みずほインサイト マーケット 2015 年 3 月 27 日 米国の企業業績動向と株式相場 見通し 市場調査部 大塚理恵子 03-3591-1420 [email protected] ○ 米国株式相場で原油安・ドル高の企業業績への影響に対する警戒感が強まっている。2014年10~ 12月期決算ではエネルギーや海外売上高比率の高い業種等での売上高の減少として見られた。 ○ S&P500採用企業全体の海外売上高比率は約50%近く、2015年も売上高減少への懸念はある。一方、 ドル高と原油安に伴うコスト削減効果の顕現化により利益への影響は一部相殺されるだろう ○ 米国株式相場は、目先は企業業績への懸念や利上げへの警戒感が上値を抑えるだろう。業績予想 は決算前に保守的になる傾向があるものの、予想を下回る決算が相次ぐ展開には留意が必要 1. はじめに 米国株式相場で企業業績の先行きに対する警戒感が高まり、上値を抑制する要因となっている。ト ムソン・ロイターの調査によれば、S&P500 採用企業全体の 2015 年 1~3 月期のEPS(1 株当たり利 益)は 2015 年年初には約 5%程度の増益が見込まれていた。しかし、直近の 3 月 16 日時点では約 3% の減益予想に下方修正されており(図表 1)、仮に 2015 年 1~3 月期が減益だとすると、21 四半期ぶ りの減益となる。さらに 2015 年年ベースのEPSも約 8%の増益から約 2%の増益と小幅な増益に留 まる予想に修正されている。業種別には幅広い業種で下方修正されており、特にエネルギーや素材の 図表 1 S&P500 採用企業のEPSの推移 図表 2 S&P500 採用企業の 2015 年 1~3 月期 EPS増益率の予想の推移 (ドル) 35 (%) S&P500採用企業全体 情報技術 エネルギー業種(右目盛) 15 EPS(左目盛) 予想 EPS前年比(右目盛) 資本財 消費財・サービス (%) (%) 15 0 10 ▲ 10 30 10 ▲ 20 5 5 25 ▲ 30 ▲ 40 0 0 ▲ 50 ▲5 ▲ 60 20 ▲5 13/1Q 13/3Q 14/1Q 14/3Q 15/1Q ▲ 10 15/3Q 1/5 (資料)Thomson Reuters 1/19 2/2 2/16 2015年 (資料) Thomson Financial First Call 1 3/2 ▲ 70 3/16 他、消費関連、資本財・サービス、情報技術等の下方修正幅が比較的大きい(前頁図表 2)。背景に は一旦下げ止まっていたものの再び軟調な推移となっている原油価格や、2 月に東部を中心に見舞わ れた寒波による消費の伸び悩み、ECBによる量的緩和開始等に伴い加速しているドル高の影響への 懸念があるだろう。 直近の決算である 2014 年 10~12 月期はEPSが約 6.6%の増益と、前期 7~9 月期より増益率は鈍 化したものの、底堅い内容であった。しかし、2014 年後半より進行した原油安とドル高の業績への下 押しは一部に表れていたと見られる。本稿では、2014 年 10~12 月期の決算で見られた影響を振り返 った上で今後の業績と株式相場の見通しについて述べていく。 2.2014 年 10~12 月期決算に見られたドル高・原油安の影響 (1)海外売上高比率の高い業種等でドル高が下押しした売上高 まず、売上について、S&P500 指数の構成銘柄のうち、金融を除き比較可能である 310 社を集計する と、2014 年 10~12 月期は全体で前年同期比 2.2%の増収であった(図表 3)。直近 1 年の増収率を見 ると、4~6 月期の+7.4%、7~9 月期の+5.2%からは鈍化したものの、増収基調は維持した。一方、 業種別にはほとんどの業種で減速感が見られたが、特にエネルギーが 14.7%の大幅な減収に陥った他、 素材や一般消費財・サービス、生活必需品、情報技術等の伸びの鈍化が目立つ。大幅減収となったエ ネルギーを除いた場合も増収率は 4.8%と増収率の鈍化傾向は変わらない。エネルギーや素材では原 油安・資源価格下落が売上高を下押しし、消費関連や情報技術では急速に進行したドル高が減収の一 因となったと考えられる。実際、ドル高については、今後の業績を下押しする影響について言及して いるグローバル企業が幅広い業種で散見された(次頁図表 4)。