東京圏と大阪圏の人口動態比較に見る経済成長の裏側

経済調査室 自主研究
東京圏と大阪圏の人口動態比較に見る経済
成長の裏側
自主研究
No.5
~人口減少時代において、地方圏で求人需要の充足が
かなわない現実~
公益財団法人大阪市都市型産業振興センター
経済調査室長 徳田 裕平
目 次
1.はじめに
2.東京圏の人口動態と経済成長との関係性
3.大阪圏の人口動態と経済成長との関係性
4.東京圏と大阪圏の年齢階層別で捉えた人口動態の比較
5.移動誘因となる人材需給のひっ迫度から捉えた東京圏と大阪圏の差異
6.おわりに
~今後の人口動態の見通しと大阪圏の方向性~
要
約
本稿では、東京圏と大阪圏の人口の社会移動に着目し、その変化の動きと経済動向との関係性を分析
した。この結果、経済がプラス成長である年には東京圏への人口移動がさらに加速する一方、マイナス
成長である年には人口移動にブレーキがかかることを実証した。他方、大阪圏は東京圏への人口移動の
供給/調整機能を担っており、経済動向や東京圏への人口移動変化とは真逆の方向で推移していること
を確認した。
また、人口移動の中心となる年代は 15~29 歳までの若者層であり、東京圏へはこうした年代が大
勢流入していることが明らかとなった。他方、大阪圏では大学や企業が集積していることから、15~19
歳の年代でこそ人口が流入しているものの、大卒・大学院卒の階層に相当する 20~24 歳の層でも吸収
力が衰えつつあり、25~39 歳の層では定常的に人口流出となっていることを示した。
こうした背景には、景気回復による求人需要が東京圏で先行して活発になることがあり、それが人
口流入の誘因となっていることを実証した。さらに、大阪発祥の企業を含め、東京への本社機能シフト
がこれまでに相当に進展したことも影響していると考えられ、特に大阪発祥の企業では東西の人材配置
をシフトしやすい状況にあることの影響も指摘できよう。
大阪圏でも求人倍率は極めて高水準にあり、人材不足が深刻化しているにも関わらず、人材が東京
圏に流出している現実がビジネス原理にかなっているのであれば、このような人口移動メカニズムを逆
流させることは不可能であろう。2015 年度もプラスの経済成長が見通されており、益々、大阪圏から
の人口流出、東京圏への人口流入が加速することはほぼ確実であり、大阪圏では経済成長に向けた制約
がより厳しくなるものと推察される。折しも、政府は地方創生を精力的に推進しつつあるが、仕事があ
るだけでは人口流出を食い止められない現実を皮肉にも大阪圏は実証しているのである。
経済のプラス成長を大阪圏で勝ち取るために残された方法は、現有人材のビジネススキルを高めつ
つ、労働装備を充実させて労働生産性を向上させ続ける以外に道は無さそうに思える。
1 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
経済調査室 自主研究
1.はじめに
阪圏に着目して、日本の経済成長との関係性
を分析・考察する。
2014 年の住民基本台帳人口移動報告が 2 月
2.東京圏の人口動態と経済成長との
5 日に公表され、東京圏の転入超過数(日本
関係性
人のみ、1~12 月の合計)は 13 年よりも 1 万
2,884 人増加して 10 万 9,408 人に達し、5 年
ぶりに 10 万人超を回復した。一方、大阪圏
図1は 2001 年以降について、東京圏の社会
及び名古屋圏は2年連続の転出超過という
増加(転入超過数、ΔP)とそれを前年末の
結果となった。また、外国人を含めると、東
推計人口(ただし、ここでは自然増減分を加
京圏の転入超過数(社会増加)は 11 万 6 千
算せずに、社会増減分のみを加算した仮想的
人にまで増え、名古屋圏も転入超過に転ずる
推計人口を用いている)で割った“社会増加
のに対して、大阪圏はさらに 2 千人近く転出
率(転入超過率)”の推移である。これらの
が増える結果となる。
変動を各平均値と対比させつつ、より詳細に
周知のように、日本の人口は 2008 年をピ
見ると、リーマンショック前の好況期が山を
ークに減少局面に転じたにもかかわらず、東
形成する一方、ショック後から東日本大震災
京圏(1都3県)への転入超過のトレンドは
後にかけては谷を形成しており、景気変動の
持続しており、東京一極集中に何ら変わりは
影響を受けていることが読み取れる。2014 年
ない。日本の3大都市圏と言いながらも、こ
