一般講演 「北海道における地盤防災に関する研究」 (独)土木研究所寒地土木研究所 寒地基礎技術研究グループ 寒地地盤チーム上席研究員 山梨 高裕 ただいまご紹介いただきました山梨と申します。私 たちのチームでは、北海道をはじめとする寒冷地にお ける地盤についての研究をしておりますが、今日は特 に防災に関する部分の研究について紹介をさせていた だきます。 まず、北海道における地盤あるいは地盤災害の特徴 について紹介をさせていただきます。 一つ目は、北海道には非常に軟弱な地盤が広く存在 しており、特に代表的なのが泥炭で、日本の泥炭面積 の6割は北海道に存在していると言われています(図 -1) 。 左の図が、日本における泥炭の分布状況でございま して、赤い部分が泥炭地でございますが、本州では東 日本を中心に小さい泥炭地が点在しているという形な んですが、北海道では泥炭密集地が石狩平野、道東、 道北、海岸部を中心に分布しています。 泥炭は、非常にやっかいな存在でございまして、例 えば、右の写真のように道路盛土が波打ってしまうと いうことがございます。 泥炭とは、枯死した湿性植物が長年にわたり分解が 不十分のまま堆積したもので、写真(図-2)の中央 が、良く見られる一般的な泥炭なんですけども、分解 が進むと、右の有機質粘土になります。分解が一般的 な泥炭よりも不十分な場合は、左の繊維質泥炭といい まして、植物の繊維が残っている、こういった泥炭も 図-1 北海道には多くあると言われています。泥炭の特徴と しては含水比が高くて有機物を多く含むということ 分布というのは偏りがあるのかなと思います。黒い部 で、その結果、強度が著しく弱く、泥炭地盤上の盛土 分が、火山灰が特に分布しているところなんですが、 が崩壊するとか、また圧縮性が極めて高いということ 多いのは九州、一般にシラスと呼ばれています。関東 で、先ほどの写真のように大きな沈下を生じるという には関東ローム層があり、東北にも少し分布していま ことがございます。 すが、やっぱり北海道が多く、道南から道東にかけて、 また、泥炭は砂質分がほとんどないということで、泥 火山灰が広く分布しています。 炭地盤は液状化しないということが、分かっています。 火山灰がやっかいなのは、工学的な性質が特殊、多 二つ目の特徴は、北海道の総面積の約40%に火山灰 様ということで、噴出源によって特徴も変わってくる 質土が分布するということでございます(図-3) 。火 ということで、北海道でも、駒ヶ岳、有珠山、樽前山、 山灰というと、今年、御嶽山の噴火という痛ましい事 十勝岳、雌阿寒岳など多くの噴出源があります。また、 故もありましたけれども、全国的に見ると、火山灰の 地震時には液状化してしまう火山灰もあるということ 34 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-2 図-4 図-3 図-5 で、図の赤い星印が火山灰の地盤で液状化した実績の ある箇所を示しています。関東ローム層は、非常に土 粒子が細かく液状化はしないと言われていますが、北 海道は、液状化の実績が多いということが分かってい ます。 三つ目の特徴は、寒冷地特有の厳しい気象環境で(図 -4) 、これは地盤災害の特徴になりますが、凍上現 象で、法面構造物に被害を生じたり、あるいは凍結融 解を繰り返すことによって、地盤が緩んで、法面が崩 壊してしまうといったことが、維持管理上の問題と なっています。 北海道にはこのような特徴があることを踏まえ、寒 図-6 地地盤チームでは、大きく分けて三つの研究分野がご ざいます(図-5)。一つ目は軟弱地盤ということで、 めていまして、今日はこの耐震対策について後ほど説 泥炭のような軟弱地盤の上にいかにして盛土などの構 明させていただきます。 造物を作るかということで、地盤改良技術に関する研 二つ目の研究分野は基礎、基礎杭の関係でございま 究を行っています。また、最近は耐震対策の研究も進 す。泥炭や火山灰は、一般の土と違う性質を持ってい 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 35 図-7 図-9 図-8 図-10 ることから特殊土と呼ばれており、当チームでは、特 て、まず紹介させていただきます。