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ニッセイ基礎研究所
2015-04-06
【3 月米雇用統計】
雇用増加ペースは予想外に大幅鈍化。鈍化が一
時的か、今後も継続するか見極めが必要。
経済研究部
主任研究員
TEL:03-3512-1824
窪谷 浩
E-mail: [email protected]
1. 結果の概要:雇用者数の伸びは前月から大幅に鈍化
4 月 3 日、米国労働省(BLS)は 3 月の雇用統計を公表した。3 月の非農業部門雇用者数は前
月対比で+12.6 万人の増加1(前月改定値:+26.4 万人)となり、前月から伸びが大幅に鈍化、市場
予想の+24.5 万人(Bloomberg 集計の中央値、以下同様)を大幅に下回ったほか、予想の下限(+17.9
万人)も大幅に下回った(後掲図表 2 参照)。
一方、失業率は 5.5%(前月:5.5%、市場予想:5.5%)と、こちらは前月から横ばいとなり、
市場予想に一致した(後掲図表 5 参照)
。また、労働参加率2は 62.7%(前月:62.8%、市場予想:
62.8%)と前月から 0.1%低下し、市場予想も下回った(後掲図表 6 参照)。
2. 結果の評価:雇用者数の伸びが 10 万台前半に鈍化したことで 6 月の利上げは益々困難に
3 月雇用統計の 2 日前に発表されたADP雇用統計(詳細は後述)やISM製造業指数の中の雇
用指数が労働市場回復のモメンタム低下を示していたことから、3 月の雇用増加ペースが 2 月から
鈍化することは想定されていた。
しかしながら、3 月の雇用増が 12.6 万人に留まったことで、2 月まで 12 ヵ月連続となっていた
月間 20 万人超の増加が途切れただけでなく、増加ペースは 13 年 12 月(+10.9 万人)以来 15 ヵ月
ぶりの低水準となった。さらに、2 月と 1 月の雇用者数も下方修正されていることから、これまで
順調な回復を示していた労働市場に黄色信号が灯ったと言える。もっとも、非農業部門雇用者数の
推計誤差は±10.5 万人と大きいことから、労働市場の趨勢を見極める上では、3 月だけでなく 4 月
の統計も併せてみる必要があり、来月発表される雇用統計の重要性が増した。
一方、失業率は前月から横ばいとなり、雇用者数とは対照的に安定しているほか、広義の失業率
はリーマン・ショック直前の水準まで低下してきており、失業率は改善基調が持続しているとみら
れる。
もっとも、FRBが労働市場の緩みを判断する上で注目している労働参加率は 62.7%と 2 ヵ月連
続で低下しており、こちらは労働市場の緩みが改善している兆候がみられない。
最後に 3 月の時間当たり賃金は、24.86 ドル(前月:24.79 ドル)となり、前月比で+0.3%増加
したほか、前年同月比でも+2.1%(前月:+2.0%)増加しており、2 月から小幅ながら伸びが加速
した(図表 1)
。
1
2
季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
労働参加率は、生産年齢人口(15 歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
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もっとも、時間当たり賃金は、依然として前
年同月比で 2%近辺での推移が持続しており、
賃金上昇率の明確な加速はみられていない。
このようにみてくると、失業率、賃金上昇率
では、労働市場の回復ペースが明確に鈍化して
いることは示されておらず、非農業部門雇用者
(図表 1)
時間当たり賃金の伸び率
(前年同月比、%)
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
数の増加ペースが大幅に鈍化したことと不整合
がみられる。このため、雇用増ペースがこのま
1.5
1.0
全雇用者ベース
管理者を除く生産者ベース
0.5
ま鈍化していくか、再び 20 万人超に加速するの
か、今後の統計をみて判断する必要がある。
0.0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(注)全雇用者ベースは2007年3月以降
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
(月次)
FRBは政策金利の引上げを行う前提として、労働市場の更なる改善が必要との見方をしめして
いることから、その見極めには今暫く時間がかかるとみられる。このため、最短とみられる 6 月の
政策金利引上げの可能性は益々遠のいたとみて良いだろう。
3. 事業所調査の詳細:娯楽・宿泊サービスの伸びが大幅に鈍化したほか、財生産部門は減少
事業所調査のうち、3 月の非農業部門雇用増
の内訳をみると(図表 2)
、民間サービス部門は
前月比+14.2 万人(前月:+24.4 万人)と、前月
から伸びが大幅に鈍化した。
サービス部門のなかでは、娯楽・宿泊サービ
(図表 2)
(前月差、万人)
非農業部門雇用者数の増減(業種別)
60
