究会
企業単位の事業継続計画の策定が大企業を中心に進みつつある中、東日本大
震災の経験をみるに個別企業策定のBCPだけでは不十分であること、また、
当地域は南海トラフ地震の発生リスクに対する懸念も高いことから、これまで
とは一段高いレベルでの事業継続計画の確立が急務となっているとの認識に立
ち、産業防災・減災という共通の目的のもと、一企業の枠を超え、グループ単位
で事業継続力強化を図る“地域連携BCP”の普及をめざすこととした。
その課題と対応策を検討するため、平成 23 年8月に「東海地域の新たな産業
防災・減災を考える研究会」を設置し、企業の事業継続や早期復旧・復興を可能
とする地域連携BCPのあり方について議論した。
②地域連携BCP策定ポイント集(工業団地編)の公表(平成 24 年2月)
同研究会報告書の別冊資料として、
「地域連携BCP策定ポイント集(工業団
地編)」を作成し公表した(平成 24 年2月)。
(2)平成24年度
①中部地域産業防災フォーラムの設立(平成 24 年4月)
産業防災・減災という共通の目的を持った企業を始め、自治体、大学、支援機
関等の連携を促進するための情報交換、ネットワークの場として、また、産学
官関係者の交流と協働などにより産業防災・減災に対する中部地域の多様な活
動を支援するとともに、当地域の産業防災・減災の今後のあり方などを検討する
場として、平成 24 年4月に“中部地域産業防災フォーラム”を設立した。
また、その設立にあわせて、地域全体での「共助」による産業防災・減災力強
化の重要性について意識醸成を図るためのシンポジウムを開催した。
なお、平成 24 年度においては、中部地域産業防災フォーラムが、産業防災研
究会及び人材養成セミナーに取組んでいる。地域連携BCPに深く関わる事業
であるので、ここで紹介しておく。
7
②産業防災研究会
学識経験者、大学、行政、企業からなる産業防災研究会を設置。災害時にお
ける企業活動の継続、早期復旧・復興を可能とする地域連携BCPの実効性を高
めるため、産業防災モデル実証事業により得た知見を活用することにより、課
題解決方策の取りまとめ、ならびに地域連携BCPの方法論とその有効性につ
いて検証している。
なお、産業防災モデル実証事業として、豊橋市の明海地区工業団地において
緊急避難訓練(平成 24 年 12 月)を実施している。
③人材養成セミナー
地域連携(共助)の事例研究や図上訓練等を通じて、地域連携BCPを積極
的に展開・推進できる産業防災リーダーの養成を目指した人材養成セミナーを
名古屋会場、三重会場にて、それぞれ4回開催している。
(3)平成25年度
①事業競争力強化モデル事業
経済産業省では、個別組織単位での取組では限界があることから、グループ
単位で協力・連携して課題解決にあたるとの考え方の下、グループ単位による事
業競争力強化モデル事業を実施した。
この事業に、中部地域からは、豊橋市明海工業団地、四日市市霞コンビナー
ト、尾鷲市・地域企業群が地域連携BCPのモデル地域として選定され、それぞ
れの地域特性に応じた地域連携BCPの普及を図った。
地域として想定される被害状況の抽出と被害イメージを地域企業間で共有し、
事業継続に向けた問題点を洗い出し、地域連携での対応課題の検討を実施した。
また、他地域への普及に向けて、モデル要素の抽出と普及啓発の方策を整理
している。
3地域の取組については、次節1-2にて紹介する。
1-2
モデル地域の取組概要
事業競争力強化モデル事業として、平成 25 年度に3地域で取組んだ活動の概要
を紹介する。
(1)明海工業団地における取組(愛知県豊橋市)
①地域概要
・東西南北約3km の臨海埋め立て地に 100 社を超す有力企業・事業所が立地
しており、ものづくりから多様な物流までを含む一大産業拠点を形成してい
る。
・三河湾は自動車取り扱い港湾としては世界の五指に入り、完成車輸出第二位、
輸入では第一位の港湾である。
8
・中核となる明海工業団地は、自動車部品製造業が立地し、自動車メーカーと
重要なサプライチェーンを形成している。
・工業出荷額は 5.4 億円。豊橋市の工業出荷額の 47%と地域経済に対する明
海地区の貢献度は非常に大きい。
②事業内容
・立地企業のうち新たに 11 事業所の個社BCPを策定(明海地区BCPの協
議結果をフィードバック)
・明海地区BCPの深化に向けた各種取組
→団地内就業者の安全確保を目的とした、工業団地全体での津波緊急避難
訓練の実施、協働救急救命計画の検討を行った。
→通行障害の応急復旧による取引先への輸送路確保等、事業所の操業停止
期間の短縮を目的とした、MCA無線を利用した行政・企業間の情報伝
達訓練を実施した。また、地区内幹線道路等の液状化可能性調査を実施
した。
③取組効果
・経営上の利害関係が希薄な企業集団であるがゆえの課題の整理
→日常的には立地企業間の関係が希薄な工業団地において、企業相互の連
携活動にあっては、団地機能の早期復旧による立地企業共通のメリット
を具体化すること、自治会等が中心となって取組のリーダーシップを発
揮する必要性があることが実証された。
・多業種混合型の工業団地におけるBCM構築モデル
→多業種の企業が混在する工業団地において団地内の自治会が中心とな
り、立地企業による災害時の初動対応における連携体制を構築した。
→避難受入に関する企業間協定の作成に取りかかるなど、個社の事業継続
の取組では対応が困難な、災害時における団地内企業の従業員 2,000 人
規模の避難受入体制が実現した。また、団地内外の被災情報等の共有化
や施設、資機材、人材などの経営資源を相互に融通し合う仕組みの実現
に向けた検討を開始した。
・外部への訴求ポイント
→防災減災の先進的な取組を実施する地域として、立地競争力、ブランド
力の向上となった。
(2)霞コンビナートにおける取組(三重県四日市市)
①地域概要
・国際拠点港湾指定の四日市港石油化学コンビナートの1つである霞コンビナ
ートは、東ソー(株)四日市事業所を中心とする化学製品メーカーの集積から
なり、輸送機械産業から日用品に至るまで材料供給としてのサプライチェー
ンを形成している。
9
・四日市コンビナートでは、企業と行政が一体となって、公害の予防、環境保
全、防災対策などに取組んできており、企業の事業競争力強化に向けては、
「四日市市臨海部工業地帯競争力強化検討会※3」が組織されてきた。
※3:同検討会は平成 25 年度をもって終了している。
・霞コンビナートは、内陸とは霞大橋のみで結ばれており、エチレン、プロピ
レン等原料のほか、電力・窒素・酸素等の供給を霞地区内の企業が相互に依存
しており、供給企業の事業継続が地区内共通の課題となっている。
②事業内容
・企業の事業継続マネジメント促進
→四日市コンビナート全体を対象とした事業継続マネジメント基礎講座、
BCP策定に向けた事前コンサルティングを実施した。
→事前コンサルティングを受けた企業の中から、希望する企業(事業所)
について、BCP策定支援を行った。
・企業連携のあり方の検討
→ヒアリングにより、コンビナート内企業全 13 社の実態調査(個別企業
の被害想定、BCP策定状況の把握)を行った。
→コンビナート企業における取組の意識醸成のため、テーマ別研修をグル
ープワークで実施した。
[テーマ別研修1]:地域連携による従業員の安全確保
[テーマ別研修2]:事業再開に向けたコンビナートのボトルネック
・コンビナート企業・有識者・地元行政担当者(港湾・道路・工業用水など)が参
画した研究会を開催した(計3回)。
・四日市コンビナート全体を対象とした成果報告会を実施した。
③取組効果
・原料やライフラインを相互に依存する関係にあるがゆえの課題の整理
→石油コンビナート等災害防止法などにより、地域防災の取組には過去か
らの蓄積があるものの、コンビナートの復旧・稼働には原料等の融通に
係る企業間での調整のほか、行政機関との調整、法的規制の遵守などが
必要となるため、コンビナートの安全対策が最優先となり、事業再開の
観点が欠けていた(個社BCPの策定は遅れていた)。
→地域連携BCPという概念のもと研究会等での議論を重ねることで情
報の収集・共有体制が強化され、平時の防災体制の見直しと有事の際の
迅速な対応を可能にし、被災レベルの低減と早期復旧を見通す機会とな
った。
・石油化学コンビナートにおけるBCM構築モデル
→石油化学コンビナートにおける有事の際の安全・確実な停止に必要な窒
素の量の把握と備蓄、早期復旧に向けた点検要員の融通、事業再開目標
時期の調整、これらを可能にするための災害対策本部機能の確立等の検
10
討を進めた。
・外部への訴求ポイント
→地域一体となって事業継続に取組むことで行政機関の参画を得ること
につながった。復旧時期を早い段階で調整、公表ができる体制が構築で
き、取引先の確保と事業競争力の強化に寄与した。
(3)尾鷲地域企業群における取組(三重県尾鷲市)
①地域概要
・尾鷲市は、平坦地が極めて少なく、海岸線は典型的なリアス式海岸のため、
南海トラフ地震が発生した場合、震度6強以上の揺れや 20 メートル以上の
巨大津波が短時間で押し寄せることが予想されている。
・台風・豪雨などの災害リスクも高く、経済や人口の維持が厳しい環境にある
地域である。
・これまでに尾鷲市では、防災情報発信システムの整備や住民主導型避難体制
の推進など、積極的に防災の取組を行ってきたところである。
・地域の防災力・復興力の向上のためには、地域経済と雇用を支える地元企業
の事業継続が不可欠となっている。
②事業内容
・リーダー組織の尾鷲商工会議所と有志中小企業4社※4による個社BCPの
策定に取組んだ。
※4:スーパーマーケット、石油販売、水産加工業、水門等金属加工業といった地
域の主要産業で構成。
・沿岸に立地する地域特有の課題点の洗い出しと具体的な対策を検討した。
→避難ビルの確保など、企業個社では対応が困難な行政アプローチを商工会
議所を窓口として検討した。
・尾鷲市が防災研究者と開発した「動く津波ハザードマップ」を用いた被害イ
メージの共有、机上訓練を実施した。
・尾鷲商工会議所会員企業や市民向けの取組報告会を実施した。
③取組効果
・地方都市における、商工会議所と地場に根ざした中小企業群によるBCM構
築モデル
→大規模地震及び津波発生時に壊滅的な被害が想定される中、具体的な避
難方法や防災対策を共有するとともに、地域連携により、物流確保や必
要な資源の供給などについての早期再開に向けた検討を開始した。
・地域連携BCP導入による個社BCPへのフィードバック例
→ガソリンスタンドにおいて、プロパンガス・ガソリン併用の発電機を導
入した。被災時における緊急車両への確実な供給が行えるようになり、
日常的な安定供給にもつながった。
11
→事業継続における「水」の重要性を再認識し、新たに井戸水を活用する
こととした。水道料金の削減にも役立った。
→サーバーのミラーリングに加えて、バックアップHDの厳重保管化など
情報システムのバックアップ態勢を強化した。
・外部への訴求ポイント
→地域の商工会議所・主要企業がBCPに取組むことにより、災害対応が
進んでいる地域・企業として取引先からの評価を高め、事業継続力の強
化に寄与した。
1-3
本調査の検討対象とする地域連携
これまでの調査・研究を通じて整理してきた地域連携による推進の意義ならび
に地域連携BCPの役割を紹介し、その上で、本調査が検討対象とする「地域連携」
について整理する。
(1)地域連携による推進の意義
『東海地域の新たな産業防災・減災対策について』
(東海地域の新たな産業防災・
減災を考える研究会報告書(平成 24 年2月)
)では、地域連携による推進の意義
を次のように整理している。
大地震等の広域災害においては、自助すなわち個社の取組に加えて、地域内や
地域間での共助による地域連携BCPが、事業継続にあたって効率的であり、か
つ個社の負担軽減の観点からも、産業防災・減災には極めて有効である。
また、震災リスクなどの回避のための海外進出による産業空洞化の懸念も生じ
ており、地域としての防災・減災力が企業立地の際の判断基準の1つとして重要性
を増している状況である。特に、東海地域は、我が国経済をものづくりで牽引し
てきた日本最大の工業地帯であることから、早急な対応が必要であり、全国他地
域のモデル地域となるような産学官による先進的な取組が有益である。
(2)地域連携BCPの役割
①個社のBCPが基本
個社の立場から、改めてBCP(事業継続計画)の役割を整理すると、
(1) いかにして事業を中断させないか、言い換えれば被害が発生した直後の操
業度の低下をいかにして最小限に食い止めるか.