この写真(図-7) 殊土に杭基礎を作る場合の設計法、耐震対策、その耐 は、1993年の釧路沖地震において堤防が崩壊したとき 震対策の一環として複合地盤杭の開発などを行ってい のもので、人の高さと比較しても、かなり深く盛土が ます。今日はこの複合地盤杭を使った耐震補強技術の 沈下しているというのが分かります。このとき、河川 紹介をさせていただきます。 堤防や道路盛土に大きな被害を生じたということで、 三つ目の研究分野は土工です。先ほど少し触れた凍 詳細な調査が行われており、その調査結果を踏まえ、 上の問題ですとか、冬期土工の問題、それと不良土を 泥炭地盤上の盛土の地震被害メカニズムが分かってき いかに使うかリサイクルも含めての問題、また、盛土 ました。 の締固めですとか法面緑化、法面保護の問題などを研 具体的にどういう被害があったかということですが、 究しています。 これはさきほどの被害個所の断面図(図-8)ですけ そのような研究分野の中で、今日は防災減災関連と れども、沈下が2~ 3.5メートルあり、大きな開口亀 いうことで、三つの研究(図-6)を紹介させていた 裂が堤防の法線方向に生じています。また、のり尻付 だきます。一つ目が泥炭地盤における盛土の耐震補強 近に噴砂が確認されていますが、この噴砂は液状化の について、二つ目が軟弱地盤における杭基礎の耐震補 痕跡といわれています。先ほど、泥炭地盤は液状化を 強について、三つ目が切土法面の凍上対策についてで しないというふうに申し上げましたが、液状化の痕跡 す。 が見られたということで、詳しく調べてみると、泥炭 一つ目の泥炭地盤における盛土の耐震補強につい 地盤に盛土を施工すると、泥炭が沈下するので、盛土 36 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-11 図-13 図-12 図-14 がめり込むんですね。そのめり込んだ盛土が実は液状 ら、地震が生じたときに、この盛土の底部が液状化を 化しているということが分かってきました。 起こし、のり尻に水が逃げようとして、のり尻が泥濘 液状化の発生メカニズムは(図-9) 、ご存じの方 化してしまい、それに伴って、盛土がはらみ出し、盛 も多いと思います。まず、どういう地盤で液状化が起 土の天端が水平に沈下し、その際に大きなクラックが こりやすいかということですが、地下水位が高くて飽 生じるというのが、泥炭地盤上の盛土の液状化現象で 和状態にあるもの、粒径の大きさがそろった砂質地盤、 ございます。 それが緩く堆積しているということです。こういった これを、実験的に検証しようということで、模型実 地盤が、地震が起きると、土粒子同士のかみ合わせが 験を行っています(図-11) 。50分の1スケールで、比 変化して密になろうとして、土粒子の結合が離れて、 較のために良好地盤と泥炭地盤の実験をしています。 液状化します。 地震波は東日本大震災レベルのものを使用しています。 これを踏まえまして、泥炭地盤上の盛土の液状化現 これは実験後の模型を上から見た写真(図-12)で 象を紹介したいと思いますが(図-10) 、泥炭地盤上に すが、基礎地盤が良好なケースは比較的損傷も少ない 盛土をすると、3メートルとか5メートルとか、ひど ですが、基礎地盤が泥炭の場合は、大きなクラックが、 いものになるとそれ以上の沈下をしますが、泥炭地盤 堤防の法線方向に入っているということが見て取れま というのは水を通しにくい性質がありますので、この す。これは泥炭地盤の模型を横から見た写真(図-13) 沈下した部分が飽和状態になってしまいます。飽和し ですが、この縦横の線は実験前は直線に入っています。 た地盤というのは液状化しやすいということですか 実験後は、のり尻部が膨らんでいて、盛土の天端も下 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 37 図-15 図-17 図-16 図-18 がっているということで、盛土の被災メカニズムが、 阪神淡路大震災の時の橋脚が崩壊した事例です。