講演番号 17 公益社団法人 物理探査学会第131回学術講演会論文集(2014) 河川堤防の比抵抗分布とS波速度分布による構造的特徴と開削後の土質状況 岡﨑健治*,倉橋稔幸(寒地土研),茂木透,重藤迪子(北大理), 高井伸雄(北大工),稲崎富士(土研),堀田淳(ジオテック) Structural features of excavated river levee clarified by electrical resistivity and S-wave velocity distributions Kenji Okazaki*, Toshiyuki Kurahashi (CERI), Toru Mogi, Michiko Shigefuji (Fac. Sci. Hokkaido Univ.), Nobuo Takai (Fac. Eng. Hokkaido Univ.), Tomio Inazaki (PWRI) and Jun Horita (Geotech) Abstract: The resistivity of the levee and its excavated surface was confirmed to be different depending on soil types, but such tendency was not seen between S-wave velocity and soil types. Permeability coefficients obtained from D10, D20, Fc by grain size test showed values close to measured ones. Moreover, correlation was recognized between permeability coefficient and apparent resistivity on the excavated surface. Thus it was suggested that the resistivity could be effective to estimate permeability coefficient of the levee. 1. はじめに 河川堤防の統合物理探査(土木研究所・物理探査学 会 2013)では,堤体の地盤構造や異常箇所を検出する ため,複数の物理探査によって異なる物性値を求め, 既存資料も含めて,総合的な河川堤防の安全性評価を 行うことが重要であると述べている. これまで筆者らは,樋門が計画された河川堤防(Fig.1) において,その開削前に高密度比抵抗法電気探査,ス リングラム電磁探査および表面波探査を実施し,既存 の地質調査資料を加味して堤体の構造的特徴を推定し た(茂木他 2014) .あわせて,開削後,開削面では, 小電極間隔での電気探査と高周波表面波探査(稲崎 2014)を実施し,開削前の結果と対応を整理した. 本調査では,開削面から採取した試料の土質試験結 果と開削面の比抵抗値の関係をもとに,堤体の透水性 について考察したので報告する. 2. 調査概要 2. 1 堤防での探査 本調査は,北海道千歳川流域の恵庭市北島地区で樋 門が計画された堤防で実施した. 本調査では,はじめに開削前に堤防の天端で実施し た高密度比抵抗法電気探査と表面波探査による比抵抗 と S 波速度を堤体部(天端~深度 5m)について土質別 に整理した. 堤体の比抵抗と S 波速度は, 縦断方向 2m, 鉛直方向 1m ごとに値を読み取り(270 点)整理した. また土質は,近傍のボーリング調査で判明しており, その区分ごとに比抵抗と S 波速度を整理した. 高密度電気探査は,千葉電子製比抵抗測定機を用い, 電極間隔 1m,等間隔ウェンナーとエルトラン電極配列 によって,隔離係数 1~16 まで測定した.2 次元の逆 解析は ABIC 最小化法による最適平滑化拘束による逆 解析(内田 1993)で行った. S 波速度は,電気探査と同位置において,カケヤで 起振,GeoSpace 社製 4.5Hz 速度型地震計 GS-11D で受 信,Geometrics 社製 GEODE(24ch)で収録した.測 線上での受振器は移動式固定展開とし,24 個の地震計 を 2m 間隔,4 展開した(測線長 120m) .得られた記録 に対し,CMP 解析(林 2001)を行い,Rayleigh 波の 位相速度を求め,非線形最小二乗法による逆解析によ り浅部地盤の S 波速度構造を推定した.解析には,応 Fig.1 北島地区左岸堤防開削位置図(太線:探査測線) 63 用地質株式会社製,高精度表面波探査解析プログラム (SeisImager/SW) を使用した. CMP距離は4mとした. 分散曲線は交通振動などのノイズや高次モードの影響 を除去し,基本モードを解析に使用した. 2. 2 堤防開削面での探査 開削後の開削面において,小電極間隔での電気探査 と高周波表面波探査を実施し,開削で判明した土質別 に整理した(Fig.2) . 