リサーチ TODAY 2015 年 4 月 20 日 地方創生に必要な外国人の流入 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 安倍政権が進める地方創生で、国内人口移動に大きな注目が集まっている。人口減少が進む地方圏に おいて、少子化の進行以上に、三大都市圏などへの人口流出が問題視されるようになったからである。 2015年2月に発表された2014年の「住民基本台帳人口移動報告」は、外国人の国内人口移動の詳細を捉 えた初めての統計である。みずほ総合研究所は、地方創生と外国人転入に関するリポートを発表している1。 この初の報告によると、外国人の国内人口移動は比較的活発で、製造業の盛んな地域を中心に、外国人 の転入により人口減少に歯止めがかけられているところも多い。地方創生には外国人転入増が必要との発 想も重要と考えた。 人口全体に対する移動者(都道府県間+都道府県内移動)の割合をみると、日本人が4%であるのに対 し、外国人は18%と日本人を大きく上回る。外国人の年齢別のデータがある都道府県間移動者をみると、 下記の図表に示すように、外国人は日本人よりもすべての年齢で移動者の割合が高く、外国人がかなり活 発に移動することがわかる。 ■図表:人口全体に対する都道府県間の移動者の割合(2014年) 20 18 (%) 外国人 16 14 12 10 8 日本人 6 4 2 0 (歳) (注)人口全体は総務省統計局の 2014 年 10 月 1 日の人口推計による。 (資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告平成 26 年(2014 年)結果』などよりみずほ総合研究所作成 都道府県別に2014年の転入超過数をみると、日本人が転入超過になっているのは、宮城県、埼玉県、 1 リサーチTODAY 2015 年 4 月 20 日 千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、福岡県のわずか7都県であり、東京圏が目立っている。一方下記の 図表は、2014年の外国人の転入超過数を都道府県別に示したものだ。外国人の転入超過は、北海道、宮 城県、秋田県、山形県、福島県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、福井県、静岡県、愛知県、 滋賀県、奈良県、和歌山県、島根県、山口県、香川県、愛媛県、宮崎県、鹿児島県と、かなり多岐にわた っている。以上のデータは製造業などでの人手不足を外国人が補いつつあることを示すものだ。こうした側 面は、転入者における外国人の比率をみるとさらに明確であり、その比率が高いのは、群馬県を筆頭に、 三重県、栃木県、岐阜県、愛知県、福井県、茨城県、埼玉県、島根県となる。こうした地域の多くは製造業 の盛んな地域であり、日本の製造業は外国人の労働者なしに成り立たない状況にあるといえる。 ■図表:外国人の転入超過数(2014年) 4,000 (人) 3,000 2,000 1,000 0 -1,000 -2,000 沖縄県 鹿児島県 宮崎県 大分県 熊本県 長崎県 佐賀県 福岡 県 高知県 愛媛県 香川県 徳島県 山口県 広島県 岡山県 島根県 鳥取県 和歌山県 奈良県 兵庫県 大阪府 京都府 滋賀県 三重県 愛知県 静岡県 岐阜県 長野県 山梨県 福井県 石川県 富山県 新潟県 神奈川県 東京都 千葉県 埼玉県 群馬県 栃木県 茨城県 福島県 山形県 秋田県 宮城県 岩手県 青森県 北海道 -3,000 (資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告平成 26 年(2014 年)結果』よりみずほ総合研究所作成 日本の人口減少対策を巡る議論においての大きな誤りの一つに、人口減少の原因を「東京圏対その他 の人口減少都市」という対立構造の議論に落とし込むことがある2。事実、地方創生では地方圏から東京圏 への人口移動を抑える方策に注目が集まっているが、本当に重要なのは、外国人に選ばれる地域づくりを 企業や住民が共に進めることではないか。地域の企業が外国人にとって働きやすい製造業の現場作りに 努め、外国人として暮らしやすい地域づくりを住民が進めれば、当該地域は外国人労働者に選択される地 域となる。こうした企業や住民の努力は人口減少対策の一助にできよう。さらに、日本が本格的に外国人の 受け入れに舵を切る場合には、それに成功する地域は人口増加が見込まれる先進地域に躍り出ることも 可能となる。今年、訪日外客数が史上最高を大きく更新するなか、外国人を住民として取り込む工夫が一 層必要と考えられる。 1 2 岡田豊 「地方創生は外国人転入増の視点も」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 4 月 2 日) 岡田豊 「消滅可能性の町にこそ『女性力』活用が必要だ」 (みずほ総合研究所 『エコノミスト Eyes』 2014 年 9 月 12 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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