この 実験でも概ね再現できたということでございます。 とき、阪神高速道路公団が杭基礎の調査も行っていて、 次に、具体的な対策についてですが、泥濘化対策と 右下のグラフを見ると、無傷な杭もありますが、被害 いうことで、法尻部にフトンカゴを2段、4段と積ん のあった杭もあったということが分かります。 だ模型実験を行っています(図-14) 。実験後の写真 また、阪神淡路大震災以降、橋脚補強や落橋防止な ですが(図-15) 、上の無対策に対して、フトンカゴ どの対策が積極的に進めてられてきていますが、通常、 4段の結果が下の写真でございますが、かなり被害は 当初の設計では、橋脚よりも基礎のほうを強く造ると 軽減されています。 いうのが一般的です。やはり基礎が壊れると橋梁全体 また、右のグラフは沈下量ですが、フトンカゴ2段 が駄目になりますから、基礎をまず一番強く造って、 の場合はあまり効果が出ていませんが、フトンカゴ4 壊れるのであれば橋脚から上のほうということに、当 段の場合では、無対策に比べ沈下量が3分の1程度減 初は考えます。それが耐震対策ということで、鉄筋コ 少したということで、今後、更なる検討、実験などを ンクリートや鋼板などで橋脚を巻立てて補強しますか 行い、耐震補強の設計法を確立していきたいというふ ら、右の図(図-17)のように、基礎よりも橋脚のほ うに考えてございます。 うが強くなっている橋が多くなっています。今後、大 次に2つ目のテーマ、軟弱地盤における杭基礎の耐 きな地震が来ると、基礎からやられてしまう、橋梁全 震補強について紹介したいと思います。杭の耐震補強 体の機能が崩壊してしまう恐れが強いということで、 の必要性についてですが(図-16) 、左上の写真は、 基礎の補強というのは、不可欠になるというふうに考 38 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-19 図-21 図-20 図-22 えてございます。 もさせていただいております。 ただ、現実的には基礎の補強というのはなかなか進 コンポジットパイル工法の施工法について、簡単に んでいません。従来工法としては、例えば増し杭工法 紹介します(図-20)。上が側面図で、下が平面図で ということで(図-18) 、既設の杭の周りに新しい杭 すが、左から右へが施工の流れです。まず杭の周りな を打つため、盛土の下に杭を打つには盛土を掘削しな んですが、杭はあまり傷つけたくないので、高圧噴射 くてはいけないとか、橋桁の下であれば、杭打ち機が 攪拌工で、杭径の半分くらい、このピンクの範囲を最 入るのかとか、そういった問題があって、長期の交通 初、施工をします。次は中層混合処理工法ということ 規制を伴ったり、コストが非常に大きくなったりとい で、最近はトレンチャー型の機械が出てきて施工効率 う懸念がございます。 も上がっているということで、こういった機械などで 寒地地盤チームでは、複合地盤杭という技術を使っ 必要な範囲の改良します。最後にこの上の残った部分 た耐震補強技術を開発しています(図-19)。これは、 を改良してやるということで、トレンチャー式であれ 橋脚の杭基礎の周囲を地盤改良してやるということ ば、同じ機械でできるので、効率よく施工できると思 で、地盤と杭が一体となってこの橋を支えるという工 います。 法で、従来工法の増し杭工法に対しては4割くらいの 具体的にこの工法を開発するに当たって、さまざま コスト削減、工期も半分くらいになると試算していま な実験を行っています(図-21)。左の写真が大型振 す。この工法をコンポジットパイル工法と命名しまし 動台実験装置で、実験台の上に模型を置きまして、東 て、2年前に特許を取り、昨年には、NETIS登録 日本大地震クラスの波などを振動台で揺らしてやると 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 39 図-23 図-26 改良しています。 実験結果ですが、無対策の場合(図-23)では、杭 の真ん中くらいで、許容ひずみの倍くらいの曲げひず みが発生しまして、右の写真のように杭が損傷をして いることを確認しています。