メキシコ:原油価格下落の既存油田の生産、鉱 区公開方針等の石油政策に対する影響 ペルディト (Perdido) 2015年3月19日 調査部 伊原 賢 1 経緯 • 近年のメキシコにとって最大の課題であったエネルギー改革に 向けた憲法の部分改正(エネルギー改革法)は、2013年12月 20日にペーニャ・ニエト大統領によって公布され、メキシコでの 石油開発事業への外資の参入機会が開かれることとなった。 外資を導入するための具体策として、石油法やペメックス法を 含む2次法制は、2014年8月11日にほぼ原案通り成立した。8 月13日には、ペメックスが引き続き開発を行う鉱区(ラウンドゼ ロ)と一般入札(ラウンドワン)の対象鉱区が明らかになった。 • 2014年11月からペメックスとのジョイントベンチャーのパートナ ー入札を皮切りに2015年11月まで実施予定のラウンドワンに、 外資の参入機会が具体化する。特に2014年半ばからの原油 価格下落傾向の中で、メキシコ政府がどのような対応を取るの かに注目が集まる。 2 話の流れ 油田開発の現状と課題 エネルギー改革法 天然ガス ラウンドゼロとラウンドワンの動き まとめ 3 油田開発の現状と課題 メキシコの膨大な炭化水素資源と埋蔵量 2014年8月、ペメックスはメキシコ全体の2P埋蔵量の83%、想定資源量の21%、面積9万km2を 保持することとなった。ラウンドゼロではぺメックスが今後20年以上、原油換算で日産250万 バレルを維持するために、保持したい鉱区は、ほとんど認められた格好。 4 油田開発の現状と課題 メキシコの原油生産プロファイル(1960年から2011年) 5 埋蔵量と生産量 メキシコの原油生産プロファイル(2000年から2014年) 出所: ペメックス (百万バレ ル/日) 6 埋蔵量と生産量 メキシコの原油生産予測(2015年から2028年) (百万バレル/日) 出所: SENER 7 エネルギー改革法 2013年12月に公布。 エネルギー改革により、ペメックス単独では採算が見込めず、 行われてこなかった大水深油田やシェールオイル・ガスの開発 が進むと期待。 国家債務を増加させることなく投資資金や最先端技術を調達す ることで、埋蔵量の増加や、国際的経済競争力の引き上げに 貢献。 大統領は炭化水素の所有権は国有のまま維持し、国家主権を 強化すること、透明性を保証することを強調。ライセンス契約や 生産物分与契約(PSC)が想定。石油・ガスの探査・採掘におい て国が民間企業と契約を締結する際は、住民との協議・監査の 下で実施。石油基金の創設とペメックス取締役会からの石油労 組排除も特筆。 8 天然ガス 米国の安価なガスがメキシコ国内でのガス開発に圧力 メキシコ国内の天然ガス生産の減退(2010年にピーク1.9兆立方フィート)に伴い、 産業・家庭用の電力確保のため(2010年需要 2.3兆立方フィート)、天然ガス輸入 を増やす必要に迫られている。 天然ガスは米国(Eagle Ford, Permian Basin)からシェールガス(シェールオイルの 随伴ガス)を中心とする安価なガスが輸入(2013年日量19億立方フィート、2018年 日量38億立方フィート)できるため、メキシコ国内での天然ガス開発にインセンティ ブが働かない。メキシコのガス価格はヘンリーハブ価格の1.3倍程度(2012年)。 ラウンドワンの169鉱区の内、89鉱区はガス主体(陸上81、洋上8)。輸入ガスは、メ キシコのガス需要の40%を占める。 2016年半ばの米国からのガスパイプライン整備(NET Mexico, Los Ramones):日 量21億立方フィートを700マイル離れたメキシコ第3の都市Monterreyまで運ぶ。メ キシコの輸入LNG価格はパイプラインガスの約3倍。 メキシコにおけるガス開発促進には、ガス価格が5ドル/千立方フィート未満の時は、 ロイヤルティを徴収しない措置がとられるかもしれない。 9 ラウンドゼロ 認可された2P(確認+推定)埋蔵量と想定資源量 10 ラウンドゼロ 既存契約の変更とファームアウト 出所: ペメックス JV 11 ラウンドワン 対象鉱区の2P(確認+推定)埋蔵量と想定資源量 12 浅海 13 シェール開発の見込み シェールガス・オイル分布と開発エリアのランキング Pemexはメキシコのシェール資源を原油換算で約600億バレルと推定(オイル53%、ガス47%) 2014年12月、CNHのZepeda委員長は、現在の原油価格低下は、採掘に莫大なコ ストがかかり、その償却のために短期間で生産を開始する必要のあるシェール油 ガス田でのフィージビリティに影響を及ぼすと述べ、これらシェール油ガス田が“ラ ウンドワン”で提供される鉱区に含まれることについて、再検討する必要があると 語った。 14 大水深 ペメックスの努力 2011年、ペメックスはアメリカ合衆国に接する海上の国境の近くのペルディト (Perdido)エリアにおいて油の発見を公表。第1の発見井Trion-1号井において2.5 億~5億バレルの軽質油が賦存する可能性があると、2012年半ばに発表。カルデ ロン前政権に対して、堆積盆地全体では100億バレルの賦存可能性を進言する ニュースにつながった。 ペルディトエリアに対する期待は2012年末Supremus-1号井にて1億2500万バレル の埋蔵量が見つかったという発表により、更に強められた。