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IFRS導入プロジェクトの進め方(2)
アカウンティングソリューション事業部 公認会計士 鈴木恵美 米国公認会計士 山内正美
• Megumi Suzuki
日本のグローバル企業および外資系企業の監査経験を経て、財務会計アドバイザリーに従事。IFRS導入支援のほか、連結経営改革プロジェ
クト、US / J-SOX導入、決算早期化など、多数の案件に関与。
• Masami Yamanouchi
IFRSを含む会計基準の変更、グループ財務報告体制の構築、決算プロセス改善、シェアード・サービス・センター導入、内部統制構築な
どのアドバイザリー業務に従事。国内外の事業会社での制度会計や管理会計などの業務、および監査業務を経て現職。
Ⅰ はじめに
Ⅱ 会計方針の策定
前号で説明した通り、国際会計基準(IFRS)導入プ
会計方針の策定は、「検討」と「文書化」の二つに分
ロジェクトは通常幾つかのフェーズに分けて進めてい
けて考えられます。ここでは、それぞれで行う活動と
きます。今号では、「フェーズ1∼影響度調査」および
ともに、特に実施上のポイントと思われる項目につい
「フェーズ2∼導入計画の策定」を踏まえた「フェーズ
て説明します。
3∼対応策の検討と立案」を解説します。
「対応策の検討と立案」の主な活動に「会計方針の
1. 会計方針の検討
IFRSの会計方針の検討を行うために、まず、フェー
策定」および「開示の検討」があります(<図1>参照)。
▶図1 会計方針の策定・開示の検討−全体像
会計方針の策定
• 会計方針の検討
• 会計方針の文書化
整備方針の検討
課題の詳細調査
対応策の検討
課題一覧
ドラフト作成
グループ会社への確認
IFRS調整仕訳の検討
最終化
経理規程
開示の検討
会計方針の反映
開示分析、選択肢の洗い出し
スケルトン財務諸表の作成
対応策の立案、
連結パッケージの作成
16 情報センサー Vol.103 April 2015
○○株式会社
IFRS財務諸表
201x年3月31日
適用
マニュアル
グループ展開
会計方針の決定
▶表1 経理規程整備方針の検討項目(例)
整備方針
検討内容
体系
• 目次(章立て)
• 各章の記載項目などの骨子
• 適用ガイダンスを別冊とするか、経理規程本体に含めるか
運用ルール
• 更新担当者
• 更新の頻度、時期
• 展開方法
詳細度︵高︶
目的、内容、詳細度
• 誰がどのように使用することを目的とするか
• 記載の内容、詳細度
• 最低限共有すべき会計方針
• IFRS条文
• グループ固有の適用方針(IFRS適用上の解釈、数値基準など)
• 詳細な適用ガイダンス(設例・仕訳・勘定科目・処理手順など)
ズ2までに識別した個別課題について、対象となる取引
の担当部署などを交えた実態調査や他社事例調査を行
い、基礎情報を収集します。
また、会計方針を見直した場合、実際に会計処理が
2. 会計方針の文書化
次に、会計方針の文書化を行い、グループの経理規
程を作成します。経理規程に決められた様式はなく、
各社の要件を満たす様式・内容で作成します。
行えるよう対応策を検討します。そのため、対象とな
作成を開始する前に、作成の工程および完成後の運
る取引が会計データとして記録されるまでの現行のプ
用を考慮して、文書の整備方針を決めます(<表1>参
ロセスや、使用されている情報の把握を行います。こ
照)。留意するポイントとして、経理規程はIFRS改訂
の際、プロセスやシステムの変更による対応策の選択
(毎年)の都度更新を検討する必要があることを念頭に
肢を洗い出し、導入コストや数値の精度を比較分析し
置き、更新作業が煩雑にならないように考えます。例
て対応策決定の判断材料とします。例えば、手作業で
えば、条文の引用箇所を詳しく示しておくことなどが
対応する方法とシステム改修で対応する方法があり、
挙げられます。
それらを比較した場合、手作業の方が増分コストは低
経理規程は会社によってはボリュームが多く、数百
いけれども得られる数値の精度が低く時間も要すると
