489 ク レ ブ シ ェ ラ肺 炎 に よ る敗 血 症 性 シ ョ ック の 1例 及 び基 礎 的 検 討 帝京大学医学部第2内科 馬場 ます み 斧 野末 西谷 則夫 Key words: septic 康雄 上 田雄 一 郎 肇 国井 (昭 和63年11月7日 受 付) 受 理) Klebsiella 要 敏昭 乙彦 (昭 和63年11月15日 shock, 芳賀 pneumoniae, corticosteroid 旨 ク レ ブ シ ェ ラ肺 炎 よ り敗 血 症 性 シ ョ ッ ク を 併 発 し,救 命 し得 た 一 例 を 経 験 した.症 例 は,飲 酒 歴 のあ る51歳,男 性 。慢 性 肝 炎 の 治 療 中,肺 炎 か ら敗 血 症 性 シ ョ ック と な った .呼 吸 ・ 循 環 管 理,LMOXとPIPC の 併 用 療 法 を 行 い,そ の 後 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 よ りKlebsielh pneumoniaeが 起 炎 菌 と して 同 定 され た た め,CZXとAMKに ン製 剤,新 (MP),分 変 更 し た.入 院 時 よ り好 中 球 減 少,血 清 補 体 価 の低 下 を 認 め た た め ,免 疫 グ ロ ブ リ 策 と して メ シ ル 酸 ガ ベ キ サ ー ト,メ チ ル プ レ ドニ ソ ロ ン 鮮 凍 結 血 漿 を 投 与 し,DIC,MOF対 枝 鎖 ア ミノ酸 を 投 与 し,シ ョ ッ ク よ り離 脱,肺 我 々 は 全 血chemiluminescence(CL)に 及 ぼ すMPの 以 下 の濃 度 で60分 ま で イ ンキ ュベ ー ト した 場 合,CLに 炎 も治 癒 し た . 影 響 に つ い て 検 討 した 結 果,MPを100μ9/m1 は 有 意 差 が み られ ず,通 常 の 投 与 量 で は 食 細 胞 の 活 性 酸 素 放 出 能 に 影 響 し な い こ とが 推 測 され た. は じめ に 血 液 疾 患,悪 嗜 好:日 性 腫 瘍 な どの 感 染 防 御 能 の低 下 し 本 酒3合/日.毎 現 病 歴:昭 和60年9月 た 患 者 に お け る 感 染 症 の 起 炎 菌 と し て,Paeru. 痛 が 出 現 し た.9月9日,咳 gino鋤Ecoli, K.pneumoniaeな 9月10日,体 温38.5℃,ふ 圧80mmHgと 低 く,某 ど の グ ラ ム陰 性 桿 菌 が 重 要 で あ り,そ の 敗 血 症 に は 約40%に シ ョ ッ ク が み ら れ,Disseminated coagulopathy (MOF)へ 我 々 は,ク (DIC), intravascular Multiple organ 進 展 す る 場 合 も あ り,致 failure 命 率 が 高 い. レブ シ ェ ラ肺 炎 に よ る敗 血 症 性 シ ョ ッ ク の 救 命 例 を 経 験 し た の で,若 干の実験的考察 を 加 え て 報 告 す る. 主 訴:呼 家 族 歴,既 性.タ 吸 困 難,発 往 歴:特 別 刷 請 求先:(〒173)板 例 9月11日,敗 漱,呼 吸 困 難 が 出 現, ら つ き あ り,収 病 院 へ 入 院 し た.嘔 穏 状 態 も 認 め ら れ,抗 Doxycycline)と が 改 善 せ ず,胸 部X線 縮期血 吐,緑 菌 剤(Fos- 昇 圧 剤 等 を 投 与 され た 写 真 上,肺 炎 像 が み ら れ, 血 症 性 シ ョ ック の診 断 で 当 院 へ 転 院 と な っ た.尚,60年7月 現 症:体 ク シ ー 運 転 手. 熱,血 圧 低 下. mmHg,浅 温38.7℃,脈 よ り慢 性 肝 炎 に て 内 服 治 mmの 拍144/分,整,血 表 性 の 呼 吸 で,意 野 に 湿 性 ラ 音 を 聴 取,皮 記 事 項 な し. 識 混-濁,胸 馬 場 ま すみ 圧80/42 部 両側肺 膚 に 痂 皮 を 伴 う直 径 約3 イ ン コ に よ る 咬 傷 が 多 数 み ら れ た. 入 院 時 検 査 所 見(Table1,2,Fig.1):血 橋 区加 賀2-11-1 帝 京大 学 医 学 部第2内 科 平成 元 年5月20日 fomycin, 間. 療 中 だ っ た. 1.症 患 者:51歳,男 色 水 様 下 痢 便,不 日,15年 始 め よ り全 身 倦 怠 感,頭 度 亢 進,フ ィ ブ リ ノ ー ゲ ン 高 値,CRP強 沈軽 陽 性.汎 馬 場 ます み 他 490 Table 1 Laboratory findings Fig. 1 on admission The circle Fig. 2 Table 2 血 球 減 少,血 Laboratory findings connects Chest Hemodynamic the normal values data shown in ()' X-ray film on admission (1985. 