次の井戸Maximino-1 の結果は「冠の中の宝石」と評価。ペメックスは2013年から2017年にかけて、メキ シコ湾の深海に計32坑の探鉱井を掘削中。 深海では探鉱に伴うコスト・リスク・複雑性を考えれば、深海開発に十分な知見を 持つ会社とのパートナーシップが、ペメックスの深海開発の鍵。 メキシコ湾深海における採掘の可能性のある油田についてはラウンドワンに含め ることが保持される。というのも、これらの鉱床では、探査を始めてから生産開始 までにおよそ8年の年月を要し、現在起きている原油価格下落がフィージビリティ へ影響しないと判断されるからである。 15 ラウンドワン タイムテーブルのずれ 油価の下落を受けて、上表で示したスケジュールが後ろにずれた。 浅海探鉱の入札 2014年12月11日(情報公開)~2015年7月15日(入札日) 浅海生産の入札 2015年2月27日(情報公開)~2015年9月30日(入札日) <日程は後日発表> 陸上成熟油田の入札(生産のみ) 大水深と重質油の入札(探鉱と生産) チコンテペックと非在来型資源の入札(探鉱のみ) ペメックスとのJV(浅海、陸上成熟油田、チコンテペックと非在来型資源。大水深と重質油はなし。) 16 油価の影響 原油は投機商品でもある。昨年6月からの油価の 下落は、先物のロングを投げ売りしたために売り が売りを呼んだ結果だろう。油価80ドル/バレル付 近には先物のプットの建て玉がたくさんあるので、 この価格帯を抜けるのは難しいだろう。70ドル/バ レル前後を落ち着き先と見る。 今年2月に入ってから、原油価格の下落と競争激 化で、Pemexが資本支出を削減した。製油所改修 など設備投資計画を延期した。さらにメキシコ湾の 大水深域での探鉱プロジェクトの延期を決定した。 17 まとめ ① ① メキシコ合衆国にとって、石油は外貨獲得の重要な手段であり、1938年以来、資源ナ ショナリズムのもと、国営石油会社ペメックスのみが石油の採掘を行ってきた。しかしな がら、ペメックスの収益の大半はメキシコ政府の財源にあてられているため、石油の新 規採掘のための投資が完全に不足している。 ② メキシコではシェール資源や水深500m以深の大水深油ガス田の存在が確認されてい るが、ペメックスの資金と技術力だけでは採掘が困難であり、今後新規に油ガス田が開 発されなければ、石油生産量は2020年に向けて13%減少すると予想されている。この 状況を打開するべく、ペーニャ・ニエト大統領は、2013年12月20日にメキシコ憲法を改正 して、エネルギー政策として外資への開放に大きく舵をきった。 ③ 油ガス田の採掘技術や資金の流れを向上させるために、技術力や資金力に長けた外 資と手を組むことは世界中で行われているが、メキシコ政府は、長年に亘り、一部の サービス契約を除き、ペメックスが第三者と共同事業を行うことを禁じてきた。シェール 資源の採掘や大水深での探鉱活動に伴うコストやリスクを考えると、資金や知見に富む 企業とパートナーシップを組むことがペメックスにとって喫緊の課題となった。メキシコ政 府はこれから外資導入を進める一方で、地下に賦存する石油や天然ガスといった炭化 水素資源の国家所有堅持を変えていない。しかし、これらの資源は一旦地表まで採取 されれば、外資にもその取り扱いが認められる。 18 まとめ ② ④ 過去5年石油換算で年10億バレルを発見。短期では240万バレ ル/日キープが目標。中期では280~300万バレル/日キープが 目標。 ⑤ エネルギー改革法には潜在的なリスクもあろう。例えば、ペメック スの下流部門とCFE(電力会社)の棲み分けがはっきりしない。 どちらも発電をしようとしている。また、国営会社に対するメキシ コ政府の関与が薄まりすぎるのではないかとの懸念がある。各 社の格付けは、キャッシュを政府に吸い上げられている代わりに 政府の後楯がある、という見立てで付けられている。国内の燃料 価格政策(例えば、ガソリン価格への補助金:資源への競争が働 かないと補助金削除はメキシコ国民にとってガソリン価格の上昇 となる。)、生産物分与契約(PSC)、ほかの国の契約条件との比 較、政府の意向(ペメックスとCFEのトップは政府が任命)にリス クがあろう。ペメックスの役員会議長はエネルギー大臣が務める。 人材の不足もあろう。 19 まとめ ③ ⑥ 国民の改革に対する支持はミックスであり、改革の成功は石油収 入の増加を教育、社会的ニーズ、インフラなどへと転換する政府 の能力にかかっている。改革の推進には、安全性、透明性、不正 防止、社会倫理の担保が重要だ。しかし、エネルギー改革を巡る 政治的闘争は、国際石油企業に、特に大水深に対する大きな関 心を抱かせるのを思い留まらせるまでには至っていない。投資家 達はメキシコの石油・天然ガスセクターに対して長期的な視点を とっているようにも見える。最近の原油価格の下降は投資家の関 心にはネガティブに作用していないと見る。 ⑦ 総じて、潜在的な投資家達は、関心を表明しつつも政治的、社会 的、技術的障害を認識し、注意深く、しかし楽観的にメキシコでの 機会を見据えている。 20
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