道内製造業におけるグローバル需要の取り込み強化に向けて

2015年 4 月 1 日
日本銀行札幌支店
北海道金融経済レポート
道内製造業におけるグローバル需要の取り込み強化に向けて
本稿の執筆は札幌支店営業課
渡邉
玲雄
が担当しました。本レポートで示された意見は執筆者に
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照会先:日本銀行札幌支店営業課 橋本(TEL:(011)241-5232)
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1.最近の道内製造業の生産動向
○
最近の道内製造業の生産動向をみると、公共投資の減少の影響などから、国内向け建設
財など一部では弱めの動きがみられているものの、全体としては、堅調な海外向けを中心
に高水準で推移している。
海外向けの生産が堅調な背景には、海外需要の回復に加え、13 年頃からの円安の恩恵
もある。このため、北海道からの輸出も増加しており(図表1)、品目別にみると、アジ
ア・北米向けの魚介類や北米向けの輸送用機器などの増加が顕著となっている(図表2)。
【図表1】北海道からの輸出額
(十億円)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
【図表2】品目別の動向
(円/ドル)
140
130
120
110
100
90
80
70
60
輸出額(後方3カ月移動平均)
為替レート(右目盛)
50
40
07/1 08/1 09/1 10/1 11/1 12/1 13/1 14/1 15/1
(月)
(資料出所)函館税関「北海道貿易速報」、日本銀行
(十億円)
16
14
12
輸送用機器(後方3カ月移動平均)
魚介類及び同調製品(同)
10
8
6
4
2
0
07/1 08/1 09/1 10/1 11/1 12/1 13/1 14/1 15/1
(月)
(資料出所)函館税関「北海道貿易速報」
○
こうした中、海外需要取り込みに向けて、道内製造業が海外子会社等を設立する動きも
緩やかながら増えている(図表3、4)
。業種別にみると、輸送機械や食料品が増えてお
り、輸送機械からは「日系自動車メーカーが海外生産体制を強化していることに対応して
現地供給体制を整備する」という声が、食料品からは「海外における日本食需要の高まり
を受けて海外生産拠点を新設する」といった声が、それぞれ聞かれている。
【図表3】海外子会社・関連会社数(製造業)
【図表4】海外現地法人数(製造業)
(社)
40
(社)
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
輸送機械
食料品
その他製造業
35
30
25
20
15
10
5
0
06
07
08
09
10
11
12 (年)
12
13
(年)
(注1)図表 3、4の調査対象は、北海道に本社機能を有している企業。なお、二つは異なるサンプルに基づく調査
であるため、計数は一致しない。
(注2)図表 3 の調査対象は、従業員 50 人以上かつ資本金 3,000 万円以上の会社。なお、3 頁の図表 10 も同様。
(資料出所)北海道経済産業局「企業活動基本調査
(北海道経済産業局管内分)」
(資料出所)日本貿易振興機構北海道貿易情報センター「道内
企業の海外事業展開(貿易・海外進出)実態調査」、
「道内の海外企業進出リスト」
1
――
道内製造業の輸出および海外現地法人設立地域のウェイトをみると、ともにアジア
や北米の比率が高く(図表5)、アジア向けの輸出企業からは、
「現地需要の一層の取
り込みや輸送コスト削減などを企図して海外に生産拠点を設置した」との声が聞かれ
ている。
【図表5】道内製造業における輸出および海外現地法人設立地域
現地法人
(製造業)
輸出
0%
20%
アジア
40%
北米
60%
西欧
80%
中東欧・ロシア
大洋州
100%
その他
(注)輸出は 14 年計。現地法人(製造業)は 14/2~3 月調査。
(資料出所)日本貿易振興機構北海道貿易情報センター「道内企業の海外事業展開(貿易・海外進出)実態調査」、
函館税関「北海道貿易速報」
○
一方、円安進行を受けて、生産拠点を海外から北海道内へ回帰させる動きは限定的であ
