<「校長室便り」42> 大 学 入 試 問 題 随分日脚が伸びた。先日犬の

<「校長室便り」42>
大
学 入
試
問 題
随分日脚が伸びた。先日犬の散歩をさせていると、どこからか
甘い香りが漂ってくる。春ももう本番だ。
学校では16日(月)に小学校の卒業式が終わった。既に5日
(木)に高校、10日(火)に中学が済んでいる。この様子は
HPでもお知らせしているが、教師は3年間また6年間の苦労が
この日一日の感動で吹き飛んでしまう。
大学入試もほぼ終わった。今年は現役だけで国公立合格者40名を超えそうな勢いだ。
ところで、大学入試が今度の中学1年生が受験するとき、つまり平成32年度(20
20年度)から変わるということをご存じだろうか。また、前年(平成31年度=20
19年度)からは「高校基礎学力テスト」
(仮称)が実施され、これは恐らくAO入試
や就職試験にも利用されることになるだろう。
一方の「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)だが、これは現行のセンター試験
に代わるもので、知識の総量を試すものから、思考力・表現力を見るものとなる。それ
故当然ながら記述式の問題が導入される。
ここで、私の問題意識、更に結論を先に述べてしまう。
私は日本の大学入試問題がヨーロッパ諸国(アメリカは別)に比べて思考力・表現力
を問うことにかけてはかなり欠けていると感じていた。そのため社会に出ても知識はあ
っても思考力・判断力に欠ける、もっと言えば人間としての厚みに欠ける人が多くなっ
てしまっているのではないかと感じてきた。
但し、このことは知識を否定するものではない。知識は思考の基礎であり、これなく
しての教育はあり得ない。
次に結論だが、国公立大の二次試験及び一部の、ごく一部かもしれない、の私立大
は極めて良心的かつオーソドックスな問題でそれはヨーロッパ諸国の入学試験或いは
大学入学資格試験に決して劣るものではない。
(但し、多くの私立大学の問題はやはり
知識偏重という傾向はあるし、国公立大の一次試験すなわちセンター試験問題はよく
練られているが、思考力はともかく表現力は問えない。)
以下、このことを日本の国公立大二次試験問題とフランスのバカロレア、イギリス
の GCSE と比較しながら、簡単に述べてみたい。OECDの行う学力調査PISAや
アメリカのSATにも触れたいが多分スペースが足りないだろう。
先ずフランスのバカロレア問題をみたい。バカロレア(baccalaure’at)は大学の入学
資格検定試験で、ドイツのアビトゥーア(abitua)やイタリアのマトゥリタ(malurita’)
等も同じである。科目数はかなりあるが、ここでは哲学の問題を紹介する。
・
「なぜ自分自身のことを知ろうと努めるのか?」(2014年6月、経済社会系)
問題は、人文、社会経済、理系に分かれていて、それぞれに3つ問題がある。2問
はこのように1行程のものであり、3問目は哲学者の20行程度の文章について解説
を書くものだ。これらから1つ選択して4時間で解答する。
次はイギリス GCSE の問題。GCSE とは General Certificate of Second Education
の略。高校の卒業資格試験であり同時に大学入学資格試験でもある。以下に示すのは
外国語としての日本語の問題である。問題は大問が3つあり、第1問は所謂読解の問題。
第2問は英文を日本語にするもの。日本で言えば和文英訳に相当する。第3問は6つ
のテーマに関するテキストを読み、2つの問いにそれぞれ日本語 400 字から 600 字で
答えるもの。時間は全部で3時間である。
・
「鼻(大澤注=芥川龍之介の作品)を通して、本当のしあわせについて、どんな
事を教わりましたか。
」(2013年6月、GCE・A レベルの日本語)
次は日本の大学。最初に私が幾つか見て最も驚いたものを挙げる。京都大学経済学
部の論文問題だが、初めにハイエク〔A〕とジョン・グレイ〔B〕のそれぞれ 8000
字程度の文章を掲げ、1,2問目はそれぞれ400字で説明させるもの。3問目は
以下の通り。
「
〔A〕と〔B〕の主張はどのように異なるか、説明しなさい。そのうえで、現代社
会が抱える問題とそれへの対応について、〔A〕と〔B〕の主張の違いを踏まえ、
具体的な事例をひとつ示しながら議論しなさい。句読点を含め1600字以内で
解答すること。
」
私学では慶応が極めて良心的な問題を出している。
「19世紀のドイツの哲学者ニーチェは『道徳の系譜』のなかで、「これまで人類
の上に蔓延していた呪詛は苦しみの無意義ということであって、苦しみそのも
のではなかった。
」
(木場深定訳)と述べています。この言葉は現代日本におい
てどのような意味をもちうると考えますか。あなたの意見を述べなさい。(320
字以上 400 字以内)
」(2012年度、「総合考査Ⅱ」、60分、320~400 字)
大学入試改革は技術的な問題は孕むが、試験内容の方向性については、間違ってい
ないし、学ぶことの本道を目指していると、私は考える。
(2015.3.18)