東京歌会(第二十八回) (木) 、 会場・文京シビックセンターB会議室。詠草は、各二首八首。出席者四名(市 平成二十七年一月十五日 川茂子、大石久美、小野澤繁雄、松井淑子) 。 ・冬 空 に 雲 広 が り て 沈 む 陽 の 傾 き 早 し ビ ル の 間 に 見 ゆ 市 川 茂 子 ま 「ビルの間に」という云い方が舌になじまないという。この時期(季節)の歌、把えるべき ところを把えている。ムリをしてはいないが、 「冬空に雲広がりて」と「沈む陽の傾き早し」 との間に関連は薄いようだ。 ・こ こ に き て 竹 の 打 ち 合 う 音 の す る 新 年 は 歩 み は じ め の み ち に 小 野 澤 繁 雄 「新年は」の「は」で、説明になってしまう。「はじめの」の「の」で歌を緩 上句はいい。 くしてしまった。下三句が締まっていないという。 ・群 青 の 風 に 吹 か れ て ひ と 刷 毛 に 描 か れ し 雲 の さ む ざ む と 白 河 村 郁 子 「群青の風」に、納得させられる、変でない、新鮮という声。また、 この日一番好評だった歌。 結句のよさにも声が集まった。全体にバランスがいい。 ・代 々 木 駅 の 地 下 に 繋 が る 石 階 を 亡 き 師 は 今 日 も う つ つ 駆 け ゆ く 大 石 久 美 地下鉄に繋がる石階を元気なときの師が駆けてゆく。その姿は、(今日の日も)「うつつに(駆 けゆく) ように」 みえた。校正をしに印刷所に通ったときのものだという。 「亡き師」とあるが、 生前は(結社内でも、本人の意向もあって)さん付けで呼んでいたという。亡くなってまだ 間がないのだ。心で読む歌。 東京歌会(第二十九回) 、会場・文京シビックセンターA会議室。詠草は、当日間に合わなかっ 平成二十七年二月十九日(木) た歌二首を含む各二首十二首。出席者五名(市川茂子、大石久美、小野澤繁雄、林博子、松井淑子)。 22 展景 No. 77 展景 No. 77 23 ・東 京 に 雪 降 る あ し た 画 面 に は イ ス ラ ム 国 境 し と ど 雨 降 る 大石久美 、雪と雨、その対比的な構成が注目された。また、東京の雪と「イ 東京と「イスラム国境」 スラム国境」の雨とにも意外性あり。現在の画面がつないでしまう遠近さ。歌は明快で、 「し とど」に感情がこもるようだ。 「イスラム国境」には山岳地帯があるようだが、流動的、限 定されにくいか。 ・初 春 に 到 来 し た る 胡 蝶 ら ん 一 部 屋 占 め て か が や き 放 つ 市川茂子 「到来したる」で、いただきものということがわかる。鉢ものか。部屋の大きさもあれこれ 云われたが、そう大きくもない部屋。そういう部屋を占有するようなかがやき、なのだ。気 分がみえる歌と。 ・通学班の朝に遅れて歩むみち霜柱、氷みな踏まれいつ 小野澤繁雄 こどもたちの姿が想像される。結句「みな踏まれいつ」が効いているとの評あり。 うすづ ・日 に 焼 け し 障 子 に 舂 く 淡 き ひ か り 時 止 ま り た る 亡 き 母 の 部 屋 林 博子 うすづ 「舂く」は夕日が(地平線、山に)沈む時をいう。過剰な説明はない。一つ一つのコトバが 重ねあわされている。 ・鳥 の 名 が 会 話 の 中 に 増 え て ゆ く ベ ラ ン ダ に 来 る セ グ ロ セ キ レ イ 布宮慈子 セグロセキレイの姿態にコトバが集まった。地域によってセキレイの種類はちがうと。ベ ランダに見ているところからは、 つれあいのような親しい者の間の会話だろう。春が近い(来 た)ことが実感されるような。何か光も感じられる。 せきれい ・妙正寺川を塒となせる鶺鴒か何ついばむや庭に来ている 丸山弘子 庭に来ている鶺鴒。より直接的な視線が感じられる。疑問符が二つ。妙正寺川にも思いが 及ぶような。ひとりのたたずまいがみえるようだ。 (小野澤繁雄) 24 展景 No. 77 展景 No. 77 25
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