る。これは、近年、海外人件費が急上昇しているものの、道内と比較するとなお安価であ
る(図表6)ほか、食料品や木材・木製品では、価格競争力の観点からではなく、原材料
の確保を目的として海外に生産拠点を設置していることなどが背景にある(図表7)。
【図表6】アジア各国の月額人件費比較(一般工職)
【図表7】国内消費量の産地比率
(%)
80
(米ドル)
3,000
70
2,500
100%
80%
60
2,000
50
40
1,500
500
20
20%
10
0%
0
0
札幌
(日本)
ソウル
(韓国)
上海
(中国)
バンコク
(タイ)
ホーチミン ムンバイ
(ベトナム) (インド)
(資料出所)日本貿易振興機構「第 24 回アジア・オセアニア主
要都市・地域の投資関連コスト比較」、「第 20 回ア
ジア主要都市・地域の投資関連コスト比較」
2
40%
30
2010年4月調査
2014年5月調査
上昇率(右目盛)
1,000
60%
塩干、
くん製、
その他
肉類
牛乳及び 木材
乳製品 (用材)
海外産(輸入)
国産
(資料出所)農林水産省「平成 25 年度食料需給表(概算値)」、
北海道水産林務部「平成 25 年度北海道木材
需給実績」
2.道内経済への影響
○
こうした中、道内製造業では、海外売上高の増加が企業業績を下支えしている先がみら
れるほか、堅調な海外需要をさらに取り込む目的から、雇用を拡大させる先や大規模な設
備投資を実施する先もみられている(図表8)。
【図表8】業績改善、雇用拡大、設備投資の実施事例
円安定着もあってアジアを中心に輸出が増加し、海外売上高が大きく伸
A社
(農業機械) 長。国内需要が弱めの動きとなっている中、売上を下支えしている。
B社
(食料品)
人口減少や高齢化などにより国内売上高は伸び悩んでいるものの、海外の
日本食需要の高まりを受けて、海外売上高は前年比+2 桁のペースで増加。
C社
北米で自動車需要が増加していることから、道内の製造ラインを増強し、
(輸送機械) 新たに従業員を雇い入れた。
D社
中国のスマートフォンメーカーからの引き合いが強まっていることなど
(電気機械) から、増産に向けて能力増強投資を実施したほか、雇用も増加。
○
もっとも、北海道では、他都府県と比較して輸出企業の割合や海外進出比率が低いこと
から、こうした海外需要の増加のプラス効果は拡がりに欠ける。中小製造業における輸出
企業の割合をみると、北海道は全国最下位である(図表9)ほか、1 社あたりの海外子会
社・関連会社数でも、最下位グループに属している(図表10)。
【図表9】中小製造業における輸出企業の割合(社数ベース:2009 年)
5%
4%
3%
2%
0.7%
1%
北海道
長崎県
沖縄県
鹿児島県
青森県
大分県
宮城県
岩手県
宮崎県
秋田県
島根県
熊本県
愛媛県
富山県
徳島県
和歌山県
群馬県
山形県
香川県
石川県
福島県
高知県
鳥取県
茨城県
山口県
栃木県
広島県
岐阜県
福岡県
愛知県
佐賀県
岡山県
静岡県
合計
新潟県
山梨県
京都府
三重県
埼玉県
奈良県
兵庫県
大阪府
千葉県
福井県
東京都
滋賀県
長野県
神奈川県
0%
(資料出所)中小企業庁「中小企業白書(2012 年版)」
【図表10】1 社あたり海外子会社・関連会社数(製造業:2012 年)
(社)
6
5
4
3
2
1
0.07
沖縄県
大分県
秋田県
北海道
岩手県
鹿児島県
島根県
熊本県
青森県
宮崎県
山形県
長崎県
鳥取県
佐賀県
茨城県
宮城県
新潟県
福島県
奈良県
栃木県
山口県
岡山県
愛媛県
石川県
高知県
香川県
福岡県
徳島県
岐阜県
富山県
福井県
千葉県
群馬県
和歌山県
山梨県
滋賀県
三重県
埼玉県
長野県
広島県
兵庫県
静岡県
神奈川県
愛知県
大阪府
京都府
東京都
0
(資料出所)経済産業省「企業活動基本調査」
3
――
北海道は、他地域との比較で、輸入比率は然程高くないものの、輸出比率が小さい
ため、道内経済全体では円安の恩恵を受けにくい(図表11)。この点からも、製造
業の輸出比率を引き上げることが重要となる。なお、円安に伴う輸入原材料価格の上
昇については、足許の原油価格下落がその影響を緩和しているとみられる(図表12)。
