タンク底板連続板厚測定装置 TTMS の開発と 運用について

タンク底板連続板厚測定装置 TTMS の開発と
運用について
東亜非破壊検査株式会社
向野
英之
.はじめに
連続板厚測定装置 SLOFEC をいち早く導入
石油コンビナート地域には、多くの屋外貯蔵
し、危険物保安技術協会の性能評価認定を取得
タンクが建設され安全性を確保するために多く
し、
実機で多くの検査を行なってきた。しかし、
の検査が実施されている。特にタンク底板の検
タンク底板全面の板厚値を数値で表示する超音
査は、これまで超音波厚さ計による底板
波法による連続板厚測定に対するユーザーニー
たり
枚当
ズの高まりから装置の開発を行った結果、超音
点の定点測定が行われてきたが、近年、
連続板厚測定による全面測定のニーズが多く
波 法 に よ る 連 続 板 厚 測 定 装 置 TOA TANK
なってきている。これはタンク底板の裏面の局
MAPPING SYSTEM(以下 TTMS)として、昨
部腐食が予想以上に進行していること及び企業
年10月に危険物保安技術協会の性能評価認定を
責任にてタンクの維持管理を行うように義務付
取得した。
けられている点にあり、底板全面を連続して板
厚を測定することにより、底板全体の板厚管理
.測定原理
が可能となることにある。弊社ではタンク底板
コーティング上からの板厚測定では、超音波
の接液側の腐食減肉を考慮し、探傷面側の表面
探傷法の R-B1方式でコーティングを含めた板
状況の影響を比較的受けにくい電磁気法による
厚 d1を測定し、コーティング部のみの厚さを渦
図
装置全体写真
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流式膜厚計で測定する。測定時の探傷器の音速
20ch スキャナは、超音波センサと渦流セン
は鋼板の縦波音速を用いるため、コーティング
サ各20ch を図
部分は鋼板とコーティング材の音速比 C2/C1の
配置し、300mm 幅範囲を一走査で測定する。
分だけ厚く表示されるため膜厚計で測定した真
但し、20ch スキャナは、外周フレームの中に20
のコーティング厚さ d2に C2/C1を乗じて、次式
個の探触子が収まっている構造となっているた
により鋼板の板厚 D を算出する。
め、探触子が隅肉溶接部の直近まで接近できな
D = d1−(d2× C2/ C1)
に示すように
列に重複して
い。また、隅肉溶接部近傍はグラインダーによ
C1:コーティング材の縦波音速
る削り込みや溶接変形等の表面形状の影響を受
C2:鋼の縦波音速
けやすい。特に、裏面減肉が懸念され、板厚管
理が重要となる底部板と側板との隅肉溶接部近
傍の測定については、探触子をスキャナボック
スの外に設置した
ch スキャナが有効とな
る。これは、溶接止端より7.5mm まで接近可
能で、探傷不能領域が小さく精度の高い測定が
可能となる。図
図
測定原理
に各々のスキャナの探傷不能
領域を示す。
.装置構成
TTMS はスキャナ、インターフェース、制御
用パソコンの
つのユニットから構成されてい
る。
⑴
超音波センサ
超音波法が不得意とする腐食先端部の反射面
積の小さい減肉部からの反射波をより高い振幅
で得られるように振動子取付角及び振動子寸法
を設計し、実際のタンク底板腐食部切出し試験
図
20ch スキャナ
片を用いて検出性能の確認を繰返し行い開発し
た広帯域二振動子探触子を採用している。
⑵
超 音 波 センサー
渦 流 センサー
超音波探傷器
膜厚計
スキャナ
スキャナは図
キャナと図
傍用の
に 示 す 一 般 部 用 の 20ch ス
に示す底部板×側板隅肉溶接部近
ch スキャナがある。
スキャナ本体にコンパクト化した探傷器及び
ガイドロー
膜厚計を搭載することで、太く長い探傷ケーブ
ルをなくした。これにより、スキャナの操作性
水 供 給 ホース レーザー照 準 器
が向上し、探傷ケーブルが検出する外来ノイズ
が低減され、また探傷ケーブル自体の断線故障