(2) いかにして早期に復旧させるか、復旧期間を短縮するか.
この 2 点に集約される。
(1)については平時における事前の防災対策が重要であり、(2)については不測
の事態が発生しても、事業を可及的速やかに復旧・再開する体制・しくみ・ルール等
の戦略(BCS)が重要となる。
特に、(2)については、「復旧のスピード」が収益の回復ひいては企業の存続を左
12
右するものとなるだけに、重視されることとなる。
②地域連携BCPの役割
地域連携BCPとは、連携する各企業の協力により成立する。したがって、個
社のBCP(または個社の参加意思)がまずは基本となる。その上で、個社のB
CPすなわち一企業・事業所が単独ではできない取組(または単独では困難な取
組)、あるいは地域で連携することにより効率的かつ効果的な取組を、地域連携(共
助)によって補い合うことにより、個社のBCPを補完し事業継続力を高める役
割を担うものである。
また、個社BCPがPDCAによる継続的改善を進めた場合、個社BCPのレ
ベルを向上させようとすれば、そのレベルアップ、スピードアップのために地域
連携BCPを有効活用するようなケースも今後は生まれてくる可能性が高いと考
えられる。
図1-1-1
地域連携BCPの役割(例示)
A 社 BCP
D 社 BCP
工業団地の企業
が連携し、緊急時
災害対策本部を
組織し、災害情報
を入手しやすく
する.
業界団体の全国
組織を通じて、復
旧要員を確保し、
復旧作業の迅速
化を図る.
地域間連携
地域内連携
地域連携 BCP
地域連携(共助)を行うことにより、
個社の BCP を強化し補完する.ス
ピードアップを図る.
B 社 BCP
C 社 BCP
各社が重機を出
して、共同で復旧
作業にあたり、団
地内共通道路の
復旧を早める.
非被災地の提携
会社に代替生産
を委託し、取引先
への製品納入の
中断をなくす.
○一企業が単独ではできない取組(または困難な取組)、あるいは地域で連携することにより効
率的かつ効果的な取組について、地域連携BCPを策定し対応する.地域連携BCPとは、個
別企業のBCPを強化する役割を担う。
○個社BCPのレベルアップ、スピードアップのために、地域連携BCPを有効活用するような
ケースも今後は生まれてくる。
○未だ自社のBCPが策定できていない企業であっても、地域連携BCPに参加・関与すること
が個社BCPの一部になり、自社BCP策定につながることも考えられる。
出典:
『地域連携BCPによる“災害に強いものづくり中部”をめざして~産業防災ネットワーク
事業 報告書(平成 25 年 3 月)』一般社団法人地域問題研究所
13
(3)連携のパターンと本調査の検討対象とする地域連携
企業グループ内の連携には、工業集積地などの同じ地域に立地する企業同士
のグループと、サプライチェーンの企業や同じ系列の企業同士のグループなど
の地域に関係ない企業グループがある。また、グループではなくても、個々の
企業同士で工場や生産設備の活用や委託生産等により事業継続に取組むパター
ンが想定される。
本調査では、主として同じ地域に立地する企業同士のグループならびにその
地域の行政等を対象とした地域内連携の推進方策を検討対象とする。
図1-1-2
連携のパターンと本調査の検討対象とする連携
①個社の BCP
本調査の検討対象
《地域内連携》
③行政等の連携
②工業集積地内企業グループ
の連携
:災害情報、避難、消防、
インフラ等の面で行政と
連携して取組むBCP
:電気、水道、ガス、通信
等のインフラ関連機関と
連携して取組むBCP
:工業団地やコンビナート等
の単位で取組む BCP
《地域外連携》
⑤同業他社と組んだグループ
内の連携
④取引企業グループ内の連携
:他社の工場、設備を活用し
て事業を継続
:サプライチェーン内の企業、
系列企業間で取組むBCP
:生産を他社に委託して事業
を継続
14
第2章
地域連携BCPに関わる調査結果のポイント
本章では、アンケート調査ならびにヒアリング調査の結果をもとに、当地域の工
業集積地における地域連携BCPの取組実態と今後の可能性、さらには地域連携B
CPを普及していくにあたっての主体の役割について、明らかとなった諸点を整理
する。
2-1
危機管理への事前対策とリスク評価
1.個社BCP・地域連携BCPに関する実態
(1)個社BCPの策定率は低い
個社BCPの策定状況については、商工会議所等アンケートによれば、「10%以
下」ないし「10~20%程度」といったあたりが現状の策定率と見込まれる。また、碧
南市臨海部企業アンケートによると「BCP策定済」は 18.2%にとどまっている。企
業・事業所での個社BCPの策定率は 10%ないしは 20%台あたりと推察され、まだ
まだ策定する企業が少ない状況がうかがえる。
大手企業、自動車関連企業にあっては策定済みの企業が多くなっているが、中小
企業にあっては、
「今のところ策定する予定はない」とする企業・事業所も多いのが
実態である。
その理由としては、費用面での負担もさることながら、BCP作成のための人員
を割くことができないといった理由が大きい。また、「事業継続計画(BCP)と
は何かを知らない」ところも少なからず存在している。個社BCPの作成をさらに
促進していく必要性がある。
また、同じ工業集積地の中でも、関心の高い企業・事業所とそうでない企業・事業
所との格差が、地域連携によるBCPを推進していく上での懸念として指摘されて
いる。
《要点》
【商工会議所等アンケート結果】
・会員企業のBCPの策定率は、
「10%以下」が 35.7%、
「10~20%」が 28.6%で、
「20%以上」は 7.1%にとどまる。
【工業集積地アンケート結果】
・自由意見で、
「企業だけの集まりでは温度差がある」、
「関心の低い企業に興味を
持ってもらうためには、どうしたら良いか教えていただきたい」との意見がみ
られる。
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・
「BCP策定済」は 18.2%、
「現在作成中」は 6.5%と合わせても 24.7%にとど
15
まる。
・「BCPとは何か知らない(わからない)」も 9.1%を占めた。
【商工会議所等ヒアリング結果】
・大手企業や自動車関連企業は策定している企業が多いが、多くを占める中小企
業はBCPまたは防災に関する計画・マニュアルを策定しておらず、また検討の
予定もない企業が多い。
【工業集積地ヒアリング結果】
・工業集積地において参加企業にアンケートを実施したが、BCPを策定してい
たのは半分もない。必要ないというところも多い。
・ある中小企業がBCP策定に取組んだが途中で挫折した。コンサルタントに依
頼したが、社長が相当の時間をとらなくてはいけなかった。中小企業では人が
いないので、社長が担当しないと進まない。しかし、社長の時間がとられすぎ
たので途中で挫折せざるを得なかった。
・企業の中には、BCPという言葉も理解していないところもある。
(2)工業集積地において企業間で話し合う場は少ない
石油化学コンビナートのように原材料やエネルギーなどを相互に供給し合うよ
うなケースを除けば、一般的に工業集積地に立地する企業同士の横のつながりは非
常に希薄であり、企業・事業所間で地域課題などを話し合う場をもつ工業集積地は
現状ではきわめて稀である。
企業訪問を行った自治体関係者や地元協議組織を最近になって立ち上げた民間
企業からのヒアリングなどから、「お隣の工場長の顔も知らない関係」は決して珍
しい状況ではないことがうかがえる。
その一方で、工業集積地アンケートによると、共同して地域防災に取組むことの
期待としては、
「企業間のコミュニケーションの強化(いざというときの力になる)」
に8割近い企業が回答したことから、企業間での話し合いの場の必要性は強く感じ
ていることもわかる。
《要点》
【工業集積地アンケート調査】
・工業集積地アンケート調査の対象として、約 80 近くの工業集積地をリストアッ
プしたが、立地企業による地元組織が確認できたところは 30 程度しかなかった。
・工業集積地アンケートの対象者の中で、
「自治組織」又は「防災組織」が無い所
も約1/3あり、組織があっても共通の課題について定期的に協議する組織と
なっていないところもみられる。
・一方、共同して地域防災に取組むことの期待としては、
「企業間のコミュニケー
ションの強化(いざというときの力になる)」に8割近い企業が回答している。
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
16
・現状で、企業間の横のつながりはまったくといってない。企業訪問して分かっ
たことであるが、横のつながりは希薄である。
【工業集積地ヒアリング結果】
・地元協議組織ができるまでは疎遠であった。となりの工場長ですら知らないと
いう関係でしかなかった。話をする場もなかった。近隣臨海部の他地区をみて、
当地区でもと動き始めたが、まずは連絡網ができただけでも満足している。そ
れまでは、何かあったときどうするのだろうという状況であった。
(3)工業集積地の防災対策を位置づけている自治体は少ない
自治体が立地企業を対象として何らかの防災対策を行っている自治体は半数に
とどまっている。また、市町村の地域防災計画における工業集積地の防災対策の位
置づけについて、「無回答」が半数以上を占めていることから、ここでも計画への明
確な位置づけがあるのは半数くらいと予想される。
比較的規模の大きな工業団地は工業専用地域などの用途指定となっているとこ
ろが多く、地域住民が居住していない。そのため、市町村が策定する地域防災計画
の対象として扱われることはなかった。周辺の住民に危害を及ぼす恐れのある「危
険物防災対策」などでは計画に記載があるものの、それ以外では企業・事業所の防
災対策は企業・事業所の自助努力を基本としてきたという経緯がある。
東日本大震災などを経験して、自治体にあっても、企業の防災対策について位置
づけている自治体が徐々に増えてきているものと思われる。
自治体アンケートから、工業集積地の防災対策を地域防災計画に位置づけている
事項としては、情報収集・伝達対策、危険物防災対策、避難対策、帰宅困難者対策、
津波予防対策などに言及しているところがみられる。
《要点》
【自治体アンケート結果(防災部局)】
・自治体が立地企業を対象として行う防災対策が「ある」と回答したのは約半数
の自治体にとどまる。
・自治体の地域防災計画の中で、工業集積地の予防・応急復旧対策の記載の内容に
ついての質問に対して、無回答が 51.7%と半数以上となっている。
・記載のある項目は、「情報収集・伝達対策」と「危険物防災対策」が6自治体、
「避難対策」、「帰宅困難者対策」、「津波予防対策」が4自治体である。
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
・防災部局に堤外地を対象にせよとすぐに言ってもそれは難しい。地域連携BC
Pの取組が、そうした壁を取り払っていくきっかけになっていけば良い。
・市町村の地域防災計画の災害予防編の中に「企業防災の推進」という項目があ
り、その中で、従業員の生命の安全、二次災害の防止、雇用の確保に向けたこ
となどについて、計画に位置づけていくことは可能である。
17
(4)BCPをテーマに工業集積地と協議している自治体・商工会議所
等は少ない
自治体が工業集積地の地元組織との間で意見交換なり情報交換なりができる機
会がある自治体が半数を占める中で、「事業継続(BCP)」をテーマに協議をした
ことがある自治体はわずかに5自治体にとどまっている。BCPをテーマに工業集
