チ 太 平 洋 リ 洋

ン
ア
デ
ス
チャイテン
チ
ロ
エ
脈
クエラト
国立公園
ア
コイアイケ
バケール1号ダム
チ
パスクア・ダム
ラス・グアイテカス
国立保護区
ラグナ・サン・
ラファエル
国立公園
北部氷原
カタラリハール
国立保護区
ウェイジャー島
ス
ペナ
湾
太
75° W
パスクア保護区
バケール2 号ダム
島
ル
ゼ
ン
コチラネ
バケール保護区
マグダレナ島
国立公園
コーコ
バド
湾
プエルト・
モント
山
ン
トーレス・デル・パイネ
国立公園
ラウタロ山
3,623 m
チ
マゼラン海峡
55°
パイネ保護区
未確定の国境線
南 部 氷 原
ピオ11世氷河
ルト・ナタレス
プエ
グレイ氷河
リ
エア・フィヨルド
プエルト・
エデン
ア
ベルナルド・オヒギンズ
国立公園
ル
ラ カ
フ
ェ ス
アルベルト・ド・
アゴスティニ
国立公園
自
然
保
護
区
サケの養殖場は水質を汚
染し、サケの疫病をまん延
させる。この地域には養殖
場は、1000 カ所以上あり、
水質のきれいな海 域にさ
らに数 千カ所 が 移 設され
る予定だ。
75°
バイロン島
45° S
南 米
50°
総面積 1200 万ヘクタールに及ぶ国立公園と保護区からなるパタゴニア地方は、
世界有数の大自然だ。この地域では、サケの養殖場が次々とつくられ、
国内の電力需要をまかなうために、いくつものダムの建設が計画されている。
サケの養殖場
既存の養殖場
洋
計画中の養殖場
0 km
50
MARTIN GAMACHE, NG STAFF; ELBIE BENTLEY
SOURCES: INTERNATIONAL RIVERS;
SERNAPESCA; WWF CHILE
ペルー海流
サンティアゴ
保護区
ダム建設予定地と
送電線の敷設予定地
拡大図の
範囲
チリ
アル
ゼン
チン
平
雄大な自然に迫る開発の足音
パタゴニア
こうした航海が行われていた一方で、この
スから北のプエルト・モントまで、片道 4日かけ
であって、海域やそこに生息している水生動
ヨルド湾内の海水と淡水のバランスが乱れる危
海域では基本的な探査すらつい最近まで行わ
て移動し、途中、プエルト・エデンに寄港して
物は保護されないのだ。
険をはらんでいる。南部氷原にある48 の氷河
れていなかった。地図のあちこちに記されてい
荷下ろしを行う。付近の海域はチリ海軍がパト
ノルウェーの企業がチリでサケの養殖を始め
のうち、46 の氷河が後退し、ひとつは状態が
る英語の地名は、1830 年に英国の調査隊が
ロールし、チリの森林公社(CONAF)
が、この
るにあたって、この地を養殖場に選んだのは、
安定している。前進しているのはピオ11世氷
この一帯を探査した名 残だ。ピオ11世氷河だ
地域の保護と森林資源管理を担当している。
フィヨルドが開発で荒らされていなかったから
河だけ。この氷河は、中世から19 世紀まで続
けは、1931 年に初めてこの南沿岸部の氷原を
過去 1 世紀で、この地域に生息する生物や
だが、それも昔の話だ。サケの養殖は大量の
いた小氷期(寒冷な時期)に最大規模となっ
踏破したイタリアの探検家が、当時のローマ教
先住民の数は減少の一途をたどった。初期の
排泄物や餌に含まれる抗生物質などで水質を
た、世界で唯一の氷河だといえそうだ。
な ごり
皇ピオ11 世をたたえて名付けたものだ。
探検家たちが見つけた、ピオ11世氷河の終着
汚染し、水中の酸素の量を低下させサケを死
過去 80 年間にこの氷河がこれほど速く前進
2007 年に氷河の調査報告をまとめた研究
地であるエア・フィヨルドの湾口にあったアザラ
滅させる伝染性サケ貧血と呼ばれるウイルスを
した正確な理由は誰にも分からない。南部氷
者たちは「南米の氷河にはまだ探査されてい
シの繁殖地は、はるか以前に消滅している。
まん延させた。養殖会社は事態を解決するた
原の中心にそびえる活火山、ラウタロ山の噴
ない重大な欠落部分がある」
と指摘するしかな
以前はこのフィヨルドに囲まれた海域にはさまざ
め、単に養殖場を水質のきれいな南の水域に
火で解けた氷河が復活した可能性もあるし、ア
かった。正確に言うと、ベルナルド・オヒギンズ
まな種類のクジラがやって来たが、今ではめっ
移しただけだった。
ンデス山脈を押し上げている地殻プレートの変
国立公園、カタラリハール国立保護区、ラス・
たに姿を見かけなくなった。かつて地域の漁
陸地では水力発電が脅威になりつつある。
動か、温帯域の氷河特有の突然の変化が原
グアイテカス国立保護区、ラグナ・サン・ラファ
業を支えていたムール貝は赤潮の被害で激減
ここ数年、パスクア川とバケール川流域で、水
因かもしれない。いずれにせよ、ピオ11 世氷
エル国立公園など、チリのパタゴニア地方のフ
してしまった。さらにこの地域を拠点に生活し
力発電用のダムを数基建設するよう圧力が高
河が、収縮する一方のこの地域の氷河の中で
ィヨルド海岸に連なる保護区の大半の内陸部
ていた狩漁民アラカルフは、人口が減り、今で
まっている。ダム建設を批判する人々は、代替
変わり種であることは間違いない。
は、未踏査のままになっている。
はごく少数がプエルト・エデンで不遇をかこちな
エネルギーの選択肢がこれほど多様なチリで
ピオ11世氷河の南にあるトーレス・デル・パ
この地域を脅かす変化は水路からやって来
がら暮らしている。
は、ダムは時代遅れで不要だと主張している。
イネ国立公園には、大勢の観光客がバスに乗
ダムは、せき止められた川の流域の生態系を
って押し寄せる。だが、チリのフィヨルド海岸に
破壊し、ダムから首都サンティアゴまで送電線
観光客が殺到することはない。この地域は、
る。現在、プエルト・ナタレスの町を起点に、氷
河観光用の小型クルーズ船が何隻か航行して
パタゴニアに忍び寄る開発の波
いる。このナビマグ・フェリーはプエルト・ナタレ
チリは、ノルウェーに次いで、世界第 2 位の
を敷設するとなれば、全長 2215キロにわたっ
サケの養殖や水力発電用のダムといった要因
養殖サケの生産量を誇る。北部氷原に近いラ
て森林を伐採する必要がある。
のほかにも、あまりに不便な場所にあることが
筆者バーリン・クリンケンボルグ
(Verlyn Klinkenborg)
は本誌 2009 年6月号の特集「フィンランド オウランカ国立公
園」
を担当。写真家マリア・ステンゼル
(Maria Stenzel)
にとって、本特集は本誌で25 本目の担当記事になる。
ス・グアイテカス国立保護区の沖合では、円筒
チリのフィヨルド海岸を脅かす最も深刻な危
災いして危機に瀕している。チリのパタゴニア
形のかごが海中に下げられ、サケが養殖され
機は気候変動だ。氷河を水源としてきたこの
地方の豊かな自然は、保護されなければ残ら
ている。保護区や公園で保護されるのは陸域
一帯の河川が気候変動によって干上がり、フィ
ないだろう。j
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パタゴニア
95