の社会増加は回復軌道をたどりつつあるも
のように人口動態だけを見ても異なる状況
のの、14 年間の平均値にはまだ達していない。
にある現実があらためてわかる。
また、この 14 年間を合計すると、滋賀県の
本稿では、こうした人口動態(社会増減
人口を 10 万人以上上回る 154 万人が東京圏
に限定)について、変動が激しい東京圏と大
図1
に転入しているのである。
東京圏の社会増加(転入超過数)と社会増加率
(万人)
(%)
20
0.5
社会増加
18
平均:0.323%
社会増加率(右軸)
16
0.4
平均:110,344人
14
12
0.3 社
社
会
増 10
加
8
0.2
会
増
加
率
6
4
0.1
2
0
0.0
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
注:社会増加率は社会増加を前年末の人口で除した値であるが、ここで使用している人口は自然増減分を加算せず
社会増減分のみを加算した仮想的推計値である。(以下同様)
資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
、「人口推計」
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このように、東京圏への一定程度の社会増は
図2
揺るぎない現実であるため、ベースとなるトレ
人
口
(P)
ンド的増分の影響を除外した変化を捉えるため
に、ここでは、図2に示すような社会増加(Δ
社会増加の前年差
Δ^2P3=ΔP3-ΔP2(<0の場合)
ΔP4
Δ^2P2=ΔP2-ΔP1(>0の場合)
P)の前年差(Δ^2Pt=ΔPt-ΔPt-1、
人口の2階微分的な意味)のデータ系列を導入
ΔP3
…
ΔP2
する。そして、この微小な社会増の変化と経済
ΔP1
動向を示すGDP成長率(暦年)の動向を対比
させて考察する。
(注:2014 年 4 月に消費増税
があったことから、駆け込み需要期の 1-3 月期
とその反動を受けた 4 月以降の影響を相殺する
ためにも、暦年ベースの方が経済の動きが平準
化されていると言える。
)
P0
図3がこの分析結果であり、両者のプラス/
P1
P2
P3
P4
…
抑制気味で推移したために異質な変化になった
マイナスの符合や増減の傾向は 05 年以降の 10
と考えられる。
年はほぼ完全に一致している。ちなみに、両者
両者の相似的な動向から言えることは、経済
の符合が異なる 2010 年はリーマンショックの
が成長している年には東京圏への転入がより一
影響がまだ尾を引いており、景気回復に確たる
層多くなり、経済が減速した年には転入が減る
自信が持てない状況であったため、社会増加が
という現実に他ならない。
図3
社G
会D
増P
成
加長
の率
前
年(
%
差)
(
万
人
)
東京圏の社会増加の前年差とGDP成長率の推移
6
0.15
4
0.10
2
0.05 会
社
増
加
0.00 の
前
年
差
-0.05 の
人
口
-0.10 比
(
%
)
0
-2
社会増加の前年差
-4
GDP成長率(名目)
GDP成長率(実質)
-6
-0.15
社会増加の前年差の人口比
-8
-0.20
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
、「人口推計」、内閣府「国民経済計算」
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3.大阪圏の人口動態と経済成長との関係性
2県)であろう。
そこで、図1に示した東京圏での社会増の推
2.で見てきたような景気変動による東京圏
移を大阪圏で同様に描いたのが図4であり、社
への人材の供給/調節機能を担うエリアとして
会動態は長期で転出超過のトレンドが基調とし
有力視されるのは、多くの就業者や大学生を抱
て続いており、例外であるのは東日本大震災が
えているものの、経済の成長力で見劣りする、
生じた 2011 年とその翌年に限られていること
わが国第二の大都市圏:大阪圏(ここでは2府
が確認できる。
(万人)
図4
大阪圏の社会増加(転入超過数)と社会増加率
(%)
1
0.05
社会増加
社会増加率(右軸)
0
0.00
-1
社
会
増
加
-0.05 社
-2
-0.10
平均:-13,235人
会
増
加
率
平均:-0.072%
