ニッセイ基礎研究所 No.14-180 13 Jan. 2015 【12 月米雇用統計】 雇用の伸びは 15 年ぶりの高水準だ が、相変わらず鈍い賃金の伸び 経済研究部 主任研究員 TEL:03-3512-1824 窪谷 浩 E-mail: [email protected] 1. 結果の概要:雇用者数の伸び、失業率ともに予想を上回る結果 1 月 9 日、米国労働省(BLS)は 12 月の雇用統計を公表した。12 月の非農業部門雇用者数は 前月対比で+25.2 万人の増加1(前月改定値:+35.3 万人)となり、前月から伸びは鈍化したものの、 市場予想の+24.0 万人(Bloomberg 集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表 3 参照)。 一方、失業率は 5.6%(前月:5.8%、市場予想:5.7%)とこちらも前月から低下し、市場予想 を上回る改善を示した(後掲図表 6 参照) 。一方、労働参加率2は 62.7%(前月:62.9%)と前月か ら 0.2%低下した。 2. 結果の評価:雇用者数は順調に増加しているものの、賃金の伸びは鈍化 12 月の雇用増は、11 ヵ月連続で 20 万人超のペースとなった。この結果、14 年の月間平均増加数 は+24.6 万人となり、昨年の+19.4 万人、一昨年の+18.6 万人を大きく上回り、99 年の+26.5 万人に 迫る 15 年ぶりの高水準となった。 雇用数の伸びは、前月が高水準だったこともあり、前月からは鈍化したものの、依然として好調 を維持していると言える。 失業率は 5.6%と前月から 0.2%低下したほか、低下幅も予想を上回った。もっとも、注目され る労働参加率は、労働力人口が前月比で▲27.3 万人減少したことを反映し、62.7%と 3 ヵ月ぶりに 前月から低下したことには注意が必要だ。12 月の失業率低下は、労働市場からの退出に伴う影響が 入っている可能性があり、その分は割り引いて考える必要があるだろう。 また、雇用者数が力強く増加しているのとは対照的に、12 月の時間当たり賃金は前月比で減少に 転じた。12 月の時間当たり賃金は、24.57 ドルと前月比▲0.2%の減少となり、市場予想(同+0.2%) のプラスに反してマイナスとなった。前月(11 月)は、統計発表時点では前月比+0.4%と大幅な増 加となっていたため、持続的な賃金上昇への期待が高まっていたが、前月の統計が+0.4%から +0.2%に下方修正されたほか、今月の伸びがマイナスに転じたことで、持続的な賃金上昇に対する 期待はしぼんだ。更に、前年同月比でみると、12 月は+1.7%と前月(+1.9%)から伸びが低下して いるほか、ここに来て賃金の伸び鈍化が鮮明となっている(図表 1) 。 このように、12 月の雇用統計は、雇用増など決して悪いとは言えないものの、11 月の雇用統計 1 2 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。 労働参加率は、生産年齢人口(15 歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。 1| |経済・金融フラッシュ No.14-180|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved に比べると、雇用増ペースの鈍化だけでなく、労働参加率の上昇や賃金の下落など、見劣りのする 内容だったと言える。今回の雇用統計をみて、FRBは今年半ばとされる政策金利の引き上げ時期 を早めようとの判断にはならないだろう。 (図表 1) (前年同月比、%) 5.0 (図表 2) 時間当たり賃金の伸び率 失業期間別失業率 (%) 7 27週以上 4.5 27週未満 6 4.0 5 3.5 3.0 4 2.5 3 2.0 1.5 2 1.0 全雇用者ベース 管理者を除く生産者ベース 0.5 0.0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (注)全雇用者ベースは2007年3月以降 (資料)Datastream (月次) 1 0 1990 1992 1994 (資料)Datastream 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 (月次) 3. 事業所調査の詳細:建設業の伸びが目立つ 事業所調査のうち、12 月の非農業部門雇用増 の内訳をみると(図表 3) 、前月から伸びは鈍化 したものの、前月に続きすべての部門で雇用増 がみられた。民間サービス部門は+17.3 万人(前 月:+29.4 万人)となり、全体の増加を牽引し (図表 3) (前月差、万人) 非農業部門雇用者数の増減(業種別) 60 50 40 30 20 10 0 ▲ 10 た。サービス部門のなかでは、年末商戦に向け ▲ 20 て前月まで大幅に増加していた小売業が前月か ▲ 40 ら+0.8 万人(前月:+5.5 万人)と大幅に伸びを ▲ 60 鈍化させたほか、同様に前月に大幅増加した自 動車関連も同+0.3 万人(前月:+1.7 万人)とほ 政府部門 小売業 その他民間サービス業 製造業 建設業 その他生産部門 非農業部門合計 ADB調査 ▲ 30 ▲ 50 ▲ 70 ▲ 80 ▲ 90 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 2015/1 (月次) (資料)Datastream ぼ横ばいとなった。 一方、財生産部門はサービス部門とは対照的に+6.7 万人(前月:+5.1 万人)と前月から伸びが 加速した。製造業は+1.7 万人(前月:+2.9 万人)と伸びが鈍化したものの、建設業が+4.8 万人(前 月:+2.0 万人)と 14 年の月間平均増加数(+2.4 万人)の倍のペースで大幅に増加したことが財生 産部門の伸びに貢献した。 