9 11) on admission 清 補 体 価 の 低 下 が 認 め ら れ た.GOT, γ-GTP,BUN,ク レ ア チ ニ ン の 上 昇 よ り,肝 機 能 障 害 が 示 唆 さ れ た.低 酸 素 血 症,代 ド ー シ ス を 認 め,Swan-Ganz 行 動 態 検 査 で は,心 シ ョ ッ ク(hyperdynamic 謝性 ア シ Catheterに 係 数,肺 血 管 抵 抗 低 値 を 示 し,重 ・腎 よる血 血 管 抵 抗 高 値,全 身 篤 な肺 炎 に よ る敗 血 症 性 state)と 考 え ら れ た. (PEEP10clnH2O),乳 輸 液,ア 酸 加 リン ゲ ル を 中 心 とし た シ ドー シ ス の 補 正,ド ド ブ タ ミ ン(DOB)投 性 で,鏡 ー パ ミ ン(DOA), 与 を 行 っ た.喀 疾 は粘稠膿 検 に て グ ラ ム 陰 性 桿 菌 を 認 め た.ま た, 腹 部 超 音 波検 査 で は慢 性 肝 炎 の パ タ ー ン が認 め ら 飼 っ て い た イ ン コ の 咬 傷 の 存 在 か ら オ ウ ム 病 も否 れ た. 定 で き ず,Piperacillin(PIPC)6g/日,Latamoxef 入 院 時 胸 部x線 写 真(Fig.2):左 上葉 を 中心 に 比 較 的 濃 厚 均 一 な 浸 潤 影 を 認 め た. 入 院 後 経 過(Fig.3):機 械 的 人 工 呼 吸 (LMOX)4g/日 mg/日 に 加 え,Minocycline(MINO)200 を 点 滴 静 注 し た.気 Klebsiella pneumoniaeが 管 支 肺 胞 洗 浄 液 よ り 同 定 さ れ た 後,Ceft. 感 染 症 学雑 誌 第63巻 第5号 ク レ ブ シ ェ ラ肺 炎 に よ る敗 血 症 性 シ ョ ッ ク例 Fig. 3 izoxime (CZX)6g/日 に 変 更 し た.入 血 清 ク レ ア チ ニ ン1.2mg/dl,ク ラ ン ス107m1/minと 院4日 目, レ ア チ ニ ン ク リア 腎 機 能 が 改 善 し た 時 点 で, Amikacin(AMK)400mg/日 を 追 加 し た.そ の 他, 免 疫 補 充 療 法 と し て 免 疫 グ ロ ブ リ ン 製 剤,新 鮮凍 結 血 漿(FFP)を,DIC,MOF対 策 と して メ シル 酸 ガ ベ キ サ ー ト(FOY)19/日,メ チ ル プ レ ドニ ソ ロ ン30mg/kg/日(2日 与 し た.5日 間),分 枝 鎖 ア ミ ノ酸2)を 投 目 に は シ ョ ッ ク よ り離 脱 し,機 人 工 呼 吸 は11日 目 に 中 止 し た.入 院3日 械的 目に 核 左 方 移 動 を 伴 う 白 血 球 増 多 が み ら れ た が,24日 は 正 常 化 し,炎 さ れ,胸 症 反 応 は 消 失 し た.肺 目に 炎 像 も吸 収 膜 の 肥 厚 な ど を 残 す の み と な り,臨 に も全 く問 題 な く,11月6日,軽 床 的 快 退 院 し,そ 後 元 気 に 社 会 復 帰 し て い る.尚,ク ラ ミジ ア抗 体 価 は ペ ァ 血 清 で 有 意 の 上 昇 が み ら れ ず,今 回のエ ピ ソ ー ド と は 無 関 係 と 考 え られ た . II.実 験 的検討 メ チ ル プ レ ドニ ソ ロ ン(MP)の 平成 元 年5月20日 の 食 細 胞Chemi- Clinical 491 course luminescence(CL)に 対 象 は,健 康 成 人5人(男 平 均 年 齢30歳)で ml)を 及 ぼ す 影 響(全 あ る.末 培 養 液 で5倍 溶 液0.5mlを 性3人,女 梢 血(ヘ 血CL法3)) 性2人, パ リ ン 加10U/ 希 釈 し た 検 体0.5mlに,MP 最 終 濃 度0,25,50,100μg/mlと Fig. 4 Effect of methylpredonisolone (MP) on whole blood chemiluminescence induced by K. pneumoniae (n= 5) な 馬 場 ます み 他 492 る よ うに 加 え,ル 加 後,37℃ で 保 温 し,10分 後,60分 後 にK. pneumoniae163株1×108cells(100μ1)を し て20分 間 のCL積 は,保 て 測 定 し た.