積地と地元自治体が協議しているところはまだまだ少数でしかない。
商工会議所等アンケートでも、工業集積地の会員企業との間で「事業継続(BC
P)」をテーマに協議したことがあるところは半数以下にとどまっている。
《要点》
【自治体アンケート結果(産業振興部局)】
・工業集積地の地元組織とBCPをテーマに協議したことがあるのはわずかに5
自治体であった。
【商工会議所等アンケート結果】
・工業集積地の会員企業との間で、BCPをテーマに協議したことがあるのは6
団体にとどまる。半数に満たない状況である。
2.工業集積地におけるリスク評価
(1)工業集積地では、救急救命、水・食料、ライフライン復旧能力の不
足、消防能力を大きなリスクとみている
大規模災害の発生に伴い工業集積地で発生が予想される問題について、工業集積
地では、「救急・救命能力の不足」、「帰宅困難者の水・食料不足」、「ライフラインの
復旧能力」、「消火活動能力の不足」などをあげているが、「避難場所の不足」、「帰宅
困難者の帰宅に関する情報提供手段の欠如」などにも半数近くが回答しており、選
択肢に掲げた7項目についてはリスク対象として考えている。
この中で最も危惧されるリスクとしては、工業集積地では「工場火災・爆発発生
時の消火活動能力の不足」が最も多く、自治体ならび商工会議所等では、「大量の
従業員を一時避難させる場所がない」が上位となっており、立場によりリスク評価
の視点にやや違いもみえる。
《要点》
【自治体アンケート結果(防災部局)】
・「帰宅困難者が発生した時の水・食料等の不足」が 79.3%、「仮泊地(避難場所
の不足)」と「公的な救急・救命能力の不足」が 69.0%、
「工場火災・爆発発生時
の消火活動能力の不足」が 65.5%、「大量の従業員を一時避難させる場所がな
い」と「ライフラインの早期復旧に向けた能力不足」がともに 58.6%で、以上
はすべて 50%を超えている。
18
・最も危惧されるリスクは、
「大量の従業員を一時避難させる場所がない」と「仮
泊地(避難場所の不足)」の 20.7%。
【商工会議所等アンケート結果】
・
「大量の従業員を一時避難させる場所がない」が 78.6%、次いで、
「帰宅困難者
が発生した時の水・食料等の不足」、「仮泊地(避難場所の不足)」、「工場火災・
爆発発生時の消火活動能力の不足」、
「帰宅困難者に対する帰宅手段・帰宅ルート
等に関する情報提供手段の欠如」、「道路などライフラインの早期復旧に向けた
能力不足」の5項目がいずれも 64.3%となった。自治体アンケートと同様いず
れも6~7割を占める高い割合である。
・最も危惧されるリスクは、
「大量の従業員を一時避難させる場所がない」と「公
的な救急・救命能力の不足」の 21.4%。
【工業集積地アンケート結果】
・
「公的な救急・救命能力の不足」が 69.6%、
「帰宅困難者が発生した時の水・食料
等の不足」が 65.2%、「道路などライフラインの早期復旧に向けた能力不足」
が 60.9%、「工場火災・爆発発生時の消火活動能力の不足」が 56.5%、
「仮泊地
(避難場所の不足)」と「帰宅困難者の帰宅手段、帰宅ルートに関する情報提供
手段の欠如」とが 47.8%。
・最も危惧されるリスクは、「工場火災・爆発発生時の消火活動能力の不足」の
26.1%。
(2)碧南市臨海部では、敷地の液状化、設備の損壊が大きなリスク
大規模災害の発生に伴い工業集積地で発生が予想されるリスクについて、碧南市
臨海部企業では、「敷地の液状化」と「建物、設備の損壊」がともに7割以上と特
に高い割合を示した。多くの企業・事業所の心配事となっている。
このほかでは、「ライフラインの早期復旧に向けた能力不足」、「物流ルートの早
期復旧に向けた能力不足」、「重要業務の中断(取引先との途絶)」などが半数以上
となっている。
《要点》
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・「敷地の液状化」が 87.0%、「建物、設備の損壊」が 76.6%、「ライフラインの
早期復旧に向けた能力不足」が 61.0%、「物流ルートの早期復旧に向けた能力
不足」が 58.4%。
「重要業務の中断(取引先との途絶)」が 53.2%となっている。
19
2-2
地域連携BCPの可能性と課題
1.地域連携BCPの認知度
(1)“地域連携BCP”の名は知られている
いずれのアンケートでも、「聞いたことはある(詳しく理解できている訳ではな
い)」が多くの割合を占め、工業集積地アンケートでは 60.9%を占めた。
「知っていた」は、自治体 27.6%、商工会議所等 35.7%、工業集積地 30.4%、
碧南市臨海部企業 31.2%で、おおむね3割程度には理解されてきている。
「聞いたことはある」も含めると、自治体 75.9%、商工会議所等 78.6%、工業
集積地 91.3%、碧南市臨海部企業 65.0%となる。
《要点》
【自治体アンケート結果(産業振興部局)】
・
「聞いたことがある(詳しく理解できている訳ではない)
」48.3%、
「知っていた
(紹介チラシの記載内容は理解)」27.6%。
【商工会議所等アンケート結果】
・
「聞いたことがある(詳しく理解できている訳ではない)
」42.9%、
「知っていた
(紹介チラシの記載内容は理解)」35.7%。
【工業集積地アンケート結果】
・
「聞いたことがある(詳しく理解できている訳ではない)
」60.9%、
「知っていた
(紹介チラシの記載内容は理解)」30.4%。
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・
「聞いたことがある(詳しく理解できている訳ではない)
」33.8%、
「知っていた
(紹介チラシの記載内容は理解)」と「知らなかった」が 31.2%。
(2)地域産業施策としての事業継続の重要性を認識
地域産業の事業継続活動に関する支援を「非常に重要であると認識している」の
は、自治体では 44.8%、商工会議所等では 71.4%であった。商工会議所や商工会
が非常に高い割合を示していることと比較すると、自治体の割合はやや低い。しか
し、「必要性を認識し始めた」も含めると 79.3%となる。
なお、自治体ヒアリングでも明らかなように、地域産業の事業継続支援を重要な
施策として認識し取組み始めた自治体も出てきている。今後、こうした認識は浸透
していくと思われる。
また、工業集積地の代表企業へのヒアリングでは、自治体とともに事業継続に取
組んでいるということが、取引企業や親企業に大きなアピールになるとの評価も聞
かれた。企業としても、自治体とともに事業継続活動に取組むことに大きなメリッ
トがあることを認識している。
20
《要点》
【自治体アンケート結果(産業振興部局)】
・地域産業の事業継続に関する支援について、
「非常に重要であると認識している」
44.8%、「必要性を認識し始めた」34.5%。
【商工会議所等アンケート結果】
・地域産業の事業継続に関する支援について、
「非常に重要であると認識している」
71.4%、「必要性を認識し始めた」14.3%。
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
・臨海部の企業が市の税収の大きな部分を生み出している。また、地域の雇用を
創出している。臨海部の企業で県外に転出した企業があったことも事実である。
市として、臨海部の企業に存続してもらうためには、嵩上げは無理なので、そ
れに代わる仕組みを作る必要がある。
【工業集積地ヒアリング結果】
・安全確保、事業継続に向けて、市とともにこのように取組んでいるというアピ
ールができることは企業にとって大きいメリットとなる。得意先や親企業にも
アピールできる。
2.地域連携BCPの可能性
(1)工業集積地では地域連携BCPの必要性を認識
工業集積地を対象としたアンケートによれば、地域連携BCPの普及に力を入れ
ることについて、「できる部分があれば取組むべき」が 47.8%で最も多かった。
これに「すでに取組みはじめている」の 8.7%、
「積極的に取組むべき」の 13.0%
をあわせると 69.5%と約7割を占めており、地域連携BCPの必要性を感じている。
ヒアリング調査を通じて、大企業の中で地域連携BCPに積極的な意向を示して
いるところがあることも明らかとなっている。また、中小企業への意識付けにも地
域連携BCPの取組が寄与しているという意見もみられる。
《要点》
【工業集積地アンケート結果】
・地域連携BCPの普及に力を入れることについて、
「すでに取組みはじめている」
が 8.7%、「積極的に取組むべき」13.0%、「できる部分があれば取組むべき」
47.8%、約7割が必要性を感じている。
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
・臨海部の工業団地に立地している企業のうち、大企業ほど地域連携BCPに積
極的である。
【工業集積地ヒアリング結果】
・協議組織での活動がなかったら、中小企業にとって「BCPとは何?」の段階
21
でとどまっていた可能性がある。企業への意識付けに多少は貢献している。
(2)自治体は半数以上、商工会議所等は2/3が取組むべき
工業集積地では約7割で地域連携BCPの必要性を認識している一方で、自治体
では、「すでに取組をはじめている」、「積極的に取組むべき」、「できる部分があれ
ば取組むべき」、この3者をあわせた割合が 55.1%で、約半数が地域連携BCPに
取組むべきと回答している。
同様に商工会議所等では、64.3%となり、約2/3の商工会議所・商工会が必要
性を感じている。
《要点》
【自治体アンケート結果(産業振興部局)】
・
「すでに取組をはじめている」が 17.2%、
「積極的に取組むべき」が 13.8%、
「で
きる部分があれば取組むべき」が 24.1%で、55.1%の自治体は取組むべきと回
答。
【商工会議所等アンケート結果】
・
「すでに取組をはじめている」が 14.3%、
「積極的に取組むべき」が 14.3%、
「で
きる部分があれば取組むべき」が 35.7%で、64.3%の商工会議所・商工会は取
組むべきと回答。
(3)地域連携BCPの必要性は感じても積極的な企業は多くはない
地域連携BCPの必要性は7割程度と高い割合を示しているが、碧南市臨海部企
業アンケートでみると、「是非参加したい」は 5.2%、「参加したい」は 20.8%で、地
域連携BCPを協議する場への参加に積極的な意向を示す割合はそれほど高くな
い。
「地域連携BCPへの参加は検討するが、活動内容について情報共有してほしい」
が 54.5%を占め、活動内容についての情報共有を求めていきたいとする意向が大き
い。
《要点》
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・「地域連携BCPは行うべきで、是非参加したい」は 5.2%、「地域連携BCP
は行うべきで、参加したい」は 20.8%で、積極的な企業は1/4となっている。
・
「地域連携BCPへの参加は検討するが、活動内容について情報共有してほしい」
が 54.5%と、参加を検討する意向の企業は多い。
22
3.地域連携BCPへの期待
(1)共同することで企業間コミュニケーションの強化を期待している
このほかでは、人材育成、個社事業継続力の強化、対外的交渉力
の強化、事業継続に関する情報共有を期待
工業集積地に立地する企業が共同して地域防災に取組むことによる期待として
は、「企業間のコミュニケーションの強化」に大きな期待がある。いざというとき
