CHEMOTHERAPY FE8.1985 TA-058の 大 腸 菌に 対 す る抗 菌作 用

CHEMOTHERAPY
126
TA-058の
FE8.1985
大 腸 菌に 対 す る抗 菌作 用 機 作 に 関 す る研 究
西 野 武 志 ・後 藤 直 正 ・石 井 信 男 ・谷 野 輝 雄
京 都 薬 科 大学 微 生 物 学 教 室
(昭 和59年6月8日
TA-058のEscherichia coli
K-12に
受 付)
対す る 抗 菌 作 用 機 作 に つ い てPiperaoillin(PIPC)を
比較
薬 と して 検 討 した 。
増 殖 曲線 に 及 ぼ す 影 響 で はTA-058は
微 鏡 に よる 観察 に お い てMICで
特 に菌 量 が 多 い 場 合 に 優 れ た 殺菌 作 用 を示 した 。 位 相差 顕
はTA-058もPIPCも
菌 を 伸 長化 させ た が,10倍MICのTA-
058を 作 用 させ る と菌 は あ ま り伸 長化 せ ずspheroplast様
た 。 同 濃 度 のPIPCを
あ るい はbulge様
構 造 を形 成 して 溶菌 し
作 用 させ て も菌 は 伸 長 化す るだ け で あ った 。 走 査 型電 子顕 微 鏡 に よる観 察 で
も同 様 な 形態 変 化 が 観 察 され た 。
Penicillin binding proteins(PBPs)に
3,1Bsに
TA-058は
対 す る親 和 性 に つ い て 検 討 した と ころTA-058は2,1A,
親 和 性 を 示 し,一 方PIPCは3に
対 して 強 い 親 和 性 を示 した 。
田辺 製 薬 株 式 会 社 で 開発 され た 新 しい 半 合
成 ペ ニ シ リ ン系 抗 生 物 質 で あ り1),化
同 様 で,グ
そ の 抗 菌 ス ペ ク トラ ム は
った 。
2.位
に 対 し 幅 広 い 抗 菌 力 を 有 す る2)。
TA-058の
coliK-12に
ラム陽 性 菌 群 お よび陰 性 菌 群
示 す と お りで あ る(Fig1)。
Piperacillinと
学構造式は 下図に
明 らか な もの を 用 い た 。 な おTA-058お
対す るMICは
よびPIPCの
と もに1.56μg/mlで
E.
あ
相 差 顕 微鏡 に よ る観 察
ス ラ イ ドグ ラス 上 に 各薬 剤 を 含 む寒 天を 作 り,対 数期
作 用 は殺 菌 的 で あ りそ の殺 菌 力 お よび 溶 菌
途 上 の 菌 液(5∼9×107cells/ml)を
カパ ー グラスに塗抹
作 用 は接 種 菌 量 が高 い場 合 他 の 同 系 の ペ ニ シ リン剤 に 比
し,こ れ を フ ィル ム寒 天 上 に か ぶ せ 周囲 を パ ラフ ィンで
べ て 優 れ て い る と 報 告 さ れ て い る2)。
封 入 し,37℃
今 回,私
ど も はTA-058の
す べ くE.coliK-12の
binding
抗 菌 作 用 機 作 を 明 らか に
形 態 学 的 変 化 お よ びPenicillin
proteins(PBPs)と
の親 和性 に つ い て検 討 を 行
な った 。
査 型重 子顕 微 鏡 に よる 観 察
Trypto-Soya
(HIB.ニ
験 材 料 お よび 実験 方 法
用菌 株 お よび 使 用 薬
菌 株 はEscherichia
TA-058お
3.走
Broth(TSB:ニ
培 養 した 菌 を 約1%の
I.実
1.使
恒 温 装 置付 倒 立 型 位 相差 顕 微鏡(日 本光
学)を 用 い て 経時 的 に 菌 の 形 態 を 観察 した 。
ッス イ)に
coliK-12を
用 い,薬
よびPiperacillin(PIPC)の
Chemical
structure
割 合 でHeart
接 種 し,37℃
用 いて前
Infusion Bmtわ
で 振 と う培 養を行
な った 。 培 養 約3時 間 後 の 対 数 期 途 上に 薬剤 を 作月さ
と し て は
いず れ も 力価 の
せ,1,2,4時
集 め,電
間 後 に 生 菌 数 を 測 定す る と同時 に菌体を
子 顕 微 鏡 用 の 試 料 と した 。 集 めた 菌 体は甥
glutar-aldehyde溶
Fig.1
ッス イ)を
of
TA-058
and
PIPC
液 に て 前 固 定 し,KELLENBEBGERら3)
の 方 法 に 従 って1%OsO4で
本 固定 後,ア ル コール系列
で 脱 水 して 酢 酸 イ ソア ミール に 置 換 し,臨 界点乾燥法4)
に よ り乾 燥 した 。 次 い で,カ ー ポ ンお よび 金 を蒸 着し走
査 型 電 子 顕 微 鏡JSM-35(日
本 電 子)で 菌 体 の表面構造
を観 察 した 。
4.Penicillin
binding proteins(PBPs)に
対す る親
和性
SPRATTの
方 法5,6)に 従 って 行 な った 。 す なわ ちE.