-3
-0.15
-4
-0.20
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
、「人口推計」
そこで、東京圏と同様に、大阪圏についても
に転じて以降、経済がプラス成長する年には、
長期の社会減少トレンドの影響を除去した変化
より高い成長が期待できる東京圏へ大阪圏から
を分析するために、社会増加(転出超過の場合
の転出者がより一層増え、マイナス成長の年に
はマイナス)の前年差(Δ^2Pt)のデータ系
は東京圏でも人材が余剰気味になることから、
列を導出して景気変動との増減関係を対比させ
大阪圏からの転出者が減り、時には転入超過と
て分析・考察する。
なる年も生ずるという事実である。
この結果が図5であり、2007 年以降、14 年ま
での 8 年を通じて、社会増加の前年差(絶対人
以上、2.と3.の分析から、仮説であった
数、およびその人口比)と経済成長率のプラス/
「東京圏に対する大阪圏の人材供給/調節機能」
マイナスの符合は逆になっていることが確認で
は残念ながら正しいことが検証されたわけであ
きる。
る。
このことより、日本の人口が増え続けていた
時期には大阪圏の社会増加も経済成長と歩調を
合わせてプラスを維持できたが、人口減少局面
4 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
経済調査室 自主研究
図5
社G
会D
増P
成
加長
の率
前
年(
%
差)
(
万
人
)
大阪圏の社会増加の前年差とGDP成長率の推移
6
0.15
4
0.10
2
0.05
社
会
増
加
の
0.00 前
年
差
-0.05 の
人
口
比
-0.10
(
%
)
0
-2
社会増加の前年差
-4
GDP成長率(名目)
GDP成長率(実質)
-6
-0.15
社会増加の前年差の人口比
-8
-0.20
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
、「人口推計」、内閣府「国民経済計算」
4.東京圏と大阪圏の年齢階層別で捉えた
特徴を東京圏と大阪圏で比較分析する。
人口動態の比較
図6は東京圏と大阪圏の年齢階層別の社会増
加を経年的に示した図であるが、一見して変化
2.や3.では全年齢階層を合計した社会動
パターンには大きな違いが見られる。詳細に見
態(転出入)の動向を分析してきたが、2010 年
ると、20~49 歳の階層で東京圏がプラスである
以降に関しては社会動態に関して年齢階層(5
のに対して、大阪圏がマイナスとなっており、
歳階級)別のデータが公表されているため、そ
逆方向であることがわかる。
の5年間の推移を年齢階層別に分析して、その
図6 東京圏と大阪圏の社会増加の年齢階層別推移
(万人)
7
(万人)
0.8
2010年
6
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2010~14年平均
0.6
2011年
5
2012年
0.4
4
2013年
0.2
2014年
3
0
2010~14年平均
2
-0.2
1
-0.4
0
-0.6
-1
-0.8
45
50
55
60
65
70
75
80
85
39
44
49
54
59
64
69
74
79
84
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資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
5 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
90
40
89
34
84
35
85
79
29
80
74
30
75
69
24
70
64
25
65
59
19
60
54
20
55
49
14
50
44
(
歳
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~)
15
45
39
9
40
34
~ ~
10
35
29
4
30
24
5
25
19
0
20
14
90
15
9
4
(
歳
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~)
10
5
0
~ ~
経済調査室 自主研究
15 歳以上の階層を順次見ていくと、15~19