ページに及ぶこともあります。記載のレベル感を均一
いったケースがあります。このようにメリットやデメ
にし、効率的に作業を進めるため、記載ルールを作成
リットを比較し、会社としてどちらを採用するかの判
担当者に周知することが重要と考えられます。
断を行っていきます。
また、海外子会社のために英語版をIFRS条文から引
このような課題の詳細調査によって得た基礎情報と
用して作成する場合、原文の修正を極力避けた方が英
対応策の検討の結果を踏まえ、会計方針をどう見直す
訳工数を削減できます。また、原文から修正した箇所
かを決定します。重要な論点に関する検討の経緯と結
をすぐに特定できるという点で、日本語版と英語版の
論については、後日、社内や監査人を含めた社外への
同時作成が効率的であった事例もあります。
説明や会計方針のアップデートの際に有用なため、文
書化しておきます。
会計方針の決定後は、各国のローカル会計基準と
経理規程の作成方法は、一例としてIFRS条文や経理
規程の一般的なひな型などをベースとし、グループの
会計方針を加味して加工する方法があります。さらに、
IFRSとの間の調整仕訳を作成し、調整仕訳一覧として
整備方針に基づき、該当する取引例や関連する勘定科
まとめておきます。この際、勘定科目の新設や変更が
目など、グループ固有の適用方針を加えて仕上げてい
必要な項目も洗い出されるので、開示検討の結果と合
きます。
わせて、勘定科目一覧や連結パッケージの見直しの基
礎データとして整理しておくと有用です。
作成過程の重要なポイントとして、ドラフトの段階
で、海外を含む主要なグループ会社に対し、経理規程
の記載は十分か、準拠不可能な規定が含まれていない
かなどを確認することが挙げられます。経理規程のド
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ラフト作成前に、重要なグループ会社にあらかじめ、
IFRS財務諸表には、連結損益計算書の特別損益に相当
IFRSとの基準差異に該当する項目の有無を確認してお
する表示がない、経常利益という概念がないなど、日
くことも効率的なアプローチです。海外のグループ会
本基準と異なる部分も多いため、業績評価やIRへの影
社に該当項目がなければ、海外展開用の英語版経理規
響も考慮に入れて検討を進めます。
程に含めないということもできます。
また、作成はIFRSプロジェクトのメンバーを中心に
行われると想定されますが、他部署が関連する項目に
ついては営業・総務・人事などと連携し、実態に合っ
た内容となるよう実施します。
3. IFRS注記の検討
(1)IFRS開示要件の検討
開示要件を分析し、開示作成のために新たに取得す
べきデータと取得方法について検討します。親会社で
対応できるものもあれば、グループ会社から収集する
データもあります。また、対象会社が広範な場合もあ
Ⅲ 開示の検討
れば、ごく少数に限られる場合もあり、前者について
は連結パッケージで収集し、後者については個別に入
1. IFRS開示の特徴
一般的に、IFRSを採用すると開示ボリュームが増える
と言われますが、開示の検討はIFRS導入プロジェクト
手するなど、対応策を検討します。
(2)スケルトン財務諸表の作成
の中でも会計方針の策定と同じか、またはそれ以上の
開示内容を具体化・可視化するため、IFRS財務諸表
比重を占めると言っても過言ではありません。任意適
の骨組みとなるスケルトン財務諸表を作成します。開
用企業の中には、有価証券報告書の経理の状況が数十
示の検討が進むに従い、スケルトン財務諸表に会社
ページ増加したケースもあります。IFRSで新たに求め
独自の情報を追加し、外部公表するIFRS財務諸表の
られる開示も多く(<表2>参照)、注記用データ収集
ベースとします。スケルトン財務諸表の作成は、他社
のための連結パッケージの見直しや、重要な会計方針
事例の収集や開示の選択肢についての検討など、多く
や重要な会計上の判断、見積り及び仮定といった格段
の時間を要しますので、作成の目的や必要性を十分に
に増える説明的注記(定性情報)への対応のため、開