コ し て,MP50及 温60分 刺激 と ン トロー ル び100μg/m1の 後 で 各 々85%,80%と 度 が 高 くな って い る可 能 性 も あ り,こ の 点 につ い て の 検 討 が これ か らの 課 題 と思 わ れ る. シ ョ ッ ク時 の ス テ ロ イ ド剤 の有 用 性 と し て,循 算 値 をBiolumatLB 9505(Berthold社)に を100%と 液 や 臓 器 に お け るMP濃 ミ ノ ー ル 溶 液20μ1(2mg/m1)添 高濃度 で 抑 制 傾 向 を示 環 動 態 の 改 善,ラ イ ソ ゾ ー ム膜 の安 定 化,心 制 物 質 の 産 生 抑 制,酸 が言 わ れ て い る11).通常 我 々 は,敗 血 症 性 シ ョ ック し た も の の,統 計 学 的 に 有 意 差 が み ら れ な か っ た. の 症 例 に は で き る だ け 早 期 にMP短 (Fig.4) 与(3日 考 本 症 例 は,基 察 礎 疾 患 と して ア ル コ ール 性 慢 性 肝 炎 を有 す る中 年 の大 酒 家 に発 症 した 典 型 的 な ク レ ブ シ エ ラ肺 炎 に よ る敗 血 症 性 シ ョ ック の一 例 で あ 2) 3) state)と 診 断 し た. 入 院 時 に 腎 機 能 低 下 が 認 め ら れ,ア ミ ノ配 糖 体 系 薬 剤 は 使 い に く い た めdoubleβ-lactam bination chemotherapyを 行 っ た.白 し た 癌 患 者 で は,LMOX+PIPCの AMK+PIPCの com血球 の減少 組 合 せ が 組 合 せ に 比 べ て 効 果 は 同 様 で,し か も 腎 障 害 が 少 な い4)と 報 告 さ れ て い る.起 判 明 後,BKpneumoniaeに CZXに 炎菌 最 も抗 菌 力 の あ る 変 更 し,腎 機 能 が 正 常 化 し た 時 点 でAMK を 併 用 し た. は,メ 結 果,通 れ,短 で検 討 した 常 の投 与 量 で は 影 響 しな い こ とが推 測 さ 期 間 投 与 な ら食 細 胞 の貧 食 殺 菌 能 を抑 制 し な い と 考 え ら れ る.ス テ ロ イ ドが 好 中 球 の 活 性 酸 素 産 生 能 や 貧 食 殺 菌 能 を 抑 制 す る と い う報 告 の 多 く は 高 濃 度 の ス テ ロ イ ドに よ る も の で,通 常 の血 中-濃度 で は 抑 制 が み ら れ ず7)∼10),我 々 の 結 果 も そ れ ら に 一 致 し て い る.し か し,シ ョ ッ ク の 際,血 長 谷 部 正 晴, 7: 33-47, 他: 法. ICUとCCU, 斧 康 雄, テ ー テ ル. 救 急 1982. 敗 血 症 の 最 新 治 療 一 ア ミ ノ酸 療 7: 695-704, 他: 発 光 の 検 討. 1983. 肝 硬 変 患者 にお け る食 細 胞 の化 学 感 染 症 誌, 60: 70-75, 1986. J. Med., 317: 653-658, 1987. 7) Baltch, A.L., et al.: Comparison of the effect of three adrenal corticosteroids on human granulocyte function against Pseudomonas aeruginosa. J. Trauma, 26: 525-533, 1986. 8) 安 島 裕 之, 他: 好 中 球 の活 性 酸 素産 生 に及 ぼす プ レ ドニ ソ ロ ン と プ ロ ス タ グ ラ ン デ ィ ンE1の チ ル プ レ ドニ ソ ロ ン の 食 細 胞 の 活 性 酸 素 放 出 能 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 全 血CL法 CVPとSwan-Ganzカ 4) Fainstein, V.: New antimicrobial agents in the immunocompromised cancer patient. Zb. R. Bakt. Suppl., 13: 192-197, 1985. 5) Schumer, W.: Steroid in the treatment of clinical septic shock. Am. Surg., 184: 333-341, 1976. 6) Bone, R.C., et al.: A controlled clinical trial of high-dose methylpredonisolone in the treatment of severe sepsis and septic shock. N. Engl. 敗 血 症 性 シ ョ ック に関 す る副 腎 皮 質 ス テ ロ イ ド の 有 用 性 に つ い て は 賛 否 が 分 れ て い る5)6).我 々 相 川 直 樹: 医 学 セ ミナ ー, 肺 炎 と い う感 染 巣 の 存 在 と 特 徴 的 な 血 行 動 態 か ら 敗 血 症 性 シ ョ ッ ク(hyperdynamic 行 って い る が,今 後, <東 京,1987年11月>に て報告 した. 