等による装置トラブルの減少を図っている。
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図
スキャナ詳細
エ ン コ ーダ
⑶
インターフェース
複数の入力をひとつの信号として出力するマ
ルチプレクサ方式により探傷器と制御パソコン
を通信させることで、測定データを複合ケーブ
ル
図
本で高速に転送可能とした。
1ch スキャナ
図
⑷
マルチプレクサ方式
制御用パソコン
測定中に超音波波形の
∼20ch を同時に表
示する A スコープ波形と測定板厚値に応じた
色調により平面的に表示する C スコープ画像
をリアルタイムで表示可能であり、異常表示や
不表示が発生した場合、即時に再測定を実施す
ることが可能である。図
に探傷画面及び探傷
中の C スコーブ画像を示す。
また、測定中の20ch の全ての波形収録を行
い、測定後に、全ての波形確認を行う事が可能
図
隅肉溶接部近傍の測定不能領域
図
である。これは、介在物と減肉部との確認、減
探傷画面及び探傷中 C スコーブ画
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肉部先端の反射面積が異常に狭く、極端にエ
マップとして表示することで、板厚の分布状況
コー高さが低い個所でも波形確認を行い、波形
を視覚的に把握することができ、また底部板全
から最小肉厚値を再測定可能である。また、自
体や底板、アニュラ板一枚ごとの最小値、平均
動解析による板厚表示を行っているが、収録さ
値なども自動算出し、データを一括管理するこ
れた波形を確認することにより、より信頼性の
とが可能である。図 にアニュラ板の詳細記録
高い評価を行う事が可能である。
を示す。消防危27号通知で示される項目及び各
測定値はその値に応じた色調によりカラー
図
所轄消防所局、消防本部が指定する項目を満た
板毎表示記録
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表
位置検出精度
装置性能
走査方向
±10㎜
走査方向に直角
±7.5㎜
エンコーダ精度
±2.5㎜/500㎜(走査方向のみ)
連続測定ピッチ
5㎜
測定(走査)速度
600㎜/ s 以下
測定可能な鋼材の板厚範囲
3.0㎜∼36.0㎜
測定可能なコーティング材
種類
最大厚さ
ガラスフレーク
2.0㎜
エポキシ
2.0㎜
タールエポキシ
2.0㎜
亜鉛塗料
0.3㎜
連続測定精度
±0.2㎜
温度安定性
±0.1㎜/0℃,50℃(20℃基準)
時間安定性
±0.1㎜/4H
電圧安定性
±0.1㎜/85V∼135V
す最小板厚値、最大減肉部のφ120、φ600の平
波が伝達できないコーティング材料(特定年代
均値、肉厚値の面積率等を表示可能である。
に施工されたガラスフレーク)②表面凹凸の著
しいコーティング底板
③介在物の多い底部
.装置性能
④細い孔食の多いタンク等については超音波法
危険物保安技術協会による危険物関連設備等
に よ る 連 続 板 厚 測 定 が 困 難 と な る た め、
の性能評価の審査を受けるために消防危第27号
SLOFEC による検査を適用する。また、
通知の「連続板厚測定装置に関する性能」
に従っ
のタンクで比較的腐食減肉の少ない底板に対し
て実施した性能測定結果を表
ては、探傷スピードが速く、コストが安価な
に示す。
基
SLOFEC、腐食発生確率が高く、構造上厳しい
.まとめ
応力環境にあるアニュラ部については、TTMS
消防法を満足する測定性能及び現場操作性能
を適用する組合せにより検査コストの低減と検
の優れた超音波法によるタンク底板連続板厚測
査精度の向上を行うことにより理想的なタンク
定装置 TTMS を開発することができた。
検査が運用される。
今後の連続測定の運用にあたっては、①超音
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