政府部門の雇用は+1.2 万人(前月:+0.8 万人)の増加となった。連邦政府が+0.1 万人(前月:+0.5 万人)増加したほか、州・地方政府も+1.1 万人(前月:+0.3 万人)増加した。これで政府部門の 雇用増加は 14 年 2 月以来 11 ヵ月連続となり、増加が定着してきた。 前月(11 月)と前々月(10 月)の雇用増(改定値)は、前月が+35.3 万人(改定前:+32.1 万人)、 前々月が+26.1 万人(改定前:+24.3 万人)となり、11 月(+3.2 万人)、10 月(+1.8 万人)で合計+5.0 万人上方修正された(図表 4)。 なお、BLSの公表に先立って 1 月 7 日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門 2| |経済・金融フラッシュ No.14-180|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved 除く)の雇用増が+24.1 万人(前月改定値:+22.7 万人、市場予想:+22.5 万人)となり、前月値や市 場予想を上回った。ADB統計が前月から増加幅を拡大させた一方、BLS統計では前月から増加 幅が縮小しており、12 月の増減パターンは不整合となった。 12 月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)については、民間平均の時間当たり賃金は 24.57 ドル (前月:24.62 ドル)と前月から 5 セント減少した。前月比での減少は 13 年 7 月以来である。週当 たり労働時間は 34.6 時間(前月:34.6 時間)とこちらは前月から横ばいとなった。その結果、週当 たり賃金は 850.12 ドル(前月:851.85 ドル)となり前月から減少した(図表 5) 。前月比で減少す るのは 14 年 2 月以来である。このように、これまでの緩やかな賃金増加の流れに変化がみられる のは注意が必要である。 (図表 4) (前月差、万人) 3.5 (図表 5) (年率、%) 6 前月分・前々月分の改定幅 2014年10月 2014年11月 3.0 民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度) 5 4 2.5 3 2 2.0 1 1.5 0 1.0 ▲1 ▲2 0.5 週当たり労働時間 時間当たり賃金 週当たり賃金 ▲3 0.0 ▲ 0.5 非農業部門合計 建設業 (資料)Datastream 製造業 民間サービス業 (小売業を除く) 小売業 政府部門 ▲4 2007/1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 (注)3カ月後方移動平均後の3カ月前比(年率換算) 週当たり賃金伸び率≒週当たり労働時間伸び率+時間当たり賃金伸び率 (資料)Datastream 2014/1 (月次) 4. 家計調査の詳細:失業率の低下も労働人口が減少していることから注意が必要 家計調査の結果を見ると、12 月の労働力人口は前月対比で▲27.3 万人と 3 ヵ月ぶりに減少に転 じた。内訳を見ると、就業者数が+11.1 万人(前月:+7.1 万人)と増加したものの、失業者数が▲ 38.3 万人(前月: +8.8 万人)と、失業者の減少幅が就業者の増加幅を大幅に上回っていることが 労働力人口減少の主な要因となっている。このことは、失業者の減少が職を見つけたからではなく、 労働市場から退出した可能性があることを示唆している。 このため、12 月の失業率は、5.6%と前月(5.8%)から▲0.2%低下し、市場予想(5.7%)も下 回ったものの、上記の失業者数の減少要因も考えると、失業率低下はその分割り引いて考える必要 がありそうだ。 このような労働力人口の減少に伴い、12 月の労働参加率は 62.7%と前月(62.9%)から▲0.2% 低下した(図表 7)。この結果、労働参加率は 78 年 2 月以来の低水準となった 9 月(62.7%)と再 び並んだ。14 年の秋口以降、それまでの低下基調から安定する動きもみられていたが、今後、更な る低下を示すか注目される。FRBは、労働需給の緩みを判断する指標の一つとして労働参加率の 動向に注目しており、労働参加率の低下基調が持続する局面では、FRBは労働市場の回復に自信 が持てないのではないかとみられる。 3| |経済・金融フラッシュ No.14-180|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved (図表 6) (前月差、%ポイント) 0.6 (図表 7) 失業率の変化(要因分解) (%) 11 10 0.4 (前月差、%ポイント) 0.3 労働参加率の変化(要因分解) 0.2 (%) 67 66 9 0.1 0.2 8 0.0 ▲ 0.2 65 7 0.0 6 ▲ 0.1 64 5 ▲ 0.2 ▲ 0.4 非労働力人口要因 失業率(前月差) 就業者要因 失業率(水準、右軸) 16才以上人口要因 4 ▲ 0.6 3 2007/1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 (注)失業率の水準を除き、3カ月後方移動平均。 非労働力人口の増加、就業者人口の増加、16才以上人口の減少が、それぞれ失業率の改善要因。 また、年次ごとに人口推計が変更になっており、2009年以降は断層を調整している。 (月次) (資料)Datastream 63 労働力人口要因 16才以上人口要因 労働参加率(前月差) 労働参加率(水準、右軸) ▲ 0.3 62 2004/1 2005/1 2006/1 2007/1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 (注)労働参加率の前月差≒(労働力人口の伸び率─16才以上人口の伸び率)×前月の労働参加率 グラフの前月差データは後方3カ月移動平均。