検討した上で、どのタイミングで、どのように作成す
示検討には十分な準備期間を設定します。
るか決定します。IFRS導入の社内意思決定から適用目
標年度までの日程がタイトなケースでは、スケルトン財
務諸表を作成せずに連結パッケージの要件定義を行っ
2. IFRS財務諸表本体の表示の検討
IFRSには、表示の順序や勘定科目などについて詳細
た事例もあります。また、連結パッケージ要件定義の
な定めがなく、会社独自の判断が求められます。また、
定性情報は後から作成するなど、作成スケジュールを
ベースとするため、まずは定量情報について作成し、
▶表2 IFRS特有の開示(代表例)
項目
特徴的な開示(例)
退職後給付(確定給付制度)
公表市場価格の有無で細分化した制度資産の種類別公正価値、重要な数理計算上の仮定の感応度
分析、確定給付制度債務の満期構成
金融商品
期日が経過しているが減損はしていない金融資産の年齢分析、市場リスクの種類ごとの感応度分析
公正価値測定
公正価値ヒエラルキー(レベル別の公正価値測定額)
有形固定資産、無形資産、引当金など
期首から期末までの帳簿価額の増減明細(連結ベース)
他の事業体への関与の開示
重要性のある非支配持分がある子会社・重要性のある関連会社の要約財務諸表
初度適用
調整表
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工夫した事例もあります。スケルトン財務諸表の作成
期プロジェクトとなり、関係者も多数となるため、綿
手順としては、任意適用企業の有価証券報告書や海外
密なスケジュール策定とプロジェクトマネジメントが
の同業他社のアニュアルレポートなどを基に、会社独
重要です。また、プロジェクト対応から通常の決算体
自の情報を追加していく方法が一般的です。
制での運用に定着化するところまで見据えて、IFRS
人材育成のための効果的な研修を実施しながら、対応
(3)連結パッケージの改修
を行う必要があります。
IFRS用の連結パッケージの整備方針に従い、連結
パッケージの要件定義を行います。連結パッケージの
整備方法として、日本基準の連結パッケージにIFRS
要件を追加するケースや、IFRS用に連結パッケージ
をゼロから作成するケースなどがあります。また、四
半期用の連結パッケージも整備する必要があります
が、通常は年度用の連結パッケージの一部が四半期用
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の連結パッケージとなるため、最初に年度用の連結
パッケージを整備し、四半期で収集するパッケージ
フォームを特定することで、四半期用の連結パッケー
ジを作成するアプローチが多く採られます。当該整備
方針についても「フェーズ2 ∼導入計画の策定」で検
討しておくことが推奨されます。また、IFRS調整仕
訳などを踏まえ、IFRS勘定科目についても合わせて
検討します。連結パッケージの要件定義を行ったら、
通常はシステムチーム(社内のシステム部門や外部の
ベンダーなど)に引き継ぎます。タイミングについて
はシステムチームと事前に協議し、連結システム改修
に要する期間などを勘案し、プロジェクト全体計画に
反映しておきます。
(4)グループ会社への展開
連結パッケージは、IFRS財務諸表の作成スケジュー
ルに従い、グループ会社に展開します。各社がタイム
リーに報告データを作成するため、移行日より前に整
備するのが理想的です。移行日に間に合わない場合
は、連結パッケージ案を作成した段階で各社に展開す
るなどの工夫をします。例えば、連結パッケージの要
件定義を行った段階で、スケルトン財務諸表を更新し
て作成したIFRS財務諸表案や連結パッケージ案をグ
ループ会社説明会などを通じて、グループ会社に周知
する方法などが考えられます。
Ⅳ おわりに
前号に引き続き、IFRS導入プロジェクトの進め方
の概略を解説しました。IFRS導入は、数年に及ぶ長
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