50
40
30
20
10
0
▲ 10
スが+1.3 万人(前月:+7.0 万人)と、前月の大
▲ 20
幅増加から一転、伸びが大幅に鈍化した。これ
▲ 40
は、主にレストラン関連が+0.9 万人(前月:+6.6
▲ 60
万人)の増加に留まったことによる。
一方、財生産部門は▲1.3 万人(前月:+2.0
政府部門
小売業
その他民間サービス業
製造業
建設業
その他生産部門
非農業部門合計
ADB調査
▲ 30
▲ 50
▲ 70
▲ 80
▲ 90
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
(月次)
(資料)Datastream
万人)と、13 年 12 月以来の減少に転じた。エネルギー価格の下落等により生産が抑制されている
資源関連が▲1.1 万人(前月:▲1.1 万人)と 3 ヵ月連続で減少したほか、建設業も▲0.1 万人(前
月:+2.9 万人)と、こちらも 13 年 12 月以来の減少となった。
さらに、政府部門の雇用も▲0.3 万人(前月:横ばい)となり、前月から減少した。連邦政府が▲
0.2 万人(前月:+0.1 万人)となったほか、州・地方政府も▲0.1 万人(前月:▲0.1 万人)と小
幅ながら減少した。
前月(2 月)と前々月(1 月)の雇用増(改定値)は、前月が+26.4 万人(改定前:+29.5 万人)
、
前々月が+20.1 万人(改定前:+23.9 万人)にそれぞれ下方修正された。修正幅は 2 ヵ月合計で▲
6.9 万人となった(図表 3)。
なお、BLSの公表に先立って 4 月 1 日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門
除く)の雇用増が+18.9 万人(前月改定値:+21.4 万人、市場予想:+22.5 万人)となり、前月値や市
場予想を下回った。ADB統計の雇用増は 14 年 1 月以来の低水準となっており、3 月の非農業部門
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雇用者数が 13 年 12 月以来の水準に低下していることと整合的である。
3 月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が 24.86 ドル(前月:24.79
ドル)と前月から 7 セント増加した。週当たり労働時間は 34.5 時間(前月:34.6 時間)とこちらは
前月から▲0.1 時間減少した。その結果、週当たり賃金は 857.67 ドル(前月:857.73 ドル)となり、
前月から減少した(図表 4)
。
(図表 3)
(前月差、万人)
1.0
(図表 4)
(年率、%)
6
前月分・前々月分の改定幅
2015年1月
2015年2月
民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)
5
4
0.0
3
▲ 1.0
2
1
▲ 2.0
0
▲1
▲ 3.0
▲2
週当たり労働時間
時間当たり賃金
週当たり賃金
▲3
▲ 4.0
▲4
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
(注)3カ月後方移動平均後の前月比伸び率(年率換算)
週当たり賃金伸び率≒週当たり労働時間伸び率+時間当たり賃金伸び率
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
▲ 5.0
非農業部門合計
建設業
(資料)Datastream
製造業
民間サービス業
(小売業を除く)
小売業
政府部門
2014/1
2015/1
(月次)
4. 家計調査の詳細:広義の失業率は 08 年 8 月以来の水準に低下
家計調査の結果を見ると、3 月の労働力人口は前月対比で▲9.6 万人(前月:▲17.8 万人)と 2
ヵ月連続で前月から減少した。内訳を見ると、就業者数が+3.4 万人(前月:+9.6 万人)の増加に
留まる一方、失業者数が▲13.0 万人(前月: ▲27.4 万人)となっており、失業者数の減少に比べ
て就業者数の増加が小さいことが要因となっている。一方、非労働力人口は+27.7 万人(前月:+35.4
万人)と前月に続き増加した。
失業率は、5.5%と前月から横ばいだったものの、小数第 2 位までみると 3 月は 5.47%(前月:
5.54%)となり、幾分低下したことが分かる(図表 5)
。
もっとも、前述の通り、労働参加率は 3 月が 62.7%と前月(62.8%)から小幅悪化しており、労
働市場の改善に伴い、過去に職探しを諦めて労働市場から退出した人が労働市場に再参入している
状況は確認できない(図表 6)。労働市場の緩みが改善され賃金が着実に上昇することが見込まれる
ようになるには労働参加率が安定、一時的に上昇することが求められる。
(図表 5)
(前月差、%ポイント)
0.8
(図表 6)
失業率の変化(要因分解)
(%)
11
0.6
10
0.4
9
0.2
8
(前月差、%ポイント)
0.3
労働参加率の変化(要因分解)
0.2
(%)
67
66
0.1
65
0.0
0.0