り、そして 25~29 歳の層では一転して急降下し、
歳の社会動態は両圏域ともに大学や専修学校な
2014 年にはマイナス圏にまで落ち込んでいる。
どへの進学や他圏域からの高卒者の就職でプラ
30~34 歳までの累積では 4 年ともにマイナス圏
スとなっているが、大学などを卒業して就職す
に達しており、それより年長の階層でもさらに
る 20~24 歳の層を見ると、東京圏は 15~19 歳
マイナス幅がゆるやかに拡大するパターンとな
の社会増加数の2倍程度となり、東京圏以外の
っている。
若者を大量に吸収しているのに対して、大阪圏
こうした結果が示す意味を考察する。大阪圏
では何とかプラスを維持しているものの、その
では大学の入学や高卒者の就職により 15~19
数は 15~19 歳の社会増加数の半分程度に過ぎ
歳の層では転入超が 5 千人規模となるが、大学
ず、吸収力が弱いことを示している。25~29 歳
卒業・就職時期に当たる 20~24 歳の転入者数は
以上の階層では東京圏が依然としてプラス基調
この3年間で急激に減っており、2014 年には 1
にあるのに対して、大阪圏はマイナス基調に転
千人割れとなっている。社会人としてのビジネ
じており、正反対の移動パターンとなっている
ス能力を備えて、企業の戦力となりつつある若
ことがわかる。
手~中堅人材層では逆に年々転出者数が増えて
図6の描画方法を変更して、年齢階層の累積
いる。2014 年を見ると 25~29 歳の層の転出者
社会増(0~4 歳の階層から順次、増減数を累積
数は 15~24 歳の転入者総数にほぼ匹敵し、蓄え
させた形式)で描いた結果が図7である。2011
た人材を放出している状況にあり、これに加え
年と 12 年は東日本大震災の影響で特異パター
て 30~39 歳の層がそれ以上に転出しているの
ンであるため考察対象外とすると、東京圏では
である。さらに管理職層(無論、単身赴任では
15~24 歳にかけて急増し、それより年長の階層
ない場合、配偶者など無業者も含まれることに
も 50~54 歳の階層まではなだらかに増加する
留意)までが大阪圏から東京圏へ移動する人材
パターンが常態であることがわかる。他方、大
シフト・パターンが定着し、その流れが景気回
阪圏で急増するのは 15~19 歳の層に限られて
復で一層顕著になっているという現実が浮き彫
おり、20~24 歳の層では上昇勾配が緩やかとな
りとなるのである。
図7
東京圏と大阪圏の社会増加の年齢階層別推移
(万人)
12
(万人)
1.5
11.2
10
1
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2010~14年平均
8
0.5
6
0
4
2
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2010~14年平均
-0.5
-0.8
-1
0
-2
45
50
55
60
65
70
75
80
85
39
44
49
54
59
64
69
74
79
84
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資料:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
6 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
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40
34
89
35
84
29
85
79
30
80
74
24
75
69
25
70
64
19
65
59
20
60
54
14
55
49
15
50
44
9
45
39
10
40
34
4
35
29
5
30
24
0
25
19
90
20
9
14
4
15
5
-1.5
(
(
歳
歳
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~) ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~)
10
0
~ ~
経済調査室 自主研究
5.移動誘引となる人材需給のひっ迫度から
捉えた東京圏と大阪圏の差異
景気回復期では東京圏の方がより早く上昇軌道
に乗り、近畿圏との差は拡大の一途をたどって