開削面での比抵抗は, 応用地質製 Mc-Ohm を使用し, 電極間隔 10cm によるウェンナー電極配置により 5~ 20mA 程度の電流による電位を 180 点で測定し,見掛 比抵抗を求めた. 開削面での S 波速度は,固有周波数 28Hz の地震計 と DAS-1 データ収録装置を用いて,地震計間隔 30cm でカケヤにより起振し,水平 3 測線と堤防縦断方向 1 測線における伝搬振動として求めた.なお,両探査結 果が重複する 106 点におけるデータを整理した. 2. 3 土質試験と透水係数 開削面から採取した土質試料(18 試料)の粒度試験 の結果から D10(10%粒径) ,D20(20%粒径)および Fc(細粒分含有率<75μm)を求め,Hazen(1892) , Creager(1944) ,堺谷他(2007)および稲崎・小西(2010) Fig.2 北島地区における探査結果 1 段目:開削箇所における開削前の堤体と基礎地盤の比抵抗,2 段目:開削面の見掛比抵抗, 3 段目:開削面の土質分布,4 段目:開削箇所の土質状況写真 64 Table.1 堤体の比抵抗と S 波速度 範囲 土質名 データ数 比抵抗(Ωm) S波速度(m/sec) 天端~深さ3m 火山灰質砂(不飽和) 165 91(40~100) 138(120~150) 深さ3m~5m シルト 105 49(10~100) 124(110~130) 10000 1000 見掛比抵抗(Ωm) による提案式をもとに堤体内の透水係数(k)を算出し た.これらの透水係数と開削面で測定した見掛比抵抗, 透水試験結果(定水位法 1 試料,変水位法 6 試料)と の対応について考察した.ここで,堺谷他(2007)の 提案式による透水係数は,山砂の締固め地盤を対象に 実施した 79 地点での現場透水試験による透水係数と 粒度試験による Fc に基づく値である.また,稲崎・小 西(2010)の提案式による透水係数は,これまでに収 集した地盤調査資料 1,000 件以上の現場透水試験と粒 度試験結果に基づく値である.なお,ここでの透水係 数は,土粒子の表面や粒子間に吸着する浸透に関与し ない不動水の影響を差し引くことで透水係数に関係す る間隙(有効間隙率)を想定した Timur(1968)の経 験式をモデル化して求めている.以下に,本調査で用 いた透水係数の各提案式を示す. I シルト II 礫混じり砂 II シルト質砂 II 有機質シルト III 礫混じり砂 IV 砂質シルト IV 礫 100 10 1 0 50 100 150 S波速度(m/sec) Fig.3 開削面の見掛比抵抗と S 波速度 3. 調査結果 3.1 堤体の比抵抗と S 波速度 Table.1 に開削前の堤体(天端から深度 5m)の比抵 抗と S 波速度の関係を既存のボーリング調査で判明し Creager(1944)の式 ている土質別に示す.火山灰質砂の比抵抗は,シルト 2.368 k = 0.36 D20 (D20>0.03) ・・・・・(2)式 と比較して 2 倍程度の違いが認められる.一方,S 波 1.885 k = 0.647 D20 (D20<0.03) ・・・・・(3)式 速度は同程度の値であり土質の違いによる大きな差は 認められない.このことは本調査地のような堤体の土 堺谷他(2007)の式 質では,その違いを比抵抗で,より明瞭に評価できる - 0.1542 Fc k = 0.024e ・・・・・(4)式 場合のあることを示すといえる. 3.2 開削面の見掛比抵抗と S 波速度 稲崎・小西(2010)の式 Fig.3 に開削面における見掛比抵抗とS 波速度の関係 を築堤の土質別に示す.見掛比抵抗は 30~1300(Ωm) φ2 -6 k = 3× ×10 ・・・・・(5)式 を示し,礫混じり砂で高く,シルトで低い.また,開 Swi8 削で判明した土質の分布状況をみると(Fig.2) ,堤体の Swi = 1-φe/φ 表面~深度 2m 程度までは II~IV 次築堤の礫や礫まじ φe = a(φ-φs) ( b・φ-φc)+φs り砂が分布している.また深度 2m 以深では,I 次築堤 a, b:定数 の粘土が分布している.後者は前者より見掛比抵抗が φs:純粋砂の間隙率 低いことがわかる.一方,S 波速度は 60~120(m/sec) φc:純粋粘土の間隙率 を示し,土質の違いによる大きな差は認められない. (文献によるa = -0.25, b =2.5, φs =0.3, φc =0.8 を適用) このことは見掛比抵抗が土質の違いを捉えやすいのに φ= 0.0021Fc+0.4169 対し,S 波速度は同じ土質でも開削に伴う緩みの影響 Hazen(1892)の式 k = C D102 ・・・・・(1)式 C:定数(大小粒子が混じっている砂:60) 65 1.0E-11 定水位法 変水位法 Hazenの式 Creagerの式 堺谷他の式 稲崎・小西の式 1.0E-10 透水係数(m/sec) 1.0E-09 1.0E-08 1.0E-07 1.0E-06 1.0E-05 1.0E-04 1.0E-03 1.0E-02 10 100 1000 10000 開削面の見掛比抵抗(Ωm) Fig.4 透水係数と開削面の見掛比抵抗 を受けると推定できる. 