これがコンポジットパイ ル工法の場合(図-24)は、無対策の場合に比べて、 曲げひずみが半分くらいに収まっており、杭も損傷し ていないことを確認しております。 これは実験後の模型の地表面の写真ですが(図- 25) 、左の無対策の場合は、地盤もかなり崩壊していま すが、右のコンポジットパイル工法の場合は、改良し 図-24 た地盤と未改良の地盤の境目にクラックは入るんです が、改良した地盤にはほとんど損傷は受けてないとい う状況です。 これは、再固化実験の状況なんですが(図-26) 、1 回目の実験で、実際は改良体にはクラックが入らない のですが、仮に1回目の実験で改良体にクラックが入っ たと想定して、意図的に壊してクラックを入れて、そ のクラック補修してもう1回同じ実験を行っています。 そのような実験をやっても、結果的に改良体は損傷し ないといったようなことも確認をしています。 コンポジットパイル工法の今後の課題についてです が、一つは、これまで泥炭地盤を対象に研究を実施し てきましたが、液状化対策としても使えないかという ことです。 図-25 これについては実験を始めたところですが(図- 27)、無対策の場合には液状化が顕著に発生している いう実験を行っています。 んですが、コンポジットパイル工法では、地盤に変状 実験模型の構造ですが、上が側面図、下が平面図で は無く、液状化抑えられているのが分かります。 す(図-22) 。左が泥炭地盤の無対策の場合、右のコ 杭の状況についても(図-28)、無対策の場合では ンポジットパイル工法では、杭の周りの泥炭の部分を 曲げひずみが大きな値となっているのですが、コンポ 40 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-27 図-29 図-28 図-30 ジットパイル工法では無対策の約4分の1に低下して おり、 泥炭の場合では5割くらいの低減率でしたので、 液状化の場合はより効果が大きく出る可能性があると いうふうに考えています。 もう一つの課題としては、橋台への適用です。橋台 については、背面土圧の扱い、橋台背面の地盤改良方 法など橋脚には無い課題も多くありますので、これら の解決を図り、コンポジットパイル工法の適用性を拡 大していきたいというふうに考えてございます。 次に本日最後のテーマ、切土法面の凍上対策につい てご紹介させていただきます。道路の凍上に関しては、 写真(図-29)のような路面のひび割れとか、路面の 図-31 波打ちなどが問題になることがありますが、凍上現象 をきちんと理解している人は意外に少ないんじゃない ます。もうちょっと詳しく申し上げますと(図-31)、 かなと思っています(図-30)。土の凍上現象は、地 左の図が土の凍結を表していて、この茶色の部分が土 盤中にアイスレンズが発生して、それが成長すること 粒子、青い部分が水と思ってください。土の凍結は、 によって地盤が隆起する現象、これを凍上と呼んでい この青い部分の水が凍った場合で、水と氷の体積増加 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 41 図-32 図-34 図-33 図-35 率は9%くらいと言われています。土に入っている水 う影響をもたらすかということですが、初冬期から厳 の量は限られていますから、仮にこの土が全部凍った 冬期にかけては(図-33)、寒気が表面から地中へ入っ としても、凍上を起こすほどの体積変化はないと言わ ていきます。その過程で、アイスレンズが地表面から れています。 何層にもできていきます。春になりますと(図-34)、 では、凍上というのはどういう現象なのかというこ 表面から暖気を受け、表面の地盤が融解して、アイス とですが、寒気が地表面から入ってきますと、上のほ レンズも融け、高含水比土の緩み層になります。 うから凍ります。下のほうはまだ凍ってないという状 凍っている地盤が残っている場合には、融解土と凍 況では、未凍土側のほうから水分が移動して、その水 土との境界面から崩壊するような事例もありますし、 分が凍土側と接するくらいの位置で凍って、アイスレ 背面から融雪水が入ってくるような地盤の場合には、 ンズを形成します。