「あ、夢が叶う」と、唐突に思った。雲がほとんどない空の下を、ウルル;pdf

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「あ、夢が叶う」と、唐突に思った。雲がほとんどない空の下を、ウルル(エアーズロック)に
向かって走るバスの中で、私は自分の鼓動が速くなるのがわかった。
特別な思いがあったわけではない。ウルルを教科書で初めて見て、平坦な台地に突如現れる巨
大な一枚岩を自分の目で見たいと、漠然と思った程度だった。だから、次第に「行きたい」と思
っていたことすら忘れていた。
何もない空からふわっと降りてきたように自分の夢を思い出してからは、夕日の光で赤茶色の
岩肌が徐々に燃えるような赤色に変化していくウルルに、自分の心境の変化を重ね合わせていた。
ウルルにも自分の中にもくすんだ色はもうない。
ワーキングホリデーでオーストラリアを訪れ、語学学校に通い、日本食レストランで働いた。
せっかくオーストラリアにいるのだからと、ガイドブックに大きく載っていたウルルへ旅行する
ことにした。自分の中では全くの思いつきのつもりだ。しかし、ふたを開けてみれば、学生のと
きからの夢に従っただけのことだった。
忘れていた夢が叶ったという実感がじわりじわりと熱い思いになって込み上げる。無意識にウ
ルルに感謝する。変な話だが、ウルルに夢を叶えることを許された気がしたのだ。見上げたウル
ルはそんなの関係なく悠然とそびえ立っているが。
夢を叶えるとは、自分で考えて、自分の足で進む。至ってシンプルだ。それなのに一人で難しく
考えてため息をついていた。夢が叶わないことに慣れていき、夢を持つことを忘れた人間になっ
ていた。つまり、夢を叶えることに一番制限をかけていたのは、他ならない自分だ。今考えると、
なんて色のない日々を送っていたのだろう。
「圧巻でしたね」とツアーの参加者と感想を言い合う。お互い満足感と興奮で頷くが、そこに
私の次の夢への期待が重なった。
私のどうしようもない思い込みを、果てしない希望に変えてくれたウルル。これが、私の好き
な世界遺産である。