7
▲ 0.2
6
▲ 0.4
5
▲ 0.6
非労働力人口要因
失業率(前月差)
就業者要因
失業率(水準、右軸)
16才以上人口要因
4
▲ 0.8
3
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
(注)非労働力人口の増加、就業者人口の増加、16才以上人口の減少が、それぞれ失業率の改善要因。
また、年次ごとに人口推計が変更になっており、2009年以降は断層を調整している。
(月次)
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
3|
64
▲ 0.1
▲ 0.2
63
労働力人口要因
16才以上人口要因
労働参加率(前月差)
労働参加率(水準、右軸)
▲ 0.3
62
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
(注)労働参加率の前月差≒(労働力人口の伸び率─16才以上人口の伸び率)×前月の労働参加率
グラフの前月差データは後方3カ月移動平均。また、年次ごとに人口推計が変更になっているため、
2009年以降は断層を調整している
(月次)
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
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次に、3 月の長期失業者数(27 週以上の失業者人数)は、256.3 万人(前月:270.9 万人)と、前
月対比で▲14.6 万人(前月:▲9.1 万人)と 2 ヵ月連続で減少したほか、長期失業者の失業者全体
に占めるシェアも、3 月が 29.8%(前月:31.1%)と、こちらは 3 ヵ月連続で低下した(図表 7)。
同シェアはリーマン・ショック前の水準(10%台後半)までは未だ大きな開きがあるものの、この
ところ低下基調が定着してきており、長期失業者の問題は緩やかながら改善が持続している。
さらに、平均失業期間は、30.7 週(前月:31.7 週)と 4 ヵ月連続で前月から低下しており、こち
らも改善基調が持続している。
最後に、周辺労働力人口(205.5 万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(670.5 万人)も
考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、3 月は 10.9%(前月:11.0%)と前月から小幅低下した(図
表 8)。また、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は 5.4%ポイント(前月:5.5%ポ
イント)とこちらも前月から小幅低下した。低下は 2 ヵ月連続である。
広義の失業率は漸く 08 年 8 月(10.8%)以来の水準まで低下してきた。もっとも、リーマン・
ショック前は 1 桁台後半で推移したことを考慮すれば、広義の失業率にはさらに低下余地があると
みられる。
(図表 7)
(図表 8)
失業期間の分布と平均失業期間
(シェア、%)
100
(週)
45
18
90
40
16
80
35
14
30
12
70
60
25
50
20
40
15
30
(億人)
周辺労働力人口(右軸)
通常の失業率(U-3)
1.65
広義の失業率(U-6)
1.60
1.55
10
8
6
経済的理由によるパートタイマー(右軸)
4
1.50
1.45
10
20
2
労働力人口(経済的理由によるパートタイマー除く、右軸)
5
10
0
2007/1
広義失業率の推移
(%)
0
2008/1
2009/1
2010/1
5週未満
5-14週
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
2011/1
15-26週
2012/1
27週以上
2013/1
2014/1
2015/1
平均(右軸)
(月次)
0
1.40
2005/1 2006/1 2007/1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 2015/1
(注)U-6=(失業者+周辺労働力+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力+周辺労働力)
周辺労働力は失業率(U-6)より逆算して推計
(資料)BLSよりニッセイ基礎研究所作成
(月次)
3
周辺労働力とは、職に就いておらず、過去 4 週間では求職活動もしていないが、過去 12 カ月の間には求職活動をしたことがあり、働
くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4
U-6 は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除し
たもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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