Moodle とタブレット端末を活用した「つぶやき」の実践

Moodle とタブレット端末を活用した「つぶやき」の実践
三重県鈴鹿市立白子小学校 教諭 福島 耕平
キーワード:学習成果,ミニ作文,共有,交流,Moodle,小学校教育
全員が Moodle のフォーラムに投稿し終えたら、
教員が 1
1.はじめに
小学校学習指導要領では、各教科における言語活動を充
枚の学級通信に編集し、その日の帰りの会で配布した(図
実させることが示されている。言語活動には「話すこと・
2)
。帰りの会では、必ず児童が読む時間を確保するように
聞くこと」
「書くこと」
「読むこと」があるが、一般的に低
し、学級全員で共有する活動を繰り返しおこなった。
学年の児童ほど文章表現を好み、学年が上がるにつれて「書
この「つぶやき」に関しては、児童の書いた内容につい
くこと」を嫌うようになってくる。また、自分で書いたも
て、内容の添削指導はおこなわず、通信に編集する際に、
のを他人にみられることに対して、学年が上がるほど抵抗
入力ミスや誤字脱字等の訂正のみをおこなった。
感が増える傾向にある 1)。
3.2 実践の特徴
そこで、これまで学習成果の共有や交流に活用してきた
(1)ICT 機器の活用
学習管理システムの一つである Moodle(ムードル)と児童
タブレット端末は、個人での学習に有効であることは一
一人 1 台のタブレット端末を活用して、ミニ作文の実践に
般的に言われている通りである。ドリル型の学習アプリ等
取り組むことにした。
を活用することで、個別学習のツールとして有効に活用す
ることができる。
2.実践の目的
一方で、学び(学習成果)の瞬時の共有という点におい
ミニ作文を繰り返し書くこと、書いたものを学級内で共
ても、紙ベースのものにはない効果が期待できる。ただこ
有・交流する実践を通して、児童の「書くこと」への苦手
れには、タブレット端末だけでなく、学び(学習成果)を
意識の軽減を図り、伝えることの楽しさを実感させること
共有・交流・蓄積するための基幹システムが欠かせない。
ができないかと考え、授業実践をおこなった。
市販されている製品もいくつかあるが、学校ライセンスの
購入となるとかなりの予算が必要となる。そこで、オープ
3.実践内容
ンソースソフトウェアの学習管理システムである Moodle
3.1 「つぶやき」の実践概要
「つぶやき」とは、児童のミニ作文である。小学 5 年生
1 クラス 26 人を対象に、週 1 回程度のペースで、1 学期 12
回取り組んだ。2 学期・3 学期も継続して取り組んでいる。
実践は、主に総合的な学習の時間におこなった。
「つぶや
き」のテーマは、日常の学校生活のできごとを取り上げた。
児童は、教室に常備してある下書き用紙に、与えられたテー
マにもとづいて、個々の所感を書く。
文字数については、14×12 の原稿用紙(本文 140 字)
図1 フォーラムに投稿された「つぶやき」の画面
とした。これは、できるだけ多くの回数に取り組むための
時間確保が負担にならないことと、
「書くこと」が苦手な児
童には、一般的に使われている 400 字原稿用紙半分(200
字)は負担感が大きいためである。
紙に下書きさせた理由は、下書きなしでタブレット端末
に入力させると、機器の操作にとらわれて、内容が薄くな
りやすいからである。
下書きの時間はおおよそ 10 分とし、
書けた児童からタブ
レット端末を活用して Moodle のフォーラムに投稿させた
(図1)
。入力時間はおおよそ 15 分で、全体としては 25
分間程度である。早くできた児童は、友だちの「つぶやき」
に対して、コメントを返信する時間とした。
図 2 通信として発行された「つぶやき」
(一部抜粋)
を用いることにした。Moodle は本来、高等教育機関での
e-learning を前提としたシステムであるが、これを小学校
において学び(学習成果)の共有・交流・蓄積の基幹シス
テムとして活用した 2)。
文字の入力については、キーボードからの文字入力リテ
そのため、児童が投稿したものをその日のうちに通信に
して発行することも可能であった。
4.2 児童の意識
1 学期末のアンケートでは、
「はじめは同じ考えしかもっ
てないと思っていたけど、意外な考えがわかるから楽しい。
」
ラシーには、個人差が大きいことが問題であった。そこで、