さらに凍結が進行していくと、ア 間隙水圧が上昇し、大規模に崩壊してしまうといった イスレンズが何層にもできて、アイスレンズの厚さで ことも懸念されます。 地盤が隆起するというのが、凍上です。 では、凍上被害を防ぐためのアプローチについてで これは、土中に形成されたアイスレンズの事例です ございます(図-35)。基本的に凍上対策は、二つの が(図-32) 、白く光っているのがアイスレンズで、 方法があります。一つは凍上自体を抑制する方法と、 幾層にも重なって生じていて、見た目には、土の中に もう一つは、凍上を抑制せず、凍上力を回避してやろ 霜柱が何層にもできたような感じです。 うという方法です。 凍上現象が、切土法面にどのように発生し、どうい まず、凍上現象の抑制ですが、凍上の3要素という 42 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-36 図-38 図-37 図-39 ものがございます。凍上の3要素は、土質、水分、気 ロックボルト工の凍上メカニズムなんですけれども 温ということで、この3要素のうち、一つでも欠けれ (図-38)、まず凍上力は、法枠などの受圧構造物に作 ば凍上しないといわれています。凍上現象を抑制する 用し、受圧板に伝達されます。大きな凍上力が作用し ため、例えば土質であれば、非凍上性の土に置き換え た場合には、補強材が破断する場合もありますし、あ るという方法がありますし、水であれば水の供給を遮 るいは注入材や地山との付着力を越えてしまうと、付 断できれば、 凍上はしないということになるのですが、 着切れといったような被害のメカニズムが考えられま 切土法面の土の置き換えや完璧な遮水は、簡単なこと す。 ではありません。 では、どの位の力がグランドアンカーやロックボル そこで我々が主な研究のターゲットとしているの ト工にかかっているのかということで、現場の協力も は、断熱工法と凍上力回避についてですが、今日は、 いただきながら、実際に計測しています。これは荷重 4つの構造物に分けて研究概要を紹介させていただき 計や変位計などの計測器を設置した状況です(図-39)。 ます(図-36) 。 計測結果ですが(図-40)、右のグラフはロックボ まずグランドアンカー、地山補強土工(ロックボル ルト工の事例で、青い線が変位量、オレンジの線が荷 ト工)ですが、これが被害事例です(図-37)。グラ 重増加量ですが、変位と荷重増加は概ね連動している ンドアンカーの頭部損傷やアンカー材の破断、また、 のが分かります。またグラフから、補強材の初期荷重 コンクリート法枠も被害を受けていて、これは何回か をゼロと仮定しても、補強材に作用した荷重は降伏強 補修したような履歴が見てとれます。 度の88kN を超えているということが分かります。ま 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 43 図-40 図-43 図-41 図-44 を付けて凍上力を緩和する装置(図-41)も、最近開 発されています。グラフ(図-42)の青い線が緩和装 置なし、ピンクの線が緩和装置ありということで、左 が凍上力、右が変位なんですが、凍上力も変位も緩和 されているという結果が出ております。こういったこ とも含めて、ロックボルト工やグランドアンカーの対 策を検討していきたいというふうに考えています。 次に、小段排水溝ですが、小段排水というのは地表 面から地盤への寒気の入り方が複雑でございまして (図-43)、谷側からの寒気に加え、上からの寒気がこ のトラフの中を通して谷側に入り込み、山側に比べて 図-42 谷側の凍結が進んで、凍上力も発生しやすいというこ とが言われていて、トラフが山側に傾くというような だデータは少いですが、凍上力によって法面構造物が ことが発生しています。この小段排水溝の凍上被害メ 被災する可能性があることを確認できました。 カニズムはこのようになります(図-44)。 