の力になると考えている。先に、工業集積地では横の関係が希薄であるという実態
を紹介したが、横の関係を構築することに関しては潜在的に大きな期待があるとい
える。
このほかでは、防災・減災に係る人材育成、個社の事業継続力の強化、対外的交
渉力の強化、企業間での事業継続に関する情報共有などへの期待が大きい。
《要点》
【工業集積地アンケート結果】
・共同で地域防災に取組むことによる期待として、「企業間のコミュニケーション
の強化(いざというときの力になる)」が 78.3%と非常に高い。
・次いで、
「防災・減災に係る人材の育成」が 56.5%、
「個社の防災・事業継続力の
向上」、
「工業集積地の対外的な交渉力の強化」、
「企業間における防災・事業継続
に関する情報共有」がいずれも 47.8%である。
【工業集積地ヒアリング結果】
・協議組織ができたので、工業集積地からの要望に対して行政が動きやすくなっ
た。きちっととらえてもらえる。一企業からの要望に対して行政はなかなか動
くことではできない。
(2)碧南市臨海部企業は、被害想定の共有化と消防救急活動の相互協
力体制の構築に期待が大きい
碧南市臨海部企業は、地域連携で取組みたい防災対策として、「防災対策の前提
となる被害想定の共有化」と「消防活動、救出・救護活動の相互協力体制の構築」に期
待が大きい。この2項目については4割以上を示している。
このほかでは、津波避難計画の策定と計画に基づく避難訓練、災害時における地
域共通の災害対策本部の設置への期待が高い。
《要点》
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・地域連携で取組みたい防災対策としては、「防災対策の前提となる被害想定の共
有化(震度・津波高さ、液状化判定等)」が 49.4%、「消防活動、救出・救護活動
の相互協力体制の構築」が 41.6%、この2項目が4割以上と非常に高い。
23
・このほかでは、「津波避難計画の策定と計画に基づく避難訓練」の 35.1%、「災
害時における地域共通の災害対策本部の設置」の 31.2%、この2項目が3割以
上を示す。
(3)自社だけで事業継続力強化を図ることの限界がある
碧南市臨海部企業へのアンケートの中で、防災力向上、事業継続力の強化を図る
上での問題点として、「社内だけの対応では解決できないことが多い」に実に 72.7%
の企業・事業所が回答している。
企業や事業所の事業継続、地域産業の事業継続に、個々の企業・事業所による取
組だけでは限界が生じ、地域の広がりの中で、緊急時への対応を準備しておくこと
の必要性を示している。そうした限界を解決していくツールとして地域連携BCP
に期待しているところは大きいと考えられる。
《要点》
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・「社内だけの対応では解決できないことが多い」72.7%。
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
・企業訪問すると、個社BCPを策定してもリスクをクリアできないという意見
があった。
・従業員の避難などで、企業間の横の連携を図るため話し合いの場は必要だとい
う企業は正直多かった。
4.地域連携BCP普及に向けた課題
(1)企業の立場からは、企業間の足並み、ノウハウ不足、人員確保が
大きな課題とみている
地域連携BCPを普及する上で課題になることについて、工業集積地アンケート、
碧南市臨海部企業アンケートのいずれにおいても、上位に選ばれたのは、「地域連
携BCPのノウハウ・スキルがない」、「企業間での足並みがそろわない」、「担当す
る人員が確保できない」の3項目で、いずれも4割~5割前後を占めた。
《要点》
【工業集積地アンケート結果】
・「地域連携BCPのノウハウ・スキルがない」の 56.5%、「企業間での足並みが
そろわない」の 52.2%、「担当する人員が確保できない」の 47.8%が上位。
・「予算が確保できない」の 39.1%がこれに続く。
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・
「企業間の足並みがそろわない」の 48.1%、
「担当する人員を確保できない」の
46.8%、「地域連携BCPのノウハウ・スキルがない」の 45.5%が上位。
24
・地域連携BCPの協議に参加しないと回答した企業の理由は、
「人員を参加させ
ることによる負担が大きい(人員を確保できない)」で 54.5%である。
(2)企業を支援する自治体や商工会議所等は、企業の関心、ノウハウ
不足、人員不足を課題ととらえている
地域連携BCPを普及する上で、企業・事業所を支援する立場になる自治体や商
工会議所等では、「企業が関心を示してもらわないと着手しにくい」と「地域連携
BCPのノウハウ・スキルがない」が特に大きな課題として上げられている。次い
で、「担当する人員を確保できない」が自治体、商工会議所等のいずれにおいても課
題としてあげられている。
また、商工会議所等では、「企業間で地域連携BCPについて協議する場がない」
ことも地域連携BCPを普及していく上での課題ととらえられている。
《要点》
【自治体アンケート結果(産業振興部局)】
・
「企業が関心を示してもらわないと着手しにくい」の 72.4%、
「地域連携BCP
のノウハウ・スキルがない」の 69.0%が特に多い。
・「担当する人員が確保できない」の 37.9%がこれに続く。
【商工会議所等アンケート結果】
・
「地域連携BCPのノウハウ・スキルがない」の 64.3%、
「企業が関心を示して
もらわないと着手しにくい」の 50.0%、「担当部署がない」の 50.0%が上位。
・「担当する人員を確保できない」の 42.9%、「企業間で地域連携BCPについて
協議する場がない」の 35.7%がこれに続く。
(3)民間企業はリーダーシップをとりづらい
地域連携BCPを推進していく上では、企業同士の話し合いの場が必要となるが、
そうした話し合いを呼びかける中心となるリーダー企業の存在が、地域連携BCP
を推進する上での課題としてあげられる。
自治体ヒアリングや工業集積地ヒアリングでは、以下のような意見が寄せられて
おり、行政にリーダーシップ、コーディネートを期待する意見が少なくない。
《要点》
【自治体ヒアリング結果(産業振興部局)】
・代表的な企業が複数ある中で、どこかが柱にという話は簡単に進めるものでは
ない。
・地域連携に関しては、一企業が隣の企業に働きかけていくことは甚だ難しいと
の意見である。そこで、行政が音頭取りではないが、声を上げてもらえると、
参加する企業も増えるであろうという意見をうかがっている。
25
【工業集積地ヒアリング結果】
・当地区の場合、今は引っ張り役が微妙になっている。本当は中立的な市役所の
ようなところが担わないと企業秘密の部分にはタッチしにくい。
26
2-3
関係機関の役割と期待
1.企業の役割
(1)企業間のコミュニケーション機会の整備、共同避難の事前合意は
企業の役割
地域連携BCPの普及に向けて、企業・事業所が自ら担う役割として考えるのは、
「企業間の日常的なコミュニケーション機会の整備」と「災害時の共同避難場所、
避難経路等の事前合意(システム・ルールづくり)
」の2項目で、工業集積地、碧南
市臨海部企業のいずれのアンケートでも、この2項目が上位2つを占めている。
同じ工業集積地内で、話し合いの機会をもち、まずは共同避難を話し合っていく
ことは、企業側の自助努力として進めていくべきとの認識がある。
《要点》
【工業集積地アンケート結果】
・
「企業間の日常的なコミュニケーション機会の整備」の 65.2%、
「災害時の共同
避難場所、避難経路等の事前合意(システム・ルールづくり)」の 56.5%が特に
多い。
・次いで、「集積地内企業に共通する行政要望のとりまとめ」の 43.5%が続く。
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・
「災害時の共同避難場所、避難経路等の事前合意」が 49.4%、
「企業間の日常的
なコミュニケーション機会の整備」が 39.0%で、「合同で行う緊急避難訓練の
実施、定着」の 33.8%がこれに続く。
2.自治体等の役割
(1)行政に期待することとしては、普及啓発、協議運営のリーダーシ
ップ、意見調整などに大きな期待がある
地域連携BCPを普及していく場合、企業・事業所から地元行政に期待すること
としては、普及啓発活動に対する期待は大きい。また、地域連携BCP推進のため
のリーダーシップ(推進役)、各企業・事業所間の意見調整(コーディネート、会議
運営)にも大きな期待がある。
《要点》
【工業集積地アンケート結果】
・地域連携BCP推進のためのリーダーシップ(推進役)、各企業・事業所間の意
見調整(コーディネート、会議運営)などに期待が寄せられている。
・インフラの早期復旧、情報の共有化、企業・事業所への意識啓発、ノウハウの提
供、避難所、備蓄などの意見がある。
27
【碧南市臨海部企業アンケート結果】
・普及啓発活動に対する期待は大きい(中小企業へのBCP普及啓発、BCPモ
デルの提示等)。
・このほか、BCP策定のための資金的援助、話し合いの際の事務局機能、連携
窓口、調整役への期待など
(2)商工会議所・商工会は個社BCPの策定促進を役割と認識
地域連携BCPの普及に向けて、商工会議所・商工会が自ら担う役割として考え
るのは、「個社BCPの策定支援」である。これまでにも、会員企業に対するBCP
作成支援に向けた取組を進めている団体が多くみられ、今後も個社BCPの策定支
援については、商工会議所や商工会が中心に担っていくとの認識がある。
《要点》
【商工会議所等アンケート結果】
・地域連携BCPの普及に向けての商工会議所・商工会の役割としては、「個社B
CPの策定促進」が 78.6%で突出している。
・次いで、「個社BCPをつなぐコーディネート機能の充実」の 28.6%が続く。
28
第3章
3-1
地域連携BCPの普及方策
地域連携BCP普及上の課題
第2章の実態調査結果から、地域連携BCPの普及を図る上での課題は、次の
ように整理できる。
(1)自治体の課題
①専門知識不足の補完
企業の窓口となっている自治体の産業振興部署では、企業防災やBCPにつ
いて関わった経験が少ないために、自治体の担当者は専門的な知識が不足して
いると考えている。そのため、地域連携BCPの必要性は理解している自治体
でも、企業から相談があっても的確な対応ができないために、企業に働きかけ
られない自治体が多いと思われる。そのため、自治体の専門知識不足を補完す
ることが必要である。
②企業間をまとめるコーディネーターの養成
地域連携BCPを進めるためには、企業間で危機意識を共有化したうえで、
課題の整理、優先的に取組む事項などについて、企業間で話し合いを進める必
要がある。企業規模、業種等の異なる企業間の話し合いをまとめるには、課題
の整理、優先的に検討する課題の抽出、その対応策の検討や訓練の実施などの
プロセスを円滑に進めるために必要な助言、提案を行うコーディネーターの役
割が重要になるが、自治体の職員は経験が少なく、企業のニーズを十分把握し
ていないこともあり、職員がコーディネーターとなって話し合いを働きかける
ことは難しいと考えている自治体が多いと思われる。そのため、コーディネー
ターとなる人材の養成が必要である。
③地域防災計画等における位置づけ
県をはじめとする自治体の地域防災計画の中では、企業防災を促進するため
