夏型過敏性肺炎について 【症例】24 歳男性 【主訴】乾性咳嗽,呼吸困難 【職業】塵芥回収業 【現病歴】平成 12 年 8 月中旬に主訴出現のため近医受診したところ,胸部異常影を指摘 され,精査加療目的に当科入院となった。 【理学所見】胸部聴診上気管支呼吸音化を認めた。ラ音は聴取しなかった。 【検査所見】白血球数 22,000/μl,CRP 2.2 mg/ml と炎症反応を呈した。血液ガス分析は PaO2 69.4Torr と低酸素血症を認めた.肺機能検査では%DLCO57% と低下 を認めた。気管支肺胞洗浄液では,細胞数 9.0×105/ml でリンパ球増加 (30%)を認めた。リンパ球 CD4/8 比は 0.24 であった。 【画像所見】胸部 X 線写真では両側の下肺野優位に辺縁不明瞭なびまん性散布性粒状影と 肺底部に板状無気肺による線状影を認めた。 【経過】入院後に症状は急速な軽快を認めた。白血球数,胸部 X 線写真上も改善がみられ た。居住プレハブへの帰宅誘発試験をおこなったところ,症状の再燃と白血球数, CRP の上昇がみられた Trichosporon 間接蛍光抗体価は T. mucoides 128 倍,T. asahii 64 倍であった。退院後は,父母の住む別棟にて生活することとし,以後症 状再燃はみられない。別棟に住む父母にも現在にいたるまで症状はみとめられな い。 1、 この患者の問題点 #1呼吸困難 #2乾性咳嗽 #3低酸素血症 2、 家のなかの環境中に存在する真菌であるトリコスポロンが原因であると考えられる。症 状が見られたのが夏季であるため夏型過敏性肺炎であると考えられる。また環境を変え ることで症状に変化が見られたので急性の過敏性肺炎である。 3、 一般血液検査を行い末梢白血球数の上昇、CRPの上昇などの炎症反応が認められ、低 酸素血症を示し、胸部X線像ではびまん性散布性粒状影が認められる。 4、 リスク因子としてトリコスポロンを吸い込みアレルギー反応を起こしたことによる呼 吸困難、乾性咳嗽がある。 5、 この患者の場合環境が原因であったのでトリコスポロンまたはアレルギー反応を起こ す可能性のある因子が存在する場所から隔離し咳の沈静化、呼吸音の正常化が目標とさ れる。 6、 基本的に原因環境からの隔離が一般の治療法である。原因環境の改善としては家のなか の掃除や消毒、腐った木の部分の除去(台所、洗面所、風呂場)、風通しをよくするな どの工夫も重要である。防御マスクの装着などが効果を示す場合もある。 7、 症状が重い場合は炎症を抑える作用のあるステロイド(副腎皮質ホルモン)薬が、非常 によく効く。症状の程度に合わせてステロイド薬であるプレドニゾロンを服用するか静 脈注射する。そのほか、息苦しさには酸素吸入などを行なう。 8、 この患者は発症の原因となった環境を離れたため症状が改善された。しかし、環境が戻 ると再び発症してしまったため注意が必要であり慢性化の危険性もある。 【出展】 http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=16 http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/041020133 六訂版 家庭医学大全科 【コメント】 夏型過敏性肺炎を選んだ理由としては身近に肺炎を患って亡くなった人を何人も見ている ので調べてみようと思いその中でも頻繁に症例として出てきていた夏によく引き起こされ る肺炎に興味を持ったからである。 夏に起こる理由として抗原であるトリコスポロンが風通しや日当たりが悪く湿気の多い古 い家屋を好むためという事がわかった。 日本でよく見られる過敏性肺炎の他の例として農夫肺、換気装置肺炎、鳥飼病などがある。 夏型過敏性肺炎や換気装置肺炎は住居やエアコンに生じる抗原が原因となる。日頃の手入 れなどが重要視されると思う。 この病気の注意すべき点としては急性から慢性化するケースがあるということである。原 因環境と抗原のいない安全な場所を行き来するような生活をしていると肺に線維化とよば れる不可逆的な変化が生じ、抗原にさらされていなくても常にせきや呼吸困難感で悩まさ れることになる。このため、症状が治まったとしても常に環境に気をつける必要がある。
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