今後、具体的な対策についての研究をしていくつも 実際に土中に温度計を入れて、トラフの左右で凍結 りですが、凍上力を回避する方法として、頭部にバネ 深さを計測すると(図-45)、一般的なトラフでは、 44 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-45 図-47 図-46 図-48 左のグラフのように、谷側に深い凍結が入っています。 ないものを作れないかということで、耐久性や通水性 中央と右側は、トラフに断熱材を入れた場合の結果 などについて調査しながら、開発していきたいという で、谷側と山側の凍結深さの差が緩和されるいうこと ふうに考えています(図-48)。 も分かってきています。 次は、切土法面についてです(図-49) 。最近、法面 また凍上力緩和ということで、フレキシブル性のあ 対策でフトンカゴがよく使われています(図-50) 。こ る材料を使い、暗渠型やシート型の排水溝の実験もし れは湧水を面的に処理できるということと、凍上にも ています(図-46)。 追従可能ということで、一定の効果はあると思ってい 特に暗渠型では、右上のグラフ(図-47)から、ト ますが、これは凍上を抑制するという効果は無く、凍 ラフの凹凸がないため谷側の凍結が緩和され、左右の 上によりアンカーピンが持ち上がったという事例が発 凍結のバランスが良くなっているのが分かります。ま 生してます(図-51)。 た、フレキシブルな材料を使うことで、凍上力を緩和 ある現場では、過去に凍上被害を受けたということ する効果はあると思いますが、長期的な維持管理とい で、フトンカゴだけではなくて断熱材も使って、法面 う観点からは、まだ課題があると思っています。 を保護しています(図-52)。 そこで現在は、ポリエチレンという、プラスチック これは断熱材の写真(図-53)で、実際はフトンカ の中では一番軽い材料があるのですが、強度もある程 ゴの下に敷いてるんですが、ちょっと横に出ている部 度あって加工もしやすいというもので、これをトラフ 分を撮ったもので、発泡スチロール系の透水性のある に加工して、排水機能を確保しつつ、凍上しても壊れ 材料を使っています。今後、温度計測のデータをまと 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 45 図-49 図-52 図-50 図-53 図-51 図-54 めますけれども、凍上対策として一定の効果はあるん 54、55)。開発局では基本的には置き換え材を入れる だろうというふうに考えています。 ことになってますので(図-56)、あまりこういった 次に、擁壁や補強土壁ですが、凍上対策しない場合 被害は生じませんが、コスト削減や施工性向上のため、 にこういった被害が発生することがあります(図- 置き換え材の代わりに断熱材を使用する工法につい 46 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 図-55 図-58 図-56 図-59 究協力協定を締結いたしました(図-58)。 インドネシアには泥炭が、およそ20万平方キロメー トル分布しているということで、北海道に分布してい る泥炭の約100倍の面積があります(図-59)。北海道 は寒いために植物が分解しにくいんですが、向こうは 暑いために分解しにくく、トロピカルピートと呼んで います。 泥炭が広く分布しているスマトラ島、カリマンタン 島で、今後、道路建設が2,000キロメートル予定され ているといわれる中で、その半分くらいは泥炭地盤上 を通ると聞いております。我々の泥炭に関する研究成 果や知見が、国際協力、国際貢献に生かせるんじゃな 図-57 いかということで、こういった取り組みも進めている ということをこの機会にご紹介させていただきます。 て、現在研究してございます(図-57) 。 ご静聴ありがとうございました。 研究紹介については以上とさせていただき、最後に、 トピックスを一つ紹介させていただきますが、先月、 インドネシアの道路工学研究所と泥炭地盤に関する研 寒地土木研究所月報 特集号 2014年度 47
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