の個社BCPの策定支援や相談体制の整備が位置づけされている。しかし、自
治体の防災対策は、住民の生命と財産を守ることを最優先にしていることから、
これまで工業集積地の対策は意識されておらず、地域防災計画の中に具体的な
対策は示されていない場合が多い。そのため、地域連携BCPの取組が、行政
施策として位置づけされていないことから、行政としては動きにくいと考えて
いる自治体が多い。そのため、地域防災計画等の中で、地域連携BCPの必要
性を位置づける必要がある。
④防災と産業振興の部署間の連携強化
多くの自治体は、地域の防災対策を担当する部署と企業の窓口となっている
部署とは別の部門に別れている。地域連携BCPを推進するためには、両部門
29
間の連携が必要となるが、現状では連携不足のために、庁内での検討が進んで
いない自治体が多い。そのため、自治体内の関係部局間が連携し、施策として
の位置づけを検討する必要がある。
⑤企業ニーズの把握
多くの自治体で、防災に関する企業ニーズを調査したことがないため、地域
連携BCPに対して企業のニーズがあるのか把握できていない。そのため、自
治体の中で、地域連携BCPを検討しようという動きが出てこないのが実情で
ある。そのために、アンケートやヒアリング調査等で企業のニーズを把握する
必要がある。
(2)産業支援機関(商工会議所等)の課題
①専門知識不足の補完
産業支援機関も行政と同様に、企業防災やBCPについて関わった経験が少
ないために、担当者は専門的な知識が不足していると考えている。そのため、
地域連携BCPの必要性は理解していても、企業から相談があっても的確な対
応ができないと考え、企業に働きかけることに躊躇する機関は多いと思われる。
そのため、産業支援機関の専門知識不足を補完することが必要である。
②企業間をまとめるコーディネーターの養成
地域連携BCPを進めるためには、企業間で危機意識を共有化したうえで、
課題の整理、優先的に取組む事項などについて、企業間で話し合いを進める必
要がある。自治体職員と同様に、課題の整理、優先的に検討する課題の抽出、
その対応策の検討や訓練の実施などのプロセスを円滑に進めるために必要な助
言、提案を行うコーディネーターになる人材がいないために、動きにくいと考
えている機関が多い。そのため、企業間をまとめ、また企業と行政の橋渡しを
するコーディネーターとなる人材の養成が必要である。
③企業ニーズの把握
多くの機関では、防災に関する企業ニーズを調査したことがないため、地域
連携BCPに対して企業のニーズがあるのか把握できていない。そのため、地
域連携BCPを検討しようという動きが出てこない機関が多いのが実情である。
そのために、アンケートやヒアリング調査等で企業のニーズを把握する必要が
ある。
④支援の対象が会員企業に限定
商工会議所・商工会は、支援の対象が会員企業に限定されるために、対象とな
る工業集積地内に会員以外の企業が含まれる場合、企業グループとして支援す
ることが難しくなる。商工会議所・商工会として支援するための位置づけが必要
となる。
30
(3)企業の課題
①企業同士が顔を合わせる機会の設定
工業集積地の中には、立地企業間の協議や情報連絡のための組織があるとこ
ろが少なく、定期的な企業同士のコミュニケーション機会が無いところが多い。
企業同士が出会う機会がそもそも無いために、進まないところが多い。そのた
め、まず企業同士が顔を合わせる機会の設定が必要である。
②企業間をまとめるコーディネーターの確保
企業規模、業種等の異なる企業間の話し合いをまとめるには、コーディネー
ターの役割が重要になる。そのため、企業同士の話し合いの組織があったとし
ても、コーディネートする人材がいないために、協議が進められないと考えて
いるところが多い。コーディネーターとなる人材の確保が必要である。
③個社のBCPの策定促進
大企業は個社BCPを策定している企業が多いものの、中小企業を中心とし
て全体的にBCPの策定率は低い割合にとどまっている。そのために、個社で
の対応の限界について理解できていない企業が多く、企業間及び行政等との連
携の必要性についての企業の理解が十分浸透していないと考えられる。そのた
め、個社BCPの策定を並行して促進する必要がある。
④企業間の格差を踏まえた段階的な話し合い
個社BCPの策定の取組に企業間の差がみられるように、災害に対する危機
感や事業継続に向けた取組姿勢に企業間の格差がみられる。そのため、地域連
携BCPに向けた取組を進めるにしても、企業間の足並みを揃えることが難し
いところが多いと考えられる。そこで、まず危機意識が高く地域連携BCPの
必要性を感じている企業が集まって取組み、段階的に参加企業を広げる方策を
工夫する必要がある。
⑤グループのリーダーとなる企業の発掘
企業間の話し合いをまとめるためには、リーダーとなる企業の存在が不可欠
である。しかし、資本関係の無い独立した企業間では、率先してまとめ役を引
き受けようとする企業を選定するのは困難であることから、企業だけでは話し
合いをまとめることは難しいと思われる。そのため、行政等が働きかけてリー
ダーとなる企業を発掘することが必要である。
⑥事業所のトップ及び本社の理解
工業集積地に立地している企業の多くが、本社機能の無い事業所である。各
社のBCPについては、本社で検討している企業が多く、そのため、工業集積
地内の事業所が独自に取組むためには、本社の理解が必要となる。したがって
余程強い危機感を持っていなければ、地域連携BCPに積極的に取組もうとい
う意思は働かないと考えられる。そこで、地域連携BCPを進めるには事業所
のトップに対して、地域連携BCPの重要性を理解してもらう必要がある。
31
3-2
地域連携BCP普及戦略
1.地域連携BCPの取組の考え方
これまで地域連携BCPは、企業間の連携を主に考えていたが、今年度実施し
た調査により、行政等※5の支援及び企業グループと行政等との連携も重要である
ことが確認できたことから、改めて地域連携BCPのねらいや連携の範囲、取組
みの原則など、地域連携BCPの基本となる考え方を整理する。
※5:本節(3-2)と次節(3-3)では、行政(県ならびに市町村)、産業支
援機関、インフラ関係機関を総称して、「行政等」と表記する。
(1)地域連携BCPのねらい
地域産業の競争力を強化し、地域の活性化を図るとともに、被災した場合
は、地域復興の原動力を高める。
地域連携BCPは、個社のBCPの促進を図るとともに、企業間や行政等の
他の関係主体と連携することにより、個社BCPの限界を補完し、企業の事業
継続力をより強化するものである。
個社だけではなく、地域全体で企業の事業継続力を高める取組姿勢を示すこ
とにより、平時においては立地企業の取引先企業からの信頼感を高め、取引先
の確保・拡大にも寄与することになる。また、地域のリスク対応力の強さを高め
ることになり、企業誘致を進めるうえでのアピールポイントにもなるとともに、
既存企業の流出を防ぐ方策にもなりうる。このことから、地域連携BCPは、
大規模災害の発生に関わりなく、地域産業の競争力を強化し、地域の活性化を
図ることをねらいとすることができる。また、平時の防災力の強化につながり、
防災意識の向上と防災対策の充実を図ることができる。
もちろん大規模災害が発生した場合は、産業活動の停滞は、地域経済の維持
及び雇用の安定を阻害し、地域住民の生活再建の遅れを引き起こすことから、
地域連携BCPは、被災地域におけるいち早い産業活動の再開を実現し、地域
の復興の原動力ともなる。
(2)地域連携BCPと個社のBCPとの関係
地域連携BCPと個社BCPとは別ものではなく連動させることにより、そ
の効果が高まるものであり、両者の関係は次のように整理できる。
①個社の限界を連携で補完
地域連携BCPは、個社の対応だけでは限界のある課題を、他の主体との連
携により克服するために、その方策・手順を示すものである。
<個社では対応できない課題の例>
来訪者や協力会社を含む従業員の避難場所の確保、工業用水・道路等のイン
フラの復旧、復旧車両用燃料の確保、周辺地域の被害状況に関する情報入手
等。
32
②個社が高い危機意識を持って個社BCPに取組むことが基本
地域連携BCPは、個社BCPの限界を補完するものであることから、企業
の事業継続力を高めるためには、個社BCPを策定・運用(自助)することが基
本となる。
そのためにも、大規模災害等のリスクに対して各企業が高い危機感を持ち、
個社のBCPに取組むことが地域連携BCPを推進することになる。
③個社BCPと地域連携BCPとの連動により効果を発揮
個社BCPを策定することで、地域連携BCPの課題が明確になるとともに、
地域連携BCPを推進することで、個社BCPの充実が図られる。
また、中小企業の場合、個社だけでできる範囲に限りがあり、従業員の安全
確保、インフラ復旧、がれき処理など地域共通の課題が、個社BCPの課題の
中で大きな比重を占める。そのため、地域連携BCPで地域共通の課題を考え
ることは、個社BCPを考えることになり、そこから個社BCPの熟度を高め
ることができる。
このように、個社BCPと地域連携BCPを連動させながらPDCAを繰り
返すことにより、実効性のある対応が可能となり、企業の事業再開がより早く
実現でき、地域産業の競争力が高まる。
(3)連携の対象
地域連携BCPにおける連携の対象は、次のように想定される。
①企業グループ内の連携による共助が基本
地域連携BCPは、工業団地等の同じエリアに立地する企業同士、取引グル
ープや系列グループに属する企業同士など、企業グループ内の連携による共助
を高めることが基本となる。
②企業グループと行政等との連携
企業同士の共助では解決できない課題の中で、行政等と連携して取組むこと
によって解決策を見出すことができる課題もある。
地域の産業競争力の強化は、行政等にとっても重要な目標となることから、
企業グループと行政等は、地域の産業競争力の強化という共通の目標実現に向
けて、対等な立場で協力(協働)しながら取組を進めるものである。
<連携の対象>
企業グループ内
の企業間の連携
(共助)
企業グループと
行政等との連携
(協働)
33
(4)地域連携BCPのメリット
地域連携BCPへの関心を喚起する上で、地域連携BCPを取組むことで期
待できるメリットを説明する必要がある。想定されるメリットを整理すると次
のようになる。
①企業にとって
○行政等との調整力の強化
-企業がまとまることにより、行政等と協議しやすくなり、調整力を高める
ことが期待できる。
-工業用水、道路、電気・ガス等のライフラインの復旧時期についての行政等
と協議・調整を行うことにより、早期復旧の近道となる。
○不足する避難施設の確保
-災害発生時には、関係業者の従業員や来訪者など、従業員以外に避難者が
発生した時に、自社の避難施設や備蓄品で対応できないケースが想定され
る。その場合に備えて、企業間での避難場所の融通や共通の避難場所・備蓄
品の確保を対策として講じることが可能となる。
○公的な救急・救命能力不足の対応
-大規模災害時には、各地で被害が発生しているために、救急車や消防車の
出動を要請しても対応できないケースが予想される。その場合、自社で救
急車や消防車を保有している企業があれば、その企業からの応援も期待で
きる。
○工場火災・爆発発生時の消火活動能力不足の対応
-工場火災・爆発発生時には、自社及び公的な消防力では不足する場合がある。
その時に、消防車を保有している企業からの応援も期待できる。
○帰宅困難者の帰宅手段、帰宅ルートに関する情報収集
-帰宅困難となった従業員に対して、帰宅時期、帰宅手段、帰宅ルートを判