S&P500 採用企業全体での海外売上高比 図表 3 業種別海外売上高比率と増収率の推移 海外売上高 比率( %) 全体 46.3 増収率( 前年同期比、 %) 社数 2013/4Q 310 1.2 2014/1Q 0.4 2014/2Q 2014/3Q 2014/4Q 7.4 5.2 2.2 0.6 2.2 ▲ 5.2 ▲ 14.7 2.2 12.2 ▲ 0.5 0.1 エネルギー 54.6 19 ▲ 7.6 素材 54.5 21 ▲ 2.5 資本財・サービス 45.9 47 2.3 2.2 3.8 1.8 3.7 一般消費財・サービス 41.0 63 6.2 ▲ 4.2 6.8 7.6 5.3 生活必需品 39.8 36 ▲ 2.4 ▲ 1.0 5.3 3.0 2.6 ヘルスケア 51.3 38 6.8 9.7 21.3 24.1 14.0 金融 32.3 11 4.2 8.8 14.6 3.3 12.3 不動産 情報技術 56.6 61 4.7 ▲ 2.8 9.5 8.0 2.2 電気通信サービス N/A 4 2.3 3.9 3.3 3.2 5.1 公益事業 N/A 10 4.3 14.4 ▲ 0.8 6.9 13.9 (注 1)海外売上高比率は 2013 年時点。 (注 2)増収率は S&P500 採用企業のうち、比較可能な 310 社を集計(除く金融業)。 (資料)S&P Dow Jones Indices、Osiris よりみずほ総合研究所作成 2 率は、約 46%と半分近く、為替換算上の目減りや価格競争力の低下を通じ、ドル高が売上高に与える 影響は小さくない。足元でも製造業ISM指数の輸出受注指数が急速に低下する等、米国企業の売上 の先行きには懸念が浮上している。業種別の海外売上高比率では、増収率の鈍化が顕著であった情報 技術が 10 業種分類で約 56.6%(2013 年時点)1と最も高い。消費関連は一般消費財・サービス、生活 必需品ともに約 40%と他業種と比べて海外売上高比率は高くはない。しかし、さらに細かく分類する と、特に「食品・飲料・タバコ」と「家庭・パーソナル用品」が減収と苦戦しており、価格以外の差 別化が図りにくい商品群が、ドル高の環境下米国外で価格競争に晒されていることが伺える。一方、 価格以外の差別化が可能である商品やサービスではドル高への耐性の強さも見られている。情報技術 の増収率をさらに細かく分類すると、 「ソフトウエア・サービス」は▲7.8%と減収であるが、 「テクノ ロジー・ハード・機器」は 10.9%の増収と明暗が分かれた。それぞれ代表的な企業、シスコシステム ズ(テクノロジー・ハード・機器)とマイクロソフト(ソフトウエア・サービス)の決算でもマイク ロソフトが 7.4%の減収であったのに対し、シスコシステムズは 7%の増収であった。シスコシステム ズの 10~12 月期の地域別の受注金額を見てみると、対ユーロに対してドル高が進んだにも係らずヨー ロッパ・中東地域が前年比 7%の伸びになる等、海外事業の売上高の堅調さが確認された。このよう に、同業種の中でも影響度合いには差異が現れたように、製品・サービスの特性や生産拠点の場所の 違い等によるコスト構造の差異によって、ドル高の影響は業種や企業間でばらつきが拡大する可能性 がある。 (2)原油安・ドル高によるコスト抑制効果が利益にはサポート要因に 利益に目を向けてみると、2014 年 10~12 月期のEPS増益率は S&P500 採用銘柄のうち、エネルギ ーが約 21.5%の大幅減益となった一方、エネルギーと金融を除き全ての業種が増益であり、堅調さが 確認された(次頁図表 5)。特に一般消費財・サービスやヘルスケア、情報技術、資本財・サービス が 2 桁の増益となり全体をけん引した。エネルギーの大幅減益は原油安に伴う大幅な売上高の減少が 図表 4 2014 年 10~12 月期決算における主要企業のドル高のマイナス影響に関する指摘 企業名 3M Coca-Cola DuPont IBM Johnson&Johnson 業種 資本財 食品・飲料・タバコ 素材 ソフトウエア・サービス 医薬品・バイオテク 具体的内容 2015年売上高を4%~5%押し下げ 2015年売上を5%、税引前利益を7~8%押し下げ 2015年1株当たり営業利益(4ドル~4.2ドル)を0.6ドル押し下げ 2015年売上高を5~6%押し下げ 2015年売上高を5.5%、1株当たり利益を6.6%押し下げ Microsoft ソフトウエア・サービス 2015年1~3月期の売上高を約4%押し下げ Nike 耐久消費財・アパレル 2015年売上高を2~3%押し下げ Pfizer P&G 医薬品・バイオテク 家庭・パーソナル用品 2015年売上高を28億ドル、1株当たり利益(2ドル~2.1ドル)を0.17ドル押し下げ 2015年売上高を5%押し下げ United Technologies 資本財 2015年売上高を20億ドル、1株当たり利益を0.33ドル押し下げ Wal-mart 小売り 2015年売上高成長率を当初計画の2%~4%増より1~2%増へ引き下げ (資料)各社決算資料よりみずほ総合研究所作成 3 主因であるが、ドル高によって売上の伸びが鈍化したと見られる情報技術や一般消費財・サービス等 の業種でも利益の伸びは直近 1 年と比較してみても総じて同じか、高い水準を維持している。