長期金利の低下はなぜ経済の懸念材料か

No.1
2015 年 4 月 6 日
長期金利の低下はなぜ経済の懸念材料か
公益財団法人 国際通貨研究所
経済調査部長 佐久間浩司
先進国にほぼ共通して長期金利の水準が低い。特に欧州では、水準の低さもさること
ながら、ここに至る変化のスピードが著しい。金利低下は、借入れ企業にとって一義的
には借入コストが下がるので都合がよい。景気低迷期に中央銀行が政策金利を下げて長
期金利低下を促す目的のひとつはそれである。しかし、現在の欧州の長期金利の低下は、
デフレ懸念の広がりと合わせて考える必要がある。
日米独の長短金利推移 / Long and Short term Interest Rates in Japan US and Germany
9
9
Japan 10Y
8
8
Japan 3M
7
9
US 10Y
7
6
6
5
5
5
4
4
4
3
3
3
2
2
2
1
1
1
2000
2005
2010
2015
0
1995
-1
2000
2005
2010
Germany 3M
7
6
0
1995
-1
Germany 10Y
8
US 3M
2015
0
1995
-1
2000
2005
2010
2015
(Source) Datastream
長期金利の低下には 2 パターンある。一つは通常の景気サイクルの中での低下で、こ
の時は、長期金利が下がる以上のスピードで短期金利が下がるのが一般的だ。市場関係
者の間では、イールドカーブの「スティープ化」という。金利水準の低下とイールドカ
ーブのスティープ化が同時に起こると、借りる側にとって金利が下がるので借りる意欲
が回復し、貸す側にとっても、短期調達の長期運用という商業銀行の基本的な資金構造
においては、利鞘を確保しやすくなるので貸出意欲が回復する。
二つ目は、今日の先進国のように、低インフレ環境下で長期金利が更に低下すること
だ。同じ長期金利の低下でも、経済へのインパクトは大きく異なる。短期金利が既にゼ
ロに達しているため、イールドカーブは、スティープ化ではなく逆に横に寝ることにな
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る。これを「フラット化」という。
通常景気サイクルの金利上昇・低下
現在進行している金利の低下
Rise and fall of interest rates in normal economic cycle
Current fall of interest rates
10
10
Tightening period
Easing period
9
8
8
7
7
6
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
-1
O/N 1M 3MS 6MS 12MS 3Y
5Y
Easing period
9
7Y
10Y
0
-1
Further easing 1
Further easing 2
O/N 1M 3MS 6MS 12MS 3Y
5Y
7Y
10Y
長短金利差が小さくなりすぎると、商業銀行は貸倒リスクを十分補てんするだけの利
鞘を確保することが難しくなり、貸出態度が硬化していく。貸出の低迷は企業の投資行
動を抑制し、実体経済が低迷してますます期待インフレ率が下がり、長期金利が更に下
がるという負のスパイラルが始まる。
この負のスパイラルは、今日のように長期金利もほぼゼロに達したところで一層大き
な不都合を生む。長期金利はそれ以上下がらないので、インフレ率がマイナスの域に入
ると、マイナス幅がそのまま実質金利の上昇幅となる。実質金利が上昇すると、借入れ
企業側にとっても借入意欲が削がれる。こうして経済が長期のデフレに陥るリスクがま
すます高まることになる。
これを避けるためには、ともかくインフレ期待を高めなければならない。旗振り役は
通貨の番人である中央銀行だ。中銀が「通貨価値を下げます」と宣言する必要がある。
これは、国民のマインドを転換させるきっかけとして不可欠だ。同時に、きっかけを作
っただけではだめで、人々のマインドが継続的にデフレからインフレに向かわなければ
ならない。そのためには実体経済の成長率も高まるという期待を醸成しなければならな
い。生産性向上の力を失ったゾンビ企業の退出を進め、サプライサイドのイノベーショ
ンを起こすような規制緩和を進め、出生率が上昇するような制度改革を進めるなど政府
の取り組みと、それに呼応した民間企業の行動が不可欠だ。
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