断するために必要な情報を、行政等から入手しやすくなる。
○防災・減災に係る人材の育成
-防災・減災対策について、他の企業や行政等と情報交換しながら検討するこ
とで、防災・減災に係る人材を育成することが可能となる。
○個社の防災・事業継続に係る負担軽減
-従業員の安全確保、被災後のインフラの復旧など、企業の規模に関係がな
い共通の課題を地域で対応することにより、個社の防災・事業継続に係る負
担が軽減される。特に、中小企業にとっては、事業継続力強化のために必
要な時間と労力が軽減できるメリットは大きい。
〇企業のCSRの向上
-行政と協議できる関係を構築する中で、産業振興や防災等の分野における
地域ニーズを知ることが可能となる。その上で災害時に行政と協力協定を
34
締結するなど、企業として可能な地域貢献ができるようになり、企業のC
SRの向上につながる。
②行政等にとって
○地域産業の競争力強化
-地域全体で企業の事業継続力を高める取組姿勢を示すことにより、平時に
おいては立地企業の取引先企業からの信頼感を高めることができ、地域産
業の競争力を高める施策となりうる。
○企業の流出防止
-津波被害が予想される地域においては、リスク回避のために企業が域外に
流出する危険性がある。地域連携BCPは、こうした企業の流出防止策と
して企業にアピールすることができる。
○企業誘致
-地域全体で企業の事業継続力を高める取組姿勢を示すことにより、企業誘
致に向けた地域のプロモーションに活用できる。
〇被災後の復旧の遅れの未然防止
-被災後の復旧の遅れを防ぐことにより、経済活動の停滞による所得の損失
を防ぐことができる。
○地域経済の維持・活性化策の協議
-自然災害に対する地域経済の維持・安定化、今後の地域産業の活性化に向け
て、企業と協議ができ、対策が講じやすくなる。
-効果的な地域経済の維持・活性化策が展開できれば、税収の確保につながる。
(5)地域連携BCPの進め方の基本
地域連携BCPの取組を進めるにあたっては、次のような考え方が基本となる。
①定期的な協議・話し合いの場の設定から始まる
地域連携BCPを進めるためには、企業グループ内及び企業グループと行政
等との定期的な協議・情報交換の場を設定するところから始まる
企業集積地内の企業間及び企業と行政間で情報交換や話し合いの場を定期
的に設けている工業集積地や自治体は少ないのが現状であり、地域連携BC
Pを進めるためには、まず企業グループ内の企業同士の話し合いの場を設定
するとともに、あわせて企業グループと行政等との話し合いの場を設定する
ことが必要である。
②実践を伴いながら検討を重ねるが基本
連携によりできることを見出してできるところから訓練するなど、実践を伴
いながら協議・検討を重ねていくことが重要
経営が異なる企業同士で、当初から統一的な方針のもとで、各企業の行動
を定めることは現実的に不可能である。そのため、地域のリスクに対応して
35
地域にとって必要な実行プランを検討するとともに、その中から実施できる
ことを訓練等で実践し、その効果と課題を“見える化”することで企業間の
連携の必要性が理解され、そこではじめて、参加企業が地域連携BCPに対
して共通の理解を持つことができるようになる。
③PDCAを繰り返しながら常に進化させる
完成型は無く、訓練と評価をくり返しながら、実効性のある対応策を見出し、
熟度を高めていくことが重要
地域連携BCPは、多様な関係者との協力によって実効性を高めていくも
のである。そのため、当初から完成した計画を作ることよりも、PDCAを
繰り返しながら取組項目を増やし、その内容を充実させた方がより実効性の
あるものになる。
2.地域連携BCPの展開モデル
地域連携BCPの取組の考え方で示したように、地域連携BCPの展開は、企
業が危機意識を持って個社のBCPに取組むとともに、企業グループ内の共助の
取組を進めることが基本となる。
しかし、地域連携BCPの普及上の課題でも示したように、企業グループだけ
で協議して共助の取組を進めることが難しい面もあり、行政等の支援が不可欠と
なる。そこで、企業が主体となって取組む地域連携BCPの取組手順とそれをサ
ポートする行政等の役割について、一つのモデルを示す。
①企業のニーズ把握・意識の共有化
各企業の防災対策上のニーズを把握するとともに、それを顕在化させて企業
同士でお互いの認識を共有する必要がある。
そのために、行政等は、津波等による地域の被害想定に係る情報提供ととも
に、企業に対する調査を実施してその結果を企業に情報提供する役割が想定さ
れる。
その場合、個社BCPが策定している企業ほど、危機意識と課題認識を有す
るようになると思われることから、個社BCPの策定の促進も並行して取組む
ことが必要である。
また、中小企業など、個社だけでは対応に限界があり、個社BCPの策定を
していない企業に対しては、地域連携BCPで個社の課題対応が可能であるこ
と、自社の事業継続力の確保に係る負担が軽減されるなどの地域連携BCPの
メリットを周知して関心を高めることが必要である。
②協議の場の設定・課題の整理
企業の共通理解を深めていく上で、話し合いの場を設定して、連携の必要性
と期待について参加企業の意見を把握して、今後の検討課題を整理する。
36
円滑な話し合いを進めるためには、行政等からのコーディネーターの派遣が
期待されるとともに、企業側もリーダーとなる企業を確認することも必要であ
る。
③取組項目の選定・実施方針の確認
着実に取組むためには、検討課題の中から、企業グル―プとしてまず優先的
に取組む事項を選定して、具体的な実施方針を検討する。
行政等から、関連する行政施策や行政等として支援できる内容等について情
報提供があれば、行政等との効果的な連携が可能となる。
④実践・検証
実施方針をもとに、具体的な計画の策定と実践(訓練)により、その結果を
検証し今後の取組内容の見直しを行う。
⑤関係企業に周知
実践と検証結果については、関係企業に周知して、確実に進展していること
をアピールする必要がある。
⑥PDCAサイクル
以上の成果を踏まえて、企業の防災意識を高めながら企業ニーズを探り、今
後の実践項目の検討、実践、実践結果の検証といったサイクルを繰り返し、取
組む項目を着実に積み重ねていくことが重要である。
37
<地域連携BCPの展開モデル例>
取組手順のモデル
行政等の役割(支援策)
○各企業の防災対策上のニーズ
の把握・顕在化(地域の津波等
被害想定の情報を共有する、企
業同士の認識を深める)
・被害想定に係る情報提供
・企業に対する調査の実施、結果の企業
への提供
・地域連携BCPのメリットの周知
(PDCAサイクルにより取組項目を積み上げて熟度を高める)
・普及セミナー開催
○個社BCPの策定を促進
・BCP策定支援
○地域連携の必要性の確認
・話し合いの呼びかけ
・地域連携BCPの事例紹介等
・具体的な検討テーマの例示
○地域の課題と連携項目の検討
・コーディネーター、BCP専門家の派遣
○グループとして取組項目と実施
方針を確認
・関連する行政施策や支援の可能性の説
明
○リーダー企業の位置づけ
・行政等からの働きかけ
○実践(訓練等)
・訓練等への関係機関の参画
○検証・取組内容の見直し
・コーディネーター、BCP専門家の派遣
・関係機関(行政の関係部署、インフラ機
関等)と協議の場の設定
○企業同士の話し合いの場の設定
○検証結果を各企業に周知
38
3.プラットフォーム(協議の場)の設置
(1)プラットフォームの重要性
地域連携BCPの普及に向けた課題でも整理したように、日常的に企業同士
が話し合う場が無い中で、特定の企業がリーダーシップを発揮して、企業同士
の話し合いをまとめることは困難である。
そのために、話し合いの場の設定や話し合いを進めるうえで、行政等からの
働きかけや支援が不可欠となる。
企業にとって地域連携BCPのメリットとして、行政等との調整力が高まる
ことが大きいことから、行政等が参加して話し合う場があることは、企業の参
加を促す力となる。
行政等が、地元企業のニーズや行政に対する期待を把握することで、的確な
話し合いのコーディネートが可能となるとともに、相互補完関係を構築するこ
とができる。
以上から、企業グループと行政等との両者を結節するようなプラットフォー
ム(定期的・継続的な話し合い・協議の場)を設置することが、地域連携BCP
の取組を進める上の重要なステップとなる。
そこで、地域連携BCPの普及を図るために、プラットフォームのイメージ
とプラットフォーム設置までの進め方、プラットフォームで検討するテーマを
パッケージにしたモデルを示し、地域での展開を促す。
(2)プラットフォームの機能
プラットフォームは、企業グループ内の協議と企業グループと行政等との協
議の2つの機能をセットにすることで、地域連携BCPの普及を図るものであ
る。
企業グループの協議の中に行政等が参加して、行政等からの情報提供やコー
ディネート支援があれば、企業同士の協議が円滑に進むことが期待できる。
また、企業側が担う役割と行政等の役割を協議しながら企業グループの取組
を検討することにより、効果的な取組が期待できる。
以上から、企業グループ内の協議により共助を進めることと、企業グループ
と行政等との協議により相互補完関係(協働)を構築することで、地域連携B
CPの普及が促進されると考えられる。
すでに企業組織があり、自立的な活動をしている企業グループ組織がある場
合は、その組織が企業グループの協議の場となるが、組織が無い場合は、行政
等が呼びかけて、行政担当者も参加しながら企業グループの協議の場を設定す
ることが想定される。
39
地域連携 BCP
関係機関
専門家
地域組織
インフラ
関係機関
産業支援
関係機関
行 政
プラットフォーム
・企業グループから
の提案
・行政の対応(インフラ
復旧・情報提供等)
個社
BCP
(自助)
生産委託
先企業
連携
コーディ
ネート
行政等の関係
機関と企業グル
ープとの協議
の場(協働)
企業グルー
プ内の協議
の場(共助)
個社
BCP
(自助)
BCP策定
支援
個社
BCP
(自助)
個社
BCP
(自助)
個社
BCP
(自助)
工業集積地内企業グループ
40
連携
連携
取引関係
企業
グループ
系列企業
グループ
(3)プラットフォームでの協議プロセスと行政等の役割(例)
プラットフォームの設置と協議までのプロセスの例とその中における行政等
の役割を示すと次のパターンが考えられる。
■企業グループ組織があるケース①
企業グループ組織があり、企業間のコミュニケーションが行われ、その組
織が話し合う場として機能する場合は、その組織を地域連携BCPの協議の
場として、共助の取組事項を検討するとともに、その結果を踏まえて行政等
との協議を併せてプラットフォームで行うパターンが想定される。
1)まず、グループ組織内の企業の意識を高める必要がある。そのために、行
政等がグループ組織の企業に対して、被害予測など、想定されるリスクに
関する情報を提供して企業の関心を喚起する役割が考えられる。
2)次に、地域連携BCPの協議を進めるこ
との合意を得る。そのために、行政等が専
門家を派遣して、企業も危機意識を共有化
想定される被害(リスク)の
情報を提供し関心を喚起
し、話し合いの気運を高め、合意形成を促
す役割が考えられる。
3)検討テーマと検討の進め方を協議して本
企業同士の意見交換を行
い、危機意識を共有化
格的に具体的な協議を開始する。そのため
には、行政等または企業グループ組織が企
協議の場の設置について
合意を得る
業に対して事前調査等を実施して、検討テ
ーマ案を示す役割が考えられる。
4)効果的な取組とするために、地域の実情