【図表11】地域別輸出・輸入比率(全産業)【図表12】原油価格と投入物価指数
(2005年平均=100)
118
(%)
15
(米ドル/バレル)
140
10
116
5
114
0
112
▲5
110
80
▲ 10
108
60
100
106
(
▲ 15
120
北 東 関 中 近 中 四 九 沖 全
北
海 北 東 部 畿 国 国 州 縄 国
海
道
道
輸入比率
2
1
輸出比率
年
輸出入収支
40
104
投入物価指数(製造業総合・全国)
102
ドバイ原油(右目盛)
20
100
0
)
10/1
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
(月)
(注)「平成 17 年地域間産業連関表」から作成。北海道に
(資料出所)日本銀行「製造業部門別投入・産出物価指数」
ついては、「平成 21 年延長北海道産業連関表」も使用。
IMF「Primary Commodity Prices」
(資料出所)経済産業省「平成 17 年地域間産業連関表」、
北海道開発局「平成 21 年延長北海道産業連関表」
3.今後の展望および課題
○
今後、国内および道内需要は、人口減少・少子高齢化に伴い減少していく可能性が高い
一方、海外需要は、アジア圏の人口増加や所得水準の向上等に伴い拡大していくことが見
込まれる。このため、道内製造業が先行きの売上・収益を確保していくためには、更なる
輸出や海外進出を通じて、海外需要の取り込みを強化する必要がある。この際、長期に亘
って製品の競争力を維持するためには、
「北海道ブランド」による差別化や高付加価値化
を図ることが重要である。
○ こうした中、道内製造業からは、「海外での販路開拓や海外拠点の設立・支援等を行え
る人材の不足が、輸出増加や海外進出のネックとなっている」との声が聞かれている。こ
の点について、多くの企業では、
「社内教育による育成」や「海外実務経験のある人材を
中途採用する」といった対応を採っているが、中小企業における成功事例は限られる。
こうした人材を確保する上では、外国人留学生の更なる活用も選択肢として考え得る。
都道府県別の留学生数をみると、北海道は比較的上位に位置しており(図表13)、豊富
な人材供給源があるほか、最近では、道内企業の留学生採用の動きも強まっている(図表
14)。
4
――
因みに、本邦企業に就職する留学生の就職先をみると、半数以上が中小企業となっ
ている(図表15)。
○
また、外資系企業や日系グローバル企業との連携を強めることにより、海外での販路を
開拓したり、ノウハウを学び取ることも選択肢である。近年、道内において外資系企業の
進出が増加している(図表16)ことは、道内製造業にとって追い風になるものと考えら
れる。
【図表13】都道府県別外国人留学生数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
【図表14】道内企業への留学生就職数
(人)
160
(人)
60,515
13,707
12,513
8,477
7,074
6,512
6,508
5,529
5,525
3,462
2,817
2,816
東京都
福岡県
大阪府
京都府
愛知県
千葉県
埼玉県
兵庫県
神奈川県
大分県
広島県
北海道
140
120
100
80
60
40
20
0
09
(資料出所)独立行政法人日本学生支援機構「平成 25
年度外国人留学生在籍状況調査結果」
10
11
12
13
14
(年)
(資料出所)法務省入国管理局「平成 25 年における留学生
の日本企業等への就職状況について」
【図表15】留学生の中小企業就職率(全国)【図表16】道内における外資系企業の工場
立地件数
(件)
40
(人、%)
中小企業(300人未満)
中小企業
就職率
外資系企業の出資比率50%以上
同50%未満
35
企業規模計
30
製造業
1,319
50.1
2,634
25
うち食品
238
66.7
357
20
15
(資料出所)法務省入国管理局「平成 25 年における留学
生の日本企業等への就職状況について」
10
5
0
05
06
07
08
09
10
11
12
13
(年)
(資料出所)経済産業省「工場立地動向調査」
以
5
上