coliK-12をHIBに
よっ て37℃
増 殖 期 の 後 半(O.D.at660nm≒0.8)に
した 。 これ を0.01Mリ
で 振 と う培養 し,対数
遠心 して集菌
ン酸 緩 衝 液(pH7.0)に
懸濁
VOL.33
NO.2
し,超 音 波 処 理 後,超
mlの
CHEMOTHERAPY 127
PCを
加 え30℃10分
G:(14C-PCG)を
様 構 造 を 示 し溶 菌 が 認 め られ た 。 一 方,PIPCは15.6
遠 心 に か け 約20∼30mgprotein/
膜 画 分 を 得 た 。 この 膜 画 分 にTA-058お
よ びPI
加 え,さ
らに10分
反 応後 直 ち にPCGとSarkosylを
間30℃
溶 菌 像 が觀察 され る だけ で あ った 。
保 温 した 。
加 え て,反
応 を停 止 さ
せ る と と もに 細 胞 質 膜 を 可 溶 化 し た 。 こ れ にSDS溶
とメ ル カ プ トエ タ ノ ー ル を 加 え,沸
熱処 理 し て,SDSポ
μg/mlを 作 用 させ て も蔚 は 伸 長 化す る のみ で,わ ずか に
間 反 応 さ せ た 後,14C-Penicimn
騰 水 浴 中 で2分
液
間 加
リ ア ク リ ル ア ミ ド ・ス ラ ブ ゲ ル 電
気 泳動7)に て 分 離 した 後,フ
ル オ ロ グ ラ フ ィー で 親 和 性
E.coliの
こ ろ,前
実
験
結
増 殖 曲 線 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 した と
示 した 。 この 特 後 が い か な る 理 由 に よ る も の か をE.
用 い さ らに 詳 細 に 検 討 し,以
下 の よ うな 結
位相 差顕 微 鏡に よる 観 察
K-12にTA-058お
よびPIPCの1.56μg/
作 用 させ る と,2時
間 お よび4時 間 後
り明 らか に 優 れ た 殺菌 作 用 を 示
した 。 この 菌数 の 変 化 に 対 応す る 形 態 変 化 をFig.5∼
Fig.5は
正 常 なE.coli
K-12の
走 査 電 顕 像 で,表 面
の 平 滑 な桿 状 形 態 を 示 して い る。
Fig,6,7,8はTA-058の1-56μg/mlを
4時 間後 に お い て もfilament状
よ びPIPCの1.56μg/
それ ぞ れ1,
作 用 さ せ た 時 の 形 態 変 化 をFig.2に,
15.6μg/mlを
作 用 させ た 時 の そ れ をFig.3に
作 用 さ せ た 場 合,1.56μg/mlで
見 られ た が,15.6μg/mlで
Fig.9,10,11はTA-058の15.6μg/mlを
示 した 。
は 伸 長化 が
は あ ま り伸 長 化 せ ず,bulge
Fig. 2
Phase
の 形態 を示 す の み で あ
った 。
ml(MIC)を
TA-058を
示 した 。TA-058お
mlを 作 用 させ た 時 に は 両 者 間 に差 が 認 め られ なか った
2,4時 間 作 用 させ た時 の 走査 電 顕 像 で,菌 体は 伸 長 化 し
果を得た。
Ecoli
走査 型 電 子顕 微 鏡 用試 料 作製時 の 生 菌 数 の 変 化 を
Fig.4に
17に 示 した 。
cells/mlの 菌 に 作 用 させ た 時 に と く に 優 れ た 殺 菌 作 用 を
1.