に即した実施プランを策定し、その中から
具体的な取組内容を検討し、具体的に実践
する。
5)実施プランの策定の検討にあたっては、
検討テーマの設定と進め
方(目標、スケジュール
等)の決定
行政等で支援・
連携可能事項を
協議
行政等で協議し、行政等ができる支援策や
行政等が実施する事項を検討し、企業グル
ープ組織に示す役割が考えられる。
実施プラン及び実践
内容の検討・実践
6)実践の結果を、企業グループ組織及び行
政等内の協議の場で検証し、次の取組に反
映させる。
41
実践結果の検証
■企業グループ組織があるケース②
企業グループ組織がある場合でも、企業間のコミュニケーションが定期的
に行われていないなど、その組織のままでは協議を行うことが難しい場合、
理解が得られる企業を中心に地域連携BCPを協議する場を別に設け、その
結果をグループ組織内全社に周知するパターンが想定される。
その場合、協議に向けて行政の働きかけが重要になることから、当初から
行政等も参加して、企業同士の協議と行政等との協議を同時に行うことも想
定される。
1)まず、グループ組織内の企業の意識を高める。そのために、行政等がグル
ープ組織の企業に対して、被害予測など、想定されるリスクに関する情報
を提供して企業の関心を喚起する役割が考
えられる。
2)企業間で温度差がある場合、関心のありそ
うな企業が中心となって地域連携BCPを
検討することを提案し、他の企業の了解を
得て、新たな検討組織を位置づける。その
行政等が想定される被害
情報を提供し関心を喚起
行政等が関心のある企業
に協議の場の設置を呼び
掛けて、企業は組織内の
了解を得る
ために、行政等は、関心のある企業の抽出
と協議への参加を呼び掛ける役割が期待さ
れる。
3)呼び掛けに応じた企業をコアメンバーとし
て、コアメンバーと検討テーマならびに検
討の進め方を協議、決定したうえで、他企
業にも周知して、再度参加を呼び掛けて、
行政等が事前調査して検
討テーマ案を示す
コアメンバーを中心に新
たな検討組織を立ち上
げ、検討テーマと進め方
(目標、スケジュール等)
を決定
検討を開始する。行政等が企業に対して事
前調査等を実施して、検討テーマ案を示す
役割が考えられる。
4)検討テーマに基づき、地域の実情に即した
実施プランを策定し、その中から具体的な
取組内容を検討し、具体的に実践する。
実施プランの検討にあたっては、行政等
検討方針を周知し、他企
業の参加の呼びかけ
行政等担当者も
参加して、検討テ
ーマについて、庁
内で調整した内
容を適宜示す
は、行政等ができる支援策や行政等が実施
する事項を行政等の関係部署で協議・調整
実施プラン及び実践
内容の検討・実践
し、その結果を示しながら検討を進める役
割が考えられる。
実践結果の検証
5)実践の結果を検証し、次の取組に反映させ
る。
42
■企業グループ組織がないケース③
企業グループ組織がない場合は、新たに協議組織を設置する必要があるが、
地域の立地企業全社が参加する組織を作ることは容易ではないことから、関
心のある企業を中心に地域連携BCPを協議する場を設け、その結果を他の
企業に周知しながら、新たな参加企業を呼び掛けて協議の場を設置すること
が想定される。
その場合、企業だけで協議の場を作ることは難しいケースが多いことから、
行政等が企業ニーズを把握しながら関心のある企業に働きかけて、話し合い
の場を設定することも必要となる。その場合、企業グループが自立するまで
は行政等が事務局機能を担い、企業同士の協議と行政等との協議を同時に行
うことも想定される。
1)対象地域に立地する企業の意識を高めるた
めに、行政等が被害予測など、想定されるリ
スクに関する情報を提供して企業の関心を
行政等が想定される被害の
情報を提供し関心を喚起
喚起する役割が考えられる。
2)その中で、行政から関心のありそうな企業
に地域連携BCPの検討を提案し、協議の場
行政等が関心のある企業
に協議の場の設置を呼び
掛けて、参加企業を把握
の設置を呼び掛ける。
3)呼び掛けに応じた企業をコアメンバーとし
て、コアメンバーと検討テーマと検討の進め
方を協議、決定したうえで、他企業にも周知
して、再度参加を呼び掛けて、検討を開始す
る。
検討組織の立ち上げを円滑に進めるため
行政等が事務局となって
コアメンバーを中心に検
討組織を立ち上げ、検討
テーマと進め方(目標、ス
ケジュール等)を決定
検討方針を周知し、他企
業の参加の呼びかけ
に、当初は行政等が事務局となるとともに、
企業に対して事前調査等を実施して、検討テ
ーマ案を示す役割が考えられる。
4)検討テーマに基づき、地域の実情に即した
実施プランを策定し、その中から具体的な取
組内容を検討し、具体的に実践する。
実施プランの検討にあたっては、行政等は、
行政等担当者も
参加して、検討テ
ーマについて、
庁内で調整した
内容を適宜示す
実施プラン及び実践
内容の検討・実践
行政等ができる支援策や行政等が実施する
事項を行政等の関係部署で協議・調整し、そ
の結果を示しながら検討を進める役割が考
えられる。
5)実践の結果を検証し、次の取組に反映させる。
43
実践結果の検証
(5)プラットフォームの事例
事例1:すでに共同の活動を行っている独自の企業グループ組織があり、この
組織が中心となって、地域連携BCPに取組んでいる事例(ケース①
に該当)
明海地区防災連絡協議会(豊橋市)
■地区の概要
・豊橋市の三河港内に位置する埋め立て地(約 660ha)
・多種多様な業種・業態の企業 100 社が立地する工業団地
・工業出荷額:5.4 千億円/年(豊橋市の 46%)
・従業員数:約 10,000 人(豊橋市の 29%)
■企業グループとしての検討の経緯
・埋立地の開発者である㈱総合開発機構が事務局となって、平成 47 年に「三
河湾明海地区産業基地運営自治会」を設立。さらに、立地企業の共同の防
災訓練の実施等のために、昭和 59 年に「防災連絡協議会」を設立。
・平成 18 年から、三河港を管理する国や県の支援を受けて、地域の研究機関
である公益社団法人東三河地域研究センター(当時は社団法人)が中心と
なって、三河港振興・利用促進の観点から企業、国・県・市等の行政機関が参
加して、臨海部企業の事業継続方策の検討を開始した。その検討を進める
中で、明海地区をモデルに検討が継続された。
・明海地区防災連絡協議会と公益社団法人東三河地域研究センターが協力し
て、企業に対する「企業防災アンケート調査」
「BCP需要アンケート調査」
を実施し、その結果を踏まえ平成 22、23 年に「明海地区事業継続BCP」
策定した。
・明海地区事業継続計画(BCP)に基づき、平成 24、25 年度には合同津波
避難訓練、平成 25 年度には情報伝達訓練を実施した。
・また、各企業の地質調査データの収集と新規地質調査によって団地全体の
液状化判定を行い、リスク情報の共有化を図っている。
■企業グループと行政(市)との協議
・公益社団法人東三河地域研究センターによる臨海部企業の事業継続方策の
検討組織に、豊橋市も参加して問題意識は共有されてきた。
・企業グループが自主的な活動を展開しており、豊橋市はその取組内容を把
握し、必要な情報を提供するとともに、可能な協力を検討している。
・具体的には、合同津波避難訓練に参加するとともに、市の災害対策本部と
つながるMCA無線を明海地区防災連絡協議会に貸与し、災害時に市から
の情報を円滑に提供できる体制を整えている。
・液状化判定結果を豊橋市に示しており、今後工業団地内の市道の液状化対
策を協議することが課題となっている。
44
事例2:臨海工業地域における企業グループ組織があるが、主に情報交換を目的
としており、地域連携BCPの協議を行うためには、新たな協議の場が
必要となっているケース(ケース②に該当)
碧南市
■地区の概要
・衣浦湾に面した地域を埋め立てて、工業地域を造成し、隣接市も含めて衣
浦臨海工業地帯を形成。
・臨海工業地帯には、自動車関連産業を中心に大手企業が多く立地している
他、地元企業を中心に中小企業も多く立地し、多様な業種・規模の企業が集
積している。
■これまでの行政の取組
・リーマンショック後に、企業からの税収が大幅に落ち込んだうえに、東日
本大震災後に臨海部の有力企業が内陸部に移転したことがあり、行政(碧
南市)の中で危機感が高まった。
・そこで平成 25 年に、行政職員が市内企業 136 社を訪問してヒアリングを行
った。その中で、地震・津波に対して危機感を持っている企業が少なくない
ことが確認された。
・また碧南商工会議所も、個社BCPの促進と合わせて、エリアBCPの研
究に取組み始めていた。
・こうした動きを受けて、中部経済産業局が本年度(平成 26 年度)に臨海部
企業(132 社)を対象にアンケート調査を実施し、事業継続に向けた取組
状況や地域連携BCPに対する意向を調査した。
・また、愛知県衣浦港務所が、衣浦港を対象に港湾BCPを策定し、津波及
び高潮に対して堤外地から確実な避難と港湾機能の維持、物流機能の早期
回復を図るための対策をとりまとめている。
・碧南市は、中部経済産業局の調査結果や愛知県の港湾BCPの策定内容を
活かしながら、平成 27 年度に臨海部での地域連携BCPの構築に向けた取
組を進める施策(碧南市地域連携企業防災力向上事業)を立案。そのため
に、産業振興部署が緊密な連携を図るべく調整を行い、防災・建設関連部
署や消防本部といった市の関係機関や愛知県衣浦港務所、中部経済産業局
を構成メンバーとする協議の場を持ち、各行政機関の今後の展開を確認し
た。
45
事例3:行政が事務局となっている企業グループ組織があり、その組織が主体と
なって行政と企業が連携しながら協議・実践を行っている事例(ケース
③に該当)
田原臨海企業懇話会(田原市)
■地区の概要
・三河港内に位置する工業地域で、区域面積は約 1,100ha。
・自動車関連企業を中心に、機械・製鐵業、さらには風力・太陽光による新
エネルギー産業などの企業が立地(約 70 社)
・製造品出荷額:約 1.5 兆円/年(田原市内の 95%以上)
・臨海地域事業従事者数:約 15,000 人
■プラットフォームとなる協議組織設置の経緯と行政の役割
・平成4年、臨海地域の環境整備と地域内企業の連携強化を図る目的で田原
臨海企業懇話会を設立。市役所所管課に事務局を設置。
・平成 14 年に東海地震の強化地域、平成 15 年に東南海・南海地震の推進地
域に指定された以降、田原臨海企業懇話会も防災活動に取組む。
・田原市としても、臨海地域は市の台所であり、かつ、そこには 1 万人を超
える従業員が滞在することから、
「堤外・堤内を問わず、法人を含む全ての
市民を自然災害から守る対策講じる」との方針のもとに、積極的に企業防
災活動に取組むこととなった。
・平成 17 年に区域を 4 ブロックに分け、各ブロックに代表幹事(4 社)を置き、
情報の伝達・収集体制の構築に取組むとともに、ブロック幹事社に地域デ
ジタル無線を整備するなどし、ソフト・ハードを含め、協働した企業防災
対策がはじまる。
【主な活動例】
○情報伝達・伝達体制の確立(懇話会→4 ブロック化と連絡網の整備・防災
ラジオ・衛星携帯電話の整備等、市→防災行政無線・地域デジタル無線
等の整備等)
○避難ルート・避難場所の設定等(懇話会→避難ルート・場所の設定、避難・
帰宅支援マップの作成等、市→避難シミュレーションの作成、避難場所
の整備、マップ作成支援等)
○人材育成・防災能力・意識の向上等(懇話会→ワーキング・セミナー・地
域住民との意見交換会等の開催、防災訓練の実施等、市→ワーキング・