この背 景としては生産や販売・研究拠点を米国外に移している企業も相応にある中でドル高が人件費をはじ めとするコストを抑制し収益性の維持に寄与していること、原油安に伴う原価や販管費の減少が利益 を押し上げていること等が要因として考えられる。ドル高のペースが速く、前述の通り、2015 年以降 売上高については懸念されるが、ドル高・原油安によるコスト削減効果がより顕現化していく中で一 定の利益サポート要因として働くだろう。但し、エネルギー業種では一部の石油メジャーの精製や販 売といった下流事業には原油安による原価率の低減が利益押し上げ要因となるが、業種全体としては 急速な売上高の減少に伴う業績悪化が当面続くと見られる。 3.米国株式相場の動向と今後の見通し 2015 年年初以降の米国株式相場を振り返ると、2 月上旬まではギリシャに対する金融支援を巡る問 題や原油価格下落への懸念からリスク回避的な動きが強まる局面が見られ、ボラティリティの高い展 開となった。2014 年 10~12 月期決算は決算発表前の事前予想は上回ったものの、先行きの業績につ いて、ドル高の影響等から慎重な見方を示す企業が多かったことも株式市場の重荷となった。2 月に 入りギリシャへの金融支援の延長が決定され、ECBをはじめグローバルに緩和的な金融政策が広が っていることも加わり投資家心理は改善し、ダウ平均株価は最高値圏である 18,000 ドルを回復する等、 上昇基調に復した。しかし、足元では加速しているドル高の企業業績に対する悪影響への懸念や利上 げへの警戒感から上値の重さも見られている。3 月の FOMC にてより緩慢なペースの利上げの予想が示 され、利上げへの警戒感はやや後退したが、企業業績への懸念は 4 月の決算発表シーズンまで米国株 の重荷となりそうだ。米国の決算発表シーズンは事前に業績予想が保守的に切り下がることで、実際 に決算が発表されると予想を上回り好感される傾向が見られており(図表 6)、経験則通り予想を上 図表 5 S&P500 採用企業の業種別EPS増益率推移 図表 6 S&P500 採用企業のEPS増益率の 予測と実績 (%) 12 EPS増益率(前年同期比、%) 実績 10 予測 2013/4Q 2014/1Q 2014/2Q 2014/3Q 2014/4Q 全体 9.9 5.6 8.6 10.3 6.8 ▲ 8.8 ▲ 0.1 17.0 10.3 ▲ 21.5 素材 22.2 0.0 12.2 20.7 5.2 資本財・サービス エネルギー 14.2 3.9 11.4 13.1 12.7 一般消費財・サービス 8.4 8.8 7.5 ▲ 1.7 14.5 生活必需品 4.1 3.3 7.8 5.7 1.0 ヘルスケア 9.7 11.8 18.5 16.3 23.1 金融 24.7 ‐0.6 ‐6.6 16.3 ‐3.3 情報技術 10.3 10.0 15.3 10.3 18.2 25.0 14.0 6.8 6.4 6.1 22.6 ▲ 0.1 2.1 9.6 電気通信サービス 公益事業 ▲ 5.9 8 6 4 2 0 -2 -4 13/1Q 13/3Q 14/1Q 14/3Q 15/1Q (注)2014年第4四半期までの予想は決算発表シーズン直前予想。 2015年第1四半期以降は直近(3/16時点)の予想。 (資料)Thomson Reuters (資料)Thomson Reuter 4 回る決算が相次げば安心感から一部買い戻される展開も予想される。一方、予想を下回る決算が散見 され調整局面入りする可能性にも一定の留意が必要であろう。また、4 月下旬には再び FOMC が予定さ れており、利上げ時期を巡る思惑が米国株にとってはネガティブな材料となりそうだ。過去の利上げ 局面を見てみても、調整幅にはばらつきがあるものの、利上げ前後数か月間は株価の一時的な停滞が 見られている2。 こうした状況を踏まえると、米国株は夏場にかけては上昇余地が限定された推移が予想されるが、 年後半に国内景気の回復基調の鮮明化とともに企業収益の改善期待も高まり緩やかな上昇基調に復す るだろう。 1 2 S&P Dow Jones Indices LLC “S&P500 2013:Global Sales Year in Review”。 武内浩二(2015)「世界的な低金利と株高の可能性~グローバルに広がる金融緩和とバブルリスク~」 (みずほ総合 研究所『みずほインサイト』2015 年 3 月 9 日)。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 5
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