いることが確認できる。また、金融危機前の
3.や4.で分析したような人口移動パター
2004~07 年の好況期を見ても、東京圏の求人倍
ンの東西の違いを生む原因として、景気回復に
率は近畿を絶えず上回っており、ピークを早く
伴う人材需要の高まり具合に格差があることが
迎え、人材確保が進んだことがわかる。
考えられる。
こうした動向から、東京圏の方が早期に繁忙
そこで、ハローワークにおける新規求人倍率
期を迎え、人手不足の状況にいち早く達すると
(季節調整値、四半期平均)と実質GDPの動
ともに、先行しているがゆえに人材の確保も比
向を対比したのが図8である。まず、経済がど
較的順調に進展したことが示唆される。図8は
ん底にあった 2009 年を見ると、東京圏、近畿(大
求人倍率の推移であるが、求人数では東京圏
阪圏+滋賀県+和歌山県)ともに新規求人倍率
(609 千人、2014 年Ⅳ期)が大阪圏(400 千人、
は 0.8 前後で同水準にあった。その後の景気回
同)の 1.5 倍で 200 千人以上も多いのである。
復期には金融危機の再来を懸念したためか、求
東西に拠点を構える企業では多くの業務量をこ
人需要は急速には高まらなかったものの、2011
なす必要に迫られる東京圏に人材をシフトする
年後半からの震災復興期やアベノミクスによる
対策が自然に取られることになる。
図8
新規求人倍率(東京圏、近畿圏)とGDPの推移
(倍)
(百兆円)
2.25
5.40
東京圏
近畿
2.00
5.30
実質GDP
1.75
5.20
1.50
5.10
1.25
5.00
1.00
4.90
0.75
4.80
ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
資料:厚生労働省「職業安定業務統計」
、内閣府「国民経済計算」
以上の考察を踏まえ、社会増加の統計が得ら
社会増加前年差人口比は 2003 年以降、ほぼ同様
れる年間ベースでの分析を行う。具体的には、
なパターンで推移していることが確認される。
東京圏における社会増加の前年差の人口比と新
GDP成長率との対比では、求人倍率が 1.5 倍
規求人倍率、およびGDP成長率の推移比較で
を上回るとプラス成長となるような関係が概ね
あり、図9にこの結果を示す。新規求人倍率と
認められる。
7 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
経済調査室 自主研究
図9
東京圏における新規求人倍率とGDP成長率、社会増加の推移
① 社会増加の前年差
の人口比(万分率)
② GDP成長率(%)
12
(新規求人倍率:倍)
2.25
10
社会増加の
前年差の人口比
8
2.00
6
4
2
GDP成長率
(実質)
1.75
0
1.50
GDP成長率
(名目)
-2
-4
1.25
-6
新規求人倍率
-8
1.00
-10
-12
2001 02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
0.75
14 (年)
資料:厚生労働省「職業安定業務統計」
、内閣府「国民経済計算」、
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
以上の分析結果を総合すると、東京圏が先駆
めて困難と考えられる。また、関西圏の学生で
けて繁忙期を迎えると、新規求人倍率が高まり、
も特に地方出身者は就職先として、求人需要が
学生や若者を中心に全国から新卒就職者、転
より活発な東京圏を第一優先にすることは不自
勤・転職者(その家族を含む)が東京圏に集ま
然ではない。これらの結果、学生や若者層を中
る結果、社会増加が一層増えるとともに、人材
心に大阪圏からの転出が進んでいるのが実情で
確保を確実にさせるためにも給与アップなどを
あろう。
推進し、それらが消費にも回る結果、経済の一
こうした人材の東京シフトは決して商業系や
層の好循環をもたらしている、と解釈すること
サービス業系のみで進展しているわけではない。
ができよう。
3 月末に発表された「工場立地動向調査(速報)
」
他方、大阪圏は学生数や雇用者数で東京圏に
を見ても、東京圏(1 都 3 県)の工場立地(電
次ぐ規模を誇っているうえに、大阪圏が発祥で
気業を除く、以下同様)件数が 2014 年は 11~
東京に本社を移転させた大企業も相当数に上る