セミナー・地域住民との意見交換会等の開催支援、防災訓練等への支援
など)
・東日本震災以降、津波避難対策を重点的に推進する必要があることから、
組織の強化(指揮統制の強化)を図るため、企業防災活動を明文化した。(防
災部会の設置及び田原臨海企業懇話会会則への位置づけ。)
・帰宅困難者対策を一層推進するため、企業版「避難所」の設置について検
討。平成 27 年 3 月、市内企業の協力を得て企業版「避難所」を設置した(位
置づけた。)。
46
4.プラットフォームで検討するテーマ(例)
プラットフォームで検討するテーマは、A.企業グループ内で共有する情報や
共同で取組む事項、B.行政が企業グループに提供できる情報や支援等の事項、
C.企業グループと行政等との間で共有・協働できる事項の3つに分類することが
できる。
Cは、AとBの検討がある程度進まないと検討できないが、AとBは並行的に
検討することも可能である。
この3つの事項の具体的な内容を例示すると、次のようになる。
A.企業グループとしての取組
まずは、工業集積地で個々の企業が事業継続するにあたり、個社BCPの限界
を補うため共助の観点から、各企業のニーズ・問題意識を互いに確認する。その上
で、自分たちで何をしなければならないかを考えてみる。また、実際の協議を円
滑に進める場合は、リーダーとなる企業の選定や意欲的な企業間で役割分担を決
めておくことが重要となる。
■必要な情報と入手方法
・被害予測(津波被害予測、地震被害予測等)
・地域の防災計画
■工業集積地における共同防災体制の構築
・災害対応のための本部機能の検討
・企業間の連絡網・連絡方法の構築
・企業間の伝達する情報のフォ-マットの整理
■工業集積地における避難計画、帰宅困難者対策
・工業集積地内における脆弱箇所の把握(液状化の危険度)
・各社の避難計画・帰宅困難者対策の把握
■工業集積地における共同の備蓄体制
・帰宅困難者に対する食糧備蓄等
■救急・消防体制
・軽傷者の応急措置、重篤な負傷者な搬送
・火災発生時の応援体制
■工業集積地における災害発生時の対応
・各社の連絡体制
・各社の被害情報の収集
・インフラの被害情報、復旧情報の収集
■復旧・事業再開
・ライフラインの確保
47
・必要な電源容量の明確化、電源の共有化
・工業集積地におけるがれき対策、燃料等の確保
・貸与できる施設・機材の情報共有、協力体制
・事業再開に向けた確保する交通ルートの優先順位
■工業集積地での防災教育のあり方
・先進地域事例の入手と提供
※こうした点について、工業集積地内の企業で検討することによって、自分たち
でできること、できないことが明らかになっていく。
B
行政側の取組
行政として、工業出荷額や雇用など工業集積地が地域に及ぼす経済的な影響力
を踏まえ、工業集積地における事業継続の観点からどのようなことができるのか
考えてみる。
■被害想定についての情報の提供
・津波・震度予測及び被害予測情報
■工業集積地における防災体制の構築に必要な情報の提供
・地域防災計画
・地域住民の避難計画
・地域のインフラの被害予測・復旧計画
・地域のインフラの補強箇所
・港湾BCP等インフラ関係についての情報提供
■災害発生時に必要な情報の提供
・周辺地域の被害情報
・地域のインフラ被害情報・復旧情報
■工業集積地との連携体制の構築
・災害時応援協定
■工業集積地及びその背後圏に対する復旧支援のあり方
■企業防災に対する支援
・防災に関する先進事例の提供
・個社BCP策定の支援
■金融・資金調達
・BCP策定、防災施設・設備の整備等への補助制度
・被災企業に対する融資制度の情報
48
C
企業グループと行政等との協働の取組
プラットフォ-ムは、立地企業の事業継続の取組や行政側の企業防災に対する考
え方について、互いに考えを提示していく場であり、集積地・個々の企業の事業継
続と地域の産業基盤の維持・強化という観点から、協議を深めていくことにより、
相互補完関係を構築していくものである。
また、地域連携BCPの構築に向けて検討した実施方針に基づく、訓練等の実施、
検証・見直しを進めていくことが重要である。
■工業集積地・行政が必要な情報、提供できる情報の特定
・地域の被害予測(状況)、工業集積地での被害予測(状況)
・工業集積地の安全性(液状化)
・地域のインフラ被害予測と脆弱性
・地域のインフラ復旧計画
■平時における企業グループ・行政との情報共有体制の構築
・行政と集積地域との連絡体制(MCA無線の活用)
・周辺住民の避難計画と集積地の避難計画(帰宅対策)との整合性
■災害発生時における企業グループ・行政との連携、復旧活動のあり方
・地域の被害・工業集積地の被害情報の相互連絡
・効果的な避難・帰宅対策の整合
・周辺地域住民への支援と災害応援協定(備蓄体制)のとりまとめ
・がれき対策・液状化の支援
・工業集積地への燃料の確保
■防災情報・教育
・防災や(地域連携)BCPに関する情報の検討と実施方法
49
3-3
地域連携BCPの普及方策
前章で整理した専門知識の不足、コーディネーターの確保等の課題を踏まえて
プラットフォームを設置して、企業グループ及び企業グループと行政等との協議
を進めるために、今後、国として取組むべき普及方策を示す。
1.地域連携BCPについての理解の促進
①普及セミナー・研修会等の開催
企業及び行政等に、地域連携BCPの意義・必要性を周知するとともに、地域連
携BCPを進める上での課題と対応策、自治体、産業支援機関、企業の役割につ
いての理解を促すためのセミナー等を開催する。
セミナーでは、本調査結果を紹介しながら、地域連携BCPの取組の考え方、
プラットフォームの役割と設置までのプロセスなどを、取組事例を交えて説明し
て、関係機関に地域連携BCPの取組を促す。
なお、セミナー・研修会等の開催にあたっては、対象者別に重点的に訴えるポイ
ントを次のように設定する。
対象
重点的に訴えるポイント
・個社が危機感を持って個社BCPに取組むことの重要性
・地域連携BCPに取組むことによるメリットの理解促進
・個社のBCP(自助)と地域連携BCPとの関係(個社B
CPの補完、地域連携BCPによる個社BCPの強化)
企業
・地域連携BCPの取組の考え方(できるところから実践を
積み重ねること)
・企業間の協議及び行政等との協議を進めるためのプラット
フォームの必要性と機能
・防災・減災に向けた企業の役割(企業間の共助でできるこ
との可能性)
・地域産業の競争力強化策としての地域連携BCPの重要性
・被災後の地域復興に向けた産業復興の重要性と地域連携B
Cの必要性
・自治体内の関係部署間の連携の重要性
行政等
・地域防災計画から、企業防災を促進する責務が自治体にあ
ることの自覚の必要性
・地域コミュニティの一員として、防災・減災に向けた企業
の役割と企業に対する行政等の支援の必要性
・工業集積地の地域連携BCPを地区防災計画として位置づ
50
けて普及させる可能性
・地域連携BCPの取組の考え方(できるところから実践を
積み重ねること)
・企業間の協議を進めるためのプラットフォームの必要性と
コーディネーターとして行政等に期待される役割
・自治体と産業支援機関との連携の必要性
・企業ニーズの把握が取組の第一歩
②地域連携BCPの専門家の発掘とネットワーク化
地域連携BCPの普及セミナー・研修会の開催にあたって、地域連携BCPを語
ることができる専門家を発掘する必要がある。
そこで、リスクマネジメントや事業継続の有資格者を把握するとともに、以下
の事例のような大学が実施している人材育成プログラムとの連携により専門家の
発掘を行う。
・名古屋大学とあいち防災協働社会推進協議会等が連携して実施する防災・減
災カレッジ(企業防災コース)
・豊橋技術科学大学安全安心リサーチセンターの人材養成プログラム(地域
地震防災コース)
・岐阜県BCP研修・訓練センター
・三重大学さきもり塾
・愛知工業大学、名古屋工業大学、大同大学、豊田工業高等専門学校の4大
学が連携してスタートし、現在は愛知工業大学が開講している社会人防災
マイスター養成講座
そして、こうした専門家に対して、地域連携BCPの定義・仕組み、策定手順等
について説明する機会を設け、地域連携BCPの理解を深めてもらい、セミナー・
研修会の講師ならびに話し合いのコーディネーターとなる人材を発掘・育成する。
さらに、こうした人材のリストを整備し、企業・行政における研修会等の講師と
して紹介する仕組みを構築する。
③中部圏戦略会議等における地域連携BCPの発信
中部圏の国、地方公共団体、学識経験者、地元経済界が連携し、南海トラフ地
震等の巨大地震に対する「中部圏地震防災基本戦略」を策定し、フォローアップ
している「南海トラフ地震対策中部圏戦略会議」において、優先的に取組む連携
10 課題の1つとして、地域連携BCPの普及による“災害に強いものづくり中部”
の構築が掲げられている。
こうした南海トラフ地震対策中部圏戦略会議等の枠組みを活用して、地域連携
BCPの取組について発信力を高め、また、他の省庁や自治体が取組む港湾BC
P等と連携を図りながら、地域連携BCPの効果的な展開を図る。
51
④情報提供・情報発信
本調査成果(報告書と展開戦略の説明資料)をウエブサイト上で公開し、関心
のある人が調査成果にアクセスできるようにするとともに、工業集積地等での話
し合いの場で活用できるようなわかりやすい資料を作成して、活用を促す。
各地の取組の内容やその進捗状況を、ウエブサイトやマスコミ等を活用して情
報発信し、各地の取組が進んでいることをアピールすることにより、関係者の関
心を高める。
2.地域連携BCPの検討・策定支援
①個社のBCPの策定支援
地域連携BCPの普及には、個社BCPの普及が欠かせないことから、個社B
CPの策定促進を並行的に進める必要がある。
中小企業庁平成 26 年度補正予算「中小企業・小規模事業者継続力強化支援事業」
としてBCP策定支援がメニュー化されており、この制度の積極的な活用を促し、
個社BCPの策定支援を推進する。
また、前述した専門家のリストを活用して、相談・指導や専門家派遣などの支援
制度の充実を図る。
②活用できる外部資金情報の提供
個社BCP及び地域連携BCPに向けての勉強会、話し合い、調査等を実施す
るために活用できる補助金等の外部資金のメニュー情報を提供して検討を促す。
例えば、三重県朝明商工会では、全国商工会連合会の「地域内資金循環等新事
業開発検討事業」の採択を受けて、本年度「震災関連危機管理体制BCPの構築
とBCPを活用した新ビジネスの構築事業」に取組み、その中で個社BCPの策
定を促進するための企業向け研修会や人材育成を行った。こうしたBCP策定に
活用できる事業等の情報を提供する。
③大学等との連携
名古屋大学、豊橋技術科学大学、三重大学をはじめとする各大学では、防災を
テーマにした研究・人材育成機関を設置して、地域と連携した研究や実践活動を展
開している。こうした大学等の防災研究機関と自治体が連携して、地域連携BC
Pの効果的な推進方策の研究及び実践を推進する。また、こうした研究・実践の成
果をセミナー・研修会等の開催を通じて、関係者に広く周知することで、地域連携
BCPの普及を図る。
52
企業グループと行政等の協働による地域連携BCPの構築に向けて
地域連携BCP策定の普及、支援機能の整備に向けた調査事業 報告書
平成27年3月
経済産業省 中部経済産業局 地域経済部 地域振興課
〒460-8510 名古屋市中区三の丸二丁目 5 番 2 号
Tel:052-951-2716 Fax:052-961-7698
メールアドレス:[email protected]
(転載・引用の場合には出典を明記してください)