「つぶやきをすることで友達が思っていることがわかるの
手書き IME として、どのアプリでも利用可能な Mazec(マ
で楽しいと思います。
」
「文章をかくカがつくのでやりたい
ゼック,MetaMoJi 社製品)を活用した。これにより手書
です。
」
「自分の気持ちを正直に書けるのでいいと思います。
」
きしたものが活字に変換されるため、キーボードからの文
といった内容の記述が多くみられた。
「書くこと」
、それを
字入力リテラシーが身についていない児童にも入力しやす
共有することを何度も繰り返すことで、児童は自ら書ける
い環境をつくることができた。
ようになってきたという実感をもてたと同時に、友だちの
(2)体験的な情報モラル教育
書いてあることを知りたい、自分の思いを伝えたいという
日常的に活字を介した考えや思いの共有・交流は、体験
気もちも強くもてた。
的な情報モラル教育になり得る。小学校ではメールや Line
今後もこの活動を続けたいかという問いには全員が肯定
をもちいた文字による交流は、危険が伴いやすいという指
的であった。児童からは「今日はつぶやき書かないの?」
導が多い。もちろん危険性の指導も大切ではあるが、体験
「書きたい」という声が頻繁に聞かれるようになった。
を伴わない指導では効果が薄いと考える。
小学校の学習において、学習集団の基本である学級づく
「つぶやき」の実践を通して、児童は自分の「つぶやき」
りは大きなウェイトをしめている。その中で本実践のよう
の発信、それに対する友だちからのコメント受信、友だち
に、日常的に学級に自分の考えを出し合えること、それを
の「つぶやき」に対するコメント発信など、活字を介した
共有でき、友だちから認められることは、児童の承認欲求
情報の送受信の循環を日常的に体験できる。学級集団内で
を満たすことにもなり、それは学習意欲にもつながる。
繰り返される良好な活字を介した共有・交流は、発信する
本実践による学級通信「つぶやき」は、保護者にもリア
言葉に責任をもつ情報モラル教育の大切な基盤になり得る
ルタイムに学校生活がわかり、いろいろな児童の考えがわ
と考える。また、不適切なコメント等があった場合でも、
かると好評であった。
個人名が表記されているため、具体的な指導がおこなえる。
5.今後に向けて
4.成果
4.1 ICTを活用した効果
本実践は総合的な学習の時間を活用した実践であるが、
教科の学習にも応用可能である。従来の教員の指名による
一度手書きしたものを Moodle のフォーラムに打ち込む
児童の発言をもとに流れを組み立てる場合、発言できる児
のは、一見二度手間のように思えるが、以下の 3 点におい
童も限られ、児童全員の考えを共有・交流することは難し
てメリットがあった。
い。本実践形式を従来の授業の中に組み込むことで、教科
1)紙ベースのものは、その場の共有は難しいが、Moodle
学習の内容も深められると考える。
のフォーラム上のものは、その場ですぐに見ることがで
きる。そのため、児童は自分が打ち込んだ後、友だちの
「つぶやき」をすぐに読んでいた。
2)一般的に児童は一度書いた文章を修正するのを嫌がる。
謝辞
本実践の一部は、今年度の科学研究費補助金奨励研究(課
題番号:26910015)の助成によるものである。
消しゴムで消したり、途中で追加したりすると、全体的
また、本実践には、三重大学教育学部附属教育実践総合
に書き直したりしなくてはならない。タブレット端末を
センターの下村勉教授の指導、助言をいただいた。深く御
活用した場合は、文の修正、追加が容易におこなえる。
礼を申し上げます。
実際に児童の下書きとフォーラムに打ち込まれた内
容を見比べると、当初は同じものが多かった。しかし実
参考文献
践を繰り返すうちに、フォーラムに投稿したものは、よ
1)平井千加子(2005)
,自分の考えを持ち、生き生きと表現
り伝わりやすい書き方に改善されているものが増えて
する国語科学習指導,高知県教育公務員長期研修生研
きた。児童は、フォーラム投稿時に伝えることを意識し
て、積極的に自分の文章を改善していた。
究報告.
2)福島耕平,下村勉(2013)小学校における Moodle を活
3)児童が Moodle のフォーラムに打ち込んでいるため、
用した学習成果の共有と交流,日本教育工学会論文誌,
通信に編集する際に、コピー&ペーストで編集できる。
37(Suppl)
:161-164