13 年を大幅に上回る 106 件であったのに対して、
ことから、東西に主要拠点を構え、それなりの
大阪圏(2 府 2 県)の 14 年は 100 件に過ぎず、
人数を抱えた大阪・関西拠点を有する企業も少
11 年の 120 件を 2 割近く下回って低調に推移し
なくない。こうした状況において、東京圏で先
ている。さらに、エリアを関東圏にまで拡げる
行的に求人需要が高まり、企業が業績拡大を企
と、
件数で全国 1、2 位を誇るのは茨城県(75 件)、
図すれば、自ずと大阪圏の人材を東京圏にシフ
群馬県(63 件)であり、ものづくりでも拡大す
トさせる流れとなり、それに抗することは、本
る首都圏市場の周辺に集積が加速する動きが見
社機能の東京シフトが相当に進展した以上、極
られるのである。
8 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06
経済調査室 自主研究
6.おわりに ~今後の人口動態の見通しと
大阪圏の方向性~
日本全体で人手不足が深刻化し、大阪圏での
就業吸収力が弱まる事態が持続すれば、大阪圏
に転入して来る若者は大学等で勉強する人生の
2015 年度の経済見通しは、秋の再増税が 17
一時期のみを大阪圏で過ごし、卒業後は東京圏
年度に先延ばしとなったことや、原油価格が低
や地元などへ次第に転出していく短期在住型の
位で推移しそうであることから、2%近いプラス
都市圏に陥りかねないということである。
成長が期待されている。このため、本稿で分析
このような事態が定着することは、大阪圏と
した経済成長と圏域人口移動の関係が保たれる
しては是非とも回避したいところではあるが、
とすれば、東京圏の社会増加がさらに加速し、
東京にのみ集積していると言っても過言ではな
大阪圏からの流出がより一層増えることは確実
い ICT 産業への依存を時代はより一層加速させ
と言える。
ているうえに、2020 年の東京オリンピック/パ
年齢階層別では、若手~中堅層を中心に、東
ラリンピックまでの期間は人材需要で東京圏に
京圏への集中と大阪圏からの流出がさらに加速
分があることは確実であるなど、大阪圏が逆立
される事態となろう。特に、大阪圏では 20~24
ちをしてもはるかに及ばない状況を一気に打開
歳の層で社会増加が 1 千人以上も減少するペー
する妙案はなさそうに思われる。
スがこの 2 年間続いていることから、これが持
しかし、大阪圏がこのような状況に手をこま
続すれば初めてマイナス(転出超過)に転落す
ねいて無策であって良い筈は無く、できるとこ
ることも起こり得る。この結果、明らかにプラ
ろから着実に打開策を講じていく以外に道は無
スの社会増加を維持できる年齢階層が、大学等
いと考えられる。その具体策は今後の調査課題
への入学年齢や高卒者の就職年齢である 15~
とさせていただくが、大阪圏での経済のプラス
19 歳のみとなってしまうのである。
成長を実現するためには、現有の人材に実践的
図8に示したように、決して大阪圏で人材需
な研修を積ませてビジネススキルを高めるとと
要が低調なために東京圏に転出しているわけで
もに、ICT 化などを含めて労働装備率を向上さ
はなく、新規求人倍率は近年の最高水準を記録
せ、労働生産性を最大化する方向が基本路線で
し、人手不足は深刻であるにも関わらず、社会
あろう。大企業だけではなく、むしろ中小企業
動態は流出が続いているのである。統計的デー
の方がこうした具体策を実践する必要性に迫ら
タの裏付けができないので、以下は推論に過ぎ
れていると思われ、経営層の踏ん張りに期待し
ないが、恐らく、大企業など東京以外に大阪な
たい。
どにも事業拠点を構える企業では、東京に人材
を集中させることで労働生産性をより高める戦
略が推進されつつあるものと考えられる。ネッ
ト社会の浸透・拡大が急速に進展する状況もあ
いまって、企業の本社機能の東京シフトが依然
として続いていると思しき状況下、大阪圏での
就業の魅力/効果、ならびに社内権力は相対的
に弱まっていることが背景にあるのではなかろ
うか。
本稿での分析は住民移動報告という住民票を
ベースとした統計データを用いていることから、
長期出張などの命令を受けて東京で働く人数は
カウント外であることから、実態は本統計以上
に東京シフトしている可能性も十分にある。
9 | 経済調査室 公益財団法人大阪市都市型産業振興センター | 自主研究 No.5 2015.04.06