また、年次ごとに人口推計が変更になっているため、 2009年以降は断層を調整している (月次) (資料)Datastream 一方、12 月の長期失業者数(27 週以上の失業者人数)は、278.5 万人(前月:282.2 万人)と、 前月対比で▲3.7 万人(前月:▲8.2 万人)減少した。減少は 5 ヵ月連続である。もっとも、減少 幅は前月から縮小したほか、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは、12 月が 31.9%(前月: 31.0%)と前月から再び増加に転じている(図表 8)。同シェアは 10 年 1 月以来、30%を越える異 常な状況が継続しており、リーマン・ショック前の水準(10%台後半)までは未だ大きな開きがあ ることから、長期失業問題の正常化には今暫く時間がかかるとみられる。 平均失業期間は 32.8 週(前月:33.0 週)とこちらは僅かに低下したものの、14 年秋口以降、33 週近辺で一進一退となっている。 最後に、周辺労働力人口(226.0 万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(679.0 万人)も 考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、12 月は 11.2%(前月:11.4%)と前月から小幅低下した (図表 9-11)。一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は 5.6%ポイントと、こち らは前月(5.6%ポイント)から横ばいとなった。広義の失業率の低下基調は持続しているものの、 リーマン・ショック前の 1 桁台後半と比べて依然として高い水準に留まっているほか、失業率の差 も当時の 3%台後半に比べて、依然として開いており、労働市場の「質」改善は道半ばとみられる。 3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去 4 週間では求職活動もしていないが、過去 12 カ月の間には求職活動をしたことがあり、働 くことが可能で、また、働きたいと考えている者。 4 U-6 は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除し たもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。 4| |経済・金融フラッシュ No.14-180|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved (図表 8) (図表 9) 失業期間の分布と平均失業期間 (シェア、%) 100 (週) 45 18 90 40 16 80 35 14 30 12 70 60 25 50 20 40 15 30 (億人) 周辺労働力人口(右軸) 通常の失業率(U-3) 10 10 5 1.56 1.54 経済的理由によるパートタイマー(右軸) 10 2008/1 5週未満 (資料)Datastream 2009/1 2010/1 5-14週 2011/1 15-26週 2012/1 27週以上 2013/1 2014/1 平均(右軸) (月次) (図表 10) (就業者割合、%) 7 1.52 1.50 8 1.48 6 1.46 1.44 2 0 1.60 1.58 広義の失業率(U-6) 4 20 0 2007/1 広義失業率の推移 (%) 労働力人口(経済的理由によるパートタイマー除く、右軸) 0 2005/1 1.42 1.40 2006/1 2007/1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 (注)U-6=(失業者+周辺労働力+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力+周辺労働力) 周辺労働力は失業率(U-6)より逆算して推計 (資料)Datastream (月次) (図表 11) 経済的理由によるパートタイム労働者の比率 3.5 非労働力人口のうち職に就きたい者の比率 (16才以上人口割合、%) 3.0 6 2.5 5 2.0 4 1.5 3 1.0 2 0.5 経済的理由によるパートタイム労働者 (うちパートタイムしか見つけられず) (うち事業環境による時間短縮労働者) 1 0 2006 2007 (資料)Datastream 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (月次) 非労働力人口のうち職に就きたい者 (うち周辺労働力) 0.0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (注)周辺労働力は、求職意欲を失い、労働市場から退出した者。具体的には職に就いておらず、 過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、 働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。季節調整をしていない原系列。 (資料)Datastream (月次) (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報 提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 5| |経済・金融フラッシュ No.14-180|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved
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