リューバの死因 でき し 泥に埋もれて窒息死したか、水中で溺死したか は、まだ結論が出ていないが、リューバがごく 短時間で死に至ったことはほぼ間違いない。そ 2007 年 7月、チホノフはフィッシャーとフラン の体はたちまち土に埋もれ、およそ 4 万年間も ス人探検家のベルナール・ビュイグをサレハル 保存されることとなった。 ドに招いた。ビュイグは、過去にもたびたび遺 体の発見や研究に携わってきたマンモス探し のプロだ。二人とも、これまで何体かのマンモ スを調べてきたが、リューバほど保存状態のよ いものはなかった。 「完璧だ、と一目見て思いました。まつ毛ま で残っている。ちょっと居眠りしているだけとい った風情でした」 と、フィッシャーは話す。 泥のタイムカプセル 古生物学者ダン・フィッシャーが推定するリュ ーバの冷凍保存プロセスは以下の通り。 1 死亡時に湿った粘土と泥に埋もれたため、酸 素にさらされずにすみ、軟組織を腐らせる菌 の繁殖を防げた。 川岸 川 体毛と爪が失われ、発見後に犬にかじられ たとはいえ、それ以外はほぼ手つかずの状 態。欠陥といえばただ一つ、鼻のすぐ上が奇 妙にへこんでいることだけだった。 全体の様子と、首の後ろにたっぷりと脂肪が 付いていることから、死亡時の健康状態は非 常に良好だったと推定された。歯や内臓、胃 の内容物などを詳しく調べれば、マンモスの生 態について新事実が見つかると期待できた。 フィッシャーはとりわけ、まだ突き出していな いリューバの小さな牙に注目した。牙は門歯 2 体の組織に乳酸をつくる細菌が繁殖。発酵に よって食品が保存されるように、乳酸の作用 で腐敗が抑えられた。 3 周りの土が凍結する過程で、遺体が乾燥、縮 が変化したもので、死ぬまでずっと少しずつ新 たな層が形成され続ける。そのため断面には、 ちょうど樹木の年輪のように、年ごと、日ごとの 小し、体重が半減した。 成長の跡が刻まれているのだ。 新たに積もった土砂 フィッシャーはこの 成長線 から、個体の生 活史を詳しくたどれると考えていた。成長線の 幅が太いところは、食料が豊富な夏に急成長 永久凍土 した跡で、幅が狭いところは、食料が欠乏する 冬の記録である。 牙の根元の層、つまり最後に形成された層 4 シベリア、ヤマル半島に遅い春が訪れ、川の 氷が解け出す。その流れは岸辺の永久凍土を 削りとる。植生は大きく変わったが、4 万年前 も似たような地形が広がって いただろう。 からは、マンモスの死因もわかると考えていた。 怪我や病気、環境ストレスによって徐々に衰弱 して死んだか、なんらかの事故で急死したのか を知る手掛かりが残されているというのだ。 さらに、牙に含まれる元素と同位体を調べれ 川 体高 1 メートル 体重 100 キロ ば、食べていたものや当時の気候、さらには季 節的な移動などもわかりそうだ。 FERNANDO G. BAPTISTA, NG STAFF; MAMMOTH ART BY KAZUHIKO SANO SOURCE: DANIEL C. FISHER, UNIVERSITY OF MICHIGAN マンモス解剖 47
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