文 献 医 で 抗 菌 剤 を 投 与 さ れ て い た た め か血 液 培 養 は 陰 性,エ ン ド トキ シ ソ も 証 明 さ れ な か っ た が, 以 内30mg/kg/日)を 期 間 大量 投 検 討 が 必 要 と思 わ れ る. 論文 の要 旨は,第36回 日本感染症学会東 日本地方会総会 1) る.前 筋抑 素 ラ ジ カル 反 応 の抑 制 な ど 医 学 の あ ゆ み, 136: 9) Olds, J. W., et al.: 457-458, 影 響. 1986. Corticosteroids, serum and phagocytosis: In vitro and in vivo studies. Infect. Immun., 9: 524-529, 1974. 10) Fuenfer, M.M., et al.: Effect of various corticosteroids upon the phagocytic bactericidal activity of neutrophil. Surgery, 78: 27-33, 1975. 11) 篠 沢 洋 太 郎: 医 学, 治 療 法 を め ぐ るcontroversy.救 10: 1379-1390, 急 1986. 感染症学雑誌 第63巻 第5号 ク レ ブ シ ェ ラ肺 炎 に よ る 敗 血 症 性 シ ョ ッ ク例 493 A Case of Septic Shock due to Pneumonia caused by Klebsiella pneumoniae Masumi BABA,Yasuo ONO, Yuichirou UEDA, Toshiaki HAGA, Norio NOZUE, Hajime NISHIYA & Otohiko KUNII The SecondDepartmentof InternalMedicine,TeikyoUniversitySchoolof Medicine A 51-year-oldmale, who had a history of excessive drinking and chronic hepatitis, was admitted to our hospital because of high fever and shock. Physical examinations, chest X-ray films and hemodynamic data revealed that he had progressed to septic shock due to pneumonia. Combination chemotherapy of latamoxef plus piperacillin was immediately started. After Klebsiellapneumoniae was isolated from bronchoalveolar lavage fluid, the antibiotics were changed to ceftizoxime plus amikacin. Furthermore human gamma globulin preparations and frozen fractional plasma were administered because of granulocytopenia and a decrease in complement. Gabexate mesylate, methylpredonisolone (MP) and branched chain amino acids were given to prevent disseminated intravascular coagulation and/or multiple organ failure. With this intensive care, he recovered from shock and pneumonia. The effects of MP on the whole blood chemiluminescence (CL) were examined. Incubation of whole blood with 25, 50 or 100 ,ag/ml of MP for 10 to 60 minutes had no effects on the CL response. This indicates that MP does not affect the production of reactive oxygen species from phagocytic cells at concentrations comparable to those used in drug therapy. 平 成 元年5月20日
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