3.3 開削面の見掛比抵抗と透水係数 Fig.4に開削面の見掛比抵抗と透水試験結果ならびに 粒度試験による D10,D20,Fc を用いて(1)~(5)式 によって求めた透水係数の関係を示す. 見掛比抵抗と透水係数の関係をみると,両者に相関 が認められ,見掛比抵抗が低いと透水係数も低いこと がわかる.また,透水係数の実測値は提案式による値 と同程度で得られている.見掛比抵抗は,概ね 800(Ω m)以上であれば,透水係数が 10-4 オーダーとなるこ とが確認でき,透水性の低い「微細砂,シルト,砂- シルト-粘土混合土」と透水性の中位な「砂および礫」 (土の透水試験方法:JIS A 1218)との区分が可能とい える.いずれの提案式も粒度試験で得られる D10,D20, Fc によって透水係数の推定は可能である.ただし,土 質によっては D10 や D20 が得られないため,Fc による 透水係数の推定が場合によって有効であるといえる. また,これらの提案式による透水係数と開削面の見掛 比抵抗は相関がよく,開削前の比抵抗と開削面の見掛 比抵抗についても,よい対応が認められていることか ら(茂木他 2014) ,開削前の比抵抗によって堤体や基 礎地盤の透水係数を推定することは可能といえる. 4. まとめと今後の課題 本調査の結果をまとめると次のとおりである. 1) 堤体の比抵抗と開削面の見掛比抵抗は土質の違い で差が認められたが,堤体と開削面の S 波速度は土 質の違いによる大きな差は認められなかった. 66 2) 粒度試験による D10,D20,Fc から求めた透水係数は 実測値とよい対応を示し,開削面の見掛比抵抗とも 相関が認められた.本調査では,見掛比抵抗が 800 (Ωm)以上であれば透水係数が 10-4 オーダーを示 したことから,比抵抗によって堤防の透水係数をあ る程度,推定できることが示唆された. 今後は,他の地区での調査結果も同様な整理を行い, 比抵抗と透水性の関係について分析を進めていきたい. 本調査は,国土交通省平成 25 年度河川砂防技術開発 課題「堤防及び河川構造物の総合的な点検・診断技術 の実用化に関する研究開発」によって実施した. 本調査では,国土交通省北海道開発局千歳川河川事 務所,北海道大学理学研究院,同工学研究院の各位に ご協力いただいた.ここに記して厚くお礼申し上げる. 参考文献 稲崎富士(2014) :開削部詳細調査に基づく堤体材料特 性と物理探査測定データの関連性について,物理探 査学会第 130 回学術講演会講演論文集,247-250. 稲崎富士・小西千里(2010) :堤防基礎地盤における透 水係数と粒度特性の関係,河川技術論文集,第 16 巻. 内田利弘(1993) :ABIC 最小化法による最適平滑化拘 束による比抵抗法 2 次元インバージョン,物理探査, 46, 105-119 河川堤防の統合物理探査―安全性評価への適用の手引 き―(2013) :土木研究所・物理探査学会. 林宏一(2001) :表面波探査における CMP 解析,物理 探査学会第 105 回学術講演会論文集,13-16. 茂木透・重藤迪子・高井伸雄・岡崎健治・倉橋稔幸・ 大日向昭彦・堀田淳・稲崎富士(2014) :千歳川堤防 開削地点での物理探査,物理探査学会第 130 回学術 講演会講演論文集,119-122. Creager, W. P., Justin, J. D. and Hinds, J.(1944): Chap.16 soil tests and their utilization, in Engineering for dams, Vol. III: Earth, Rock-fill, Steel and Timber Dams, John Wiley and Sons, pp.645-654. Haren, A.(1892): Some physical properties of sands and gravels, with special reference to their use in filtration, 24th Annual Report, Massachusetts State Board of Health, pp.539-556. Timur, A.(1968) :An investigation of permeability, porosity, & residual water saturation relationships for sandstone reservoirs, The Log Analyst, July-August, pp.8-17.
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