溝入れ加工におけるフローティングノズルの効果

C79
ホイール
溝入れ加工におけるフローティングノズルの効果
フローティングノズル
薄刃ホイール
薄刃砥石
鈴木清*,○胡海波*,黒川聡*,胡炳群*,岩井学**
田中克敏+,植松哲太郎**,二ノ宮進一++
ノズル先端
通常ノズル
(*日本工大, **富山県立大, +東芝機械, ++北陸能開大)
図1 薄刃ホイール用フローティングノズル
1.はじめに
薄刃ホイールによる溝入れ研削では,研削液が研削点に到達しにくいため,目つ
表1 実験装置の仕様および条件
ぶれや目詰まりの発生,研削抵抗の増大,ホイール摩耗量の増大,溝性状の悪化
使用機器
高精度スライサ(USM-15A, 2.5kw, 東芝機械)
メガソニックジェネレータ(MSG-3-16/24/30,ソニック技研)
法がとられるが,これはポンプ容量やタンクの大型化,密閉性の高いスプラッシュガ
ホイール
CBN600P100MA047(φ100mm×t0.17mm,リード)
ードカバーの採用などを必要とし,好ましいとはいえない.
被加工材
ステンレス鋼 SUS630 (HRC31,60×60×15mm)
研削条件
ホイール周速度:Vs=3140m/min(=52m/s), (N=10000rpm)
切込み:a=3mm,送り速度:Vw=3.5,7mm/min
研削長:L=60mm/pass,ダウンカット
クーラント
供給条件
(1) 通常ノズル:Q=8 l /min
(2) フローティングノズル:Q=0.7 l /min
(3) メガソニック F ノズル:Q=0.7 l /min
3MHz 振動重畳,30W
クーラント
ソリューション(Syntilo GX,2%,カストロール)
等を引き起こす.この対策として,必要以上に大量の研削液を研削点に噴射する方
前報では,薄刃ホイール(WA100B)を用いたSKD11焼入れ鋼材の溝入れ研削実
験において,フローティングノズル1)の採用が,研削液供給量の大幅な削減とホイー
ル角ダレの抑制に効果があることを明らかにしている2).本研究では,難加工材であ
るSUS630ステンレス鋼の溝入れ研削(溝深さ3mm)にフローティングノズル(Fノズ
ル)を適用し,ホイール摩耗量の改善を試みた.
2.実験装置および条件
2.1 薄刃ホイール用ノズル
果も確かめた.振動素子駆動用発振器は,除去加工用に新たに開発した3チャンネ
ルのメガソニックジェネレータ MSG-3-16/24/30 である.本実験では 3MHz,30W で
駆動した.ホイール外周部とノズルとの隙間(ノズル間隙)は約 0.1mm である.
2.2 研削液供給条件
通常ノズル法では,研削点に向けて Q=8 l /min の研削液を供給した.Fノズルお
よびメガソニックFノズル法では,研削液供給量を約 1/10 の Q=0.7 l /min にした.
2.3 溝入れ研削条件
ホイール半径摩耗量 µm
溝入れ研削実験では図1に示すような袋状先端部を有するノズルを用いた.また
一部,高周波振動素子を内部に組み込んだノズルを用いてメガソニック振動3)の効
表1に示す実験条件でステンレス鋼 SUS630(HRC31,L=60mm)の溝入れ実験を
60
CBN600P100M, SUS630(L=60mm)
Vs=3140m/min, a=3mm, Down-cut
50
□ :Vw=3.5mm/min
■ :Vw=7mm/min
40
30
20
10
0
通常ノズル
Q=8 l/min
行った.薄刃メタルボンドホイール(CBN600M,φ100mm×t0.17mm)は放電ツルー
イングした後,WA400 で目揃えしている.
Fノズル
Q=0.7 l/min
メガソニックFノズル
Q=0.7 l/min
図2 5 パス溝入れ研削したときのホイール摩耗量の比較
3.1 研削液供給方法とホイール摩耗量の関係
SUS630 を二種類の送り速度(Vw=3.5,7mm/min)で,5 パス(L=60mm)ずつ研削
し,研削液供給方法によるホイール摩耗量を調査した(図2).切込みは a=3mm とし
た.
送り速度 Vw=3.5mm/min の場合,通常ノズルで 20µm 摩耗したのに対して,Fノズ
ルでは 9µm に半減し,メガソニックFノズルでは 4µm にまで抑制された.送り速度を
Vw=7mm/min に増加した場合,通常ノズルで 51µm 摩耗したのに対し,Fノズルでは
10µm,メガソニックFノズルでは 7µm となった.
3.2 長期研削におけるホイール摩耗の抑制効果
送り速度 Vw=3.5mm/min の条件で,連続 50 本の溝入れ研削を行い,Fノズルの効
ホイール半径摩耗量 µm
3.溝入れ研削結果
200
CBN600P100M, SUS630(L=60mm)
Vs=3140m/min, Vw=3.5mm/min, a=3mm, Down-cut
○:通常ノズル (Q=8 l/min)
●:Fノズル (Q=0.7 l/min)
150
100
50
0
0
10
いずれの研削液供給法もホイール摩耗は直線的に進行したが,50 本溝研削後に
にFノズルを用いて 50 本の溝入れ研削をした SUS630 被加工材を示す.
30
40
50
パス
果を調査した.図3に通常ノズルとFノズルのホイール摩耗の推移を示す.
通常ノズルで 162µm 摩耗したのに対し,Fノズルでは 1/3 の 52µm に減少した.図4
20
0
600
1200 1800 2400
研削距離 mm
3000
図3 長期(50 溝)研削したときのホイール摩耗量の推移
4.おわりに
Fノズルを用いて SUS630 焼入れ鋼材への溝入れ研削を行なった結果,研削液
供給量を 1/10 に低減しても,ホイール摩耗量が 20~50%に減少することを明らかにし
た.また 3MHz の超音波振動を研削液に重畳するメガソニックFノズルを用いること
でホイール摩耗量をさらに抑制できることを明らかにした.
ご協力いただいた BP Japan KK(カストロール),メガソニック加工研究所,(社)精
密工学会産学協同研究会「ECS 研究会」,ソニック技研に御礼申し上げます.
[ 参考文献 ]
1) 二ノ宮,東江,横溝:精密工学会誌,Vol.66, 6 (2000) 865.
2) 二ノ宮,岩井,田中,鈴木,植松:精密工学会秋季大会講演論文集 (2002) 263.
3) 胡,三代,鈴木,植松,清水:精密工学会春季大会講演論文集 (2002) 596.
2003 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集
−136−
図4 連続溝入れ研削したステンレス鋼 SUS630 材