査 型電 子顕 微 鏡 に よる 観 寮
にTA-058はPIPCよ
果
報 で す で に 報 告 し た よ うに2).TA-058は106
coli K-12を
2.走
が,15.6μg/mlを
の検 討 を 行 な っ た 。
II.
この よ うな 形態変 化 の 差 異 を さ らに 詳細 に 観察 す るた
め に,次 に 走 査型電 子顕 微 鏡 に よ り検討 した 。
contrast
micrograph
れ1,2,4時
それぞ
間 作 用 させ た 時 の 変 化 で,伸 長 化 は あ ま り
せ ず に 三 や や 膨 化 してspheroplast様,あ
る い はbulge
様 構 造 を 形成 した後 溶 菌 した 像が 観 察 され た 。
of E. coli K-12
exposed
128
CHEMOTHERAPY
Fig. 3
Fig. 4
PIPCを
Phase
Effect
contrast
of TA-058
micrograph
and
作 用 させ た 時 の 形 態 変 化 はFig.12∼17に
そ れ ぞ れ1,2,4時
走 査 電 顕 像 で,TA-058作
て も 伸 長 化 し て,filament状
16,17はPIPCの15.6μg/mlを
K-12
viability
exposed
on the
示
間 作 用 させ た 時 の 形 態 変 化で あ るが,作 用時 間の経過と
of E. coli
K-12
と もに一 層 長 くな った6Lament状
間 作用 させ た 時 の
用 時 と 同 様 に4時
of E. coli
PIPC
す とお り で あ る 。 す な わ ちFig,12,13,14はPIPC
の1.56μg/mlを
FEB.1985
間後 に お い
の 形 態 を 示 した 。Fig.15,
そ れ ぞ れ1,2,4時
濃 度 のTA-058を
の形 態が 見 られ,同
作 用 させ た 時 に 見 られ たbulge様 構
造 は 観察 で きな か った 。
TA-058とPIPCと
の 間 に 見 られ た よ うな形態変化の
差 異 を さ らに詳 細 に 検 討 す る た め に,Penicillin bind-
VOL.33
NO.2
CHEMOTHERAPY
129
130
CHEMOTHERAPY
FEB. 1985
VOL.33
Fig.17
NO.2
Scanning
12
exposed
CHEMOTHERAPY
electron
to
micrograph
15.
6ƒÊg/ml
of
of
PIPC
E. coli
for
K-
4 hours
131
(10倍MIC)を
作 用 さ せ る と 菌 体 は あ ま り伸 長 化 せ ず
にsphoroplast様
構 造 あ る い はbulge様
溶 菌 した が,PIPCの15.6μg/mlを
filament状
を呈 す る の み で ,spheroplast様
観 察 さ れ な かっ た。
一
般 的 に β-lactam抗
る 抗 菌 作 用 は,1)β-laclamaseに
に 対 す る 親 和 性,こ
対 す る 安 定 性,2)菌
binding
れ ら3つ
β-ladamascに
対す
様 の 傾 向を 示 す と 報 告 され て お
回.私 ど も が 行 な っ たPBPsに
対 す る 親 和性 で
は,TA.058はPBPs2,1A,1Bsに
し て い た 。PBP2は
体
proteins(PBPs)
の 因 子 が 相 互 に 関 連 して い
る も の と ぢ え られ る が,TA-058の
る 安 定 性 はPIPCと.司
構造 な どは
生 物 質の グラ ム陰 性 桿 菌に 対 す
外 膜 の 透 過 性,3)Penicinin
り8),今
構造 を 形 成 して
作 用 させ て も 菌 は
強 い 親和 性 を 有
細 胞 形 態 の 維 持,1A,1Bsは
力 に 関 係 が あ る と 考 え ら れ て お り,こ
殺菌
の 差 がTA-058
の 優 れ た 殺 菌 作 用 に 関 与 し て い る もの と 思 わ れ る が ,こ
ing proteinsに
3.
対す る親 和 性 を 検 討 した 。
PBPsに
SPKATT5,6)の
058は,モ
れ 以 外 の 因 子 で あ る 外 膜 透 過 性 な ど と の 関 連 性 も注 目 さ
れ,さ
対 す る親 和 性
方 法 に よ り14C-PCGに
対 し てTA-
ル 比 で0.2倍,1倍,5倍,25倍
討を行な っ た 結 果.Fig.18に
PBP2,1Bsに
に 加 え検
1)
示 す よ うにTA-058は
対 し 強 い 親 和 性 を 有 して い た。 一 方,
PIPCは3に
対す る親 和 性 が強 く認 め られ た。
III.
考
察
今回 私 ど もは 新 し く合 成 され た ペ ニ シ リン系 抗生 物 質
であるTA-058のE.coli
に興味 を持 ち,PIPCを
TA-058は
K-12に
対する抗菌作用機作
2)
電子顕微 鏡 で 観 察 した と ころ,TA-058の15.6μg/ml
Fluorography
in E. coli K-12
showing
competition
西 野 武 志,
Chemotherapy
3)
を示 し,そ の時 の形 態 変 化 を 位 相 差 顕 微 鏡 お よび 走 査型
Fig. 18
文
献
WAGATSUMA,
M.; M. SETO, T. MIYAGISHIMA,
T.
YAMAGUCHI,S. OHSHIMA& M. KAWAZU; Synthesis of aminoacid derivatives of aminobenzyl penicillin.
ACS/CSJ Chemical congress
April 4, 1979. Honolulu, Hawaii, U. S. A.
(Abstract
No.45, Medicinal chemistry section)
石 井 信 男,
谷 野 輝 雄:
ン 系 抗 生 物 質TA-058に
比 較 薬 と して 検 討 を 行 な っ た。
接 種 菌 量が 高 い 場 合 に と くに 優 れ た 殺 菌 作用
ら に 検 討 を 行 な う必 要 が あ る も の と 思 わ れ る 。
of TA-058
32(S-2):
半合成ペ ニシ リ
関 す る 細 菌 学 的 評 価
47∼66,
1984
KELLENBERGER,
E.; A. RYTER & J. SECHAUD:
Electron microscope study of DNA-containing plasms. II. Vegetative
and mature
and PIPC
for 14C-labeled
PCG
binding
CHEMOTHERAPY
132
phage
al
DNA
as
uncleoids
J.
compared
in
Biophys.
with
different
normal
Cytol.
6)
bacteri-
physiological
Biochem.
FEB.1985
states.
4:
5)
671•`678,
G.
drying
for
study
of
818,
1969
SPRATT,
shape
Acad.
A.
&
S.
L. TAMM:
scanning
ciliary
Critical
electron
ponent
motion.
7)
point
of
163:
311.
817•`
8)
B.
involed
G.:
of
Sci.
Distinct
in
the
penicillin
division,
Escherichia
72:
coli
2999•`.1003,
A STUDY
binding
elongation,
K-12.
Proc.
JOBANPUTRA
coli
&
U.
which
Lett.
a cont.
protein.
79:
大 場 義 樹:
SCHWAgg
lack
penicillin-binding
FEBS
健 志,
V.
Escherichia
1 are
374•`478,
1977
SDS一 ポ リ ア ク リル アミ ド
ゲノ
レ電 気 泳 動 濯ミ。 螢 肉 質・ 核 酸・の静 素17:
microscopic
Science
林
G.,
of
viable.
HORIDGE,
teins
B.
Mutants
1958
4)
SPRATT,
五 島 瑳 智 子,
子 康 子,
pro-
宮 簡 修 一, 辻
桑 原 章 吾:
のin Vitro,in切
and
304∼
1972,
明 良,
小 川 正俊, 金
新 広 域 ぺ 昌 シ リ ン 剤TA-58
りo綱
薗 学 的 解 価Chemα
レ
r8py.32(S脚2)320∼3591984
Nat.
1975
ON THE
ACTION
MECHANISM
OF TA-058
OF ANTIBACTERIAL
AGAINST
E. COLI
TAKESHINISHINO, NAOMASAGOTO, NOBUOISHII
and TERUOTANINO
Department of Microbiology, Kyoto College of Pharmacy
Mechanism of antibacterial action was studied with TA-058 against Escherichia coli K-12 using
piperacillin(PIPC)
as control drug.
As to the effect on the growth curve of bacteria, bactericidal
action of TA-058 was strong even when the inoculum size was increased.
In morphological obsenration by a phase-contrast
microscope, exposure to the MIC of TA-058 or PIPC resulted in the formation of filamentous cells. However, at the 10 MIC of TA-058, bacteria were slightly elongated,
formed spheroplast-like
or bulge-like structure and lyzed. As compared with TA-058, the 10 MIC
of PIPC caused only elongation of cells. The above described morphological changes caused by both
drugs were further ascertained by scanning electron micrography.TA-058
showed the affinity for
penicillin binding protein (PBP)-2, -1 A, -3 and -1 Bs, and PIPC showed strong affinity to PBP-3.